乱世に蠢く
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■シリーズシナリオ
担当:本田光一
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月06日〜07月11日
リプレイ公開日:2007年07月15日
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●オープニング
●乱世に蠢く
乱世に蠢く影がある。
セルナー領に向かった冒険者達の活躍で、羊飼いの夫妻を殺害した一団が捕らえられた。
死体を切り裂くという殺害状況に、謎は深まっていったのだが、その動きにどんな意味があるのか、衛視達にその調査を託してその場を辞した冒険者達だったが‥‥。
事件は、思いがけず複雑な状況を呈してきたのだった。
●依頼
依頼の張られた壁を見つめていた冒険者に、ギルドの男が背中から声を掛けてきた。
「あーこないだのアレやけどな‥‥」
カウンターを指さしてあちらにと言う意味を見せた男に、冒険者は頷いて歩き出した。
「悪いけどな、この前の盗賊もどき‥‥一人やられたらしいわ‥‥衛視の人間ごと、な」
呟くよりも小さな言葉で伝えられる驚愕の事実に、冒険者は声を失った。
「衛視による移送の最中に、事件は起きた様子や。取り調べている間に余罪がワンサカ出てきて、ティカラだけでなく、近くの大きな町で全部ゲロさせようって言う話になったんやけどな‥‥それが裏目に出たらしいわ」
移送中に起きた衛視諸共の事故による盗賊の死亡‥‥だと思われていたのだが、落石事故による死亡だけではあり得ない、鋭利な刃物によって抉られた傷跡がかろうじて発見されたのだ。
「正直、調査していた連中の腕がもう少しあかんものやったら‥‥落石による圧壊の程度が酷かったら、発見されずに済んだかも知れへん、っちゅう程度の微かな傷だったさかい、派遣する人間も先の事件について知ってるモンを優先にっちゅう話や」
今回の依頼は、困難が予想される残った盗賊の移送の護衛任務。それも、現状では途中の経路にある川と、先の落石事件に似た渓谷を行くことになる経路がどうしてもあるという。
「‥‥先に襲撃される場所が判っていると言うことは良い話やけどな‥‥目立ちすぎるこの事件、裏があるやろうと、ようやく重い腰挙げたところがあってな‥‥今回、裏から手助けが入ることになったんや。そっちの方は蛇の道は蛇にって事で、襲撃者の追跡をやってくれる手筈になっとるけど‥‥仕掛けられた罠や襲撃そのものには対応出来ない可能性が高い言うて来てるわ」
地図を与えられた冒険者達から、経路の変更を口にされた時、男は眉を寄せて首を横に振った。
「そらあかんわ。何時、何処から襲われるか判らない代物を相手にする、しかも盗賊を護る為に町を危険にさらせないって、ティカラの町からは放逐同然の形で出されてしまうらしいわ」
移動距離や、盗賊の受け入れ先の都合もあって、移動経路の変更は無理だという。
「世知辛い世の中やけどな、所詮、悪さしてきた盗賊に掛ける情けはない、っちゅう話かもしれへんなぁ‥‥」
囮として用いて、謎の集団を捕らえることを目的としているのかも知れんなと、男は冒険者達に告げた。
「でもな、ギルドからの正式な依頼は護送の成功や。そこは良く覚えといてや」
受けた依頼は必ず遂行する。
それがギルドなのだからと、自嘲気味に男は冒険者達に託すのだった。
●リプレイ本文
●砂漠
砂漠地帯には低い潅木が茂る間を抜けて、オアシス伝いに伸びる街道がある。
大河から少し内陸部に入り、乾燥地帯を抜けるルートで、先の惨殺事件の首謀者達を輸送するのには訳があった。
「そうか、判ったと思う」
嵯峨野空(ec1152)が、先の事件解決に加わっていた柴原歩美(eb8490)からあらましを聞いて、だがと言葉を濁す。
「護るべき対象が犯罪者、というのは気にはならないが、それより惨殺事件の調査が全く進んでないのが気にかかるな。隠さなければいけない事件の真相とは、一体ナンなんだ?」
「追っ手を掛けるような真似って言う話、だよね‥‥」
馬車に揺られていた歩美がフムと考え込む。
「若夫婦を襲ったのは、今回護送する連中ってまでは判ったらしいけどね。何にせよ、犯人が人殺しの素人って線は消えちまった訳で、やっぱり切り刻んだのは何か意味があるのかねぇ?」
聞いてみようかと、首を巡らせて馬車の中の檻を示してみせる歩美に、バルディッシュ・ドゴール(ea5243)より借り受けた馬に跨っている空は警護中だからと丁重に辞した。
勿論、今のところと言う断りを入れるのも忘れない。
空も興味はあったのだが、馬車の上空と横合い、衛視と盗賊の動きを警戒すると、自ら買って出た仕事を放り出すわけにもいかない。
相手が毒を使う暗殺集団ならば、どこから不意に現れても不思議じゃないというのが考えにあったからだが、警戒はし過ぎて困ることは無いだろう。
「んじゃ、聞ける事ァ聞き出しとこうか。きっちり護って欲しけりゃって脅しゃ口も軽くなるだろうさ」
「そうだな。随分と厄介な事件に化けたこの事件、聞けるだけは聞いておきたいものだ」
歩美に同意するバルディッシュは、護送用の馬車に座した御者達を見て少し考え込む様子になる。
先程、虜囚には先に護送された者の末路を端的に語ったのだが、それを盗み聴いたのだろう、少し前から浮き足立って見えて仕方が無いのだ。まだ、修羅場を経験している虜囚の方が、緊急時には役立つかもしれない。
「何しろ、生きることに掛けては貪欲な連中だからな‥‥」
何かに怯えた様子になったのは虜囚も同じだが、誰に命じられたかということに関してだけは口を割らない――知らされてないと見られた。
協力に関しては歩美も言っているのだが、バルディッシュらが恩赦を言い出すことは限りなくありえないと言う状況のはずだが、御者達の余りの不慣れな姿には、街道に出る前に聞いた話を成る程と納得させるに十分だった。
「メイの闇を暴く為、小癪な盗賊達だが、その命守らねば為らぬ」
と、マグナ・アドミラル(ea4868)がグリフォンに跨る前に言った言葉をバルディッシュは思い出していた。
「逃げ足には自信あるんだけど、今回は自分だけ逃げるワケにはいかないのよね」
やだなぁと、虜囚を見て少し頬を膨らませるのはエルトウィン・クリストフ(ea9085)だった。勿論、彼らを放置して逃げるとまでは断言する筈も無い。
「襲われるのは判ってるんだから、精々、隙を見せないようにしないとね」
割と得意な方だと自慢していた哨戒任務に、彼女は就いていた。
「期待、出来ますでしょうか?」
「判らん。後は神のみぞお知りになられる事だ」
白の神を奉じるアタナシウス・コムネノス(eb3445)とサリトリア・エリシオン(ea0479)の会話には期待と同時にある種の達観とがあった。既に虜囚達に話された仲間の末路と今後の身の振り方についての会話が持たれて、虜囚達にも彼らなりに考えることがあったように思われる。
だが、本当に決めるのは彼らの心の奥にある、本心‥‥それ以外の何者でもないからだ。
「あ、そうそう。あたし、ビザンチンの珍種・山エルフだから、そこのところ宜しくね〜」
ヒラヒラと、エルトウィンが馬車の御者と虜囚に向けて手を振っている。
「‥‥『それ』はどうかと思うのだが」
何度か依頼を共にしたシャノン・マルパス(eb8162)は、エルトウィンは所謂天界人であることを納得した上で、内心頭を抱え込みたくなっていた。
事前に進行予定の経路図を描いてもらったのだが、地図という物だけで周辺の地形を立体的に知ることは難しく、頭上のマグナや遠目の利くという触れ込みのエルトウィンの情報を加味しながら、敵の先の先を予測出来るようにと余念が無い。
「渡航時以外だと‥‥此処と其処が危険だな‥‥?」
「地形が知れませんが、この周囲では落石や待ち伏せに備え、バイブレーションセンサーで、襲撃を警戒します」
エル・カルデア(eb8542)も経路の話題に積極的に意見を出していた。
今回の敵となる存在の襲撃、その準備を考えていけば、こちらのルートが限られている事は相手に利することはあっても、守る側にとっては思わぬ危険が待っている可能性が高いと判る以外には余り利する点が見受けられなかった。
だからこそ、エルの様に自信を持って対応できる場面、場面があることを先に言われていることで皆も安堵できる要素が増えているのは明らかな様子だった。
「渡航途中は何とかなったのだがな‥‥」
「気が気ではない、という表情でしたが、無事に渡り終えた訳ですから」
「ああ」
ため息を吐くバルディッシュに、アナスタシウスが戦士達の緊張を解す為に軽い会話を続けようとした、その時。
「上を!」
「気をつけろ!」
エルと、頭上のマグナからの声が重なる。
「宜しくエル!」
「ええ」
エルに落石への対応を言って、フィオレンティナ・ロンロン(eb8475)が仲間を討ちに来る奴なんてと、怒りも含まれた口調で身構える。
「こっちの世界じゃ、落石って流行ってるのかな‥‥」
「流行とか、そういうものではない‥‥」
エルトウィンが落石後の襲撃にも備えながら漏らす言葉にシャノンは律儀に答えてから黒曜石の短剣を鞘走らせた。
「行きます!」
エルの気合で落下しかけた石の中で、人が二人分は入れそうな空間にあった岩塊が、地面に叩きつけられるのに逆らうように飛び上がっていく。
「精霊魔法だ。そのまま行け!」
崖の上で、慌てた様子の男達を見下ろしていたマグナの眉がはねる。
「よし、崩れたところに‥‥ん!?」
「‥‥今、確かに」
「何?」
「あれって‥‥野盗崩れじゃないよ?」
バルディッシュ、サリトリアが顔を見合わせるのと同じ様に、シャノン、フィオレンティナも同じ様に相手の動き、統率の取れた動きに気がついた。
「お前達、話は覚えてるだろうな!」
馬車の上の虜囚に向けて、空が一喝するのだが、幌の向こう側でも充分に判る襲撃の音に、盗賊達は青い顔で居る。
「‥‥こんな奴らでも、護衛対象だしね」
「そういう事よね‥‥」
空に同意した様子で歩美の声がするのだが、彼女の表情は晴れていない。
「?」
戦闘開始の時だからだと、強引に割り切って、空は馬車の横に位置する。
「貴様達、何処の手の者だ!」
姿は野盗崩れの戦士達だが、サリトリアにしてみれば騎士団在籍時に訓練であった姿を思い出させる統率された動きに心当たりがあったのだ。
隣で戦うバルディッシュ、フィオレンティナとシャノン達にリカバーで援護しつつ、相手の動きを見る。エルの精霊魔法での一瞬の逆転が戦いを冒険者達にとって有利なものにしている。
そう、思えた。
その筈だったが‥‥。
「貴様達、何を手間取っている、撤収しろ!」
ひときわ体格の良い戦士が檄を飛ばす。
その一声で相手の動きが一層引き締まったものになる。
「酷い訛りだ‥‥」
「何処の方言だろ、あれ」
敵の声に、シャノン、フィオレンティナが眉をひそめる。
「ヒスタ語‥‥でしょうか?」
エルが言いながらも、自分の言葉に確証がもてないという曖昧な表情を見せる。
「わしの背後を取れると思うてか!」
背後の敵に気付き、刹那の間合いを剛健な体躯に似合わぬ速度で切り抜けるマグナの腕がしなる。
「受けて見せろ!」
気合と共に繰り出された斬馬刀が相手の肩口に叩き落されて、抉る様にして地面にまで到達する。
「ヒスタ語‥‥」
エルの声を聴いたバルディッシュの目が輝くと、敵の手にした刃に怪しい輝きは無いかと視線を一瞬で走らせる。
「みんなで生き残るんだから、大人しく倒れなさい!」
投げ放たれたエルトウィンのダーツが、敵の薄い鎧ごと貫いて相手に刺さる。
「来た!」
空と歩美が身を固くして、敵の襲撃に備えるのだが、一瞬後に敵が目に見えない壁にぶつかったように動きを止めた。
「大丈夫のようです。お二人は馬車をこのまま守ってください。私は皆さんの援護に向かいます。‥‥神よ、我等に祝福を‥‥」
アタナシウスが厳かに言うのを聞いて、歩美と空の肩から力が抜ける。
「‥‥でも、大丈夫だって言われても‥‥」
戦闘中に気は抜けない。
今も、空の目の前ではシャノン、サリトリアが盗賊を追い詰めているのだが、もう少し決め手に掛けるのか敵は逃走に入っている。
「大人しく、やられなさい!」
逃げ出した盗賊らしい背中にフィオレンティナが叫ぶのだが、倒された者を除いて、襲撃者達は街道を一気に逃げていた。
「マグナ!?」
「追ってみる! だが‥‥」
眼下には木々の密集した林がある。
そこに飛び込んでいく襲撃者達を見下ろしながら、マグナは舌を打つしかなかった。
「ええい、逃走経路まで準備してあったとは‥‥」
天空にあるグリフォンの上で、マグナはそれ以上の追撃を諦めざるを得ないと悟り、帰還した。
地上で襲撃者を追っていたエルトウィン、バルディッシュ達が帰還したのも、ほぼ同時刻であった。
●襲撃者の正体
「襲撃者の正体ですが、盗賊に見せてはいましたが‥‥」
エルの視線に、数名の冒険者達が首を横に歩って、無言で返答をしていた。
既に襲撃者の死体も片付け終わり、歩美が少し虜囚と話をしたいと席を外した時だった。
バルディッシュとマグナが襲撃者達の動きは我流の中に何か基本となる太刀筋があったと互いの話をまとめて意見としていた。
「騎士団に居た頃の錬成にも近いものがあった」
「そうそう、集団行動は厳しいけど、統率された動きはそれだけで武器だものね」
「ただ、エルは他にも気になる事を言っていましたが?」
フィオレンティナの言葉にシャノンが付け加えると、虜囚を引き渡す準備を終えて安堵した様子のエルが歩美から耳元で言伝を得て表情を改めた。
「あの虜囚達も確証は無いそうですが、話を持ち込んできた者の中に、ヒスタの人間が居るのかも知れない、という話です‥‥」
「‥‥」
遥かなる大陸の名に、冒険者達は眉をひそめるのであった。
【To be continued】