全ては夢幻の如く 四
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■シリーズシナリオ
担当:橋本昂平
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 55 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月08日〜08月13日
リプレイ公開日:2007年08月20日
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●オープニング
――まあ、よく見てみれば物騒なこともあるもので
寺は戦準備の喧騒で満ちている。
突貫工事により防壁や溝を作りちょっとした城のように姿を変えた我が寺。これにて我が敵を迎え撃とう。報告によると砦は解体され既に伊達の小隊が進軍の準備を整えているらしい。
その中には我が悲願を阻み続けてきた冒険者の姿もあるようだ。彼奴らは我が送り出した弟子達を次々と打ち破り、数の差を幾度となく覆してきた事から察するに強敵以外の何者でもないだろう。
最大の敵は冒険者であって足軽共ではない。
足軽なぞ数だけの揃った烏合の衆だ。大軍同士の戦いでもあるまいし‥‥‥主戦力さえ討ち屠ればどうにでもなる。
何故なら、数はこちらが上だからだ。ある異形の者から手に入れた巻き物。魔物を操る法が記されてあった。あのようなものなど見た事も聞いた事もない。いや、人が知る筈のない邪法だ。
だとすると‥‥‥あの者は何者だろうか。感じた禍々しい気配。心を剥き出しにされたような感覚‥‥‥よもやデビルか? 我はデビルに謀られた?
‥‥‥まあいい。例え謀られようとも今に至るこの時、そして今も、至福に満ち心は高揚している。間違いない。我は武を振るい力を証明する事を心のどこかで望んでいたのだ。
この世に男として生を受けたのならば、覇を目指すが道理なり。
僧として生きていたが‥‥‥止められぬ。この血の乾き、止められぬ!
新たに犬鬼と茶鬼を配下に加え、残った弟子達を合わせればそれなりの戦力になるだろう。足軽共はともかく、冒険者達には如何ほどの障害になるか‥‥‥。だがそれはそれで構わない。
何故なら、負け戦こそが戦場の花。名乗りをあげ、挑み、華々しく散ってみせよう。
空を見上げる。青く拡がる白い雲の果てには何があるのだろう。
弟子達は篭城戦の準備に終われ魔物共は意思のない瞳でそれぞれの配置に向かっている。
多を配置する場もあれば区画ごとに少数を配置する場も。突破すべき要所が多いのは攻める側にとって心身的に疲労を与える。地の利はこちらにある。そこを狙って仕掛けるのも手だ。
さて、どうするか。
胸の内にわだかまる、何かがかみ合わない気がするこの感情。
間違っている? ‥‥‥いや、これは戦の前の高揚故か。大将たる我がこうでどうする。
こんなものいざ戦が始まってしまえば消し飛ぶ。我が悲願、果たしてみせよう。
そう、全ては夢幻の如く。
砦を制圧した冒険者達は、その後しばらくし再び集められ、寺への進軍の為の戦力として集められた。
情報によると寺は要塞化され、城壁や堀など城のようになっているらしい。まあ元は寺である以上、本場の城ほどではないとはいえ攻め落とすにはそれなりに労力が必要だろう。しかも配下に破戒僧の他、犬鬼と茶鬼の群れもいるとの事だ。意思のない瞳の、まるで傀儡のようらしいがそんな事はどうでもいい。
確実な事は、攻めづらい環境に敵の群れがいるというただ一点。恐らく寺内部も手が加えられているだろう。事前に眼を通した寺の図面はいかほど役に立つか。そして首謀たる住職は必ず討ち取らなければならない。民心を脅かし乱を犯した罪で討伐が決められているのだ。
冒険者達は各自装備を整え覚悟を決める。これはもう、普通に魔物や狼藉者を退治するレベルの仕事じゃない。
合戦。規模こそ小さいものの、本物の戦に出向く冒険者達の表情には一遍の笑みもなかった。
●リプレイ本文
門を打ち破り足軽達は雪崩のように寺の内部へ踏み入った。
正面から兵力同士のぶつかり合う総力戦。迎え撃つ犬鬼と茶鬼の群れもまた、壁となって足軽を押し返そうと真っ向から突撃する。
足軽の槍が突き出され犬鬼の剣が切り払われる。既に真っ先に衝突した足軽と魔物は全て死に絶えた。続く兵達も魔物達もそれぞれの槍や剣、斧の餌食となって絶命する。
肉を砕き血が噴出す音が止まない。獣と何ら変わらない殺意の雄叫びは形となって互いの命を奪い奪われる。
「ひるむな! 突撃!」
部隊長である侍が手近の茶鬼を切り伏せ鼓舞する。侍の檄により勢いを止められた伊達兵達は鬼達を押し始める。
一列に並んだ足軽達の槍衾。槍を握る手に力を込め前進。槍衾の進路上の鬼達は蹴散らされそれに続く伊達兵により次々と討ち取られていく。
崩れた陣形の一角。楔を打ち込む事に成功した伊達軍はこのまま一気に押し込んでいく。
「弓隊、構え!」
その友軍を支援する為、弓兵達が一斉に弦を引き絞った。既に城壁や物見櫓を占拠した弓兵達である。
駿馬に跨った弓隊隊長、クゥエヘリ・ライ(ea9507)。本来は行動を共にする程度の予定であったものの、優れた射撃術の使い手という事で急遽弓隊の指揮を任される事になった。特別指揮能力を身に付けているという訳でもないが、弓の達人を隊長に据える事で伊達兵達の士気は多いに向上。彼女もまた、大きな責任感を背負わされ、見よう見まねで兵達を指揮していた。
弦を引き絞る指にいやな震えが走る。軽く照準がぶれた。
「皆さん、鬼族の動きは精彩に欠けますわ。皆さんの腕なら矢は当たります」
それはまるで自分に言い聞かせているよう――。クゥエヘリは適当に眼に映った犬鬼へ狙いを定める。
「放てっ!」
矢の雨が降り注ぐ。一瞬空を覆い尽くした矢は重力に引かれ勢いと鋭さを増し鬼達へ突き刺さる。これだけの矢数、狙わずとも当たる。
クゥエヘリのダブルシューティングもまた、その優れた弓の技により二匹の犬鬼を射抜いた。
支援射撃により押されつつある鬼達。伊達の軍勢はここで一気に攻め落とさんと全兵を挙げて突撃する。
だがそこは元が寺とはいえ改造された場所。侵攻してくる敵へのトラップもあり幾つかの小隊は戦闘不能に陥った。
「負傷者は後方に下がって救護班から手当てを受けて! 無駄に命を粗末にする事は許しません!」
矢を放ちつつ味方へ叫ぶクゥエヘリ。数人の弓兵に幾つか言付けて下がらせた。
若干だがこちらの進軍が止められている気がする。前衛の伊達兵と共に進み、敵の注意を引き付ける他、ホーリーフィールドで守りを固めていた日向陽照(eb3619)はその原因を突き止めた。
「破壊僧ですか‥‥‥」
見ると柵や壁の内側に隠れ、神聖魔法で足軽達を迎撃していた。彼らが鬼達に命令を出していたのだろうか。思えば今に至るまでの戦闘で破壊僧を見かけなかった。
ならば指揮官を先に潰す。戦場で命令系統の制圧は戦闘を有利に運べる。
「‥‥‥彼の者に試練を‥‥‥!」
陽照の身体が黒く光る。
ディスカリッジ。対象に落胆の気持ちを起こさせ、全ての行動と思考に制限をかける神聖魔法である。
陽照を狙うかそれとも足軽を狙うか、破壊僧は判断を鈍らせる。
その一瞬が命取りになった。足軽達は獲物に群がるハイエナのように殺到し無数の槍が破壊僧を一斉に突き刺す。魔法を使えない者にとって魔法の担い手は脅威に違いないだろう。彼らのような行動は戦場において尚更正しいだろうが陽照は軽く口元を押さえた。
彼我戦力差は開きつつある。足軽達は弓隊の支援を受けつつ次々と鬼達を撃破していき、破壊僧の討ち取られる様も見られていく。
これだけ派手に『陽動』をかければ裏手に回った本命も動き易いだろう。
自分も寺の内部に踏み込みその仲間と合流しに行こうと駿馬の手綱を引こうとする。だがいつの間に入り込んだのだろうか。どさくさに紛れたのだろう。クゥエヘリの死角から、犬鬼が斬り付けようと剣を振り上げるではないか!
犬鬼の姿に気付いたが時は既に遅し。一瞬覚悟を決めたが友軍の足軽の槍が犬鬼を貫いた。
「助かりましたわ――」
礼を言おうとするがその足軽も絶命した。茶鬼による斧の一撃。頭を割られ血と脳漿が白い肌に返り付いた。
無言。斧を振り上げる茶鬼。矢を番えるクゥエヘリ。
少し遅い。
クゥエヘリは――
「いよいよ本陣か。さすがに緊張するのう」
寺正面からによる陽動を兼ねた攻撃に乗じ冒険者達は裏手かの侵入に成功した。
冒険者達に与えられたのは住職の首級を上げる事。この戦の成否を決める重大な任務だ。
今回のこの地方で起きた乱、少し前におきた合戦の影響か知らないが、民心を脅かした罪も含め伊達に逆らう事の愚を知らしめる為に是が非でも討ち取らなければならない。酷なようであるが自業自得でもあるし見せしめは必要である。
だがただ攻めるだけでは逃げられるかもしれない。そこで彼らは冒険者の案も組んだ結果、兵全てを陽動として使い敵の戦力を引き付けさせ、手薄になった寺へ裏手から精鋭の投入を決定。迅速に住職を討ち取る事にした。
その精鋭が冒険者達である。本来は討伐隊の部隊長かその配下が討ち取るのが適当であるが、相手は優れた神聖魔法を使う住職。逆に返り討ちにあうかもしれない。
冒険者ならば多くの修羅場を潜り多様な敵と戦ってきた経験もあり、こういう手合いに対しても有利に立てるかもしれない。何より彼女達には彼女達の目的もある。二つ返事で頷いたのだが‥‥‥犬鬼や茶鬼に一行は襲われていた。
「寺内にもいると思ってたけど、これは油断できないだよ」
凍天の小太刀が犬鬼を貫く。星森(eb5526)は刺し貫いた犬鬼を一瞥する事もなく逆手に持ち直すと、次の犬鬼へ凍える魔剣を一閃させる。
天すら凍えさせる藍色の斬光。冷たく光る刃は名刀にも勝る鋭さと切れ味を宿していると思えるほどの魔性を宿しているようで犬鬼を絶命させた。
だが続く鬼達は攻撃の手を緩めない。常ならば仲間が討たれたと見ると身が竦むか激昂に駆られるかだが、鬼達は操り人形のように眼の前の冒険者達へひたすらに襲い掛かる。
「住職までに体力は削られたくないだな‥‥‥」
一端身を引き、仲間達から手傷を受けた犬鬼へ狙いを付ける。
風を斬る音と共に剣技シュライクが一閃する。
再び前方へ見直すと瀞蓮(eb8219)と音無鬼灯(eb3757)が鬼達相手に奮闘していた。
迫り来る犬鬼と茶鬼に、蓮の拳と蹴りが次々に叩き込まれる。
アイアンマントを羽織っただけの、無手の蓮。武器持ちと比べ決定打に欠けるであろうがその分身軽に動け、手数で鬼達を捌いていた。
「ふん。今までより面子が少ない上、簡易とはいえ城砦化しておる。流石に今までのように突っ込んでどうにかはならんか」
茶鬼を殴り倒し次へ備える。今までの憂さ晴らしも兼ねて鬼達を叩きのめしている蓮は嬉々した表情を浮かべた。
何故なら彼女は、戦いの始まる前から寺にいたからだ。
村娘に扮し激励の品を運んできたと称した蓮は奥に連れ込まれ、戦いの前祝いと称して開かれた宴会で酌をさせられたりセクハラされかけたりと、かなりイラついていた。我慢の甲斐もあって内部の構造をある程度把握も出来たし、戦いが始まったとなっては仲間を引き入れ、思いのままに鬼達へ鉄拳と蹴撃を打ち込んでいる。
真っ直ぐに殴りつけようとした拳を、踏み込んで下から打ち上げた。
鬼灯もまた、二振りの炎を縦横無尽に振り回す。
刀身に炎の文様の描かれた魔法の両刃の直刀。マグナソード。使い手に熱き心を与えるとされるその魔法の両刃刀触れる全てを焼き尽くすかのように犬鬼を、茶鬼を襲う。
「なるべく騒ぎにならないよう、動いていたつもりだけど‥‥‥!」
犬鬼の剣が振り下ろされる。鬼灯は炎の魔剣で迎え撃ち鍔迫り合い。
彼女は今回、隠密行動技を駆使し手薄な場を通り、罠があれば解除して、住職のいる本堂へ仲間を送り届けるのが主な目的である。
それに彼女自身、直接戦うのは苦手らしく流派違いとはいえ森や蓮からみても鬼灯の戦闘技能は未熟に見える。
この局面、この敵の数。もう一人ファイターか何かがいれば楽なものを!
もう一方から斬り付けようとした犬鬼の剣をマグナソードで受ける。逡巡する。あの赤髪の戦士ならどう切り抜けていただろうか。だがそれは杞憂に終る。後方に控え忍者のように気配を殺し、物陰に隠れていたジーン・アウラ(ea7743)が犬鬼を射抜いたのだ。
ジーンは弓使いとあって支援を担当する訳なのだが、彼女は本職の忍者に及ばずとはいえ隠密行動の技を習得している。見つからない為に、とそれを駆使し動く中、敵の方も動いていたらしく遭遇戦を始めた際に後方にいたという事で直ぐに隠れる事が出来た。弓による支援で他の冒険者達は鬼達を撃破しやすくなったとはいえ、一人安全圏にいるというのは何となく小一時間問い詰めたくなる。弓使いというのは後方支援が主だから言われる筋合いはないのだけど。
まあそんな事はどうでもいい。ジーンの支援により場を脱する事の出来た鬼灯はスタンアタックを叩き込もうとするが両刃の刀。そのまま茶鬼を斬り捨てた。
「このままじゃらちがあかないな‥‥‥」
蓮から得た情報と、図面から予想するとなるともう一つのルートがある筈‥‥‥。場の鬼達を制し別ルートを辿り本堂に仲間を誘導して行く。
外せる罠は解除しなるべく敵はやり過ごす。幸い再度鬼達と遭遇する事はなかった。
そして、本堂に辿り着いた。
本堂に踏み込んできた冒険者達へ胡乱な瞳を向けると住職はおもむろに立ち上がった。わずかに残った弟子達は住職を守る為、侵入者に襲い掛かっていく。
「む。鬼灯殿」
炎の魔剣を両手に、破壊僧達へ飛び込んでいく女忍者を武道家が呼ぶ。だが女忍者は、
「僕は僕の役割を果す。今は住職を狩るのが仕事だ」
反論を許さない強い口調で言い切ると破壊僧達へ斬りかかる。派手に動き破壊僧の注意を引きつけている。外から見れば撹乱と判るものの、その渦中にいる破壊僧達は気付かない。
そして更に二人が本堂に踏み入ってくる。
レンジャーと僧侶。レンジャーの方は返り血かそれとも自前か、血に染まったままの恰好で手当ての後らしきものが見受けられる。
護衛の破壊僧は女忍者と戦っていて側にはおらず己の前には五人の冒険者。しかも、内四人は弟子の報告で聞いた者共だ。
武道家に河童に、二人のレンジャー。この四人は初期から住職の謀略の前に立ちはだかり幾度となくその野望を打ち砕いてきた。圧倒的寡兵においてそれでいて全てを返り討つ。
住職にとって宿敵である。
その強敵達相手に自分一人で挑む。勝てはしないだろう。
だが、始めから勝とうなどとは思っていない。ここまで来た以上華々しく散り行くのみ。止める機会など幾らでもあった筈なのに。
住職は杖を槍のように振り回し構えた。
気分は高揚している。
「いざ尋常に勝負!」
冒険者達は迎え撃った。
「‥‥‥我は望む、守りの天蓋‥‥‥!」
精神を集中させる。呪文を詠唱し転瞬、住職と陽照に淡く黒い光りが覆う。
「‥‥‥ホーリーフィールド‥‥‥!」
「ディストロイ!」
眼に見えない泡玉の結界が発動。不可視の結界は鉄壁の守りを敷き破壊の閃光を迎え撃つ。
だが破砕。黒の閃光は結界を貫き陽照を襲った。
対象を外部から破壊する黒の神聖魔法。再現神の力を集中させ使用するその魔法は、一撃で仕留められるなら生き物だろうと物だろうと関係なくバラバラに破壊する凶悪な魔法である。
ホーリーフィールドのおかげか即死には至らなかったものの、その強力な破壊の力により陽照はたたらを踏んだ。
彼を支援する為、蓮は空を跳んだ。
「国取りの戯れもここまでじゃ!」
中空より槍の一撃――。
十二形意拳酉の奥義、鳥爪撃。眼にも留まらない素早い蹴りは槍の白刃を連想させ、貫くように住職へ突き刺さる。
蹴り飛ばされた住職は神聖魔法で反撃しようと呪文を詠唱しようとする。しかしさせない。森は無手となり住職へ踊りかかる!
「すまないだ。俺は無手の方が得意なんだ」
動揺する住職へにやりと笑う。
魔法を放たれる訳にはいかない。拳を握り締め乱打乱打! 攻撃の手を緩めない!
そして、
「蛇毒手!」
十二形意拳巳の奥義、毒の主刀を打ち込む!
住職を襲う動物毒。身体は麻痺し行動を許さない。
彼女達冒険者の目的は住職を殺す事じゃない。その身を持って今まで操ってきた民に償わせる事なのだ。
「お主の望み通り華々しく散らせる気はない。村を乱した分だけ、汗水たらして人のために生きてもらう」
住職を見下ろして蓮が言った。住職にどんな事情があったか知らないが、蓮はこの住職のような男はどうしても許せないのだ。
「負けた身じゃ。命を捨てる覚悟があるなら、それくらい容易かろう?」
「おいらは聞きたい事があるだよ、慕っていた弟子や村人を駒にして楽しかっただか? おいら仲間を大切にしない奴は嫌いだよ。自害なんてさせない、皆に詫びながら刑を受けるといいだ」
有無を言わせない口調。断ろうなら殴っても頷かせるだろう。ジーンも反論を許さない口調で言う。
森は捨て置いた武具を回収して身に付け直す。負傷した陽照へリカバーポーションを使う。依頼終了後に使用した分支給されるので気兼ねなく使用出来る。戦争ならある程度の必要経費はだしてくれるものだから、規模は小さいとはいえこういうのは助かる。
気がつくと外の喧騒は小さくなっていた。犬鬼も茶鬼も大方討ち取ったのだろう。クゥエヘリと陽照がここにいるのだから間違いない。
鬼灯が、そう言えばと気になっていた事を口にする。
「魔物をまるで操っていたようだけど、何か特別な魔法でも使ったの?」
もしくはそれらが記された書物や巻き物などがあるかもしれない。
とは言え、麻痺した住職では答えられない。縛って解毒しようと思い立った時、住職の体がふらりと動く。
地面に転がるのは解毒薬の小瓶、しかし誰が? ここには他に誰もいないのに。
「こうなれば、自ら命を絶つのみ!」
冒険者が突然の事に驚いた事もあるだろう。住職は森がまだ回収していない武器、凍天の小太刀を手にし逆手に持ち返る。
「さ、させないだよ!」
シャドウバインディングの巻き物を取り出す。ジーンはもし、住職が自害しようとするのならそれを防ごうと考えていた。
だが突如、彼女を――場にいる冒険者全てを襲う強烈な殺気。
これは、明らかに人とは違う異質な気配。
住職は小太刀で自らの詰め腹を切った――。
寺の後ろの方にちょっとした丘がある。そこに立つ影は寺を見下ろし戦後処理を行っている伊達の兵達を眺める。
既にこの地における目的は果した。いいサンプルも取れた。
「‥‥‥‥‥‥」
一陣の風が吹いた後、影の姿はもうなかった。