【血の人形姫】もつれゆくギニョール
|
■シリーズシナリオ
担当:夢想代理人
対応レベル:1〜5lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 10 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:03月01日〜03月09日
リプレイ公開日:2005年03月07日
|
●オープニング
「はぁ‥‥。はぁ、畜生、あのガキィ!!!」
ポーションを飲み干し、傷を癒したカエデは怒りを隠すこともなく声を荒げる。辺りを見れば、血のついた包帯がまだ散乱していた。
「フン、随分と派手にやられたな、カエデ。お前らしくもない‥‥」
ベッドに腰をかけ、肩で呼吸をしている妹を見下ろしつつ、姉のヤナギは腕を組んで面白くなさそうに壁に寄りかかっている。彼女達は任務に失敗した。言い逃れはできない。
かの殺人姉妹は、今や組織の『懲罰房』へと収容されていた。無機質な鉄の扉がうらめしい。
「あーあ、『シャープン』の名が聞いてあきれるねえ、フフ‥‥」
どうやら来訪者のようだ。歓迎はできないが。
「レオナールか‥。何の用だ? 冷やかしにでも来たか」
面倒くさそうにヤナギは振り向き、格子越しの相手に応対する。彼女の視線の先では、シフールの男が空中でホバリングしていた。
「まあねい。あとは報告。『ダンシングドール』回収の任務は、今度から僕の担当になったから」
「‥‥!!」
その言葉を聞き、カエデはぎり、と歯軋りをする。それはつまり、自分では力不足だという通告に等しい。
「フフ、悔しそうだねい。その表情が見たかったんだよ。悔しがる君も素敵さー、なんちって」
レオナールはけらけらと笑い声を上げるや否や、扉から急いで離れた。鉄格子からカエデの腕が飛び出してきたからだ。反応が遅ければそのまま捕まって首を締め付けられていただろう。
「こいつぅぅぅ‥‥!!!」
「‥アハハ、無駄無駄。まあ、そこで僕の成功の報せでも待ってるんだね」
ひらりと宙返りしてレオナールは方向を変え、彼に罵声を浴びせ続けるカエデを尻目に懲罰房の外へと飛んでいく。
「‥‥しかし、レオナールまで動いたのか。ガスパールの奴もそろそろ本気になってきたようだな」
「‥‥‥」
冷静に分析するヤナギを見て、毒気が抜けたのか。カエデは大きく深呼吸をすると、力を抜いてベッドに倒れこんだ。
「無音の殺し屋、殺人蜂、突き通すレオナール‥‥」
「ああ。あいつは、戦いたくない相手だ」
ヤナギは目を細めた。
●アークフォン家・屋敷内にて
銀髪の少女、ルネは鬱々とした気分で外を眺めていた。かの女浪人が放った言葉が頭から離れない。
―組織は、お前を、逃がさない
「‥‥‥」
このまま窓から飛び降りてしまいたいような気分にも駆られたが、それは思いとどまった。この生活はなんとしてでも死守せねばならない。しかしどうすれば良いのかまるで手段が思いつかない。
するとそこへ、自分を娘と思い込んでいる(?)オーギュスタン子爵が横から声を掛けてくる。
「ルネ、どうかしたのかね?」
「‥‥ううん、何でもないの」
嘘をついた胸が痛んだが、無視した。
「そうか‥。まあ、このような屋敷にこもっていては、気も滅入るであろうな。どうだ、お前も年頃の娘になった。私と共に舞踏会へ行こうか?」
「‥『ぶとうかい』?」
聞いた瞬間、まさか、と思った。自分は礼儀作法やダンスの知識などまるでない。そんな所へいっては‥。いくらこの男でも。自分が娘ではないと気付くかもしれない。
「あ、あの‥でも‥‥」
「いやぁ、実に久しぶりに招待状が来てな? 私も長らく縁がなかったのだが、娘のお前もいる事だし、ここでお前のお母さんとなってくれる人を探すのも良いかと思ってな、はっはっはっは‥!」
ダメだ。この人は。無防備すぎる。ルネは思った。
「いや、しかし‥。この友人からの招待だったが、彼とは知り合いだったかな‥‥? いや‥‥うん、はて? まあ、細かい事はどうでも、よいか‥」
●冒険者ギルドにて
君が冒険者ギルドのドアを通過し、いつものように依頼を探し始めたその時だ、ひとつの依頼書が視線にとまった。
『舞踏会での護衛冒険者募集
依頼内容:舞踏会における依頼人とその娘の護衛。及び他の貴族と決闘になった場合、その代理。
日程:8日間(屋敷まではドレスタットより片道2日。舞踏会の会場までは片道1日)
備考:舞踏会は4日目から5日目にかけての夜に行われる。会場内に武具の持ち込みは禁止。礼服着用必須。
アークフォン家領主、オーギュスタン・アークフォンより』
「そりゃあ、オーギュスタン子爵からの依頼だな。娘と一緒に舞踏会にいくらしいけど、護衛なんてわざわざ雇わなくてもなあ?」
ギルド員は苦笑して肩をすくめる。
「ま、なんだかんだで娘に変な虫がつくのを嫌がっているんだろうな。舞踏会にはよろしくねえ連中も紛れ込むことがある、気をつけな‥‥」
●リプレイ本文
「‥おお、ご苦労だったな」
ローシュ・フラーム(ea3446)が飛脚のシフールより手紙を受け取ったのは、アークフォン家の屋敷を出発する丁度半刻前のことだった。酒場で調査を依頼したヌイサニス・ムニンからの手紙である。
「今回の舞踏会の主催者は‥‥ガスパール・ウィンストン。ちと聞いたことのない名前じゃな。爵位も書いておらんし‥。それと、ここのアークフォン家については‥ん?」
「どうしたの‥?」
フェイト・オラシオン(ea8527)が眉をしかめたローシュに尋ねる。
「妻には5年前に先立たれておる。‥そして、3年前には‥娘も流行りの病で‥‥‥『病死』?」
一同は互いに顔を見合わせ、困惑の表情を浮かべる。セイロム・デイバック(ea5564)は既に何か思うところがあったのか、何とはなしに納得した様子であるが‥。
「‥なんだい、そりゃ。病死って、今現実に生きているじゃないか」
ルクミニ・デューク(ea8889)は髪型に気を使いつつ、そう呟いた。
「あの、こ、これは‥‥?」
「俺達から、キミへのプレゼントさ。舞踏会に行くのに必要なものだろう?」
そう言って、ジノ・ダヴィドフ(eb0639)はルネに銅鏡、銀のネックレス、そして水晶のティアラを手渡した。銀や水晶なんぞはなかなかの高級品である。ルネは目を丸くしたり口ごもったりと、嬉しくてどう反応していいかわからない様子だ。
「き、きっと似合うと思います‥! これで舞踏会も‥大丈夫ですね‥」
エレ・ジー(eb0565)はほやほやと微笑み、小さくガッツポーズをした。
●舞踏会・会場入り口
「‥む。何ですかね、これは?」
「ああ、これは酔い覚ましの薬です。二日酔いも毒を飲んだ様なものですし、解毒剤って結構効くんですよ?」
門番に対してファル・ディア(ea7935)はしれっとある事ない事を言って誤魔化す。理由がもっともだったのか、門番の教養が足りなかったのかはわからないが、取りあえずそれでファルは何なくボディチェックを通過した。
ところが、一方では‥。
「身を守る為に、盾だけは‥」
「一体何をおっしゃっているのですか‥。舞踏会はモンスターのいる森や遺跡とは違うのですよ? ダメです!」
何とか盾だけでも持ち込もうとしたセイロムだったが、あっさりと却下されてしまった。まあ、確かに舞踏会で盾を持っている人間がいたら怪しすぎるわけで。
「さてさて‥、私達の無作法が、依頼主の面子を潰す事になりかねませんからね。それでは皆さん、手はず通りに」
オーギュスタン子爵、ルネには聞こえぬ程の小声でファルが皆に囁く。全員は互いに目を合わせて頷いた。
●もつれゆく人形劇
「いやあ、まさに百花繚乱ですねぇ。東洋の人間には眩いばかりですよ」
きらびやかに着飾った婦人らと談笑にふけるは、黒獅子ジョーカーこと相麻 了(ea7815)。参加者達の身なりうんぬんを調査しようと思っていたが、いざ調査となると手段も目標も曖昧で動きようがなかった。
やむを得ず談笑の方に専念せざるを得ないという状況だ。
「どうです、舞踏会の雰囲気には慣れましたか?」
おどおどと周囲を見回すルネにファルが優しく語り掛ける。ルネは一瞬体をこわばらせたが、見知った顔だとわかると少し安心したようだった。
「いえ‥その、緊張して。何が何だか‥」
相麻の化粧で変身したルネはまさにお姫様のような可愛らしさだった。輝く水晶のティアラや胸元にある銀のネックレス。他の貴族の娘達と比べても何ら遜色がない。踊りの申し出がないはずはないのだが、この様子だと男達から逃げ回っていたと見える。
「ああ、やっと追いつけた‥。お嬢さん、どうか僕と踊っていただけないでしょうか?」
ファルが苦笑しつつも何かを言おうとした時、ふいにルネに声がかかった。声のする方を見やると、そこには礼服を身に纏ったシフールの姿が。
「あ、あのわたし‥わたしは‥‥」
一生懸命何か言い訳を作ろうとするが、何も思い浮かばなかった。されるがままにシフールの男に手を取られ、2人はホールの中央へと引き寄せられる。
「‥そうそう、お上手ですよ」
「‥‥」
シフールの男は宙を舞い、軽やかな手さばきでルネを誘導しながら踊りだす。楽団の奏でる音は遠く、蝋燭の灯りは幻のように自分の周りを回っている。おとぎ話のような世界、自分がこんな世界で暮らせるなんて夢にも思わなかった‥。どこか幸せな心地で、見知らぬ男との舞いに少女は酔いしれる。
「ほー‥‥」
小皿を片手に、壁際で料理をほおばっていたルクミニが驚嘆の声を漏らす。エレもルクミニが見る方に気がつくと、わぁ、と小さく声をあげた。
「ルネちゃん楽しんでいるみたいで‥、よ、よかったです」
「これで何事もなければ万々歳だが、な‥‥」
腕組みしたまま、ローシュがエレの感想に続く。
横目でちら、と会場を見渡せば、フェイト、ジノも会場の全体に気を配り、セイロムはオーギュスタン子爵と何か話している。相麻は一見、婦人たちとの会話に花を咲かせてるだけのようだが、非常時には火箸を武器に使えるよう、常に暖炉の近くに陣取っている事から大きな問題はないだろう。
「フフ、こういうのは‥初めてなのですか?」
「え、ええ。でも‥とても楽しい」
ごく自然に、はにかんだ笑みをこぼしたルネが再び地獄に突き落とされたのは、その後だ。
「嘘をつくな。お前が楽しいのは殺す時だけだろう、『ダンシングドール』?」
「!!!!!」
全身の血が逆流するような衝撃! 緊張する筋肉、混乱する頭。
急いで男から手を振り解こうとするが、しっかりと握られた手を振り解くのは、たとい相手がシフールであってもそうそう容易いことではない。めくるめく滅びの舞踏、目の前の男は頬の肉を歪ませて笑うと、ルネに破滅的な言葉を囁いていく。
「フフ、ハハ‥‥。『人殺し』が人並みの幸福を手にしようなんて、あつかましいとは思わないのかい?」
「ち、違う‥。わたしは‥わ‥たし‥‥は」
「哀れな人形のお姫様。お前を操る糸は切れなどしないよ。殺しの快楽、そして我が組織はお前を操り続けるのさ‥‥永久に、ね」
「いや‥‥、いや‥! いやあぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!」
会場にこだまする少女の悲鳴。冒険者達はしまった、と思うと同時に放たれた矢の如き速度で行動を開始した!
「こいつ‥!!」
フェイトが会場でくすねたナイフでシフールの男に切りかかる。男はそれをあざ笑うかのような身軽さで回避し、宙に舞い上がる。
「ふふん、君たちが僕らの邪魔をしてるっていう冒険者だね?」
「‥‥だったらどうした?」
近くの使用人から背の高い燭台をぶんどった(!)ジノは構える。
「殺してやるよ、徹底的に。‥出番だ、シュン!!!」
瞬間、奥の扉から狂化したハーフエルフの武道家が飛び出し、小ぶりのレイピアをシフールの男に投げてよこした。
「僕はレオナール‥。突き通すレオナール‥邪魔する奴は、『突き、殺す』!!」
「子爵殿! わし等から離れんでくれよ!?」
ローシュ、そしてセイロムはテーブルをひっくり返し、バリケードを築いてシュンを迎え撃つ。ファルはホーリーフィールドを詠唱して依頼人に結界をほどこした。ルネにもかけてやりたいが、ホールの中央までは少々距離がありすぎる。
「コロス‥コロスコロスコロスコロスゥゥゥゥゥッッッ!!!!」
「そんな攻撃‥見え見えなんだよッッ!!」
放たれた蹴りをルクミニが食器のナイフで受け止める。すねに突き刺さったナイフの痛みに、シュンはうなり声をあげてたまらず後方に退く。
「もらったあ!!」
そこへシュンを追いかけてきたジノの一撃が炸裂する。振り下ろした燭台はシュンの後頭部に直撃し、更なるダメージを与える。
「昔を思い出すようでちと心が痛むが‥。悪く思うなよ、今楽にしてやる」
「ガアアアアアアアッッッッッ!!!」
折れた足を握りなおすジノ、床に伏し、頭から血を流しつつも吼えるシュン。冒険者達が勝利を確信したその時、勝負の形勢は再び流動的に変化する。
「うおっ!!?」
突如として、ジノ、ルクミニの体が宙に舞い上がり、次いで地面に叩き落される。
「ジノさん、ルクミニさん!」
セイロムは咄嗟に辺りを見回す、この会場に敵の魔法使いが紛れ込んでいるのだ。見つけて対処せねば、大変なことになる‥!
「そこ‥っ!!」
その問題はエレが解決しれくれた。レオナール、シュン以外の敵を探していた彼女は呪文を発動させたその瞬間を丁度目撃し、迷うことなく手に握った燭台を相手の顔面に叩きつける。
近づいてしまえは、魔法使いとファイターのどちらが勝つかは言うまでもない。逃げる敵をほぼ一方的に壊滅させてゆく。
「ハァッ!!」
「ッ!」
レオナールの一撃がフェイトの頬を掠める。反撃の一撃を繰り出すも、まるで当る気配さえない。相手は踊るように攻撃を避けると、再び天井の方へと飛び上がって距離を置く。
「ハハ、キミの動きが止まって見えるよ‥。そろそろ毒も回ってくる頃だ。大分辛いんじゃない?」
戦場となって混乱する会場、そして肩で息をするフェイトを見下ろしつつ、余裕の笑みを浮かべるレオナール。
「あなたの攻撃が他愛もなさ過ぎて‥ちょっと眠いくらいよ」
フェイトは体のしびれを感じ始めている自分に焦りながらも、外見はさも余裕があるかのようにふるまっていた。
「フフ、そういう強がりって好きだよ‥。どうしようもなくった時に、絶望の表情に変わるからねえッッ!!!」
武器に毒を塗りなおし、レオナールは一直線に突っ込んでくる! フェイトは覚悟を決めると、布を巻きつけた腕を剣の前に突き出した!
「ぅっぐ‥ッッ!!!」
剣は布を貫通し、フェイトの腕を貫いた。勝利の笑みをこぼすレオナール‥だが。
「何っ!?」
彼女が武器をしっかりと掴んでいることに彼は気がついた。そしてそれの意味するところは‥。
「はい、ここで切り札の使用っとぉ!!」
相麻がレオナールめがけて火箸を振り下ろす。レオナールは舌打ちして武器を手放すと、再び宙へと逃げ延びた。
「クソ‥ッ! 僕の武器が‥!!」
彼の武器は、今やフェイトが持っている。そして彼は得物を持たずに戦う術を持っていない。
「どうだい、俺たちって結構やるだろう?」
「チェッ‥。カエデがしくじるのも何となくわかっちゃったよ。でも、まあ概ね成功してそうだから、別にいいか‥‥」
「何‥?」
まさか、と思って相麻とフェイトがルネの方を見る。耳を塞ぎ、床にうずくまっていた。
「じゃあね、冒険者の諸君。キミらとは二度と会いたくないや!!」
2人がルネに視線を移した瞬間、レオナールは身を翻すと会場の外へと飛び出した。だが追っている暇などない、今は優先すべき事がある。
●エピローグ
「お嬢様、しっかり!!」
うずくまるルネにセイロムが駆け寄り、声を掛ける。オーギュスタン子爵が彼女の肩を持ち、顔を上げさせる。
「‥ルネ、どうしたんだ、ルネ!?」
「‥‥‥」
少女の顔面は蒼白し、唇が小刻みに震えている。その瞳は人形のよう、生気が抜け落ちていた。どう見てもただ事ではない。
「多分‥。敵の魔法‥です」
エレがおもむろに口を開く。
「魔法だって?」
「楽団の中にも敵の魔法使いが紛れこんでいました‥。楽器を持っていた事から、おそらくは、月の‥‥」
驚くルクミニに、エレは言葉を続ける。月の魔法は人の心に干渉するものが多い。心が不安定だったルネには強烈過ぎる攻撃だ。
「‥とにかく、早くここを出よう。いつまでもグズグズいていると、追っ手がくるかもしれん」
フェイトに解毒剤を渡したジノが沈黙を打ち破る。とにもかくにも、帰らねば‥。ローシュは文句を言いにきた主催者の召使いを『損害請求はそこで寝てる半エルフ(シュンの事らしい!)にしろ』の一撃で片付ける。他の者もそれぞれ荷物を素早くまとめ、屋敷を後にした。
ルネは相変わらず顔色がすぐれなかったが、馬車を降りる頃には自分で立てるくらいまで回復していた。しかし、心なしか、表情に影が増えた気がする。
心配になったファルはふと、声を掛けた。
「貴女だけではどうしようもない事も、私達にならお手伝いできるかもしれません。‥‥いつでも頼って下さい。私達は、貴女の味方です」
ルネは何も答えなった。その表情からも何も読み取れなかった。