【後継者】未来は誰のために
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■シリーズシナリオ
担当:葉月十一
対応レベル:3〜7lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 95 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月06日〜01月13日
リプレイ公開日:2006年02月01日
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●オープニング
●暴かれた過去
それほど遠くはない昔。
最初の出会いはいつだったのか――気がつけば、自分に纏わりつく黒猫の姿をよく見かけるようになった。
それから数年。
特に仲良くなるでもなく、付かず離れずの一人と一匹の奇妙な関係が続いた。光る瞳が時々、何かを伝えようとしているのを感じながら。
そして、声が聞こえた。
上から押さえるでもない。轟くような怖さもない。
ただの平凡な声。
従ったわけじゃない。逆らおうと思えば出来た。
だが。
「‥‥ッ、な‥‥なんで‥‥」
『僕』が最初に殺したのは、同じ村で育った親友。
そして。
「お、お前いったい――ッ!?」
黒猫が――その正体を見せたのは、彼の父親を屠った時だった。
「‥‥さて、どうするかな」
誰に聞かせるでもなく呟いたのは、パウロ・アーレスと呼ばれる‥‥呼ばれていた人物。肩口に乗っかる黒猫は、暢気にただ毛繕いしてる。
部屋の中には、他に傍に側近の少年が控えていたが、一言も口を開く気配はない。主に従っているというよりは、何処となく虚ろな表情で心ここにあらずといった様子だ。
すると、急に黒猫はパウロの肩を降り、少年の足元に纏わり付いた。
「おやおや、今度はその者に取り入るつもりなのかね?」
可笑しそうに呟くと、掠れた鳴き声が返ってきた。
別にそんなつもりはない、とでも言うように。
「まあいいさ。そいつはあの爺さんの孫、らしいからな。このオクスフォードに『調停者』達を生み出した張本人の、な」
途端、彼の口調ががらりと変わる。表情もまた、それまで常に纏っていた微笑の仮面が取れ、どこか好戦的な笑みが浮き上がった。
過去の記憶。
思い出すのは、常に教え続けられた『黒』の戒律。生き抜くための試練を、死にゆく者は弱者。そんな考えの下、やがて出来上がったのは何人もの『調停者』と呼ばれる殺人者達。
だが、彼は途中で考えを改めた。だからこそ、試練を与え――罰したのだ。
「それもこれも、全てはお前が仕組んだ事か? だが、まあ‥‥それも今となってはどうでもいいが」
彼がゆっくりと掲げるのは、先の村で手に入れたハルバート。かつて自分達が執行した、試練を乗り越えられなかった者が持っていた形見。
「来るのはお前かな、レオニード卿。ならば、親友だった男の剣で斃れてみるのも一興だぞ」
どこかふてぶてしく、彼――パウロを名乗った男は不敵な笑みを見せた。
●見えない未来
オクスフォード騎士団の団長であるレオニードは、今改めてキャメロットのギルドへ顔を出した。それも供の者をつけずにたった一人で。
「‥‥貴方がマオ殿か」
「はい、そうです」
「では」
「――待ってください。僕らは‥‥キャラバンのみんなは、彼の父親であるアルフレッドさんから一つだけ約束したんだ。自分の父親がオクスフォードの領主一族であったことを告げないよう、何にも縛られずに自由に生きていけるように、と」
「それは‥‥」
マオが告げた言葉は、レオニードには耳が痛い科白だった。
親友でもあり、オクスフォードの跡継ぎでもあったアルフレッドならば、きっとそう言うだろうと理解出来たからだ。
だが、今のオクスフォードにははっきりとした後継者が必要なことも確かだ。誰もが認め、そして導けるだろう人材が。
そして、それが自分ではないことも、彼にははっきりと理解している。
「それに今、彼は自分の過去と重大な対峙をしている。おそらくここが正念場だろうね。だから‥‥もし告げるとしても、もう少しだけ待って欲しい」
これを、と言ってマオが差し出したのは、オクスフォードの紋様に象られた青い鉱石の指輪。
レオニードはハッとする。
間違いなくそれは、代々の領主が受け継ぐべきオクスフォードだけに伝わる唯一無二の指輪。
「今、受けている冒険者の方々の同意が得られれば、僕の口から彼に説明するつもりです。だからそれまでは」
「‥‥解りました。では――彼の事を宜しく頼む」
レオニードは一つ頭を下げると、この度はギルド員の方へ向き直った。
「もう一つ、お願いできるだろうか。冒険者の方々を少しお借りしたいのだが」
先日からのパウロ候に関する数々の所業。
だが、表立って騎士団が動くには情報が少ない。ならば、と彼の取った手段は、闇に紛れての夜襲だという。
「悪魔が関わっている聞き、もはや一刻の猶予もない。ならばいっそ、早いうちに手を打つべきだ」
今まで後手後手に回っていた分、ここで一気に取り戻そうという腹だろう。
ギルドとしてもこれ以上の被害を防ぐべく、レオニードの依頼を受け取った。
そして――彼らは知る事になる。オクスフォードの闇に隠れた幾つもの悲劇と、これまで以上の凄惨な戦いを。
●リプレイ本文
●潜む闇の中
ひっそりと静まる屋敷の中。
彼らはそれ以上に口を噤み、気配を堪える様子で暗闇に佇んでいた。何度か通る足音に、常に緊張の糸を張り巡らせて。
「くぅ、冷えるなあ、おい」
「静かにしろ」
思わず呟いたユーネル・ランクレイド(ea3800)の一言に、アルフォンシーナ・リドルフィ(eb3449)が厳しく嗜める。
瞬間、ユーネルは小さく肩を竦める。
「ま、いいじゃないか。焦ったってしょうがねえや」
「常に緊張していてこその冒険者だ」
「お二人とも落ち着いて下さい」
ユーネルとアルフォンシーナの言い合いの声が大きくなりそうなのを感じ、フィリア・ランドヴェール(eb0444)が間に割って入る。
いよいよ正念場、ということで士気が高まっているのは分かる。
が、やはり今は待つ事が仕事だ。
「マレスさん、もう一度お屋敷の間取りや部屋の配置、確認していただけますか?」
「おう、任せとけ!」
フィリアからの話題振りにマレス・イースディン(eb1384)がニッと笑みを浮かべる。ごそごそと胸元を探って出したのは、彼の記憶のままに描かれた簡単な間取り図だ。
マレスが指差したのは、ちょうど奥まった場所に位置する部屋。
「一応、ここにヤツがいると思うぜ。何度か見かけた事あるしな」
「では目的地はここを目指すわけですね」
「そうだな。まあ、確証はないけどさ」
二人の会話を静かに聞く冒険者達。
そして一旦会話が途切れた際、ユーネルが発泡酒を取り出した。
「ま、こんな寒いときは酒が一番だ。一口ずつ廻し飲め、身体があったまるぜ」
確かに焦ったってしょうがないしな、とユーネルが苦笑を見せる。そうして彼に言われるまま、とりあえず一口ずつ飲んでみることにした。
「ふわぁ〜こりゃ確かにあったまるわぁ」
少し頬を染める藤村凪(eb3310)。どうやら寒さの影響で随分と回りが早いようだ。
それからまた、しばらくは沈黙が続いていた食料保管庫。
徐々に予定の時間が迫ってきた中、アシュレイ・カーティス(eb3867)が手にしたヘキサグラム・タリスマンをぎゅっと握った。祈りを捧げ、魔力を込めることで彼女を中心に結界が張られていく。
「そろそろ大丈夫か?」
耳をそばだて、まだ敵が近付いていない事を確認する。
その意図を理解したマレスが、一人返事をした。
「ああ、そろそろかな」
「いよいよ正念場だねー。こんな依頼は最後にするためにも頑張るわよ〜」
イシュルーナ・エステルハージ(eb3483)がグッと拳を振り上げた途端、他の面々も身を隠す事を止めて姿を現した。
そして、互いの視線で合図すると、彼らは一気に食料庫を飛び出した。
●闘う意味と理由
戦闘は、唐突に始まった。その部屋の扉を開けた途端、側近と思しき者達が剣を突きつけてきたのだ。
素早くアルフォンシーナが反応し、攻撃をかわしつつ反撃に転じた。
斃すのは偽パウロ候と黒猫と決めていた彼女は、手にするシルバーメイスを急所目掛けて繰り出した。ものの見事に命中し、相手はそのまま気絶する。
続いて部屋に入った彼らを待っていたのは、パウロ候と数人の側近。その中には、どこか虚ろな表情の少年が一人いる。
そして――黒豹の姿となったグリマルキン。黒猫の姿を想像していた彼らにとって、少々意表を付かれた形だ。
「やれやれ騒々しいな」
「――パウロ候、いやパウロの名を騙る者よ。貴殿の企み、ここで阻止させてもらおうか」
「これはこれは、騎士団長のレオニードまで。‥‥なるほど、強硬手段ということか」
改めて対峙したパウロとレオニード。
その様子を冒険者が固唾を呑んで見守っていたが、その均衡はすぐに崩れた。レオニードは元より、パウロ側にしても既に猶予はないと察していたから。
「大人しくしてもらおうか」
「残念だが‥‥返り討ちにさせてもらおう」
パウロのその言葉を合図に、グリマルキンがその巨体からは信じられないスピードで冒険者達を襲った。
殆どの者がパウロだけに注意を払っていた為、彼らの反応が出遅れる。
「しもうた!」
構えようとした剣より早く、大きく振るった爪が凪の身体を傷つける。そのままバランスを崩して床に倒れたのを、イシュルーナが慌てて駆け寄った。
急いで回復させようとしたが、それを阻止しようと近衛兵の攻撃が後に続く。
「ちょっ!? 待ってって」
そう言われて、待つ敵はいない。
どうやら回復をさせまいとする算段のようだ。
「――お前は俺が相手してやろう」
胸に秘めたタリスマンを握り締め、グリマルキンと対峙するアシュレイ。
本来ならパウロと対峙してみたかったのだが、この際そんな事も言ってられない状況だ。動きの鈍った相手を前に、手にした剣を一気に突き立てた。
一方で、兵達を相手するマレスは、少しだけ躊躇気味だ。潜伏だったとはいえ、少なからず同じ釜の飯を食った仲間だった相手だ。
「おい、いい加減に目ぇ醒ませって!」
剣の切っ先をギリギリでかわし、後ろへと退く。
その時、トンと彼の背中にユーネルの背が触れた。
「よぉお前さん、なかなかやるじゃないか」
「ああ? それがどうしたって?」
「どうだい。この後、倒した敵の数が少ない方が酒を奢るってのは」
軽口を叩き合いながらも、二人は互いの死角を庇って剣技を振るう。
「酒ぇ?」
「お前も嫌いじゃないだろ、ドワーフなんだから」
「‥‥いいぜ」
ニヤリと笑うマレス。
応えるようにユーネルも笑みを浮かべる。
「おっしゃ、商談成立だな」
「んじゃま、行くぜ!」
咄嗟に互いの身体を入れ替えた二人。
殆ど同時に繰り出した切っ先が、それぞれの相手の身体へと入る。剣から伝わる肉の感触に僅かに眉を顰めると、すぐさま次の敵と対峙していった。
「ねえ、どうしてこんなところにいるの?」
対峙した少年を前に、イシュルーナはそう尋ねた。いまだ虚ろな眼差しの彼に、果たして声は届いているのだろうか。
なんとか正気にとは思うのだが、その剣戟はさすがに剣士というべきもの。息も付かせぬその攻撃をこちらも必死でかわしながらタイミングを見計らう。
「お願い、正気に戻って!」
思わず叫んだ途端、少年の動きが一瞬止まる。その隙を傍に控えていたアルフォンシーナに目配せした。
その合図を受け取ると同時に、彼女は素早く飛び出した。
「少しの間眠っていてもらおうか」
虚を突かれたからだろうか、繰り出した一撃が綺麗に決まる。
ガクリと膝を付きつつもなおも動こうとした少年。
「もう‥‥お眠り下さい」
それまでの様子を後衛で見守っていたフィリアが、念のためにとスリープを放つ。
やがて少年は、抵抗することなく眠りへと誘われる。その意識を失う直前、少年はポツリと呟きを零した。
「‥‥じい、ちゃん‥‥」
何故かその一言が、三人の耳に残った。
その一撃がグリマルキンの前足に傷を負わせる。
と同時に、アシュレイの肩も相手の牙が食い込んだ事で赤い血が流れる。痛みに耐えてなお毅然と対峙すると、隣にいた凪が急いで回復に努めた。
「無茶、せんといてな。生憎と毒は持っとらんようやけど」
「来るぞ!」
「きゃっ!?」
咄嗟に凪の身体を弾き飛ばす。直後、さっきまで彼女がいた場所を黒い光が直撃した。
すぐさま反撃に転じるアシュレイ。一気に間合いを詰めていき床を蹴った。当然避けようとしたグリマルキン。
だが、タリスマンにより張られた結界の影響でその動きは鈍い。その隙を見逃す事無く、アシュレイは剣を突き下ろした。跳躍からの勢いも加えられた威力は増大で、黒豹に似た体躯に深々と突き刺さる。
『――ぐぅ‥‥』
呻く声が耳に届く。
「今だ!」
「任せといきや」
合図を受け、凪が手にする小太刀を振るう。『陸奥宝寿』の銘を持つ刃の切れ味は鋭く、グリマルキンの首を綺麗に切り裂いた。
ふぎゃぁあ、という断末魔の声が響き、黒き悪魔はそのまま絶命した。
「そろそろ諦めたらどうだ」
対峙するレオニードとパウロ。
騎士団長の務めるだけあり、レオニードの剣技は群を抜いていた。パウロ自身も大した腕だったが、さすがに相手が悪い。
追い詰めたレオニードだったが、パウロはまだ余裕を見せている。
「残念だが、まだだな。まだ貴様の友人の剣は、血を欲しそうだぞ」
手にあるハルバートの刃を見せながら、彼は剣を振るう。
一瞬、顔を顰めるレオニード。僅かに鈍くなった動きを見逃す事無くパウロは一気に振り下ろした。
「くっ」
素早く受け止めたが、僅かにバランスを崩す。
その隙にパウロは何を思ったのか反転して、あらぬ方へ駆け出した。彼が向かったのは、倒れている少年の元。
「しまった!」
最初の攻撃は牽制。本当の目的は、少年を殺すことにあった。
ハルバートの刃が闇の中、妖しく光る。
「させるかぁっ!」
だが、いち早く気付いたマレスが彼の前に立ち塞がる。
「注意しといて正解だったぜ」
「チッ!」
構わずパウロが攻撃を仕掛ける。
突き刺さる痛みを気にすることなく、マレスもまた剣を深く突き下ろす。互いに交差する形になるが、胸を突いたマレスに対し、パウロの剣は彼のわき腹を掠めた形だった。
お互いよろけながら離れると、待ち構えたかのようにイシュルーナの放つソードボンバーの衝撃がパウロの身体を吹き飛ばした。
「グハッ!?」
「‥‥とどめだ」
アルフォンシーナの一閃。
それが、長きに渡ってパウロ候に成り済ましていた男の最期となった。
●受け継ぐ者
「これは‥‥?」
マレスが手渡されたのは、パウロの使っていたハルバード。アルフレッドが愛用していたという形見とも言うべき品だ。
思わずレオニードを見返すと、彼は穏やかな表情でいた。
「この度は色々と世話になった。礼と言うほどのものではないが、どうか受け取ってくれ」
「いや、でも、だって、これってアルフレッド殿の形見だろ?」
「‥‥どうも俺は、意外とヤツの事を引き摺っているようだからな。これを機に少し吹っ切ってみようと思うのだ」
「貰っといてやれよ、どうせもういらないんだろ?」
後ろからユーネルが言葉をかける。詳しい経緯は知らないが、今のレオニードの晴れ渡った顔を見るにつけ、何かを吹っ切った事に間違いはないようだ。
「わかった。そこまで言うなら、貰っとくぜ」
「‥‥本当にようやく終わりましたね」
街を歩いてきたフィリアがそう呟く。
時折見かけた復興の様子に、少しでも早く平穏が取り戻せる事を祈りながら彼女は歌うことを決めた。
「そういえば、息子さんはどうなったの?」
「彼ではなかったのだな」
イシュルーナとアルフォンシーナの問いは、パウロと一緒にいた少年のことだ。どうやら彼の祖父こそが『調停者』を創り上げた張本人だったらしい。その事を聞かされて驚愕したところを、パウロに操られてしまったようだ。
それもパウロの死により解放され、本人の希望で今はオクスフォードの復興を手助けしている。
そして。
「――お待ちしておりました」
敬礼するレオニード。
彼の前に立つのは十五、六の少年。その容貌は、見る者が見ればどこか父親であるアルフレッドに似ていると感じるだろう。
「劉飛龍(リュウ・フェイロン)様。貴方様こそがオクスフォード家のただ一人の後継者」
「‥‥父さんの事、聞かせてくれるか」
「勿論」
その日。
オクスフォードの街は、冒険者達に見守られながら新たなる主となるべき少年を迎え入れた。