ノルマン大迷宮(パラ=ベラム)

■シリーズシナリオ


担当:DOLLer

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 40 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:07月16日〜07月21日

リプレイ公開日:2007年07月31日

●オープニング

「いよいよ、7の月ですが‥‥ディアドラさん、何か分かったことありますか?」
 ブランシュ騎士団の騎士隊長であるフランの問いかけに、ディアドラは彼の目を見ず、迷宮の地図に目を落としながら答えた。
「7月は流星群の周期に入っているわ。夜に空をご覧なさい。どこでも流星を見ることができるはずだわ。流星の象徴は‥‥変革、もしくは戦争を意味する」
「なるほど、それでノルマン王国の滅亡、ですか。ちゃんと天文にも詳しい方もいらっしゃるんですねぇ。いや、感心」
 本気で感心しているようなフランに、ディアドラは思わず地図に顔を埋めてしまいそうになった。なんとも暢気というかいい加減というか。これでも預言騒動から民を護るノルマン王国最高の騎士の一人であるとは思えない。
「どうするの。このまま星が語るとおりに大人しく政権交代させるの?」
「まさか。手は打っていますよ」
 フランはくすりと笑って言葉を続けた。
「敵の大将はアガリアレプトだということは分かりました。中級でビル数匹と低級がそこそこ。デビノマニが数人とその配下、後はノストラダムスさんの狂信者とデモ隊がたくさん、というところでしょう。敵の能力も分かる、戦力も把握できている。そして本拠地もね‥‥。そう思えばノルマン全土が敵だらけだったいつぞやの戦争よりずっと楽ですよ。事が始まれば10日ばかりで終わらせてみせますよ」
 ぞく、と一瞬背筋が寒くなるのを覚えたディアドラは初めて顔を上げてフランの顔を見た。だが、その顔は相も変わらずののほほんとしたいい加減男を絵に描いたようであった。
「恐ろしい男ね」
「一応、人の命を預かっている身ですからね」
 それにラルフ卿を初めとした同輩諸氏にばかり任せてばかりなのも失礼ですから、とこぼすところに、ディアドラはこの人物の真なる人格を見た気がした。
「でも、生半可な手段では勝てないわよ。地獄の諜報機関の長と呼ばれるアガリアレプトは‥‥あらゆる秘密を握っているわ。王宮などの極秘事項も知っているため、召喚者は政治関係者が多いと言われるほどよ。どんな作戦を立てても必ず裏をかかれるわよ」
「なるほど。それで、地下に埋もれた忘れ去られた遺跡や洞窟も知っていたわけですね」
「脳天気ね。あなた」
「秘密を知ろうが、作戦に気づかれようが事実は覆せない。そういうことですよ。数で攻めようが押し勝てば問題ないし‥‥、守備を固めれば、その他の拠点を一つずつ丁寧に制圧しればいい。ねえ」

 ザムっ

 次の瞬間、フランのカタナが閃いて、ディアドラの胸を貫いた。それと同時にぐにゃりと崩れ去るディアドラだったものの姿は、呆然とした姿でフランを見つめた。
「な、ゼ‥‥?」
「それに、偽物に気づかないほど、間抜けでもないので‥‥本物のディアドラさんはもっと冷酷で、傍にいるだけで空気が冷たくなるような方ですよ。あなた達の本拠の一つであるパリ地下にある古代アリーナ『パラ=ベラム』も‥‥いただきますよ」



「パラ=ベラム?」
「今の闘技場の前に存在したローマ遺跡の一つですわ。収容人数は2000人。闘技場エリアには密林を作ったり、迷宮を作ったりと色々趣向を凝らしていたという逸話がありますわ。もちろん、数多くのモンスターも。閉鎖されたことから普通のモンスターは殺されたりしていますが、ゴーレムくらいは残っているかも」
「なるほど、巨大ダンジョン探索の最終戦は、ゴーレムと狂信者の群れとの制圧戦ですか‥‥うちの騎士隊を使うしかありませんね」
 フランの言葉に、地図士シェラは不思議な顔をした。
「騎士様が何人も入ればすぐさま気づかれると思うのですけれど、よろしいのですか?」
「パリお膝元の隠れ家なんですから、どうせ入り口も近くにあるでしょう。冒険者にはその『出入り口』を探して貰います。そこから無事に脱出できれば、入れ替わりで私たちが侵入する、ということで」
「できなければ?」
「狂信者によっていかにノルマン滅亡が素晴らしいか気がふれるまで教え続けられたあげく、デビルの総攻撃に何の罪もないパリ市民が被害にさらされることになります」
「あなたって、ヒドイ人ですわね。恋人さんが聴いたら泣きますわよ」
「アカルイ未来のためです」

●今回の参加者

 ea3783 ジェイス・レイクフィールド(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea6215 レティシア・シャンテヒルト(24歳・♀・陰陽師・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7246 マリス・エストレリータ(19歳・♀・バード・シフール・フランク王国)
 eb0916 大宗院 奈々(40歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb3416 アルフレドゥス・シギスムンドゥス(36歳・♂・ファイター・人間・ビザンチン帝国)
 eb4906 奇 面(69歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb5626 ソーンツァ・ニエーバ(30歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ec0669 国乃木 めい(62歳・♀・僧侶・人間・華仙教大国)

●サポート参加者

大宗院 亞莉子(ea8484)/ 玄間 北斗(eb2905)/ リンカ・ティニーブルー(ec1850

●リプレイ本文

「まぁ、こんなもんか」
 アルフレドゥス・シギスムンドゥス(eb3416)は狂信者の身につけていた衣装をはぎとり、自分のものにしながらそう独りごちた。
「似合いすぎて、思わず間違えてしまいそうですじゃ。というかどっちが悪か分からなくなってしまいそうですな」
 アルフレドゥスの格好は、髭の威厳もあいまって、なかなか威風堂々としている。これで説法なんかしていてもおかしくない感じだ。マリス・エストレリータ(ea7246)は溜息混じりにそう言った。
「相手が行きすぎた善なら、悪のパーティーでも構わないと思う。善だ悪だなんて、人が決めたものだからな。少なくともこれから先にいるだろう狂信者を叩きつぶすことには代わりはないんだ」
 マリスの荷物を自分の荷物に加えて、背中に背負いながらジェイス・レイクフィールド(ea3783)はそう言った。
「悪のパーティー‥‥むむむ。ローフルなつもりだったのに」
「何か言ったか?」
 レティシア・シャンテヒルト(ea6215)がぼそりと呟いたのを大宗院奈々(eb0916)は聞き返した。といってもそれは声だけで、目も意識も、ダウジングに一生懸命になっていた。
「うーん、やっぱりある程度の地図がないとダメか」
「ローマ時代の闘技場は立体構成になっているんです。すり鉢型にすることで、観衆の目を防がないようにするだけでなく、音響効果もアップしているんです。この時代の建築物には大変勉強することは多いんですよ。特にカエサルは文化を‥‥」
 ローマ大好きっ子であることを隠すこともできずレティシアがとうとうと語り始めるが残念ながら、あまり詳しくない他のメンバーは残念ながら分からないような顔をしている。
「とりあえず、向かいましょうか。どのみち私たちはこの向こうへと進んでいかねばならないのですから」
 ソーンツァ・ニエーバ(eb5626)は決意に満ちた表情でそう言った。

「ところで、後一人はどうしたんだろうな? 前回も参加していたはずだが」
「アウレリア旧街道の虫の研究に没頭しているという話を聞いたぜ」
「そうか? 迷子になっているって」
「いやいや、ブリザードドラゴンに‥‥」
 真実は行方知れずのままである。


「よう、お疲れサン」
 アルフレドゥスは門番達に親しげに話しかけた。身につけているシンボルをそれとなく見せつける彼に、門番達はまさかそれが偽の仲間だとは気づかず、おう、と呼応した。
「冒険者がエトルタから侵入したという情報はあったが‥‥まだこの近辺には来ていないようだな」
 自分がそうであるにも関わらず、素知らぬ顔で適当に答え、アルフレドゥスは門番の傍を通り過ぎる。シンボルの確認だけで済ましていることは事前に確認していた。
 そして完全に視界から外れたこことを自覚した瞬間、アルフレドゥスは門番の背中に立ち、その首を固めた。もう片方の門番には、近くに潜んでいた奈々がすっくと立ち上がり、引き絞られた弓弦から矢が放たれる。
「これから来る予定なんだよ」
 そう言うと、それよりずっと後ろにいる後進組に対して、軽く合図を送るとアルフレドゥス、そして奈々、ジェイス、マリスが一足先に『パラ=ベラム』の中に侵入を果たす。
 白い大理石が半分閉じたランタンのシャッターから漏れる光を柔らかに反射させる道は、もう何百年と経った建物だとは思わないほどの壮麗さと頑健さを感じさせる。漂う空気は重厚で、足を忍ばせながらもどことなく、プレッシャーを感じさせるのは、壁についた手あかの黒ずみが残す人々の緊迫感の残滓だろうか。
「っと、先が二股に分かれているぜ」
 ジェイスはランタンのシャッターを下ろして、闇の帳の中で道を交互に見た。
「狂信者はいないようですな。東側はどうも行き止まりのようですぞ。手前に置物があるようじゃが‥‥」
「どうする? 行ってみるか? 宝物がありそうな予感はするが、狂信者に見つかったときは退路が断たれるかもしれないな」
 奈々は反対側の通路を意識しながら、そう呟いた。今回の敵の人数が半端ではない。退路がないような場所ではできるだけ戦いたくないものだ。
「仕方ない。お宝に興味が無い訳ではないが今はいかれた狂信者どもを叩き潰す事が第一だ」
 ジェイスはランタンに油をつぎ足しながら、残る道を歩き始めた。

「先行組は西の方に進まれたようですね‥‥」
 国乃木めい(ec0669)は地面に記された後を確認して、東西に分かれた通路を見比べた。ランタンで思い切って照らしてみると西に続く通路の影に男から男の足が見え隠れし、先行組が密かに倒していった狂信者であることがうかがえた。
「順調に進んでいるみたいですね。大きな怪我をしていないといいのですが」
 ソーンツァは油断無く武器を構えながら、後続組の戦闘を歩いていた。その後ろでは、レティシアがシェラの書き込んでいる地図を見て全体を推測しようと頑張っている。
「そこが行き止まりで、円形闘技場だから左右は対称だから‥‥」
「どう考えても、隠し扉があるようですわね」
 シェラの言葉にレティシアはしっかと頷いた。あそこに見える置物はきっとその隠し扉を開ける鍵になっているに違いない。ロマニストの血が囁くのだ。
「あの置物‥‥きっと伝説にある『かえるのおきもの』ね。踊り出すのよ」
「‥‥そんな伝説聞いたこともありませんけれど」
 ソーンツァのツッコミにもレティシアはめげない。
「どっちにしても先行組がこちらに進んでいるということは、向こうには危険があるか、もう探索したかのどちらかと考えて良いでしょう」
 めいの言葉に一同は賛成し、足元の印を狂信者達に気づかれないように消すと、一行は先行組に追いつくべくその道を進み始めるのであった。


●控え室(アロケーションセンター)
「これは不可抗力、かな」
 階段を昇って控え室に至った先行組は鉢合わせになった狂信者をたたきのめしたところだった。寝間着の格好をしている人間をたたきのめすことになってしまった。
「階段を昇ったところに人がいるとは予想もしていなかったからな。すまん、俺がちゃんと先に行っていればよかったな」
「そんなことはないさ。どっちにしろ、あたし達が通らなければならなかったんだし、戦いは避けられなかったよ。大した相手じゃなくて良かった」
 弓矢を引くまでもなく、ジェイスのソードボンバーでほぼ一瞬でなぎ払われた狂信者達は助けを呼ぶまでもなく崩れ落ちた。
「宝箱みたいなのがあるが、捜索してみるか?」
「ど、どうみたって、衣装箱にしかみえないのですじゃ‥‥」
 アルフレドゥスが親指で示したのは確かにチェストであったが、とても生活臭が感じられて、高価な品物があるようには見られない。箱の隙間からは脱ぎ捨てたような服がはみ出ているし、ネズミはちょろちょろと走っているし。思わず、チーズを加えたネズミとマリスは目を合わせてしまう。
「宝物はないかもしれませんが、情報なら手に入りそうですな」
 マリスはテレパシーを使うと、ネズミに話しかけた。

 ちゅうちゅう。どこいっても、どこへいっても人がいるよ。
 ちゅうちゅう。どこいっても、どこ走ってもここにくるよ。

「人がそれだけたくさんいて‥‥、ここに来るっていうことはぐるっと一周繋がっているワケか」
 ジェイスは控え室から延々と続く廊下を小窓から覗いて確認した。確かにネズミが言っていたように同じような間隔で扉が続き、緩やかにカーブを描いている。
「アリーナに向かう扉はどれかわかるか?」
「ここから南へ進んで、下にネズミが通れる小穴がついた扉だそうですじゃ」
「ナイス。吐かせる手間が省けて済んだ。それじゃ行こうぜ。バトルフィールドさえ抜ければ、どうせ同じような作りだ。後は逃げ切れるだろうさ」
「ふふふ、この道を抜ければアカルイ未来が待っているんだな‥‥ふふふ、フランとのアカルイ未来もそこに‥‥まずデートからだな」
 すっかりマイワールドに行ってしまっている奈々はくすりと艶のある含み笑いを浮かべて、独りごちた。今頃フランがくしゃみをしているかもしれない。
「よし、じゃ行くぜ。マリス。どうせなら肩に止まっておけよ。ネズミの入れそうな穴を重点的に探してくれ」
 ジェイスはそういうと床に印を軽くつけると、扉をそっと開け廊下へと進み始めた。


「ここは、生活スペースになっているようですね」
 後続組が同じように階段を昇り、先行組が倒したと思われる寝間着姿の狂信者の姿を見て、めいがそう言った。
「控え室がこんな扱いされるだなんて‥‥」
 レティシアは不快感もあらわにしてチェストを見つめた。チェストは年代物でかなりいたんでいたが、質素ながらも良いセンスをしている。それを衣装箱扱いだなんて‥‥
 レティシアがぱかりとチェストを開くと、中には、道具というかガラクタが雑多に積めこまれていた。その中でもまともそうであった角笛をレティシアが手に入れ、子猫のミトンをめいに手渡した。
「マークがまたついていますね。行きましょう」
 ソーンツァの声に従って一行は廊下に歩み出た。そこはまるで眩惑されそうなほどに単調な景色が広がっていた。
「ローマ時代遺跡の特徴ですわね。建築物などはシンメトリーなものが好まれているのですわ」
「それに、こうすることによって、音響を高める効果があるのよ。これなら全員集合させる時でも遠くまで声が聞こえるからね」
 レティシアはそう言いながら進んだ。しかし、それと同時に皆がぴたりと止まる。
「それって‥‥忍び足ができないととても大変なのでは‥‥」
「ええ、そうよ。闘士が勝手に逃げ出さないためのシステムにもなっていたのよ。なんという合理的な精神でしょう!!」
 自分の声や足音が盛大に(もちろん、隠密のできない人間全員が同様だったのだが)響いて、それに反応して、扉を次々とあけて狂信者達がこちらを確認した。

*おおっと*

「敵襲〜!!!!!!!!」
「とりあえず走って先行組に追いつきましょう。私が殿を務めますっ」
 ソーンツァは素早く列の一番後ろに入ると、残ったメンバーを先行させて走らせた。
「ミューゼル! 先に行ってマリスお姉ちゃんに連絡をして。そのまま二人で先に進むのよっ」
 レティシアはすぐさまミューゼルにそう指示すると、自分たちも床に書かれた印を目指して走った。


●バトルフィールド
 今まで静かだった遺跡があっという間に人で溢れかえり、騒乱がまるで波のようにして、一行に襲いかかる。バトルフィールドまで辿り着いた一行は扉のところでソーンツァが体を張って、狂信者達の襲撃を凌いでいた。
「仲間達には触れさせませんっ」
 次々と飛んでくる魔法に耐え、剣を弾き、逆に一人一人を斬りつけて、行動不能にしていった狂信者を逆に盾にして、攻撃を少しずつ防いで行っている。
「性・道・慎・独・誠。暴虐の徒よ。徳を聞きてお静まりなさいっ!!!」
 めいも後ろから次々とコアギュレイトを放ち、拘束をして行動する人間を抑制していく。
「もう少し‥‥」
 扉さえ閉じれば時間が稼げる。その間に先行組と交われば‥‥。
 めいが、そう思ってバトルフィールドに目を向けたその瞬間、絶望が襲いかかった。
 自分に付き従っているゴーレムより数周りも巨大なゴーレム、それも色からして鉄製のものがゆらりと別の扉から姿を現していた。同じようにそちらからも狂信者が姿を現し、矢をいかけてくる。
「アイアン・ゴーレム‥‥!! ぐぅっ」
 意表を突かれた側面からの攻撃に回避することも叶わず、肩口に矢が突き刺さる。深い傷ではないが、精神集中が崩れてしまう。
「壁を背にして戦いましょう!」
 ソーンツァは大海の盾で狂信者を跳ねとばすと、数歩下がって壁を指さした。
「大丈夫かっ」
 狂信者が数人吹き飛んだ。剣風だ。続いて、狂信者のグループに闇の泡沫が浮かびあがり、小さな混乱をもらたした。
 ジェイスはそう叫んで、後続組の元に近づこうとソードボンバーを連発するが、数が数だけになかなか移動できるほどに至らない。
 その間にも、扉からの狂信者も射撃道具を中心に冒険者を攻め立てる。矢が雨のように振ってくるのをソーンツァが全員をカバーしようと盾を掲げる。そのために膝などに何本も矢が突き刺さるが、ソーンツァは決してその盾を下ろしたりはしなかった。
 だがそうこうしている内にアイアンゴーレムが後続組の元に到着する。
 めいが決死の思いでコアギュレイトを発動するが、束縛するまでにはいたらない。次の瞬間には大地をえぐるような巨大な鉄拳がうなりをあげて冒険者達を襲った。
「が、ふっ!!?」
「かはっ‥‥」
 一撃で数人を吹き飛ばすような衝撃に、誰もが意識を数瞬飛ばされる。
 ぎぎ、と鈍い音がしてゆっくりと拳があがっていく。もう一撃受けたら、今度こそ総崩れだ。レティシアがポーションを使用して回復に努めるが、狂信者達からのダメージから立ち直るので精一杯だ。
「ゴーレムの真後ろにいる奴をっ」
 そんな声が聞こえた瞬間に、周りにいた狂信者が小さなうめきをあげた。背中に矢が刺さっている。後ろで奮闘していた先行組のジェイスが道を切り開き、それにそって奈々が矢を次々と打ち込んでいるのであった。
 レティシアは素早く確認し、奈々の言っていた人間を捜し当てる。
「右足の近くにいる人。武器を持っていないわ」
 めいが力を振り絞ってコアギュレイトを唱え、動きを止める。そして大きく踏み込んだソーンツァが剣でその腕をなぎ払った。
「ぐわぁぁぁっ!」
 血しぶきと共に鈍く光るコインが真っ二つに裂けて地面に落ちた。
「よし‥‥後は狂信者だけ‥‥倒せれば」
 ゴーレム使いの友達がみたら残念がるだろう、とふっとそんなことが頭をよぎりながら、ソーンツァは武器を構えなおした。

 次の瞬間、聞き慣れぬ男の声がしたかと思うと、狂信者達の攻撃などとは比較にならないほど正確で、厚みのある矢嵐が周りを囲む狂信者を薙ぎ倒した。
「フランっ、来ていたのか」
「アルフレドゥスさんと、可愛いペットさんが出口を見つけた上で応援の要請してくれたんですよ。それでは灰分隊、参ります」
 フランが号令を下すと、騎士達が狂信者達を無力化していく。


「お疲れ様でした。おかげで決戦が起こる前までに、敵の本拠を一つ潰すことができました。おかげで有利にことがすすめるでしょう」
 フランは片膝をついて皆にそう告げた。
 事実、直後に起こった内乱は多数のデビルなどの攻撃にも一切裏をかかれることなく、これを退けることができた。この迷宮からこれだけの敵が背後から襲いかかっていたら、状況は変わっていたであろう。

 その戦いはノルマン王国の勝利と言われているが、その裏にこうした活動があることを知る人は少ない。

 地下迷宮は封鎖されたが、それは再び安らかな眠りについただけ。きっと、冒険の名の下にあなた達にその入口が示されるのはそう遠くないことだろう。