【ブライトン】レミエラに潜むモノ

■シリーズシナリオ


担当:刃葉破

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:10 G 51 C

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:09月02日〜09月09日

リプレイ公開日:2008年09月10日

●オープニング

 イギリス王国はブライトン。
 ドーバー海峡に面しているその地方にて起きた事件。
 それが意味するものは――――。



 よく片付けられた部屋、そのうちあまり整頓されているとは言えない机に向かっているは1人の女性。
 ライカ・アムテリア‥‥ブライトン領主である。彼女は領主の館の執務室で何やら資料に目を通しているようだった。
「‥‥妙ね」
 彼女がそう呟くと同時、部屋の扉が開かれ1人の男性が入ってくる。護衛の騎士のクウェルだ。
「あいよ、他のレミエラの調査結果も出たぞ」
「ありがと」
 クウェルはライカの傍によると、数枚の羊皮紙を差し出す。それをぱらぱらとめくるようにして目を通すライカ。
 目を通していくうちに、あまり晴れやかとはいえない状態だったライカの表情が更に厳しいものになっていく。
「やっぱり‥‥おかしいわ」
「ん?」
 彼女が目を通していた資料は先日ブライトン領内に現れた野盗が持っていたレミエラについてである。
 レミエラ自体は最早そう珍しいものではないのである。そうであるが‥‥このレミエラについては怪しいところがある。
 まず、出所だ。現状、一般人がまともにレミエラを入手しようと思えばエチゴヤでレミエラ合成するしかない。
 盗賊などのアウトローといえど、まず自力でレミエラを合成するのはできない話だから結局はエチゴヤを頼るしかない。
 だが先日捕らえた野盗達を尋問したところによると、小柄な男性に格安で譲ってもらったという。
 真意は分からないが、もしかするとその男がエチゴヤでレミエラを合成した‥‥そう考えるのが自然ではあるのだ、が。
「‥‥たった1人でこれだけの量の? 良質なレミエラを‥‥?」
 野盗達が使っていたレミエラ。それは彼らが使うにはあまりにも不相応なもの―――何度も合成されたものであった。
 そのレベルのレミエラをエチゴヤで用意しようと思えば、1個あたり20G近く必要になる。
 それを8個である。単純に考えて150Gという大金‥‥一般人どころか貴族ですら怪しい金額だ。だというのに、レミエラを売ったという男はその10分の1の金額も要求していないという。
「これは‥‥どういう事かしら」
「やっぱり冒険者が探知したアレは‥‥」
 クウェルの言うアレ。
 先日の野盗を退治したのは冒険者であるが、その冒険者の1人が持っていた石の中の蝶――デビルの接近を知らせる指輪だ――が微かとはいえ反応したのだ。
 今回の事件にデビルが絡んでる可能性は‥‥非常に高い。

 コンコン。

 扉がノックされる音。クウェルが部屋の入り口まで行き、ノックの主から話を伺うとそのままどこかへ立ち去る。
 どうやら話によると来客があったようで、それの対応にクウェルが呼ばれたようだ。
 それからしばらくして―――。


「―――お伝えしたい事があります」




 時と場所は移ってキャメロットギルド。
 ギルドの受付にて話をしているのは、クウェルだ。
「つまりは依頼内容は‥‥山賊の退治って事でいいんですね?」
「あぁ、そういう事だ」
 クウェルが持ち込んだ依頼の内容は、ブライトンのとある山を根城としている山賊の退治である。
「山賊退治とはいえ、ある程度経験を積んだ冒険者達を頼む」
「依頼人がおっしゃるなら構いませんが‥‥山賊相手に随分慎重ですね」
「そうだな‥‥その山賊が高レベルのレミエラを所持している、となったら慎重にもなるだろ?」

●今回の参加者

 ea0021 マナウス・ドラッケン(25歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea3868 エリンティア・フューゲル(28歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea5936 アンドリュー・カールセン(27歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb3225 ジークリンデ・ケリン(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb4803 シェリル・オレアリス(53歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 eb9943 ロッド・エルメロイ(23歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec1783 空木 怜(37歳・♂・クレリック・人間・ジャパン)
 ec3138 マロース・フィリオネル(34歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

山王 牙(ea1774)/ カーラ・オレアリス(eb4802)/ 木下 茜(eb5817)/ アルミューレ・リュミエール(eb8344)/ ローラ・アイバーン(ec3559

●リプレイ本文

●たかが山賊
 場所はブライトン、山賊が現れるという山の周辺の村だ。
 そこに集まる8人の男女‥‥山賊退治の為に集った冒険者達が互いの顔を見合わせる。
 冒険者の1人‥‥アンドリュー・カールセン(ea5936)が嘆息しながら羊皮紙を広げる。
「今度は山賊か。節操もなにもあったものじゃないな」
 言いながら羊皮紙に記入していくは村人から聞きだした情報を元にした山の地形だ。
 話を聞いた時のメモを頼りに、仲間が聞いた情報も合わせより正確な地図へとしていく。
「犯罪者にレミエラを供与して犯罪を煽っている様にも見受けられます。或は実験なのかも知れないですね」
 アンドリューが描いた地図に情報を書き足すはジークリンデ・ケリン(eb3225)。
 彼女は、遠くを見渡す魔法テレスコープと温度に頼った視覚を得るインフラビジョンを組み合わせて山の中を一通り見たのだ。結果、山の中にも野生動物がいるから正確ではないとはいえ、動物らしき存在が集まっている場所を数箇所特定できた。
 その多くはただの野生動物の巣だろうが、山賊のアジトがその中の1つである事は恐らく間違いない。
 それらのポイントを地図に書き足していく。
「確かにレミエラを使えば、山賊達でも格段に戦力が上がるのでしょう。実験にしろ何にしろ陰謀を目論む者には、好都合と言う事でしょうか。しかし‥‥」
 思案顔で情報が書き込まれる地図を眺めるロッド・エルメロイ(eb9943)。
 そんな彼の疑問に続くように口を開くはエリンティア・フューゲル(ea3868)だ。
「黒幕は何者か、ということですねぇ。‥‥悪魔が絡んでいるからには悪魔が黒幕かもしれませんねぇ」
「悪魔が絡んでるとなると面倒な事になりそうだな。出来るだけ、良い形で勝ちたいものだが」
 エリンティアの言葉を聞き、空木怜(ec1783)は溜め息をつく。彼としても悪魔が絡んでる事は覚悟していたのだが、改めて認識すると頭が痛くなってくるといったところか。
 何にしろここで情報を手に入れるなりしておかないと領主――ライカ――に余計な負担がいく。それは避けたいというのが彼の思うところであった。
「そうですね、その為にも常識は捨てて行こうと思います。まだ私達の知らないレミエラもありますから」
 ほぼ完成された地図を見ながらマロース・フィリオネル(ec3138)は覚悟を決める。
 前回、自分達が知っているレミエラの効果だけで虚をつかれたのだ。もし知らない効果を持つレミエラを使われたら‥‥そう覚悟するのは重要な事であろう。
「ま、かるーく始めるか」
 最後にマナウス・ドラッケン(ea0021)が自身が聞き集めた情報を地図に補足のように書き込む。
 軽く、といったが実際のマナウスの覚悟は――重い。
「そそ、死んでも生き返らせるからたんと戦ってきなさいな」
 シェリル・オレアリス(eb4803)の一言。その直後に冒険者達一同はジト目で彼女を見る。
「あら、あら?」
 確かに生き返る事ができるとしても、普通死んでもよいという人はいない。
「えっと‥‥と、ともかく。準備が出来たら山に入りましょうか」

 決行は―――夜。

●されど山賊
 日が完全に沈み、辺りを闇が支配する時間。
 暗闇の中では行動に支障が出るものだが、それをカバーする為にジークリンデが全員にインフラビションの魔法を付与していた。
 確かにこれなら暗闇の中でも問題なく行動できるが、問題は個人の識別がしにくい事である。
 手に武器を持たない者は攻撃しないように心がけていても、手に武器を持つ者のうち識別用の銅鏡を身に着けているのはマナウスと怜の2人だけだ。
 一応、体格や装備などである程度識別の対策をしているとはいえ咄嗟の判断は難しい。
「声かけが重要‥‥かな?」
 暗闇のアドバンテージを活かすにしても、同士討ちをしては意味がない。怜の言う通りにした方が無難だろう。
 こうして試行錯誤してから、冒険者達は森へと入る。

 「‥‥反応、ありましたですぅ」
 そして、山に入ってから数刻。地図を頼りに行軍し、いつ山賊が現れるかと気の抜けない状態で警戒を続ける冒険者達の静寂を破ったのは、やはりというべきかブレスセンサーで周囲の警戒を行っていたエリンティアであった。
 予め村人達に山に入らないように言っているので、ここで反応する人間のものは間違いなく山賊のものだろう。
 ちなみに、山に入ってからある程度時間が経っている為にインフラビジョンの効果は切れ、その度にジークリンデが付与し直している。
「上を取る‥‥は厳しいとしても、下に回る危険は犯さずに済みそうか」
 冒険者達と現在の山賊の位置、そして地図に描かれた地形を元に考えて、これからの移動ルートを考えるマナウス。
 エリンティアの索敵範囲が広い事もあり、気づかれずに場所移動するのは気をつければ何とかなりそうだ。

 山賊達の数は8。その全てをブレスセンサーの範囲に収め、敵の位置を把握した冒険者達。
 ある程度は一箇所に固まってるとはいえ、見張りの為か3人程は分かれており、気づかれずに距離を縮めるといっても限界はある。
 恐らく限界だと思われる場所にシェリルがホーリーフィールドを張った瞬間――。
「――何だ!?」
「気づかれたか!」
 魔法発動時に発する淡い光に気づいたのだろう、見張りのうちの1人がこちらに気づき、仲間達を呼ぶ。アンドリューもそれを理解したようで、仲間に気をつけるよう促す。
 事前に移動した為に完全に上を取られるのは防いだが、やはり山賊の持つ地の利を考えてもある程度敵が上を取りやすい位置関係である事に違いない。

 山賊は確かに並みの騎士では歯が立たない存在であった。
 山賊の実力に、レミエラで底上げされた戦闘力――今回は特殊な能力よりも、地味ながらも威力や命中率を上げるレミエラだと思われる――が加わっていたからだ。
 だが、冒険者達の動きも見事なものであった。
 ロッドのスモークフィールドがただでさえ視覚面で不利な山賊を更に不利にし、マナウスとアンドリューが前に出て敵を止める。
 そしてフリーになっている敵へジークリンデが強力なマグナブローを決め、エリンティアとマロース、怜が魔法による補助で場を固める。
 シェリルのホーリーフィールドも考えれば、特に問題もなく敵を撃退できただろう。

 だが、前衛がどうしても少ない以上抜かれる事はある。前衛の隙間を縫うように1人の山賊が後衛へと向かい走る。上から下へと駆けている為にその勢いは強い。
「そうはさせないわ、潰れなさい!」
 すかさずシェリルが広げるスクロールはイタニティルデザートの魔法が書かれたものだ。
 現在扱える者を見る事がまともに無い複合精霊魔法イタニティルデザート。効果は直径30mの範囲に高さ3mの熱砂を降らせるというものだ。
 この効果は物理的なものであるため、どれだけ魔法に耐性があろうと耐える事ができない。もし身長が低いものがこの魔法の対象になってしまえば身動きができなくなる強力は魔法である。
 だが――それはあくまで平地で使った場合だ。
 現在の戦場は山、しかも傾斜は急である。そんな場所に山積みとなった熱砂が現れた場合どうなるか。
「ぐぇ!?」
「え‥‥?」
 対象となった山賊が生き埋めになったその直後、砂は崩れ始める。物理的な砂だからこそ、物理法則に従い傾斜に沿って。勢いよく、山の麓へと向かって。
 草木である程度止められるとはいえ、元々の砂の量が尋常ではない。
 となると、イタニティルデザートの対象のポイントから下に居た者達――後衛組――が巻き込まれてしまう。
「きゃあぁ!?」
「うぅ‥‥ですぅ」
「くはっ‥‥!?」
「っつぅ――!」
 これは物理現象であり、敵意を伴った攻撃ではない為ホーリーフィールドで防がれる事はない。
 勢いよく流れる熱砂に足を取られ、後衛の者達は体勢を崩し、転倒していく。
「――今だっ!!」
 そしてこれを好機と見た山賊はあちこちへ逃げ出すように走る。戦っているうちに不利を悟るぐらいは出来たらしい。
「なっ、待て!」
 慌てて追いかける無事な冒険者達‥‥だが。

 やはり、地の利は山賊にあった。
 必死に追いかけ捕まえたものの、2人には逃げられてしまうという結果になってしまった。
「‥‥とにかく、分かるだけでも聞いていくとしよう」
 捕まえた山賊への尋問を始めるアンドリュー。
 結果聞き出せた情報は‥‥やはり前回と同じようなものであった。
「また小柄な男が‥‥ですか。その男が‥‥デビル?」
 考え込むマロース。確かにそう考えるとスムーズでは、ある。
「周囲の反応はどうですか?」
 山賊達が小柄な男と出会ったのは1週間以上前だそうだからパーストの使用を諦めたジークリンデは、龍晶球を使用し周囲にデビルがいるかどうかを探っている怜に尋ねる。
「ちょっと待ってくれ‥‥っと、出た」
 1分の祈りの後‥‥指輪につけられた宝石が―――光る。それはつまり周囲にデビルがいるという事だ。
「また高見の見物か‥‥!?」
「今はその方がありがたいかもしれないですけどぉ‥‥」
 気を張り巡らせるマナウスとは対照的に、もの悲しげに言うエリンティアの視線は自分の懐‥‥。戦いに巻き込まれて死んでしまったトカゲのペットを見ていた。
 懐に入れている以上、まったく安全とはいえない。自分がダメージを受ければペットが死んでもおかしくないのだ。

 メェー。
 どこからヤギの鳴き声が聞こえた気がした。

「ヤギ‥‥?」
 ロッドが疑問に思った直後‥‥龍晶球の反応が消えた。

●天からの使者
 冒険者達が捕らえた山賊達をブライトンへと護送した後、領主であるライカは冒険者達からの報告を纏めた報告書に目を通していた。
 彼女は報告書から顔を上げると、自分の目の前に立つ人物に視線を送る。
「教えてもらいましょうか、このブライトンで何が起こっているのか‥‥起こるのか。ロイさん―――いえ、今はワリアンさん、でしたか」
 ―――白き翼を持つ者は何を伝えるのか。