【ブライトンの騎士】Go dash!

■シリーズシナリオ


担当:刃葉破

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 94 C

参加人数:7人

サポート参加人数:3人

冒険期間:07月10日〜07月17日

リプレイ公開日:2007年07月18日

●オープニング

「あなたは‥‥いつまで腐っているつもりかしら?」



 やはり、その部屋は豪華な調度品で彩られていた。どう見ても地位や金がある者が使う部屋である。
 そんな部屋に居たのは年齢から考えるとその部屋には相応しくなく、しかし雰囲気から考えると見事に相応しい女性だった。
「それで‥‥彼は今はどうしてるの?」
 彼女は椅子に座りながら机越しに立っている男に声をかける。いつもの様に。彼女にとってはこのような位置で会話するのが極当たり前の事なのだから。
 そして男の事務的な報告を聞く。彼女は以前のように顔を曇らせたりはしない結果であった。‥‥それでも不満が顔に出るくらいではあるのだが。
 報告が終わり、彼女が男を下がらせようとすると、男がとある別件の報告をする。報告する男にとってはある意味そちらの方が大事なのだが。
「ん、分かったわ。‥‥彼にやらせてみるのもいいかもね。それじゃ、下がっていいわよ」
 彼女の言葉に男は同意も反対もしない。ただ用が終わると頭を下げてからその場を去っていく。
「ふぅ‥‥あの馬鹿は‥‥」
 彼女は立ち上がり、窓を開けてただ外を見る。


 男は困っていた。とにかく困っていた。何故なら生きていくのに必要なお金が無いからだった。
 男の名はエアク・ウェルナーと言った。
「はぁ‥‥どうすっかなぁ」
 ぽつりと呟きながらブライトンの街を練り歩くエアク。その悩みの内容は先述の通りお金が無いからであった。
 先日、ゴブリン退治を受けた時に貰った結構な額の報酬があったがそれはもう無い。
 いや、別に無駄遣いをしたわけではない。彼は‥‥今まで家にすら住んでいなかったのだ。そんな彼が家を借り、まともに生活しようとしてみたらそれで報酬が全て無くなった。それだけの事である。
 そう、まともに生活しようと考えただけあって、彼の今の格好は至極真っ当なものであった。以前のように汚い格好ではなく、きっちりと真人間らしい格好だ。
 別に彼としても以前の暮らしに大きな不満があったわけでもない―――まぁ、いくつか不満はさすがにあったが。それでも彼が以前、家も仕事も持たずだらだらしていたのは‥‥彼がそのような生活を望んだからだ。不満を表に出す筈がない。
 そんな彼が真っ当に生きようかと考えてるのは‥‥単純に義理であった。すぐに以前のような生活に戻ってしまったら、自分を更正してくれた冒険者達に申し訳が立たない、と。
 自身の生活の不満云々よりも、義理という点で真っ当に生きようと考えるあたり、妙な価値観の持ち主であるかもしれない。ともかく、理由が何であれある意味前向きに生きようとしているのだからいい事なのだろう。
 ―――だが、考え方が変わっただけでうまく生きていける程人生は甘くない。
 以前の暮らしではその場その場でできる簡単な仕事を時々やる程度で暮らしていけた。しかし、今の暮らしを維持するとなるとしっかり収入がある定期的な仕事をしなくてはならない。
 彼はそれで仕事を探していたのだが、中々見つからないのだ。そんなわけで金欠という状況に相成ったのである。
「あー‥‥あれら売ればまだ生活できるが‥‥でもなぁ」
 エアクが考えるあれら。それはゴブリン退治をする時に冒険者から貰った装備品の事である。今は棲家に置いているのだが。
 だが、義理を気にする彼がそれらを売る事を良しとするわけでもなく‥‥ただ家に置いてあるのだった。
「はぁ‥‥」
 溜め息をつき、やはり頭の中で思考を繰って街の中を歩いていると。
「ねぇ、あなた。その様子だとまだ仕事を探してるのよね?」
「は?」
 いつかと同じような状況、同じような声が聞こえてきた。そしてエアクが振り向くと、そこに居たのは‥‥やはりセアラであった。相変わらず上品な顔立ちや仕草だが、服装はそこらの娘と変わらないというアンバランスさだ。
「‥‥何だ、もしかしてまた俺に何かさせようっていうのか。セアラ」
「あら、中々理解が早いわね」
 以前、エアクに依頼を持ち込んだ張本人であるセアラが声をかけてきた。それだけでエアクは何となく状況が予測できてしまう。
「うんうん‥‥‥」
「‥‥何だ?」
「‥‥うん、真面目に生きようとしてるみたいね」
 じろじろとエアクを見るセアラに対して、半ば呆れながら意図を聞くエアク。そんなセアラの答えはエアクの今の姿に対してのものだった。
「あいよ、どーも。で? 今回は俺に何をさせるつもりだ? ゴブリン退治の次はオーク退治でもさせるつもりか?」
「あら凄い」
「的中!?」
 適当にオーク退治という例を出してみたエアクだったが、セアラのその反応を見る限り、本当にオーク退治を依頼するつもりなのだろう。
「いやいや! だから何で俺にそんなのさせようとするんだよ!? ただの一般人だぞ!?」
「ただの一般人は剣をそうそう扱えないだろうし、オークなんて名前もすぐには出てこないと思うけど?」
 必死にセアラを問い詰めるエアクだが、セアラの冷ややかなつっこみについ口ごもってしまう。
「大丈夫、今回も冒険者達に同行してもらうから。勿論報酬も高額で、ね」
「‥‥俺、どこで選択間違えたのかな」
 以前のやり取りを考えると、結局エアクが折れるしかないのだろう。諦観しながら依頼を受ける事を決めるエアク。
「ん、それじゃ私はギルドに依頼をしてくるわ。連絡などは後日するから――」
「って、待てよ!」
 約束を取り付けると、すぐさま背を向けてその場を去ろうとするセアラを、大声で呼び止めるエアク。
「お前は‥‥どうして俺にこんな事を? いや、そもそもこんな依頼をする事ができるお前は何なんだ?」
 エアクの問いに、セアラは振り向かず。
「‥‥あなたがエアク・ウェルナーである限り、教えないわ」
 街の人ごみの中に消えていった。



 数日後、キャメロットギルドにてオーク退治の依頼が貼り出される。依頼人は前回と同じくセアラだ。
「うん、これで良し‥‥っと」
 ギルドで働く青年はしっかりと依頼内容を確認して、問題ないと判断する。
 内容はやはり最近ブライトン近くの村を襲うオーク5体を退治して欲しいというもの。オークは夜になると村にやってきて、昼は恐らく近くの森の中にでも住んでいるのだろうが、詳しい住処などは特定できていないというのが書かれていた。
 今回はそれ以外の目的は特に書かれていない。備考として、エアク・ウェルナーという同行者がいる事ぐらいだ。
「それにしても‥‥あの依頼人‥‥」
 ふと青年は思い出す。受付の時に現われた依頼人の女性を。見た目からして上品な人物であり、話し方なども上品であった。
「何かどっかで見たことあるような気がするんだよなぁ‥‥。いつだったかなぁ‥‥」

●今回の参加者

 eb1476 本多 空矢(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb2874 アレナサーラ・クレオポリス(27歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 eb5522 フィオナ・ファルケナーゲ(32歳・♀・バード・シフール・フランク王国)
 ec0335 アッシュ・ゼスクルード(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ec1858 ジャンヌ・シェール(22歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ec2025 陰守 辰太郎(59歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ec3138 マロース・フィリオネル(34歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

ルーウィン・ルクレール(ea1364)/ セリア・シエルザーク(eb1250)/ 陰守 清十郎(eb7708

●リプレイ本文

●再会
「‥‥またお前らか」
 それがエアク・ウェルナーの第一声であった。
 オーク退治の依頼を受けた冒険者はやはりキャメロットからブライトンへと向かう道中にて、エアクとの合流を果たす。
 その冒険者達は前回エアクを更正させた冒険者達であった。
「またあなたが来たのね。これって運命の出会いかしら♪」
「どんな運命だよ」
「あら、ノリが悪いわね」
 エアクとの再会に内心偶然以上のものを感じながら、それを茶化すように言うフィオナ・ファルケナーゲ(eb5522)。それにエアクは冷静に的確に返すだけだ。そんな様子のエアクに残念がりながらもフィオナは内心で鋭く観察をする。
「またお会いできて嬉しいです! 今回戦うオークは手強いですが、エアクさんならきっと大丈夫です」
「あ、あぁ‥‥」
 そしてジャンヌ・シェール(ec1858)は嬉しそうな笑顔と共に彼に駆け寄り、すかさずエアクの手を取る。やはりエアクはそれに戸惑うばかりで、でも振り払う事もできないで。
「どうやら先日と違ってマトモになった様だな。この調子で行けば良い冒険者に成れそうではないか。結構な話だ」
「いや冒険者になるつもりは無いんだが」
「‥‥騎士は良いぞ、仕えるべき主を見付け忠誠を誓い共に人々の為、己の力を振るう事が出来る。これ程にやり甲斐のある事は‥‥とこれではまるで勧誘だな、済まなかった」
 本多空矢(eb1476)は神妙な面持ちでエアクの格好をじっくり見て、エアクがしっかりやっている事を分かると腕を組んでうむと頷く。とはいってもエアクは一言も冒険者になるとは言ってないのだが。すかさずアッシュ・ゼスクルード(ec0335)が騎士について熱中するかのように語るが、すぐに本人もまるで騎士になる事を勧めているかのような物言いに気づき、言葉を止める。それに対するエアクの反応は‥‥苦笑い、だろうか。
「何はともあれ、よろしくお願いしますね」
「えぇ、オークはゴブリンよりも強いですから、連携して倒しましょう」
「あー、うん。それなりに頑張らせてもらうさ」
 とりあえずはアレナサーラ・クレオポリス(eb2874)がこの場をしめるように言い、マロース・フィリオネル(ec3138)も連携を重要視するようにと言葉を続ける。返ってきたエアクの言葉から判断するに現状のやる気は微妙といったところか。
「では出発する前に‥‥エアクさん、これを」
「ん? これって‥‥」
 そろそろ出発しようかというところ、陰守辰太郎(ec2025)がバックパックからセブンリーグブーツと霞刀を取り出し、エアクへと渡すように差し出す。エアクはそれを疑問に思いながらも受け取る。
「‥‥これって結構貴重な品だろ? それを?」
「構う事はない」
 一部冒険者にとっては大した事が無い代物かもしれないが、その一部冒険者以外にとってみれば貴重品である二品をぽんと手渡す辰太郎。とりあえず受け取るが、あまりの親切っぷりにちょっと疑惑の目を向けるのは致し方ない事だろうか。
「あ、私もポーションを。戦闘で怪我するかもしれませんし」
 マロースも丁度良い機会だということでリカバーポーションをやはり無償で1個エアクへと渡す。そしてやはり気にしながら結局は受け取ってしまうエアクなのだった。

●剣の技
 そしてブライトンへと向かう道中での野営。そこでエアクはマロースとの連携についての話し合いをしていた。勿論、連携を重視するマロースから持ちかけた事である。
「私が盾で攻撃を受け止めますから、その間にエアクさんが攻撃をお願いしますね。せっかくですから今練習しましょうか?」
「あ、でしたら私が付き合いますね」
「またか」
 マロースの訓練に付き合うと言い出すジャンヌ。前回この2人相手に叩きのめされたエアクの顔にたらりと冷や汗が流れるが、今回はエアクが2の方なので問題ないだろう。ジャンヌの打ち込みをマロースが盾で受け止め、その隙にエアクが攻撃を入れるような動きをする。
 そうやって訓練していると、ふと座って見ていた空矢が立ち上がり近づいてくる。
「せっかくだから俺も付き合おう。多少、技の伝授をな」
「技の伝授?」
 訓練を中断して、空矢への提案へと耳を傾けるエアク。
「そう、例えばこのような‥‥だ!」
 声と共にいきなり身体スレスレから放たれるエアクの体勢を崩すかのような攻撃、ブレイクアウト! 思わずエアクが体勢を崩した所に空矢の刀がエアクの首筋へと当てられる。
「のわ!? いきなり何する!?」
「その身で直に味わった方が理解しやすいだろう。今度は俺に打ち込んでくるがいい」
「‥‥ならやってやる!」
 エアクはすぐに起き上がり、勢いのまま先ほどの空矢のブレイクアウトと同じように打ち込むが‥‥。
「甘い!」
「っ!?」
 簡単に空矢に見極められ、返されてしまい地に転ぶはめになる。
「‥‥こういう技は俺に合わない」
 地面に大の字になり寝転びまるで開き直ったかのように言うエアク。
「なら何が合うっていうんだ」
「‥‥見ればわかるさ」
 そんな様子のエアクに軽く呆れながら聞く、やり取りを見ていたアッシュ。エアクは答えるように立ち上がり、剣を上段に構えると。
「せいやぁっ!」
 スパァン!
 かけ声と共に剣を振り下ろすエアク。そして断たれたのは‥‥少し遠くに離れた所にある木の枝。まさしく剣気を飛ばして攻撃をするソニックブーム!
「‥‥前回、剣を扱えただけでも驚いたのだが、何故そんな技が? 昔は何してたんだ?」
「‥‥‥あ」
 一瞬場に訪れる沈黙を破ったのは辰太郎の疑問であった。それを聞き、エアクはしまったといった顔で今の行動を後悔する。
「ねえ、ブライトンでぶらぶらする前は何してたの?」
 子供の頃の事でも何でもいいから、と言葉を続けるはフィオナ。だが相変わらずエアクは黙ったままで。
「私はね、世界中を遊び回ってたわ。あの頃は楽しかったわね」
 エアクが話しやすいようにする為か、フィオナは自分の過去を軽く話す。しばしの沈黙‥‥やがてエアクが口を開く。
「‥‥ここまでやったらなぁ。そうだな‥‥簡単に言えば4月ぐらいまでキャメロットで剣を振るってた‥‥それだけだ」
 そこまで言うと話を打ち切るように‥‥訓練も打ち切るように剣をしまい、自分の寝床へと戻るエアク。冒険者達はその雰囲気に思わず声をかける事ができないでいた。

「エアクさん‥‥何があったんでしょうか。セアラさんなら知ってるのでしょうか」
「セアラさんといえば‥‥」
 心配そうにエアクを見送るジャンヌ。そしてアレナサーラが思い出したように口を開く。
「ギルドの受付の人に聞いたんですが‥‥その人によるとセアラさんを見かけた事があるそうです。詳しくは思い出せないそうですが‥‥ただ名前はセアラではなかったとのことです」
「他人の空似‥‥か?」
 出発前に聞いた事を皆に話すアレナサーラ。とはいえ他人の空似という可能性もあるのでその点をアッシュを指摘する。
「そうかもしれません。気になるのが‥‥その受付の人が最近ブライトンに行った事がある、という事でしょうか」
 もしかしたらブライトンに行った時セアラとすれ違ったりしただけかもしれない。だがそれなら名前に疑問を持つ事もないし、記憶に残る事もないだろう。
 ‥‥セアラもエアクも、一体何者なのだろうか。疑問が冒険者の頭を駆け巡る。

●戦い
 そして冒険者達はブライトン周辺の村にて、夜オーク達を待ち構える態勢を取っていた。
 明るいうちに村について森の中に入りオークの巣を探してみたのだが、中々見つからず仕方なく村で迎撃する事になったのだ。
 万全の態勢で待ち受けていた冒険者達の前に明かりに誘われて現れるオーク。
 確かにゴブリンに比べたら強敵だろう。だが、仕掛けた罠や、各々の連携の取れた戦闘。それらが合わせればオークですら敵ではない!
 村人へ被害を出さないように気をつけて戦った甲斐あって、見事快勝と言ってよいだろう。
 事前に連携の打ち合わせをしたからかエアクも前線に出て剣を振るってくれていた。‥‥その時彼は何を思っていたのかは冒険者達には悟る事はできなかったが。

●終えて
 オーク退治を終えた冒険者達がブライトンへとやってくると突如後ろからかけられる声。そこに居たのはやはりセアラであった。
「今回もご苦労様。オーク退治、見事だわ」
「まぁ、な」
 セアラは労いの言葉をかけると前回と同じく必要事項だけ言うと、またさっさとその場を移動するように去ってしまう。
「‥‥やっぱり風のような人ですね」
 マロースの印象は前回と変わることなく。他の者達も似たようなものだろう‥‥ただ大きな疑問を抱えているだろうが。
「目指す物は分からないが強く為りたければ迷わず来るが良い。しかし、今回はここまでだ。体をしっかり休め次に備えると良い」
「‥‥あいよっと」
 空矢は前回と同じく酒瓶をエアクへと投げ渡す。その後冒険者の各々がエアクへ挨拶をしてから別れる。――いつの間にかいなくなっているフィオナを除いて。

「‥‥ここらでいいかしら?」
「あら、気づいてたのね」
 ふっと人通りの少ない細道。そこでセアラは立ち止まり振り返ると、そこに居たのは彼女をつけるようにしていたフィオナであった。話があるという事をセアラは察しているからか、フィオナは前置きなしで本題を切り出す。
「で、あなたは彼の何を知っているわけ?」
 セアラに関して気になる事もあるが、今はフィオナにとってこちらの方が重要である。
 しばらくの沈黙、それからセアラが口を開いたのだった。
「私は、エアク・ウェルナーなんて人物は知らないわ」
「え?」
「そうね‥‥。クウェル・ナーリシェンという名の騎士なら知ってるけど、ね」
 言い、微笑むセアラ。彼女はまた歩き始める。今度はフィオナは追いかけるような事はしなかった。

 後日、エアクの棲家に届けられる1通のジャンヌからの手紙。
 彼はそれを読み、何を思うのだろうか。