【ブライトンの騎士】Stand up!

■シリーズシナリオ


担当:刃葉破

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 94 C

参加人数:8人

サポート参加人数:7人

冒険期間:06月23日〜06月30日

リプレイ公開日:2007年07月01日

●オープニング

「あなたは‥‥いつまで腐っているつもりかしら?」



 豪華な調度品がそこかしこにある一室。広さも十分であり、きっとどこかの屋敷の一室なのだろう。
 そんな部屋の机を前にして椅子に腰掛けている女性が、机越しに立っている人物に質問を投げかける。
「彼の事、分かったかしら?」
 凛と響く声。恐らく20代前半といったところか。その年齢の割には芯の強さを思わせる。
 何か調べさせていたのだろう。その報告を聞くが、聞いてるうちに女性は顔を曇らせていく。思案するように自らの手を顎に当てて。
「‥‥ありがとう、下がっていいわ」
 報告が終わると、彼女は報告していた人物を下がらせる。それ以外に用は無い、とばかりに。
「さて、どうしましょうかしらね‥‥」
 椅子に深く腰掛けて、彼女はただ天井を見上げる。


 漁業で栄える街、ブライトン。
 周囲にも漁業で生活している村々があるが、ブライトンはその比ではない賑わいを見せる。
 元から活気があったのか、領主の働きのお陰か‥‥それはその街に住む者しか分からない事だろう。何にせよ、ブライトンは他の都市に負けないぐらい栄えている街だった。
 ‥‥だが、それでも勿論街の住民全てが富んでるわけではない。
 それを代表するかのような男が1人、街角に佇んでいた。
 男は薄汚れた服を身に纏い、まるで手入れをしてないぼろぼろに汚れた顔。元は真紅の髪なのだろうが、汚れでそうは見えなくなってしまっている。清潔感なぞ望むべくも無く、ぱっと見では年齢も分からない。住む家があるのかどうかすら分からない。そんな男が街角に座り込み、流れる人をただただ眺めていた。
 眺めている、それだけだ。何か仕事をしている様子も無い。
「‥‥腹、減ったなぁ」
 ぽつりと呟く男。その声は意外に若い。
 男の手持ちの金は大変寂しいものだ。勿論、彼がまともに働いてないからだが。彼はときどき肉体労働の仕事などで、その場を凌げるだけの金を稼ぐと、それで働くのをやめる。簡単に言ってしまえばその場しのぎの日々を送っているのだ。
「そろそろ働くかなぁ‥‥」
 気だるげに腰を上げる男。今から仕事を探しにいくのだろう。うーんと伸びをして辺りを軽く見回す。
「それにしても‥‥最近‥‥いや、気のせいか」
 何か視線を感じる、と思い警戒するように腰の部分に手を伸ばす――そこには不釣合いな程に手入れされた短剣があった――が、自分のような男が居たらそりゃ奇異の視線ぐらい飛んでくるだろう‥‥そう軽く考え、すぐに頭からその思考を追い出す。
 仕事をどうするか、知り合いを適当にあたってみるかな‥‥そんな風に思考を頭の中で繰りながら歩いていると。
「ね、あなた。仕事を探しているのよね?」
「は?」
 後ろからいきなりかかってくる声。ちょうど仕事について考えていた男はよくも分からずに振り向く。
 そこに居たのは女性だった。銀色の腰まで届く長いウェーブの髪。手入れがよく行き届いているだろう肌。更に整った顔立ちなど、簡単に言ってしまえば上品な美女がそこにいた。気になる点といえば‥‥まるで不釣合いな程の普通の服を着ている事だろうか。そこらの村娘が着るものと大して変わらない。
「‥‥これ以上ないってぐらい不審な人物である俺に声をかける、これまた怪しい点があるあんたは一体誰だ?」
「あら、そんな事はどうでもいいじゃない」
 怪しいものを見る目つきで女性を見る男は、警戒心も露に質問をするが、女性はそんな事はどうでもいいの一言で切り捨ててしまう。
「ともかく、仕事を探してるのよね?」
「あ、あぁ‥‥そうだが」
 女性は汚らしい格好の男に怖気付く事無く、ずずいっと近づいて真正面で声を投げかけてくる。その様子にむしろ男の方が後ずさりするぐらいだ。
「なら、ゴブリン退治とかしてみない?」
「‥‥‥‥は?」
 この女は何を言ってるんだろう、見ず知らずの男にモンスター退治を頼むだなんて。男が真っ先に考えた事はそれであった。
「あんた‥‥こんなまともに仕事をしてない男が戦いなんて出来ると思ってるのか?」
「出来るわよ、あなたなら」
 正論を吐く男だが、女性は根拠の無い一言で返す。彼女の瞳は彼を真っ直ぐ見ており、何か邪な考えなんて無いだろう純粋な目であった。
「いや、だからな‥‥」

 そうして相当な時間を費やして問答をしたが、女性が意思を変える事は無かった。
「‥‥OK。ゴブリン退治はギルドの冒険者にも頼む、俺はそれに付き合う。俺が戦闘に出ようが出まいが、あんたは俺に報酬をくれる。これでいいんだな?」
「えぇ、それでいいわよ」
 もはや投げやりのように言う男。その内容は問答の末の結果だ。
 ブライトン周囲にある村で最近ゴブリンが出て困っているから、それを退治してほしい。その退治は冒険者にも頼むが、男にも付き合って欲しいという話だ。男の行動は気にしない。そして渡される報酬は高額。この条件で男は折れたのだ。
「うん、交渉成立。それじゃ、私の方からギルドに依頼をしておくから。あなたの名前は‥‥」
「‥‥エアク。エアク・ウェルナーだ」
「ふぅん‥‥エアク、ねぇ」
 名前を聞き、何故か面白くないような顔をする女性。
「それで、あんたの名前は」
「あなたがエアクなら‥‥私はセアラ、かしら」
「はい?」
 エアクに名前を聞かれて、まるで仕返しをするかのように名乗る女性‥‥セアラ。その言い方があまりにおかしくて、エアクは思わず間抜けな返事をしてしまう。
「ま、細かい事はいいじゃない。‥‥‥それにしても」
「‥‥何だよ」
 じろじろとエアクを上から下へじーっと見るセアラ。
「あなた、もう少し身だしなみしたらどうかしら?」
「うるさい」
 凄く今更な事を言うのであった。


 そして後日、キャメロットギルドにて1つの依頼が貼りだされる。
『1人の男をしっかりさせる為にも、ゴブリン退治をして』

●今回の参加者

 eb1476 本多 空矢(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb2874 アレナサーラ・クレオポリス(27歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 eb5522 フィオナ・ファルケナーゲ(32歳・♀・バード・シフール・フランク王国)
 eb8302 ジャン・シュヴァリエ(19歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec0335 アッシュ・ゼスクルード(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ec1858 ジャンヌ・シェール(22歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ec2025 陰守 辰太郎(59歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ec3138 マロース・フィリオネル(34歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

ジノーヴィー・ブラックウッド(ea5652)/ 架神 ひじり(ea7278)/ リーシャ・フォッケルブルク(eb1227)/ メグレズ・ファウンテン(eb5451)/ 陰守 森写歩朗(eb7208)/ 陰守 清十郎(eb7708)/ レア・クラウス(eb8226

●リプレイ本文

●出会い
 キャメロットから南へ行ったところにある都市、ブライトン。
 今回の依頼では表向きはだが、エアク・ウェルナーという同行者と共にブライトンの周辺の村を襲うゴブリンを退治する事となっている。
 そして、冒険者達はそのエアクと合流する為にブライトンへと向かっていた。途中の道すがら、合流する予定だ。
「己の腕を磨くのも大事だが‥‥やはり騎士として、人の為になるべき事をせねばな」
「ただゴブリン退治というより‥‥どちらかといえば、エアクさんを真っ当にすることのほうが重要みたいですけど」
 普段は闘技場で腕を磨いているアッシュ・ゼスクルード(ec0335)が騎士として民を脅かすゴブリン退治への意気込みを見せ、マロース・フィリオネル(ec3138)から返ってくる言葉は戦いに関する事では無いこと。
 そう、今回の依頼ではエアクを真っ当にする、という本当の目的があるのだ。
「うーん、エアクってどんな人なんでしょう。なんだかわくわくしますね」
「あ、あの人では無いでしょうか?」
「恐らくそうでしょうね。‥‥あのような特徴に合致する人も中々いないと思いますし」
 ジャン・シュヴァリエ(eb8302)がまだ見ぬエアクへと心躍らせていると、待ち合わせ場所に座り込んでいる人影が見える。それを見て、陰守辰太郎(ec2025)がエアクではないかと冒険者達に同意を求める。アレナサーラ・クレオポリス(eb2874)も更に数歩近づいてから、確信する。‥‥その人影の様相からも。
 そこに座っていた男はやはり汚らしい清潔感なぞ無い格好だった。
「‥‥その格好、あんたらが冒険者か」
 男も冒険者達に気づいたのだろうか、気だるげに立ち上がり、冒険者達へと近づく。
「俺が今回同行する羽目になったエアク・ウェルナーだ。‥‥まぁ、よろしく」
 男‥‥エアクは冒険者達の前に立つと面倒くさそうに一応挨拶をする。やる気のようなものはあまり見られない。流れで冒険者達も自己紹介をして、それが終わるのだが‥‥。
「‥‥何だ?」
 エアクが訝しげに言う。それはエアクの事を上から下までじろじろと見ているフィオナ・ファルケナーゲ(eb5522)に対してだ。
「きったないわねぇ。ちゃんと身だしなみ整えないともてないわよ」
「‥‥もてなくて結構」
 そんなフィオナの率直な感想がこれだった。だがエアクはあまり意に介さない様子だ。しかし。
「結構ではない。お前が他人の見ていない所でだらしなくする分には構わないが、俺達が向かう戦場は身を正す場所だ。戦場に出る以上、勝手な真似は許さない」
 本多空矢(eb1476)は真面目な顔で、エアクをまさに一刀両断する。
「と、いうことで。まずは身だしなみを整えましょう!」
「はい? いや何故にそうなるよ?」
「いいじゃないですか。清潔になって損な事はありませんよ?」
 そこでマロースがエアクに対して身だしなみを整える事を提案する。エアクは勿論戸惑うが、ジャンヌ・シェール(ec1858)が彼の前に立ち笑顔で彼を説得する。その雰囲気は‥‥何故だか断りにくい少女特有のやんわりとした雰囲気だった。
「ぐ、ぐっ‥‥」
「そういえば近くに泉があったな。とりあえずそこに放り込むぞ」
「そうだな。臭いも気になる」
「なっ!? おい、ちょっと待て!」
 ふと、ここに来るまでのすぐ近くに泉があった事を空矢は思い出すと、アッシュと共にエアクの両脇をがっしりと掴むとそのまま連れ去っていく。エアクも抵抗するが、さすがに屈強な男2人が相手ではその抵抗も虚しいもので‥‥しばらくしてから、何かが水に飛び込むような音が聞こえた。
「‥‥暑い季節で良かったですね」
 思わず、そんな事を呟く辰太郎だった。

●綺麗に
「‥‥はい、こんなところですね」
「酷い目にあった‥‥」
 そしてしばらくの時が経った。そこには泉に叩き込まれ、汚れを落とされてからマロースを中心として身だしなみを整えられたエアクの姿があった。真紅の髪も髭もすっかり整えられ、服もある程度新しいのに変えられている。
「あら、いい男じゃない。お姉さん惚れちゃいそう♪」
「あー‥‥はいはい」
 整えられる前に比べて、すっかりと年齢相応の青年の姿になったエアクを見て、フィオナも好印象のようだ。おだててるだけかもしれないが。
「ふぅん‥‥」
 そんなおどけた様子のフィオナだったが、一瞬、鋭い目つきでエアクを見ていた事は誰も気づかなかった‥‥まるで鷹のような目で。
「それでは、これを。エアクさんの装備です」
 と、エアクにショートソード、レザーアーマー、マントを差し出すマロース。
「これを‥‥俺に? タダで?」
「まぁ‥‥そうなりますね」
 勿論、後で依頼人であるセアラに装備代を請求するのだろうが、現状表向きではタダでエアクに装備を譲るマロースに対して、半ば疑問の目を向けながら受け取って、装備するエアク。
「うわぁ‥‥何だか決まってますね」
「そうですね。まるで慣れてるみたいです」
「‥‥気のせいだろ」
 それらを装備したエアクを見て、率直な感想を述べるアレナサーラ。ジャンもエアクの格好が似合ってると思った故の感想なのだが、エアクの反応は冷めたものであった。
「ともかく、行くか」
 空矢が先頭に立ち、一行はブライトンへと行く為に足を動かすのであった。

「ところで」
「何だ?」
「お前は‥‥騎士とはどのようなものだと思う?」
 ブライトンへと向かう道中、アッシュがエアクに問いかけ、語り始める。
「騎士とは先ず、弱き者を守る為にあるのだと俺は思う‥‥」
「‥‥‥」
 エアクから返ってくる言葉は無い。軽く聞き流したのか、ちゃんと聞いたのか。ただ前を見るエアクの表情から読み取る事はできなかった。
(「騎士に興味を持ってくれるだけでも良いのだが‥‥それにしても」)
 アッシュはその反応に軽く溜め息をつきつつ、エアクの腰につけている丁寧に手入れされた短剣に目をやる。‥‥だが、それはいくら見ても普通の短剣であった。騎士や冒険者が使うような――ただの短剣、だ。
「あ、そうです。せっかくですから、この機会に色々教えましょうか」
「‥‥今度は何だ」
 そして次に口を開いたのはジャンであった。
「依頼の際、気をつける事‥‥ですね」
 ジャンは様々な事を説明するが。
「‥‥まぁ、分かった」
 微妙な反応のエアクであった。

●実力
 エアクが合流しても、ブライトンに到着するまでにはまだ日がかかる。ということで、日が沈むと一行は野営をする事となった。
 各々がテントなりを設営しおえた頃、エアクは何故か木の棒を持ってジャンヌを対峙していた。
「‥‥‥本当にやらなきゃ駄目か?」
「はい、駄目です」
 おずおずと聞くエアクだが、にっこりと笑顔で却下するジャンヌ。何かというと‥‥模擬戦である。ゴブリン退治の際戦闘に巻き込まれる可能性もあるので、訓練が必要との事だった。
「しなければ戦場には連れていかんからな」
「あぁ、もう! 分かった、やるよ!」
 傍から見ている空矢がびしっと告げる。彼が言うからには本当に戦場に立たせないだろう。そうなってしまってはエアクが報酬を貰う最低条件を満たせないので、半ば開き直りながら模擬戦をする事に承諾する。

「それでは‥‥いきますよ!」
 先ほどまで笑顔だったジャンヌだったが、顔を引き締めて凛々しい顔になると、合図と共に木の棒を剣に見立ててエアクへと駆け、振るう!
「―――ちっ!」
 わずかな間――ただの反応の遅れか、それとも逡巡か――そしてジャンヌの攻撃をやはり木の棒で受け止めるエアク。
 だがジャンヌは攻撃の手を緩めず、次々とエアクへと向かって打ち込んでいく! それらの攻撃をエアクは全て受け止める!
「‥‥彼」
「え?」
「筋がいい、という話ではありませんね」
 ジャンヌの攻撃を凌ぐエアクの様子を見て、ぽつりと呟く辰太郎。それはどういう事かとジャンが問う。
「あの動きは‥‥まず間違いなく剣を扱える者の動きです。‥‥少し覚束ないところもありますが」
 その辰太郎の言葉を一番理解しているのは、正にエアクに向かって打ち込んでいるジャンヌ本人であった。
(「ここまでできるとは予想外ですね‥‥。ならば‥‥!」)
「マロースさん!」
 一旦下がり、マロースを呼ぶジャンヌ。呼ばれたマロースの手にも‥‥木の棒。
「私も参加しますね」
「所謂1対2ですね。多数に囲まれたらどうなるか、ということで」
「いや、ちょっと待て!?」
 だが2人が今更そんな言葉で待つ筈も無く。最初は避けたり、受け止める事も何とかできていたがすぐに攻撃を当てられるようになり、エアクが沈むのにそんなに時間はかからなかった。

「まさかあそこまで出来るとは思いませんでした。あ、大丈夫ですか?」
「‥‥まぁ、なんとか」
 訓練も終わり、食事を取る冒険者達。ジャンヌも元の笑顔を見せ、優しくエアクの手当てをする。
「その剣技は、いつ習得したんですか?」
「‥‥‥」
 訓練の様子をじっと観察していた辰太郎の疑問。だがエアクはそれに答えることなく沈黙するばかりである。
(「‥‥謎が深まりますねぇ」)
 謎を追い求める事が全てと考えるジャンにとって、それはそれで楽しみであったのだが。
「ともかく、その腕前ならゴブリン退治は問題ないですね」
 アレナサーラの言う通り、エアクの腕前ならゴブリンに遅れを取る事はそう無いだろう。
 問題があるとすれば‥‥彼の心の持ちよう、だろうか。

●戦い
 そして、冒険者はブライトン近くまで来た。
 なるべく日が出ているうちにゴブリンを退治したいということで、ブライトンには寄らず、そのまま村へと足を運ぶ。
 冒険者達はそこでゴブリンの情報を集めると、ゴブリンが住んでいるという洞窟へ行く。
「攻め入る、と言うのは余り得意ではないのだがな‥‥」
「だが相手が攻めてくるのを待つわけにもいかんしな」
 アッシュと空矢を最前衛として、マロース、ジャンヌと続く。エアクは後ろの方だ。
 しばらく歩いていると、開けた場所に洞窟が見える。そしてそこには‥‥ゴブリンが4体とも洞窟前でたむろしていた。
「では、往くぞ!」
 冒険者達が――走る!

「ギィィー!?」
 ゴブリン達にとってはいきなり現れた冒険者達は正に青天の霹靂だろう。
「佐々木流奥義『燕返し』その身で受けるが良い」
 空矢が一番近くのゴブリンに肉薄すると、ゴブリンの体勢を崩す一撃を与え、そこからすかさず武器の重さを活かした強力な太刀による一撃を加える! ゴブリンにとってはひとたまりも無い攻撃で、その一撃で虫の息となる!
 空矢に続くように、アッシュ、ジャンヌは剣で攻撃を。辰太郎は弓による攻撃。フィオナは幻覚を見せる魔法を。マロースは盾による防御を!
 彼らの連携により、ゴブリン達はすぐに戦闘不能に追い込まれていくが‥‥。
「しまった!」
 ジャンが唱えたトルネードの魔法。だがそれは最後の1体のゴブリンに当たらず、ゴブリンは冒険者の間を縫うように逃げ出す!
 冒険者達はその動きを止める事ができず――動きがぎこちなく見えたが――ゴブリンはエアクがいる方向へと逃げる!
「一匹そっちに行ったわよ!」
 エアクへと響くフィオナの声。その声に従い見てみると、エアクにも1匹のゴブリンがこちらへ迫ってくるのが見えた。傍に居る冒険者はアレナサーラだけである。下手すると‥‥襲われるかもしれない。
「くっそ‥‥!」
 剣を――抜くしかない。エアクはマロースから貰ったショートソードの柄に手を伸ばす。‥‥だが、手が震えているのか抜く事ができない。
「う、わぁぁぁぁ!!」
 ―――そして、彼は剣を抜いた。

●道
 ゴブリン退治を終えた一行はブライトンへと寄っていた。
「あっという間にゴブリンを切り伏せてしまうなんて。エアクさんがいて助かりました!」
「うわっ!?」
 道中、ジャンヌはエアクの手を握り、感謝の意を告げる。いきなりの事だったので、エアクは戸惑うばかりだ。
「大体、お前たち、手抜いてただろ」
「何故、そう思うんですか?」
「お前たちの実力から考えて、ゴブリンを逃がす筈ないからな」
 軽く不満のような表情を露にして冒険者達の手抜きを指摘するエアク。アレナサーラがそう思う理由を聞くが、つまりはエアクは冒険者達の実力を認めているわけである。だからこそ自分が彼らの意思で戦わされた事が理解できたのだ。
「そういうあなたこそ、先ほどの戦い‥‥そして腰の短剣の手入れの行き届き方。あなた、ただぶらぶらしてるってわけじゃないわね」
「何‥‥?」
「鷹の目を甘く見ないことね」
 だがエアクの実力もまた‥‥フィオナに見抜かれている。一瞬真面目な顔になって告げるフィオナ。どこまでも見通すように。
 そんな風に会話しながら歩いていると、1人の女性が目に入った。

「あ、ゴブリン退治成功したのよね?」
「セアラか」
 長いウェーブの銀髪の女性、今回の依頼人であるセアラだ。セアラは冒険者達に気づくと、すぐに傍まで来て話しかける。
「ふぅ、うん。‥‥よし、合格ね」
「は? 何がだ?」
 エアクをじろじろと眺めるセアラ。その合格の意味は冒険者達にしか分からない事だが。
「それじゃ、ギルドを通じて報酬を渡すわ。装備代も払っておくわね。ただ、これは小刻みに払う事になるわ」
 彼女にも事情があるのだろう。マロースへの装備代は一括では支払われないようだ。
「じゃあ、私はこの辺で失礼するわね」
 セアラは言うだけ言ってしまうと、走って街の人混みの中へと消えていった。‥‥走り方はどことなく上品だったが。
「‥‥風のような人ですね」
「そうだな。しかし、エアクに施しを与える依頼人‥‥一体、何者か。何の意図があると言う」
 そんなセアラへの素直な印象を言うマロース。だがアッシュはそれだけでなく、セアラの真意を探る。

「それにしても、無事依頼も成功しましたし‥‥。僕からプレゼントがあります!」
「何だ?」
 そろそろ解散しようかという流れでジャンがエアクへと話を切り出す。
「僕の猫をプレゼントしようと思うのですが」
「いや、今の生活ですら現状あれな俺がペット飼えるわけないだろ」
「‥‥‥‥あ」
 ジャンはそのあたりの事をすっかり失念していたようだ。結局、猫はジャンがそのまま持ってかえる事となった。
「エアク。全てが終わったのなら自分の好きな道を行くのも良い。腐りきったゴミの様な生活も自分で望むのであれば仕方があるまい。もし、少しでも心に燻ぶる物があるのなら剣を取り我々と同じ道を行くのも良かろう」
「‥‥はっ、どうすっかねぇ。ま、適当に考えるさ」
 そして次にエアクに話しかけたのは空矢である。
 答えは考える、というものだが完全に流したりしないあたり、まだ前向きなのだろうか。
「そうか。縁があればまた会おう」
「あぁ、またな」
 空矢は酒瓶をエアクへ投げて渡す。エアクはそれを受け取り、軽く手を振りつつブライトンの人混みへと消えていったのだった。