Princess of Light #3 -小鳥は何処へ飛ぶ-

■シリーズシナリオ


担当:えりあす

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月12日〜12月17日

リプレイ公開日:2004年12月20日

●オープニング

 目の前にいる愛すべき人。
 暖かい温もりに包まれ、幸せな時が過ぎる。
 2人だけの世界。
 できるならば、この時間が悠久であってほしい‥‥

 愛があれば、どんな困難でも乗り越えられる‥‥いや、はたしてそうだろうか。現実は厳しかった。

「しかし、難しい話だよね。彼女の身分で一介の吟遊詩人と結ばれるなんて事があろう筈もないし‥‥」
 冒険者は思った。
 ミリエーヌも貴族の娘。
 ふらりとキャメロットにきた詩人と恋に落ちるなど、親が許すであろうか。
 ましてや、ミリエーヌは足が不自由だ。
 将来の保証もない旅の詩人が、彼女を幸せにできるのか。
 恋は盲目。
 目の前の愛に眩んだ2人は、将来の事を見据える事ができなかった。


「さて、最後に難しい問題が残っているのよねぇ」
 酒場でブリジットは悩んでいた。
 2人が愛し合っている事を、どう親に説明するのか。
 普通に考えて、認められる事はありえない。
 しかし、せっかく冒険者達の手によって結ばれた2人の愛。
 これを、引き離す訳にはいかない。
「本当に‥‥どうしよう‥‥」
 エールを一気に飲み干すと、ブリジットはテーブルに突っ伏した。
「最後の手段も残っているけど‥‥それで本当に幸せになれるかどうか‥‥親を裏切る事にもなるしね」
 どれだけ考えても、2人の愛を認めてもらう方法が思いつかない。
 再びエールを注文し、運ばれてきたと同時に一気に飲み干す。酒の量だけが多くなる。時間と共に思考が鈍り、脳裏には最悪のシナリオしか浮かばなくなってきた。
「‥‥わたしだけじゃダメだ‥‥どうしようもできないよ‥‥」
 ブリジットの落涙がテーブルを濡らす。まるで自分の恋慕涕泣のように、ミリエーヌの恋の難しさを嘆く。
 酔っているせいか、感情がコントロールできない。
 彼女がこんな姿を晒すのは初めてだった。

 翌日。
「さて‥‥最後の問題を片付けないとね」
 ブリジットはギルドに来ていた。
「2人の関係はうまく進展したようですね」
「そうね‥‥でも、難題が残っているから」
 いつも笑顔のブリジットだが、真剣な表情の彼女を見て受付嬢は口を開くのを躊躇した。
「‥‥どうやったら、公認になれるかしらねぇ‥‥」
「公認‥‥親の、ですか?」
「そう」
 最後に残っている大きな問題。
 2人の仲を親に認めさせる事。
「‥‥これは本人達の問題だけど‥‥2人だけで解決できる問題でもないと思うの。できれば、みんなの力でお嬢様を幸せにしてあげたい‥‥」
 そう言うと、ブリジットは冒険者を集めてもらうように受付嬢に頼んだ。

●今回の参加者

 ea0459 ニューラ・ナハトファルター(25歳・♀・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea1364 ルーウィン・ルクレール(35歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea1458 リオン・ラーディナス(31歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea3657 村上 琴音(22歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea3888 リ・ル(36歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea6226 ミリート・アーティア(25歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea6382 イェーガー・ラタイン(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea9286 セシリー・レイウイング(45歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

「よう、元気か? 最近どうかな、彼女。足もそうだけど、両親の事やリュミナスとの様子とか」
 リオン・ラーディナス(ea1458)が向かったのは酒場の一番奥のテーブル。ここでブリジットと待ち合わせをしていた。
「う〜ん。流石に元気とは言えないわね‥‥」
 小声で呻くように返事するブリジット。
「お前、大丈夫か?」
 テーブルにはジョッキが散乱しており、ブリジットが酒で悩みを紛らわそうとしている事はリオンにもわかる。
「ごめん‥‥後はお願いね‥‥」
 ブリジットの思考が深淵に呑み込まれていく。
「‥‥風邪引くぜ」
 酔い潰れたブリジットに防寒具を着せ、リオンは酒場を後にした。


 エンフィルド家の屋敷。
 ミリエーヌに会う為に、リ・ル(ea3888)が屋敷を尋ねた。
「リュミナスは歌と旅を愛する渡り鳥だ。彼が鳥籠の生活に倦んだ時、空に放してやる勇気はあるかい。彼の心を疑えと言っているんじゃないぞ。人を慮る気持ちが大切だと言っているんだ。例えば、君の御両親が注いで来られた愛情は覚えているかい。お二人が悲しんだり、リュミナスを恨むようなことがあったら君も悲しいだろ」
 リ・ルはミリエーヌとダーツをしながら会話する。
 ダーツを投げようとして的を見ると、そこから大きく逸れた位置に何箇所もダーツが刺さった跡があった。前に来たときは、そんな事はなかったのだが‥‥。リ・ルは自分がモンスターと戦っているときの事を思い浮かべた。いくら技術が優れていても、冷静さを失えば攻撃を当てる事もできないし、捌く事もできない。その時、リ・ルはミリエーヌの精神状態を理解した。
「もう少し、落ち着いたほうがいいかもな。確かに最初は反対されるかもしれない。激高したりせず、御両親の心内を慮りながら、お二人への愛と感謝と共に、自分に湧いた生きる希望を力強く語るんだ。でも一度で上手く説得しようなんて思うなよ。このダーツのように何事も積み重ねが大事なんだ」
 コクリと首を縦に振って頷くミリエーヌ。


 イェーガー・ラタイン(ea6382)は、リュミナスのいる酒場で彼と話をしていた。
 ミリエーヌの将来の幸せを真剣に考えているか。2人の将来について具体的にどう考えているか。ご両親に交際を反対されたらどうするか。イェーガーがリュミナスへ矢継ぎ早に問う。「愛するミリエーヌを幸せにしたい」という気持ちは大きいであろうが、付き合って間もない2人が将来について考えているかと問われると、返答が難しい。
「将来の事を考えるのなら、宮廷詩人や歌の先生をするとか、地に足をつけて活動したほうが良いと思います。それと、交際が認められなかったとしても、短気を起こさずに認められる様に努力して、ミリエーヌさんやご両親に示し続ける事が大切です」
 イェーガーはリュミナスに口授すると、次なる目的‥‥両親の説得に向かう。


 再び、エンフィルド家の屋敷。
 庭で簡単なお茶会が開かれている。
 そこで、村上琴音(ea3657)はミリエーヌの両親とすっかり打ち解けていた。
 冒険者に好意的な両親。そして、琴音はジャパン出身ということもあり、異国の文化にも興味を示す両親は彼女の話に耳を傾ける。
「私のとと様は、怪我をして思うように働けぬようになったのじゃ。それで、私はとと様の代わりに力になって御家再興を成し遂げたいと思うようになったのじゃね」
 いつしか、話題は琴音の両親について触れていた。僅か11歳の琴音が、異国のイギリスの地で生活しているのだ。ミリエーヌの両親も琴音の事を気に掛けている。
「でも、その為には力も経験も足りんかった。そして、それを手に入れるために武者修行の旅を強く願ったのじゃ‥‥両親もはじめは反対したのじゃが、最後には許してくれた。今は色々大変じゃが、こうしてがんばっておるし、何よりこんなわがままを許してくれた二人には感謝の言葉もないのじゃ」
 両親は難しい顔をした‥‥ミリエーヌと琴音に共通する事があるのか。もし、結婚等で家を出る場合、どんな気持ちになるのか‥‥両親の複雑な心境を琴音が察した。


 リオンは奔走していた。
 リュミナスの為にコンサートを企画したのだ。会場はいつもリュミナスがいる酒場。それで、客が入れば酒場も売り上げがあがると、コンサートの許可を得る事が出来た。
「やっほ〜♪ 今日の夕方、酒場で素敵な吟遊詩人さんのコンサートが行われるよ♪ 聴きに来ないと損、損♪ みんな、楽しみにしといてね♪」
「足の不自由な貴族のお嬢さんが、その詩人さんの歌を聞いて見違えるように元気になったって話なのです♪ 愛の力って偉大ですよね〜♪」
 ミリート・アーティア(ea6226)とニューラ・ナハトファルター(ea0459)も、宣伝の為にキャメロットを駆け抜ける。

 ――旅の吟遊詩人。12の季節の間、7つの国を巡り、3つの苦難を乗り越え、今、ただ一つの愛のために歌う

 やや大げさな宣伝ではあるが、ニューラの踊り、ミリートの歌に立ち止まる人も多かった。
「畜生。この季節はやっぱり、手加減無い寒さだな」
 冬の冷たい風を受けながら、フライングブルームで飛び回り、広報活動をするリオン。
 こうして、着実に準備は進んでいく。


 リ・ルとイェーガー、セシリー・レイウイング(ea9286)、ルーウィン・ルクレール(ea1364)は両親の説得に当たった。
 両親もミリエーヌの変化には何と無く気づいていたようだ。
「冒険者が定収がないのは確かですが『身を危険に晒して生きていく』のは貴族も変わりません。昔、私があるご婦人から伺った言葉があります‥‥『国や領民の大事には、自ら危険に身を晒す。それが貴族と云う者だ』」
 イェーガーが辞を低くしながら進言した。
「御主の言うとおり、貴族たる者、民を守らねばならぬ。自分もそうしてきたし、息子にもそうさせている。だが、娘は子孫を作り、家庭を守るのが大事とは思わんか? 別にミリエーヌが誰と結婚しようとわしはかまわんが、その主が安定せぬのなら家庭も安定せぬ」
「なるほど‥‥では、逆に安定する職業で働くというのならよろしいのですね」
 父親の言葉にルーウィンが返す。
「今度、その彼がコンサートを開くそうです。まだ駆け出しの音楽家ですが、将来はありますよ」
「最初からダメと言われず、まずはコンサートに行かれてみてはいかがでしょう」
 セシリーとリ・ルは両親をリュミナスのコンサートに誘う。
「リュミナスさんも、ここ、キャメロットに地に足をつけて活動しようとしています。彼もミリエーヌさんの幸せの為に努力しているんです」
「彼女の事を考えて、付き合う機会を与えてあげてもいいのではないでしょうか」
 イェーガーはリュミナスが安定するように活動している事を説明し、ルーウィンも機会を与えてあげるように説得する。
「このような美しい音楽を作れるのは心が綺麗な方だけです。ミリエーヌさんに対する愛の深さもご理解いただけましたよね。音楽は心を癒す物、お嬢さんには申し分ないと思います。何より二人は愛し合っているのですもの。二人が本当に一人前になるまで見守るのも親の務めですよ」
 自分の家庭を持つセシリーは、微笑みながら親としての意見を言う。彼女の話にミリエーヌの両親は少し頷く。
「歌は心と体の健康に良いし、一流の歌い手になるのに体のハンデは関係ありません。何よりも彼といる時のミリエーヌ嬢は生気に満ちあふれています」
 リ・ルが最後の説得をした。父親は「考えてみる」と一言口にするだけであった。


 夕方。
 酒場でコンサートが始まる時間。
「やっぱり不安だよね‥‥でも、大丈夫。ミリエーヌちゃんは一人じゃないよ。私達がいるし、何より、リュミナスさんがいるもん。だから、ガンバろっ? ねっ♪」
 ミリートがミリエーヌをそっと抱き寄せながら囁く。
「以前、駆け落ちしそうなカップルのお手伝いをしたのです。結ばれないならあの世で、って思いつめてたのです。でも死んじゃったら、相手の人の笑顔見られなくなるですね‥‥そのカップル、駆け落ちやめて親御さん説得して、今は結構幸せにやってるみたいなのです」
 ニューラが笑顔で2人に自分の経験を語る。
「‥‥私も好きだった人、死んじゃったから‥‥もし会えてもきっと褒めてくれないから‥‥」
 話の途中、落涙が彼女の白皙の頬を濡らす。


 コンサート本番。
 蓋を開けてみると、宣伝の効果は薄く、客は疎らだった。時間帯も、ターゲットの若い女の子が出歩く頃でもない。
 コンサートが始まるも、客席の様子は普段の酒場と変わりはなかった。酒を楽しみ、その合間にリュミナスの歌を聞くという感じだ。
 歌が終わっても拍手は点々としていた。
 残念ながら、彼の歌は愛すべき人の心を動かす力はあっても、客の心を動かすまでの力は無い。それは、彼の技量、経験、名声どれを取ってもだ。
 そして‥‥ミリエーヌの両親もコンサートに来なかった。


 コンサート終了後。
 冒険者達はテーブルで沈黙していた。
 ミリートの手には2つのネックレス‥‥2人の恋が認められたら渡そうと思っていたもの‥‥が握られている。渡せなかったのはどうして‥‥こらえることが出来ず、ミリートは激しく慟哭した。
 突然、酒場の扉が開く。
 入ってきたのはブリジット。
「手紙‥‥」
 そう一言告げると、直ぐに背中を見せて立ち去った。
 リ・ルが手紙を開ける。
 中には、ミリエーヌの両親からメッセージ。
「まだ、認める訳にはいかんが、見込みが無い訳でもない」
 冒険者達の顔が少し緩んだ。

 今回は認めてもらう事は出来なかったが、冒険者達は確実に2人が進むべき道を示した。
 2人にはまだ越えなければならない大きな山がある。
 だが、これからは2人だけで進む事が出来るだろう。

 今、リュミナスは音楽の教師になる為に勉強中だという。


●Princess of Light -完-