【禁忌へのクエスト】落日のアークフォン

■シリーズシナリオ


担当:夢想代理人

対応レベル:3〜7lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 69 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月09日〜09月19日

リプレイ公開日:2005年09月14日

●オープニング

 ―ブリンクウッド領、領内。マシュー・ブリンクウッド子爵宅にて。

「‥それは、まことか?」
 ロウソクによる橙色の光が部屋を照らす中、腹が大きくでっぱったマシュー子爵は椅子から前のめりになって眼前の客人に事の次第を尋ねる。
「ええ、間違いありません。アークフォン領内で起きた武装蜂起の騒ぎは鎮圧されこそすれ、領民の潜在的な不満が解消されたわけではありません」
 ミドウと呼ばれるその客人は跪きながら相手の出方を伺う。
 思ったとおり。マシュー子爵は腕を組んで目を伏せ、うんうんと考え事をしている。

「あの忌々しいオーギュスタンめ‥。あの時の恨み、今こそ晴らさでおくべきか‥‥」
「まさに今こそ好機でございます。マシュー様。オーギュスタンは領民の心を掌握しきれておりません」
 そこへミドウの悪魔のような囁き。哀れなるかな。思慮浅きマシュー子爵はすっくと椅子から立ち上がり、家臣の前でこう宣言した。

「オーギュスタンに民を治める能力はない! アークフォン領で苦しめられている、我らの民を救うのだ!!」

●アークフォン家・屋敷内
「義父さんッ!!」
 屋敷の書斎に、銀髪の少女が駆け込む。机に向かい手を組んでいたオーギュスタン子爵は重そうに瞼をあげると、娘の方を見ずに口を開いた。

「わかっている‥。マシューの奴め。どういう吹き回しかは知らんが、随分と強引な手段に出てきたものだ」
「あそこは確かに、アークフォン領とブリンクウッド領の境目に位置する村ですが‥。確か、数年前に義父さんとマシュー子爵が御前試合で決着をつけたとか‥‥」
 机の傍で執事のように立っていたハーフエルフの少年、ジョルジュが問う。
「その通りだ。私はその決闘に勝利し、あそこを自分の領内に組み込む事ができた‥‥。なのに、何故?」
 子爵は首をひねるが、これといった心当たりはない。

「‥義父さん、今は考えるよりも、行動を起こす事の方が大切であると思います」
 ジョルジュは一歩出ると、己の義父にそう強く進言した。確かに今はのんびりと部屋で考えている場合ではない。
 ほとんど不意打ちのようにやってきたブリンクウッド軍は戦闘らしい戦闘もせずに、瞬く間に村を占領してしまったのだから。
「うむ‥。その通りだ、ジョルジュ。こちらも急遽軍隊を編成し、ブリンクウッド軍を撃退せねばならない」
「冒険者を使いましょう。彼らは下手な傭兵よりずっと強くて機転が利きます」
 オーギュスタン子爵は言葉ではなく、頷くことで同意を示す。

「‥、わたしが、ギルドに依頼を出してきます」
 唐突に、それまで二人のやり取りを眺めるだけだったルネが呟く。
「義姉さん‥‥」
「わたしなら、冒険者の方々とも何人か知り合いがいますし。適任だと思います」
「ふむ‥‥」
 平生ならばそんな事は認めたがらないオーギュスタン子爵であったが、事態は切迫していた。数秒の沈黙の後、オーギュスタン子爵はこう自分の娘に言ったのだった。

「頼む、ルネ」

●ドレスタット冒険者ギルドにて
『我が領内に突然、隣領を統治するブリンクウッド軍が進軍してきた。
 向こうの事情はわからないが、既に村を一つ占領されていて事態は急を要している。

 腕の立つ者、頭脳明晰な者、いずれでもかまわない。我こそはと思うものはアークフォン解放軍に志願して欲しい。

 諸君等には一時的に傭兵20名を貸し与える。これを指揮し、占領された村を奪還して欲しい』

●今回の参加者

 ea5564 セイロム・デイバック(33歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea7815 相麻 了(27歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea7935 ファル・ディア(41歳・♂・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea8527 フェイト・オラシオン(25歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea9761 グングニィル・アルカード(33歳・♂・レンジャー・ドワーフ・イギリス王国)
 eb0565 エレ・ジー(38歳・♀・ファイター・人間・エジプト)
 eb1633 フランカ・ライプニッツ(28歳・♀・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 eb2284 アルバート・オズボーン(27歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 空を星が覆い、月が大地を照らす頃、冒険者たちは偵察に向かったフェイト・オラシオン(ea8527)の帰りを火を囲んで待っていた。

「先日起きた篭城騒ぎに引き続き、今度は領地争いですか‥。
 こうも問題が立て続けに起きるとなると、何者かの意思が働いていると思った方が自然ですね」
「であろうよ。タイミングが良すぎる」
 顔をしかめるファル・ディア(ea7935)に、ミドルボウの弦を張りなおしていたグングニィル・アルカード(ea9761)が答える。
 今年の2月頃、ロングボウはオーギュスタン子爵の屋敷にはないと言われた事を思い出しつつ。

「ん、あれは‥‥。って、おい!!」
 アルバート・オズボーン(eb2284)が村から戻ってくるフェイトに気がつく。彼女はどうやら無事に偵察を終えてきたようである。右腕に矢が一本刺さってはいたが。
「ッ‥‥。ちょっと、近づきすぎた」
「た、大変‥‥! 早く、矢を‥抜かないと‥!」
 調理道具を持ったまま慌てるエレ・ジー(eb0565)に苦笑しつつ、フェイトは更に報告を続ける。

「村人は今、西の森の奥で避難している‥‥。だから、私たちは気兼ねなく戦えると思う」
「そうですか‥それはありがたい」
 セイロム・デイバック(ea5564)はフェイトの体を支え、矢を引き抜く。うっ、とくぐもった声が彼女の口から漏れた。
「‥っ。敵は民家に隠れていたから、装備はよくわからなかったけど‥‥。隊長の名前はわかった。敵の指揮官の名前は‥‥」


「グザヴィエ‥。そいつが今回の大ボスって事だな」
 アークフォン解放軍が占領された村に進軍する中、パシンと拳をもう一方の手に合わせ、相麻 了(ea7815)は彼方を睨む。
 時刻は丁度明け方の頃、東の空がぼんやりと紫色に明るくなっていた。

「さあ、奇襲部隊はここら辺で分かれないと。頼みますよ?」
 そんな相麻に向け、フランカ・ライプニッツ(eb1633)が空から冷静に指示を飛ばす。
「まかせとけって、先生! 漆黒の獅子は絶対負けないさ!!」
 道化師よろしく相麻は跳びはね、グングニィル、フェイトらの後を追う。

「母なるセーラよ‥、どうか我等に一時の加護を‥‥」
 ファルは静かに祈りを捧げた。

●アークフォンの戦い
「敵襲ー! 敵襲ーッ!!」
 教会の鐘楼台から見張りのけたたましい声と鐘の音が響く。

「やはり来よったか! 遅すぎだ、と言いたいところだがなッ!」
 パン、と己の膝を叩き、椅子にどっかりと腰を下ろしていた赤髪の老戦士、グザヴィエが吼える。
「血気盛んなのはいいが、無茶はするなよご老体?」
「フン、心配なぞ不要。このグザヴィエ、老いてまだまだ健在よぉ!」
 エルフの女はやれやれと肩をすくめると、自分の部隊の指揮をとるべく表へと出る。グザヴィエは己の得物を手に取ると、これから遊ぶ子供のような目でそれを腰にくくりつけた。

「さあ、かかってくるがいい!!」


「私に続け!! 隊列を乱すな――――ッッ!!!」
「ォォォオオ―――ッッ!!」
 セイロムの合図と共に、傭兵たちの怒号が大地を震撼させる。
 ブリンクウッド軍30余名にアークフォン解放軍25名、この軍は今まさに、アークフォン領寄りの平野で激突した。

 一方、村の東の森では。
「‥はじまったぜ!!」
「よぅし、自分らも行動開始じゃ! 撃ち方構えぇい!!」
 相麻の声に応じ、グングニィルが傭兵に射撃の指示を飛ばす。ギリギリと弦の引かれる音、そして‥。
「て―――――ッッッ!!!」

「‥何事だ!!」
「ひ、東の森より敵の別働隊! 弓兵でさぁ!!」
 突如己の軍に響き渡った悲鳴に、グザヴィエはいきり立つ。部下の報告を聞いて一瞬顔をしかめたが、すぐに冷静さを取り戻すと、再び腕を組んで椅子に座り込んだ。
「‥偶然か考えてかは知らんが、盾を構えにくい『東』の方向を選ぶとは大したものよ。向こうにもそれだけの知恵を持つ者がいたか」
「だ、ダンナぁ! 敵を褒めてどうするんですか!?」
「うろたえるな! そっちの部隊はドミニクの奴が叩くであろうよ!! 我等は眼前の敵を叩き伏せる事だけに集中すれば良い! いけ!!」
「へ、へい!!」 

「二射目、構えぇい!!」
「ぅっ‥ぎ!??」
 グングニィルが二射目を放とうとしたまさにその時だった。突如として隣の傭兵の姿が消える。

「な‥‥ッ!!?」
 不可解な展開に思わず声がでるが、その答えはすぐに返ってきた。樹上から大量の血と悲鳴が降り注いできたから。
「これ以上撃たせるわけにはいかないな‥」
 どこからともなく響く声と共に、首にロープをくくりつけられていた傭兵がドサリと地面に降ってくる。
「この声‥!!」
 樹上を睨み、フェイトがダガーを構える。聞き覚えのある声。それは相手も同じようだ。
「‥む? いつぞやの小娘か。この前の斥候の姿、どこかで見たことがあると思ったら、お前だったか」
「‥。こりゃ、本陣の援護の前に、こっちの相手が先だな」
 おどけた調子の声とは裏腹に、相麻は背から忍者刀を引き抜く。相手の気配は一つではない。

「逃げずに向かってくるか‥。まあ、いい。森でエルフに戦いを挑むことが、どんなに愚かな事か、思い知らせてやるとしよう」
「言ってろ! 俺の怒りは嵐をよぶぜッ!?」
 樹上から降り注ぐ複数の人影、冒険者と傭兵たちは武器を握り直し、その影に立ち向かう。


「フランカ、ファル! まだ生きてるか!!?」
「ええ、なんとか!」
 飛んできた矢を弾きつつ、アルバートは右手の日本刀を横一直線にふるう。
「しかし、こう敵が多くては‥‥ッ!」
 詠唱を終えたフランカの前の敵が宙に浮き上がる。もう本日数発目になるローリンググラビティーは敵の陣形を崩していき、混戦状態へと戦局を変化させていく。

「セイロム、エレ‥! 急いでくれ、このままじゃあ‥!!」
 続きを言いそうになって、口をつぐむ。弱気になってはいけない。先頭で戦う冒険者たちが背を見せたが最後、味方の傭兵たちはそれこそ蜘蛛の子を散らすように逃げてしまうだろう。


「どうした、若造どもぉ!? わしを倒すのではなかったのか!!?」
 カラカラと老戦士の笑い声が辺りに響く。
「くっ‥!!」
 肩を上下させて呼吸をするセイロムの足元には、既に物言わぬ塊となった傭兵の姿がある。
「‥‥‥」
 強い。口にこそ出さなかったが、エレは相手を甘く見ていた己をひどく呪った。セイロムもエレも、今回集まった冒険者たちの中では最も経験を積んだうちの2人である。
 それがたった1人の老戦士によって、面白いように翻弄されているのだ。
 グザヴィエが己から仕掛けるようなことはせず、のらりくらりと攻撃を受け流している事もあるが、それにしても2人は決定打を与えられず、悪戯に時間だけが過ぎていった。

「‥ここで、負けるわけにはッ」
「セ、セイロムさん‥!」
 突然、エレが声をあげる。
「ほう‥。そこな娘は気がついたか。己が置かれている今の『状況』に」
 グザヴィエの口の端が歪む。セイロムも乱戦状態となっている戦場に目をやる事で、すぐにその真意を理解した。
「戦線が、崩れ‥‥!!」
「はははは! 気付くのが遅いわ!! 元からこちらの数が勝っているのだ、それに正面からぶつかれば、どうなるかなどわかっていたであろう!?」
 そう、わかっていた。だからこそ冒険者たちは指揮官を先に叩く戦術を選択したのだ、だが。
「さあ、これでおぬしらは、本隊の援護にいかなければならなくなったわけだが‥。わしが大人しく、それを見逃すなぞとは思っていまい?」
 その指揮官はとんでもない食わせ者だった。ロングソードをしっかりと両手で構え、油断や隙などは微塵も感じさせずに冒険者たちへとにじり寄る。
「セイロムさん‥。さ、先に戻って‥ください‥! 隊長が戻って指揮をしないと‥‥ぜ、全滅します!」
「‥すみません!!」
 セイロムは踵を返し、本隊へ向かう。
「やらせんわぁ!!」
「こ、こっち‥だって‥‥!」
 グザヴィエの一撃を、エレが日本刀で弾き返す。


「‥! そこじゃッッ!!」
「ぬっ!!?」
 グングニィルの矢がエルフの女、ドミニクの足に命中する。保存食を忘れ、空腹で目がかすんでいるせいか、数発目にしてのやっとの命中だ。
 彼女はそのままバランスを崩し、木の上から落下‥。
「チッ!!」
 するかと思われたが、腰の鞭を取り出して適当な木の枝に絡み付けると、そのまま『しなり』を活かして再び別の木へと飛び移った。

「ったく、なんて女だッ!!」
 忍者のお家芸をとられたような気がして、思わず相麻が舌打ちする。微塵隠れを使い、ドミニクの後を追うように移動する。
「‥あなたの味方は全員倒した。残るは、あなただけ‥‥」
 フェイトが相変わらず木の上に身を潜めるドミニクに向かって言う。だが相手は負傷しているにも関わらず、まったく怯む様子を見せない。
「フフ、確かに、な。この勝負は私の負けのようだ。だが、あっちはどうかな?」
「何じゃと‥!? ‥‥。‥!!」
 ドミニクが指差す方を見ると、グングニィルを始めとする冒険者たちからサッと血の気が引いた。味方の軍は明らかな劣勢である。急いで援護に向かわなければ、取り返しがつかなくなる。
「ほら、早く援護にいかないと負けるぞ。ここで、私にかまっている場合ではあるまい?」
 飄々とした調子でドミニクは立ち上がる。片手には空き瓶となったポーション。冒険者たちが視線を外した隙に飲んだのだろうか。

「ええい、やむを得ん!! 行くぞ!」
「ちくしょっ! 間に合ってくれよー!! 」
 彼女の言うとおり、援護に向かわざるを得ない状況だ。グングニィル、相麻は全力で駆け出す。
「ハハ‥まあ、頑張ってくれ。『武運を祈る』」
「‥ッ!!」
 かみ締めた唇から血が流れる。振り向きざま、フェイトは思わずドミニクを睨みつけた。

●エピローグ
 アークフォン解放軍は冒険者たちの手で何とか戦線を建て直し、満身創痍ながらも撤退に成功した。
 あの激戦の中、傭兵たちは半分近く戦死、或いは逃亡した。残りの者もこれからの待遇次第ではどうなるかわからない。

「‥‥あと何度、この様な夕日を眺める事になるのでしょうか」
 血よりも赤い夕焼けの中、アークフォン家屋敷の屋上からファルが戦場の方向をぼんやりと見つめている。
 隣には今回の瑣末を聞き届けたオーギュスタン子爵が沈痛な面持ちで佇んでいた。
「さて、な‥‥。だが君の言う通り、この戦いは早く終わらせねば、今年の冬には大変な事になってしまうだろう。
 その為にも、勝たねば、ならないのだ」
「‥‥‥」
 返す言葉が、見つからなかった。