A world for you & me #1:報復

■シリーズシナリオ


担当:えりあす

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 46 C

参加人数:5人

サポート参加人数:2人

冒険期間:11月15日〜11月22日

リプレイ公開日:2005年11月25日

●オープニング

「よいしょっと‥‥これで、準備は終わりね‥‥」
 部屋で荷物を整理している女性‥‥彼女の名はブリジット・キャミル。彼女は手際よく荷物を片付けると、それを部屋の隅に集めた。荷物はそれ程、多くは無い。殺風景な部屋に置かれたベッドに座り、一呼吸吐くブリジット。彼女の指には光る小さな物があった‥‥指輪。
「ここに来てから、いろいろあったわねぇ‥‥」
 暫し、回想に耽るブリジット。

●ブリンクキャットという名の怪盗
 今では知る人も殆どいないだろうが‥‥以前、キャメロットにある怪盗がいたという。盗む物は可愛いものだけ。瞬きをしている間に姿をくらます泥棒猫‥‥人はその怪盗をブリンクキャットと呼んだ。
 しかし、ある事件をきっかけに怪盗ブリンクキャットは忽然と姿を消した。噂では、冒険者達に更生させられ、怪盗から足を洗ったと言う。
 それから時間が経ち、怪盗ファンタスティック・マスカレードの話題で持ちきりのキャメロットの冬。再び、怪盗ブリンクキャットが現れたのはその時だ。目的は何だったのかはわからない。噂では、怪盗ファンタスティック・マスカレードに協力していたという。その後、怪盗ブリンクキャットはキャメロットに出現していない。

「怪盗からも足を洗って、冒険者としての活動もこれで終わりね」
 その怪盗ブリンクキャットの正体‥‥それは、ブリジット・キャミル‥‥その人である。この事実は一部の冒険者しか知らない。
「あ、あたしは‥‥つ、ついに‥‥夢見ていた‥‥お、お、お嫁さんになるのよっ!」
 彼女は先日、恋人と婚約をした。指にはめているのも、その証である。
「でも‥‥どうしても、最後にやっておかなきゃならない事があるのよね‥‥」
 ブリジットは立ち上がると、部屋の隅に置かれた1本の剣を手にした。
「‥‥ごめんね‥‥約束‥‥破っちゃうけど‥‥」

●冒険者ギルド
 ここ最近、バグベアの仕業と思われる襲撃事件が近辺の峠で発生しているという。このバグベアは斧とヘビーアーマーで武装しており、たった1匹で冒険者数名を死傷させている。
 以前もこの峠で同じモンスターによると思われる襲撃事件が多発していた。冒険者が討伐に当たったが、それを退け、返り討ちにしたという。
 かなりの強敵であるが、敵は1匹。そして、交戦した記録もある為、今回は我々が優位であると思われる。だが、油断と過剰な自信が失敗の原因となる。気を引き締め、依頼を遂行して欲しい。

「今度こそ、バグベア闘士を倒すわよっ!!!」
 この依頼を受けた冒険者にブリジットの姿があった。彼女は前回、このバグベア闘士と戦っている。つまり、リベンジとなる訳だ。
「1匹だからって、舐めてかからないでよっ! この前は11人で倒せなかったんだからねっ! 今度こそ、やっつけてやるんだからーっ!!!」
 声を荒げるブリジット。
 彼女が手にしているのはロングソード。今まで愛用していたホイップではない所を見ると、いかに彼女が本気であるかが理解できる。
 報復の果てに見えるものは一体何であろうか‥‥。

●今回の参加者

 ea5892 エルドリエル・エヴァンス(22歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea6226 ミリート・アーティア(25歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea9952 チャイ・エンマ・ヤンギ(31歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea9957 ワケギ・ハルハラ(24歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb2674 鹿堂 威(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

イェーガー・ラタイン(ea6382)/ アルガノ・シェラード(ea8160

●リプレイ本文

●A world for you & me #1:報復

 バグベア闘士討伐に名乗りを上げたのは6人の冒険者だった。以前、同じバグベア闘士討伐に11人が挑んだが、倒すことが出来ずに撤退という結果に終わっている。その事から、今回この人数で挑むのは無謀という声さえ上がっていた。
「多ければいいってもんじゃなぁい! 勝つ為に精鋭メンバーで挑むのよっ! この人数でなければ出来ない作戦なんだからっ!」
 だが、ブリジット・キャミル(ez1004)はその声を一蹴した。
 しかし、その勢威に満ちた言葉とは裏腹に、今までに感じたことの無い何かを‥‥感じてはいけないと必死に自分に言い聞かせても湧き上がる何かを意識し、ブリジットは慄然とした。
「何で‥‥そんな事ある訳ないっ!」

 ドス‥‥
 ドス‥‥

 何度も、何度も壁を殴り続けるブリジット。
「絶対に‥‥生きて帰る‥‥」

 ドス‥‥
 ドス‥‥

 鈍い音はいつまでも続いた。

●それぞれの感情
「‥‥お久しぶりです‥‥ブリジットさん」
「久しぶりね‥‥」
 再会の挨拶を交わすワケギ・ハルハラ(ea9957)とブリジットの顔に笑顔は無い。笑顔を作る余裕すら無い。ワケギはブリジットの拳に巻かれた痛々しい包帯を見て、次に出そうとした言葉を躊躇した。
「イェーガーから幾つか情報は貰っているわ。それと‥‥油断しないようにって」
 先に口を開いたのはブリジットだった。
「そうですね‥‥来れなかったイェーガーさんの分も‥‥」
「無事に戻れたら彼に伝えて欲しい事があるの‥‥ありがとう‥‥と」
「は、はい!」
 何か悚然たる表情のブリジットからこぼれた優しい言葉に、ワケギは僅かな安堵を感じ、強く頷いた。

 峠までの道程に何も問題は無かった。
 目的地に近づく度に、冒険者はそれぞれ持つ感情を増幅させていく。
「絶対に負けないんだから‥‥勝って‥‥唄いながらキャメロットに帰りたいんだから‥‥」
 夜営の為、周囲に鳴子を設置しながらミリート・アーティア(ea6226)は小さく呟いた。
 鳴子の設置も半分終え、ミリートは周囲を見渡した。見覚えがある風景‥‥着実にアイツとの距離は縮まっている。そして、アイツも私達を待っている‥‥。
「負けてあげるつもりなんかないんだから!」
 あの鋭い眼光を思い出し、ミリートは叫んだ。同時に背筋を走る怖気。アイツと対峙した事があるからこそ感じる何かが、ミリートを苛立たせる。
「私達はアイツの怖さを知っているわ。でも、アイツは私達の本当の怖さを知らない筈よ。だから、必ずチャンスはあるわ。今度こそ本当の魔法の怖さを教えてあげるわ」
 エルドリエル・エヴァンス(ea5892)もアイツと戦った事がある冒険者だ。魔法でアイツの戦い方を封じる事が出来れば勝機はある。
「負けて得るものだってあるわ。私達も強くなったって所を見せてあげないと☆」
「そうだね!」
 エルドリエルの微笑を含んだ言葉に、ミリートはいつも通りの元気な声で答えた。

●討伐
 ギルドでの記録、仲間が収集した情報、前回戦った時の記憶を元に、バグベア闘士が現れそうな場所を特定し、戦いの準備を進める冒険者達。ミリートとワケギはブレスセンサーのスクロールを使い、目標を捜索する。
 一通り捜索が終わると、挟撃するのに都合がいい場所を確保してバグベア闘士を待ち構える。ワケギはフレイムエリベイションのスクロールを使用し、読み終わるとそれをミリートに貸す。
「うまく誘き寄せてくれたらいいんだけどねぇ‥‥」
 チャイ・エンマ・ヤンギ(ea9952)は油を染み込ませた布を棒に巻きつけ、松明の代わりとして用意した。
 現在、鹿堂威(eb2674)がバグベア闘士を誘い込む為に、単身で捜索している。
「これで、準備は大丈夫だよ」
 スクロールを読み終えたミリートはオークボウを構え、宿敵を待ち受ける用意を整えた。
 後は‥‥うまく、仲間が誘い出してくれるかどうかだ。

「確か、この辺りの筈だが‥‥」
 威は仲間からブレスセンサーで反応があったという場所へ慎重に向かっていた。
 ミスをすれば、即ち、死の危険に直結する。何しろ、11人の冒険者の攻撃を退けた相手だ。威もそれを十分理解しているであろう。だが、彼は自称・愛の伝道師。女性の犠牲者の為、犠牲者を持つ女性の為、バグベア闘士を倒す決意を胸に秘めている。
(「いた!」)
 狭い道を進んでいた威は心の中で叫んだ。
 猪の頭をしたヘビーアーマーと斧で武装するオーガ‥‥バグベア闘士。そいつが目の前に現れた。
 バグベア闘士は逃げも隠れもしない。この峠でバグベア闘士に勝てる相手はいないのだから当然だ。驚き、慌てた表情の獲物を見て、口元を弛ませながら少しずつ近づいてくる。
 表情は威の演技である筈だが、半分は本当だった。
 鋭い眼光、威圧的な風貌、歴戦の闘士としての風格、その全てが威へプレッシャーとして襲い掛かる。
(「勝てるのか」)
 一瞬、考えてはいけない事が威の脳裏を過ぎる。
 しかし、仲間がいるじゃないか。
 徐々に後退りしながら、仲間の待つ場所へバグベア闘士を誘き寄せる。
 バグベア闘士は獲物をどう料理するか考えながら、ゆっくりと威へ近づく。
(「今だ!」)
 十分な間合いを取った威は必死に逃げ出した。
 しかし、意外にバグベア闘士の動きは素早かった。駆け出した威を捕まえようと追いかける。
 仲間の待つ場所へ向かって必死に逃げる威。
 距離は徐々に縮まる。
 だが、その間に仲間の待つ地点へと到着していた。
「先手を譲ってやったんだ。しっかりやっとくれよ!」
「わかったわ。さて、再会の挨拶よ。受け取ってね☆」
 茂みから飛び出した仲間達。チャイの指示で初撃にアイスブリザードを放つエルドリエル。
 突然、発生した吹雪に動きを止めるバグベア闘士。
「お久しぶりだね! 私達はこの前と一味違うよ!」
 ミリートもオークボウで矢を射る。ヘビーアーマーの防護範囲外である脚を狙い、的確に放たれた矢はバグベア闘士の右脚に突き刺さる。一瞬、バグベア闘士は顔を顰めた。だが、突き刺さった矢を強引に引き抜くと、一転して形相を変え、憤激の叫び声を上げた。
「これならいける!」
 矢が引き抜かれた脚からは大量の血が噴き出していた。間違いなく攻撃は効いている。ミリートは手応えを感じた。
「さっきの余裕はどうしたんだ? さぁ、来い!」
 威はジャイアントソードを構えた。バグベア闘士は自分を罠に陥れた本人に、余憤を全て斧に込めて振り下ろす。
 ‥‥スマッシュ。
(「耐え切れるか!」)
 だが、威はその攻撃を身体で受け止め、カウンターでジャイアントソードを同じように突き下ろす。

 ――ガァァァァ!!

 強烈なジャイアントソードの一撃を喰らったバグベア闘士は、傷口を押さえながら怒号を発する。
 威も強烈な打撃を受け、吹き飛ばされた。
「もう少し、打ち所が悪かったら立てなかったかもしれないな‥‥」
 威はポーションを口に含み、ジャイアントソードを杖代わりに立ち上がる。
 並みのモンスターなら、この一撃で倒れている筈である。それだけ、手応えを感じた。だが、バグベア闘士は立っている。恐ろしい耐久力を持つ敵に、威は全身へ戦慄が突き抜けた。
 よろめく威に再びバグベア闘士は斧を叩き付けようとした。
「相手は威だけじゃないっ!」
 その攻撃にブリジットが飛び込み、盾で受けた。防いだと言っても‥‥その強烈な衝撃は重い一撃となってブリジットを襲い、彼女を地面に叩き付ける。
「危ない!」
 エルドリエルがウォーターボムを放ち、バグベア闘士の注意を引き付ける。
「それじゃあ行くよ。準備はいい?」
 ミリートは油を投げつけ、チャイは手にした松明に火をつけた。
「破壊と混沌の王よ! 我らに仇成す者を地獄の業火で焼き尽くせ!」
 ファイヤーコントロールで松明の炎をバグベア闘士に放つ。油を纏った体に引火し、バグベア闘士は炎に包まれた。
 火によるダメージは大きくないだろうが、ヘビーアーマーを着込んでいるのだ‥‥熱による体力の消耗はかなりのものだろう。
「今まで幾多の冒険者を退けてきたっていう理由がわかったぜ‥‥だが、その伝説もこれで終わりだ」
 威が再びジャイアントソードを握り締めた。
「これでサヨナラ! Bye-byeだよ!」
 ミリートがバグベア闘士の急所を見定めた。
「これで終わりね」
 エルドリエルが魔法を詠唱した。
「絶対に‥‥」
 ブリジットは盾を投げ捨て、両手でロングソードを構えた。
 バグベア闘士は焼け爛れた体で、虚ろな眼で‥‥ただ、闘士としての誇りだけで、最後の戦いに望む。
 両者の声にならない声が峠に響き渡った。

 *

「ハァハァ‥‥生きている‥‥」
 ブリジットは涙を流しながら呟いた。横たわるバグベア闘士の死体。宿敵に勝ったのだ。
「大丈夫か?」
「あんたこそ‥‥」
 威は最後にバグベア闘士の一撃を受けたが、なんとか持ち堪えていた。2人はポーションで傷を癒し、ゆっくりと立ち上がる。
「‥‥これで‥‥やっと」
 報復を終え‥‥いや、そんな事は既にどうでもよかった。
 ただ、皆が無事だった事。そして、生きて愛すべき人の元へ帰れる事。それだけで十分だった。

 戦いは冒険者の勝利であった。
 ミリートの凱歌と共に、冒険者達はキャメロットへと帰還した。