●リプレイ本文
さて、毎度おなじみ花嫁育成人の面々だが、ここまで来ると、やる事ぁ分かっている。と言うわけで、面々は川岸に集まって、打ち合わせに入っていた。
「わかりました。では、本人への聞き取り調査は我々で行う事にしますね。女性陣には、フォローをお願いします」
マカール・レオーノフ(ea8870)がそう言った。相談の結果、男性陣が事情を聞いた方が、話しやすいだろうと言う事で、風呂に入れるのが男性。衣装を洗うのが女性と言う事にしたらしい。
だが、少し離れた場所で待っている少年を呼びに行くのを見て、ため息をついている御仁が一人。
「もはや、嫁志願が女じゃないのは、ツッコミの対象にさえならんのか‥‥」
エルンスト・ヴェディゲン(ea8785)である。あのパープル女史の関係者が、性別なんぞ細かい設定なんてものは、気にも止めやしないであろう事は、半ば予想が付いていたものの、やはりどこか納得はしていない風情だ。
「何かおっしゃいましたか? 先生」
「いや、なんでもない。世の中には、似た様な行動をするバカが大勢いるものだなーと思ってな」
その呆れた表情を消さぬまま、マカールの問いにそう答えるエルンスト。マカールが怪訝そうに「はい?」と聞き返すと、彼はこう続けた。
「考えてもみろ。どうしてこうも嫁に関わる事ばかり、トラブルが起こる? そもそもの取っ掛かりだとて、ランス少年にいらん知識を吹き込んだ奴がいるそぶりだしな」
「言われてみればそうですね‥‥」
頷くマカール、確かに、普通に考えてみれば、幾ら年若く、女の子な素地があるとは言え、まごう事なき立派な男性である。その彼らに、嫁になりたいだのとか言う妖しい導きを施したのは誰か。言われなくてもだいたい予想がつこうと言うもの。
「生暖かく無視するのが上策だがな。下手に騒いでは、余計連中の思う壺だ」
「それはそうですが‥‥。かと言って踊らされるのも癪ですね‥‥」
マカールも、何者かが絡んだ陰謀だと気付いたらしい。しかし、エルンストが言うように、そのまま放置するのも気に障る‥‥。そんな心境のようだった。
「まー、酷い有様ですね。そこに座って」
マカールが苦笑しながらそう言った。その勧めに応じ、岩の上にちょこんと座る彼。例によって気の弱いタイプらしく、すすけた顔で、大人数を相手に所在無げにしている。
「あの、そもそも、アナタに脱ぐと自害しなければならないと吹き込んだのは、どこの誰です?」
なんだか肩身の狭そうなその少年に、マカールは、ミルクを差し出しながらそう尋ねた。
「えぇと‥‥。旅の吟遊詩人さんです‥‥」
やはり、背後には何やら得体の知れない陰謀が絡んでいるようだ。しかし、フィアッセ・クリステラ(ea7174)はそんな事には気付かず、抱いていた疑問をぶつける。
「水が怖い‥‥? 泳げないとか、そんなレベルですか?」
「はい‥‥。あんまり、覚えてないんですけど‥‥、水に入るのが怖くて‥‥。無理やり入ったら、次の日‥‥怪我してベッドの上でした‥‥。その間の記憶なくて‥‥」
どうやら、マカールの言う通り、風呂に入らないわけではなく、入れないので間違いなさそうだ。小さな頃のトラウマが原因で、恐怖を抱いてしまうと言うのは、よくある話。彼の場合も、その恐怖が引き金となり、狂化の条件と化してしまったのだろう。
「えぇと、それは水に濡れると、前後不覚になるんですか? それとも、水に入ったら?」
「水に入ったら‥‥です。だから、川とか入れなくて‥‥」
フィアッセの問いに、そう答える少年。どうやら、濡れると狂化と言うわけではなさそうだ。
「それだったら、どうにかなりそうですね」
湯の入ったバケツを用意して、布で丁寧に拭くなどである。しかし、それでは汚れは落ちないかもしれない。そう思ったフィアッセは、少年の横で、同じ様にミルクをちびちびと飲みながら、こう説得してみる。
「誰に言われたか知らないけど、別に嫁入り前に人前で服を脱いだら、自害しなければならない、ていうことはないよ? 特に男の子の場合は。逆に見られて綺麗になる、っていう言葉もあるしね」
なんだか微妙に性別が違うような気もするが、そこは誰も言わないので、あえてツッコミはいれないでおく。
「だから、逆に立派な花嫁さんになるなら、エプロンだけつけるような格好慣れないとね? ほら、裸にエプロンは男の人の夢だって言うし」
目をぱちくりとさせる少年に、フィアッセはそう言ってのけた。流石に、このままだと間違った知識を吹き込まれてしまいそうだと感じたエルンスト、仏頂面のまま、会話に割ってはいる。
「それは女性の場合だろう。まったく、見られたくないんなら、入浴場所と脱衣場に、簡単な囲いをして、1人で入らせればすむ事だろうが」
幸い、材料ならその辺から調達が可能だしな。と、見も蓋もない提案をする彼。
「そんな簡単には行きませんよ。第一、覗かれたらどうするんですか」
「だったら、天井もつけとけ」
全方向囲っておけば、何の問題もないだろう。と、いつもの三割増しで不機嫌なエルンストの姿に、少年は困惑した表情を浮かべてしまっていた。
「耐えて下さい。これも試練なんですよ」
「はい‥‥」
そんな彼を気遣って、そう言うエレナ・レイシス(ea8877)。彼女に励まされ、少年は意を決したように、力強くうなづいてみせるのだった。
一方、エルンストは。
「と言うワケで、そこの湯女少年。ちょっと聞きたい事がある」
そう言いながら、オープン準備に追われていた係員と思しき少年を捕まえていた。よく見れば、今日もアルバイトにいそしんでいるランスくんである。
「おや、ランスくん。またバイトですか?」
「は、はい〜。そうなんです〜」
親しげに声をかけてきたマカールに彼は照れたようにそう答えた。そこだけ切り取れば、なんだか良い雰囲気なのだが、今は仕事を済ませる方が先である。即座に「口説くのは後にしろ」と、エルンストのカミナリが落ちた。
「で、物は相談だが、お前の知り合いに、小屋がけの出来そうな奴はいないか? この間のドワーフ少女やら、ジャイアントやら、知り合いは多いだろう」
ひりひりと頭のたんこぶを抱えるマカールをよそに、彼はランス少年に、そう申し出た。彼が「えぇと。つまり、建築技術を持った人‥‥ですか?」と、可愛らしい仕草で小首を傾げると、エルンストは肯定の返事を口にする。
「そう言うことだ。すぐに必要なんでな。これも風呂に入れるためだ。協力してくれ」
「わかりました。来るかどうかわかりませんけど、ちょっと呼んで来ます」
てってってと川辺を後にして、教室の並ぶ方へと消えて行く少年。
「では、私は、人目につきにくそうな場所を探してきますね」
「頼む」
その間に、メイシア・ラウ(ea8255)がクレバスセンサーを用いて、人のいないエリアを探している。事情を聞いて、野次馬が来ると困りますから、と言うとは、彼女の弁。
「やっぱり、なんだかんだ言って、任せて安心ですね」
てきぱきと指示を飛ばす姿を見て、頼もしそうにそう言うエレナに、当の本人は明後日の方向を向きながら、「余計なお世話だ」とこぼすのだった。
数時間後。道具と面子と図案を揃えた彼らは、早速ごみためプリンセスの清掃に取り掛かっていた。
「やはり、拭くだけは落ちそうにないですね」
「暖めて、落ちやすい様にするのが得策でしょうね」
湯に浸した布を片手に、そう言いあうエレナとマカール。布は既に黒くなってしまっているが、まだまだ前途は多難のようだ。と、図面を見ながら、その様子を伺っていたエルンストが、出来上がりつつある湯浴み小屋を眺め、こう言った。
「ふむ、なら天井に一工夫するか。お前達、すまんがもう一働きしてくれ」
なお、作業員はこの間のジャイアント以下、サークルの面々である。仲間が世話になったので、力仕事を手伝ってくれるそうだ。
「先生、こんなもんか?」
「ああ。後は上から帆布を被せるだけだな」
その彼らの協力も有り、ほどなくして、河原の行水場所には、立派な『見られたくない方々専用』の湯浴み小屋が出来上がっていた。しかも、テント用の帆布に穴を開け、上から雨の様に湯を流せる仕様になっている。
「あ、あのー‥‥」
「ん? なんだ。言いたい事があるなら、はっきり言え」
だんだん大げさな事になっている光景に、されるがままになっていた少年が、声をふりしぼる。だが、そんな彼を、エルンストは不機嫌そうにじろりと睨みつけていた。
「エルンスト先生、そんな風につっけんどんな対応では、怯えるばかりですよ。もう少し、柔らかく言わないと。ねぇ?」
「そうですよ。怖がらせちゃいけませんって」
見かねたメイシアとマカールが止めに入る。だが、エルンストはそんな彼らに、至極当然と言った雰囲気で、こう話す。
「そうは言うがな。嫁になろうって身分の子が、相手に隠し事をするようでは、余計なトラブルの元だ。互いに相談して対策を取るくらいは、出来る様にならんと困るだろう」
「で、でも‥‥。やっぱり怖い‥‥」
四方を木の板で囲まれた狭い空間。今からそこに、苦手な水が流れ込んでこようと言うのだ。いかに覚悟していても、やはり怖いものは怖い。
「えぇい、ぐずぐず言うな。操を立てても、風呂にはいらんのじゃ、嫁にはなれん。俺なら、貰いたくもない」
「そんな‥‥」
きっぱりとそう言いきられ、絶句してしまう少年。綺麗にはなりたい。が、水は怖い。どうして良いか分からず、固まってしまっている。
「わかったら、さっさと体の汚れを落として来い。服は、こっちで洗っておいてやる」
「うわぁん」
そんな彼を、エルンストは問答無用と言わんばかりにして、小屋の中へと放り込んでいた。
「手伝ってあげますから。体はきれいにしませんと。ね」
「が、頑張ります‥‥」
半泣きになっている少年だったが、エレナに励まされ、新しい布を受け取っている。
そして。
「こうすれば、溺れる心配もない。怖くなどないだろうが」
「はい‥‥」
結局、男性陣が手伝う事になり、少年はようやく安堵したように、体の汚れを綺麗に落とすのだった。
その頃、女性陣はと言うと。
「じゃ、この間に、この服、洗っちゃいましょうか」
「うん。着替え用意してあっても、とりあえずこれも洗っておかないとね。流石にこのままでは‥‥不味いしね」
汚れた服を前に、顔を見合わせるメイシアとフィアッセ。湯浴み小屋の方では、すぐ服が着れるように、エレナが新しい服を運んでいるのを見ると、まだまだ時間的余力はありそうだ。その為2人は、さっさと服を洗濯桶の中に放り込んでいた。
「ねぇ、せっかくだから、私達も入らない? 折角お風呂あるんだし、入らないと損じゃないかな?」
「そうですねぇ。その方が、効率良いかも‥‥」
と、フィアッセがそう提案した。考え込む様子のエレナ。どうせ、洗濯をしているうちにびしょぬれになりそうな気配だ。だとしたら、素っ裸になって洗った方が、服も濡れずに済むと言うもの。
「エプロンは‥‥まあ、いいかな? 減るものでもないしね」
女性しかいない場所で、羞恥心もへったくれもないらしく、潔く脱ぎ捨てるフィアット嬢。
「私は付けておきます。やっぱり、隠せる所は隠しておかないと‥‥」
やっぱり入る事にしたエレナ、それでも恥ずかしいのか、おいてあったエプロンを手に取り、大事な所が見えないように、しっかりと巻きつけている。
「時間かかりそうですし、火も熾しておきましょうよ」
念のため、火を熾すメイシア。水で消えないよう、少し離れた場所に、焚き火を設置する。
と言うわけで、気がつくと、男女それぞれに別れ、汗を流す事になったのだった。
さらに1時間が経過した。
「よし。これでいい。ほぅ‥‥。なかなか見れる格好になったぞ」
布を巻かれた少年を見て、そう言うエルンスト。綺麗になった彼は、くすんだ銀色だった髪は、プラチナブロンドへと変貌し、すすけた褐色の肌は、すっかり白くなっていた。
「あ、ありがとうございます」
「はいはい。まずは身体を拭きませんと。そのままだと、風邪を引いてしまいますわ」
礼を言おうとした少年を、メイシアがお礼は後で良いからと、丁寧に水気をふき取っている。
「あれ、服は‥‥」
「乾くまで、まだ時間がかかると思いますよ。その間、これを着ていて」
気がついた彼に、メイシアが差し出したのは、ケンブリッジの制服である。
「これは‥‥」
「他にも色々ありますわよ。綺麗なのから可愛いのにいたるまで。どちらが良いですか?」
にこやかにそう言って、揃えてきた礼服から、防寒着にいたるまで、様々な服を並べてみせるメイシア嬢。困惑する彼に、さらにこう続けていた。
「個人的には、ドレスをお勧め。素敵な花嫁さんになりたいんじゃないのかな?」
「そ、そうですけど‥‥」
その1つ、マカールが市場から手に入れてきたらしい服を広げて、そう言うメイシア。
「ねぇ。せっかくだから、両方着せちゃわない?」
「そうですね。乾くまで、時間はたっぷりありますし」
くすっと悪戯っぽく笑うフィアッセに、メイシアはそれは名案とばかりに、少年へとにじり寄る。
「あーあ、やっぱり着せ替え遊びにさせられましたか」
結果、着せ替え遊びに発展してしまう女性陣を見て、着替え終わったマカールが、ぼそりと一言。
「やはり、嫁が女じゃない事は、ツッコミの対象にならんようだな‥‥」
頭を抱えるエルンストの呟きは、他の面々に、右から左へと流されてしまうのだった。