【花嫁育成計画】エルフの若奥様

■シリーズシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月15日〜12月22日

リプレイ公開日:2004年12月23日

●オープニング

 それは、ある晴れた日の午後の事だった‥‥。
「んー。やっぱり、こんな日は、ゆっくりとお茶に限るわねー」
 そう言って、ハーブティをすする受付嬢。昼下がりのティータイム。いただきもののお手製ハーブティで、ちょっとした贅沢気分を味わっているらしい。湯気の立つティーカップからは、いい香りが立ち上っている。
 と、そんな彼女の幸せなひと時を、現実に引き戻すかのようなドアを叩く音。
「はぁーい。開いてますよー」
 あまり仕事をする気はないのか、お茶を片手にそう言う受付嬢。程なくして扉が開き、入ってきたのは、年の頃なら、13・4。ちょうど、グリフォンフォームに入学しようかと言う年頃だ。
「どうしたの? いったい」
 にこやかな笑顔で、応対する受付嬢。この辺りは研修の賜物である。と、綺麗な銀髪を持ったそのエルフの少年は、こう尋ねてきた。
「あのー。ここでは、お願い事を聞いてくれるって言われてきたんですけどー‥‥」
「お願い事? ああ、依頼の事か。うん、一応ね」
 おずおずとした気弱な風情の少年に、受付嬢はそう言いながら頷いている。
「よかったー。あんまりお小遣い持ってなかったから‥‥」
「まぁ、基本的には学校だからね。で、どんなお願い事なの?」
 ほっとした様子の彼に、受付嬢は続きを問うた。と、彼は目を伏せながら、声を小さくする。
「あの‥‥。実は‥‥」
「うん」
 何か、言う事を躊躇っている表情の彼。しかし、意を決したようにすぅっと息を吸い、こう宣言していた。
「僕を可愛いお嫁さんにして下さいっ!」
「ぶっ!」
 思わず、飲んでいたハーブティを吹き出す受付嬢。
「お、お嫁さんって‥‥。だってキミ、男の子‥‥」
 男装の少女とも違う、明らかに少年の身体をしている銀髪の彼。ぱくぱくと口をあけたり閉じたりしている受付嬢に、少年は悲しそうな表情で問うて来た。
「男の子は若奥様になれないんですか? 僕、愛い若奥様に成りたいんです!!」
「いやそのー‥‥」
 その顔に、『普通はならんだろ‥‥』と言う事が出来ず、口ごもる受付嬢。と、少年はさらに瞳を潤ませて、こう訴える。
「立派な花嫁になって、社交界にデビューしたいんですっ! ケンブリッジの人なら、いっぱい色んな事知ってるだろうし。僕を貴婦人にしてくれると思ったんだけど‥‥」
 期待と不安の入り混じった表情。唇をかみ締め、堪えているが、今にも泣き出さんばかりだ。
「ああああああ。うん。まぁ、一応皆に頼んでみるけど、あ、あんまり期待はしないでね」
「よかったーーー。断られたらどうしようかと思ったー‥‥」
 慌ててそう言う受付嬢に、彼はぱっと瞳を輝かせて、答える少年。
「いや、いーけどさー‥‥」
 多少、呆れた表情の受付嬢。程なくして、ケンブリッジギルドに、こんな依頼が載ったのだった。

『13.4才くらいのエルフの少年を、社交界に出席出来るような、立派な若奥様にしてあげてください。』
 
 注釈には、『生徒さんでなくても構わないので、指導よろしくお願いします』と書いてある。
「何だこれは‥‥」
「さぁ‥‥」
 それを見た生徒達が、顔を見合わせたのは、言うまでもない。

●今回の参加者

 ea2165 ジョセフ・ギールケ(31歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea4675 ミカエル・クライム(28歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea8255 メイシア・ラウ(24歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea8785 エルンスト・ヴェディゲン(32歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea8870 マカール・レオーノフ(27歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea8877 エレナ・レイシス(17歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

「さて。それじゃあ何から教えましょうか‥‥。いきなりいっぺんにやっても、覚えられないでしょうからね」
 名前を聞き出したマカール・レオーノフ(ea8870)が、皆にそう尋ねる。と、ジョセフ・ギールケ(ea2165)がこんな案を示してきた。
「そうだな、まず形から入ると言うのはどうだ?」
「なるほど。人は外見じゃないとは言いますが、貴婦人を目指すとなると、外見なんてどうでもいい‥‥とは言ってられませんから」
 口調を直させていたメイシア・ラウ(ea8255)が、そう言いながら、ランス少年に、借りてきた女子制服を強制的に押し付ける。数十分後、調子に乗ってエレナ・レイシス(ea8877)と共にお化粧しまくった結果、そこには絵に書いたような少女が1人、転がっていた。
「うむ。思った通り、中々の美少女っぷりだ」
 開口一番、そう評するジョセフ。さて、姿形が少女になった所で、次は行動である。
「まずは家事一通りを実践して、手順などを体で学習してもらいます。頭で家事を理解するのは、なかなか難しいものですから」
 はき慣れないスカートをヒラヒラさせつつ、不安げなランス少年に、レオがそう諭している。こうして、『素敵な若奥様になる為の猛特訓』が始まったのだが。
「キャメロットにいた女装少年の方がもっと優雅だったぞ。気合を入れるんだ!」
 何を勘違いしたのか、そう言った事に精通している筈の女性陣より、男性陣の方が細かい事を突っ込んでいる。事に、エルンスト・ヴェディゲン(ea8785)は、彼が一生懸命掃除をすればするほど、どこからか現れては、窓枠の埃を、まるで本人に見せ付けるかのように、拭い取っては、風に散らしていた。
「洗濯物の干し方が温い! だいたい、こんな濃い味付けでは、旦那様に早死にさせてしまうぞ」
 しかも‥‥細かい。まぁ、愛情さえあれば、いい加減な仕事をしても良いと言う訳ではない。が、今日始めたばかりの少年には、そう言った『お姑の嫌味をかわす』と言うスキルは、まだ備わっていない。そのスパルタ教育っぷりに、少年が思わず、悲しそうな表情を浮かべた直後だった。
「少年! そう簡単に若奥様になれると思うな! 若奥様になるにはまず、美少女にならねばならない! 考えても見ろ、ただの少女に若奥様などと言う称号がふさわしいか! 断じて否! 若奥様の称号は美少女にのみ許されるのだ!」
 びしぃっと指先突きつけて、そう言い切るジョセフ。
「そ、そんなぁ‥‥」
「口答えをするんじゃないっ」
 ランス少年が、何か良いかけた刹那、指導鞭(と言う名の、その辺で拾ってきた棒きれ)が、少年の手の甲へとぶっ飛んできた。
「うわぁぁぁん‥‥」
「あ、ちょっと‥‥!」
 今まで、そんなにびしばしとした教育をされた事がなかったのだろう。ショックのせいか、少年はくるりと踵を返すと、教室を飛び出していく。レオが止めようとする前に、である。
「手間がかかるわねぇ。エレナちゃん、おっかけるよ!」
 ミカエル・クライム(ea4675)がそう言って後を追うのを見て、エレナとメイシアも、重いため息をつきながら、それに続くのだった。

 2時間後。
「駄目ですよ。貴婦人が勝手に出歩いては」
「ごめんなさい‥‥」
 森の中で、座り込んでいた少年を見つけ、メイシアがやんわりと嗜めると、彼は素直にそう謝った。
「あちゃ、ボロボロになっちゃったわね。エレナ、上着貸してあげて」
 その彼のローブが、転んだ拍子で、泥だらけになってしまっているのを払いながら、ミカエルはそう言った。幸いな事に、怪我はしていないらしい。だが、小雪がちらついてきたせいか、ずいぶんと体が冷え切っているようだ。
「あそこで、暖でもとろうか」
 授業で使うものなのだろうか、人気のない屋敷を指差して、そう言うミカエル。中は、多少散らかっていたり、隙間風も多いが、雪をしのぐには弊害はなさそうだ。
「ちょっと待ってて」
 持っていた火打ち石で、暖炉に火をつけるミカエル。
「あったかい‥‥」
「これだけじゃないわ。炎ってのは、生き物なの。見てて」
 その炎に、彼女はそう言いながら、ファイヤーコントロールの魔法をかけた。炎は彼女の求めに応じて、円形に燃え上がり、再び元の暖炉へと戻っていく。
「うわぁ‥‥。すごい‥‥」
 目を輝かせる少年。ミカエルの『美術』に、すっかり感嘆したようだ。
「けど、どうして『若奥様になりたい』なんて思ったの?」
 と、そんな彼に、彼女は依頼を受けた時から疑問に思っていた事をぶつけた。答えられずに目を伏せる彼に、ミカエルはさらにツッコんでみせる。
「花嫁になって社交界デビューね〜。社交界や若奥様に興味があったり、女の子になりたかったりするのかな?」
「それとも‥‥お目当ての男性でも、いるのですか?」
 その疑問は、メイシアも考えていた事らしい。エレナを含めた、女性3人の顔が、『何か事情があるに違いないっ!』と確信されて、少年は慌てて首を横に振った。
「ち、違うんですっ。そのっ、若奥様って言うのは、大切な人の為にご奉仕する職業だって‥‥。その‥‥。別に女の人より、男の人の方が良いって事はなくて‥‥。そりゃあ、カッコ良い騎士様とかには、憧れますけど‥‥」
 どうやら、本人があまり良く分かっていなかったようだ。誰に吹き込まれたのかは知らないが、恋人と若奥様と貴婦人と騎士道がごっちゃになってしまっている。
「そんなに隠さなくても良いですよ。好きな人の為に、素敵になりたいと思うのは、普通の事ですし」
「そうそう。性別なんて、小さな事だよ☆」
 で、ミカエルとエレナも、本来それが別々のものとゆーのは、雪の中に埋めてしまったらしい。
「元が良いですから、言葉遣いや時と場合と場所に応じて、服装やお化粧を使い分ければ、きっと立派な貴婦人になれますよ」
 メイシアが、その容姿を褒めるような口調で、そう言った。その姿に、反論しても無駄かもしれないと思ったらしい少年は、そのまま押し黙ってしまう。と、その時だった。
「ふっふっふ‥‥」
「誰!?」
 扉がバターンと開いて、外の風と共に、乱入してくる人影。よく見れば、何の事はない。エルンストである。追いかけてきたらしい。
「って、何やってるのよ。あなた‥‥」
「しーっ。これもあの子の真意を引き出す為だ。ちょっと協力しろっ!」
 ミカエルのツッコみに、彼は声を潜めながら、そう言った。で、近くに積もっていた雪を引っつかむと、「食らえ! 氷の舞ッ!」なんぞと言いながら、3人に投げつけている。
「ああっ。皆さん!」
 かなりざーとらしく倒れたはずなのだが、ランス少年、全く気付いていない。
「ちゅー事で、この子は貰っていくぞー!」
 その間に、少年はエルンストに抱えられるようにして、屋敷の奥へと連行されてしまうのだった。

「あの、僕に何を‥‥」
「決まっているだろう。夜の教育だ」
 薄暗い部屋で、扉を後ろ手にしめながら、にやりと笑ってみせる彼。そのまま、上着を脱ぎ捨てたエルンストその姿に、世間知らずの少年も、何をされるかを悟ったようだ。
「そ、そんな事まで‥‥」
「当たり前だ。自分が若奥様になりたいということのためだけに、婿にされる相手の方はいい面の皮かもしれんしな‥‥」
 言いたい事をはっきりと言って、エルンストは、部屋のほぼ中央へと少年を引き寄せる、ふーっと耳に息をふきかけつつ、力を抜かせると、もはや抵抗する気は失せてしまったのか、硬く目を閉じて、身を強張らせる少年。
「さぁ、旦那様にどうして欲しい‥‥?」
 エルンストが、そんな彼を腕に納めながら、囁くようにそう問うた。だが、その刹那、少年は消え入りそうな声で、驚くべき事を言う。
「愛して下さい‥‥」
「お前‥‥」
 今まで、口説く気満々と言った素振りを見せていたエルンストの動きが止まる。
「大切な人に愛されたい‥‥。もう何も悪い事しないから、もう苛めないで‥‥」
「ふむ‥‥。もう少し詳しく話して見ろ」
 何やら事情がありそうだな‥‥と気付いた彼は、芝居をそこで止め、戒めていた腕を解き、声を普通の調子に戻しながら、そう尋ねる。
「クリスマス近いのに、皆忙しくて‥‥。パーティに行けなくて‥‥。女の子ばっかり誘われてるから‥‥。僕も、若奥様になって、貴婦人になれば、誘われるよって‥‥」
「いったい、誰がそんなでまかせを‥‥」
 泣きじゃくりながら、答える少年。しかし、彼に余計な事を吹き込んだ者については、心当たりがないのか、首を横に振るだけだ。
「そんな顔をするな。まったく‥‥。寂しいだけなら、最初からそう言えばよかろうに」
「うん‥‥」
 背中をぽんぽんと軽く叩きながら、少年を慰めるエルンスト。
「コラァァァァ!!!」
 直後、扉を強引に蹴破りつつ、乱入してきた神聖騎士一名。見れば、レオである。彼は、目の前で少年を抱き寄せているエルンストを見て、完全に誤解してしまったようだ。
「ま、待て! これには事情が‥‥!」
「問答無用ッ 覚悟ッ!」
 必死でその誤解を解こうとする彼だが、上着無し、泣き顔オプション付き半裸少年を前に、それが解ける筈もなく、鉄拳制裁がぶっとんでいる。
「大丈夫だったですか?」
「は、はい‥‥」
 助け起こされ、こくこくと頷く少年。どうやら、怪我などはしていないようだ。レオは、そんな彼に、脱がされた上着を差し出した。
「待て! そこで止めさせてはいかん!」
 そこで、またもや乱入してくる御仁がいた。ジョセフである。
「またややこしいのが現れた‥‥」
「少年。美少女に大切な物は何だと思う。容姿? 性格? 違う、仕草だ! 細かい仕草にこそ、美少女とただの少女の差があらわれるのだ!」
 後ろの方で、頭を抱えているメイシアをよそに、彼はさらなる指南へと入る。
「こう、肩を寄せて。怯えるような目で‥‥そう、そこで上目遣いに」
「え? え? こう‥‥ですか‥‥?」
 媚びるような仕草を、少年へと教え込むジョセフ。戸惑いながらも、その通りにする彼。ターゲットは、すぐ側にいたレオだ。そんな2人に、ジョセフはさらにだめ押し。
「そうだ。そこで一言囁くのだ!」
「御主人様‥‥」
 熱っぽく囁かれ、慌てふためいたのは、レオの方である。
「そ、そんなっ! その‥‥私は大いなる父に使える身ですから‥‥っ」
 やんわりと断って、じたばたと逃れようとする彼だったが、丸腰の少年をむげに扱うわけにも行かず、ぱくぱくと口を開け閉めしているのみだ。
「私‥‥。魅力、まだ足りませんか‥‥?」
「そんな事はないですっ。充分魅力的ですッ。って、あぁぁぁぁ、私は何を〜っ!?」
 手塩にかけて綺麗にされた少年は、乱れた姿‥‥いや、その姿だからこそ、まるでモンスターが使う魅了の様に、レオのハートを捉えてしまったらしい。
「堕ちたな」
「え、えぇと、じゃあダンスの手ほどきを‥‥」
 それを仕掛けた張本人のジョセフのセリフに、レオは『とりあえず』と言った風情で、ぎこちなくその手を取るのだった。
 そして。
「少年‥‥いや、フロイライン・ランス。君の未来には二つの道がある。どちらの道も大変だが‥‥頑張れよ」
 少年の両肩に手をおいて、そう励ますジョセフ。
「はい。頑張って今度のクリスマスに、立派な神聖騎士のお兄様の 若奥様になれるようにします‥‥」
 答える彼の、声の調子がまるで違う。そんな少年に、メイシアが良い香りの花束を贈った。
「うう、なんでこんな事に‥‥」
 1人、滝涙をこぼしているレオに、他の面々が口をそろえて、「「「デビルの陰謀」」」なんぞと言っている。
(「あながち、冗談ではないかもしれんな‥‥」)
 1人、受付の外からそれを見守っていたエルンストは、そう呟いていたのだった‥‥。