全ては夢幻の如く 三
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■シリーズシナリオ
担当:橋本昂平
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 55 C
参加人数:7人
サポート参加人数:1人
冒険期間:07月12日〜07月17日
リプレイ公開日:2007年07月20日
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●オープニング
――まあ、よく見てみれば物騒なこともあるもので
あくまでそれらは切っ掛けにすぎなかったかもしれない。
ただ、走り始めた以上は立ち止まれなかったのだろう。
――いや、止まろうともしなかったかもしれないが。
伊達の軍勢が江戸を制圧して幾つもの日々が過ぎた。当初はその混乱に乗じ村を支配しようとした。
元より彼は侍としての素養に恵まれていたし、実際にそれを実現出来るだけの能力を持ち合わせていた。しかし世の中というものは本人が求めていた道を必ず与えるものでもなく、彼は僧侶へと道程を変える事になる。
慈悲深い彼は侍として刀を振るい、事によれば人の命を奪いかねないそれより、迷い嘆く弱き人々を、救い導く仏法を学ぶ方が性にあってたのかもしれない。
実際に多くの悩める人に最良と思える解決策を述べ彼は人々の尊敬を集めた。
彼は、僧として過ごす日々に後悔は抱いてなかった。
しかし満足もしていなかった。
もし、自分が侍だったらどうしていただろう? 仕えるべき主に仕えその力を存分に振るっていただろうか。
今となっては判らない。たらればの事なんて現実を認めきれない者の弱音に過ぎない。
だが彼は思うのだ。侍になっていたら。侍として生きていたらどうしていただろうと。
自らに流れる、猛将の祖先の血がそうしているのだろうか――。
気付いた時はもう後戻り出来なかった。自分も今までの行いにむしろ歓喜していた。
嗚呼。武を振るう事の何と言う喜びだろうか!
そう思ってから――思ってしまってから、彼は止まらなくなった。
言を巧みに操り弟子の僧侶達を扇動する。慕う村人達を配下に加え従わぬ村はその力を持って制圧する。
途中まで、全てが思い通りに向かっていた中、彼を邪魔する者達が現れた。
冒険者達である。
依頼を受けた冒険者達はその武勇をもって西の村を解放し南の村を防衛しきった。
次は我が居城に攻め入るかもしれない。ならば迎え撃とうではないか。
弟子の報告によれば冒険者達は南の村から寺に向かってくる。道中、拠点にと築きつつあった砦がある。そこに弟子達を向かわせ迎え撃とう。
それに、他にも戦力は調達してある‥‥‥
万が一、砦を破ってくるやもしれぬ。それまでに寺を改造して篭城に耐えうるよう改良してみよう。
この血の乾き、最早止めはせぬ。
南の村の防衛を終えた冒険者達は新たに依頼を受けた。寺と村の中継点に建設途中の砦の制圧である。
そもそも以前から気になっていたものだ。住職の行いに間違いはないと踏んでいた村人達ではあるが、前回の件により不信の感情は溢れるように募る。
関所にも見える規模のものではあるが、戦を前提とした作りであり妙に殺気だって迂闊に近寄れない。
そして付近にたむろする小鬼の群れ‥‥‥。住職がてなづけたのだろうか。
危機感が、村人達に走る。様子見に行った村人によれば破壊僧達は侵攻の準備もしているらしい。
この地に派遣された伊達の役人はこれの殲滅を決定した。どうやら役人もここの調査を行っていたようで、現地に着き検分と村人の報告を聞いた上の事だ。
冒険者達は逡巡した者もいたが、この件については彼らにも思う所はある――。
それぞれの思惑が蠢く中、冒険者達は装備を整え出立した。
●リプレイ本文
上杉藤政(eb3701)を筆頭に冒険者達は、まず砦の偵察を提案した。
彼らの中にはその筋の専門家である忍者の音無鬼灯(eb3757)を始めとする隠密行動を得意とする者も多い。藤政本人も高い水準でその技術も身に付けているしインビジブルの術も併用すれば、極めて優れた直観力を有する者にしかその存在を識別するのは不可能だろう。陰陽師的に何か忍者じみている男である。
まあそんな事はどうでもいい。
陽も昇りそうな夜明け前。依頼人である伊達の役人によって襲撃は今行われている。
ある程度の敵勢力と拠点は把握しているが、出立する前、一部の村人が妙な動きをしてなかっただろうか‥‥‥?
「――ふっ!」
剛剣一閃。ラスティ・セイバー(ec1132)のロングソードが小鬼を二枚におろす。
スマッシュEX。武器を振り下ろし、その重量を持って威力を倍化させる技である。
小鬼の斧が迫る。その動き、卓越した眼力を持って見抜き長剣の一閃で続く小鬼を横に薙ぐ。達人の動体視力の賜物である。
「本音を言えば、理解が出来ん」
ラスティは次々と現れ迫ろうとする小鬼達を前に立往生。数の差だけを見れば通常なら敗北は必至だろう。
だが赤い剣鬼は退かず。小鬼達の動きを見極めようとする。
彼が役人に与えられた命令は砦前にたむろする小鬼達を引き付ける事である。
つまり彼は囮に使われたのだ。
「十分にマトモに生きて行けた筈なのに、何故血を求める?」
月光に刃がきらめく。今一度襲い掛かってきた小鬼を切り伏せる。
今更伊達侍に文句を言っても仕方がない事だ。仲間達も上手くやるといってはいたし、ここは己の役割を果すのみ。
瞳に意思の光の宿らない小鬼達。まるで誰かに操られているようで‥‥‥まさか住職が操っているのだろうか。
「‥‥‥止めてやらねばならんか」
何故住職が変貌したのか。彼にはわからない。
ラスティはその半生からカタギに生きる者を尊敬している。故に住職のその変貌が理解出来ないのだろう。そもそも理解出来るようなものではなかろうが、それでも平和に生きる人の脅威になるのなら黙って見ている訳にはいかない。
ロングソードを構える。
左手に十手。
斧の一撃を左手で受け、首を切り飛ばした。
伊達侍のせいで正々堂々突撃する結果になった冒険者達。ラスティのおかげでいくつかの小鬼が彼に向かったとはいえ、砦の防衛をする小鬼の数は多い。
侍的に戦いは、権謀術数を弄せず正々堂々戦うものなのだろう。
それはそれで立派ではあるがそれだけで戦いに勝てるものでもない。無駄に突撃をしようとする伊達の侍を守る為、瀞蓮(eb8219)は攻めあぐねていた。一応依頼人。守らなければいけない。
その小鬼達を指揮するような破戒僧の一小隊。蓮は杖の突きを鉄扇で受け流し踏み込み、空いた左の拳を鳩尾に叩き込む。
まるで舞のような一連の動き。さすが舞の達人であり江戸の実力者と呼ばれるだけはある。
「小鬼はいちいち相手取るには厄介よのう。負けはすまいが時間がかかる」
迫る小鬼を鉄扇片手に見やる。
後方から矢。ジーン・アウラ(ea7743)とクゥエヘリ・ライ(ea9507)の援護射撃だ。
「第一、破戒僧まででしゃばってはさすがに手も足りん!」
勢いを殺される小鬼と破戒僧。すかさず蓮は一蹴する。
進撃する為に追いついたジーンが疑問を口にする。倒れている小鬼達。何故、小鬼が彼らに従っているのだろう。
「どうやれば戦力に使えるだべか」
短弓早矢。弱い力でも引く事も出来る魔法の弓。威力と命中力に優れた一品であるそれは、放ち、着矢するまで矢に魔法の効果を付与させる事が出来る。
番え、射る。
伊達侍の死角を狙おうとした小鬼を射抜く。
「そもそも住職の下についておるのかもはっきりせぬ。この際、あまり気にしないほうが得策か」
掲げる鉄扇大上段。小鬼の頭蓋を叩き割る。蓮は偵察――既にそう呼ぶかは疑問だが――に向かっている仲間達のいる砦を睨む。手筈通りに行けば、門が開かれ合図がある筈だ。
「全く。今までは村を基点にしてたのに結構防御にも気をつかうんだな」
正直攻めづらい。伊達侍の無茶な命令のせいでもあるが存外住職がその辺り考えていたのが彼女にとって驚きなのだ。
「篭城‥‥‥の計画はないだろうけど、和尚さんは追い詰められたら最後はどうする気だろう。追い詰められれば無責任に死を選ぶだかな」
篭城というものは外部からの応援があるというのが前提の戦術だ。それのない篭城は只己の首を絞めるだけ。
「もしかして何かあてでもあるだか――」
ざっと今までの戦いから推測する。しかし過去破戒僧の言動を振り返っても情報が少なすぎる。
彼女の思案を中断される。合図の狼煙が焚かれ門が開いたのだ。
「――さて、規模は小さいとはいえ砦。まさか馬鹿正直に正面から攻め込んではい抜けたとはいかんじゃろうが」
鉄扇を片手に蓮。藤政とのやり取りを思い出す。
「突撃するかの。やってみせいといわれたからにはな」
駆け抜ける黒衣の疾風。数も減り手薄になったとはいえ、突撃するにはそれなりに覚悟はいるが身に纏う聖骸布。心安らかに落ち着かせる。
残ったいくつかの小鬼と破戒僧は小鬼の群れを制し追い付いたラスティが切り結ぶ。
「‥‥‥‥‥‥」
クゥエヘリはジーンと共に蓮やラスティの援護を行わず跨る愛馬に命じ進行方向の逆――村へ戻り始めた。
彼女は偵察組に頼んでいたのだ。
もし、その通りであれば狼煙を一本余計に焚いてくれと――
「砦襲撃で別コースからわたくし達を背後から挟撃を起こすのであれば今を狙う筈‥‥‥!」
走る駿馬。怪しい動きがあれば、と様子見を命じていた鷹の蒼穹が甲高い音を立ててやって来る。
二人の破戒僧と少数の小鬼。クゥエヘリは魔弓ウィリアムに矢を番える。伝説の弓の名手が使用したとされる一品だ。
「うちの矢、見切れますか!?」
偵察というより潜入工作を始め各種情報を収集し罠を仕掛けた藤政達三人。彼らの功績により外で奮戦している仲間の冒険者達を砦内に導く事に成功した。
閂の外された門――というにはおそまつなそれ。敵陣を突破した蓮の十二形意拳・酉の奥義、鳥爪撃が近くの破戒僧を蹴り飛ばす。
一陣の風のように駆け抜け破戒僧を一蹴する蓮。まさに黒い陣風である。
突然現れた黒衣の武道家に驚いた破壊僧達であるが杖を手に襲い掛かる。迎え撃つ蓮。
本来、この砦は内部に侵入された時に対して砦内にはそれなりの仕掛けが施してある。しかし鬼灯は戦いのどさくさにまぎれてそれらを解除していたのだ。その上藤政と共に仕掛けた罠で数人の破戒僧の動きを封じる。
「さて、一隊の人数と小隊長格が3人いるはずだよね。判別できればいいんだけど」
マグナソードで向かってきた破戒僧を切り伏せた。
鬼灯は砦の蓮と挟撃する形で破戒僧達を攻撃する。砦の罠をうまく解除出来たし後は雑魚の相手。優れた忍法を有する彼女にとって破戒僧は敵じゃない。
刀身に炎の文様が描かれた魔法の両刃刀。炎の熱き力は鬼灯に炎のように燃え盛る熱い力を与える。優れた隠密行動の技にある、優良視覚に優良聴覚。殺気感知などを駆使し渡り合う。
戦いの技は忍術のそれより劣る彼女ではあるが隠密行動の技と藤政の撹乱によって破戒僧達を翻弄しているのだ。
『今だ! 突っ込め!』
声色を変えた藤政により破戒僧は突撃していく。そこに藤政が仕掛けた簡易トラップ。破戒僧は転倒した。
「くそっ! 一体どういう事なんだ!」
「俺達に裏切り者がいるのか?」
数の上で優勢であった筈の破壊僧達は既に半分にまで減っていた。原因は状況を利用したのだろうが同士と思われる声――。振り返ってみるとその声は、次々と自分達を不利に追いやっている。
「まずはあいつらを倒すのが先だ! いくぞ!」
一人の破戒僧は場を納めるためにも冒険者を倒そうと促す。だが、
「ちょっと待て。お前が裏切り者なんじゃねえか?」
「‥‥‥どういう事だ?」
疑念を抱いた破戒僧が仲間に問う。
「考えてみればそうやって言うとおりにしたから仲間がやられたんだ。まさかお前‥‥‥」
「俺を疑うのか!?」
藤政の謀略は成功した。今にも同士討ちを始めそうなほど険悪な雰囲気だ。しかも戦いの場という状況が彼らに拍車をかける。
空を見上げる。インビジブルによって姿を消した藤政自身も周囲は見にくい。しかしよく眼をこらし確かめる。
「くらえ。サンレーザー!」
物陰に隠れた術を解いた藤政は陽の精霊魔法を唱える。太陽はうっすらと昇っている。
歪曲された太陽光が一人の破戒僧を焼き尽くす。
「一体どこから!?」
仲間が突然焼かれ辺りを見渡す破戒僧。そんな混乱の隙を縫って蓮と鬼灯は攻撃を加える。
「魔法使いを潰してくれ。他は何とかする」
更にジーンを伴って砦に踏み込んできたラスティがロングソードを手に立つ。その刀身と彼自身、返り血に染まっていた。ここまで来るに至るまでに切り伏せてきた破戒僧と小鬼のものだろう。
ジーンが破戒僧へ射掛ける。黒の神聖魔法を使うのだから魔法使いに違いはあるまい。
次々に倒れていく仲間達を見ていたリーダー格の破戒僧は唖然としていた。
「何故だ。何故こうもやられる?」
指揮を飛ばしていた彼は、数の差もあり最初は優勢であった自分達の勝利を確信していた。だが現実は小鬼の群れも破れ仲間達も倒れ、砦は陥落しようとしている。
「こうなれば死なばもろとも‥‥‥。住職様、私にご加護を!」
杖を手に冒険者達へ襲い掛かろうとしたが彼は自分へ向かってくる仲間に気が付いた。まだ生き残っていた仲間か。そう安堵して見やるが驚愕した。
「き、キサマは冒険者か!」
「僕は星、君の血をこの刀で冷やしてあげるだ」
天すらも凍えさせるとすら思わせる冷たい藍色に光る、凍天の小太刀。星森(eb5526)は奪った僧服を身に纏っていたのだ。
十手で受ける。
凍天の小太刀が藍色にきらめいた。
「今後の事も考えて破壊が良いと思うんだ。資材に関しては村で使えれば役に立つだろうね」
砦を制圧後、冒険者達は伊達侍に呼ばれ事後処理を論じていた。
砦の処置である。
「状況次第で砦に火を放つが、どうする?」
それぞれ案を出す鬼灯と藤政。正直こういうのは伊達侍の仕事であるのだが、偉い人もいないし彼が現場における最高責任者。現場の判断を下すには彼はまだ若い。
「元々仕掛けてあった罠は使えないようにしたけどさ、槍襖とか利用出来るかもしれないね」
解除した罠を思い出す。状況からして完全に解除出来なかったし少し手を加えれば再び使える。
「僕達や伊達が常駐するのであれば利用価値もあるけど無理だね」
森の言う事も最もだ。冒険者も伊達の軍隊も色々都合はあるし、第一この地における戦略的価値は低い。
「在ると取り返されると面倒だ。破壊できるならその方がいいだ」
結局砦は解体される事になるが伊達侍は村人の処遇を検討する。挟撃しようとした破戒僧の手引きについてだ。
「内通自体は洗脳の結果だろう。今後の事を考え対策が必要になるな」
「村人も多少は和尚さん盲目に信じるのは止めてきたようで安心ですね」
クゥエヘリは安堵するがそう簡単にいくとは思えないのも事実だ。
「それでも和尚さんが心を掴もうとすればあちら側に揺らぐのでしょうね」
全ての発端は住職にある。同時に最悪の事態も想定しておかねばならない。
「はてさて、砦までとはそろそろお痛では済まんの。何があったか知らぬが、住職とやら‥‥‥そろそろ気付の一発でも必要か?」
鉄扇を顎にあて軽くため息をつく蓮。
戦い終わっての収まりつつある高揚感のおかげか、妙に太陽はぎらついていた。