全ては夢幻の如く 二
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■シリーズシナリオ
担当:橋本昂平
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 55 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月07日〜05月12日
リプレイ公開日:2007年05月16日
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●オープニング
――まあ、よく見てみれば物騒なこともあるもので
僧侶となってからの彼は熱心に修行を続けた。生来勤勉であり努力家であり真面目である彼は、侍として研鑽を重ねていた全てを僧侶のそれへと変えた。
慈悲深い彼は場合によっては他者の命を奪うかもしれない侍より人を救う僧侶の方が向いていたかもしれない。
実際修行の日々は充実していた。
同門の修行僧と共に過ごした日々は彼にとってかけがえのないものであり、このまま僧侶として一生を捧げるのも悪くはないと思った。
元来あらゆる事に秀でていた彼は若くして寺の住職となり四方に分かれて住む村民達に教えを広めた。時に争い時に相談を持ちかける村民達にそれぞれ最も相応しい救済の案を差し伸べた。
村民達は皆総じて彼を敬い彼の教えを信じた。それはもう彼の言う事全てを受け入れる程だ。
寺とはいえその長の座に収まり、多くの弟子を抱え、そして村人達には慕われている‥‥‥
しかし、彼は心のどこかでそれに納得する事は出来なかった。
彼は幼い頃から侍としての修行を続けていた。剣術を学び軍略を学び戦いの術を学んでいた。
祖を辿れば名を馳せた猛将の血を引いているからだろうか。ただ‥‥‥納得する事が出来なかった。
もし、自分が侍だったら今頃はどうしていたのだろうか。仕えるべき主に仕え武勲を上げていただろうか。
今となっては判る事でもない。どこか鬱屈した日々を過ごしていた。
そんなある日彼は旅の侍達を迎え入れた。道中一泊の宿を借りたいとの事だった。
四方に別れているとはいえ村一つの規模は大きいでもなく宿泊施設はない。彼は二つ返事で侍達を受け入れた。
その日の夜中。彼は偶然侍達の密談を聞いてしまったのだ。
彼らは伊達軍の者だと言う事。
源徳に対し侵攻を企てている事。
そして、遠くない内に実行に移される事‥‥‥
侵攻前の諜報か知らないし奥州の地からは随分離れている事から不審に思ったものの、その事は彼にとって影響を与えるに十分すぎた。
戦争が起これば結果はどうあれ地方に気をかける余裕はない。実際そうやって野盗の類は出没するし隙を見て別の国が侵攻してくるという事もありえない事ではない。
彼の持つ観察眼も非常に優れてはいるし現在それは悩み、または争う村民達の調停の為に使われている。もしそれが侍としての立場だったらどう使われていただろうか。もしかしたら優れた戦略家になってたのかもしれない。
もし、自分が侍だったら‥‥‥
だから‥‥‥
冒険者が南の村の防衛の依頼を受けて数日が過ぎた。
未だ破戒僧達の手に落ちていない南の村。西の村が解放されてから破壊僧達はいったんなりを潜めたものの、戦力を整えて更に勢力を拡大する為に南の村に侵攻を開始したのだ。
南の村の村人はもちろん住職に心酔していたものの同時に変貌した住職に疑念を抱いていた。
――住職様は、一体どうしてしまったのだろうか。
かねてより寺の方へ気を向けていた南の村は侵攻しようとする破壊僧達の姿を認め、急遽江戸の冒険者ギルドへ防衛の依頼を頼んだ。
依頼においては防衛ではあるものの、予想される進行状況から考えるとこちらから攻める事も可能で、村の防衛に割いている者との挟撃も可能かもしれない。
それも無事依頼が成立するかどうかというか以前に村的には成立してもらわないといけないのではあるのだけれど。
確認できた所破戒僧はそれなりの数。隊長格の立派な破戒僧が一人。確かこの人物は住職の信任の厚い弟子だった筈。そして、北と東の村で見た覚えのある五、六人の武装した村人‥‥‥
まあともかく、村の防衛戦が始まる。
●リプレイ本文
――その日、街道に空飛ぶ河童伝説が生まれたらしい。
自前の馬で先だって村に訪れたジーン・アウラ(ea7743)とクゥエヘリ・ライ(ea9507)はそれぞれ行動に移った。
ジーンは村人から破戒僧達の侵攻ルートと北と東の村人思われる随伴者の確認。クゥエヘリは以前救出した西の村の様子を見に行きその帰路に付いていた。
いつかのお礼と言う事でささやかながら品物を受け取って、クゥエヘリは上機嫌で愛馬の歩を進めている。
「見返りの為ではなかったのですが、こうも感謝されると助けた甲斐もあるというものですね」
その名の如く純白の毛並みの駿馬の背に乗せられた品の数々。特別高級品というでもないがこういうのは気持ちの問題だ。好意で贈られた品というのはものにもよるだろうが中々悪い気がしない。
「あれは――」
そして村に戻る途中、破戒僧の一団と遭遇した。陣を張り、まるでこれからどこかへ攻め込むような‥‥‥そんな緊迫感が漂っている。
クゥエヘリは内心焦りながらも平静を装い尋ねた。南の村の村人から聞いた回り道を辿ってきたつもりだがどうやら間違えたらしい。他の破戒僧に比べて身なりが立派な破戒僧。これが聞いていた隊長格の破戒僧だろうか。
「こんにちわ。皆さんはずいぶん物騒ないでたちですね? 鬼でも出たのでしょうか?」
あくまでも平静に。偶然遭遇したように。
「キサマには関係ない。キサマこそこのような場所で何をしている?」
破壊僧は今にも襲い掛かりそうな、殺気を孕んだ瞳でクゥエヘリを睨み付ける。仲間の破壊僧達に目配せし杖を手に彼女を取り囲む。
瞬間、矢に手が伸びかけて――止めた。
「散策の途中ですわ。この辺りの地理には詳しくないので」
「ふん。散策にしてはやけに眼を引く恰好だな。立派そうな弓も持っているようだが」
邪悪に染まった瞳の続く先‥‥‥かつて伝説の弓の名手が使用したとされる『魔弓ウィリアム』の姿を捉えた。破戒僧達からすればただの立派な弓だろうが、それから放たれる矢は魔法の効力を持ち彼らにとって非常に脅威になる代物だ。
ここで変に意識させる訳にはいかない。クゥエヘリは笑顔で返した。
「弓ですか? 鷹の訓練用ですし山賊など恐いじゃないですか」
「山賊か。信用出来ないな‥‥‥」
少しずつ、包囲範囲を狭める破戒僧。もうダメかもしれない。
一人別行動したのがいけなかったのだろうか。ならばいっそ、村に残っているジーンと遅れてくる仲間達の為、一人でも多く打ち倒そうと覚悟を決めようとして‥‥‥尋ねられた。
「そう言えば、キサマの顔は見た事ないが村の新入りか?」
張り詰めた緊張感。まるで虚を付かれたように質問されたクゥエヘリは取り合えず適当に言い繕った。
「え、ええ。先日東の村に越して来たばかりで‥‥‥」
「東の村だと? そうか、成る程な」
一瞬凄惨な笑みを浮かべた彼はクゥエヘリを取り囲んでいる破壊僧達を下がらせる。彼らもまた、凄惨な笑みを浮かべていた。
「これはこれは引き止めて失礼した。そのような奇抜な恰好をしているので気になってな」
色鮮やかなキモノガウン。どこか勘違いした感の服飾職人謹製らしいそれはどちらかというとけばけばしい。
「我々はこの四方の村の寺の者だ。何か困った事があるなら訪ねてくるがいい」
「ええ。そうさせてもらいますわ」
「すぐにも困るだろうがな‥‥‥」
最後、聞こえたけど小さく呟く破戒僧。
クゥエヘリは一礼した後南の村へ急行する。
戦いは既に始まっているのだ。
「‥‥‥これはどういう事かしら?」
何とか生命の危機を脱したクゥエヘリは絶対零度の冷たさを纏わせ仲間達に尋ねた。
自分はもしかした死んでいたかもしれないのにこの連中は宴。いい感じに騒いでいるのが気に入らない訳で、表情がないのが余計に怖い。
「何というか、貢ぎ物を頂きまして」
「貢ぎ物?」
視線だけで相手を殺せそうなクゥエヘリに御門魔諭羅(eb1915)は困ったように微笑んだ。
「はい。村への道中、盗賊団に襲われている行商人の一団と遭遇しまして」
「助けたからそのお礼? 貢ぎ物なんて大仰だと思うけど」
「ええ。そうなのですが」
ある意味冗談のような話しだ。
馬を持っているジーンとクゥエヘリ以外の冒険者達はそれぞれの持つ。韋駄天の草履やセブンリーグブーツのおかげで風のように街道を駆け抜けていた。
そして草履もブーツも持っていない冒険者。星森(eb5526)は自前の大凧で大空を飛んでいた。
四隅に四肢を固定し念じ、限られた時間ではあるが彼女は鳥になっていたのだ。
それでも所持者に不運をもたらすとされる日本刀、丁々発止を下げていたからか、飛行中に鳥の類に襲われて結構危なかった。
回避やら何やらで蛇行しながら飛んでいく中、盗賊団に襲われている行商人の一団を発見。知ってしまった以上見捨ててはおけぬと向かおうとした。
しかし急に糸が切れたように落下し始めた森。大凧の飛行時間が終了したのだ。
――ここで、状況を確認してみよう。
空から急降下してくる四肢を大に広げた森。ちょうど陽光を背に受け大凧のおかげで影と薄くなった光を透き通らせる。
それを商人達からすれば、襲われ助けを求める側からすればこう見えた。
「天の救いだ! 天神さまだ!」
そう。後光を背負い空から舞い降りた河童大明神。商人達にはそう見えたらしい。
盗賊達は恐れをなし逃げて、商人達は救いの神への貢ぎ物として食料や酒を献上したのだ。折角の好意なのだから断るのも悪い。ちなみに冒険者達は河童様のシモベだとか何とか。
「成る程。つまり礼の品という事ね」
そう言って自分も貰った品を見た。食べ物だ。
戦いを控えた前日。一向は村人を安心させる為にそれぞれ手に入れた品を振る舞い、一同の集めた情報で作戦立てる。
そして翌日――
「光の欠片よ、鏃となりて正義を名乗りし破戒僧を討て」
村から出た村道の外れ。村人の明日を左右する小さな戦場に魔諭羅は立っていた。
朗々と謡う月の詩。月の力が彼女を満たす。
猛る咆哮。破壊僧達は杖を手に我先に魔諭羅へと襲い掛かる。
全ては住職様の為。住職様の野望に立ち塞がる者共は捻じ伏せるのみ!
魔諭羅は先頭の破戒僧へ狙いを付ける。矢が飛んでいくイメージ――
「ムーンアロー!」
閃光が走る。月の光が破戒僧を打ち倒す!
しかし倒したのは先頭の破戒僧のみ。後続の破戒僧はそのまま続くものの、
「余所見など余裕じゃのう! 鳥爪撃!」
魔諭羅に気を取られていた破戒僧は跳ぶ瀞蓮(eb8219)に気が付かなかった。
見上げた時はもう遅かった。鎌鼬の如き眼に捉えられない蹴撃の弾丸が破戒僧を蹴り飛ばす。
破壊僧達は目の前に現れた脅威を囲み杖を一斉に振り下ろす。しかし、
「ふっ‥‥‥踊りの相手にもならんのう!」
開く鉄扇。基本は受けで、舞踊の体捌きの応用で全ての杖を捌ききる。
さながら戦場に立つ舞姫のよう。どこか刀剣のような触れるもの全てを切り裂いてしまいそうな近寄り難い雰囲気。蓮は残る破壊僧達へ誘うように、
「その程度か。情けないのう。西の村で戦った者共の方が強かったぞ?」
挑発した。
「き、きさまぁぁぁぁ!!!」
破壊僧達は再び攻撃を始めた。
蓮と魔諭羅が破戒僧の分隊と戦っている中、残りの冒険者達は本隊と戦っていた。
本隊と言っても本物の軍隊に比べて数は少ない。それでも彼我の戦力差は開いているし、破戒僧一人は冒険者達に比べてたいした実力を持たないとはいえ数がある以上油断は出来ない。
事前に進行方向に仕込んでいた罠や撹乱、離れてからの射撃と魔法により村道はまさに戦場となっていた。
悲鳴や断末魔の声が聞こえる。ラスティ・セイバー(ec1132)はロングソードを振りかぶる。強烈なスマッシュの一撃が破戒僧を頭蓋から割った。
「やれやれ。江戸で戦が終わったら今度は村で戦の真似事か。そんなに血を見るのが好きなら、相応の物で返してやる事としよう」
吹き荒れる死の暴風。丸太のような腕から生まれる強力は片手で握るロングソードにも十分な殺傷力を付加しまた一人と破戒僧を切り伏せる。彼の赤毛は今まで屠ってきた敵の返り血の結果とすら思える。
だが戦っているのは彼だけではない。
ラスティとは離れた場所で、忍者と武道家がそれぞれの奥義を発動する。
「僕ははっきり言って剣技はまだ素人同然だからね。撹乱を中心に戦わせてもらうよ!」
一足で空を飛ぶようなこの感覚。セブンリーグブーツで戦場を跳ねる音無鬼灯(eb3757)は二振りのマグナソードで斬り付ける。
翔けながら、敵へ斬撃。あくまで撹乱に過ぎず決定打には遠いが、それでも十分に効果はあった。
「ええい! ちょこまかと!」
破壊僧達は飛び跳ねる鬼灯に狙いを定められずしばし同士討ちを始めていた。敵の裏をかき虚を突くが真髄たる忍者の能力を発揮している。それでも危ないときは空蝉の術でその辺の丸太と入れ替わる。
突然相手を見失った破戒僧へ目掛け森の蛇毒手が打ち込まれた。十二形意拳・巳の奥義。麻痺の毒が全身を支配する。
次の破戒僧の杖を鉄扇で流しそのまま叩く。達人ならではの技の冴だ。
「隙が多いだ。どいつもこいつも蛇毒手を打ち込めそうだよ」
使うには制限のある奥義だけど。
「さて、そろそろあの村人達を抑えている所だか‥‥‥」
また一人破戒僧を打ち倒して森は呟いた。
クゥエヘリの矢が魔法を唱えようとした破戒僧を射抜きそこへ狂化したラスティが無表情で追撃。浮き足立った破壊僧達。敗走を始めた彼らにトラップが襲った。
上杉藤政(eb3701)の仕業である。
彼らは破戒僧の迎撃だけが目的ではなく、北と東の村から破壊僧達に随伴した村人の捕獲を行おうと考えていたのだ。
何故住職に賛同したのか。破戒僧諸共打ち倒すのは簡単だがそれでは西と南の村から反感を買うし今後協力を得られないかもしれない。その為にインジビブルや忍び歩きを駆使しトラップを設置したのだ。そしてそれは村人を指揮していた破戒僧達の小隊に引っかかった。ちなみに声色で彼らの声を真似て偽の命令だとかで散々惑わせている。
「その声はキサマか!? 散々我らを惑わせた間者は!」
幸いトラップで悶絶している村人達はまだ悶えている。
「悪いがお前にはこのまま眠ってもらう」
サンレーザーが破戒僧を焼き尽くす。
藤政は村人達が起き上がるのを認めると物影に隠れ声色を変えた。
『このまま南の村へ行け。事情は話してある』
どうとでも取れる台詞だ。村人は指示された通り南の村へ向かった。
大局が決しつつある中、それでも彼らは退こうとしなかった。盲目なまでに住職を妄信する破戒僧。捕らえられるなら自ら死を。最後の一人まで戦う気概だ。
「ええい! 相手は寡兵だというのにこの様は何だ! 住職様に合わせる顔がないわ!」
住職の右腕たる彼は生き残った破戒僧達を叱咤する。こうなれば死なば諸共。最後の指示を飛ばす。
「ビカムワースだ! あの赤毛の戦士を狙え! 主力さえ倒せばどうにでもなる!」
存在そのものが暴力とすら思えるほど、無感動に破壊僧達を切り続ける。さながら剣鬼のようだ。
破壊僧は精神を集中させる。いざ発動しようとして――風を切る音が聞こえた。魔法を放とうとした破戒僧は事切れた。
「な! これは一体――」
突然射抜かれた仲間に驚き射手の姿を見つけようと辺りを見回す。誰もいない。今すぐ姿を隠さないと自分も射抜かれる。隠れようとして、
「後ろだよ」
いつの間にか、背後を取ったジーンが弓を番えていた。
「い、いつの間に――」
彼が戸惑うのも無理はない。
彼女、ジーンの持つ忍び歩きの能力は超越。世界に自らの存在を否定させるかの如き気配を消し神すら欺かんとするレベルのものだ。所詮人の身で見抜けるものではないかもしれない。
「頭を潰せばこっちにもチャンスはあるだよ。数で負けて術までつかわれたら持たないんだな」
苦笑い。確かに現況においても若干相手の方がまだ数が上だ。
ジーンは弦から矢を放つ。吸い込まれるように喉を射抜き絶命した。
そして声高らかに叫ぶ。
「敵将、冒険者がジーンが討ち取っただよ!」
戦いの終わった瞬間である。
「それで、村の様子はどうなんだ? 老人や女子供を始め酷い目にあってないのか?」
戦場から南の村へ渡ってきた北と東の村人へ森は訪ねた。色々と聞いておかねばならない。
「村には常に修行僧が配置されてるのか? 数や司令官の能力は?」
彼ら北と東の村人にとって冒険者は住職の敵。もはや刷り込みのような住職への妄信は半ば狂気じみている。
「さて、このような馬鹿な真似をしてもなお村人等をひきつけるとは住職殿はそれなりに人望があるのじゃろうが‥‥‥ま、善き者にばかり、人を惹きつける素質があるとは限らぬか」
聞き込みを続ける森を眺めながら蓮は呟いた。分隊とはい数は多かったので苦戦したのだろう。疲労に染まったその表情から伺える。
「このような戦いを続けるのは不毛だ。終わらせる方法はないであろうか」
「北と東の村を調べるか‥‥‥寺そのものを調べるしかないのう」
藤政の呟きに蓮遠くを見つめる。
ここから寺は見えない。