I love‥‥

■シリーズシナリオ


担当:本田光一

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月20日〜06月25日

リプレイ公開日:2007年06月25日

●オープニング

●メイの国
 メイの国は大陸東部に広大な国土を持つ国である。
 サミアド砂漠やシーハリオンの丘がある北西部は乾燥した砂漠地帯が広がっているのだが、決して国土全体にも同じ様な乾燥地帯が広がっているわけではない。広大な国土を走る大河ではゴーレムシップだけでなく、帆船や手こぎの船が上下する姿を見ることが出来る、緩やかな流れをたたえている。
 その大河の両岸には、緑豊かな農耕地帯と木々が茂る姿を見ることが出来、放牧の家畜達が草をはむ姿が彼方此方で切り取られた絵画のようにある。
 そう、メイの国は広大で豊かな土地を有する領地を持っているのだ。
 広大な土地と、大河。
 大地の恵みを享受するのは、そこに生きる人間達だけではない。生きとし生けるもの、全てが精霊と竜の加護の元に、恵みを受けるのだ。
 だが、そんな豊かな国にも、静かで暖かい暮らしばかりが有るわけではない。
 日常生活の中に、ついぞ現れることのない筈の、冷たく、悲しい事件が起きたのは、ステライド領から少し離れたセルナー領地内の事だった。
「パン屋のマルスが見たんだって。黒装束の男達だってさ」
「可哀想に、こないだ羊が子供を生んだって知らせてきてくれたばかりだったんだよ」
 おかみ達の噂が流れる井戸端で、聞こえてくる噂話に耳を傾ければ、羊飼いの若夫婦達が切り刻まれていたのだという。
「でもさ、あの子ってお腹が大きくなるにつれて……」
「そうそう、旦那の方も羊飼いだけじゃ喰えないからって最近じゃ渡し船の手伝いにまで行っていてさ……」
「でも、普通あんな殺され方するかねぇ? 物盗りだったら、あそこの財産なんて羊くらいだって知ってるだろうにねぇ?」
「盗っとが馬鹿だったんじゃないかい?」
 口さがない噂も、尾鰭背鰭の生えてくるような、田舎には珍しい殺人事件。
 犯人は誰とも知れず、村の警備役達も、街の衛士に連絡を取って数日の間、村の見張りに就くという作業を行ったくらいだった。
 それで終わる筈だったのだが……事件は意外な様相を露呈することになる。

●ギルドの男
 ギルドの男はマスターから詳しい話を聞いて二、三言ばかり応対をすると頷いて丸めた羊皮紙を手に壁まで大股で歩いて来た。
「さて。ちょっと急ぎの仕事やで!」
 パンパンと、両手を叩いて注目を集めた男が壁に貼ったばかりの依頼を指して続ける。
「場所はセルナー領地の宿場町。依頼は宿場町から下流に少し行ったコトの村で起きた殺人事件の下手人らしい黒装束一味を捕まえること、若しくはその情報を持って帰ることや」
「えらく、依頼の成功の度合いが違うんだな?」
 尋ねられた男は実はなとギルドマスターの方を親指で指して肩を竦める。
「目的地は二つ有るんや。宿場町は二つあって、村のある川岸に港のある宿場町というより港のある町のティカラ、対岸から少し行った先に宿場町のオルタ。頼むのは両方やけど、わいが頼むパーティと、店長が依頼するパーティで相談してどちらか一方に行って貰う手だてなんや」
 手を挙げ、読んでいた羊皮紙から顔を上げた冒険者がマスターの側を顎で示して尋ねる。
「つまり、あちらとこちらで二手に別れるが、行った先によっては潜伏していない可能性があると?」
「ま、ぶっちゃけそう言う話や。こっちも依頼されたは良いけどな、予算の都合というモノもあるし、ゴーレムシップを雇う時間もあるんでな」
 川を上るだけでなく、広い川を横切るだけの時間と労力をゴーレムシップで軽減しようとすれば、どうしても経費がかさむというものだ。
「……成る程」
 判ったようで、少し切なくなる冒険者達に、男は依頼人の顔に戻って締める。
「相手は渡しの手伝いで船を出していた羊飼いの若夫婦を問答無用でバッサリやれる連中や。街の外から流れてきた奴らと言うだけでも十分やろうけど、いつ同じ事件が起きるかも知れんし、何故ただの羊飼い夫婦が殺されないかんかったのかも判らんさかい、その辺を探る必要があるんや。時間との勝負になるかも知れんけど、相手の生死は問わん。出来れば死んだもんの魂が浮かばれるように、真実を暴いて欲しいっちゅうところや」
 ええな? と、結んで男は冒険者達がどちらの街に行くか決めて欲しいと告げるのであった。

●今回の参加者

 ea0479 サリトリア・エリシオン(37歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea1702 ランディ・マクファーレン(28歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea4868 マグナ・アドミラル(69歳・♂・ファイター・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea5243 バルディッシュ・ドゴール(37歳・♂・ファイター・ジャイアント・イギリス王国)
 ea9085 エルトウィン・クリストフ(22歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb3445 アタナシウス・コムネノス(34歳・♂・クレリック・人間・ビザンチン帝国)
 eb8162 シャノン・マルパス(23歳・♀・鎧騎士・エルフ・メイの国)
 eb8475 フィオレンティナ・ロンロン(29歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb8490 柴原 歩美(38歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb8542 エル・カルデア(28歳・♂・ウィザード・エルフ・メイの国)

●リプレイ本文


●港町
 港町と言う程に港が発達している訳ではなく、然りとて、渡しに乗る為に港町に行くには距離がある場所。地域住民には生活に用いられているが、旅人が宿を取り、川を渡るには用いられない。
 それがティカラだ。
 ステライド領地からマイの海を経由して、ティカラに降り立った冒険者達を乗せて来たゴーレムシップは次の目的地を目指して出航していった。
「‥‥いよっし!」
「‥‥?」
 フィオレンティナ・ロンロン(eb8475)が気合いを入れているのを目撃したランディ・マクファーレン(ea1702)だったが、それに気がついたフィオレンティナは、アハハと照れ笑いでその場を後にする。
「はいはい〜聞き込みに行きましょう」
 フィオレンティナの背を押す様にしてエルトウィン・クリストフ(ea9085)がシャノン・マルパス(eb8162)と共に船着場近辺で働いて居た人達に聞き込みを行おうと歩き出した。
「おじさん達。この近くで羊飼いさんが亡くなったって聞いたこと無い?」
「ん? ジョセフのことかい? ‥‥」
 エルトウィンの掛けた声に振り向いた男が、彼女の耳を見て眉根を寄せる。
「‥‥あちゃ」
 マントを被っていたが、腰を下ろして作業をしていた男から見上げる形になり、ハーフエルフ特有の耳を見られてしまったのだと気がついた時には、エルトウィンは泣く泣くシャノンに事情聴取を変わる以外になかった。
「‥‥以前と比べて変わった所はないかな? 具体的な積荷の話ではなく、重さ、大きさ、匂い‥‥感覚的な話で良い」
「そうですね‥‥いや、何か変わったかなぁ?」
 考え込んでいた船頭達が逆にお前はどうだと尋ね合う光景が見られて、どうやら荷物の変化は彼らの中ではない様子に見受けられた。
「では、事件の直前、羊飼いさん‥‥羊飼いのことを気にしていた人は居ないかな? 羊飼いの住んでる場所、名前等を聞いてた人が居ないかな? ‥‥」
「二人羽織‥‥それとも腹話術と言ったところかしらねぇ?」
「?」
 エルトウィンにつられて口調を訂正するシャノンの様子を見て、柴原歩美(eb8490)がそう評するのに、立っているだけでも目立つマグナ・アドミラル(ea4868)が首を傾げていた。
「‥‥ふむ」
 ぐるりを辺りを見渡し、彼のことを物珍しそうに見上げていた船頭に酒場はないかなと尋ねると、ニッと笑って船頭はジョッキを傾ける仕草で言う。
「あんたもイける口かい? 昼間から飲んでると母ちゃんに怒られるがな、『葦の葉陰亭』なら良い酒が飲めるぜ」
「そうか。良い酒があるのだな」
 マグナも笑い返す。
 酒飲み同士にしか通じない機微があるらしい二人を他所に、船頭達は朗らかな笑い声を上げて口々に話し出した。
「衛視の連中と、お嬢さん達位だよ。ジョセフん家の事を聞いてきたのはな。もしかして、ほれ、あの‥‥会合とか組織とか?」
「‥‥冒険者ギルドのことかな?」
「そうそれだよ! 笑うなよ。喉のココん所まで来ていたんだよ!」
 手持ち無沙汰で立っていたサリトリア・エリシオン(ea0479)が、船頭が何を言いたいのか先取りして言ってやると、男が慌てて周りで笑いだした船頭達にばつが悪いという表情で反論する。
「遠路はるばるご苦労様だねぇ。で、犯人は捕まったのかい?」
「いや、今からで、その為に話を聞いているのだがな‥‥」
 少なくとも、羊飼いのジョセフはこの場所で渡しの仕事をしていた様子だがと、内心でメモを取ったサリトリアは他に尋ねて回るべき場所を考えながら続けた。
「ジョセフ夫妻が殺された前後の期間に、外部から来た見かけぬ人間、旅人の一行等は知らないかな?」
「それと、貴殿等に良く羊飼いのことを知った者、事件について知っている者は居ないのかな?」
 サリトリア、シャノンの問いに首を傾げる船頭達。
「どうですかね? 奴は毎日ここに来ていた訳じゃないですしね」
 何時、何所で誰と羊飼いが接触したのかを割り出そうと考えていたのだが、船頭達の会話からして羊飼いだった夫婦が港ティカラで働く機会は余り多くなかった様子だ。
「変なものは目立つし、訳もあるさね。船頭さん達の様子だと、余り見かけないからこそ、その夫婦の挙動はよく知られていたんじゃないかねぇ?」
「非日常の存在に対しての、注意力とでもいったものですか?」
 柴原歩美(eb8490)の呟きにエル・カルデア(eb8542)が尋ねると、歩美はそうそうと会話しながら自分の中でも筋道を立てて考え込んでいる様子だ。
「切り刻まれて? 渡しの仕事ン時にヤバイ事を見聞きして口封じ‥‥としても、其処までするにゃ理由がありそうだ」
「不謹慎ですが、普通に殺していれば私達が派遣されはしない‥‥冒険者が出て来るとなると、町の方に不安が募るかも知れません‥‥。注意して、調査しましょう」
 それが相手の企みなのかも知れないと、エルが頷いている内に、衛視の詰め所に行くかそれぞれが別行動になるか相談し、別れることになった。
「俺は、少し距離があるらしい村に行こうと思う」
 被害者宅の調査をしたいと申し出たバルディッシュ・ドゴール(ea5243)に、フィオレンティナが私もと手を挙げる。
 冒険者達は後で集合する宿を決めて、各々が調査をする為に別れていくのだった。

●羊飼い
 羊飼いのジョナサン夫妻の墓は、村外れ直ぐ側にある家屋横にあった。
「‥‥家を荒らされた形式はないな‥‥」
「犯人達はわざわざこの村に来て、若夫婦を殺していったのかな?」
 まだ生活臭の残る家屋の中でフィオレンティナは殺された夫妻がどの様な人物であったのかを考えていた。
「さぁな」
「犯人達に渡し船を出すよう頼まれたけど断ったとか?」
「判らないな。物取りの犯行に見せている様子だが、二人はこの家の外で殺されてから持ち込まれたのだろう。聞いた限りでは、な‥‥」
 井戸端会議の犠牲となったバルディッシュが恨めしそうに見下ろすのに、エヘと笑って誤魔化そうとするフィオレンティナ。彼女は中年女性のパワーをよく知っているので、早々に退散していたのだ。
「‥‥では、何故殺されたのか。殺される必要があったのか‥‥」
「どうかな? 取り敢えず戻ってみんなと話してみないとね」
 まだまだ元気なままのフィオレンティナが、帰途に付こうとする。
「‥‥まさか、巻き込まれて口封じに処分された間者ではないだろうな‥‥」
「バルディッシュさん?」
 まだ考え込んでいたバルディッシュを見上げて早くと促したフィオレンティナに、不穏なものを感じて仕方がないジャイアントの戦士は不承不承後を追うのだった。

●衛視
 衛視の詰め所に向かう冒険者達。
 彼らは、船頭達から近くに町の衛視の詰め所が有ることを聞いて、衛視達の調査した事件の資料について詳しく尋ねてみることにした。
「”女”鎧騎士のシャノン・マルパスだ。宜しく頼む」
 鎧騎士達が、扉の無い入り口から中に居る人らしき影に声を掛けていた。
「‥‥(一寸、悲しいかもな)」
 シャノンの横で、どう反応して良いのか分からないサリトリアが表情を変えずに直立していた。
「ギルドの方ですかね?」
「‥‥はい。こちらでは目立ちますので、中でお話しをお伺いできるでしょうか?」
 祝福の宣誓を口内で済ませてから、アタナシウス・コムネノス(eb3445)が周囲の人の目を気にする様に言うと、衛視はようやく気がついたという表情で中に冒険者達を案内した。
「連絡いただいていましたので、こちらで調査した内容は全て纏めておいた筈ですが‥‥」
 戸口に近い側に並んで、衛視達から事情聴取をする為に身分を語った冒険者達に、衛視の一人が進み出て羊皮紙に記された内容を読み上げる。
「死亡したのは、隣村で羊飼いを生業とするジョセフ夫妻。始めの発見者はパン屋ですが、これは皆さんの方にもお話しは行っていると思います」
「ええ。だから他にも目撃者が居るかなと思ったんだけど‥‥」
 衛視には見えない様に、マントと髪で耳を隠してエルトウィンが上目遣いに尋ね返した。
「さぁ? それは聞いてませんが。死体は荼毘に伏されて、今は家の傍の丘に夫婦二人静かに眠っています」
「お子さんが居たかと?」
「ああ。確かにそう聞いています」
 シャノンの問いに、羊皮紙を指差しながら返す衛視。
「来月だか再来月だったそうですね」
「では、他に詳しい情報等は無いのですか?」
 ギルドに回されてきていた情報と余り変わらない現地の調査報告に、落胆の色を隠せないシャノンが続けるのだが、衛視も申し訳ないですがと返すばかりだった。
「後は各自の足で調べる以外にないという感じだな」
「その様子ですね」
 人通りの大居場所へと、勢い込むサリトリア達に対して、アタナシウスは策を練らないといけませんねと呟きながら向かうのだった。

●酒場
 酒場に出てきたのは、場所を船頭に聞いてたマグナと歩美、そしてランディとエルトウィン達だった。
「ほら、うっかりパン屋さんに見られたって話だから、もう一人位うっかり見られていても良いんじゃないかな?」
「そう言うもんかね」
 エルトウィンの楽観的なと言うより、ポジティブな口調に歩美も少し救われる感である。だが、歩美自身はマグナが酒場の男達と交わす会話の中にも、何かヒントがないかと耳をそばだてていた。
 そんな歩美達の視界の端には、ランディが良く通る声で酒場の客達と談話しているのが見える。
「‥‥特に、奥さんが妊娠してたってのが気になるよ‥‥」
「ん? そうなんだ?」
 こっちまで聞こえる声だなと、酒場の対角に位置するランディの声が聞こえてくるのを聞きながらマントの姿を余り目立たない様に一工夫しているエルトウィンである。
「嫌な話だけどね、地球にゃ昔『胎児は万能の妙薬』てェ下らない迷信があってね。実は目的が胎児で‥‥ってのは考え過ぎと思いたいね」
 見る見るエルトウィンの顔色が蒼くなるのを見て、歩美は話を止めた。
「もっとも、単に勢いがついちまったとか、死ぬまでの加減が分からなかったって事で、犯人は人殺しに慣れてないって事かねぇ?」
「そ、そうだね、うん、きっとそう」
 そうあって欲しいという現れなのだろう。
 懸命に歩美の言葉を肯定するエルトウィン。
「そうか、特に変わった風じゃなかったって話なんだな」
「まぁな。赤ん坊が出来るってんで、少しはしゃぎ気味だったとは思うが‥‥それは俺っち達でも、あった話だしな」
「羊飼いの暇な時期だけ渡しの手伝いか‥‥参考になった」
「また飲みに来いよ」
 酒飲み同士の話題で、マグナの欲しかった情報はおよそ集まっていた。
「行きずりの犯行、って線なのかな?」
「今のところは、そう考えても良いだろうな‥‥」
 子どもの死体については、衛視達の記録には残っていなかった。葬儀には火葬が用いられる地域であり、死体の損傷が激しかったので母体内部までは詳しく調べなかったのだろう。胎児諸共、荼毘に伏されたのだろうという話だった。
「あ〜でも。罠に掛かっちゃったみたいだよ、あたし達」
 マントの下からニッコリ笑顔を覗かせるエルトウィンに言われ、歩美はマグナの身体を陰にして路地の様子を探った。
「ん‥‥?」
「慣れない大声も役に立ったという訳だな」
 動いてくれて助かったと、宿に向かうランディが薄く笑う。
「つまり、そう言う話なんだな?」
 荒事の予感に、『助かる』とマグナが髭の下の唇を歪ませるのであった。

●市場
 市場を闊歩する長身の男、バルディッシュ。彼と共に、市場に出入りする荷馬車の乗り手達と話をしているサリトリアとエル、シフール便を頼みに来たアタナシウスだった。
「向かう先が上流の王都だとすると、そこへ向かうルートで網を張る必要がある。だが、そう際だった動きも無し‥‥」
「では、その旨をシフール便で‥‥」
「少し待て」
 バルディッシュがアタナシウスの動きを牽制する様に腕を伸ばした。
「‥‥?」
「‥‥お客様だ」
 少し間を置いて、市場の喧噪の中からバルディッシュが僅かな殺気を感じた。
「!!」
「?!」
 二人を先行させて、バルディッシュはマグナ達が向かった先を思い出す様に町を歩き出すのだった。

●陰
 陰達が騒ぎ出した。
「引け!」
「させない!」
 一瞬の間を置いて、建物の陰に隠れていた男達にランディとマグナの拳が叩き込まれていく。
 エルの指示でバイブレーションセンサーによる不穏な追跡者の配置を聞いた前衛達の反撃は素早かった。
「捕まえられないなら!」
「ん〜やっぱり、部位狙い位しないと駄目かな?」
 歩美の後方からの指示で回り込んで行くフィオレンティナとエルトウィン。二人の姿を見て与しやすいと考えたのか、走る速度が上がった男の前に、家屋の壁を乗り越えてきた巨体が、城砦の如くに立ち塞がった。
「何処へ行く。俺達に用があるのだろう? ここから先へは一歩も行かさん」
 バルディッシュの威嚇に凍てついた笑みを乗せて、引きつる男達が遂に刀を抜く。
「!」
 周囲にいた町人が散り散りに逃げ出すのを契機に、冒険者達も各々の武器を抜いた。
「毒が塗られている。気をつけろ」
「!」
 サリトリアの指摘に相手の抜いた刃を見れば、刀の刀身は光を反射していないのに、塗られた何かが地面に滴下していくのが判る。
「姑息な手を!」
 精霊魔法の呪文を紡ぎ上げるエルの前に、護衛の形にエルトウィンとシャノンが走り込む。
「街中で、刃を抜いたのだ。死んでも文句はあるまい?」
 無手のままでも充分に取り押さえる余裕はあったのだが、相手が先に得物に手を掛けた以上、冒険者達に手加減をする謂われはない。
 刃煌めく間に、アグラベイションで拘束された者、石畳の真上にマグナの頭上から垂直に叩き落とされた男を見た瞬間に、相手方の戦意は既に喪失していたのだった。

●無事
「無事に解決したとは言い難いのですが‥‥出来れば、この者達の背後にいる存在について、調査したいのだが」
「勿論お願いします。町を危険にさらしたままには出来ませんから」
 衛視達も是非にと冒険者達に頷き、尋問の結果は必ずお教えしますと約束してくれたのだった。
「解決、と言いたかったのだがな‥‥」
「逃げられた、な」
 マグナとランディが眉を寄せる。
 一瞬、何者かの気配を感じて路地に走り込んだのだが、相手も彼らの様子を探っていたのか、路地には既に猫一匹居なかった。
「だが、これで夫婦も浮かばれるでしょう。神よ、貴方の許に旅立った夫婦に祝福を‥‥」
 アタナシウスが言う事が尤もだと、冒険者達は仲間に見捨てられた形で捕らえられた盗賊崩れの暗殺者集団を衛視に引き渡し、帰路に就いた。
「あの毒は‥‥」
 エルが眉を寄せて考え込むのに、歩美はお疲れさまと肩を叩く。
「今は帰りましょ。考えなければいけない事は山ほどあるし‥‥」
「ええ‥‥」
 何かが記憶の片隅に引っかかっている。
 そんな気がするエルだった。

【To be continued】