【後継者】辿りつく嘘と真実

■シリーズシナリオ


担当:葉月十一

対応レベル:3〜7lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 95 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月20日〜12月27日

リプレイ公開日:2005年12月26日

●オープニング

 ――それは、連日降り続いた雨が止んだ事から始まった。

 その地方に珍しい長雨は、普段は乾いた土地に大量に吸収されていく。結果、脆くなった地盤が地滑りを起こし、土砂崩れとなる事件が起きた。
 幸いにも怪我人はなく、街道を塞いだだけ。
 その程度なら、とその地に住む人達は、自分達だけで復旧作業を行おうとした。そして、程なくして崩れた中腹から、白骨化した遺体が姿を見せる。
 普段事件らしい事件もない穏やかな日々を送っていた住人は、突如沸き起こった非日常の事件に騒然となった。
 だが、それがオクスフォードやキャメロットに届けられる事はなかった。

 何故なら――。

●不審
 その部屋には一切の静寂が流れていた。
 部下から受け取った冒険者達の報告を聞き、レオニードは衝撃にただ沈黙する。すっと目蓋を閉じ、冥福を祈るよう黙祷を捧げていた。
 前回の報告から予想出来ていたとはいえ、改めて死亡の確証を示されれば、また違った痛みが胸に走る。
「‥‥それでご子息の行方は?」
 搾り出すような声色に、報告する部下もその心痛を慮って若干声のトーンが下がる。
「いまだその行方は掴めていないようです。ただ、手掛りとも言うべき人物は、どうやらキャメロットに出入りしている商隊の一人であるとか」
「そうか」
「それと‥‥アルフレッド様の墓の事なのですが」
 やや戸惑った感のある部下の報告に、レオニードは僅かに眉尾を上げた。
 冒険者達の手で見つけた、アルフレッドとその細君が眠る墓のある村。そこまでの街道が長雨続きで地盤がぬかるみ、土砂に塞がれたという話だ。
「土砂崩れだと? そんな報告は入っていないが」
「いえ、パウロ候からの情報のようです」
「パウロ候から? 何故だ?」
「いえそこまでは‥‥」
 言い淀む若い兵。
 情報がパウロ候本人からもたらされたというだけで、理由までは分からないようだ。
 更に塞がれた街道の復興に、どうやらパウロ候自らがその地方まで視察に赴くという。復興予算を組むためというのが名目らしいが。
 部下からの報告に、レオニードはどこか引っ掛かるものを感じた。
 何故この時期に動く必要がある?
 次期領主としての立場を確固たるものにするためのパフォーマンスか?
「いかが致しましょうか?」
 年若い騎士の言葉に、レオニードは一つの決断を下す。

●追尾
 そして、場所は移ってキャメロットの冒険者ギルド。受付に立つ若い騎士の元、集められた冒険者達は緊張した面持ちだった。
 何故なら、伝えられた依頼内容に際して出来るだけ内密に、と厳命されたからだ。
「パウロ候の後を追って、その目論見を突き止めて欲しいのです。当然、相手方には絶対に気付かれないように」
 連れて行く供は、数名の側近だ。少数での移動になる筈だから、おそらく道中の見張りは難しいだろう。
 幸いにもまだ出発していない。
 さすがに貴族が出かけるとあって準備が手間取るようで、出立はあと数日はかかるだろう。今ならば、先に村へ入って待ち伏せる手段も可能だ。
「ただ、今回の土砂崩れの一件、騎士団の方へ連絡はありませんでした。オクスフォード領内の異常時には騎士団へ報告があるはずなのです」
 その時点で既に何かがおかしい。
 更に。
「勿論、パウロ候から話がもたらされた直後、何人かの斥候を確認に向かわせたました」
 だが、彼らはいまだ帰ってきていない。それがよりいっそう団長であるレオニードの不安を煽る一因でもあった。
 おそらく、かの地方で何かが起こっている。
 連絡が途絶える程の何かが。
 その時の団長の表情を思い浮かべたのか、若い騎士もまた苦悩するような顔になる。
「本来ならレオニード様自身が動きたかったようなのですが、それだとパウロ候にすぐ見つかってしまいます。ですから、こうして冒険者の方々に御依頼するのです」
 どうかくれぐれもお願いします。
 そう言って頭を下げると、若い騎士はギルドを出て行った。
 彼が預かったもう一つの任務――アルフレッドの子息の行方を知るキャラバンの主を探す為に。

●今回の参加者

 eb0444 フィリア・ランドヴェール(21歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 eb1384 マレス・イースディン(25歳・♂・ナイト・ドワーフ・イギリス王国)
 eb3387 御法川 沙雪華(26歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb3449 アルフォンシーナ・リドルフィ(31歳・♀・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 eb3483 イシュルーナ・エステルハージ(22歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb3529 フィーネ・オレアリス(25歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●ミッシング・リンク
「斥候が戻って来ないとなると、何かが起こっているのでしょうね」
 道中での御法川沙雪華(eb3387)の言葉に、アルフォンシーナ・リドルフィ(eb3449)が思案げに呟く。
「わざわざパウロ候本人が出向くとなると、何かがその地に眠っているのかもな」
 或いは、よほど人に知られたくない秘密か。
 予測はいくつもあれど、確たる証拠はまだない。オクスフォードの本来の後継者――アルフレッドの子息にしても、いまだ見つかっていないのだ。
 アルフォンシーナ自身は、前回自分達を襲撃してきた若者の事が気になっていたが、同じくイシュルーナ・エステルハージ(eb3483)も同様に気にしていた。
「この前襲ってきた二人組の少年‥‥また現れるのかな?」
「そのことで一つ気になることが」
 全員の視線が沙雪華に集中する。
 それを受けて、彼女は記憶を確かめるように一つ一つ言葉を繋げる。
「私のキャメロットでの初仕事でエルリックさんという方とご一緒したのですけれど、ひょっとして前回ズゥンビを操っていたパラの少年って‥‥エルリックさんのお兄さんという方なのでは‥‥?」
「なるほど。それなら全てが納得いきます」
 得心した、とばかりにフィーネ・オレアリス(eb3529)。先日参加した依頼での出来事を踏まえ、ひょっとしたらと彼女は考えていた。
 即ち。
「偽者かもしれないパウロ候、妹から聞いたフェイくんのこと、そしてズゥンビの背後に見えるエルくんの仇。凡ては繋がっていることなのかもしれない」
 それがどのような繋がりなのかまでは解らない。
 だが、今回の件で少しでも情報が得られれば。果たしてパウロ候が何を目的としているのか。
 そのうちに先頭を歩くイシュルーナの目に目的の村が見えてきた。
「あ、そろそろ村だね」
「みたいだな。‥‥少し静か過ぎないか?」
 既に村は見えているというのに、アルフォンシーナの耳には何の物音も聞こえてこない。不審に感じた彼女は、柄を握る手に力をこめる。
 フォーネもまた不安に思い、周囲を見渡す。沙雪華もすぐに足音を立てないよう注意を払う。
 土砂崩れが起きたとなれば、村人は多少なりともそれを何とかしようとするものだ。例え少人数でも復旧に駆り出せば、それなりに喧騒も響いてくる筈。
 だが、今この場の雰囲気は、潮が引いたように静かだ。
「まさか」
 いち早く飛び出したアルフォンシーナ。
 その後を追う三人。
 そして、村へ駆け込んだ彼女らが見た光景は――。

●ホワイ・アンサー
「‥‥同行してよろしいでしょうか?」
「構いませんよ」
 遡ること、数日前。
 依頼を引き受けたフィリア・ランドヴェール(eb0444)が選んだのは、依頼を持ち込んだオクスフォードの若い騎士に同行することだった。
 仲間であるマレス・イースディン(eb1384)によってもたらされたパウロ候が偽者であるという情報。
『どうしてパウロ候が偽者なの?』
 そう問い質した彼女に対し、マレスは声を潜める。
 彼の言い分はこうだ。
『‥‥隠し子だって事で十年以上前に連れてこられたみたいだが、それってホントの息子かどうかわかんねえだろ?』
 あくまでも想像だ。
 だが、その情報を得た直後、彼は襲われている。当のパウロ候本人に。
 そして彼はまた、パウロ候の元へ戻ると言う。
『お気をつけて』
『なーに心配すんなって』
 ようやく傷も癒えたばかりだというのに、マレスは元気よく旅立って行った。その後姿をフィリアは少し心配そうに見送った。
「‥‥どうしました?」
「あ、いえ。なんでもありません」
 若い騎士に突然声をかけられ、彼女は意識を慌てて現在に戻した。今、二人は男から聞きだした『キャラバン隊長の倅』が逗留している場所へ向かっていた。
 男の話では、数日前にキャメロットで見かけたという。
「東洋の人間、という話でしたね」
「そうです。確かマオ、という名前で」
 正確には、李昴星(リ・マオシン)という名の華国出身らしい。年の頃は二十代前半で、すこしふっくらした体格がどことなく憎めない雰囲気を醸し出しているとか。
 何故、彼の父親が突然キャラバンを解散したのか。
 そして、キャラバンのメンバーは何故身を隠すように姿を消しているのか。
「ひょっとしたら‥‥」
「え?」
 呟いたフィリアの声に、若い騎士が一瞬思案する。
「アルフレッド様のご子息をお守りする為だったのでは?」
 彼の出した答えを聞いた時、パンパンと手を叩く音が彼女の耳に届いた。
「正解だよ」
 ハッと見上げた先、人好きのする笑顔を浮かべた青年が立つ。
 黒髪に黒い瞳、明らかに東洋を思わせる顔立ち。
「やあ、よくここまで来たね。待ってたよ」
「あなたが‥‥?」
「うん、僕がマオ――李昴星だよ」
 なんでもないことのように名乗るマオに、フィリアは少々驚きを隠せない。
「どうして私たちが来るのを」
「仲間から連絡を受けたんだよ。あの日、キャラバンは解散してメンバーはバラバラなったけど、ずっと連絡は取り合ってたんだ。守るためにね――『彼』を」

●デッド・アライブ
「おや、あんた久々だねえ」
「お、おばちゃん! 元気だった?」
「最近顔を見ないから、どうしたのかと思ったよ」
 マレスの顔を見るなり、賄いの彼女は変わらずの笑顔を向ける。
 先程、パウロ候視察の見送りをしたが、他の兵から何も言われなかった。パウロ候自身も自分をチラッと見ただけで、特に顔色を変える様子も窺えなかった。
「そうそう、この前おばちゃんに聞いたパウロ候が隠し子って話なんだけどさ」
「しっ。滅多なこと大声で言うんじゃないよ。ただでさえ外聞悪いんだから」
 察するに母親は貴族でないのだろう。
 好奇心に負けた。そんな感じで更に突っ込んでみると、意外な言葉が返ってきた。
「母親は確か、今回視察に赴く村出身の女性だった筈だよ。元々一人で育ててたようだけど、その女性が亡くなったとかで先代が引き取ってきたんだ」
「――なんだって?」
「でも残念だったねぇ。先代はパウロ様を引き取られてから、すぐにご病気で亡くなったんだよ‥‥」

 その夜。
 明かりの消えた部屋の一室で、金属音が響き渡った。
「待ってたぜ!」
 部屋の角で小さくなっていたマレスはすぐさま飛び起き、出入り口を背に抱えていた剣を身構える。暗闇の中、ゆっくりと灯される明かりに照らされたのは、自分と同い年か少し下の若者の姿。
「お前――」
「これ以上、邪魔をするな」
 問答無用、とばかりに構えた剣の切っ先がマレスを襲う。
 身をかわしたが、バランスを崩して片膝をつく。すかさず振り下ろされた刃。殆ど反射的に剣で受け止めた。
「おい、お前! いったい何のためにこんなことやってんだ?」
 必死で戦意のないことを示そうとするが、相手はいっこうに力を抜こうとしない。こうなったら、と反撃に出ようとしたマレス。
 だが、その出鼻を挫くように闇の中から黒いものが飛び出してきた。
「えっ?!」
 黒猫、と認識した瞬間、剥き出しの牙が首筋を切った。
 一瞬力が抜け、その拍子に相手の剣がざっくりと肩口に食い込んだ。激痛が走り、カランと剣が落ちる。ガタッとよろめく身体がドアにぶつかった。
 背にもたれる形で辛うじて立っているマレス。
「‥‥どうやら警告が効かなかったようだな」
 掠れた声が脳裏に届く。
 驚いて声の方に視線を向ければ、黒猫の目が妖しく光った。追い詰めていた筈が追い詰められた結果になり、マレスは咄嗟にドアを開いて外へ飛び出した。
 大量の出血に追う必要がない、と判断したのか。
 幸か不幸か、マレスの身に追手がかかる事は無かった。

●リアル・フェイク
「‥‥くっ!?」
 アルフォンシーナの振るった剣が、飛び掛かるクルード――ネズミに似た悪魔を叩き落す。
 だが、通常の武器ではダメージのないデビル達は、平気な顔でまた襲い掛かろうとしていた。
 それは、スピアしかないイシュルーナも同じだ。辛うじてソードボンバーによる衝撃波で弾いているものの、決定的なダメージにはならない。
「これじゃあ駄目だわ」
「私が――神のご加護を」
 フィーネの放つホーリーがデビル達を葬っていく。クルードだけではない、飛び交うグレムリン相手にも彼女の攻撃は有効だった。
 そしてもう一つ。
「いきますわ」
 沙雪華の放つ火遁の術。
 扇状に噴出した炎がクルード達の身を包み込んでいく。断末魔の悲鳴が上がり、炎とともに絶命した。
「まさか、こんなことになっているとはな」
 悔しげに呟くアルフォンシーナ。それは他の者達も同意見だ。
「どうりで騎士団への連絡もなく、斥候も戻ってこなかったでしょうね」
 村に訪れた沙雪華らが見た光景。
 そこには、生きている人間の姿はどこにもなかった。そこかしこで引き裂かれ、または食い千切られ、折り重なるように倒れている人達。
 デビル達の手によって全滅した村。
「もしかしたらパウロ候は、先程の土砂の中にあった白骨を隠しにここへ?」
 途中、アルフォンシーナが発見した土砂崩れの跡。その中に埋もれていた白骨を見つけた途端、デビルが姿を現したのだ。
 すぐに戦闘が始まったので詳しくは調べられなかったが、一つだけ気になる事があった。
 白骨が生前身につけていたのだろう衣服。既にボロボロになっていたものの、いかにも貴族らしい高級そうな服に彼女には見えた。
「ひょっとしてパウロ候の先代? ‥‥って、まさかねえ」
 ポロリとこぼれたイシュルーナの呟き。
 誰もがハッとなる。そう考えれば、おおよその辻褄が合うのだ。
 隠し子だったパウロ候。実際、彼は父親が連れてくるまで誰も顔を知らなかった。もし仮に別人が成りすまそうとした場合、唯一顔を知る人間を消せばそれでいい。
「しかし‥‥その証拠を隠すためだけに村全員を‥‥」
「おそらくそうでしょう、ね」
 震える沙雪華の呟きを、フィーネが悲しげに肯定する。
 無残に殺された村人達の姿が焼きついて離れない。悲しみと同時に、怒りが改めて沸き起こってくる。
「危ない!」
 グレムリンの爪が二人を襲おうと迫る。いち早く気付いたイシュルーナが警告を発した。
 が、爪が触れるより早く、フィーネのレイピアの突きの方が早かった。胸を刺し貫いた切っ先が抜かれてその身体が落ちると、浄化とばかりに沙雪華の放った炎がその身を焼き尽くした。
「これで全部か? 辛うじて‥‥助かったな」
 疲労の色濃いまま、アルフォンシーナがホッと息を吐く。よもやデビルが待ち受けているとは思いもよらず、その結果かなりの苦戦を強いられたしまった。
 とはいえ、このままここにいるわけにはいくまい。
「一先ず撤退しましょう。さすがに皆さん、これ以上は‥‥」
 沙雪華の提案に、他の三人は仕方なく頷いた。体力の削られた今、不用意にパウロ候に近付いて気付かれてしまえば元も子もない。
 とにかく今は、この村の現状を伝える事を優先するべきだ。
「仕方ない、よね」
 今回の戦闘で力及ばなかったことに、イシュルーナは軽く落胆する。
 が、持ち前の天真爛漫さでなんとか表面上は元気を取り繕った。
「パウロ候がやってくる前に、早いところ移動しようよ」
「そうですね」
 もう一度、村の有様をぼんやりと眺めるフィーネ。視界に映る光景は、人としてはあまりにも凄惨すぎて言葉が見つからない。
「‥‥フェイくんのこと、レオニード卿に話して内々に保護してくれるよう頼んでみますね」
 無慈悲なまでの相手の出方に、彼女は改めてそう心を決めた。