メイドウォーズ

■シリーズシナリオ


担当:橋本昂平

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:8 G 76 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月04日〜06月09日

リプレイ公開日:2007年06月12日

●オープニング

 ――まあ、よく見てみれば物騒な事もあるもので






 メイド喫茶柳亭。かつて閑古鳥が大合唱していたこの店は、冒険者達の手により江戸屈指の迷店(?)となっていた。
 あっちを見てもこっちを見てもメイドさん。可憐で笑顔のとても可愛らしい女の子や、理知的で大人の魅力を備えたおねーさんが訪れた客達に最高の癒しと安らぎをもたらしてくれる。
 頭に映えるホワイトブリムに漆黒の闇の如きワンピースに優しく包みこむ白のエプロンドレス。一人だけとてもパチモンとは思えないというか、生のネコミミと尻尾が生えているメイドさんがいるけどそれはそれ。
 とにもかくにもそれぞれ属性やら設定やらでカスタマイズしたメイドさん達はご主人様達に精一杯のご奉仕の名の接客を行っていた。
 店の性質上、ほとんど男達が占めていて、彼らにしては自分に尽くしている――そう思うというか勘違いするというか――ので、似た様な事(?)をしてくれる遊郭に行くより金銭的にも楽だから柳亭は結構な顧客を獲得するに至る。まあ遊郭とは全く違う方向性ではあるしそういう勘違いをする客もいるが、雇っている冒険者による注意――状況によれば力ずく――で何とかやってきている。
 役所には真っ当な店ですよ、と申請しているしこれといった問題はないのだが、店側からしてそれ以上の問題を抱える事になった。
 それはどういう事かと言うと――
「おのれ芸者共めーーー!!!」
 休憩時間。店長のお牧は送られて来た挑戦状を叩き付けた。
 昼時のピークタイム。店内には大勢のご主人様に溢れていてキャッキャウフフなメイドさん達がお世話をしている。微妙に間違っている感もあるが、そんな事はどうでもいい。
 各メイドさん達は休憩時間をずらしてとって休んでいたりするのだが、厨房兼在庫担当のお牧の弟は宥めるように言った。
「落ち着いてよおねえちゃん。そんなに大声を出すとお客さんにも聞こえちゃう」
 六、七歳ぐらいだろうか。大きな瞳が印象的なくりくりヴォイスの男の子。あどけなく可愛い顔つきで、女の子に見えなくともない。
「これが叫ばずにいられる? 私達、思いっきりバカにされているのよ? ナメられてるのよ!?」
「だけど、こういう時こそ冷静に対話で解決していくべきだと思うんだけど‥‥‥」
「黙れ愚弟! 日々是戦い、手を止めた瞬間に負けは決るものなのよ! 戦わなければ生き残れないって言うじゃない!」
「それはそうかもしれないけど、力で築いたものは逆に力で奪われるものだよ」
 まあそれも正論だ。とはいえ時は戦国世は乱世。そんな奇麗事が通じぬ世の中だ。商いの世界でも似たようなものである。
「青臭い理想論で世の中渡っていけるほど甘くはないの! 敵対するものは一気呵成に総力を持って撃滅すべきなのよ! 二度と逆らう気も起きないぐらいに!」
「ウチはメイド喫茶なんだけど‥‥‥」
 色々危険な姉である。こういうのが大勢いるから世界から争いがなくならないのだろう。
「そもそも、メイド喫茶なんだから戦う必要ないじゃない。何だか今から戦いに行こうなんて言い方だけど」
「行こう、なんかじゃないわ!」
 弟の半ば呆れ顔での反論にお牧は言い立てた。
「戦いに行くの!」
「‥‥‥はい?」
「だから! 今から戦いに行くの!」
 声を大に言い切った。
「今回の合戦で、柳亭の名を天下に轟かせて見せるわ! 伊達の軍勢如き撃滅してやるのよ!」
「いやいやいや! 訳判らないけど、そんな物騒な事言わないでよ! 捕まっちゃう!」
 現在江戸を支配しているのは独眼流の伊達政宗。源徳残党がいないという訳でもないし、下手な事を口にすれば両の手に縄がかかる。
 とりあえず、弟はそんな発言の理由を聞いてみる事にした。姉のお牧はいつも変だけど今回はそれに磨きがかかっているみたいだ。
「そういえばその手紙、どんな事が書いてあったのさ。この間の話し合い、上手くいかなかったの?」
「上手くいけばこうはならなかったわよ」
 嫌な思いをしたのだろう。吐き捨てるように言った。
 そもそも、事の発端はメイド喫茶へのリニューアルからかもしれない。
 可愛い女の子や綺麗なおねーさんがフリフリだったりロリロリだったり、そしてオトコゴコロを微妙かつ絶妙な立ち振る舞いでくすぐるのだ。
 そして、その小さくも艶やかな唇から紡がれる言葉、ご主人様――と。これでドキがムネムネしない男はいない。いる筈もないのだ。多分。
 柳亭に集う男達。日々に疲れた心を癒す為、明日の活力を得る為、男達は柳亭へ足を運ぶ。だけど、それはある種の店の客を奪う事になる。
 その店とは遊郭とか色町の類の店である。
 勿論柳亭はそれらの店とは全く違う方向性の店だ。だが、それらの店は男を顧客とした店だ。アレ的な事は出来ないというかしようものなら冒険者達に軽く撲殺されるものの、比べて安価で女性に優しくしてくれる店に男が足を運ぶのは当然だ。情けないというか男の誇りを捨てているようでもあるが、男とはそんなものである。
 とまあそういう訳で客を取られた一部の遊郭等は経営が大変になりつつあった。かつての顧客を取り戻す為、一大勢力? となりつつあるメイド喫茶を潰す為、様々なイヤガラセを行っていた。
 今まで色々切り抜けていたものの、ついに怒りが頂点に達した彼女は遊郭へ乗り込んだのだ。
「だからね? それで何で戦いになったのか判らないんだけど」
「人の話は最後まで聞きなさい」
 おねえちゃんこそ人の話を聞くものだけど? 弟はその言葉を飲み込んで続きを待つ。今まで姉がロクに話しを聞いてくれた試しは少ないし言うだけ無駄だと悟っている。
「その遊郭、少し前に伊達の兵隊が来店したんだけど、徴収とかで売上金と極上の絹十反取られたんですって」
「その話し聞いた事あるけど、その遊郭だったんだ」
 一時期噂になった話だ。タチの悪い伊達の足軽達が徴収と言って店々から金品を奪っていると。そして極上の絹十反を取られた店があると。そんなものが十反、なんて出先が怪しくあるが、遊郭は金持ちの相手もするし手に入らない事でもない。
「どこにでもいるわよね。権力をかさにきて横行するアホ共は」
「‥‥‥うん。そうだね」
 この姉も似たようなものではないだろうか。まあ突っ込んだら負けである。
「それでね? その兵隊達から売上金と絹を奪い返したら店を認めてくれるって」
 お牧は送られた手紙を机に置いた。無理だけど、と嫌味ったらしく書かれていている。
「お‥‥‥おねえちゃん?」
「ちょうどいい機会なのよ。伊達のアホ共はウチでも権力をかさにきて何度も無銭飲食してるしバイト達にセクハラしてるし止めた娘もいるし、復讐のチャンスなのよ」
 彼女の言う通り、戦勝したからと調子に乗っている一部の将兵による横行もあったりしている。
「武力で国を支配出来ても人心を支配出来ると思わない事なのよ。絹を奪った兵隊の兵舎も判明しているし、夜闇に紛れて襲撃してやるわ! 闘争よ! 決戦なのよ!」
「それ犯罪‥‥‥というか重犯罪レベルだよ!」
「大丈夫よ。罪はばれるまで罪じゃないわ」
 そんな物騒なことをのたまった。
「いいこと? 例え過程でどれほど外道な事しようと最終的に勝ってば正しいのよ。相手が正義でも負けてしまえば悪。勝てば官軍なの!」
 もう止められないと悟った弟は誤魔化してギルドに依頼する事にした。
 メイドさんの戦いが始まる?

●今回の参加者

 ea0031 龍深城 我斬(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0946 ベル・ベル(25歳・♀・レンジャー・シフール・モンゴル王国)
 ea4591 ミネア・ウェルロッド(21歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea4927 リフィーティア・レリス(29歳・♂・ジプシー・人間・エジプト)
 ea7394 風斬 乱(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb0084 柳 花蓮(19歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 eb2745 リースフィア・エルスリード(24歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 eb4757 御陰 桜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「――さて、いざ襲撃の前に一悶着あったが、何とか間に合ったようだな」
 草木も眠る丑三つ時。伊達の兵舎を見下ろせるどっかで風斬乱(ea7394)は身嗜みを整える。
 びしっと決った燕尾服。手には純白の手袋で包み、ネクタイとブーツは闇に溶けるような漆黒の色。従者の心得を胸に刻むオールバックのナイスガイは、ちっちゃくてころころして元気いっぱいなぷにロリメイドを睨んだ。近寄り難い雰囲気の乱ではあるが、胸ポケットから覗くトカゲ? のおかげでいい感じに間が抜けている。
「せっかくメイド服着てもらおうと思ったのに〜」
「冗談じゃない。よもやと思ったが、まさか本当に忍び込むとは思わなかったぞ」
 未練がましく愚痴るミネア・ウェルロッド(ea4591)。彼女は、今回、男連中にメイド服を着てもらおうと柳亭に忍び込み執事用制服を使い物にならないようにしようとしたのだ。
 そんなミネアの企みに気が付いた男冒険者達は柳亭に潜み、いざ刻みにやって来たミネアと戦った。
 武芸の達人とか超越とかの使い手達のおかげで何気に高レベルの戦いを繰り広げたし、一応ミネアの企みは成功したりしている。
「‥‥‥‥‥‥」
 流れるような長い銀髪。そっと触れるだけでも壊してしまいそうな処女雪のような白く細い肌。儚い輝きを放つ宝石に似た青い瞳。メイド服が異様なまでに似合うというかメイド服を着る為に生まれてきたかの如く天下無双の美少女っぷりを発揮しているリフィーティア・レリス(ea4927)は、両手と膝を地に付け思いっきりうなだれていた。
 人呼んで大殺界ジプシーことリフィーティア。元々女顔で持ち主に不運をもたらすとされる鬼神の小柄を二振り所持しているおかげで、凶兆の象徴として有名な九曜の二つ星の加護を受けんばかりの不運っぷり。れっきとした男だというのに、これでもかと女の子と間違われているのだ。メイド服は本当に似合っているのだけど。
「おたくも男装できないのは残念だろうが、女人は女人らしい恰好の方がいいと思うぞ?」
 リフィーティアへ、慰めるようにそっとささやく乱。
「‥‥‥何度も言うようだが俺は男なんだ」
 乱は残念だからそう言っているのだと思った。
 そんな事を呟くリフィーティアに、
「そのメイド服、とても似合っているぞ?」
 聞き様によってはステキに変態な台詞を極上の笑みでのたまった。
「似合うとか似合わないとかそーいう問題じゃないんだーーー!!!」
 銀髪メイドさんはぶちぎれた。




 三人がそんな事をやっている隣、ベル・ベル(ea0946)を除く残りの冒険者達は事前に入手した情報を交換しあっていた。ちなみに三人の美人なメイドさんと執事が一人。龍深城我斬(ea0031)は表情に出さないもののドキドキしている。
 女の子にとってフリフリとかある種憧れのメイド服。男にとってもある意味夢で浪漫溢れるキャッキャウフフなメイドさんなのだ。もちろん違う意味でなんて当たり前。否定なんかさせないぞ。
「噂には聞いていたが、これは実にぎりぎりな所をついた商売だな」
 眼の前の天使達もとい、三人の美女メイドを見つつ言う。柳亭でも客として行き、メイドアクション拝見していたので何かもうココロ踊っているのだ。思い出しウフフなんかして本当に印象に残っているのだろう。
「全く。ジャパンの人達はメイドの事をなんだと‥‥‥」
 彼女は我斬の発言を普通に商売の感想だと思ったのだろう。リースフィア・エルスリード(eb2745)は、法的に問題ないのなら、とどこか諦めたようにため息を付く。まあ世の中法の隙間を縫ったりギリギリな商売は結構多い。
「ともかく、伊達兵はいろいろ好き放題やってくれたので制裁が必要でしょう」
 ね? と巨大な鉄塊のようなメイスを手に残り二人のメイドを促す。
「日頃お世話になっている柳亭の頼みですから‥‥‥。それに、勝利をカサにきた伊達兵は気に入りませんし‥‥‥」
「柳亭にはお世話になってるから潰れちゃうと困るしねぇ」
 一人はエルフのメイド。独特の喋り方で引っ込み思案で大人しくて(柳亭のお客さんにはそう思われている)逆にそれがいいと評判の柳花蓮(eb0084)。
 もう一人は桃色メイドの御陰桜(eb4757)。柳亭の看板娘のねね子の姉貴分で本人の生業もメイド喫茶店員。問答無用な美女で大きな胸がとってもめっさものっそ眼が引き、むしろ整った容姿や肢体を武器として活用しているナンパ超越者だ。仕草の一つ一つに艶を感じ、ネコミミの合わせ技コンボで顧客をしっかりゲットしちゃってるのだ。
 勿論リースフィアも二人に漏れる事のない美少女だ。整った容姿を彩る金髪と青い瞳は西洋人独特の魅力を醸し出し、溢れる気品と威厳は女主や令嬢の側に立つ事を許された相応の血筋のメイドの様だ。
 そんな三者三メイドを前に我斬は存在そのものを薄れかけている感があるが、一つ咳払いして桜に尋ねた。
「で、その伊達兵の話は信用出来るのか?」
「大丈夫よ。路地裏に連れ込んでし〜っかりお話し聞いたから」
「私もリードシンキングで確かめましたから問題ありません‥‥‥」
「そうか。ならいいんだが」
 胸のドキドキを必死に抑え我斬は平静を装う。よく観察すれば脂汗が浮かんでいるのが判る。思い出したようにリースフィアが尋ねた。
「そう言えば、『男の純情踏み躙りやがってー!』とか伊達兵が叫んでましたけど、桜さん何かなさったんですか?」
 桜はにっこり微笑んで、
「ヒ・ミ・ツ♪」
 遊女すら駆け足で逃げ出すほどの艶を含んで言った。




「敵襲ー!」
 襲撃を受けた伊達兵舎。見張り番の号令により眠りについていた伊達兵達は装備を整え外に出る。
 簡素な槍と鎧に身を包んだいかにも雑兵、といった足軽達だ。彼らは今日も今日とて天下の独眼流たる伊達政宗の威光を笠に着た彼らは江戸の店々を荒らしていた。
 ある一人の兵は金品を奪い、ある一人の兵は女で遊び無闇やたらに市民に手を挙げ欲のままに日々を過ごしている。だがそんな事を繰り返していれば我が身に帰ってくるもので‥‥‥
「召しませご主人様!」
 唸る鉄塊舞い散る血潮。地を這うように走るクレメニのメイスが足軽を粉砕する。オーガパワーリングを四つで文字通り、鬼のような力でリースフィアは足軽達をザクロに変える。頭を狙っていないし死んではなかろうが、かえってむごい有様になっている。どこぞの小人さんが『みせられないよ♪』なんて看板立てんばかりの惨状ぶりだ。
「ジェーノサーイド!」
 殺戮もとい、闘争の中でいい感じにハイになっているのだろう。とにかくリースフィアは鉄塊を振り回しその度にミンチ‥‥‥じゃなくて戦闘不能の足軽達が出来上がる。
「ふっ。伊達兵どもを遠慮無しにぶちのめして良いとは、中々にご機嫌な依頼だな」
 忍者刀が月光に照らされる。足軽が我斬に相対するがその刹那、刃が煌く。
 足軽達は光の残像としか捕らえきれなかったのだろう。ポイントアタックやシュライクを駆使し足軽の鎧の隙間、間接等を吹き抜ける風のように狙い戦闘力を奪い取っていく。
 乱が続く。
「覚えておくといい。執事に逆らうと怖いぞ?」
 冷笑を浮かべ斬撃。神速と化した日本刀の反りの部分が足軽達を打ち据える。
 スタンアタックを使えるという訳でもなく、反りの部分で峰打ちだ。日が出ているならそれが判るものの今は夜も更けた丑三つ時。その上格闘術超越者の乱により刃の残像すら捕らえきれない。足軽達は次々に斬られたと思い倒れていく。
 前衛の三人のジェノサイドの影に埋もれがちだが、えげつなさなら残る二人も負けていない。
「‥‥‥ブラックホーリー」
 逃げ惑う足軽達に花蓮は聖なる力をぶちかます。世間の悪評のままに好き放題していたからか、伊達兵はこれでもかとブラックホーリーの餌食になっていく。
「春香の術!」
 桜は囲まれ、いざ槍を付きたてようとした足軽達に高速詠唱で眠りにいざなう。そこへ、
「‥‥‥ブッラクホーリー」
「デストローイ!」
 黒の神聖魔法と鉄塊がぶちのめす。情け無用となぎ倒す。
 一方その頃、ベル・ベルの案内によって強奪品を納めた部屋に辿り着いたリフィーティアとミネアは件の売上金と絹を探していた。
 今回、ベル・ベルは全くと言っていい程影が薄いが、その小柄な体形と飛行能力と韋駄天の如き鬼のような速攻の素早さでこの部屋を探し当てたのだ。元々夜も遅い事もあり伊達兵に見つかりそうになっても、超越となった回避技で物陰に隠れ、伊達兵達をやりすごしまくる。ベル・ベルのシフール独特の特性とその回避術あっての結果である。
 見張りを兼ねて部屋の入り口近くにいるベル・ベルは二人へ問うた。
「しふしふ〜。お金と絹は見つかりました?」
 外から響く戦闘音。彼女のペットのエレメンタルフェアリーのシャルは、そんな空気を肌に感じているのだろう。妙に高揚している。ちなみにシャルも柳亭から用意されたメイド服姿だ。ちっちゃくてお人形さんみたいでお持ち帰りしたいぐらいに可愛い。
 まあそんな事はどうでもいい。売上金と絹を空飛ぶ絨毯に乗せるリフィーティアを見て安心したように言う。
「ありがたいですよ〜。しふしふは力がないですから重い物は飛びながらでは運べないですよ〜」
「運べないですよ〜」
 言葉尻を真似る妖精さん。元気にふよふよ飛び回ってとても可愛らしい。
 目的の品を積んでいるリフィーティアとは別の場所。何やらごそごそしているミネアを見つけた。どうも挙動が怪しい‥‥‥。ベル・ベルは思い切って尋ねてみた。
「ミネアさん。何しているんですか〜?」
「う!」
 固まるミネア。懐に途中まで入れていた手が止まった。
 ベル・ベルはふわりと飛んで覗く。
「‥‥‥お金?」
 小さなお手々に掴まれたお金。おそらく伊達兵が色々な店から奪ったものだろう。依頼で奪い返す分は既にリフィーティアが回収中である。絹も積んでいるし他に取らなければならないものはない。
 なら、ミネアが手にしているのは何だろう。いかにも見つからないようにこっそりと、それも懐に入れようとしてというか、既にいくらか突っ込んでいてじゃらじゃら金属が摺れる音がする。もしかしてこれは‥‥‥
「泥棒はいけないと思いますよ〜?」
「ち、違うもん!」
 ジト眼のベル・ベル。ミネアは反論。鬼のような速攻の早さで金子を懐に入れながら。
「売上金だけが盗まれてたら遊郭の人達が怪しまれるからあさるだけだもん! ミネアの私腹を肥やす為じゃないんだもん!」
 なら懐に突っ込む必要はないだろう。脂汗全開で滝のようだ。
 一般市民にすればかなりの大金を懐に仕舞い込み、銀髪メイドさんは空飛ぶ絨毯に荷を積み終える。
 火事場泥棒じみた事をやり終えた三人は、運び出す為に外に出たが‥‥‥




「‥‥‥これは地獄絵図か?」
 外に出たリフィーティアは、あまりの惨状に絶句した。
 まずは振り回されまくるクレメニのメイス。最早鬼そのものな力を発揮して、鉄塊で伊達兵達を凄い事に変えていく。
 続いて乱や我斬、花蓮に桜は比べて地味ではあるが的確に伊達兵達を制圧していく。ここまではいいのだが‥‥‥
「トローーー!!!」
 暴れる塗坊押し潰す。
 冒険者達のペットもいい感じに野生を刺激されて暴れまわっている。
 犬に忍犬に戦馬とか、結構な活躍ぶりである。どこから連れ込んだとかそんな事はどうもいい。
「お、お助けー!」
 迫る疾風足軽に、チーターのコロネが喰らい付く。
 猫化の獣は一撃必殺。喉元に噛み付いたコロネ(ミネアの言い付けにより牙は突き立ててないが)は凄まじい顎の力で伊達兵を振り回す。
 エレメンタルフェアリーのシャルも伊達兵にぺしぺしやって、何故かベル・ベルもそれに混じってぺしぺしやっている。違和感ないのが逆に凄い。
「むごい‥‥‥。むごすぎる‥‥‥」
 まるで戦場‥‥‥。いや、戦場より酷すぎる。だが、今まで調子に乗って市民を苦しめてきたここの伊達兵達にはいい薬かもしれない。
 命まで取ってはいないし、見た感じと襲われる側の光景と恐怖が凄いのだ。
「医者ぐらい呼んでやろうかな‥‥‥」
 襲う側の立場の時点でとうか思うのだが、リフィーティアは絶叫轟く月夜にそう思った。




 メイド喫茶柳亭。売上金と絹を件の遊郭に届け、『認めてやるわ』の短い文章の書かれた手紙を手にお牧は高らかに笑った。
「むかつく伊達兵もお仕置きできたし、これで柳亭に立ちはだかる敵はいなくなったわ! 柳亭全国チェーン作戦、展開よ!」
「おねえちゃん。やりすぎは、やりすぎだけはやめようよ‥‥‥」
 おろおろして、自分達がけしかけた事に青ざめる弟。支配者に喧嘩を売るなんて、しかもやった事がやった事だから一族郎党打ち首間違いない。今回は伊達兵に被害にあった店々の協力と冒険者達の裏工作で事なきを得たのだが、次は上手くいくのだろうか。
「桜おねーさん。どうですか?」
「ああ‥‥‥。そこ、気持ちいいわ‥‥‥」
 ネコ娘にマッサージしてもらっている桜。相当肝が据わっているのだろう。えらい事やった割りにはいい感じにマッサージを堪能している。
 最近じゃないけど胃が凄い事になりかけている弟君。
 彼の受難はまだまだ続く。