THE・埋蔵金 2

■シリーズシナリオ


担当:橋本昂平

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:6 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月11日〜10月16日

リプレイ公開日:2007年10月19日

●オープニング

――まあ、よく見れば物騒な事もあるもので




 上官に呼び出された浅生友孝は指定された場にやって来た。
 見下ろすと伊達の一隊が何か活動をしている。江戸の街の街外れ。場所柄重要性はそれほどないものの、腐らせておくのもどうかという事で、有事の際の詰め所とか防衛戦においての一拠点としての改修工事が行われていた。
 人通りが少ないという場所柄、結構大掛かりな工事も出来て詰めるだけならそれなりの兵を詰める事が可能だ。勿論詰め所やら拠点やらとして機能させるなら規定の人数に減らさなければならないものの、それでも通常のそれより多くの人員を収納出来る。
 完成を迎えたら有力な防衛拠点の一角として活用出来るかもしれない。 
 ちなみにこの一角にある隠し通路に、かつての戦の敗戦の際、源徳が再戦を挑む際の軍資金として地下に、とある源徳家の家臣が財宝を隠した部屋があるらしい。
 そしてそれは、改修工事の中、伊達軍が発見し同敷地に新設した蔵に収めている。
 友孝は刀を抜いて武者鎧やら兜やら、具足諸々の完全武装の上官、蓮山玲香に尋ねた。
「大隊長。こんな夜分に呼び出して何か用ですか?」
 元源徳軍蓮山大隊所属、浅生中隊中隊長浅生友孝。源徳が敗北し地方へ逃れた今、彼は浪人に扮して江戸に滞在していた。
 主家が敗北したと言ってもすぐさま鞍替えしたりするでもなく、彼は同僚や上司、そして少ないものの残った部下と共にいずれ来るであろう江戸の奪回戦に備え潜伏活動を続けている。
 以前と違い収入が無くなった今、傘張りから用心棒、寺子屋の先生をしたりと細々と生活を営んでいる。
 彼の上官は毎日いらん事で騒動を起こしているので正直関わりたくない。
 友孝は今にもカチコミに行かんとする勢いの上官を胡散臭げに見つめる。
「フフフ‥‥‥。伊達のクソ虫共め、今日という今日こそは正義の鉄槌を下してやるわ」
「あの、大隊長‥‥‥?」
「我らが源徳公を追いやり、江戸を蹂躙する外道には天罰が下されるべきなのよ。いえ、人が下すんだから人誅ね」
「‥‥‥‥‥‥」
 全く話しを聞いてない。鎧の上から羽織っているのはだんだら羽織りに『悪即断』とどこかで見た事ある文字と『伊達皆殺し』の文字が刺繍されている。
 かるーく眼がイッている。忠誠心高いのはいい事であるが、玲香みたいに妄信的なタイプはカルト集団とかマルチ商法に騙され易いタイプだろう。
 外見の割りに四捨五入すれば三十路の玲香。ある意味純粋故である。侍の鑑ではあるが。
 玲香はくるりと振り返る。笑顔だけど能面のように無機質に固まっていてむちゃくちゃ怖い。
「さて友孝くん。我々源徳軍が敗走する際、この区画の地下にとある将が財宝を隠したって話しは知ってるわよね?」
「それはまあ。いずれ伊達との再戦の為の軍資金にするとか何とかで。でも、それは伊達の連中に見つかったって聞いてますけど」
「何おバカな事言っているのかしら。あれは伊達軍ではないでしょう?」
「はぁ?」
 何を言ってるんだ、と間抜けな声を上げた。眼の前に高々と伊達笹の旗が立っているというのに、この女はついにボケたか? 本気でそう思った。
「いい事友孝くん。あれはね、伊達軍じゃないの」
 蓮山大隊長は仰った。
「あいつらは、伊達兵のコスプレをした盗賊共なの。判る?」
「こす‥‥‥? 異国語は判りませんがあれはどう見ても伊達兵でしょう」
 友孝は即座に理論武装を整え女上司に言いつける。毎度の事だがこうなってしまえば止められない。気が晴れるまで暴走させるしかないのだけど、巻き込まれたり後始末が面倒すぎる。
 今更無駄だと判りきっているのに説得しようと試みる。
「目的は判りませんが帰りましょう。伊達兵の数は多いですし、既に隠し財宝は見つけられました。第一冒険者まで連れてきて何させるんです」
 少し離れた場所には別口で集められた冒険者達がいた。何か戦闘準備整っているし、まさかと思うがというかその通りだろう。
「‥‥‥大隊長。もしかしなくても――」
「友孝くん。あれは盗賊なの」
 最後まで言い終える前に言いきった。
「あいつらは盗賊がコスプレした連中で、江戸の治安を乱そうとする悪人達なのよ」
 江戸の治安云々の場合、今の状況では自分達ではなかろうか?
「いつ江戸市民の平和を脅かすか判らないしそれなら今のうちに滅殺した方がいいじゃない? それに、あそこには隠し財産もある訳だし盗賊共が見つける前に手に入れようよ」
「い、いや。だから‥‥‥」
 だ、ダメだ。全く話しを聞いてない。このままじゃ色んな意味で大変になる!
「つーか! この前街歩いてたんだけど! 伊達の士官がいちゃついてたのよ! 一人は生意気にも美人で相方は中々のショタっ子で! 何が『正春ちゃん♪』よ見せ付けやがってコンチキショウ! 私はこの歳なのに彼氏いないし! お前は逆光源氏かっつーの!」
「それが理由ですか! 思いっきり逆恨みじゃないですか!」
「やかましい! 天下の往来でいちゃつくのが悪いんでしょう! そういうアホがいるんなら、世の為人の為独身連中の為、いちゃつくバカップルを抹殺するべし! つまり伊達は世界の敵なのよ!」
「自分の都合じゃないですかそれ!」
「いいじゃない女の子なんだから!」
「二十○歳のどこが女の子なんですか!」
「やかましい!」
 唸る豪腕ねじ込む拳。玲香の鉄拳は友孝を貫いた。
「ふん! 恋人のいる友孝くんには所詮判らない話しよね。このラブラブ野郎め!」
「ら、ラブラブって‥‥‥。俺と式子はそんな関係じゃないっていうか、ただ一つ屋根の下に暮らしている訳で‥‥‥」
「死に晒せアホウ!」
 本気と書いて殺すな斬撃が走った。鬼そのものな嫉妬の刃。嫉妬の力は何倍の力を発揮するのか、刀の軌跡すら見えなかった。
「そういうのをバカップルって言うのよ! 私の為に大人しく斬られなさい!」
「冗談じゃありません! ていうか、そんな私怨の為に冒険者を呼んで、むしろ何で冒険者を呼べたんですか!」
「依頼時に適当に誤魔化したからオッケー! もう依頼受けているから今更キャンセルできないわ!」
「いや、いくら何でもダメすぎでしょう!」
「無理を通せば道理は引っ込むわよ! 敵はあの盗賊共を撃滅して、目当ての財宝を奪取する事! 総員私に続きなさい!」
「嫌ですよ俺は!」
 夜叉でも取り付いているのだろうかこの上司。
 冒険者達に素性がバレないよう変装するとか、伊達兵殺害すると後々マズイからそれだけは避けるようにお願いするとか、酷く胃が痛くなる一夜になりそうだ。

●今回の参加者

 ea0031 龍深城 我斬(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0443 瀬戸 喪(26歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3597 日向 大輝(24歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4734 西園寺 更紗(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea5936 アンドリュー・カールセン(27歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea8714 トマス・ウェスト(43歳・♂・僧侶・人間・イギリス王国)
 eb3797 セピア・オーレリィ(29歳・♀・神聖騎士・エルフ・フランク王国)
 eb4757 御陰 桜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 夜も更けて丑三つ時。日中は人の姿で絶えない街は沈黙が支配し道を歩く姿は一切ない。時折野良猫や野良犬が通ったり風に吹かれてころころ回るアレが行きかっているぐらいだ。
 そんな誰もが寝静まった江戸の街。その端にある改修工事中の一角、『それ』は起こっていた。
「うはははは! 世の為人の為独身連中の為! バカップルを放置する伊達家は超滅殺―――!!!」
 轟く轟音聞こえる阿鼻叫喚。先頭に完全武装の玲香を中心に突撃してきた冒険者達に襲撃された伊達の部隊は見事に混乱に陥っていた。
「三十路を控えて、行き遅れた女の底力見せてやるわ! 大義名分の名の下に伊達を、いえ、江戸城を奪った盗賊の手下友は皆殺しよ―――!!!」
 哄笑が聞こえる。相当危険な台詞を口走りながら刀を振り回す玲香はかなり怖かった。奇襲、という点もあるが実際対峙した伊達兵はかなり腰が引けていた。
 まあそれはそれとして、何とも私的な理由である。聞きようによっては涙誘うのではあるが、それだけで軍隊に喧嘩売るのは色々(頭が)どうかしている。
「お見合いの時歳聞いたら微妙な顔するなー! やんわり断るなー! 逆にキツイのよー!」
 いつの思い出だろうか。生々しくて泣けてくる。
 そんな夜叉そのものな玲香にアンドリュー・カールセン(ea5936)は突っ込んだ。
「この嫉妬の炎と逆恨み。極限まで高めればというやつか‥‥‥」
 フードを深く被ったブラック・ローブに面頬というかなり怪しい恰好。深夜という事もあって風景に溶け込んでぱっと見てウィザードか何かに見える。
「盗賊退治と聞いたが伊達軍襲撃とはな」
 捕まったら打ち首所かその場で斬り捨てだ。普通も何も依頼人の常識を疑うのだが、
「あの大隊長の事だ。まあこんなものだろう」
 敷地内侵入に至るまでそれなりに伊達兵の相手を相手してきたものの、罪悪感ゼロで言い切った。
「玲香さんの暴走はこの際無視しておきましょう」
 こっちもこっちで非情に、というか割と楽しげな口調でのたまう瀬戸喪(ea0443)。友孝は一生懸命状況が悪化しないようお願いしたものの、ソニックブームぶっ放したりブラインドアタックやポイントアタックで切り刻んだりしていた。本人は戦闘力や機動力を奪う為に手とか足とかを狙っているらしいが‥‥‥友孝は全力で見なかった事にしている。
「胃が、胃が痛い‥‥‥ッ! 情報操作を、潜伏活動している忍者に頼んで情報操作をして貰わないと‥‥‥!」
 どの業界でもアレな上司を持つ部下は苦労するようだ。
 そんな友孝に痛々しげな視線を向けつつ日向大輝(ea3597)は恐る恐る玲香を伺う。
 勢いと奇襲という条件が味方したのだろうが、結構押していた。
「やれって言うならやるけどさ、どう考えても俺たちの方がやってることは盗賊だよな‥‥‥」
 少年志士は至極真っ当に仰った。普通に正論だ。
「私達が迂闊だったって事かしらね」
 十手で伊達兵を殴り倒したセピア・オーレリィ(eb3797)が相槌を打つ。
 まるで銀細工のようなきらめきを持つ白髪と白い肌はどことなく幻想に生きる妖精を思わせ、ルビーとも思える赤い瞳は、夜の暗さに慣れた事もあってひどく際立つようだ。そして線の細い身体の割にはスタイルが女神様。健康的な男の子にとってやっぱりどきどきするものである。
 だけど大志を抱く大輝は全力を持って邪まな想像を追い出した。
「まあここまで来て、お金は要らないからはいさよなら、あとは知らぬ存ぜぬっていうのも趣味じゃないし、暴走を抑えるのが仕事と思うしかないか」
「というかそれよりあのおばさん。眼が逝っちゃってるぞ、大丈夫か?」
「誰がおばさんだ!」
「うわっ!」
 走る剣風轟くソニックブーム。もう鬼そのものな真空刃は大輝目掛けて飛んできた。
「まったく、やりすぎるなというのに〜」
 眼の前の惨状の割りにのんびりとした声。二足歩行の妙にふっくらした化け猫‥‥‥もとい、まるごと猫かぶりを着た、ドクターことトマス・ウェスト(ea8714)がため息を付いた。忙しく駆け回っている。
「伊達兵にしても依頼人にしても死なれたら我が輩たちに面倒が降りかかるからね〜」
 今回彼は伊達兵含む治療に回っている。依頼が依頼、というより騙されていた事だし事態が大事にならないよう立ち回っているのだ。
 だが友孝やドクターのそんな深謀遠慮とは関係なく‥‥‥
「ククク‥‥‥。下手に殺すより重症患者を大量に抱える方が伊達としても厄介だろ‥‥‥」
 割と全力で龍深城我斬(ea0031)は伊達兵を相手にしていた。
「あの大隊長さん、伊達皆殺しの心意気は良いが、それだけじゃ視野が狭すぎるな。むしろ新田、武田、上杉全てを相手にするぐらいの勢いでないと」
 我斬の眼がギラリと光る。いい感じにハイになっている。
 眼の前で暴れている玲香の羽織りには『伊達皆殺し』の文字が躍っている。
「でもあの羽織はちょっと欲しいな。エチゴヤ覗いてみるか」
 とまあ、突撃時の状況はおおむねこんな感じである。





 玲香が激しく暴走している中、数人の冒険者達は友孝と共に新たに建てられた蔵の方へ向かっていた。
 どこぞの鬼女とか魑魅魍魎のような哄笑が墨を塗りたくったような夜闇を切り裂く中、御陰桜(eb4757)が楽しげに言った。
「玲香さんも相変わらずっぽいけど面白いコトになりそうよねぇ♪」
「何を他人事みたいに」
「玲香さんもイロイロ溜まってるみたいだし、ヤりたい様にヤらせてあげればいいんじゃない?」
 気持ちやせ細った感のある友孝。玲香は普段からまともな事をしないと身を持ってしっているものの、先の戦いの前まではまだよかった。今はもう暴走の矛先が伊達という源徳の敵に向けられているのでそういう意味も含めて歯止めが利いてない様だ。
 いや、歯止めも何もかも、デフォルトでこういう具合なのだが。
「しかしこんな人が隊長というのも不思議なものですね。誰も何も言わなかったんでしょうか」
 艶やかな黒髪に処女雪のような白い肌。サファイアのような青い瞳。整った目鼻の、楚々と微笑む姿がとても眼を引く――美青年だ。
 今回女装している喪。夜の帳のおかげでどことなく現実味を感じさせない気もするが、何となく儚い印象を受ける美女で、タイプは違えど同じ美女の桜と並んでいても普通に違和感はない。
 だけど、心労もろもろでピロリ菌が胃で大活躍している友孝はそんな華を楽しむような余裕はなかった。
「まあ家格とか大隊長のお父上殿の立場とか、侍には色々あるんですよ」
「大変ですね」
「大変ですよ」
 何かと優先されるのは実力より血筋とか家格とか身分とか。武士社会とは基本的にそういうものである。
 三人がそんな風にお茶請けつまみながらのんびりしてそうな雰囲気であるものの、すぐ側では西園寺更紗(ea4734)が伊達兵を締め上げてたり、アンドリューが奪取した見取り図で現在地と正確な蔵の位置を確認していた。
 蔵そのものは複数どこの蔵に目的のものが保管されてあるか。もしくは分けて納められているのか、聞き出していた。ちなみに更紗は片手で伊達兵の頭をぎりぎり鷲掴んで持ち上げている、所謂西洋でいうアイアンクロー。軽く作られているとはいえ、さすが槍を右手一本で振り回すだけの事はある。
「腕も疲れてきたし、そろそろ口割らないと頭蓋砕かないけんのやけど」
 都訛りの銀髪美人。更紗はにこやかに、その割には伊達兵の頭を掴み上げる腕は筋肉全開で、にこやかに言う。西洋人のハーフらしくジャパン人では持ち得ない容姿の要素を多分に持つ彼女は、ハーフならではの特徴も合わせてこれまた何とも言えない美貌を持ち合わせていた。その豊満なスタイルは勿論、着崩すした着物がとっても‥‥‥
 アンドリューは新たに現れた伊達兵の背後を取って喉元に短刀を当てた。
「声を上げれば殺す」
 伊達兵の首にひやりと金属の冷たさが伝わる。
「今から聞く質問に答えろ。答えなければ――判ってるな?」
 刹那、短刀が強く喉に押し当てられる。皮が裂け血が滴る。
 財宝を納めた蔵の場所を聞き出し、その前に立った一行は周囲の状況を伺う。
 大きな錠を前に、アンドリューは盗賊用道具一式を手にする。
「この型ならば問題ない。少し待て」
 鍵穴に盗賊以下略を突っ込んで弄繰り回す。伊達兵の姿がないかと辺りを見回していた更紗は「‥‥‥チッ」と舌打ちを打った。
「盗賊か? さては表の騒ぎは陽動かっ!」
 恐らく援軍に向かおうとした一群なのだろう。数人の伊達兵は蔵の前に陣取っている冒険者達を認めると槍を手に囲みを狭めてくる。
 夜の闇を地獄の業火が焼いた。
「この槍の露と消えたいんならかかって来なはれ」
 魔力を帯びた橙紅の槍。振るう姿は燃え盛る地獄の業火と称される修羅の槍。それを片手で軽々振り回す更紗は、彼らの眼にどう映ったのだろうか。
 月と星だけが輝く夜空の下。燃え立つ業火の槍を持つ銀髪の女。その姿は並ぶもの無き豪傑か、修羅。
 更紗は槍を半回転させる。穂先ではなく、石柄の方を伊達兵達へ向けた。
「向かってくるならしょうない、うちが気持ちよぅ逝かせたりますぇ」
 槍を振る。
 暴風と共に伊達兵は殴り倒された。




 夜も更けて丑三つ時――。そろそろ丑三つ時じゃなくなってきた刻限。もう奇襲の有利が無くなっているものの、
「結婚って人生の墓場って言うし! やっぱり独身の方が楽しいに違いないわよ!」
 もうやけになったり開き直ったりしながらまだ暴れていた。
「つーか! 自分の年齢イコール彼氏いない歴だから恋人作ろうと考えるのがおかしいし! そう、人間のんびり過ごすのが一番ね!」
 いう事とやってる事は激しく矛盾しているが、もう涙を誘う台詞だ。聞いてるこっちが泣けてくる。
「こら少年! その哀れむような眼は何!?」
「え、いや。敵の様子を」
「嘘おっしゃい! 少年の眼は、『三十路近い負け犬の独身女性って見苦しいな。それじゃあ一生恋人できないぜ』な眼をしてる! 絶対よ! 答えは聞かないけどっ!」
「いいがかりだよおばさん」
「だからおばさん言うな!」
 本気と書いてマジの、大上段からの唐竹割りが大輝を襲う。大輝は仕込杖で受けるも、本当にもう夜叉そのもので、違う意味も含む鬼気迫った表情にかなり腰が引けていた。
 婚期を逃し、飢えた狼の如く結婚相手を探す独身女性というものは、例え剣術の達人でもひるむものがある。ぶっちゃけめちゃくちゃ怖い。
 大輝はそれから逃れる事も含め、
「あっちにいちゃついてる奴らが‥‥‥」
「どこだー!」
 風の様に駆けて行く大隊長。単騎突貫しない様に、と手綱を操る事も考えていたのだがどうやら無理なようだ。
 その一方、我斬は新藤五国光を手に相当えげつなく戦っていた。
「前は無力化を重視したが、今回はそんな事を考える必要はない。出来る限り死ぬ寸前まで痛めつける‥‥‥」
 不気味にククク笑い。纏う雰囲気もかなり危な気だ。
 月を隠していた雲が流れ彼の姿とその周囲が月明かりに照らされる。
 我斬の周りに死屍累々。そしてその周りに蠢く巨大な化け猫。
 彼の手により倒れた伊達兵達だ。致命傷とか重傷者とか多く暗いとはいえ一目見て無事な者はいないと判る。そしてその側にいる化け猫とはドクター。状況柄どう見ても死体に群がるアレにしか見えないのだが、彼は怪我をした伊達兵達を治療しようと必死なのだ。
「いっそコアギュレイトでも使うかね〜」
 伊達兵ではなく味方に、だ。
 特にこの二人大戦果だ。手遅れな伊達兵もいるしこれ以上は足が付きかねない。
「下手に殺すより重症患者を大量に抱える方が伊達としても厄介だ。限界に挑む‥‥‥!」
 小太刀を躍らせる我斬。
 多分こうやって拷問方の研究が進んできたに違いない。そんなギリギリ感で伊達兵達は生死を彷徨う羽目になっている。
「伊達に組する者よ、その身に刻め! 死にも勝る恐怖を!」
 手足狙って斬りつけたり鎧の隙間に突き刺し捻って傷口抉ったり。更に逃げる相手にはソニックブームの追い討ち。思いつく限りその他諸々。小さな子供が見たら卒倒する所かトラウマ作らんばかりの光景だ。
 荷駄に奪取した財宝を積んで、それの道を確保する為、先発したセピアは、
「ホーリーフィールド!」
 割と本気で狙われると思ったらしい。




「これで源徳は後十年戦えるー!」
 どこかで聞いたような台詞をのたまいながら、玲香は奪取した財宝を手にほくほくしていた。
 あれから何とか逃げ出した一行は裏路地の一角に陣取っている。
「情報操作を‥‥‥潜伏中の味方の忍者に頼んで‥‥‥頼めるか? この規模で‥‥‥」
 更にやせ細った感のある友孝はノイローゼみたくぶつぶつ呟く。何か今日一日で一気に老け込んだ気がする。
「どうせ友孝ちゃんや式子ちゃんが苦労するのはいつもの事だし大して変わらないし、今はらぶらぶで幸せなんだからその程度の厄介事くらいは大した事ないでしょ♪」
「その幸せを壊したくないから大隊長にはしっかりしてほしいんですけどね‥‥‥」
 普段は式子とは何でもないぞ、と虚勢はる友孝。だけどあまりの心労と胃痛のおかげでついぽろっと本音をこぼしてしまった。
「やってみるものね。まさかあの局面で色仕掛けが通用するなんて」
「こっちも思う存分伊達兵をいたぶれましたし、良い声で啼いてくれましたよ」
 上機嫌のセピアと喪。だけど喪の笑みはサディスティックな笑みだ。
 そして大輝は、自分もある意味狙われた事も含め無事生き延びれた事に安堵を抱くものの、玲香はめざとく因縁を吹っかける。
「いやいや、少年? さっきはよくもまあおばさんってね? ここに伊達兵はいないし、じっくりお仕置きをしないといけないと思わない?」
 笑顔なのに眼が笑ってない。
「どいつこもいつも独身だからって年増だからって、それって喧嘩売ってるって事よね?」
 ――マズイ。やられる!
 走馬灯が結構な勢いで流れ始める。だけどそれを途中で断ち切って生き延びる算段を整えた。
(ここは生け贄を捧げるしかないか‥‥‥!)
 大輝は彼らに指差した。
「あっ! 友孝さんが彼女じゃない人といちゃついてる!」
「ええっ!?」
 突然話しを振られて驚く友孝。隣には女装したままの喪とセピアがいる。
「友孝くん‥‥‥。キミは、そんなに自分がモテるって自慢したいのか! それは私へのあてつけかー!」
「ちょ、誤解です!」
 刀を抜いて襲い掛かる大隊長。逃げ回る友孝。
 最後の最後まで騒がしい二人だ。アンドリューはそんな玲香を見てつくづく思った。
(自分は人前でいちゃついてたりはしてない筈だ。狙われない様気を付けなければな‥‥‥)




 ちなみに一時的に伊達軍の間にこういう噂が流れたりしたらしい。
『丑三つ時、夜間警備をする伊達兵は哄笑を上げる夜叉と化け猫に襲われる』
 まあ、どこかで聞いた様な話しであるが。