【鏡にうつる姿】理解
 |
■シリーズシナリオ
担当:HIRO
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:3 G 96 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月10日〜02月16日
リプレイ公開日:2007年02月17日
|
●オープニング
「その剣・・・・まだ使っていたんだな・・・・」
「兄貴もな。あの時の誓約を・・・・俺は忘れない」
僕は剣を抜いた。そしてアレスもまた。
剣は交わる。二対で一対の剣。それは僕らを象徴するかのような剣で在り続けた、今までずっと・・・・ずっと。
あの日。もう随分と遠くに思えるあの日。僕もまだ騎士を目指していたあの日に二つの剣は空高く交わった。そしてその剣のように僕らの夢も同じだった。
「我エリック・エルスマン!」
「我アレス・エルスマン!」
「我ら兄弟、同じ運命の下、騎士の道を歩むことを!」
まだ、僕らの声は重なっていた。胸に据えた拳も同じものを掴もうとしていた。
僕らの姿は鏡に映したように同じだった。
「俺はあの誓いを忘れていない。そして必ず成し遂げる」
今見るアレスの顔つきは、あの頃のアレスのものではなかった。彼は変わってしまった。いや、僕が変わってしまったのかもしれない。
「父さんも母さんも、お前が騎士になることに反対しちゃいない」
「だが兄貴は反対している」
「そうじゃない! ただ時期尚早だって言ってるんだ! 俺達はまだ未熟だ! もっと腕を磨かなければ!」
「師が既に俺達の腕はそこいらの騎士に匹敵すると太鼓判を押してくれたのは、もう三年も前のことだ」
「実戦は違う!」
敵を討てなかった。あれほど激情に駆られていたのに、あのとき、敵の命を奪うことはできなかった。僕の剣は虚しく大地を叩いたに留まった。それほど、人を斬るには覚悟がいるのだと知った。
「兄貴が来たから、いらない犠牲が出たんだ」
奪われた少女の命。あの光景は目に焼きついている。決して忘れることはないだろう。
あのような悲劇をもう繰り返したくはない。後悔はしたくない。
「俺は慎重に様子を窺っていたんだ。どうすれば、山賊どもを叩けるか。なのに、兄貴は・・・・まあ、過ぎたことを言っても始まらない。次に何ができるかを考えるだけだ。兄貴はもう帰れ」
「ここまで来て引き下がれるか! 僕も戦う!」
僕はそう決意を語ったが、アレスは牙を剥いた。
「敵を斬ることも躊躇うような奴、信じられるか!」
「では・・・・お前は躊躇わず、斬れるのか・・・・?」
僕の問いに答えず、穂波が走る丘陵に僕を残し、アレスはその場を去った。
山賊どもは人質を取っているのだろうが、それはこちらも同じことだった。前回の戦いがまったく無駄だったわけではない。こちらも山賊を捕らえている以上、向こうもこれまでのように我が物顔で山を降りてこられはしない、しばらくは様子を見てくるに違いない・・・・はずだった。
馬の蹄が大地を蹴る音が響いので、僕は村の広場に急いだ。
すでにアレスはそこにいて、山賊の頭バロードと数人の配下たちを睨み返していた。
村長ら村人たちが捕虜の山賊ガルを引き連れてくる。
僕はバロードとガルの顔を見比べて驚いた。同じ顔だ。どうやら彼らもまた双子らしい。
「兄者・・・・! すまねえ」
ガルはうな垂れ、呟いた。
「俺たちには、数人の山賊、そしてお前の弟という捕虜がいる!」
アレスは声高々に言った。相手の威圧的な姿勢に気圧されないようにと。
「これ以上、村に手出しをするようなら、お前らの仲間の命もない!」
「勘違いしているようだな、小僧」
バロードはにやりと笑った。凍えるような冷たい笑みだった。その瞬間、彼は脇に差した短剣を引き抜くと、何を思ったのか、ガル目掛けて投げつけたのだ!
誰もがはっと低く息を呑む中、短剣はガルの喉を射抜いていた。
「あ・・・・兄者・・・・」
うっすらと涙すら瞳に浮かべ、ガルは絶命した。
「捕まって生き恥を晒すような奴は、弟でもなんでもないわ!」
「貴様!」
アレスが怒りに顔を歪ませ、剣に手をかけた。
「待て待て、小僧、話は最後まで聞くもんだ」
そう声を掛けたのは、バロードの後ろに控えていた、金の長髪をたなびかせた端麗な男で、脇には細長く軽そうな小剣を差していた。耳が尖っている。おそらくはハーフエルフ。その青年が続けてこう言った。
「我々は妥協しようというのだよ」
「妥協だと?」
「そう。もしお前らが一生我々に従い、金と農作物を貢ぎ続けるなら、命だけは取らずにやろう。もし反対するなら、皆殺しだ」
「貴様! それのどこが妥協案だ!」
アレスが吼えた。無理もない。そんな条件を認められるわけがない。
「言っておくが、貴様らの手に落ちた愚か者どもは、もはや我らの仲間でもなんでもない。そいつらを当てにしても無駄だとは言っておこうか」
と、金髪の男。
「十日、考える猶予をやろう」
バロードが最後にそれだけ言うと、手綱を取って馬の向きを変えた。
立ち去り際、金髪の男がこちらを見て笑う。
「お前らも双子か。気持ち悪いな。自分と同じ姿をした奴がもう一人いる。許せないことだろう? バロードの行為は正しい」
「戦うしかないだろう!」
アレスの言う通りだった。戦うしかない。これ以上、村を奴らの自由にさせてはいけない。だから恐れずに戦わねばならない。
「あの金髪の男は?」
僕の問いに答えたのは村長だった。最近ぶらりと現れ、山賊の幹部にまでのし上った切れ者だという。名はディードというらしい。その他にも昔からバロードに従っているダイ、ギエルという二人の腕利きがいるらしかった。
「兄貴、これを見ろ」
アレスは地図を広げた。
「俺だって遊んでたわけじゃない。敵のアジトがどこにあるか、そして罠がどこに張られているか探っていたんだ」
地図が示すには、敵のアジトである砦の周辺には落とし穴が至る所に仕掛けられ、嵌ると抜け出せず、金属音がガチャガチャ鳴るので、敵がすぐに駆けつけてくるという。もし罠を上手く掻い潜ることができたとしても、高い塀が聳えている。もちろん正面から攻めれば罠はないが、そのかわり敵はわんさか出てくるだろう。砦は登ることができない険しい山を背にしているので裏からは叩けない。
「とにかく奇襲をかけるにしても、どこから行くかだな」
アレスは言う。
「まだ十日ある。考えよう。何が最良か」
●リプレイ本文
緋色に染まる村がある。悲しみの涙に打たれ、凍える大地がある。
戦うわけ。あの日の誓い。目の前の現実。
「気を張られないよう。無理に貴方自身が『剣』になる必要はないのですから」
メグレズさんは微笑んだ。その言葉が有難いと思う。でも決めたんだ。もう迷わない。剣を強く握る腕が砕けるまで、今は戦うんだ。
一斑:人質救出班 アレス、メアリー・ペドリング(eb3630)
二班:正面突破班 エリック、メグレズ・ファウンテン(eb5451)、陰守森写歩朗(eb7208)、ヴァイン・ケイオード(ea7804)
三班:上空奇襲班 イレクトラ・マグニフィセント(eb5549)、シルヴィア・クロスロード(eb3671)
以上の布陣で敵の砦に乗り込む。壮絶な死闘になるのだろうけど、今、僕の上にある夜空だけはどうしようもなく静かだった。皆、闇に溶けるように森に身を潜めている。ただ一人、シルヴィアさんの月明かりに青褪めた横顔が、夜明けをじっと見据えていた。
僕にはアレスにかける言葉は見つからない。何を言えば、正しかったのか。共に死地に赴く弟に、どう声をかければ正しかったのか。
「さてと・・・・そろそろ時間だ。一丁行くか」
木陰に寝そべっていたヴァインさんが散歩にでも行くような軽い調子で言った。だけど、彼の瞳のどこまでも深い蒼さの中には軽薄な言葉とは似つかない重みがあった。
彼方の地平線から宵明けが迫る。僕ら二班がまず正面から特攻をかけた。敵は突然の奇襲に浮き足立つ。そんな折、グリフォンに乗ったイレクトラさんが背後から盛大に矢を放つ。雨のように降る矢による混乱に乗じ、シルヴィアさんはグリフォンから飛び降り、向こう側から砦の門を開いた。
真っ先に敵陣へ飛び込む森写歩朗さん、敏捷さを活かし、ゴーレムと共に敵を掻き乱していく。彼の刀には予め痺れ薬が仕込んであったため、斬られた敵は麻痺して倒れていった。
ヴァインさんは矢を連射。波寄せる敵に対し、膨大な量の矢を解き放った。僕らも負けてはいられない。メグレズさんは豪剣を振るい、迫り来る敵を薙ぎ払っていく。僕は襲い掛かってくる敵のなるべく急所をついて、一撃で眠らせることに専念した。
なるべく敵の注意をこちらに引く必要があった。人質救出班が気取られずに砦内に侵入するために。
「正面の敵、掃討。行きましょう」
シルヴィアさんが言うと、グリフォンに乗ったイレクトラさんが降りてくる。
「ここからが本番さね。けりはきっちりつけたいね」
僕らは砦の中に雪崩れ込んだ。砦の頂上におそらく頭領はいる。
「それまでにどれだけの数をお相手させられるのか」とヴァインさん。
「進みましょう、道がどれほど険しくても」
シルヴィアさんが気高い瞳を前に向けた。
そう進まなくてはならない。そのために僕らはここにいるのだから。だが、ふと気になる。人質の事。僕は皆にアレス達の様子を見てくると声をかけた。一緒に行こうかと言う森写歩朗さんに大丈夫だと言葉を返し、地下へと向かった。陽動は成功した。地下に敵は残っていないはずだった。
「ぐっ・・・・」
メアリーさんの小さな体が壁に叩きつけられた。だが彼女は立ち上がる。
「この人達だけは護ってみせる・・・・」
地下の寒々しい通路に凍えるような嘲笑が木霊した。
「シフール如きが、見上げたものだ。だが、それもいつまで続くか。徐々に威力を増していく私の魔法、お前がかわせば、後ろの人間共に当たる。私はどちらでも構わんがな」
「貴様!」
僕は剣を抜き、男に斬りかかった。男は咄嗟に反応し、僕の剣を受け流す。壁に灯る仄かな灯明が照らす男の端正な顔、ディードだった。
メアリーさんは息絶え絶えに、口を開いた。
「アレス殿は、この惨状に激昂し、止めるのも聞かずに・・・・一人、敵の首領を討ちに・・・・」
僕はちらりと後ろを振り返った。薄暗い中でも、人質となっていた人達が相当に疲弊しているのが見て取れた。充分な水食料も与えられていなかったのだろう。メアリーさんが言うには、飛び出していったアレスと入れ替わりに、ディードが現れたらしい。
「貴様の相手は僕だ!」
素早く相手の懐に踏み込み、下から上に刃を突き上げた!
完璧な間合いだったはずだ。なのに、ディードは攻撃をかわし、反撃に鋭い突きを返してきた。僕の剣がそれを弾く。
「素晴らしい腕だ。だがお前に私は殺せない」
「何?」
「最初の一撃でお前は私を殺せていた。なのに、できなかったのは、お前は甘さだ。そして・・・・」
ディードの疾風の如き剣先が僕の肩を掠めた。
「二度目のチャンスはない!」
彼が僕に止めを刺そうとした時、大地が揺れ、彼はバランスを崩した。メアリーさんが魔法で助けてくれたのだ。
僕は無我夢中で相手に斬りかかった。その剣は奴の頬を掠めた。
「僕らは負けない!」
「確かにバロードには勝てるかもしれんな」奴は伝う血を舐めた。「だが、それもいい。もう奴に利用価値はない。私も引き時だ」
「何?」
「砦に油が撒いてある。私が火をつければ・・・・ボン、だ」
「貴様!」
「小僧、エリックとか言ったな。お前はまだ強くなる。生きていたら名前は覚えておいてやろう」
言って、奴は背後の岩壁に背を預けた。壁が回転する隠し扉だ。しかし今は奴を追っている場合ではない。僕はメアリーさんに駆け寄った。
「私は大丈夫・・・・人質は私が導く。貴殿は先に行け」
「しかし!」
彼女は明らかに憔悴していた。しかし彼女は言う。
「生きていれば回復は可能だ。今は、私に出来る最善の事をやるしかない。だから貴殿も貴殿にできる事を・・・・」
「わかりました・・・・必ず戻ってきます」
僕は立った。彼女は軽く手を振って僕を見送った。
皆が倒して進んで行ったのだろう、砦中に数え切れない山賊が倒れていた。
三階の広間。そこは既に凄惨な戦場と化していた。何人もの山賊達相手に、皆が奮闘していた。アレスの姿もそこにはあった。
「きりがねえな!」
「気張れ! ここで負けたら、一生物笑いの種さね!」
ヴァインさん、イレクトラさん、必死に矢を放ち続けている。残りの矢数、決して多くはないはずだ。
シルヴィアさんとメグレズさん、互いに背を合わせ、敵を迎撃している。
「背を託す戦友がいるのは、いつでも心強い事です」
槍を振るいながらシルヴィアさんが微笑むと、メグレズさんも肯いた。
「盟友と共に!」
豪腕を用いて敵を薙ぎ払い、活路を開く。その勢いのままに、メグレズさんは頭領を目指した!
「来たぞ、バロード! 覚悟!」
だがその時、轟いた爆音。
「気をつけて! 砦には火が仕掛けられています!」
僕が叫ぶやいなや、天井の一角が崩れ、メグレズさんの足を止めた。
その粉塵の中、飛び出してきた大男ギエルが彼女に襲い掛かる! その斧を止めたのは、シルヴィアさんの槍だった。
「どうやら我らは奴を倒さねば、進めないようですね」
「で、俺達の相手はお前さんというわけかい?」
矢を番え、ヴァインさんは言った。相手は俊敏なダイだ。放たれた矢を寸前で見極め、ヴァインさんに詰め寄るダイのナイフ、森写歩朗さんが受け止めた。
「忍者の端くれ、俊敏さで引くわけには参りませんのでね」
イレクトラさんの矢が雑兵を的確に仕留めていく。アレスはそんな中、無謀にもバロードに突っ込んだ。
「一人で! 兄弟共々無茶をする!」
彼女はアレスの援護に回ろうとしたが、雑兵に阻まれた。
僕がアレスの暴走を止めなければ! しかし、こうも敵に取り囲まれては・・・・!
ヴァインさんの矢がダイの足を射抜いた!
「覚悟!」
瞬間、森写歩朗さんの刀がダイの腹を割っていた。
その時、また爆音が響き、天井が派手に崩れた!
「危ない!」
岩の下敷きになりかけたメグレズさんを体当たりで押し出すシルヴィアさんの背をギエルが捉えた! 彼女の鮮血が飛散する!
「これで終わりだあ!」
「やらせるかあ!」
メグレズさんの渾身の一撃が、奴の腹部を砕く!
「大丈夫ですか!」
「私は大丈夫・・・・それより、アレス殿を」
砦はもう火の海。天井も地面も崩れゆく中、アレスの剣とバロードの剣が激しく克ち合って、凄絶な金属音を木霊させていた。二人の腕は互角、勝負は拮抗する。
「うおおお!」
横一閃、バロードの剣を受け止めたアレス。が、身代わりとなるように剣が真っ二つに折れた。
「剣の差よ! 終わりだあ!」
天高く突き上げられた凶刃!
僕は雑兵を突き放し、アレスへと向かった。
だが間に合わない!・・・・その時だ、バロードの体が魔法の力に吹き飛んだ!
重症の身でかけつけたメアリーさんが振り絞った魔力だった。
「アレス、受け取れ!」
僕は自分の手の中にある剣を投げた。アレスに託そうと。彼は受け取った。
そして咆哮と共に突っ込んだ!
剣は・・・・バロードの胸を貫いていた。アレスの手に深紅の鮮血が伝う。
爆音がまた一つ木霊する。
「やばいぜ、こりゃ! 崩れちまう!」と、ヴァインさん。負傷者を支えた。
砦からの脱出劇。
命からがら逃げ延びた後、深紅の爆炎が山賊の黒い野望を燃やし尽くしていた。
「大丈夫ですか、シルヴィアさん?」
白い包帯に腕を釣られている。しかし、彼女はにこりと微笑んだ。
「大した事はありません。それより・・・・」
メアリーさんは長らく眠っていたが、ようやく薄く目を開いた。僕の顔をまっすぐに見据え、こう言う。
「人は弱きもの・・・・些細な誘惑で転落もする。そうならぬよう、くれぐれもお頼み申す。アレス殿にもそう伝えて欲しい・・・・」
両親の墓の前にアレスはいた。
「悪であったとはいえ、俺は人を殺めた・・・・」
「ああ。僕にはその勇気はなかった」
剣をアレスに差し出した。
「折れたのはお前の剣じゃない。僕の剣だ。僕があの日に誓った心が折れたんだ」
「兄貴・・・・」
「僕はこんな風にしか生きれない。だけど、お前は違うんだ」
アレスは僕の剣を受け取った。
僕は笑って肯いた。夕日がもう一度沈もうとしていた。