メイドウォーズ 二

■シリーズシナリオ


担当:橋本昂平

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:8 G 76 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:08月04日〜08月09日

リプレイ公開日:2007年08月13日

●オープニング

――まあ、よく見てみれば物騒な事もあるもので




 メイド喫茶柳亭。かつて閑古鳥が大合唱していたこの店は、冒険者達の手により江戸屈指の迷店(?)となっていた。
 あっちを見てもこっちを見てもメイドさん。可憐で笑顔のとても可愛らしい女の子や、理知的で大人の魅力を備えたおねーさんが訪れた客達に最高の癒しと安らぎをもたらしてくれる。
 頭に映えるホワイトプリムに漆黒の闇の如きワンピースに優しく包みこむ白のエプロンドレス。まるでそれは草原の中の一輪の花のよう。だからこそ際立つ奉仕の志。
 何もかもが間違っている気がするのだが気にしたら負け。突っ込みたくなる事なんてありまくるけど世の中そんなものなのだ。
 そんな夢と浪漫がいっぱい詰まったこのお店。その休憩室で例によって例の如く店長が轟き叫んだ。
「ねね子ちゃんが大変よー!」
「あ、そうなの?」
 慌てふためき今にもランダバを踊りそうな姉を見つつ弟はお茶をすすった。
「あ、そうなの、じゃない! ねね子ちゃんが大変って言ってるでしょ!」
「いやー‥‥‥そう言われても前にも似たような事あった気がするし、おねえちゃんの言う事でいつもおかしいし、だから今回もまたアホな事言い始めたなぁって」
「実の姉にアホとか言うな!」
「だってアホじゃない」
「この愚弟が‥‥‥。最近調子に乗ってるわね‥‥‥」
 まあ姉がこうなら弟は苦労するものである。それ故に逞しくなったのだが彼は大きな瞳が印象的なくりくりヴォイスの男の子。女の子とよく間違われるし実際店のバイトのメイドさん達に無理矢理メイド服着せられたり一部の客からコアな人気もある。妙に尻に視線を感じる事があるらしいのだがそんな事はどうでもいい。
 だがそれはそれ。柳亭グループの会長であり本店の店長であり、姉のお牧はあまり突っ込まない事にした。
「まあそれはどうでもいいとして、ねね子ちゃんが大変なの」
「だからどう大変なのさ」
 冷静な対応である。
 以前も大変だと姉が騒ぎ立てたがこの姉が大変という事態は言うほど大した事がない場合と‥‥‥相当シャレになってない場合がある。というかほとんどが大半。実際バレたらお縄どころか一族郎党首が飛ぶしいつかの伊達侍の宿舎襲撃とかよくバレなかったと思ったものだ。
 今度は一体何なのだろう。ここまでくるといい加減肝は据わりまくる。
「ねね子ちゃんが‥‥‥ねね子ちゃんが誘拐されたの!」
「は? 誘拐?」
「そう! 誘拐!」
 姉のテンションは留まる所を知らない。何というか今にもブッ込み特攻しそうな勢いである。
 ねね子ちゃんが誘拐‥‥‥。この姉の事だから、屋敷か何かに入っていった所を変に勘違いしただけではなかろうか。まあ勢いだけが存在意義のようなひとである。
「近隣の店の店主達の会合の帰りに季節亭のお春のババァにあったんだけど、ねね子ちゃんが伊達侍の屋敷に入っていったと言ってたわ」
「おねえちゃん。そういう言葉使いはどうかと思うよ。お春さんは全然若いしとっても美人じゃない。ていうか入っていった?」
「ふん。相変わらずあの店の肩を持つわね。どうして男っておっぱいの大きいのがすきなのかしら」
「あ、いや。ぼくは別にそんなのじゃなくて、ただの一般論を‥‥‥」
「黙れ愚弟! 私は知ってるのよ。店の女の子だけじゃなく、あんたが女の人を見る時必ず第一に胸元を見るのを。そして食い入るように見るのを! きょぬーなら尚更!」
「ちょっとおねえちゃん。声が大きいよ」
「やかましい! そんなにきょぬーがいいのか! 私は全然育たないしきょぬーは敵よ! それにあの女は何? 冗談みたいな整い過ぎたスタイルだし、あの胸はおかしいわよ! 不自然すぎるわよ! 全く忌々々々々々々しい!」
 思いっきり私怨である。まあ女的にきょぬーは羨ましい反面恨めしいのだろう。彼女みたいな無乳にとっては。
「おねえちゃん。とりあえず落ち着いて‥‥‥ねね子ちゃんが大変なんでしょ?」
「‥‥‥そうね。そうだったわ」
 肩で息していたお牧は深呼吸し落ち着かせる。一つ咳払いをする。
「お春が言うにはね、ねね子ちゃんが伊達の若侍に連れられて屋敷に入っていったみたいよ」
「普通にお侍にお呼ばれしたとかは? 招かれたとか」
「ウチは伊達侍を襲いはしても仲良くはないわ」
 何ともストレートな言い様である。
「それにあんたの言い分が正しくても、侍に呼ばれた時点で既に終ってるわ」
 この女は侍に何か恨みがあるのだろうか。弟は何でさ? と首をかしげた。
「いいこと? 侍ってのは、腰の刀と権力を傘に来日々を一生懸命に生きる私達一般市民を虐げる悪の尖兵じゃない」
 真顔で言い切った。
「きっと権力を盾に無理矢理連れ込んだに違いないわ。侍達に囲まれて、刀を手に俺らの相手をしないと命はないぞって」
「幾らなんでもそれは‥‥‥」
「そして次第にエスカレートしていく侍達の行為! 服を剥ぎ取られ泣き叫ぶねね子ちゃん! 嗚呼、今頃○○○な事とか×××な事とか△△△な事とかされてるに違いないわ!」
「だからそこまでは‥‥‥」
「シャラップ! 侍達は口では偉そうな事言ってるけどそういうものなの! 例によって例の如く騙くらかしてギルドから冒険者都合してるし今回も伊達侍の屋敷を襲撃するわよ!」
「‥‥‥‥‥‥」
 頭を抱えて突っ伏した弟。襲撃は夜中。今回も素性がばれないよう、近隣の知り合いの店や冒険者達にお願いしようと思った。




「もう遅い。今日は当屋敷に泊まるといい」
 伊達軍士官用屋敷。数人の仕官及び仕官候補と、揮下の兵が宿として借りているその屋敷にメイドさんはいた。
 作りものとは思えない、ネコ耳と尻尾を持つ可愛らしい女の子である。幼い容貌に大きな瞳。ぴんと立つネコ耳は彼女をより愛らしく魅せ尻尾はゆらゆらと揺らめいている。
 隊長である鈴山美晴は部下の立川正春を廊下に招く。元服前の子供然とした少年だ。
「ねーちゃんどうしたの?」
「勤務中よ。隊長と呼びなさい」
 美晴は襖の間からネコ耳メイドを見やると黒曜石のような鋭い瞳は正春に向ける。
「私はこれから会議で明日の朝には戻るのだけど‥‥‥くれぐれもあの娘には手を出さないように」
「手を出すって、そんな事する訳ないじゃないか」
 そうだよ。だって俺はねーちゃん一筋だから!
「よく言うわね。先日私に夜這いをかけにきたのはどこのどいつだったかしら?」
「そ、それは‥‥‥!」
 どこぞの女冒険者に洗脳された時お事である。まあ逆にボコボコにされて吊るされたけど。
「無理矢理じゃなくて踏むべき順序があるべきじゃない。そうなら別に‥‥‥」
 よく聞こえなくて顔を近づけたが美晴は我に返って怒鳴る。何故か赤面している。
「とにかくあの娘には手をださないように! もし何かしたら‥‥‥」
「したら?」
 間を置いて、夏なのに何故か冷たい風が吹いて、
「――殺す」
 割と本気で仰った。正春は彼女を見送りねね子の泊まる客室を用意しようとすると同僚の二人がやってきた。
「正春! ネコ耳メイドさんが宿泊するって本当か!」
「足軽共に聞いたんだけど、隊長も粋な事をしやがるぜ!」
 ものすっごく不安になってきた。
「フラグだ! フラグを立ててみせるぜ!」
「ククク‥‥‥。上手い事口車乗せてあんな事やこんな事! やってやるぞ!」
 何をやる気だこのアホは。
 寝ずの番が必要かな‥‥‥。正春は沈みゆく陽を見つつそう呟いた。

●今回の参加者

 ea0443 瀬戸 喪(26歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4927 リフィーティア・レリス(29歳・♂・ジプシー・人間・エジプト)
 ea5936 アンドリュー・カールセン(27歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea9885 レイナス・フォルスティン(34歳・♂・侍・人間・エジプト)
 eb0084 柳 花蓮(19歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 eb2745 リースフィア・エルスリード(24歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 eb4757 御陰 桜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ec1132 ラスティ・セイバー(32歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

シャリン・シャラン(eb3232)/ 江 月麗(eb6905

●リプレイ本文

「胸騒ぎがしたから来てみたんだけど、ねね子ちゃんいるかしら?」
 依頼を受けた冒険者達は柳亭を訪れた。ギルド員は人手が足りないから店員として人を集めている、と聞いたのだが依頼先は柳亭だ。この店と過去関わった面々は何か嫌な予感がしつつも詳細は行ってみないと判らない。
 一行はアルバイトのメイドさんに奥に案内され、お牧へ御陰桜(eb4757)は尋ねた。
「何ていうか、ねね子ちゃんの助けを呼ぶ声が聞こえた気がしたのよねぇ?」
「よく来てくれたわ。全くその通りよ」
 お牧は深刻そうに、どこぞの司令官のように両手を鼻の辺りに組み、八の字に肘をあて冒険者一行を見据えていた。
 店の方では新たに雇われたシャリン・シャランと江月麗が着慣れぬメイド服で忙しげに店内を駆けている。接客やメイドアクションはまだまだおぼつかないものがあるが、それが初々しくて逆にいいらしい。
 まあそんな事はどうでもいい。事情を聞かされた冒険者達は一斉に顔を歪めた。
「彼女が攫われただと?」
「いたいけなねね子さんを連れ込むなんて赦せませんね」
 つとめて冷静に振舞うアンドリュー・カールセン(ea5936)と内心の怒りを隠し切れないリースフィア・エルスリード(eb2745)。世界に知れ渡る英雄と謳われるリースフィアであるが、貴族子女よろしく蝶よ花よな純粋培養な箱入り娘的なお嬢さま。同姓だという事もあるだろうが、その手の話しにはひどく嫌悪感を抱くのだろう。
「つまり‥‥‥ねね子ちゃんが迷子なんですね‥‥‥」
 こっちはこっちで何かが微妙にズレている柳花蓮(eb0084)。話し半分も聞いてない。
「取り敢えず胸が平原なのを気にしているのだな」
 ラスティ・セイバー(ec1132)については話しそのものを聞いてるのかすら疑問である。思った事を一言。
「単純な話だ。胸が無いと男女見分けが付かん場合がある」
「やかましい!」
 トレイの一撃がラスティを直撃する。デッドorライブで受け止める。
「どいつもこいつも乳乳言って。そんなにきょぬーがいいの!? これだから男ってのは!」
「何か気に障ったか? あのジプシーの事なのだが‥‥‥」
 そう言って件の銀髪ジプシーを指差す。
 流れるような銀色の長い髪。宝石のような青い瞳。誰からも侵入を許した事もない処女雪のような白い肌。触れると折れてしまいそうな華奢な肢体は抱きしめたくて、人によってはめちゃくちゃに壊したくなりそうで、小さな唇はずっと味わいたい甘い果実のよう。
 雪の精と言っても過言じゃない。そして、天に座する二つの凶星の加護を得ているかの如く不運に見舞われる美少女‥‥‥もとい美少年、リフィーティア・レリス(ea4927)だ。彼は普通に見れば女の子が男の子に迫られている状況にあった。
「さてさてリフィさん。この服に着替えましょうか」
「何となく、メイド服が用意されてると思ったんだが‥‥‥」
 メイド服を手に迫る和風メイドさん。瀬戸喪(ea0443)からリフィーティアは逃げていた。今まで好きで着ているという訳ではないが、何度も袖を通してきたメイド服である。正直着慣れているのだがどうも嫌だ。
「何でそんなに嫌がるんでしょうねえ? 似合うんだから素直に着ればいいものを」
 喪は壁際に追い詰めたリフィーティアを捕獲する為にじわじわとにじり寄る。
「執事服が用意されてないかなーって思うんだよ。わざわざそれを着なくても」
 なあ? と問いかける。だけど喪は、
「嫌がるリフィさんにメイド服を強要するのが楽しいんですよね」
 笑顔で言い切った。ちなみに彼も同じ男。だけどよく異性に間違われる容姿でメイド姿が異様に似合っている。
「さあさあ」
「待て! 自分で着るから! そんな所触るなぁぁぁぁ!」
 同性愛嗜好の喪。その上自分の目的の為には手段を選ばないのでアレでソレでコレだ。
 お牧はそんな彼らを一瞥して、
「いいのよリフィちゃんは! 女の子だし!」
「ふむ。そうか」
 納得するな。女の子なら余計にヤバイ光景だ。
「見事に暴走しているな」
 冷静に突っ込むが別段止めもしないレイナス・フォルスティン(ea9885)。侍的にいいのかこれは。
 同じく冷静というかどんな状況でもクールなアンドリューは思案を繰り広げる。かなり脱線しているが彼は依頼について真剣に考えている。
(彼女は獣人に近い、非常にレアな存在だ。研究のためという名目で猫耳と猫尻尾を○○され、全身を××××れたあとに、実験動物のような扱いを受け‥‥‥)
 想像出来うる可能性を考える。戦闘のプロフェッショナルである彼は、女性が捕まった場合、どういう事になるかも熟知している。
 ちなみに彼の想像は口に出ていた。思案に夢中でうっかり声で出ていたのだ。
「くっ、下衆どもめ‥‥‥!」
「‥‥‥どっちが下衆よ」
 冷ややかに突っ込む桜。
 何はともあれ襲撃まで後少しだ。



 そして襲撃の夜。それぞれ武装をメイド服や執事服の上から身に纏った冒険者達は行動に移っていた。
「ねね子ちゃーん!」
「ネコミミメイドはどこー!?」
 夜も更けた伊達屋敷。歳若い二人の侍は前に出す足、振られる手、同時に動かし並走し、目標のネコミミメイドを探していた。彼らの瞳にはもうキャッキャウフフなネコミミメイドしか映っていない。言うでもないがその内容は女の子のヒ・ミ・ツな部分に興味があって仕方ないソレである。まあ思春期なんてものはそんなものである。
「スキンシップの名目でー!」
「そのネコミミと尻尾を○○して、全身を××するんだよー!」
 アンドリューの目測は寸分の狂いもなく当たっていた。こんなのが伊達の次代を担うのだ。伊達家の将来が心配だ。
「‥‥‥‥‥‥」
 襖の隙間から様子を伺う正春。通り過ぎたのを確認するとねね子に向き直った。
「一応、一安心かな」
 安堵のため息を付く正春。彼は同僚の二人にはねね子の止まる客室を教えていない。お泊りで興奮しているのだろう。ねね子はまだ寝ていなく、正春に話し相手として付き合っていた。メイド喫茶の仕事の話しとか、変わった客が多いとか、桃色の髪の大好きなお姉さんとか‥‥‥。
「それでね? それでね?」
 正春は生返事を繰り返す。いつから話し込んでいるだろうか。女の子はネタの底がないらしい。
「正春ちゃん、聞いてる?」
 ぼうっとしていたのだろう。ねね子は覗き込むように正春を見上げた。
(こ、これは‥‥‥!)
 ねね子は寝巻きを美晴から借りている。スタイルもよく出ている所は出て引っ込む所は引っ込んでいる羨ましい体形の美晴の寝巻きはねね子に合わず、帯で締めているとはいえ、今のねね子の姿勢からして少し視線をずらせば二つの丘が伺えそうだ。
 決して豊かとは言えないが、歳相応に育っている双丘。その上人里離れた場所で育てられ、世の中に悪人はいないと信じているねね子には羞恥心というのがあんまりなかった。
「正春ちゃん?」
 更に身を寄せて覗き込むねね子。鎖骨が、双丘が、色々アレでございますよ!
(ダメだっ! 俺にはねーちゃんがいるじゃないか!)
 これもこれでどうかと思うが思春期真っ只中の青少年。人並みの常識なんて言葉は速攻で一刀両断だ。
 手が伸びて‥‥‥凄まじい轟音が門から響いた。



「逝けぇぇぇ!」
 夜気を貫く咆哮。幾つもの命を屠ってきた猛獣の如き咆哮を放ち門を粉砕するリースフィア。強力を誇る勇士が振るってきたという曰くのあるクレメニのメイスを手に駆け、まず手始めに近くにいた足軽をぶん殴った。
「突撃です。細かいことをしている暇はありません。ここは正面突破なのですよ!」
 そう言ってもう一撃。ナニヤラぐちゃっと果実を潰したような音がしたけど気にしない。
 同じく門を粉砕して駆け込んできたラスティは驚きに眼を開いた。
「コレが本物の騎士の実力という奴か。勝てる気がせん。何というパワーとスピード!」
 頭を狙ってないらしいが巻き起こる圧倒的な暴力の嵐。単純な戦闘能力ならラスティは僅かに劣る程度なのだが、優れた回避技にオーラの技。正面きって戦うなら必ず苦戦強いられるだろう。
 メイド服の上とはいえ、プレートアーマーやらスカルフェイスやら、どう見ても『殺る気』前提のようなリースフィア。それだけ依頼に真剣なのだろう。自分も負けてられないとハンマーを握る手に力を込める。
「キサマら何者だ!」
 混乱している状況の中、一人の足軽がラスティへ槍を向ける。ちゃんと訓練を積んでいるのだろう。対応が早い。
「通りすがりの大工執事R・Sだ。この度さる筋から伊達屋敷の解体を請け負った」
「――ふ、ふざけるな!」
 一瞬何の事だか判らないと槍突き出そうする足軽。でたらめだが相手が混乱すればそれで良い。
「問答無用! バーストアタック!」
 ジャパンでブレイクなアレな歌を口ずさみながら破壊活動を行おうとするラスティに、襲撃者を撃退しようとする足軽達。その隙を付いて救出を含むもう一般は屋敷内に侵入していた。
「伊達屋敷で迷子とは心配です‥‥‥。あそこは魑魅魍魎の巣に違いありませんので‥‥‥」
「あの時の事を思うと違う意味で危険かもしれないんだよなー‥‥‥」
 花蓮とリフィーティア。この二人もそうだ。リフィーティアは念の為空飛ぶ絨毯で侵入しているので絨毯を抱えている。
 そう言えば乗り込む前、自分の姿を見たアンドリューが、『似合ってるぞ。このまま暗殺もできるぐらいだ』なんてのたまってた。まあメンデルに土下座して謝らんばかりにビジュアル美少女だ。そう言われるのも仕方ない。
 近づいてくる足踏み音。戦闘が起きているからかそれともそういう事を言っていたからか、違う意味で危険な二人の伊達の若侍がやってきた。
「何の騒ぎだコンチクショウ!」
「ねね子ちゃんとキャッキャウフフする時間が惜しいのに!」
 どこかずれている気もするが、二人は花蓮とリフィーティアの姿を捉えた。
「こないだの‥‥‥!」
「お前らは!」
 突然の邂逅に驚く両者。花蓮とリフィーティアは目的を果す前に見つかったという危機感を抱く。今回、救出を前に見つかってしまえば終わりだ。だが‥‥‥
「ククク。ネコミミメイドさんを探していたがこれはこれで好奇なり!」
「ちょうど二人だ! 仲良く楽しめるぜ!」
「‥‥‥‥‥‥」
 呆れて突っ込むタイミングを逃したリフィーティア。男なのに貞操の危機を感じる。
「不審者をとっ捕まえて! 色々尋問だ!」
「尋問と称して思いつく限り色々と! 己の不運を呪うがいい!」
 権力を傘に着ているというかどこの悪代官だろう。今の彼らにはブラックホーリーが思いっきり効きそうだ。だけど今更であるがこれ以上屋敷内の人間に見つかる訳にいかず、花蓮はスクロール片手にコンフュージョンを唱えた。
 コンフュージョン。対象者の考えを混乱させ、正反対の行動を取らせる魔法である。
 眼の前には見目麗しい美少女メイドが二人。相手の出方を伺っている。
 だけど混乱中の伊達侍。彼らにはその美少女がはしたない恰好で自分たちを誘惑しているように見えて、据え膳食わぬは何とやらで色々我慢出来ないのでありますよ!
「ウォォォォ!!!」
「尋問だぁッ! 折檻だぁッ! ヒミツの果実を全力でいただくぜ!」
 いただくな。
「逃げるぞっ!」
 花蓮の手を取り逃げ出すリフィーティア。これだから思春期の少年というのは手に負えない‥‥‥。本気と書いてマジで屋敷内を逃げ回るハメになった。




 喪のブラインドアタックが足軽を打ち据えた。まるで刃物のような鋭い鞭の一撃。彼と相対していた足軽はもんどりを打って倒れた。
 剣の達人は楊枝一本で人を倒せると言う。夢想流の達人である喪もまた、足軽達を軽々とあしらっている。
「ふふふ。何か問題でも?」
 ていうかかなりえげついしばき方である。その筋の人は大きな音を立てる割りに痛みはそれほど‥‥‥という鞭の振るい方もあるらしい。だけど喪のやり方は、微妙に手首のスナップを利かせているのか肉を抉るように食い込んでいる。
「いい声で鳴いてくれないと‥‥‥」
 腰の引けた足軽を前に、それでも笑顔で鞭を構える喪。その姿がいやに決っている。
 主旨がずれている気もするが一応目的を果している。レイナスは足軽と相対しつつもそんな和風メイドを見つつ苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
「自分も暴走しないように気をつけないとな」
 まあこの依頼を受けるような連中は暴走しているのがデフォルトのようなものである。
「伊達というとあの暴走兵士が思い浮かぶのだが」
 ふむ、と思案するレイナス。足軽は歯牙にもかけられていないと激昂し槍を突き出すも、素早くオフシフトで避ける。聖剣が足軽を軽く裂き昏倒させる。達人と謳われるだけあってどうの入った連続技である。
 そうして各々が対峙している中、複数の駆け足が聞こえてきた。耳を澄ますでもなくそれは近づき、戸を打ち破ってリフィーティアと花蓮が飛び出してきた。その後ろに続く、常軌を逸し眼を輝かせる若侍二人。
「待つんだメイドさん!」
「ステキな事をしてあげるから!」
「来るなぁぁぁ!!!」
 花蓮の手を引き全力疾走するリフィーティア。こいつら妄想を膨らませて何をするつもりなんだ!
 そんな恐怖心が届いたのだろうか。リースフィアが中間に立った。クレメニのメイスを片手に立ち塞がる。
「新たなメイドさんが来たぜ!」
「しかもビキニアーマーだ!」
 どうやらこいつらにはそう見えるらしい。ていうかメイドさんなのにビキニ?
「貴方たちの妄想‥‥‥ここで砕いて差し上げます!」
 オーガパワーリング八つに巨神の力帯で最早鬼そのものなリースフィア。普通に素手でも撲殺できそうだ。
「我が名はリースフィア! リースフィア・エルスリード! 伊達を砕く鎚なり!」
 月を背に夜気を貫く咆哮。心の中のボスが、邪悪を砕けと叫んで吼える!
「クレメニのメイス、一撃粉砕!」
 スマッシュEX。ギャグ世界の人間じゃなかったら、即死確定の超一撃!
「我が鎚に、砕けぬもの、なし!」




「あたしも言葉が足りなかったけど、強引なのと無理矢理は違うんだからね?」
 いつの間にやらねね子の客室に侵入して刀を抜こうとした正春を速攻で制圧した桜とアンドリュー。とりあえず混乱に乗じてお説教。前回の正春の失態をどこぞで聞いているのだ。
「知らない人についていったらだめだろう。お牧は心配していたぞ」
 こっちもこっちでお説教。アンドリューは真顔でねね子に言い聞かせていた。
 結果、明日桜が柳亭に連れていく事になり、桜はこのままねね子と一夜を共にし、アンドリューは万が一の為に屋根裏で待機する事になった。。
「‥‥‥‥‥‥」
「ねね子の為だ」
 一歩間違えなくても変態ではなかろうか?
 細かい突っ込みは止めとくとして、桜はねね子に向き直った。
「じゃ、寝ようかしら?」
「うん!」
 元気に返事するねね子。外は阿鼻叫喚の地獄絵図である。