【ふくろうといっしょ5】 旅立ちの時
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■シリーズシナリオ
担当:初瀬川梟
対応レベル:3〜7lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 66 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月04日〜09月12日
リプレイ公開日:2005年09月12日
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●オープニング
特訓のおかげもあり、茶々丸は羽ばたくことを覚え、生きている獲物を自分で捕まえることも覚えた。
次第に飛び方が様になってくるにつれて、狩りのコツも掴んでいった。
最近では村を離れ、山まで狩りに行っている。
ただ、村やその周辺を「縄張り」と認識しているらしく、あまり遠くまで行くことはない。村に戻ってくることは減ったが、それでも、近辺で姿を見かけることは多々あった。
冒険者から知恵を授かり、村人たちも独自に訓練を重ねてきたため、人や家畜を襲うようなそぶりは今のところ見られない。村人は家畜に目印を付け、近隣の村にも同じことをするよう伝えてある。
が、たとえ茶々丸にその気がなかったとしても、人間のほうはそうは思ってくれないのだ。
数日前、村の近くを通りがかった冒険者たちが茶々丸と遭遇した。
たいていの大梟とは凶暴で、鬼すら食べてしまうような生き物である。当然、その冒険者たちもそう思っていた。
戦う術も持たない者なら、迷うことなくその場から逃げ出していたに違いない。しかし不幸にも、彼らは冒険者だった。彼らは茶々丸を「化け物」と判断し、戦うことを選択した。
――たまたま村人がその場を目撃していなければ、血を見ることになっていただろう。
村人は茶々丸の生い立ちを説明し、冒険者たちもとりあえずは納得した。
『そう言えば、そんな依頼書をギルドで見たことがあるような‥‥』
冒険者のうちの1人がそのことを思い出したのは、茶々丸や村人にとっては僥倖と言えよう。
人を襲わないのなら、無闇に殺す必要もないだろう。ただし、もし被害が報告されたなら、その時は確実に討伐する。
冒険者はこう言い、村人もそれは重々承知していた。
こうして、この場は何とか治まったのである。
しかし、このままにしておけば、いずれまた同じことが起こる。
やはり茶々丸にとっては、もっと人里離れた山の奥深くで暮らすのが一番良いのだろう。
こうして村人たちは再び依頼を出した。
これが茶々丸に関する最後の依頼になるよう、祈りながら。
●リプレイ本文
村を訪れた冒険者たちは、茶々丸を移動させる場所について話し合っていた。
レヴィン・グリーン(eb0939)と一色翠(ea6639)はギルドの係員から、クゥエヘリ・ライ(ea9507)は道中に立ち寄った茶屋で、ロサ・アルバラード(eb1174)は猟師やレンジャーなどから情報を集め、それらを元にして候補地を挙げてゆく。
あまり人里に近すぎず、茶々丸の餌となる鬼が適度に棲んでいる場所‥‥その条件と照らし合わせると、おのずと選択肢は絞られた。
あとは、別行動を取っている翠の到着を待つだけだ。
まるで別れの時が迫っているのを感じ取ったかのように、茶々丸は村のすぐ傍まで来ている。皆それぞれ感慨を胸に、成長した茶々丸を見守っていた。
「いつかまた会いたいけど、茶々丸くん退治の依頼なんて出て欲しくないよね。それなら、二度と会えないほうがずっといいよ」
「そうね。寂しい反面、これで良かったとも思えるわ。私が『闇主』って名前を考えたのは、立派な山の主になってもらいたかったからだもんね」
ロサと共に、遠巻きに茶々丸を見つめていた鈴苺華(ea8896)だが、やはり耐え切れなくなったように茶々丸の近くへと飛んでいった。
最初は苺華と大差ない大きさだった茶々丸も、今や比べ物にならないほどの大きさだ。彼が翼をはためかせれば、苺華など吹き飛んでしまうかもしれない。それでも苺華は最後まで、飛び方の師匠としての誇りを持っていた。
「いい? もし人間に襲われたら、こうやって避けるんだよ♪」
達人級の回避力を持つ彼女は、何度も何度も茶々丸に攻撃の避け方を教えてやった。
そして、ふわふわの羽毛にぎゅっと抱きつく。
村を出立してしまえば、もう茶々丸と触れ合う機会はなくなるだろう。これがきっと最後だ。
「・・・・ボクのこと忘れないでね」
いつも元気な苺華だが、さすがにこの時はしんみりしていた。
クゥエヘリも鷹の蒼穹と一緒に茶々丸の傍まで行き、何度も言い聞かせる。
「山では、無闇に人に近寄ったらいけんよ。うちらのような人間ばかりとは限らないから‥‥」
茶々丸も、蒼穹ほどの大きさだったら、人の傍で暮らしてゆくこともできたかもしれない。けれども、これほどまでに大きな猛禽は、やはり人間にとっては脅威だ。たとえ茶々丸にその気がなかったとしても、例えばうっかり爪が掠っただけで大怪我をさせてしまうことだってあり得る。
大人しく腕に止まっている蒼穹と、巨大な茶々丸とを見比べ、クゥエヘリは少し悲しげに笑った。
しばらくして、遅れて到着した翠も仲間たちと合流した。
翠は愛馬・縹を駆って、ゆうという少女を迎えに行っていたのだ。ゆうは以前一度、翠たちと共にこの村を訪れたことがあり、その時に「また一緒に茶々丸に会いに行こう」と約束を交わしていた。
「茶々丸に会えるのも、これで最後だからね‥‥」
「うん‥‥」
また茶々丸に会えたのは嬉しいけれど、これが最後のお別れというのが淋しくて、ゆうは複雑な表情をしている。
翠も淋しい気持ちがないわけではなかったが、この旅立ちは決して悲しいものではないので、笑顔を絶やさずにいた。それに励まされ、ゆうの顔にもようやく笑顔が戻る。
「淋しいけど、ちゃんとお別れ言いに来れて良かった。お姉ちゃん、約束忘れないでいてくれてありがとうね」
「当然だよ。翠はゆうちゃんのこと、妹みたいに思ってるしね」
あの日、一緒に手を繋いで歩いたことを思い出し、翠はまた少しくすぐったいような気持ちを感じる。一人っ子のゆうも、妹みたいと言われたことが嬉しいらしく、はにかみながら微笑んだ。
最後のお別れをする前に、まず皆で闇主の祠を参る。
「闇主、茶々丸をずっと見守っていてね。あの子ならきっと、あんたのように強く生きていけるわ」
ロサは、自らが付けた「闇主」という名を誇るように、祠に語りかけた。
願わくば人の敵としてではなく、闇主のように人々から慕われ崇められる存在として、いつまでも自由に羽ばたいて欲しい‥‥そんな願いを込めて。
ゆうも小さな手で合掌し、黒畑丈治(eb0160)の読経に合わせて一生懸命お祈りをした。
そしてその後は、いよいよ別れの時だ。
「茶々丸のこと、忘れないからね‥‥」
やがて冒険者たちと共に遠くへ去ってゆく茶々丸を、ゆうは長いこと見送っていた。
大梟を人の手で運ぶことは無理なので、自力で移動するよう仕向けるしかない。
そのため、レヴィンはイリュージョンの魔法で茶々丸を誘導することにした。まず最初に、目的地の方向へ向かって闇主が飛び去る幻影を見せてみるが、これにはあまり反応を示さない。ならば他に興味を示しそうなものを‥‥と考えるが、無駄撃ちする余裕もないので、あれこれ試してみるわけにも行かない。
考えた挙句、レヴィンは過去に行なった特訓を思い出し、炎で追い立てることにした。
燃え盛る炎がどこまでもどこまでも追いかけてくる幻影を茶々丸に送り込む。以前も同じような場面を見せられている茶々丸は、慌てふためいて逃げ始めた。
「そう、逃げるんです‥‥できるだけ遠くに。」
人間と動物との共存を心から願う彼にとって、それは苦い言葉だった。
悲しいことだが、茶々丸がこの先もずっと人を襲わずにいるという保障はどこにもない。それに、茶々丸と遭遇した人間が彼を「化け物」と認識してしまう可能性も高い。この依頼が出されるきっかけとなった出来事がいい例だ。
改めて共存ということの難しさを実感しながら、レヴィンは仲間たちと共に茶々丸の後を追うのだった。
蒼穹が雄々しく上空を舞う。それに導かれるようにして、一行は遠い空を羽ばたく茶々丸の姿を捉えた。
大体の位置を確認して、レヴィンは今度はマジカルミラージュで巨大な蜃気楼――まるで山火事が起こっているかのような幻影を作り出した。当然、茶々丸はその方角を避けて逃げようとする。
村のほうへ逆戻りしないよう上手く調節しつつ、さらに帰り道を分からなくさせるため時々違う方向へ誘導したりしながら、次第に茶々丸を村から遠ざけてゆく。
その途中で猟師などに出会う度、黒畑はこのように頼んだ。
「いいですか、もしこの辺りの山中で鬼に出会ったら、倒さずに逃げて下さい。そしてできれば、あなたの村を訪れた旅人などにも、そのことをよく言い聞かせて欲しいのです」
それを素直に承諾する者もいたし、怪訝そうにしている者もいた。
依頼主である村の人々も、近隣の村に呼びかけているが、果たしてこの教えがちゃんと浸透するかどうかは分からない。今はただ、こういった地道な努力が実を結ぶことを信じるしかない。
かつて黒畑自身も口にしていたことだが、滅ぼすことよりも教え導くことのほうが遥かに難しい。
しかし、人にとって害となり得る存在だからと言って排除していれば、今こうして茶々丸が存在していることはなかっただろう。
それを「害」と見るか、それとも幸福なことと見るかは、人それぞれだが‥‥少なくとも、ここにいる冒険者たちの想いは皆同じはずだ。
「大体この辺でいいんじゃないかな?」
「そうですね。村からもだいぶ遠くなりましたし‥‥」
目指していた場所まで移動が終了し、いよいよ本当の別れの時がやって来た。
最後の仕上げとして、レヴィンが餌となる小鬼の幻影で茶々丸を近くまで誘き寄せる。そして近付いてきた茶々丸を、まずは黒畑のコアギュレイトで捕捉した。
「最後に、人間の怖さを教えるわ」
ロサは茶々丸に向けて矢を射た。鏃は潰して狙いも外したので、大した怪我はしなかったはずだが、脅しにはなっただろう。
「狩人には気をつけなさい。これは、生きていくための知恵よ。見かけたら、逃げるの。追って来れない場所に。せっかく羽があるんだものね、ずっと飛び続けていたいでしょ?」
「キミは強いかも知れんが、世界は広い。鉄を持つ人には絶対に近寄ったらいけんよ」
ロサとクゥエヘリが諭すように言い聞かせる。
そして動きを封じられた茶々丸を、レヴィンはさらにアイスコフィンの魔法で閉じ込めた。
「すいません、茶々丸さん‥‥」
氷が溶ける頃には、もう既に冒険者たちはここにはいない。残された茶々丸が元いた場所に戻って来ようとしないよう、とにかく祈るばかりだ。
クゥエヘリとレヴィンは、茶々丸がよく遊んでいた鞠などを近くに置き、翠も村からもらってきた闇主の羽根をそっと隠し置いた。
「闇主、茶々丸を守ってね。どうかここで幸せに暮らせますように」
「ボクやみんなと遊んだこと、忘れちゃ駄目だよ!」
「さようならや、茶々丸」
「茶々丸さん‥‥お元気で」
皆それぞれ別れの言葉を告げ、魔法の効果が切れる前に急いで下山する。
氷漬けにされた茶々丸の姿は痛々しく、最後がこのような別れ方というのは少し淋しいが、これも仕方のないこと。彼はもう野生に還るのだから、きっちりと決別しなければならないのだ。
この山が茶々丸の第二の故郷となるよう。
彼が闇主と同じように、この山の主として立派に生きていけるよう。
そんな願いを抱きながら、冒険者たちはその場を後にした。
ロサだけは最後にふと足を止め、振り返る。
そして少し微笑んで、こう言い残した。
「私もね、ちょっと遠出するの。新天地、求めてみるわ。おんなじね。‥‥お互い頑張ろうね」
これから新たな道を歩み始める1人と1羽を祝福するように、気持ちの良い風が駆け抜けていった。