【ブライトン】悪魔のレミエラ

■シリーズシナリオ


担当:刃葉破

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:13 G 3 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:10月03日〜10月10日

リプレイ公開日:2008年10月14日

●オープニング

 ブライトン領主の館、執務室―――。
「さて‥‥‥」
 まず口を開くは、椅子に座り部屋にいる者を見渡す銀髪の女性。ライカ・アムテリア。
 彼女の視界に入る人物は彼女の護衛の騎士だけでなかった。
 白き衣装を身に纏い、金髪を持つ男性とも女性とも取れる顔立ち‥‥何より特徴的なのはその背に広がる白き翼。
 ロー・エンジェルだ。
「あなたの持ってきた情報通りだったわね、ロイさん‥‥いえ、真名はワリアンさん、でしたっけ」
 ロイ‥‥過去にブライトンで起こった事件に巻き込まれ、冒険者達に助けられたロー・エンジェルの名だ。とはいっても、その名はクレリックとしての偽名なのだが。
 彼はブライトンで療養した後、天界へと帰った筈なのだが、それがまたブライトンへとやってきている‥‥真名を明かして、だ。
「どうしてあなたがここへ来たのか。一体ここで何が起こるのか。あなたは何故山賊がレミエラを持つ事を知っていたのか‥‥聞きたい事は山ほどあるけど。ま、それはあなたに順序だてて話してもらった方が良いかしらね?」
 ワリアンがこの地にやってきたのは先日の事だ。彼の天使は領主であるライカのもとまでやってくると、1つの情報を伝えた。それがレミエラを持つ山賊の事であり、その情報を元に冒険者へと山賊討伐の依頼を出したということだ。
 情報は確かであった。となるとライカとしては気になる事は何故その情報を天使が持っているかということである。
 それに答えるようにワリアンが口を開く。
「まず単刀直入に言いましょう。‥‥この件にはデビルが関わっています」
 聞いてライカは表情を厳しくをするが、特に驚いた様子は無い。冒険者達の報告を聞いた限りではデビルが関わっていても何ら不思議ではない状況だからだ。
「私も詳しい事は知らないのですが、上からの話によると高位のデビルのようです。レミエラを複数作り出す力を持っている事からもそれは確かでしょう」
「上?」
「こちらにも色々あるという事です。ともかく、そのデビルがこの地にて何かを企んでいるとの事で私がここへやってきたのです。山賊に関しても私が知ったというより、上からの情報ですね」
 ワリアンの話を聞き、頭を抱えるライカ。
「あぁー、もう何でこう次から次へと厄介な事件が起きるのよ! 高位のデビルまで関わってるなんて‥‥一体ブライトンに何の用があるっていうのかしら」
「ブライトンにデビルの興味を示す何かがあるか‥‥それを調べるのも私の役目だったのですが、特に思い当たるものは‥‥」
 顔を曇らせるライカとワリアン。2人の会話を聞きながら、今まで一言も発してなかった護衛のクウェルはふと考える。
(「何があるか‥‥だけじゃないと思うけどなぁ、土地って。どんな場所かというのも‥‥うーん、いや、俺程度が考えたって仕方ない事か」)
「大体、レミエラってそもそも何? デビルがぽんぽん作り出せるようなものなの?」
 先程までとはまた別の事をいきなり聞きだす辺り、ライカはとりあえず思考放棄したようだ。
 それに対して困った様子でワリアンが口を開こうとしたその時―――

 バタン!

 唐突に開かれる扉、そして息を切らした様子で部屋に入り込む騎士。
「村が‥‥村が山賊達によって占拠されました!」



 ブライトン地方のとある村。
 その村は今山賊達によって占拠されていた。山賊の数は10人。
 村人達は一箇所に集められて人質として扱われているようだ。もっとも、人質以外の扱われ方をされている村人がいる可能性も否定はできないが‥‥。
 山賊達は村人を人質にしている間に、村で好き放題の略奪を繰り返しており、この状況がいつまで続くのか分からない状態だ。
 そして10人の山賊のうち、2人は以前冒険者達と戦った山賊であった。
(「ちぃ‥‥早い所こんなとこからトンズラしてぇってのに‥‥何でこんな事に‥‥!」)
 ぎりりと奥歯を噛み締めながら、馬鹿みたいに騒いでいる山賊達を見る1人の山賊。彼はこの山賊団に正式に入っているわけではない。そんな彼が一緒に行動しているのには理由がある。
(「それもこれも‥‥あのレミエラ売り‥‥いや、あいつの背後にいる野郎のせいだ」)
 彼は思い出す、数日前の出来事を。

「な、また俺達にやばい橋渡らせようっていうのか!?」
「えぇ、大丈夫ですよ。あなた達の仲間はこちらが手配しておきますので」
 命からがら冒険者達から逃げ出した2人の山賊を待ちかまえていたのはレミエラ売りの小柄な男であった。男曰く、今度は手ごろな村を襲撃してほしいとのことであった。
「ざけんなよ、俺達が今更てめぇの言う事聞くとでも思ってんのか?」
「ははは、むしろあなたは聞くしかないんですがね」
「何を―――!?」
 激昂し、その怒りのまま武器を抜く山賊。振るう対象は勿論目の前の男だ―――が。
「やめた方がいい」
 男から聞こえた、しかし男のものではない声。魂を揺さぶるような重く響く声。‥‥正しくは男ではなく男の背後から聞こえていた。
 そこにはいつのまにか闇を纏う何かがいた。はっきりと姿は見えない。だが山賊は本能で悟る―――こいつには逆らわない方がいい、と。
 闇からの声が響く。
「お前でも分かるだろう? その気になれば俺はお前がどこに逃げようと殺せる、という事が。何、次の襲撃が終わればお前たちを見逃してやろう。これでどうだ?」
 あくまでも問いかけるような口調。だがそれは形だけであり、山賊に選択肢なんてものは一切無い―――。


 こうして2人の山賊は別の山賊団に一時的に入る事になったのだ。その山賊団にもレミエラが売られているようだ。
 そして今回の襲撃には何故かレミエラ売りの男が同行していた。戦いに加わる事も無く、何かを奪う事もしない。恐らく目的は2人の監視だろう。
(「くそっ、何としてでも生き延びてやる‥‥何としても‥‥!」)

●今回の参加者

 ea0021 マナウス・ドラッケン(25歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea1364 ルーウィン・ルクレール(35歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3868 エリンティア・フューゲル(28歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea5936 アンドリュー・カールセン(27歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb3225 ジークリンデ・ケリン(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb4803 シェリル・オレアリス(53歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 ec1783 空木 怜(37歳・♂・クレリック・人間・ジャパン)
 ec3138 マロース・フィリオネル(34歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

鳳 令明(eb3759)/ リオ・オレアリス(eb7741

●リプレイ本文

●雨が降り続ける中
 キャメロットを出発した冒険者達は、ブライトン地方のとある村を視線の遥か先に収めていた。
 時間は夜、天気は雨だ。
 この距離ならば例え超越級のセンサー系の魔法でも気づかれる事は無いし、雨で視界が悪くなってる今、村から冒険者達を見つける事はまず不可能だろう。
 用意したテントの中で仮眠を取った冒険者達は最後の作戦会議をしていた。
「何とか上手くいきましたね‥‥」
 仲間達の用意したテントの中から外を覗くのはジークリンデ・ケリン(eb3225)だ。冒険者達は様々な移動手段で早めにブライトンへとやってきて、それぞれ今回の依頼解決の為に動いていた。彼女の場合はウェザーコントロールやレインコントロールによる天候操作‥‥現在の雨という天気は彼女が操作した結果だ。
 また、それに加えて全員にフレイムエリベイションを前日に付与していた。彼女が発動したものならば効果は1日持つからだ。
 事前に魔法を発動させているといえばエリンティア・フューゲル(ea3868)もであり、彼の場合は最早お馴染みといってもいいブレスセンサー。
「これで有利に運べばいいんですがぁ‥‥相手もこの手の魔法を使ってくるかどうかですねぇ」
「どうだろうな。最悪の状況を想定しておいた方がいいのは確かだが」
 事前に逃げ出した村人から手に入れた情報をもとにした地図を睨みながら答えるは空木怜(ec1783)。もし仮にここに人がいれば、ここに山賊がいれば‥‥あらゆる状況へのシミュレーションをしていた。
 頭は冷静に考えようとしている‥‥のだが、時々ノイズが入ってしまう。それは村人がどのような扱いを受けているか、という見えない状況に対しての怒り。
(「胸糞悪いな‥‥くそっ」)
 そうしてシミュレートを続けるうちに、このような状況に対して思うところがあるのか、ふとアンドリュー・カールセン(ea5936)がぽつりと洩らす。
「山賊が村を占拠‥‥これは明らかに裏があるとしか思えん」
 確かに奪うものを奪えばそのまま逃げ出した方が捕まる可能性は低い。占拠する理由は常識的に考えれば存在しないのである。ならば非常識的な理由で占拠している事になり、それがますます状況を混迷化させている。
「それにしてもこの山賊の出現率って‥‥ブライトンって治安が悪いのかしら?」
「騎士団が再編中だからな。山賊達にとってはこれ程の好機は無いんだろう」
 山賊といえば、とシェリル・オレアリス(eb4803)も山賊が次々と出てくる状況に疑問を持つ。それに答えるはアンドリュー。騎士団が壊滅した事件に関わった事もある彼としては、今の状況も分からなくはないのだろう。
「デビルは一体何を企んでいるのでしょうか‥‥」
 マロース・フィリオネル(ec3138)はここに来る前に領主であるライカに告げられた言葉を思い出す。それは、『今回の件は確実にデビルが関わっている、それも高位の』というもの。
 やはり今回の山賊の動きは、そのデビルが画策したものと見て間違いない。
「高位のデビル‥‥。悪魔のレミエラ、碌でもなさそうですし」
 デビルが関わっているとなれば、一連の事件でばらまかれたレミエラはまともな方法で作られたものではないだろう。それこそルーウィン・ルクレール(ea1364)の言う通り、碌でもないものと思われる。
「―――ずっと気になっていた。これ程高性能のレミエラを生み出せる『合成アイテム』は何だったのか」
 今まで厳しい顔をしていたマナウス・ドラッケン(ea0021)が悪魔のレミエラという単語を聞き、呟く。
 彼の想定するものは‥‥。

 夜の帳を雨が叩き続ける中、打ち合わせは続く―――。

●陽動突入
 冒険者達が村人救出の為にとった作戦はこうだ。
 まず複数人が陽動班として大々的に突入する。その間に人質救出班が気づかれぬように村人達を助ける、というものである。
 こうして表してしまえば単純なものであるが、実際はそうではない。だからこその打ち合わせである。
 そして敵の配置などの情報が物を言うこの作戦。これに大いに役立ったのがジークリンデのスクロール魔法の組み合わせだ。
 テレスコープで遠くまで見る事ができる視力を手に入れ、エックスレイビジョンを発動し、建物や山賊の配置、人質の様子などを見て仲間達に仔細に伝える。
 ‥‥無惨な状況にあっている村人―――やはり女子供が殆どだ――を先に知る事ができたのは、幸か不幸か。
 それらの話を聞いた冒険者達の顔に浮かぶは、怒りのもの。
「とても許せるものではない‥‥!」
 そう呟いたのは、誰か。それとも全員か―――。

 こうして手に入れた情報をもとに、冒険者達は動き出す。
 テントを出る前にジークリンデが全員にインフラビジョンを付与し、またスクロールが使えるものはシェリルの持つリヴィールエネミーのスクロールを順番に発動させる。
 各自の準備が出来たのを確認すると、村に向けて移動を開始する。
 始めに陽動として突入するのはルーウィン、エリンティア、ジークリンデ、シェリル、怜、マロースの6人。また怜はペガサスのブリジットに騎乗していた。
 夜の雨という状況、敵がこちらに気づくにはかなりの注意力が必要だろう。しかし、冒険者達はインフラビジョンの効果によって、それらのマイナスを無いものとして動ける。
「行くわよ‥‥!」
 シェリルからは見える見張りの男‥‥だが、男がこちらに気づく様子は無い。しかしあまり近づきすぎては気づかれるだろう、がこの距離で十分であった。
「な、なんだ―――!?」
 突然硬直したようになり、その場に倒れる見張りの男。シェリルが発動したコアギュレイトだ。彼女の実力ならば、相当の距離離れていても対象にする事ができる。
 見張りの男が倒れた時の物音で、周囲が何か不穏を感じ取ったようだ。そして冒険者達が突入するのはこのタイミング――!

「て、敵だー!!」
 冒険者達の襲撃に気づいた山賊の1人が村中へと響く声を上げる。村のあちらこちらから慌しく動く雰囲気がある。
(「ちぃ! ついに来やがったか‥‥!」)
 それを聞き、心の中で毒づく1人の山賊。それは以前にも冒険者達と戦った山賊だ。彼は自分達では冒険者に敵わない事を知っている。だから彼が村長の家に逃げ込むというのは、ごく自然なものと言えただろう―――。
 そして彼と同じ行動を取った山賊がもう1人‥‥彼もまた冒険者達と戦った山賊。2人は正面からぶつかる気なぞ毛頭も無いのだ。

 単純に戦闘で言えば負ける要素はまず無かった。
 マロースとシェリルが高速詠唱で発動したホーリーフィールド‥‥これは1人の山賊による2回のソニックブーム――武器が光っていた点からレミエラの力だろう――で2つとも破壊されたが、即座に張りなおした。攻撃をした山賊自体はジークリンデのストーンの抵抗に成功したのもつかの間、怜のコアギュレイトで拘束されていた。
 果敢にも武器を構えて攻めてくる者も居たが――
「こちらの注意がお留守ですよぉ」
「!?」
 突然、山賊の真後ろから聞こえてくる声。つい振り向いてしまうがそこには誰もおらず、その隙をルーウィンに斬り伏せられてしまう。
 エリンティアがヴェントリキュライで何もないところから声を出して隙を作ったのだ。
 そうこうしているうちにシェリルが常人を超越した力のホーリーフィールドを展開し、鉄壁の陣地を形成する。生半可な力ではまず突破できないだろうし、もしできたとしてもシェリル本人に加え、マロース、怜、ペガサスのブリジットと高速でホーリーフィールドを形成する面子が揃っているのだ。突破は容易い事ではない。
 勿論山賊も馬鹿ではないのだから、村人を盾にしようとするのだが―――さすがに分が悪い。
「予想通りの行動だけれども‥‥!」
「そうはさせるかぁ!」
「束縛よ―――コアギュレイト!」
 シェリル、怜、マロースの3人は即座にコアギュレイトで動きを止める事ができるのだ。1回2回は抵抗できるとしても3人分のコアギュレイトを全て抵抗するのは無茶な話だ。
 それに加えジークリンデもストーンで敵を無効化する事は容易いし、万が一それらの魔法を全て潜り抜けたとしても、エリンティアの補助の魔法とルーウィンの攻撃もある。
 実際、精霊魔法の使い手と思われる者は拘束魔法に対して全て抵抗していたが、結局ルーウィンの攻撃とジークリンデの直接火力――マグナブロー――で焼き払われてしまった。
 冒険者達は村人を人質に取る山賊を優先的に無効化する事だけに気をつければ、制圧は簡単であった。
 ―――とりあえず、向かってくる者に対しては。
「灼熱の溶岩よ、焼き払え――! ‥‥ふぅ。これで、あと2人いる筈ですが‥‥」
 半ばやけくそになって突っ込んでくる山賊のマグマブローで焼き払ってから、とりあえず落ち着いたように思える周りを見渡すジークリンデ。
 もはやレミエラがどうとかまったく関係ない圧倒的な力による制圧であった。幸い、見る限り村人にも被害は無い。
 そして問題は残りの2人―――。

●人質救出班
 人質を救出する為に影で動くのはマナウスとアンドリューの2人。
 陽動班が実に派手に動いてくれている為、実際彼らも動きやすそうだ。
 事前に人がいる事を知った家の中の様子を伺い、山賊がいない事が分かった2人は家の中に入る。
 2人が見たのは、数人の女性達。彼女達は、2人の姿を見ても喜ぶ事なくただ怯えたように後ずさりをするだけだ。
「―――。‥‥立てるか? 立てるなら、あっちの主戦場から離れるように逃げろ」
 マナウスも一目見て状況を理解したのだろう。近づく事はせずに現状を伝える。
 周囲がある程度安全なのを確認してから、家を出て別の家に向かう2人‥‥。
 ‥‥ギリッ。
 歯が割れそうになる程、強く噛み締める彼らの心中は。
 そうして次々と村人達を解放していく2人であったが‥‥。
「‥‥んんー? 誰か2人が村長の家に入ってからぁ‥‥その後4人で出てますねぇ」
 建物の影に隠れながら周囲の様子を伺うようにしているアンドリューの首元から聞こえてくるのは、アンドリューではなくエリンティアの声。
 エリンティアがブレスセンサーで得た情報をヴェントリキュライを使い、伝えているのだ。
「何!?」
「‥‥村の外に出ようとしていますぅ? 南の方向ですねぇ」
 今のと、先ほどの言葉から推測するに。
「人質を連れて逃げようとしている‥‥!?」
 マナウスとアンドリューは、エリンティアの指示に従い逃げた2人を追う!

「ん‥‥!?」
 エリンティアの指示する方向に向かって走り始めて、マナウスは石の中の蝶が反応し始めているのに気づいた。
 つまり、自分が行こうとしている場所にデビルがいるのだ。
 だが――立ち止まる事はできない!
 そして村のほぼ出口でマナウスとアンドリューは、2人の山賊を見つける。彼らが片手に抱えるのはいずれも幼い子供。人質として扱いやすい者を選んだのだろう。2人とも必死のようで、追手には気づいていないようだ。
「逃がすかよ‥‥!」
 山賊が振り向く前にマナウスはダガーを投げる。その狙いは山賊の首‥‥!
 怒りの刃は吸い込まれるように首に向かい――刺さる!
 相方の男が刺され、倒れた事でもう1人はようやくこちらに気づいたのだろう。剣を子供の首に押し当てながら振り向く。
「く、来るんじゃねぇ! こいつがどうなってもいいのか!!」
「何ともお約束だな。だが‥‥後ろのやつには注意しなくていいのか?」
「え――?」
 瞬間、隙を見せた山賊に向かってアンドリューの手元から縄ひょうが放たれる。それは山賊の腕に当たり、山賊は走った痛みから子供を手放してしまう。
「ぐぁ!?」
 普通ならそう決まらないものだが、よっぽど山賊は気が動転していたのだろう。易々とそれに乗ってしまった。
 そのまま人質を手放した隙を一気に2人に取り押さえられる!
「く、くそ! 俺は、俺はこんなところで―――!?」

 カツンカツン‥‥。
 雨の中、誰かが歩いている。
 それはまるで商人のような、村人にも山賊にも見えないような‥‥小柄な男であった。
「潮時だな。それじゃ、見届けた事だし、俺はさっさと退散するか」
 しかし、冒険者達は逃がしはしない‥‥!
「そうは、いくかよ?」
 男は冒険者達に包囲されていた。山賊を全て制圧した事を確認した冒険者達は石の中の蝶やデティクトアンデットの力で、デビルを探っていた。その結果がこの男‥‥恐らくレミエラ売りと思われる男だ。
「正直、お前から一つレミエラ買ってみたいと思っていたところだが‥‥用件はそれだけではなくなりそうだ」
 冗談めかしながら武器を構えるアンドリュー。同じように他の冒険者達も構える。
 何としても捕らえ、情報を聞き出す‥‥それが冒険者達の狙いであった、しかし。
 ヒュ―――ボウッッ!!
「あひぇ?」
 どこからか飛来した黒い炎。それが男に直撃し、その体を包む!!
「な、こここいつはブラッあぐレイんぐぁ!? しかもこあがぁ!? ハびゃばル様のじゃねぇか!? お、俺様を捨てててぎゃぁぁぁ!?」
 男を黒き炎が包み、燃やしていく。
 あまりにも唐突であり、冒険者達は一瞬呆然としてしまった。
 次に冒険者達が覚醒したのは、男の姿がインプ――非常にレベルの低いデビル――になった直後に、光のように消えてしまってからだ。
「あいつは、使い魔か何かだったのか‥‥? それが消された‥‥?」
 今目の前で起きた事を必死になって整理しようとする怜。
「消された‥‥ということはより高位のデビルに、ですか?」
 マロースがそれを受け継ぐ。だが、マロースのデティクトアンデットの範囲内にも、マナウスの石の中の蝶にも反応は無い。
 つまり、それらの範囲外からの攻撃なのだ。
「俺達を狙い撃てるくせにしないとは‥‥よっぽど余裕綽綽のようで」
 マナウスが言う通りなのだろうか。それから、攻撃の兆しは無かった。


 こうして、レミエラを巡る一先ず一連の事件は幕を下ろす。
 だが、それはブライトンのこれからの波乱を示すものであった―――。