●リプレイ本文
「村の入り口と村長宅周囲には見張りが常駐。他は村をうろついているか‥‥‥」
村を一望出来る小高い丘。ジーン・アウラ(ea7743)は地図を片手に遠くの村を見下ろした。
出発前に依頼人から話しを聞いてそれを元に作った地図は精巧さとは無縁なものの、大まかな位置はあっているし破戒僧の配置も間違っていない。さほど優良視力の技が優れているという訳ではないものの、常駐以外の破戒僧の動きはまるで訓練された兵隊のようである。
遠目ではただ動き回っているだけのように見えるものの、よく見れば各方面に点在する破戒僧が互いにカバーしあって外を警戒している。人が住みやすく守り難い環境での上手いやり方だ。
「北と東の村人は洗脳されたらしいけど、このままだと西の人もそうなるかもしれない。何か特別な手段でも用いたのかな?」
北と東の村の村人は洗脳されたと言うが、洗脳なんてものは手間暇もかかるし失敗する事も多い。村規模という時点で大掛かりなものとなるとあきらかに目的があっての事だろう。どうしても人が必要な。
村人達に武装させ破戒僧の指示の下訓練を行っているらしく、まるで、これからどこかに攻めていく準備をしているかのような‥‥‥
――そう言えば、北と東の村は源徳公に不満を持つ人が多いって聞いただよ。
依頼人がそんな事を言っていたのを思い出した。その辺り関係しているのだろうか。
「クゥエヘリさんと蓮さんがそろそろ村に入る。おいらも行かないと」
陽動班の二人が見張りの破戒僧といさかいを始めたのを確認してジーンは姿を消した。
「何用じゃお主ら。わしらはこの村に立ち寄っただけじゃが?」
陽動の為に村を訪れた瀞蓮(eb8219)は杖を手に迫ってくる破戒僧達をねめつけた。話しに聞いていた通り余所者に対し捕らえようとしている。今まで訪れた旅人もそうやって捕まったらしい。
「現在この村は当寺の占領下にある! 余所者は我らと共に来て頂きたい!」
「抵抗せねば身柄の保証はしよう。だが、抵抗するならば容赦はしない」
破壊僧達は最初から二人の主張は聞いていない。口上を述べ彼女達を捕らえようとしている。事前に聞いていたとはいえ、さすがにここまで問答無用とは思ってなかった。どこか自分達を見る眼が違う目的を宿している気さえする。
前衛型の蓮はともかくレンジャーのクゥエヘリ・ライ(ea9507)は身を引きつつ短弓早弓を取り出し矢に手を添えた。女としての直感が危険を訴えたのだ。
「何だ貴様。そんな物を取り出して」
「これは危険だ。我らの安全の為に取り上げなければいけないな」
もの凄く棒読みである。クゥエヘリは周囲の状況を確認。破戒僧と言えば重たい武器を持っていそうなイメージがあるものの、杖を手に割りと普通ないでだちである。
「貴様も危ない物を持ってないか確かめないといけないな。身体検査せねばならないと思うがお前はどう思う?」
破戒僧は相方の破戒僧に尋ねた。好色そうな、かつて世と人に尽くしたであろう僧は、すっかり道を外れた外道のそれになっていた。
「そうせねばなるまいな。俺達とて自分の身を守らないといけぬしな」
彼は頷き蓮に手を伸ばす。だが、
「――ふん。愚か者が」
電光石火、破戒僧を殴り倒した。頬に鉄扇が食い込み骨が砕ける感触が伝わる。
「貴様、抵抗する気か!」
「当然じゃろう。わしも自分の身を守らなければなるまい?」
騒動を聞きつけた他の破壊僧達が駆け寄ってきた。クゥエヘリはそこへ目掛けて射掛けた。そもそもの目的は破戒僧の陽動である。
蓮は鉄扇を広げ構えた。破壊僧達は杖を手に蓮へ襲い掛かる。
「‥‥‥それでは、共に踊ってもらおうかの?」
踊るように優雅とすら思える体捌きで破壊僧達をあしらう。数が多いとはいえ格闘術に長けクゥエヘリの支援を受け、蓮は破壊僧達を手玉に取っていた。さながら演舞のようだ。
武は舞に通ず。彼女の持論である。
陽動の二人が破壊僧達を引きつけている間、星森(eb5526)は村の上空を飛んでいた。平時なら速攻でバレそうであるが、蓮とクゥエヘリが村の入り口で大立ち回りしているおかげで気取られる事はなかった。
箒に跨り空飛ぶ河童。中々シュールな光景である。
フライングブルームから降りてバックパックにしまうと森は物陰に降りると村長宅を伺った。多くの破戒僧が出払っているとはいえ見張りは残っている。陽動班によって多くの破戒僧は出払っているから手薄になっているものの、一層警戒を強めてしまっている。
「やりにくいな‥‥‥」
隙がないかと伺うも、門番よろしく村長宅の玄関先を守る姿を見るとうかつに手を出せそうにない。最悪村人を盾にされるかもしれない。当初偵察に出た際は、攻め易くどうにかなると思っていたものの、いざ現場に立つと思い通りにいかない。
そもそも救出班にはジーンもいた筈だ。手筈通りなら合流している筈だが姿は見えない。陽動も長くは持たないだろう。偵察の際、空から見た村には多くの破戒僧がいた。蓮は武芸に長けクゥエヘリの支援もあるとはいえ多勢に無勢。早く援護に向かわないといけない。
どうしたものか‥‥‥。そう考えあぐねていると、
「森さんどうしただ?」
背後から急に声をかけられて肩を叩かれて、
「――!?」
振り向き様戦傘を振り抜いた。炸裂する壊音。木造家屋に大穴が空いた。
「ジーン殿? 何だ。貴女だったか‥‥‥」
「何だじゃないだよキミ。死ぬ所だっただよ」
壁にめり込んだ戦傘。芯に鉄を仕込んでいるそれは、盾にも打撃武器にも使える一品である。当たり所が悪ければ普通に撲殺可能な代物だ。
「気配なく突然声をかけられれば当然だ。少しは自重しろ!」
超越レベルまで鍛え上げ神懸かる程存在を気取られる事のない忍び歩き技術。達人ですら気配を察するのが難しいそれは、忍者に転職してもやっていけそうな程だ。
「悪かっただよ。でも気付かれたら困るだよ」
それはそうだろうがやり方というものがある。不審に思った見張りが声を上げた。
「誰かそこにいるのか!」
森は一瞬ためらったものの、ジーンに耳打ちした。彼女は姿を消して森は戦傘を捨て置いて物陰から出てきた。両手を晒し武器を持ってないと示す。
破戒僧は駆け寄って捕まえようとする。だが、いつの間に動いたのか家々の間を抜けてジーンが破戒僧の前に現れた。
「な――!」
短弓早矢から放たれる矢。最早神域に到達せんばかりの忍び歩き技は、自身を霞の如く存在そのものを断ったとばかりに気配を消してみせた。
走り出した勢いは止められなくてそのまま矢に突っ込んだ。事前の相談では奇襲をする、と作戦を立てていたものの、これもある意味奇襲である。
たたらを踏んだ破戒僧。森はその隙を付いて毒手を叩き込んだ。
猛毒を体内に宿す邪悪な蛇の牙。十二形意拳巳の奥義。蛇毒手である。
「森さんお見事だよ」
森の技に健闘を讃えたジーンは早朝宅を覗き中にも破戒僧がいないか確認する。幸い破壊僧の姿はなく外の騒動に脅える村人達だけだ。
二人は家に入り無事を尋ねた。これといった怪我もない。
「ジーン殿。後は俺に任せ蓮殿とクゥエヘリ殿の援護に向かってくれ」
破戒僧に備え入り口や塞ぐよう指示する森。自分が出たら戸に箪笥を移動するよう指示した。
ついでに麻痺で痺れている破戒僧を縛る為縄を借りた。縛るついでに問い質す。
「教えて欲しいんだ、頭は住職様なのか? 話に聞く者とは思えぬ行動なのだが?」
陽動はあくまで敵をひきつけ本隊の目的を達成させる事にある。
クゥエヘリの的確な射撃は破戒僧に手傷を負わせぎりぎりの所でわざと外して、破戒僧の気を引く事に成功していた。
いつでも射抜けるのにそうしない。手加減されていると憤慨した破戒僧達は我先に襲ってくる。
「白、飛んで!」
愛馬に命令を下す。白い駿馬は一声啼いて主の指示に従う。
振り下ろした杖は地面を穿って抉る。クゥエヘリは矢を二本番え打つ。致命を外しているものの一人二人打ち倒し確実に数を減らしている。
「おのれ馬鹿にしおって――!」
黒の神聖魔法。未熟とはいえど生命力を奪う術を放とうと狙い定める。だが、
「わしを忘れるでない」
翻るアイアンマント。蓮の上段回し蹴りが破戒僧の脳を強烈に揺らした。こっちも破戒僧の群れを相手に鉄扇一つで攻撃を捌き、避け、逃げ回っていた。倒そうとすればいくらでも倒せるが、そうすると援軍を呼ぼうとして奥に逃げられる。救出班の邪魔になるから今まで逃げに徹していたのだ。
破戒僧は円陣を組んで杖を槍のように構える。突撃。
「よく考えおるの。――だが」
開いた鉄扇。舞を始めるかのように優雅に腕を伸ばし、
「甘い」
襲い掛かる杖の全てを捌ききる。ダメ押しをするかのようにクゥエヘリの矢が破壊僧達の腕や脚を射抜いた。
「どうしたお主ら。女子二人相手にだらしないのう」
不敵に挑発する蓮。まだまだ余裕がありそうだが、逃げつつ殺さない程度に痛めつけるのはかなり大変だ。実力はこちらが上でも数は向こう分がある。どうしたものかの‥‥‥と内心焦りを感じ始めている中二人の逆方向。破戒僧達の背後から矢が飛んできた。支援に来たジーンである。
「蓮さん。反撃開始です!」
クゥエヘリは矢を番え討つ。今度は、正確に破戒僧の喉を射抜いた。残酷な気もするが万が一術を使われたら困る。
攻勢に転じた蓮を援護しつつ破戒僧を穿つ。挟撃により次々と数を減らされ敗北悟った破戒僧は逃走を始めた。
「白!」
愛馬が駆ける。彼らを率いているという住職にこちらの存在を知られたら困る。生かしておけないのだ。
優れた乗馬技術に愛馬との深い絆。そして身に付けた弓術の技は破戒僧を捉えた。
「悪いですが仕留めさせてもらいます!」
弦を引き絞る指を離す。放たれた矢は破戒僧を貫いた。
「この村のものを捕えて何をするつもりだった? 教えてくれるのなら身の安全は保障しよう」
縛り上げた破戒僧を尋問する森。既に勝敗は決し仲間の冒険者達は後始末をしていた。
「この村を解放した所でどうにもならん。住職様にいずれこの村も貴様等も住職様に滅ぼされる‥‥‥」
「どういう意味だ?」
森は訪ねるも、
「住職様! 後はお任せします!」
獣のような咆哮を上げ舌を噛み切った。倒れ伏し口から垂れ流れる鮮血。
「自ら命を絶ってまで秘密を守った? どういう事だ?」
壮絶な最後を遂げた破戒僧に気圧される。まるで君主に仕える部下が、君主を守る為に命を投げ出すような‥‥‥。
森はその覚悟に戦慄を覚えた。こんな破戒僧がもっと多くにいるのか?
何か大きな陰謀が隠れているような、そんな予感がした。