【花嫁育成計画】おっきな若奥様

■シリーズシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月23日〜02月28日

リプレイ公開日:2005年02月25日

●オープニング

 その日、ギルドでいつもの様に過ごしていた受付嬢の下に現れたのは、いかつい体躯を持つ二人連れだった。
「あー、もしかして。花嫁候補さんですか?」
「うむ。よく分かったな! その通りだ!」
 何回もやっているので、大体何が目的かは分かっている。図星をつくと、その二人連れの片割れが、ごつい胸板をそらしてみせる。
「世の中には奇特な人がいるな‥‥」
 見た目にも丸分かりなジャイアントと、筋骨隆々とした人間の若者だ。
「失礼な! 確かになりはでかいし、こんなゴツい筋肉だが、立派な乙女だ!」
 そう言うと、人間さんの方が、上着に手をかける。
「わぁーーー! 脱がなくていい!」
 ちらりと小ぶりの胸が見え、受付嬢は慌てて持っていた書物で、大事な部分を隠す。
「んもー! こんな所でストリップなんかやらないで下さいっ!」
「おのれが、人の事をゴツいだのマッチョだの、女性らしくないなんぞと言うからだ!」
 誰もそんな事言ってないのだが、言っても聞く耳は持っちゃあくれねぇだろう。諦めたように深々とため息をつくと、彼女はこう尋ねた。
「で、今回はどんな花嫁修業なんですか?」
「いや、ジャイアントとして嫁にいけるだけのスキルは持っている。問題は似合う花嫁衣裳がない事なのだ‥‥」
 これだけ立派な体躯ともなると、中々に服の調達は面倒だろう。と、悲嘆にくれていた表情の彼女達2人だったが、ややあって、持っていた木の板を、ばんっと受付嬢の前に指し示す。
「ところが、神は我らを見捨てなかった! 実は、このような催し物を見つけてなっ!」
 それには、近くの村で、雪合戦の大会が行われると書いてある。国際と大げさなタイトルがついているのは、各国出身者の参加を促す為だろう。
「肝心なのは、ここの賞品の欄でな‥‥」
 あんぐりと口を開けたままの受付嬢に、今度はジャイアントの女性がこう言った。そこには、優勝賞品として、白いフルオーダードレスを用意してくれるとの事。ちなみに、イメージとして添付された小さな肖像画には、何故かランスくんと思しきエルフの少年が、花嫁衣裳を着ていたり。まぁ、あくまで『イメージです』とはあるのだが。
「これならば、花嫁衣裳としても申し分ない! と言うわけで、我らと共に、あの麗しき花嫁衣装をゲットしてくれる学生を大募集だ!」
 別にギルドに頼まないでも出来そうな事だが、そこはそれ、個人の事情とゆーものだ。あんまり花嫁と関係がなさそうな気もするが、彼ら曰く、『優秀な花嫁とゆーのは、戦略を心得る事も重要!』とゆー事らしい。
「ふふふ。それは良い事を聞いたわね‥‥」
「げ、パープル先生」
 そこへ、また自体をややこしくする要員が現れた。何の事はない。パープル先生である。
「ちょうどいいわ。課題にします。条件は優勝。相手チームには、とても素早い、逃げ回りの達人を混ぜておきます。ルールに乗っ取って、楽しく雪合戦して来て下さいね」
「あああああ〜。まったくもぉ〜〜」
 おかげで、人数が増えてしまった事に、受付嬢は頭を抱えてしまうのだった。

●今回の参加者

 ea2387 エステラ・ナルセス(37歳・♀・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)
 ea4675 ミカエル・クライム(28歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea7984 シャンピニオン・エウレカ(19歳・♀・僧侶・シフール・インドゥーラ国)
 ea8255 メイシア・ラウ(24歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea8785 エルンスト・ヴェディゲン(32歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea8870 マカール・レオーノフ(27歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea8877 エレナ・レイシス(17歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

 会場には、様々な面々が集まっていた。女性ばかりではない。男性も混じっている。ドレスが目当てのものと、彼女達に頼まれた男性陣、単純に雪合戦を楽しみたいものなど‥‥様々なようだ。
「いい? ALL FOR ONE ONE FOR ALL。フォーメーションは、2−5で、例の打ち合わせどおりね」
 『監督』と書かれた鉢巻をつけたミカエル・クライム(ea4675)が、皆にそう言い含めている。
「ところでセンセ。その格好で、動けるの?」
「ん? だって始まる前に体冷やしちゃ、動きづらいと思いますわ。試合の時には脱ぎますわよ」
 エステラ・ナルセス(ea2387)の格好は、いつもの服の上に、防寒用のローブを羽織っている。すぐ脱げるように、前は開けっ放しだったが。
「あのー、試合用の目印を渡しますので、代表の方は、受付の方にお願いしますー」
 と、そこへ聞き覚えのある声が、連絡事項を運んできた。
「ランスくん? いったいどうしたんですか? その格好は‥‥」
 驚くマカール・レオーノフ(ea8870)。見れば、魔法少女のローブらしきものに身を包まされ、しっかりピンクのふりひらエプロンまで装備させられちゃったランスくんが、『係員』の腕章をつけて、お仕事中。
「ほほう。よく似合ってるなー。で、理想の王子様にはめぐり合えたか? エルフの若奥様」
 顔をあわせるなり、にやりと笑ってつつくエルンスト・ヴェディゲン(ea8785)。元々いぢめっこ気質の彼、ランスくんが恥ずかしげにほほを染めるのをみて、挨拶代わりに楽しんでいる模様。
「そんなに苛めないで下さいよ。彼だって、日銭を稼がなきゃいけないんですから」
 と、マカールがそれを庇う。その姿に、今度はシャンピニオン・エウレカ(ea7984)がぷくーっと頬を膨らませていた。
「ちょっとー。誰だよキミ。ボクの王子様の知り合い?」
「いえあの‥‥」
 本質的にはお嬢様なランスくん。おどおどとマカールの後ろに隠れたままだ。
「事情くらい話してやれ。なぁ?」
 エルンストが事態を面白がるような表情でそう言った。援護射撃をうけたシャンピニオン、「そーだそーだ。ボクも仲間に入れろー」なんぞと言いながら、パタパタと飛んでいき、ランスくんの頭に着地して、その綺麗な髪の毛を引っ張っている。降ろそうとしたランス少年、慌てたせいか、すぐ後ろの雪に足を取られて、すッ転んでしまう。
「あーあ、お洋服台無しです」
「ダメじゃない。2人とも、お嬢様いぢめちゃ」
 メイシア・ラウ(ea8255)とミカエルが、いじめっ子を見つけた姐御のように、交互にそう言った。その姿に、マカールがランスくんを助け起こす。
「悪気は無いんですから、そんなに怒らないで下さいよ。ランスくんも、これで顔を拭いて‥‥」
 彼が差し出したのは、手に入れたばかりの上品なハンカチーフ。刺繍の施されたそれに、ランスくんはぶんぶんと首を横に振る。
「で、でも。こんな綺麗なハンカチで‥‥」
 汚しちゃったら大変だと考えたのだろう。だが、マカールはまるで気にかける風でもなく、少年の顔を軽く持ち上げる。
「また、洗えばいいですから。ほら、こちらを向いて‥‥」
「は、はい‥‥」
 照れくさいのか、堪えるような表情を浮かべるランス。その結果、2人の姿は、なんだかとっても、どこぞの記録係が目の色を変えそうな光景となっていた。
「ねー。なんか納得行かないのは、僕だけ?」
「いえ、私もです。どこが花嫁修業なんでしょう」
 入れない雰囲気に、当のシャンピニオンだけではなく、エレナ・レイシス(ea8877)も、納得行かない表情と化したのは、ある意味仕方ないと言うものだろう。

 試合は、前半後半10分づつ、休憩時間5分の、合計25分で行われる。なお、魔法は一試合で二回までだ。
「それでは〜、始めて下さい〜」
 笛の音と共に、開始される試合。
「いい? 相手の動きを良く見て! いくら逃げ回るのが早いっつったって、モノには限度があるわ!」
 声援代わりのミカエルの指示がばーしばしと、飛んでくる。
「やる気満々ですねぇ」
 雪を利用して作ったバリケードの影で、雪玉を作りながら、肩をすくめるエレナ。
「しかし、本当にこれで良いんですか? なんか、隠れてるだけに見えるんですけど‥‥」
 周囲を見回すように、視線をめぐらす彼女。その周囲では、ぶんぶんと飛び回っているシフール達がいる。ルールでは、上空3mまでは飛んでいても良いそうだ。見れば、『ここまでOK』とばかりに、目印の竿が、コートの四隅に立てられている。
「監督殿は、それでも良いと言っていたのだろう?」
「ええ、そうですけど」
 同じ様に雪玉を作っていたエルンストがそう言った。ミカエルの作戦はこうである。
『目線を一箇所に集めて隙間を作り、そこから進撃』
 幾ら素早くとも、相手は避け専門。攻撃には弱いと踏んだらしい。
「囮を盾に攻撃するとかですか。負けるわけにはいかないですし、これ、有効に使えると良いんですけど‥‥」
 壁をぺしぺしと叩きながら、そう言うエレナ。
「使おうと思えば、なんだって有効に使えますよ。幸い、フラッグまでは遠くないですし、ひきつけてくれれば、何とかなると思います」
 目の良いメイシアがそう言う。
「だが、そう上手く行くかな。追いつかれてしまっては、元も子もない」
 エルンストは、雪玉を転がして渡しながらそう言う。確かに、腕力は普通のシフール並だが、スピードが早い分、突っ切って行くのは難しそうだ。
「狙ってきましたよ!」
「むうっ! しかしやらせん! こっちには鉄壁の防御があるのだ!」
 メイシアの警告に、エルンストが『鉄壁』に合図を送る。その言葉どおり、シフールの1人が、彼らのフラッグに向かって特攻してきた。が、そこはバックアップの要のジャイアントが立ちふさがり、見事防ぎきる。
「よし、ナイス! やっぱり、あたしの人員配置は完璧!」
 思わずガッツポーズをしてしまうミカエル。
「敵は思わぬスピードで、フラッグを狙ってくる。防御を欠かすなよ!」
 現場指揮官のエルンスト。ぼやぼやしていられないと気付いたのか、選手達にてきぱきと指示を飛ばしている。やはり、何だかんだ言って、手伝わなくてはいられない性格のようだ。
「足元から来てます! 気を付けて!」
 低い場所から、こっそりと仕掛けてこようとするシフールを見つけて、メイシアが警告を発した。
「ふふふ、チャンス到来! 空を飛べるのは、君たちだけじゃないんだよ! 機動力なら、負けないからっ」
 その言葉に反応するようにして、シャンピニオンが、両手に抱えるように雪玉を持ちながら、限界高度ギリギリまで上昇する。
「そぉれ〜!」
 相手シフールの上から、雪玉を投げ落とす彼女。気配に気付く能力はなかったらしく、おとされたそれは、シフールを直撃し、ぱかりと割れた。
「あ、ごめーん。ちょっと固過ぎたかな?」
「次作る時は、もうちょっと柔らかく握って下さいよ〜」
 相手チームの選手が、涙目になりながら、そう訴える。怪我をさせたら、反則どころの騒ぎではない。気をつけるよーと答えながら、彼女は少し小さめの雪玉を作り出す。
「これなら、いっぱい持てるから、きっと上手くい‥‥げふ」
 が、持ちすぎて重さに潰れてしまっていたり。
「何をやってるんだ、おまいは」
「えぇい、基本はヒット&アウェイ! ボクはめげないのだ!」
 エルンストにつっこまれて、やっぱり1つづつ持つ事にしたシャンピニオン、小ぶりの雪玉を持って、宙へと進撃開始している。
「これのどこが花嫁修業なのかしら‥‥」
「そぉねぇ。あのフラッグが旦那様で、向かってくるアレが、暗殺者だと思えば」
 つまり、暗殺者の集団から、旦那様を守る練習と言いたいらしいエステ。こっちは対照的に、上着も脱いで、すっかり楽しむご様子。
「ほほほ、たまにしか当たらなくても、たまに当たるのなら、価値はあるのよ。下手な弓矢も数うちゃ当たるってね。お食らいなさい!」
 そのエステはと言えば、量を投げれば、当たる確立も増えると考えたらしく、高笑いしながら、むやみやたらに雪玉を投げまくっている。
 だが、その為か。
「あら、玉が切れちゃった!?」
「使いすぎだーー!」
 思わぬピンチを招いてしまう。
「どうしましょう。こうなったら、レジストコールドをかけて、雪玉の補充をー‥‥」
 貴重な一回目を使うか否か。エステが判断に迷った瞬間。
「そこまでーー! 前半戦、終了です!」
 からくも、終了の笛に助けられる事となるのだった。

「えー、白熱した戦いが続いておりますが、ハーフタイムは、シフールと雪ダルマで、和やかな時間をお楽しみ下さい〜☆」
 ランス君がそう言って触れ回っている。コートの中心を見れば、ちびサイズの雪ダルマを作って、他の観客の頭に載せて遊んでいるシャンピニオンの姿があった。
「こらー、そこの女装少年〜。これでも食らえ〜」
「うわぁっ。私、まだ仕事中なんですから、止めて下さいよぉ」
 いや、ランスくんに投下しているあたり、ただの悪戯かもしれない。

 後半戦が始まった時、ちらちらと小雪が舞っていた‥‥。
「この程度の雪、どうと言う事はありませんね。むしろ、火照った体にちょうど良いくらいです」
 ロシア出身のマカール、寒さでばたばたと上着を羽織る相手チーム選手を見て、そう呟いた。
「前半戦で、かなり体力を消耗している筈です。この天候を利用して、一気に攻め込んでしまいましょう」
 上着を脱ぎ捨てる彼。軽装になった彼は、新たに作り上げられた雪玉を、依頼人の女性に渡している。
「空中戦ばかりが脳じゃないんですよ、ね!」
 その恵まれた身体能力を生かし、相手エリアへと走りこんで行く彼。上空を気にしていた相手チームは、瞬く間にセンターラインを越えられてしまう。
「いけない。中央によりすぎよ! もうちょっと、攻撃を集中して!」
 今まで見ていたエステが、警告を発した。見れば、囮を兼ねたオフェンスに集中するあまり、マカールがいるのは、敵エリアのほぼ中央。純白のコートに、彼の金の髪は、目立つ目標となってしまう。
「望む所です。当てられるものなら、当てて下さい!」
 が、囮でもある彼、蛇行しながら、進行を止めようとはしない‥‥!
「えぇい、世話の焼ける‥‥。ほら、行きますわよ!」
 雪玉を投げつけようとする相手バックスへ、フォローの雪玉を投げつけるエステ。その結果‥‥キルマークが1つ増えた。
「1人で突っ込まないの! 基本は1人に集中攻撃。雪玉作ってる方だって、大変なんだからね」
「す、すみません‥‥」
 怒鳴られて、思わず謝ってしまうマカール。と、そんな目立つ行為をしている後ろで、じりじりと壁に隠れて、敵陣営を目指す選手が約1名。
(「今の内に‥‥」)
 メイシアである。忍び歩きで、こっそりと距離を詰める彼女。まさか、自分の持っている隠密スキルが、こんな所で役に立っているとは思わなかったが。
(「あと数m‥‥。ここからなら行けるかもしれないです!」)
 最後のバリケードの内側で、意を決するメイシア。そして、ちらりとマカール達を見ると、リトルフライの魔法を唱える。選手の意識が彼に向いている今ならば、空からフラッグを狙っても、気付かれ難いだろうと。
(「空を飛べるのは、何もシフールさん達ばかりじゃないんですよ!」)
 心の中でそう言いながら、彼女は身体を浮き上がらせた。
「いかん! 目立ちすぎだ!」
 エルンストがそう叫ぶ。しかし、援護に出ようにも、彼のいるバックアップの位置からは、遠すぎる‥‥。
「やっぱり、普通に飛んで行ったんじゃだめね‥‥。メンバー交代!」
 ちょっとばかりピンチに陥るメンバーを見て、ミカエルがそう宣言した。そして、今まで控えにいたエレナを、コートへと押し出す。
「いい。例の作戦で、一気に決めるのよ。幸い、遮蔽物は多いわ」
「わかりました」
 こくんと頷いて、彼女は静々と戦場へと向かう。
「く、このままでは、地上から狙うしかないと言うの‥‥?」
 中々近づけずにいるメイシア。時間はあと僅か。茶葉が開くか開かないかと言った程度だ。
「僕にお任せだよっ♪」
 と、その彼女を見て、シャンピニオンが宙へと舞った。流石に機動力のある彼女、あっという間に追いついてしまう。
「バカもの! それでは狙い撃ちされるだろうが!」
 エルンストがそう叫んだ。この作戦は、上を警戒させない事が肝。前半でしとめた相手チームが、その仕返しとばかりに、雪玉を投げつけてくる。四方八方から投げられたそれは、大して防御手段を持たない彼女を、あーっと言う間に打ち落としてしまっていた。
「く、シャンピニオン倒るるとも、闘魂は死せずーー!」
 そんな事を言いながら、気を失った真似をして、ばったりと雪に突っ込むシャンピニオン。瞬間、空に隙間が出来た。
「今よ! エレナちゃん!」
「はいっ! ファイヤーバード!」
 それこそが、ミカエルが狙っていたチャンス。間を置かずして、2回目の魔法を、エレナが使う。炎に包まれたそれは、鳥と同じ速度。
「いっけぇぇぇ!!」
 滑り込んだそれは、狙いたがわず、相手チームのフラッグを、地面ギリギリで、跳ね上げる様に掠め取る。
「それまで!」
 試合終了の笛が鳴り響いたのは、その直後の事。
 結果、体力不足と、守りに入ったせいか、優勝とは行かなかったが、リトルフライの空中戦法が功を奏し、なんとかベスト4に食い込む事は出来た。おかげで、参加の女性陣分だけは確保出来たのだった‥‥。