メイドウォーズ 三
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■シリーズシナリオ
担当:橋本昂平
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:8 G 76 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:11月23日〜11月28日
リプレイ公開日:2007年12月04日
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●オープニング
――まあ、よく見てみれば物騒な事もあるもので?
メイド喫茶柳亭。かつて閑古鳥が大合唱していたこの店は、冒険者達の手により大きく姿を変えた。
一歩踏み込めばそこは誰もが心が安らぐ。耐え難い辛い現実も、涙を流し全てから逃げ出したい、残酷な世に無残に踏みにじられた心身が癒される魂の安息所。
それが柳亭。選び抜かれた美女・美少女が従者として仕え、励ましてくれる場所なのだ。
漆黒のワンピースの上には心の清廉さを証明するかのような純白のエプロンドレスを身に付け、頭には自らを主張する事を良しとせず、ひっそりと影で主を支える事を現しているようなホワイトプリムがちょこんと添えられている。
例えるなら黒子。だけどそれは、主を建て全力でサポートする心意気の形だ。店に訪れる主達は天使達の奉仕を受け明日を生きる英気を養い、そして巣立っていく。まるで若鳥のように。
だがその柳亭にまたもや危機が訪れた。客とか店員とか突っ込んでいくと、ぶっちゃけ問題が起こらない方がおかしいのであるがそんな事はどうでもいい。
伊達家に仕える侍の鈴山美晴は、三人の部下を前に決定事項を述べた。
「――以上の理由から柳亭の評価を行う事になったわ。私は内部調査で、お前達は客として調査。何か質問は?」
美しい女性である。歳は二十に近く全体的に大人びた印象を受ける。だが十代の瑞々しい肌の潤いは未だ少女の面影を残しているならではのものだ。刃のように細い瞳は鋭く力強い意思を感じ、武の象徴である侍のそれに相応しい。凛々しい女性だ。
整った容姿は勿論の事であるが、武芸を磨いているだけあって彼女の衣服から覗ける腕に足は細く引き締まっている。無駄に筋肉を付けてないのだろう。侍である以上それなりに鍛え上げなければならないものの、女性としての魅力を出しつつそれを損なっておらず、しかも豊かな胸と引き締まった腰。そして形のいいお尻――女として理想的な体型の女性だ。
そんな美晴はその容姿とスタイルをこれでもかと強調する衣装でいた。
「彼の店についてはかねてから調査の要望があった。あのような軽佻浮薄な店、早々に取り潰した方がいいからな」
メイド喫茶柳亭。選りすぐられた美女・美少女達が出迎える店は、多くの顧客を得る事に成功したが過去に幾つかの問題も生じている。
西洋的な店が珍しいのもあったのだろう。美人揃いとの評判は口コミで段々と広まり、商家の旦那、侍、素性を隠した位の高い某人と――そういう階級の客までやってくるようになった。
どうにもこれがいけなかったらしい。
それらの奥方達は、「主人の帰りが遅くなった」「違う女の名を言うようになった」「夜の相手をしてくれなくなった」「萌え萌えなんて訳の判らない事場を言うようになった」と不平を呟くようになった。
まあ奥方達にもプライドとかお家の名というのがあるのだろう。悪い噂が立つ前にと、下の者に夫の決定的瞬間やらを掴ませ二度と店に行かないようにしようとしたのだ。
だが、「桃髪の美女にデレデレしていた」とか「胸が神的なメイドさんを凝視しまくっていた」とか「ジプシーのような銀髪メイドを口説いていた」とかの報告を受け、もう悠長な事はやってられないと圧力をかけ店を潰そうと画策したのだ。
とはいえこういう事は大義名分がいる。一応、内部調査をさせようとなったのだ。
「‥‥‥‥‥‥」
三人は上官の『おかしい恰好』に眼を奪われていた。気でも狂ったのだろうか? いや、個人的にはめっさ嬉しいのだが――
「お前達もどうかと思うだろう。健全な街作りの為にはやはり――どうした」
黙ったままの部下達に疑問に思い美晴は尋ねた。
小柄でくりくりした大きな瞳の少年。見ようによっては女の子にも見える彼の名は立川正春。美晴の幼馴染みで、大事に大事に育ててきた大切な弟分だ。
「どうしたってねーちゃん、その恰好‥‥‥」
漆黒のワンピースにエプロンドレス。頭の上にはホワイトプリムの恰好は――
「メイド服だ。内部調査という事でな、私はバイトとして働く事になった。勿論一般人としてだが」
良家の娘が使用人の仕事など恥以外のなにものでもないだろう。任務の為、彼女は素性を偽る事にした。
「やっぱり、おかしいか? 私がこういう服を着るのは‥‥‥」
瞳が揺れ、不安げで伺う。侍と言っても美晴はやはり女の子。大切に、大事に想っている相手の前だとどうなっても気になってしまうのだ。
正春は思いっきり頭を振って言った。凄く赤面している。
「そ、そんな事ないよ! とっても似合ってるよ!」
「そうか。だったらいいんだ。うん」
胸に手をあてほっとする。そんな何気ない仕草であるが美少女がやるとやはり絵になるものだ。
(正春にああいう店はまだ早いもの。ちゃんと取り締まらないと‥‥‥)
実は美晴、結構私情が入っている。
大切な幼馴染みにして弟分。最近、彼を見ているとどうしても胸がドキドキしたりして、色々葛藤していたりするが‥‥‥そんな正春を変な道に進ませる訳にはいかないのだ。実際同僚二人のせいで踏み外しつつあるのだが。
「質問がないならここまで。調査開始まで各々準備するように。正春、付いてきてくれ」
何か用事があるのだろう。促して、仲良く手を繋ぎ並んで歩く。ちなみに幼馴染みで姉弟のような関係であるが故の無意識行動であるのだが、この二人も風紀を乱しているような気がする。
残った二人の伊達侍は蒼白になって震えていた。
「ど、どうする。このままじゃ柳亭が、俺らのオアシスが潰されちまう」
「ああ。この世に現界する桃源郷、萌え戦士達が魂を解放する楽園が‥‥‥消されちまう!」
というか魂を解放しているからいけないのだが。本能が命ずるままにメイドさんに飛び掛ろうとするのはどうかと思う。
「何か手を考えないと‥‥‥!」
「だ、だけど、あの隊長相手に生半可なのは通用しないぞ!?」
美晴の実力は彼らが身を持って知っている。実戦経験こそ少ないものの、優れた剣術に豊富な知識。そして卓越した洞察力は普通じゃない。この間も女子風呂覗いたのがバレて折檻された。
二人が震えていると‥‥‥
「話しは聞かせてもらったぜ!」
畳みをブチ抜き変態の群れが現れた。柳亭の常連客‥‥‥もとい常連変態だ。
「お、お前達!」
「どうしてここに!」
突然の仲間の来訪に驚いた二人。だが彼らは、
「皆まで言うな! 柳亭の危機に黙ってられるか!」
「本当はここの女子更衣室を覗きにきたんだがな! よく覗いてるぜ!」
ここの警備が激しく気になる台詞である。
「この事は柳亭にも伝えておくぜ。冒険者もいるし、どうにかなるかもしれん」
「それに、萌え道から外れた連中が徒党を組んでな、今度柳亭にメイド服を盗みに行くって統合萌え会議言い出してきやがったんだ。中には浪人や足軽もいやがるしな」
「成る程な。至萌先生の教えを忘れやがった連中か」
伊達侍は憤慨した。自分も割りと忘れがちなのは棚の上。
「あいつらは『ろりきゅあ』ってのを仲間に入れたがっていると聞いた覚えもある。業界の今後の有力候補でもあるし、これ以上同胞が道を外すのは見てられない」
これだけ聞けば真っ当な台詞である。
「要約すると、店が潰されないよう欲望我慢するのとアホ共の迎撃だな。全ては萌えの為に‥‥‥やってやるぜ!」
とっても、色々間違ってる気がするのは何故だろう。
●リプレイ本文
『晩秋の狂気! 某所にて襲われた青年達。犯人は通り魔か魔物か〜』
御陰桜(eb4757)が常連客へシフール便を送った次の日の柳亭。店内は水を打った静けさ‥‥‥というか、一種重苦しい異様な雰囲気に包まれていた。物騒な見出しの号外を手にしている正春は同僚の二人に尋ねた。
「何かさ、店が変というか妙に殺気だってるって思うのは気のせいかな?」
牙を伏せ雌伏の時みたく沈黙を守る変態達。それはまるで合戦の合図を待つ兵隊達のよう。一触即発とはこういう事を言うのだろうか。
同じく欲望の刃を秘めた戦士――侍だからある意味間違っていない気もするが――である同僚の二人は異様にさわやかな笑顔で答えた。
「それは気のせいだと思うぞ。俺としては偶然を装ってメイドさんに抱きつきたいが」
「全くだ。殺気立つ飲食店は客がこないんじゃないかナ? むしろ『最後の聖域』を守るスカートの下に突撃する勢いがないといけないな」
「‥‥‥何を言ってるんだよ二人とも‥‥‥」
至極真っ当に突っ込む正春。さわやか極まりない笑顔で変態な台詞をのたまう同僚にため息をついた。二人は気付いているだろうか。答えの次に秘めた筈の願望が垂れ流されているのを。
「いやいや。ちゃんと真面目に仕事しないとな? さすがにそれじゃストレートすぎるから、桃的なお尻にうっかり顔が凸がいいな」
「隊長の言う通り、店を監視してなぁ? うっかりならむしろ押し倒すのがいいかもしれん」
「‥‥‥‥‥‥」
二人が何を言ってるのかよく判らない。とりあえず紅茶を飲む事にする。
桜は常連客へ送った手紙。
『次の機会にはさぁびすするから査察期間中は暴走しない様にオネガイするわね♪(口紅の封付)』
伊達の侍によってもたらされた情報により、変態対策の一つとして常連客へシフール便を送った。
彼らはこの文面からどんな妄想を膨らませただろう。
『サービスですと? お願いですと?』
『それはつまりアレですか! お願い聞いてくれる代わりに今度はいつもの二倍分! つまりこういう事か!』
『○○○とか×××とか! いつもの二倍だからそういう事が出来るに違いない! むしろ△△△をーーー!!!』
萌え滾る変態達。全力で自分の都合のいい方向へ解釈した変態達は借りてきたネコのように大人しくなった。
いつも煩悩叫ぶままに突っ走る変態達。そんな連中が皆黙って沈黙しているのだから返って不気味である。
メイドさん達も彼らに対し疑問符が飛び交っている。よく見ると動きにいつものキレがない。途中躓いたりミスしたりすると「ドジっ娘サイコー!」とダイブしてくるのに「大丈夫ですかメイドさん?」なんて手を差し伸べる始末だ。不気味通り越して気持ち悪い以外何ものでもない。
だけどまあ、結構いっぱいいっぱいだったりする。
「どうした。正春」
そんな、湯のみでいう表面張力で持っている状況の中、針のムシロみたいに落ち着かない正春を気にしたのか、美晴が声をかけた。
黒のワンピースにエプロンドレス。ホワイトプリムを頭に添えたオードソックスなタイプのメイドさんだ。
「あ、ねーちゃん」
見上げた正春は赤面した。
「ああ、その号外か。全く物騒だな。役人は何をやっているのやら‥‥‥」
覗きこむ姉メイド。昨日の事件は規模が規模だけに、大事件として取り扱われたのだ。被害者は数十名、犯人は捕まらず。物騒な話しである。
だがそんな事はどうでもいい。屋敷でも美晴のメイド姿は見たものの、メイド喫茶で見るとまた違った印象を受ける。
メイド喫茶はメイドさんが最高の癒しを奉仕の形で提供してくれる店。
正春も男の子だから何だかんだで、まあ色々な本を読んだり友人間で話題に上ったりするものだ。
その上美晴自身殺人的にスタイルがいい。メイドさんだから、奉仕をその、アレな妄想をする訳で。
「「もう我慢出来ません!」」
同僚の二人のリミッターが振り切った。湯のみギリギリで保っていた表面張力は滝ごとき濁流で崩壊したのだ。
「ヒィッ!」
縮み上がる二人の若侍。
彼らを、鬼のような――鬼そのものの眼光で龍深城我斬(ea0031)が睨んでいた‥‥‥
スタッフルームでの休憩中。冒険者を中心とした数人のメイドさんが休んでいる中、まあ見慣れた光景だがリフィーティア・レリス(ea4927)は頭を全力で抱え込んでいた。
「判ってた事なんだが‥‥‥少しは女装させられる方の気持ちにもなってみろってんだ‥‥‥」
流れる銀髪は夜空に煌く天の川。白い肌は雪の精か伝説のアヴァロンの地に住まうらしい妖精のようで、宝石と間違えそうなのはエメラルド色の瞳。そして、細い線の肢体は薄絹のよう‥‥‥。
事実上、桜と頂点を競い合っているトップメイドだ。男だけど。
「俺はこんなとこなくなってもいいって思ってるけどさ、なくなったら困るっていう奴らがいるのもわかるから大人しくメイドを‥‥‥」
ぶつぶつ必死に自分に言い聞かせているリフィたん。もう既に自己暗示の領域に達している。
生まれ持ったその美貌に持ち主に不運をもたらす鬼神の小柄。それを二振り所持しているか知らないが、見る人が見れば怨念とか魍魎っぽいものがうぉぉぉん、と彼を取り巻いているのが見えるかもしれない。
だがそんな事はどうでもいい。桜はサポートとして連れてきた信人とレイナス・フォルスティン(ea9885)に尋ねた。
「二人とも、ちゃんとやる事はやったのね」
件の号外を読んだ桜は言った。正春が持っていたものと同じものだ。
「ふん。楽しむ分にはいいんだが、暴走はまずいだろう」
「称号やその他諸々を使って新生到萌団を呼び出したんだが、まさかあれほど数がいたとはな‥‥‥」
先日の夜を思い出す。夜の闇から次々と溢れ出す変態達。正確な人数は判らなかったものの、正直江戸の将来が心配になった。
レイナスは言った。
「あの連中を始末するのにアルマスを使ったのだが‥‥‥人間を相手にしていたのか疑問だな。まるでデビルを相手にしているような感覚だった」
魔力の込められた褐色の聖剣。デビルに対し強力な力を発揮するそれは、まるでデビルに斬りつけるかのように効力を発揮した。萌えと言う名の冥府魔道。萌えは人を魔性の存在に変えてしまうのだろうか。
「時間の限りフルボッコにしてやった。拠点を吐かせようと思ったが、あれだけ殴り倒せば大丈夫だろ」
感慨深げに信人が言う。もう鬼や戦いが生き甲斐だと言わんばかりの修羅の皆さんのような必殺コンボの嵐だった。あれで無事な方がおかしいだろう。だが――
「復活してやって来たぜ!」
天井裏から変態共がやってきた。二人が殲滅した筈の変態達だ。
「ククク‥‥‥ろりきゅあめ。あの程度で俺らがきゅあされると思ったか!」
「メイド服でハァハァしてないのにきゅあされる訳にはいかん! 本当はお前とてハァハァしたいんだろう!」
「見得張らずに魂に正直になればいいものを‥‥‥だが、まずは小夜叉たん!」
「は、はい?」
しょっぱなからトップギアに入ってる変態達。桜らと同じく休憩している幼メイド、小夜叉にターゲットを定めた。
「小さい女の子は保護しなければいけない!」
「保護するのならばまずは健康診断。つまり触診だ!」
「そういう訳で、貫け俺の武装人参!」
「いやぁぁぁぁ!!!」
褌一丁になりダイブする変態達。当然、幼女は悲鳴を上げる。
「このアホ共がぁぁぁぁ!!!」
信人の鉄拳とレイナスのデビルスレイヤーが炸裂した。
同時刻の店内。暴走しかけるアホ共を鬼そのものな眼光で牽制していた我斬は、一休みと紅茶を楽しんでいた。落ち着いて周りを見てみるとそれなりに見知らぬメイドさんも増えた気がする。
「お、ちょっとこない内に新人増えたなー‥‥‥ん?」
隣を通った色白のメイドさん。線も細く楚々とした、儚い印象の受ける美人さんだ。どことなく精気が足りてない感もあり、それがより一層儚い印象を醸し出している所か病的に足りてない気がする。これではまるで‥‥‥
「あのねーちゃん、前に京都でブッ転がした精吸いに雰囲気が似ているな。気のせいか?」
気のせいも何も普通に精吸いだ。蛇女郎とか今現在、スタッフルームでタイヘンな事になりかけたお子様な夜叉もこの店に素性を隠して勤めている。ある意味魔窟である。
「おーい、そこのねーちゃん注文頼むわ」
まあそれはそれ。とりあえず腹ごなしを済まして変態達の監視を続ける事にする。近くにいた美晴がやって来る。
(本人は隠してるつもりだろうけど、伊達の侍を客の立場でこき使えるのは悪くないな‥‥‥)
午後を過ぎた頃。ちょっとした問題が起きた。
「お帰りなさいませ御主人様」
「お帰りしたよメイドさん!」
来店後、突然ダイブしてくる変態の一人。挨拶のお手本そのものな丁寧な挨拶で変態もとい客を迎えたステラ・シアフィールド(ea9191)は、突撃してきた変態ぎりぎりで避けた。
突然の凶行――というかそれ以外に何ものでもない行為にステラは目を剥いた。彼女の反応も当然だろう。だが柳亭ではこんなのは序の口。この時点でもうダメだと思う。
他のメイドさん達はいつもの事か、と特別反応を見せてないが――これもこれでどうかと思うが――違う意味で驚いた。常連客には桜からのシフール便が届いている筈だからだ。
だがステラは居住まいを正し、変態をテーブルへ連れ言った。
「御主人様。ご注文がお決まり次第申しつけ下さい。それでは失礼致します」
この場はこれで済んだのだが、一つの投石により広がる波紋は大きく拡がった。今の今まで抑えていた欲望が一気に解き放たれたのだ。
シフール便の配送ミスでもあったのだろうか。
突撃してきた変態を、セピア・オーレリィ(eb3797)は払い投げた。
「お客さ‥‥‥ご主人様。事情は知っておられると思いますけど?」
常識的に考えて暴漢に丁寧に尋ねるのはどうかと思うがそれはそれ。だけど変態達は馬耳東風。
「知ってるけどそれはそれ!」
「セピアたん達メイドさんは折角ご奉仕してくれてるのに、それに応えないのは男が廃るってもんさ!」
「別に応えてくれなくてもね」
セピアは普通に突っ込んだ。だけど、ベクトルがいつもの方向に突っ走った変態達は脳内変換。
「つまりそれは、恥かしいけど本当は俺らとキャッキャウフフしたいという事なんだね!?」
「それにご褒美の前倒し! 口で言えない秘密の事ヨロシク!」
「‥‥‥‥‥‥」
送ったシフール便をどのように解釈しているのか、本当に気になる台詞である。セピアは頭痛がするのを我慢して、それでも場を収めようと適当に言葉を見繕う。
どうにもそれが致命的にいけなかった。
「申し訳ありませんご主人様‥‥‥。今日は、体調が優れないので。後日今日の分を纏めてたっぷりと御奉仕させていただきますね♪」
わざわざウインクして可愛らしさを演出するもそれはどうでもいい。彼らの耳が反応したのは――
「「「体調が優れないだと!?」」」
変態達は異口同音。その場で速攻で円陣を組んだ。
「女の子が体調が悪いって‥‥‥」
「今日は、ていうといつもは違うって事だろ?」
「もしかして女の子特有の――」
そしてこれまた異口同音。
「「「つまり月の――」」」
「‥‥‥ブッラクホーリー‥‥‥」
轟き唸る神聖魔法。柳花蓮(eb0084)が吹っ飛ばした。
結局いつもの柳亭。美晴が休憩でいなかったのは幸運だろう。店内に爆音が轟いた。
「まあともかく、ちょっと客層が特殊なだけでこの店は憩いの場だものね。美晴さんの対処ももう少し考えた方がいいかもね」
閉店後の柳亭。女子更衣室を少しいじり、作った隠し扉の前でセピアは呟いた。あの騒動の後、さすがにというか普通に美晴は疑いまくったが強引に誤魔化した。だが疑念は残るようで、メイド服を盗みに来るこの時間帯。適当なお使いを頼んで今は店にいない。
「‥‥‥この店が無くなるのは阻止せねばなりません‥‥‥」
同じく女子更衣室を覗いている花蓮は怪しく呟いた。
「‥‥‥こんな楽しい店はそうないですから‥‥‥。協力します‥‥‥ククク‥‥‥」
いやーな笑い方である。それも妙にキマッている。
「ま、まあつぶれないように俺も助力するかな」
一瞬、レイナスは彼女に何を見たのだろう。腰に下げた聖剣が震えた気がした。
「そろそろ‥‥‥メイド服を盗もうって人達が来るんだっけ?」
それが合図だったのか。仕掛けた鳴子が鳴った。天井裏から変態達が降ってきた。そして「脱ぎたてですよ」な感じに置かれたメイド服に飛びついた。
「メイド服だー!」
「うめー! メイド服美味ーい!」
「メイド服でゴシゴシ! まるでメイドさんに身体を洗ってもらってるようだよぉぉぉぅ!」
奇行というか何というか。それ以前に食えるのか?
「‥‥‥‥‥‥」
一同呆気に取られていたが意を決してステラが隠し扉から出た。
「申し訳ありませんが、どうかそのメイド服を置いて立去って頂けないでしょうか」
事を荒立て表沙汰になれば店は潰されるそうなる訳にはいかない。穏便に済まそうと交渉を仕掛けるも話しを聞くような相手でもなく、
「メイドさんだ!」
「戴くべきメイド服を着ているのなら、全力で剥くのみだ!」
ステラは軽い悲鳴を上げた。
飛び掛る変態―浪人と思われる――のダイブにかわせず、息を呑んだが――
「このアホ共がぁぁぁ!!!」
駆け抜ける一陣の風。勢いの乗った蹴りが変態を蹴り飛ばした。
頭に被った黒頭巾。額に輝く萌え一文字。萌え業界の頂点に立つその男。その名は――
「「「到萌不敗!」」」
萌え道を極め、萌えマスターの名を持つ妄想戦士。到萌不敗(伊勢誠一(eb9659)。全身から放たれる萌気により見えるだろう。彼が断崖絶壁に立っているのを!
到萌不敗は変態達を見下ろした。
「ここで今、貴様等が暴発すれば柳亭が無くなる。明日の為、萌えの為、今日を耐えるのだ。それが男だ」
聞き様によれば真っ当な台詞である。だがそもそも言ってる本人が不審者すぎる外見だ。
当然変態達は聞く訳がない。
「黙れ到萌不敗! もうお前の時代は終ったんだよ!」
「その通り。好きな時に萌え好きな時にアクションを仕掛ける! それが俺ら新生到萌団の流儀だ!」
「‥‥‥そうか。ならば滅殺するのみ!」
萌気を解放する到萌不敗。出遅れた冒険者達は、まあとりあえず得物を持って場に出る。
「多少やりすぎたって向こうの方が悪いんだしいいよな?」
自信なさげにリフィたんは呟いた。そして到萌不敗の、鬼のような蹴りの嵐。
「貴様等に足りないのもの、それは! 情熱、思想、理念、頭脳、気品、優雅さ、勤勉さ! そして何よりも!」
力を込めて、
「萌えが足りない!」
強烈な回し蹴りを放つ!そして――
「儂のこの手が真っ赤に萌える! 貴様を倒せと轟き叫ぶ!」
万力の様な力で頭を掴む。
「必ッ殺――!」
到萌奥義が炸裂した。