【禁忌へのクエスト】狂える星

■シリーズシナリオ


担当:夢想代理人

対応レベル:3〜7lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 69 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月29日〜10月09日

リプレイ公開日:2005年10月06日

●オープニング

 ―ブリンクウッド軍・陣営内にて

「被害状況はどうなっておる?」
「おっ死んだり、怪我したりで半分近くの奴等が戦えません。攻めるにゃあ、ちと手駒の数が足りませんぜ、ダンナ」
 炎のように赤い髪の老戦士、グザヴィエは腕を組んで座り、部下の報告に耳を傾ける。以前の戦いでアークフォン軍に勝利したとはいえ、消耗が激しく攻めの一手に出るには少々兵士が足りない。

「チッ‥。かといって、のんびりしておっては向こうも態勢を立て直してしまうか。ドミニク、この状況をどう考える?」
「ん? 私に意見を求めるとは珍しいな、ご老体」
 壁に寄りかかっていた、雪のように白い髪のエルフの女、ドミニクが顔をあげる。
「どうにも作戦が思いつかんのでな。エルフの手も借りたいくらいなんじゃよ」
「なるほど‥。‥‥‥。そうだな、潜伏や奇襲が得意な兵を少し貸してくれるのなら、『面白い』事をしてやろう」
「‥略奪でもする気か? わしらは今回、『苦しむ民を救う』という大義名分を掲げて戦っておるのだぞ?」
 グザヴィエが片方の眉を上げ、ドミニクを見る。

「奇麗事だけじゃあ、戦争には勝てない。悪いことはバレないようにするものだろう?」

●アークフォン領内
「ど、泥棒だ――――ッッ!!!」
 暗闇が支配する夜の村に、怒号が響く。村の男たちは家からそれぞれ武器になる農具を持って飛び出すと、たいまつを片手に、闇を突き進む数人の集団を追いかけた。

「おや‥気がついたか。誰かドジを踏んだな?」
「す、すんません‥。あいつら、しっかり罠を仕掛けていやがって‥‥」
 影の集団のリーダーとおぼしき女が苦笑する中、部下は申し訳なさそうに肩をすくめる。
「まあ、いいさ。もうすぐ追跡どころじゃなくなる、火事になるように細工をしておいたからな」
 その言葉と同時に、にわかに村の方角が明るくなる。どうやらくすぶっていた火が大きくなったらしい。
 それまで追跡していた村の男たちは振り向いて仰天し、その場に農具を放り捨てて消火活動へと飛んで返っていく。

「ご苦労な事だ。さあ、私たちはその隙に逃げおおせるとしようか」
「そうはいくか。お前たちは、ここでお仕舞いだ」

「ッ!?」
 リーダーとおぼしき女が声に反応した瞬間、部下たちの悲鳴が空をつんざく。うずくまる部下たちの太ももには、しっかりと矢が突き刺さっていた。
「‥‥‥」
 矢を放ったのはアークフォン家が長男、ジョルジュ。そしてその部下たる傭兵たち。
 彼は馬上からそのままリーダーとおぼしき女に狙いを定める。

 と、同時に、雲の切れ間から月が顔を覗かせ、にわかに大地を明るく照らす。
「‥ひどい奴だな。この領内では、泥棒にいきなり矢をお見舞いするのか?」
 『リーダーとおぼしき女』改め、ドミニクは苦笑しながら低く構える。暫くはこちらの方を普通に眺めているだけであったが、『ある事』に気がつくと、急に面白そうに口の端を歪める。

「‥ハーフエルフか」
「!!」
 ジョルジュの顔が険しくなる、と同時に放たれる矢。
「危ない危ない‥。フフ、やはり気にするか」
 咄嗟に背の荷袋を前に出し、受け止めるドミニク。
「黙れ!!」
「ハーフエルフが人間の傭兵を従えるなんて、面白い世の中になったものだ。そう思わないか、そこのお前たち!?」
 転がって矢を回避しながらドミニクはそう言い放つ。ジョルジュに従っていた傭兵たちに。
「そ、それは‥」
「いいのか? それでいいのか、傭兵!? 幾ら金で動くとはいえ、ハーフエルフに従う事をお前たちは受け入れるっていうのか!?」
「黙れぇぇぇッ!!!」
 怒りで狙いが定まらない矢は全く見当はずれの方へと飛んでいく。その隙にも言葉巧みに傭兵たちの自尊心をあおっていくドミニク。そして‥。

「この、これで仕留めて‥! ‥うわッッ!!?」
 再び矢をつがえて攻撃しようとしたジョルジュが馬上から引きずり下ろされる。味方の、傭兵に。
「お前ら、何をっ‥‥ッ!!?」

 鈍い音が断続的に響く。暫くの後、ジョルジュは糸が切れた人形のように、ドサリと草の大地に倒れこんだ。
「そ、そうだ‥。なんで俺たちがこんな奴に従わねえといけないんだ‥‥」
「もともと鼻持ちならねえ野郎だったしな‥。ざまあみろってんだよ」

「フフ、そうそう。そうだよな‥」
 ドミニクは傭兵たちの肩をポンと叩き、更に言葉を続ける。

「どうだ、お前たち。私のいる軍に寝返らないか?」

●アークフォン家・屋敷内
「おお‥。なんという事だ」
 オーギュスタン子爵は屋敷にジョルジュの馬『しか』戻ってこなかった時、己が目を疑った。
 震える手で馬の手綱を握り、ふと、手綱に結び付けられた手紙の存在に気がつく。

「‥‥‥」
 本来ならば開きたくはなかった。この状況だ、何が書かれているかなど、読まずともわかる。
「‥卑怯な!!」

 それはブリンクウッド軍からの手紙だった。
 内容はジョルジュを拘束したこと、降伏するのなら彼の命は保証するという事、そして抵抗を続けるなら彼の命の保証はない、という事が書かれていた。

●今回の参加者

 ea5564 セイロム・デイバック(33歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea7815 相麻 了(27歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea7935 ファル・ディア(41歳・♂・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea8527 フェイト・オラシオン(25歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb0565 エレ・ジー(38歳・♀・ファイター・人間・エジプト)
 eb1633 フランカ・ライプニッツ(28歳・♀・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 eb2284 アルバート・オズボーン(27歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb3096 アルク・スターリン(33歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

「農民の方を‥ですか?」
「ああ。今回のような事が、また起こらないとも限らない。だからさ、『自分の土地は自分で守る』っていう気概の奴を集めて訓練できないかと思ってさ‥‥」
 ルネはぱちりと目を開いて、相麻 了(ea7815)の提案に聞き入る。なるほど、それは確かに理にかなっているのかもしれないが‥‥。
「彼らには、農作物を育てるという大切な仕事がありますから‥。農閑期に入れば訓練も可能でしょうが、今すぐにはちょっと‥‥」
「うーん、そうか。いや、結構名案だと思ったんだがなぁ‥‥」
「‥いや、なかなか面白い考えであるとは思う。前向きに検討してみよう」
 それまで黙っていたオーギュスタン子爵が口を開く。相麻はでしょう、と肩をすくめておどけてみせた。

「子爵殿、傭兵の件ですが‥‥」
 会話に区切りがついたところで、ファル・ディア(ea7935)が子爵に声を掛ける。今後の傭兵たちの扱いについてだ。
「‥ハーフエルフに対してどう思うかを問いただす、か」
「今回と似たような事件が、起こらないとも限りません。過度に後ろ向きの印象をハーフエルフに対して持っている者に対しては、厳しい処遇を‥‥」
「‥そうなると、私は全ての傭兵を解雇せねばならなくなるな」
 オーギュスタン子爵がどこか寂しそうな顔で苦笑する。不意をつく表情に、思わず言葉が詰まる。
「ファル殿よ、ゆめゆめ忘れるな。我等のような者たちの方が、『珍しい』のだ」

●夜明けの明星、狂える星
「はい、どうぞ‥。こ、今後は‥忘れないで‥くださいね‥‥?」
「‥ああ、どうも面目ない。ありがたくいただきます」
 食糧を一日分しか持ってこなかったフランカ・ライプニッツ(eb1633)に対し、エレ・ジー(eb0565)が余分に持ってきていた食糧を渡す。相麻も一日分が不足していたが、アルク・スターリン(eb3096)などからの提供でなんとか難を逃れた。

「お、戻ってきたようだな」
 アルバート・オズボーン(eb2284)が指差す方向から、森に隠れるに適した柄のマントをまとったフェイト・オラシオン(ea8527)が戻ってきた。
「‥大体の見当はついた。行きましょう」
「わかりました、皆さんに母なるセーラの加護があらんことを‥‥」
 ファルがグットラックを詠唱し、ジョルジュの救出を行うメンバーから先に祝福する。

「‥‥‥」
 セイロム・デイバック(ea5564)は静かに立ち上がり、ファルの詠唱が終わると無言で歩を進め始めた。
 怒りで言葉は出てこない。裏切った傭兵への、不当な要求を行う彼らへの義憤で。


 空が桃色に薄明るくなり始める夜明けの時刻。

 村に敵の襲撃を告げるラッパの音が鳴り響く。
「何事だ!!」
「だ、ダンナぁ! 敵襲でさぁ!!」
 ベッドに横たわっていたグザヴィエが跳ね起きると同時に、部下が玄関先から転がり込んでくる。
「敵‥!? 数は!?」
「そ、それがたった5人で‥。この前痛めつけてやった冒険者みたいですぜ!」
「‥なにィ?」
 グザヴィエは暫く硬直した後、堰をきったように笑い出す。
「ガハハハ! そうかそうか! 『たったの5人』か!」
 鎧を着る時間はないが、何のことはない。グザヴィエは立てかけてあった己の武器を手に取ると、雷鳴のような声で指示を飛ばした。
「折角のお客様だ! 丁重に相手をしてやるぞ!!」
「へ、へいッ!!」

「‥どうやら、かかってくれたようですね」
 森の茂みから、セイロムが村の様子を伺う。これまでに敵の罠も襲撃もなかった。隠れて動く必要のある彼にとっては理想的な展開である。
「ジーゲン、いきますよ!」
 ジョルジュの使っていた枕カバーを持ち、フランカは再び犬のジーゲンに臭いを覚えさせる。ジーゲンは彼女のやらんとしている事を理解しているのか、しきりに地面の臭いを嗅いで村の建物へと近づいていく。

「あの建物‥‥」
 ジーゲンの向かう方向に、ぽつんと建っている石造りの民家がある。フェイトは辺りを見回すが、相変わらず見張りはいない。依然として理想的な展開だ。
 細心の注意を払い、戸を開ける。

「‥! ‥!!」
「ジョルジュさん!!」
 そこには手足を縄で縛られ、猿ぐつわをかけられたジョルジュの姿があった。
 セイロムをはじめ、3人が一気に駆け寄る。が。

「あっ‥ぐっ!!!?」
「「!!!?」」
 どす、という突然の刺突音。

「フランカさんッッ!!!」
 セイロムが叫ぶ。フェイトが武器を構える。フランカは‥‥。
「‥‥ふふ、油断すると思ったよ。この瞬間は、人質の無事を確認した『この瞬間だけは』絶対に油断すると思ったよ」
 フランカは、背中からショートソードで体を貫かれていた。開けたドアの裏側から、狂える星のドミニクがその姿を現す。
「ドミニク‥‥ッッ!!!」
 ずぶりとフランカからショートソードが引き抜かれると同時に、フェイトが2本のダガーで斬りかかる。
「おっと‥!」
 ひらりと身をかわし、後方に飛びのくドミニク。そのまま口に指を当てると、ピーと甲高い音を鳴らす。
「!?」
「近くの建物に味方を潜ませておいた。あと一分もしないうちに、ここへやってくるぞ? さあ、どうするんだ冒険者‥‥?」
 セイロムはフランカがリカバーポーションを飲んだのを確認すると、ゆっくりと立ち上がった。ジョルジュの方を見て、大丈夫、と小さく微笑んでみせる。
「一分以内に、あなたを倒せばすむ事です‥‥!!」


 村の前にある平野では、5人の冒険者が倍近い数の相手に苦しい戦いを強いられていた。
「どうしたァ、若造どもぉ!! 随分息が苦しそうではないか!!?」
「クソっ‥。赤い悪魔、打ち砕くグザヴィエは老いてなお健在、か‥‥!」
 烈火の如き勢いで殺気を放つグザヴィエに、満身創痍のアルバートは思わず舌打ちする。酒場で聞いた話は、傭兵としての彼が超一流の人間である事をたたえるものばかりであった。これで全盛期の頃よりも幾らか体力が落ちたというのだから、気が遠くなる。
「フン‥なつかしい名を。‥‥む?」
「まだ‥、まだです! まだ負ける‥わけには‥‥!!」
 右肩に強烈な一撃を叩き込まれたはずのエレが、再び日本刀を持ってグザヴィエの前に立ちはだかる。ファルの回復魔法で傷を癒したのだろう。
「チ‥、坊主を戦場に連れてきたか。厄介な」
「教会にこもるだけが、聖職者の勤めではありません!」
 ファルの魔法が今度はアルバートを癒す。これで形勢は再びわからなくなってきた。‥と、信じたい。

「ならば、かかってくるがいい‥。お主らの希望、『打ち、砕いて』やろう!!」


「ちっくしょう! こいつら次から次へと‥‥!」
「やむを得ないでしょう‥! 元より数のケタが違う‥!!」
 群がってくる傭兵相手に、相麻は忍者刀をふるって応戦する。彼に背を合わせる形でアルクも己の得物を振るい、相手を次々となぎ倒していく。

「この野郎‥! ハーフエルフの分際で‥‥!!」
 傭兵の一人が悪態をついてアルクに斬りかかる、それをライトシールドで受け流し、カウンターで長巻を敵の額にめり込ませる。
「あっ‥がぁぁぁぁ!!」
「悪いが‥最低限の契約すら守れぬ蛮人の言葉を聞く耳は、持っていないのでな」
 ヒュン、と武器が空を斬りさいて唸り声をあげる。そしてそれにたじろく傭兵たち。アルクの瞳が徐々に赤く変色しはじめているのだ。

「失せろ、下郎ども。斬り殺すぞ‥‥!!」


「はぁぁぁぁッッ!!!」
「っ!!」
 セイロムのスピアが放たれ、ドミニクの頬を掠める。それに次いで放たれるフェイトのソニックブーム。
 今度は対応できないのか、衝撃波がかの女の太ももを切り裂いた。

「やれやれ‥。人質を救出したなら、とっとと帰ってくれると嬉しいんだが、な‥‥!」
 セイロムは彼女の言葉には耳を傾けず、引き戻したスピアで今度は接近戦を仕掛ける。ドミニクは咄嗟に武器で受け流したが、そのまま突き飛ばされて後方に転がっていった。

「が、っは‥!」
「姐さん!! 無事ですかい!?」
 ドミニクの合図を聞きつけた傭兵たちが、とうとう駆けつける。
「やれやれ、遅いぞお前たち‥。だが、よく間に合ってくれた」
「セイロム、これ以上は‥‥!!」
 このままとどまっていては、袋叩きにされる。ジョルジュを救出した手前、これ以上の戦闘はリスクが大きすぎる。
「あと一歩というところで‥! …ッ。ジョルジュさん! 逃げますよ!!」
「‥‥‥あ、ああ」
 のろのろと駆け出す彼の腕を強引に引っ張り、森の中へと引き戻る。陽動組へはフランカが伝令に向かった。無事に彼女達も逃げられると思いたい。

「待ちやがれ、畜生!!」
 そしてそれを逃すまいとする傭兵たちの追跡。
「ふぅ‥、危なかった。単独行動はいつやってもリスクが大きすぎるな」
 骨にヒビがはいっていないのを手で確認し終えると、ドミニクはどさりと大の字になって寝転んだ。

●エピローグ
「‥義父さん!」
「おお、あれは‥‥!!」
 アークフォン家の屋敷に戻ってくる冒険者の姿を最初に見つけたのはルネだった。
 オーギュスタン子爵は娘の指差す方向を見るやいなや、顔に生気を取り戻す。ジョルジュの姿も入っていたからだ。

「「ジョルジュー! ジョルジュおかえりー!」」
 屋敷に住まう双子の姉妹、コリンヌとコレットもルネに続いて玄関まで迎えに出る。冒険者達からもその姿が見えたのか、彼は駆け足でやってくると、あわただしく屋敷への正門へとたどり着いた。

「ジョルジュ‥!」
 ルネが不安げな顔でジョルジュに近づく。
「‥‥‥ただいま」
「‥子爵殿。ご覧の通り、ご子息は無事に奪還できました」
 疲れた様子であるジョルジュの肩をポンと叩き、アルクは今回の件を報告する。

「‥そうか。いや、よくやってくれた。敵軍の指揮官二人が未だ健在とはいえ、ジョルジュが戻ってきてくれたのなら何よりだ」
「あぁ‥。しかし、あの二人をこのまま放っておくのは絶対にまずい。何か、何か対策を立てないと‥‥」
 かの老戦士の攻撃を受け続け、傷だらけになったミドルシールドを眺めてアルバートが言う。
 このまま後手後手にまわるのは、非常によくない。立派な城壁の一つでもあれば、むしろ防衛の方が楽なのだろうが‥。
 ここアークフォン領には、そんなご大層なものは夢のまた夢であった。

 だが、ルネはそんな不安要素などどこ吹く風。力強く、冒険者達に返答する。
「ええ、それについては考えがあります。今度は、こちらから積極的に仕掛ける番です」