【血の人形姫】かくて姫君は戦士を召喚せり
|
■シリーズシナリオ
担当:夢想代理人
対応レベル:1〜5lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 43 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:02月14日〜02月24日
リプレイ公開日:2005年02月18日
|
●オープニング
―人口の楽園、作られた幸福、偽りの日々。
―しかし『わたし』にとってそれはとてもとてもかけがえのないもの。
―『わたし』は今この瞬間を守るためなら、どんなことでもやるのだろう。
「ルネ、ルネ! おお‥、そこへいたのかい?」
目をつむってぼんやりと考え事をしていた少女の意識は、男の優しい声で覚醒した。
「‥‥お父さん、どうしたの?」
不慣れな『普通の』笑顔を作りつつ、ルネと呼ばれた少女はその男に静かに微笑んだ。彼女の目前にいる男の名はオーギュスタン・アークフォン。孤独な男、偏屈子爵、猪騎士、いくつものあだ名をもつ、貴族社交界でのつまはじき者。
ある日、血まみれになって自分の領内に逃げ込んできたルネを自分の娘だと思い込み、そのまま彼女を大切に屋敷で保護しているという変りダネだ。
「いや、何‥‥。どこへいったのかと心配になってね。はは、何の事はないんだ」
照れ笑いながらオーギュスタン子爵はぽりぽりと自分の頭をかく。
―急所見せた喉へ一撃蹴り椅子で追撃武器奪取解体。
瞬間、ルネの頭をおぞましい思考がよぎる。暗殺者として徹底的な訓練を受けた肉体。意識して体に力を込めなければ、自動的に殺人行動をしてしまいそうだった。ぐっ、と唸り身をかがめる。
「どうした! ルネ!!?」
「‥‥なんでもないよ、お父さん。ありがとう‥」
目の前で何も知らずに驚くオーギュスタン。ルネはぎこちなく笑って自分の不自然な行動を誤魔化す。気を紛らわすべく、外の景色に視線を移したその時だった。
(「!!!」)
見覚えのある黒薔薇に十字‥いや、逆十字の腕章。黒い装束を纏った2、3の人間が、辺りを伺いながら歩いているのがルネの目に飛び込んできた。
(「いけない、このままでは‥‥」)
様々な思考の渦が彼女の中で荒れ狂う。どうするべきか、必死に考えを巡らせてしばらく後だった。すっくと椅子から立ち上がり、真剣な表情で自分を保護した男に口を開く。
「あのね、お父さん。お願いがあるの‥‥」
●???
―――鬱蒼と茂る、森の中にて
「いやいや‥‥これはまた」
月明かりが微かに木々から差し込む時間帯、バサついたおかっぱ頭の浪人、カエデは眼前の光景に思わず声を漏らした。
「流石は、シルバーホークの『パーフェクトタイプ』。殺しの技術が異常に卓越している」
「‥‥。フン、私ならもっと上手く人体を切断する事ができる」
斬り刻まれ、散乱した数人分の五臓六腑を眺めつつ、かの女浪人ヤナギは、妹の感想に対しておよそ常識とはかけ離れた反応を示す。姉の言葉を聞いた妹は皮肉めいた笑いをこぼすと、退屈な事務作業をするかのように物言わぬ死体の検分を始めた。
「人体への正確無比な攻撃、それから手早く解体を行ったようですね‥‥。確かに、これだけの人材は上の方々も手放したくないはずですよ」
はあ、とため息を一度つき、カエデは立ち上がる。青白い月光はしとしとと降り注ぎ、身を刺すような寒さが筋肉を引き締める。
「それで‥‥。これをやった奴を連れ戻すのが、私たちの今度の依頼なのか?」
「‥‥ええ、そうですよ。どうやら、アークフォン家の領内に逃げ込み、そこに潜伏しているようです。見つけ次第、拘束して連れ戻しますよ。『手段をいとわず』」
姉の問いに妹はにやけた笑みをこぼしながら答える。殺人姉妹の『手段をいとわず』が何を意味するか、言うまでもない。
「何も『五体満足で』連れ戻せとは命令されていない‥。はは、あははは‥はははははは!! 死ぬぞ! 死ぬぞ! きっと沢山人が死ぬぞ!! あははははは!!!!」
漆黒のしじまが支配する森の中、一人の少女がヒステリックに大笑いする。一通り笑い尽くして気が済むと、さっと表情を変えて仲間である『人形』達に号令した。
「‥‥作戦を開始する。いきますよ」
●冒険者ギルドにて
君が冒険者ギルドのドアを通過し、いつものように依頼を探し始めたその時だ、ひとつの依頼書が視線にとまった。
『アークフォン家、護衛冒険者の募集
依頼内容:アークフォン家の護衛
日程:10日間(ドレスタットより片道2日。6日間を実務期間とす。食料は屋敷滞在期間のみ支給)
備考:我が娘が領内で不審人物を見かけたと言っている。我が屋敷を狙った野党の類かもしれぬ。諸君等には念のため、6日間屋敷の護衛をして欲しい。何も起こらずとも報酬は支払う。
アークフォン家領主、オーギュスタン・アークフォンより』
「おー、それはかのオーギュスタン子爵からの依頼だなぁ」
依頼書に目をとめた君に、毎度お馴染みギルド員の女性が声を掛ける。
「依頼の内容は書かれてある通りだ。護衛任務とあるが、オーギュスタン子爵の屋敷はもともと戦争用の砦を改修したモンだからな。守りやすいっちゃあ、守りやすいぜ? 何もなくても報酬は出るしな」
ニヤッと笑うギルド員、だが次の瞬間には声をひそめ、君にそっと耳打ちする。
「ただし、だ。不審人物とやらはどうも6〜8人ほどの集団らしいけどよ‥どーも、秘密結社『黒薔薇逆十字団』の奴らである可能性が高い。キナ臭ぇぜ、この依頼‥‥」
その言葉を聞いて顔をしかめる君に対し、ギルド員の女は更に言葉を続ける。
「‥‥で、どうする。この依頼、受けるのか?」
●リプレイ本文
冒険者達が依頼人の屋敷へとたどり着いたのは、ドレスタットを発って3日目の昼頃だった。
よどんだ鉛色の雲が覆う空や、身を切り裂くような鋭い寒さ。
これらににすっかり辟易した彼らは、依頼人のオーギュスタン子爵とその娘が門前までじきじきに迎えに来たのを見ると、これでもう野宿をしなくてすむと一安心した。
「諸君らが、ギルドから派遣された冒険者か‥。待ちわびたぞ」
「セイロムです。この6日間、どうぞ宜しくお願いします」
いの一番にセイロム・デイバック(ea5564)が領主に対してうやうやしく挨拶する。子爵は彼の律儀さにほう、と感嘆の息を漏らす。
「よろしくね、カワイコちゃん?」
相麻 了(ea7815)が領主の横でたたずむ少女、ルネにウィンクする。彼の挨拶にどう反応していいのか、困惑した様子でルネは領主の後ろに隠れてしまった。
「うーん、照れの仕草もなかなか‥‥」
悪ふざけがすぎるぞ、その言葉とともに、ローシュ・フラーム(ea3446)が軽く相麻の肩を叩いていさめた。当の道化者は悪びれた様子もなく、笑ってごまかす。
「良い娘御ですな。このヒゲにかけてお護りいたそう」
ローシュは自分の口にたくわえたヒゲを撫で、力強く断言した。
●しばらくの後
「ジノ、近くの下見に行っておこうよ」
フードをかぶったルクミニ・デューク(ea8889)が屋敷の構造の把握に尽力していたジノ・ダヴィドフ(eb0639)に声を掛ける。相談の時点でそういう手はずになっていたのだろう。ジノはああ、と生返事をすると、彼女と共に屋敷の外へと出た。
「うん? あんたらも外に用事があるのか?」
門を少し出た所で、2人はローシュと遭遇した。どうやら彼も周辺の探索が目的だったらしい。
(「3人そろって、どこへいくのかしら‥‥」)
その様子をフェイト・オラシオン(ea8527)が目撃していたようだ。カラスのように黒い衣装で統一したその少女はしばらくぼんやりと空を眺めた後、しかるべき作業を続けた。見張り台から地面を見下ろし、障害物などの確認をするが、荒れ果てた草地があるばかりで、これといった物はない。良くも悪くも、非常に見通しがよった。
「ああっ、掃除しても掃除しても終わりそうにない〜‥」
半泣きの状態でエレ・ジー(eb0565)は家事うんぬんで格闘を続けている。どうやらオーギュスタン子爵の屋敷では使用人が滞在する事はほとんどなかったらしく(気難しい彼の性格に困って逃げてしまうのだ!)、殆ど使われていない部屋なんぞは荒れ放題だった。
「ほほっ。まあ、ほどほどできり上げた方が良さそうじゃな? その様子では何時までたっても終わらんじゃろう?」
弓の手入れをしつつグングニィル・アルカード(ea9761)がエレに苦笑する。罠作成は彼の担当だったようだが、なかなかどうして難航しているようだった。鳴子を外に仕掛けようにも、館の周囲にはロープをかける木々がなく、屋敷内部や庭への罠の設置案も『これ以上住み心地を悪くするな』という依頼人の苦言で一蹴された。さらに畳み掛けるなら、木杭を屋敷の回りに打ち込む作業も人手が足りないわ時間が足りないわ材料が足りないわで散々だった。
「まったく、それにしてもドレスタットは品揃えが悪い。ロングボウくらい置いておくべきじゃろうに‥‥」
思い出したように、ブツブツとミドルボウの弦を張りつつグングニィルは不平をもらした。オーギュスタン子爵も狩り用に弓矢は持っていたが、ロングボウは持っていなかったのでそれを借りるという事はままならなかった。
「あ〜、寒ぃ。そうだようなぁ‥‥今冬だもんなぁ。結べるほど草なんて生えてないよなぁ」
ブツブツと門の下の地面を眺めつつ、相麻は寒さに震えていた。そこへ森の探索を終えたのか、ルクミニ、ジノ、ローシュの3人が戻ってきた。
「ん、ご苦労さん。何か成果はあったかい?」
「あんまり‥‥。まあ、奴(やっこ)さん達が近くにいるっていうのはわかったよ。焚き火をした後を見つけたから」
ルクミニは肩をすくめて相麻に答えた。ジノとローシュもそれ程の発見はなく、互いに苦笑いをするだけだった。
その後、冒険者達は順番どおりに屋敷を巡回したり、その外を見張ったりと手持ち無沙汰な日を送った。予想していた『敵』はその気配すら感じさせなかった。警戒されたのか、ガセネタだったのか。
一同がそう思い始めた、5日目の夜‥。
「暗い‥‥」
寒さに耐えて見張りを続けるフェイトが思わず呟く。その晩は夜も曇っていた。本来見えるはずの月はなく、何もかもを漆黒が覆い隠す。そう、『何もかもを』‥。
(「‥‥まさか」)
はっ、とここで気付く。まさか相手はこの日を狙っていたのだろうか? 遠くから発見されにくい、『月の隠れた』夜を‥‥。
次の瞬間、下の正門がにわかに騒がしくなる。フェイトが身を乗り出してみれば、『奴ら』の姿が目に飛び込んできた。黒薔薇に逆十字の腕章、間違いない!
「鬼さんこち‥‥ぅぐわっ!!?」
相麻の左太ももに矢が突き刺さった。思わず顔をゆがめて膝をつく。
「あはは! 何のつもりか知りませんが、5人相手に無謀すぎやありませんかァ?」
矢を放った体勢のまま、おかっぱ頭の少女カエデはげらげらと笑う。
「はは、悪いがまともに戦うのは苦手でね‥‥」
痛みで感覚の吹き飛んだ左足をかばいつつ、屋敷内に伝令へと走ったエレが早く戻ってきてくれることを願う相麻。 しかし世の中はいつも無常だ。己の力を過信するものや思慮浅き者には容赦のない仕打ちが待っている。
「このままなぶり殺しが理想なのですが、なにぶんこちらも急いでいるのでね‥。シュン、手早く終わらせてすぐに合流しなさい」
そういうと、カエデの後ろにいた4人の中から狂化したハーフエルフの男が一歩前に出た。
「人間‥冒険者‥コロス! 兄さんの‥カタキ!!」
「子爵殿、ルネのお嬢! わしらから離れるなよ!?」
2階の書斎に立てこもり、ローシュが前方のドアを睨みつつ声を荒げる。彼の横ではセイロムがオーラを練り上げ、武器を強化している真っ最中だ。
「はっ‥‥はっ‥‥いけない。くる。くる‥‥。嫌だ嫌だ嫌だ‥」
突然ルネが苦しそうに胸を押さえ、うわ言を繰り返す。あまりに異常な展開。ローシュが言葉をかけようとした、まさにその時だ。
「‥‥見つけたぞ『ダンシングドール』」
「何ッ!!?」
セイロムが声をのする方に急いで剣を構える。そこにはかの女浪人、日本刀を腰にぶら下げたヤナギが部下2名と共に部屋の暗闇から染み出るように現れたではないか!
「ウォールホールか‥。ある程度の予想はしていたが、本当にこれでくるとはな」
壁に空いた穴を横目で見つつ、ローシュがライトシールドを前に出して敵を睨みすえる。穴の方からは後を追いかけてきたのか、ジノとルクミニがついで飛び出してきた。
「フン、うじゃうじゃとよくもまあ‥‥」
「うるさい! 人が話しかけている時くらい返事しなさいよ!」
ノーマルソードをぶんぶんと振り回し、ルクミニが怒りをあらわにする。挑発する彼女に、相手は目もくれなかったせいだろう。
「やかましいのはお前だ‥。‥まあいい。どいつもこいつも『斬り、刻んで』やる‥‥」
「お前のチャチな児戯じゃ、俺の腕一本‥‥いや、髪一本落とせないだろうよ!」
先手必勝、ジノは相手が構えそうになったのを見てすかさずチャージングを敢行する、が。
「うっ‥。ぐっ‥が‥‥!!!」
ヤナギはさしたる苦もなくそれを避けると、稲光のような速度で抜刀して一撃を見舞っていた。ジノの首からはおびただしい量の血が噴き出し、彼は首を押さえて倒れこむ。
「いい事を教えてやる‥‥。そういう技は格下相手だけにしておけ」
修羅のような形相で口から息を吐き出すと、禍々しい殺気を抑えもせずにヤナギはそう言った。
「やぁあああっっ!!」
松明の灯りだけが頼りとなる薄暗い廊下にて、エレのロングソードが相手の皮膚を切り裂く。眼前の戦士は力尽き、そのまま床に倒れ伏した。
「ま、まだまだ‥‥いけます!!」
左肩に突き刺さった矢を強引に引き抜き、健気にもエレは自分達よりも数の多い相手に立ち向かっている。後方からはグングニィルの援護もあるが、それは相手の方も同じだ。弓使い、カエデの援護射撃がある。
「なんだ、思ったよりもやるじゃあないですか‥‥。戦士を多めに連れてきて正解でしたよ」
カエデは頬の肉を歪ませてにやけると、自分の前に立つ戦士に合図を送った。人形のように無表情な男はエレやグングニィルを斬り殺すべく、すっ、と前に出る。
(「‥‥!」)
一瞬、全員の注目がその男に傾いた時だった、カエデたちの後方から別の気配が突如として出現する。
「なっ!!?」
仰天したカエデが後ろを振り向いた瞬間、フェイトのダガーがカエデの胸に突き立てられた。
「ぎゃああああああぁぁァァッ!!!!?」
「もう‥‥、一撃‥ッ!!」
悲鳴をあげる相手を何のその、武器を引き抜くと、今度は相手の顔面にめがけて渾身の力を込めてダガーを突き刺した。
「あっ、がっ‥‥! 痛い! 痛い! うぅっっあああ‥‥!!!」
まさに形勢を逆転する一撃。相手が動揺した隙を逃さず、エレ、グングニィルも眼前の戦士に攻撃を加える!
「絶対の一撃‥‥お味はどうかな?」
今度はカエデにとどめを刺そうと、さらに矢をつがえようとしたその時、さらに別の役者が舞台に踊り出る。
「ぬおっ!!?」
グングニィルを突き飛ばし、エレの一撃を回避してカエデの部下たるシュンが風のように飛び込んできた。
「シュン‥‥撤退する‥!」
言われるや否や、シュンはカエデを肩に担ぐと、そのまま窓から飛び出した。上空を旋回していた相手方のシフールもそれを見届けると、伝令の為か窓の外へと消えていく。
「か、勝ちました‥‥」
体力の限界まで剣を振るい続けたエレがその場に座り込む。
「ちくしょう‥‥もう少しで‥‥見切れ‥‥た‥のに」
血を流しすぎたか、ルクミニが壁に背をもたれかけさせ、そのまま倒れて意識を失った。右腕の傷口から切断された骨が見えている事から、負傷の凄まじさが伺える。
「‥‥フン」
多少なりとも自分の居合いに反応されたのが不服なのか、ヤナギは何ともなしに鼻をならす。
「うぉりゃあっ!!!」
彼女の部下たる戦士にローシュのスマッシュが炸裂した。傷が致命傷まで達したのか、そのまま床に大の字になって相手が倒れる。
「残るは貴殿と、そこの後ろの魔法使いだけですよ‥‥」
セイロムは改めてシールドソードを握りなおし、呼吸を整える。ふと後ろに目をやれば、オーギュスタン子爵は剣を持ち、顔面が蒼白の震えた娘を必死に守っている。
「それはこっちの台詞だ。あとはお前達『だけ』だぞ‥‥」
獣のような荒々しさと共に、ヤナギがじり、と間合いを詰め‥‥ようとしたその時、壊れたドアから突然シフールが飛び込んでくる。
「!?」
「‥‥撤退命令です」
驚くヤナギに、棒読みでシフールが事の次第を伝える。
「‥‥カエデめ、しくじったな」
ローシュとセイロムは舌打ちするヤナギに構えたまま、油断なくオーギュスタン子爵とルネを庇う。
「『ダンシングドール』‥逃げられると思うなよ? 組織は、お前を、逃がさない‥‥」
敵の魔法使いがウォールホールで壁に穴を開ける。ヤナギはローシュが倒した部下の死体を引きずり穴から外に放り出すと、そのまま2階から飛び降りた。
「な‥!!」
セイロムが壁にできた穴から外を見ると、既にヤナギと魔法使いは地面に着地し走って逃走していた。そしてその着地点には‥‥。
「奴ら‥‥仲間の死体をクッション代わりに使いおった!」
ローシュの表情は、険しかった。
●エピローグ
冒険者たちの疲弊は激しかったが、なんとか依頼を達成する事ができた。特に酷く重い傷を負った者は、ドレスタットの教会で専門的な治療を受ける必要があるだろう。
「諸君らがいなければ、一体どうなっていたことか‥‥。改めて礼を言うぞ」
娘が無事で、オーギュスタン子爵は非常に満足しているようだった。だが、一方当の娘であるルネの顔色はすぐれない。
「‥‥」
「‥‥お嬢。何か、言いたい事がおありですかな?」
優しい表情でローシュがルネに問いかける。驚いた彼女は2、3回口を動かして何かを言おうとしたが‥。
「いえ、何も‥」
それだけ言うと、ぺこりとお辞儀をして屋敷に引っ込んでしまった。