Princess of Light #1 -飛べない小鳥の唄-

■シリーズシナリオ


担当:えりあす

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月06日〜11月11日

リプレイ公開日:2004年11月15日

●オープニング

 ここはエンフィルド家の屋敷。
 窓辺の椅子に座り、静かに外を眺めている少女‥‥彼女の名はミリエーヌ・エンフィルド。
 彼女の手にはいつも手放さなかった猫のぬいぐるみに代わり、冒険者から贈られたダーツが握られている。
「ねぇ、ブリンクキャット。冒険者ってみんないい人ばかりだよね♪」
 ミリエーヌは傍に立っている女性に声を掛けた。
「う〜ん、中にはとんでもないのがいたりするけどね」
 ブリンクキャットと呼ばれた女性は苦笑いをしながら返事をする。
 彼女の名はブリジット。ブリンクキャットという名前は、以前に彼女が名乗っていた名前であり、今ではミリエーヌ以外殆ど使っていない名前である。
「そう? 前に来てくれた冒険者はみんな素敵な人ばかりだったわ」
 そう言うと、ミリエーヌは壁にある的を狙ってダーツを投げた。

 ――トン!

 見事、真ん中に命中。
 随分、腕が上達したものである。
「あれから自分で外に出る事も出来たし、もう一度お会いしてみたいわ」
 ミリエーヌは足が不自由で、あまり外に出ることがなかった。しかし、以前に出会った冒険者の励ましで外に出る事もできた。勿論、歩くのには人の助けが必要であったが、今までに感じた事の無い新鮮な空気を感じる事が出来た。その勇気を与えてくれた冒険者にもう一度会いたい。ミリエーヌはそう思っている。
「そのうち、機会があったらね」
「うん!」
 大きく頷くと、ミリエーヌは再び窓の外を眺めた。そして、どこで覚えたのか、小鳥が囀るように歌を唄う。


『♪空を見上げてごらん
 みんな同じお日様の光を浴びている
 どんなに遠く離れていても、一緒の距離にいられるのさ
 届かぬ想いなんて無いんだよ
 人は険しい山も、奈落の谷も、どんな危険があっても越えていこうとする
 そう、想いを翼に乗せてあなたの元に行く為に‥‥』


(「最近、ちょっと様子が変なのよね‥‥」)
 ブリジットはミリエーヌの異変に気づいていた。
 窓を眺めながら溜息を吐いたり、ちょっと悲しい表情を見せたり‥‥
(「多分、病気ね‥‥さて、いいチャンスかもしれないし、彼らを呼んでみようかしら‥‥」)
 ブリジットには、ミリエーヌがどのような状態なのか想像できた。彼女は病気なのだ‥‥と言っても体を蝕むものではないが‥‥。
 治す為には彼ら‥‥即ち、冒険者の力を借りた方が効果的であると考えたブリジットは、早速ギルドへ向かうのだった。


   *


 冒険者ギルドの受付。
「病気なら、医者に行ったほうがいいんじゃないか?」
 依頼書を見たある男性冒険者がブリジットに疑問を投げかけた。
「これは、医者でも薬でも魔法でも絶対に治せない病気なのよ♪ まぁ、世界で1人だけ治せる医者がいるけどね☆」
「そうよねぇ‥‥わたしにも早く心の傷を癒してくれるお医者様が現れないかしら!」
 ブリジットの答えに、近くにいた受付嬢が反応する。
「女の子なら誰でも1度はこの病気になるのよねぇ‥‥」
「わたしなんか、ここ数年ずっと病気よ! この胸の痛みを早く治したいわ!」
 なぜか盛り上がる2人。
「それで‥‥その医者を探せばいいのか?」
「そうよ♪」
 2人の会話の意味がわからない男性冒険者は、疑問を浮かべつつ依頼書を確認するのであった。


【依頼書】:病気で苦しむお嬢様を癒してくれるお医者様を探して!


   *


「はぁ‥‥想う度に胸が熱くなってくる‥‥」
 ミリエーヌはずっと窓の外を眺めていた。今までに感じた事の無い気分‥‥これが何なのか理解するまで少し時間がかかったけど、気づいた時は体中が熱くなった。
「この想いを伝えたい‥‥でも、出来ない」
 外に出る勇気は冒険者に貰った。
 でも、この勇気は‥‥自分には無い。
「待ってても‥‥無理だよね‥‥あなたの唄をもう一度聴きたい‥‥」
 自分の身分と動かぬ足をこれほどまで恨めしく思った事は無い。
「想いを翼に乗せてあなたの元に行く事が出来ない‥‥わたしは飛べない鳥‥‥」

●今回の参加者

 ea0286 ヒースクリフ・ムーア(35歳・♂・パラディン・ジャイアント・イギリス王国)
 ea0418 クリフ・バーンスレイ(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1458 リオン・ラーディナス(31歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea3657 村上 琴音(22歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea3888 リ・ル(36歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea6015 ライカ・アルトリア(27歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea6226 ミリート・アーティア(25歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea6382 イェーガー・ラタイン(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

「ミリエーヌ嬢が御病気とは‥‥今回は、その病気を治せる医者を連れてくれば良いんだね。それで、どのような病気なのかな?」
 屋敷に向かう途中、ヒースクリフ・ムーア(ea0286)がブリジットにミリエーヌの病状について尋ねる。
「まぁ、『恋の病』って言うヤツね。お医者さんは、そのお相手って事よ♪」
「‥‥あぁ、そーゆー事か‥‥いや、ミリエーヌ嬢にとってはとても大事な事だよね」
 脱力しつつも、命に関わる病気ではない事がわかると安心するヒースクリフであった。
「なるほど。医者は少女が思いを寄せる人って事か。治せるのは世界にたった1人な訳だ」
「ミリエーヌさん専用のお医者さんということですね」
 リ・ル(ea3888)とイェーガー・ラタイン(ea6382)もブリジットの説明に頷く。
「片思いの男性の探索か。じゃあ、みんなが探している間、オレが彼女の暇つぶしの相手にでも‥‥って、マテ! オレは何もしないぞ!」
「ミリエーヌちゃんに変なことしようとしたら許さないからね!」
「真剣に悩む乙女への茶々入れはご法度なのじゃ」
 リオン・ラーディナス(ea1458)の言葉にミリート・アーティア(ea6226)と村上琴音(ea3657)が即座に反応。ミリートは日本刀を鞘から引き抜き、琴音は釣竿を構えた。リオンはミリエーヌが真剣に悩んでいると考え、変な真似はしないつもりであるが。
「しかし、この手の病ほど厄介なものはないですね。治せるのは当本人だけなのですから。もっとも、その人が来てくれるかは別問題ですけど」
 ライカ・アルトリア(ea6015)はミリエーヌの恋が片想いであり、相手がどう想っているのか心配だった。
「その前に、どんな人なのか調べないといけないでしょう。女泣かせの最低な人だったら、可哀想なことになるかもしれませんしね」
「万が一、ジーザスの教えに反する想いだとしたら‥‥考える必要もあるしね」
 クリフ・バーンスレイ(ea0418)とヒースクリフは、ミリエーヌの想っている相手がどんな人なのか調べる必要があると考えていた。
「う〜ん、やっぱり恋愛ってよくわかんないや‥‥」
「鯉の話なら得意じゃがのぅ」
 仲間が相談している中、ミリートと琴音はちょっと難しい顔をしていた。ミリートは色恋沙汰は苦手で、琴音はまだ11歳。恋愛経験に乏しいのだ。
「今回は女の子に頑張ってもらいたいの♪ そのうち、お嬢様と同じ病気になるかもしれないしね☆」
 そんな2人にブリジットが囁く。ミリートは自分の顔が紅潮していくのを感じた。


   *


 エンフィルド家の屋敷。
 事前に冒険者が来る事が伝えられていたので、一行が屋敷に到着すると執事が出迎えてくれた。
 そして、すぐにミリエーヌの部屋へと案内される。
「あ!」
 冒険者の顔を見て笑顔を浮かべるミリエーヌ。
「あはは♪ でも、ミリエーヌちゃんと逢うのって久々♪ また、一緒に唄いたいな♪」
 友との再会に喜ぶミリエーヌをミリートが抱きしめる。
「やぁ、ダーツの腕は上がったかい?」
 リ・ルが挨拶をした。今日はこざっぱりとした服装で装っている。
 ミリエーヌも笑顔で返すと、手にしたダーツを壁の的に投げた。
 ――トン!
 今回は緊張していることもあって、中央には命中しなかったが、それでもなかなかの腕前である。
「すごいな、俺なんかより遥かに上手じゃないか。でも俺も鍛練のおかげで、ようやく剣の達人と言われるようになったんだぜ。もっとも達人の端くれではあるけどね」
「本当! わたしも達人になれるかな?」
「十分通用するんじゃないかな? それに、そのダーツ。重い思い入れがあるようだしナ」
 リオンのギャグにクスッと笑うミリエーヌ。他の冒険者達は冷たい反応だったが。
「『イェーガー・ラタイン』と申します。ゲルマン語で『狩人の与太話、自慢話』という意味も持っています」
 イェーガーも苦笑しながら自己紹介をする。
「私は村上琴音と申す。仲ようしてほしいのじゃ」
「初めまして。ライカ・アルトリアです。よろしくお願いします」
「ボクはクリフ・バーンスレイと言います。初めてお会いしますが、仲良くなれるといいですね」
 琴音、ライカ、クリフも自己紹介をしながら打ち解けようとする。ミリエーヌは新しい友達が出来たと大喜び。すぐに仲良くなり、会話も弾む。
「またお会いできて光栄です」
「この前は素敵なお花と物語をありがとう! わたしもまた会えて嬉しいわ」
 ヒースクリフが恭しく礼をすると、ミリエーヌも彼の大きな手を握り締める。
「ダーツはかなり上達したようだけど、君には他に好きなもの、気になる事はあるのかい?」
「そういえば、最近歌に興味あるのよね?」
 リ・ルがさりげなく話を振ると、ブリジットもうまく合わせる。
「え‥‥あはは」
「ミリエーヌちゃんも歌に興味あるんだ♪ 私も歌を唄うのは大好きだよ♪」
「ほう、歌とな。私も聞いてみたいのじゃ♪」
 口を濁すミリエーヌだが、親友のリクエストに心を開いた。
「いつも練習してる歌があるじゃない? それがいいんじゃないかなぁ♪」
「あ、あれは‥‥」
「いつも唄っている歌ですか。是非、聞いてみたいものです」
 クリフの笑顔にミリエーヌも首を縦に振るしかなかった。
 顔を赤らめながら唄うミリエーヌ。ミリートとライカも一緒に唄い、その歌を覚えるのと同時に彼女との距離を縮める。
「素敵な歌ですね。もしかしたら、人気のある吟遊詩人の歌でしょうか?」
 一緒に歌う事で親しくなったライカがさりげなく尋ねると、ミリエーヌはこう答えた。
「以前、知り合った吟遊詩人が唄ってくれたの‥‥」


   *


「前に『第1回歌人芸術大会』っていうのがありましたよね? その依頼について詳しく教えていただけませんか?」
 イェーガーとヒースクリフはギルドに来ていた。以前、ミリエーヌがこの『第1回歌人芸術大会』の審査員に出場していたことから、参加者や関係者の中に想いの人がいるのではないかとの予測である。
「あの依頼は会場警備が主な仕事でしたから、あまり詳しい事はわからないわ」
「それは残念だ。では、その組合はどこにあるのかな?」
 ヒースクリフは組合の関係者から情報を聞こうと考えたが、残念ながら所在はわからなかった。恐らく、2回目が開催されていないことから、解散したのではないかと思われる。
「それで、リオさんはお達者でしょうか?」
 イェーガーが受付嬢に以前の依頼で救出した“踊る紅い死神”リオについて尋ねると‥‥
「ううう‥‥リオ様からは何も連絡がないのよぉ〜!」
 突然、受付嬢は号泣。気まずいと感じた2人は、素早くギルドを後にした。

 その頃、エンフィルド家の屋敷では‥‥
(「ぅむ、手強い。っていうか、勝てない!」)
 ミリエーヌはリオンが用意した大理石のチェスで遊んでいた。
「ミリエーヌはチェスが得意なのか‥‥って、そこっ! ネガティヴな意見を言わない! オレは諦めないから!」
 チェス等の娯楽は貴族の楽しみでもある。ミリエーヌもルールは知っており、リオンよりも遥かに上手であった。
 本当は、ミリエーヌをフライングブルームの後ろに乗せて空中散歩を計画していたのだが、ブリジットに止められた。操縦者はMPを消費することで安全に乗る事ができるのだが、後ろに乗る者にその効果がない。つまり、空中でバランスを崩せば落下するのだ。そんな危険な事はさすがに許可できない。

「こうして心の病を打ち明けてくれたのじゃ。私もみりえーぬ殿の病を治す為に協力するのじゃ。もっとも『胸を焦がす想い』というのはまだ私には理解できぬ故、支えになれるかどうかわからぬが」
 チェスが終わり、負けたリオンがテーブルに突っ伏しているのを尻目にしながら、琴音がミリエーヌの傍に来る。
「ごめんなさいね。こんな事でみんなに迷惑かけるなんて‥‥」
「そんな事は無いさ。でも、最初から全てが手に入ると思ってはいけないぞ。どんな結果の中にも少しの前進でもいいから見い出して、それを希望や喜びとする。それが楽しく生きるコツってやつだ。俺流だがね」
 リ・ルもミリエーヌを励ます。
「飛べなくても‥‥歩いてでも、泳いででも、とにかく前に進めばいいと思うよ。想いをもって進めば、辿り着けないゴールなんて無い」
 急に真面目な顔をしてリオンが言う。
「そうね‥‥方法はいくらでもある‥‥か」
 ミリエーヌは杖を突きながら窓際に歩いていく。
「翼が傷つき、飛べなくても歩いていく事も出来るのよね‥‥時間が掛かっても」


   *


 クリフ、ライカ、ミリートは酒場で情報収集をしていた。
「この歌の歌い手を探しているの。ねぇ、誰か知らないかな?」
 ミリートは酒場で歌を唄いながら、吟遊詩人の事を聞いて周る。
 しかし、誰一人この歌を聞いた事があると答える人はいなかった。
「おかしいですね。そんなに評判じゃない詩人なのでしょうか」
 ライカが諦めかけた時、リュートを持った青年が3人に声を掛けてきた。
「あの‥‥何故、その歌を知っているのでしょうか?」

 青年の話はこうだった。
 彼の名前はリュミナス。
 各地を放浪している吟遊詩人だそうだ。
 キャメロットに来て、初めて歌をリクエストしたのがミリエーヌだったという。
 リュミナスは彼女が足が不自由なのを知り、そんな彼女を勇気付ける為に歌を贈った。
 彼女の為だけに心を込めて唄った詩。
 それが、ミリエーヌが口ずさんでいた歌なのである。
「そうだったんだ。誰も知らない訳だよね」
 ミリートが苦笑する。
「様子を伺っていましたが、あの青年なら大丈夫でしょう。屋敷に戻って今後の事を話しましょうか」
「そうですね。でも、旅の詩人というのが引っかかります‥‥」
 リュミナスとはまた後日会う事になり、3人は屋敷に戻った。


   *


 冒険者達はミリエーヌが想う吟遊詩人を見つける事が出来た。
 しかし、吟遊詩人がどのような人物なのか調べる必要があったのと、ミリエーヌが心の準備が出来ていないようなので、実際に会うのは後日ということになった。

「さて、もしキミも病気だったら初期症状のうちに診察承るけど?」
 日が沈み、暗闇と静寂が訪れていた屋敷の外。
 外でブリジットを待っていたリオンが、屋敷から出てきた彼女に声を掛ける。
「ごめんなさぁい。ちょっと頼りないけど、専属のお医者様がいるの☆」
「あ、はは。そーですかィ」
 残念ながらブリジットに断られたリオンはガックリと肩を落とし、そのまま街の闇に消えていった。
「彼氏がいらっしゃるのですか。魅力的ですからね。あ、今度また来たときはお茶でも一緒にどうですか」
「あらぁ、お茶? お誘いいただけるなんて嬉しいわ☆ でも、お医者様に怒られちゃうかもv」
 クリフの誘いに嬉しそうに返事をするブリジットだが、彼女の表情は暗闇に隠れていてどこまで本気なのかはわからなかった。

●ピンナップ

リオン・ラーディナス(ea1458


PCシングルピンナップ
Illusted by 獅乃りおん