ゴブリン襲撃
|
■シリーズシナリオ
担当:本田光一
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 32 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月12日〜12月16日
リプレイ公開日:2006年12月20日
|
●オープニング
冒険者ギルドには、今日も様々な依頼が寄越されてくる。
何処の好事家が入れたのか、戦時には必要なさげな美術品や骨董品を探し出して持ってこいと言った類の依頼や、敵を屠るための助っ人という、正に命懸けの仕事まで。
ただ、一つだけ言えることは全ての依頼が『ギルドの規定を通過した依頼である』と言うことだ。
だから、正当に依頼を受け、特に不履行となる理由がない限りには、依頼は全て遂行されなければいけない。
それは冒険者達の中に不文律としてある掟であり・・・・。
同時に、誇りでもあった。
●ゴブリン襲撃
「ふむぅ?」
メイディアにある冒険者ギルドの一隅で、依頼書として冒険者に出す予定の一件を覗き込んで首を傾げる男が一人。
「最近、微妙に化け物連中が騒いどるっちゅう話やけどな‥‥まさか、これもそれと一緒かいな‥‥」
何枚かの羊皮紙を束ねて目を通した書類は、既に某かの裏付けの取れた物で、メイの国内におけるモンスター退治についての様々な資料だった。
「んー。よく似た奴もあれば、そうも言い切れへんっと‥‥ただ、これはどうにもキナ臭いで‥‥」
ペチペチと、一枚の羊皮紙を持ち上げて指で弾くと男は立ち上がり、ギルドマスターに許可を得る為に羊皮紙を持ち出した。
その依頼の一つ‥‥メイの国は遙か西端。
山脈に近い一つの村の、事件が書かれてある物だった。
「依頼内容はここから遙か西方の、西の村を襲ったゴブリンの巣を見つけ出して、完全に破壊することや」
「見つけ出す?」
簡単そうだなと、笑顔の冒険者だがギルドの男の表情は決して優しいものではない。
「せや。だいたい一月前に、ウェスの村をゴブリンの群れが襲ったんや」
「そのゴブリンを探し出して、潰せと?」
「惜しい。ま、もう少し話を聞いてからにしてや」
と、前置きして男が語ったのは、西の村を襲った不可思議な事件だった。
時は、少し遡る――。
収穫を早くに終えた畑で、片付けをしていた農夫が森に続く道に人の影のようなものを見つけた。
小柄だが骨格がガッシリした人物だと、初めは思った農夫だった。だが、少し暗くなっていた風景に溶け込みかけていた人物をよく目をこらして見てみると、その手には明らかに人を殺すための武器が握られていた。
「‥‥ゴ、ゴブリンだ! ゴブリンが出たぞ!」
慌てて踵を返し、村に走り出す農夫。
その声に驚いて、それまでの緩やかだった動きから、突如咆吼を上げて農夫目掛けて殺到した邪悪なゴブリン達が、共に西の村に転がり込むようにして来た、まさにその時に。
村の巡回をしている若者達、その自警団が集会をしていたのだった。
「ゴブリンだって!?」
その数を聞いて、気色ばんだ様子で自警団員達は手に手に得物を握って走る。
冒険者には比べるまでもないのだが、ゴブリン程度ならば何とか集団で立ち向かえば、村の力持ち達ならば追い返すこと位は可能なのだ。
そう。
この時は、そうだった‥‥。
「問題は、一度追い返したゴブリンが再び姿を現したことなんや」
「どうせ、また追い返したんだろう? それで巣を探すのを手伝ってくれと‥‥」
合いの手を入れる冒険者に、静かに首を横に振った男は悲痛な趣で続ける。
「いや、その西の村に居た自警団だけでは支えきれずに、逃げ出した村人を除いて壊滅したんや。しかも、相手は十匹も居なかったと言われてるそうや」
「‥‥え?」
戦闘時に、自らよりも強い敵の数は多く感じられる筈だが、それでも十匹居なかったと言われるのは在る意味で冒険者達には違和感となって残った。
「‥‥皆が不思議に思うのも無理はないわな。戦えない人間がモンスターを見たらパニックになって敵の数を多く見間違うことはあっても、はっきり自分達よりも少ないという位や‥‥真面目に、ゴブリンの数は少なかったっちゅう訳やな」
壊滅した村に人が帰還したのは、ゴブリンの襲撃から三日後のことだったらしい。
村の様子を探りに出た者から、村には誰もいないという情報がもたらされて、半信半疑で向かった者達が見たのは、襲撃された当時と余り変わらない、自分達の暮らした村の姿だった。
「‥‥要するに、ゴブリンによって自警団員は壊滅したが、逃げ出した村人が帰るとゴブリンの姿はなかったと、こういう訳だな?」
「そうや。おまけに、村そのものへの被害は襲撃時の争いの跡位で、略奪の跡は無かったっちゅう話や」
話を総合すれば、ゴブリンを押さえる為に闘った村の自警団員達は残らず帰らぬ人となっては居たのだが、戦闘行為がそこで止まったとしか思えない、と言う状況だった。
村そのものへの被害は、あくまでゴブリンと自警団員の戦闘時に出来たであろう物。
それを不思議と感じるだけの余裕は西の村人達にはなかったのだが、周辺の村から復興の手伝いという名目でゴブリンに襲われた村の様子を調査に来ていた面々から、破壊された跡と被害の規模が詳しく調べられ、今後の事を考えて何らかの対処が必要だという判断が下されたのだった。
丁度その頃、再び西の村をゴブリンが襲い始めたという噂が流れていたとは知らずに‥‥。
その後、メイディアの冒険者ギルドに紆余曲折を経て依頼が寄せられる事となるのだが、ギルドではこのゴブリンの騒動を単純に村の襲われた事件とは判断出来ないでいた。
そこで、依頼者からの依頼としては勿論、王家へ働きかけて最近のモンスターによる被害の増大に関連するのではないかという打診を試みてはいるのだが、如何せん、資料が不足しているという話だった。
依頼を張り出した男は、だからこそと冒険者達に視線を向ける。
「このメイの国に何かが起きている。何かは判らんけど、今までとは違う、何かや。それを探る為にも、興味を保ったモンは西の村に行って、ゴブリンを狩って欲しいんや。依頼が寄せられた村に、またゴブリンが来ているという話や。今度はしっかり調べとるみたいで、ゴブリンの数は15から20っちゅう話や。油断せんと、ビシッと決めてくれたら嬉しいわ!」
●リプレイ本文
●ウエスの村
ランディ・マクファーレン(ea1702)は左腕に装備したライトシールドが軋みをあげる音を耳元で聞いて歯噛みした。
「一匹一匹は弱いが‥‥このっつ!」
オーラエリベイションの加護もあり、湧いて出るという表現が似合うゴブリン達にも気後れせずにランディはロングソードを一閃する。
握った右の拳に、肉を引き裂く重くて、粘りのある独特な荷重がかかり、一瞬後に空を引き裂く手応えがゴブリンの命を絶った事を実感させる。
「ぶっちゃけ言うと、本当にゴブリンか?」
神凪まぶい(eb4145)も片手にライトシールド、サンショートソードというランディと似た武装だが、構えからして技量の差は明らかだ。
だが、不思議なことにゴブリン達は一歩前に出る形のランディ、続いてまぶいと言う順に攻撃を加え、明らかに戦力的に劣る彼女を先に落とそうという考えは無い様子だ。
「間違いありません。これは間違いなく、ゴブリンです‥‥ですが‥‥」
「おかしいことも間違いない。ゴブリンが、こんなに集団で凶暴化して襲いかかるなんて聞いたことがない! しかも、後先考えずにだなんて‥‥何があったんだ?!」
イレイズ・アーレイノース(ea5934)に続いてアリウス・ステライウス(eb7857)が己の知る限りの知識からゴブリンを思い返して、目の前の集団にファイヤーボムを叩き付けるのだが、それにさえ怯まずに彼ら冒険者に迫る様は、まるで死を恐れない亡者の群れにも思われる。
「行きますよ!」
咆吼するイレイズの右腕に握られた槌。
がら空きになる半身に十手をかざし、最小限の防備に賭けて身体全体のバネが破壊力に変わる。
「せりゃぁぁっ!」
風をも粉砕する勢いで振り抜かれたハンマーが、防御しようと伸ばされた左腕をへし折り、肩の骨を砕き、陥没させた肺腑から吐き出される空気が血を混ぜてゴブリンの口から吹き出される。
「退かない?」
敢えて気迫の篭もった一喝を行ったというのに、ゴブリンはそれに気付いていながら全く防御を考えていなかった様子だ。
それが、イレイズの構えを変化させた。
「‥‥智も捨て、死さえも恐れぬ者に成り果てるとは‥‥」
呟くイレイズの横で、美しい戦いの女神が彫り込まれた白亜の小振りな盾でゴブリンの一撃を耐える女性が居る。
「避けることさえもしない‥‥何者かに命ぜられて?」
仕える神は違えど、サリトリア・エリシオン(ea0479)も神の力を代行する者の一人として悪しき存在に立ち向かったのだが、彼女もまた、イレイズ同様、ゴブリンの動きを見極めるために敵指揮官を捜すように戦場を観察していた。
「なんか、とんでもない事になったよなぁ。俺、就職活動中だったのに‥‥」
後から思い返せば、戦場で愚痴を呟くことがどんなにか恐ろしく、そして凄い事かをこの時は木下陽一(eb9419)は知らずに漏らしていた。
「ファンタジーな異世界で活躍する勇者なんて漫画でよくあるシチュだし、ちょっと面白いかも。それにホラ、ゴブリンって大抵のゲームじゃ一番雑魚キャラだろ?」
「雑魚‥‥いえ、やはりゴブリンを笑う者はゴブリンに泣くっ! ですよ!」
「‥‥そ、そう?」
ぐぐっと拳を握りしめるフィオレンティナ・ロンロン(eb8475)に陽一は「しまったなー。本職の人には言い方間違えたかなー」と、内心で呟いた。
「‥‥何かちょっと変な感じがするし。気をつけていこーっと!」
うんと、自分に言い聞かせて、予めの相談で周辺警戒を買って出ていたフィオレンティナは戦場の外れに移動する。
「気をつけるのかよ!」
一応、突っ込んでやると覚えたての魔法の中での攻撃魔法を発動させる陽一。
「俺、メイジ系ジョブが好きなんだよね‥‥」
アトランティスの魔法は精霊の力を借りて行使する精霊魔法なのだが、細かい事は陽一名義の心の棚の上に置いて、紡ぎ上げた術を解き放つ。
「いっけー!」
「え?!」
フィオレンティナの走る先に現れた、一際巨大なゴブリン目掛けて、上空の雨雲から稲妻が墜ちる。
「どうだ! さぁ、フィオレンティナさん、今の内‥‥って!?」
「ひたすら逃げるね――‥‥」
語尾が戦場の喧噪に消える様に、フィオレンティナの背は陽一から遠くなる。
援護も必要あったのかと、思いたくなる様な足の速さは流石にセブンリーグブーツの威力の賜物だ。
「‥‥え?」
ゆらりと。
遠くなるフィオレンティナの背を見送った陽一の視界に、先程の大ダメージを与えた筈のゴブリンが巨体を大地から起こして彼に向き直るのが見えた。
「普通のゴブリンじゃない? ホブゴブリンとかゴブリンロードとかゴブリナにエボったとか?」
思いつく限りの自身の知識で強敵を思い浮かべるのだが、その間にもゴブリンは陽一との間合いを詰めてくる。
「右に避けてください!」
「?!」
言われるまま、陽一が横っ飛びに右手に飛んだ。
「喰らいなさい!」
男性の声に遅れて、陽一の居た場所がえぐり取られる様に粉砕され、その破壊が真っ直ぐにゴブリン達を薙ぎ飛ばしながら延びていく。
「精霊の加護、思い知りましたか!」
立ち上がって来たゴブリン達目掛け、エル・カルデア(eb8542)が続けざまに放つグラビティーキャノンが肉片を飛沫として周囲に吹き飛ばしていく。
「誰かが言っていたが、バの国がゴブリンを訓練でもしているというのか?」
サンソードでゴブリンにとどめを刺したジャスティン・ディアブローニ(eb8297)が周囲の状況を確認して呟いた。
「いずれにしろ、統率が取れ過ぎている‥‥」
死を恐れなくとも、その動きには知性的な何者かによって操られている様な節もある。略奪以外でゴブリンが人を襲う理由についても、突き止めねばならないとジャスティンは仲間と合流してゴブリンの始末をしながら状況の把握に努めていた。
「逃げるのは得意なんだけど、いかんせん腕力がねぇ‥‥」
と、エルトウィン・クリストフ(ea9085)が嘯きながら石を拾い上げ、目立つゴブリンを選びながらその目に目掛けて投擲を続けている。
「この村の広場からだと、西の方がやっぱり破壊されてるのよね‥‥村の人達が西からゴブリンは来たって言っていた通りなんだけど‥‥」
村の地理、周囲の地理を頭の中に描きながら、エルトウィンは村人達から教わったゴブリン達の情報を思い出していた。
「ゴブリンの数は減ってきたけど‥‥そう言えば‥‥」
戦闘になる前に、遠目に見た村の中にゴブリン達の死骸は一切無かった。
他の者よりは音を消して歩く事が出来ると、彼女が斥候を買って出ていたのだが、その際にも壊された村の建物は見られたのだが、ゴブリンの死骸と言う物は見受けられなかったのだ。
「切れたか!」
ランディは己の剣に宿っていた力が損失したのを感じ取り、再びオーラを刀身に纏わせる。
戦闘開始の際に叩き込まれた爆発にも怯まず、彼らに向かってきたゴブリン達。
その殆どは、やはり冒険者達の力であれば前に倒れていくのだが、一向にその数が減じたと感じられない勢いがまだ残っていた。
だが‥‥。
「残りは僅か‥‥勝ったな‥‥」
戦闘中だが、敵の形が崩れ始めたのを見て取ったランディが、ゴブリンとの間合いを取った上で、イレイズに頷いてみせる。
「エルトウィンさん!」
「はいはい?」
少し距離を取っていたので剣戟の激しさの中自分の名前が呼ばれた事だけが判り、寄ってくるエルトウィンに――。
「探りを入れますよ」
「! ‥‥判ったよ!」
イレイズ達の言いたい事を理解して、フィオレンティナと同じくゴブリン達の群れとは少し離れた位置に移動する。
「リカバーは?」
「助かる!」
サリトリアがランディに並んで癒しの力を行使すると、偶然の積み重ねで負った怪我がたちどころに癒されていく。
彼女もランディも、戦い方は敵に対応しての長期戦を想定していたものの、圧倒的な数の差に押されて苦戦していた。
だが、それも何とか持ちこたえた今、まぶいが提案していた作を実行する時が来たのだと、誰もがそう思った。
「今です!」
最年長のイレイズがジャスティン、アリウスと共に間合いを計り、ゴブリンの群れが崩れた一瞬を三人は見逃さなかった。
一気に蜘蛛の子を散らすようにして走る冒険者達を、ゴブリンは追うことも出来なかった。
冒険者達は自からの人数の数倍という、戦果を上げて予め決めてあった場所へ待避した。
「見えるか?」
「ええ。ここからなら、充分後を追えますよ」
村を見張っていた冒険者達は、エルと敏捷さに長けるフィオレンティナ、ランディが移動する。
もしもの際の補助的な手段として地のエレメンタラーフェアリーを連れてきているランディが続くのはもちろんだが、遠目にゴブリンを追うことが出来るエルは追いかけるよりも早くに、ゴブリン達の動きが異常であることに気がつき、皆の動きを止めさせた。
「あれは? 死んだゴブリンを連れて帰ってるのか? ‥‥あれ?」
陽一もエル共々遠目でゴブリンを見ていたのだが、その動きが徐々に強く降り始めた雨で見えなくなってきた。
「?! 急いで下さい!」
イレイズが戦闘で切れてしまった服を気にしながら陽一に天候の変化を依頼する。
「やってみる!」
だが、突然降り始めた雨を止めるよりも、ゴブリンの姿が雨のカーテンの向こう側に消える方が速いと判断した冒険者達は、一気に村への間合いを詰める。
「判るか?」
エレメンタラーフェアリーに尋ねたランディと、かろうじて残った足跡を追ったエルトウィンの背を追いかける形で、冒険者達はウエスの村の西にある林へと踏み込んで行く。
「‥‥ここに何かを引きずった跡が」
「‥‥この奥か‥‥?」
エルトウィンの指すゴブリン達が通ったと覚しき足跡と、何かを引きずった跡は林の奥にあった洞窟の中へと消えていた。
「この奥か‥‥」
他の仲間の傷の具合を確かめて、サリトリアはリカバーをイレイズとジャスティンに掛けると、冒険者達は隊列を組み直して洞窟奥へと進む。
「ここが巣なら、丸ごと退治だな」
勢い込むまぶいだが、彼女が空元気で言っているのは肩が上がっているのを見ても明らかだった。
他の者達も、長時間の緊張と戦闘、そして雨の中を走って急に暗黒の洞窟内に飛び込んだことで体温を奪われつつあり、決して万全と言える状態ではなかった。
「ここが巣だとして、もしゴブリンと遭遇すれば‥‥撤退も考えの内に入れておかないとな‥‥」
「でも、確かめないといけないって思うんだけど、気になるのはゴブリンに指示を出している存在かな。村を使って戦闘訓練とか‥‥ね? ハハ、ハハハ‥‥」
ジャスティンの言葉にフィオレンティナが乾いた笑いで返すのを、誰も否定できなかった。
「ここは、流石に発見できませんでしたが‥‥」
フライングブルームでの偵察でゴブリンを見つけられなかったことをアリウスは悔しがっていたが、これで一気に追いつめれば任務は達成されるという高揚感も、今の彼にはあった。
だが‥‥。
「危ない、落石だよ! 下がって!」
洞窟内に岩が転がる音。
次いでエルトウィンの注意を促す声の後で、冒険者達は一気に後退する。
轟音が暗黒の洞の中に満たされ、地響きと空気を揺るがす振動が冒険者達を大地に叩き付ける様に揺らすのだが、それも暫く経つと何事も無かったかの様に静寂に満たされていく。
「もう大丈夫なのか‥‥?」
「ああ、地震じゃなかった様だが」
ジャスティンに問われ、ランディは羽の生えたエレメンタラーフェアリーに聞いてみるが判らないという答え。
「‥‥羽が見える?」
そこで、洞窟内に先程まではなかった筈の明かりが存在することに気がついた冒険者達は、その光の元を見上げて探す。
「‥‥天井が」
「ゴブリンだ!」
陽光が差し込む天井を眩しげに見上げるイレイズの横で、陽一が光の幕の中に影となって走る存在を見抜いて叫ぶ。
「いかん、先程出来た穴から!」
逃げられることを知り、周囲の様子を見定めてから走った冒険者達。だが、洞窟天井に出来た穴にまで到達した時には、そこにゴブリンの姿はなかった。
「‥‥また、この広大な林の中に逃げられたのか‥‥」
小高い山に続く丘陵地。
その一角にポッカリと穴となっている洞窟の天井から、冒険者達はメイの国西部の山脈に繋がる広がる林を見下ろしていた。
「少し後を追ってみましょう‥‥」
此処まで来てと言う、意識がイレイズだけならず疲労した身体に鞭打たせたのだろう。
冒険者達の懸命の捜索にもかかわらず、ゴブリンの行方はそこから更に西に向かったという以外には、判らず終いだった。
「‥‥もう少し人数がいれば‥‥」
山狩りで、ゴブリンを追えたかも知れないとジャスティンが歯ぎしりするのだが、現状ではこれ以上の追跡は困難だった。
ただ、洞窟内に残されたゴブリンの死骸らしき肉塊が瓦礫の中に埋もれているらしいことだけは判り、冒険者達は村からゴブリンを一掃するという当初の目的を達して、帰途に付くのだった。
【To be continued】