ゴブリン襲撃・2

■シリーズシナリオ


担当:本田光一

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月26日〜12月31日

リプレイ公開日:2007年01月04日

●オープニング

 冒険者ギルドには、今日も様々な依頼が寄越されてくる。
 何処の好事家が入れたのか、戦時には必要なさげな美術品や骨董品を探し出して持ってこいと言った類の依頼や、敵を屠るための助っ人という、正に命懸けの仕事まで。
 ただ、一つだけ言えることは全ての依頼が『ギルドの規定を通過した依頼である』と言うことだ。
 だから、正当に依頼を受け、特に不履行となる理由がない限りには、依頼は全て遂行されなければいけない。
 それは冒険者達の中に不文律としてある掟であり・・・・。
 同時に、誇りでもあった。

●ゴブリン襲撃
「ウエスの村からの報告かいな‥‥」
 冒険者達の活躍により、ウエスの村を襲っていたゴブリン達が撃退されてから数日が過ぎていた。
 倍する数のゴブリンを村から追い払い、巣に戻ったと思われたゴブリンを追いかけたのだが、謎の落石によりゴブリンらしき影を見失ってしまった。
 雨天となり追跡が困難となっていた林の中で見つけられた足跡は、村の西に広がる林を更に西へと向かっていた。
 装備や体力の問題から、調査の継続を断念した冒険者達から捜索を引き継いだ者達の尽力あって、冒険者達が最後までゴブリンを追った地点から南西に向かった地にある山脈に向けて足跡が続いていたことが判明した。
 だが、冒険者ほどの戦闘力の無い者達では、それ以上の追跡は危険と判断され、追跡行は冒険者達に委ねられることとなった。
 メイの西の果て‥‥。
 それは、伝承に残される禁断の地。
 ゴブリンが向かったとされるのは、その中の山脈に続く険しくも広大な丘陵地帯だ。
 竜と、精霊の加護の中で生きる者達にとってメイの国の西方にある一地帯は禁忌とされている。
 その地の力が、件のゴブリン達に異変をもたらしたのかは知れない。
 今は、ただ先の依頼に続いて密かに行方をくらませたゴブリン達の後を追い、確実にその根絶を願うばかりとギルドの依頼には書かれていた。
「前回はかなり厳しかったらしいけれどな。今回は出来れば捜索について詳しい者や、野営なんかの技術を持っているもんも必要らしいわ。その辺、充分に注意してや。今回の依頼はゴブリン掃討じゃなく、ゴブリンの行方をハッキリ見定めることや。戦闘になっても、殲滅よりか追跡を選んでくれた方がええっちゅう話や」
 ギルドでかわされた話から、冒険者達に捜索を委ねられる丘陵地帯までの地図と、その地形についての詳細が送られてきていた。
 特に調査が必要とされるのは二カ所。
 丘陵地帯に穿たれた、刀傷の様に走る地割れの中。
 人が墜ちれば即死間逃れないそそり立つ岩山に囲まれた、険しい渓谷の奥にある滝壺周辺。
 そのどちらに行くにしても、付近の狩人達は遠目でそれらを見、音を聞くばかりで現地の詳細な情報は全くないと言う話だった。

●今回の参加者

 ea0479 サリトリア・エリシオン(37歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea1702 ランディ・マクファーレン(28歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea5934 イレイズ・アーレイノース(70歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea8594 ルメリア・アドミナル(38歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea9085 エルトウィン・クリストフ(22歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ea9517 リオリート・オルロフ(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ロシア王国)
 eb7857 アリウス・ステライウス(52歳・♂・ゴーレムニスト・エルフ・メイの国)
 eb8162 シャノン・マルパス(23歳・♀・鎧騎士・エルフ・メイの国)
 eb8297 ジャスティン・ディアブローニ(38歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb8542 エル・カルデア(28歳・♂・ウィザード・エルフ・メイの国)

●リプレイ本文

●渓谷の中へ
 丘陵地帯周辺の地図を受け取った一行は、その地図を纏めてくれた村の者からの注意事項として短く話を聞くことが出来た。
 それから数時間後。
 調査に向かう二カ所に分かれる前の、最後の野営地で互いの情報整理で焚き火を囲むこととなった。
 様々な思いをもって依頼に参加した冒険者達は依頼された内容と、前回の様子を付き合わせて、今回の騒動の元となっているゴブリンが明らかに彼らの知識にあるゴブリンとは異なっていることを確認しあっていた。
 そんな時‥‥。
「カオスの地、間近か‥‥。あのゴブリン共、よもやカオスに汚染された変異種ということか‥‥?」
 アリウス・ステライウス(eb7857)が難しい表情で唸るのを、サリトリア・エリシオン(ea0479)とイレイズ・アーレイノース(ea5934)は耳にして険しい表情になる。
 地図と地形詳細を参考に、候補地へと向かう。途中の水場での水の補充を行った時にイレイズが感じていた異変を口にする。
「地図では、滝のある渓流から流れ出している筈の水場だったけれど、これだけ周りに緑があるのに、魚影が呆れる程になかった‥‥これは、それに関係することですか?」
 イレイズの問いに、片方の眉を跳ね上げたアリウスが呟くように返した。
「‥‥そうかも知れんし、そうでないかも知れん‥‥」
「‥‥」
 言葉を濁したアリウスだったが、それは暗黙の肯定だと知れるには十分過ぎるものだった。
「自分には詳しいことは判らないが‥‥」
 と、前置きしてリオリート・オルロフ(ea9517)が焚き火の炎に浮かび上がる、少し離れた位置の林を見つめて続ける。
「略奪を禁じたり、仲間を連れて逃げるとは、こちらの世界のゴブリンは、ジ・アースのものより情に篤いのだろうか?」
 仲間達に背を向ける格好で、リオリートは続ける。
「戦術など、教えた者が居るにしても、それを理解する知能があるということになる。死を恐れずに向かって来るというのも、野生の本能といくらか矛盾している気がする。‥‥彼らを捕まえて調べれは、何か判るのだろうか?」
 暫くの間、リオリートの言葉に誰も返せなかった。
 誰もが感じていた疑問であり、同時に解けていない謎だったのだ。
「正しいとも言えるし、違うとも言えるな‥‥」
 それまで沈黙を守っていたランディ・マクファーレン(ea1702)が腕に残るゴブリンの斬檄を思い出して呟いた
 ゴブリンにも狂戦士と言うものがあるならば、腕に残る重い一撃は正しくそれだった。
「‥‥話していても、埒があかない。しかし、これで普通のとは明らかに違う事が逆に良く判ったとも言える。リオリートの言うとおり、死体を回収する点やら色々とな」
 簡単だが、保存食に熱を通して調理してやることで、サリトリアは皆の胃袋の援護を買っていた。
「何がそうさせるのかは、まだ謎のまま。更に調査あるのみだ。今度は、逃がさない」
「‥‥」
 明らかに、強化されたと思しきゴブリン達に想いを馳せ、考え込んだジャスティン・ディアブローニ(eb8297)は、今回の調査、依頼では資料として確保して持ち帰りたいという希望があった。
 無論、それが可能であればの話。
 だが、実現の為にジャスティンは率先して野営での不寝番を受けて、少しでも皆の疲れが取れるように心がけていた。
 国への忠誠と言えば簡単だが、任務以上に彼自身の思いがそうさせていた。


●地の穴の中へ
 丘陵地帯に開けた岩の中央を、真横に断ち切るように走る深い穴がある。
 二手に分かれ、その穴の調査に向かったエル・カルデア(eb8542)達は、狩人達が言っていたゴブリンの逃げた痕跡を道中発見しながら進んでいた。
「予想以上の強敵でしたからね。このまま野放しにはして置けないですね‥‥」
 丘陵地帯に穿たれた、刀傷の様に走る地割れの中を重点に置いた、探索経路で進んできた。
「ここからは、バイブレーションセンサーも併用で行きます」
「判った。亀裂の周囲は見た限りでは落盤の可能性もない様子だ。細工も、されていないと思う」
 リオリートが岩窟周囲の状況を確認して告げると、リオリートと共に崖上からの落石などに注意を向けていたジャスティンが、退路確保の為に最後尾に位置して岩窟の中へと入る。
「そういえば、この穴に向かって何かが来ていた跡があったようですけれど?」
「ああ、折れた枝葉もあったが、何より踏み荒らされた跡があった」
 エルに返答するジャスティン。彼らはここまでの調査を請け負ってくれていた者達の情報を思い出して、その後の調査を請け負ったのだが、確かに狩人達からもたらされた情報と、ギルドで聞いてきた情報に齟齬はなかった。
「未だ、ゴブリン達の凶暴化の理由が解らない以上、未知の強敵と出会う可能性は、否定出来ませんが‥‥」
 洞の中での強敵に備え、慎重に周囲を窺うエルに並んでランディも備えているのだが、現在のところ小型のコウモリや野生の鼠と思える存在位しか居なかった。
「‥‥足場は問題ないな」
 明かりは難点だが、硬い岩は十分に足下を確保してくれていた。
「行こう」
 手の中で輝く『手回し発電ライト』を静かに、差し出すようにして進路を確かめると、エルから報告があったコウモリが飛び立つのが判った。
「ここから先には、まだまだ大きな生物は居ないですね‥‥見て下さい」
「踏み荒らした跡か‥‥こちらが正解か?」
 コウモリの糞が敷き詰められた洞窟の中に、彼ら以外の足跡があった。
 それを確認してジャスティンが立ち上がる。闇の中でライトに浮かぶ彼の表情は、誰の目にも真実に一歩近付いたことを喜ぶそれに見えた。
「彼は、大丈夫なのかな?」
 入り口に残ったアリウスを振り返り、リオリートが心配げに呟くのだが、ジャスティン達は互いに顔を見合わせるだけで奥へと進み出した。
「背を任せることが出来るのも、大切だ」
 『隠身の勾玉』を取り出して、進行方向に敵が居ないか探る準備をするランディだった。


●滝の奥に
 滝までの道程は、激流が岩を洗う水圧との闘いと、切り立った崖にへばりつくようにして進む悪路だった。
 滝壺に回った者達の中で、比較的疲労を押さえられていたのはエルトウィン・クリストフ(ea9085)だったが、彼女以外にも十分な休息を得て、一行はまだ体力には余裕があった。
「あそこを、見て下さい」
 滝壺は周囲から垂直に落ち込むような絶壁が周囲を取り巻くだけで、水に半ば浸かりながら進んできた一行がルメリア・アドミナル(ea8594)が指差す滝を、見て暫く陽光が差し込む様を眺めていると‥‥。
「今、少しだけ影が見えましたね?」
 確かに、ルメリアの指し示す場所に影が見えた。
 滝壺の裏側に穴があるらしい。
 全身を濡らしながら潜り込んだ一行は、その穴の奥に向けてルメリアがブレスセンサーで探りを入れると、奥に複数の生物‥‥その数と大きさから、ゴブリンらしいと分かるものが居るのが判る。
「この奥なのかな? 見つけて後を追うでも勿論構わないんだけど‥‥どっちが適切なのかな? 」
 エルトウィンは、自らが潜り込んで調査することと、相手の動きを待つことを天秤に掛けていたのだが、調査が長引けば彼らの体力も底をつく事は判っていた。
「最優先事項は、ゴブリン達の足取りを掴む事。次で必ず殲滅出来るように、ゴブリン達の逃走ルートと、凶暴化の異変の謎を掴むでしょう」
 滝を越えるのに固定していたハンドアックスを握り直し、イレイズがエルトウィンの呟きに続けた。
 彼らもゴブリンの足取り探索に足跡等を追っていたのだが、野生動物が余りに少ないこの界隈では、動物達が近寄る事を恐れているかの様子で、確実に危険な、確信に向けて進んでいることが判っていた。
「これも、カオスなのでしょうか?」
 ルメリアが奥に居る生物の距離を告げ、その変化を感じながら尋ねると、サリトリアとイレイズがゆっくりと首肯した。
「『カオスの穴』と呼ばれる地が近いそうだ。その影響やも知れんな」
 中の様子を探り、合流することを告げるサリトリアだが、ルメリアの調査でも動きがはっきりと掴めずに、もう少しだけ先に進む必要がある様子だった。
「確かに。死体を持ち帰るという事は、見られては不味い物があるとも言える‥‥」
「この状況から考えて、何が起きるか解らない。退路の確認と、万が一の場合に備えて、殿に付きましょう」
「行きの崖では何も無かったが、この穴だと、前回の報告と同じ事があるかも知れないな」
 頭上を気にしていたシャノン・マルパス(eb8162)が冷ややかな口調で告げると、エルトウィンが顔をしかめて皆を呼び止める。
「一寸待って。ここ、あたし達が風下だよ」
「!? いけない。奥の動きが変わりました」
 エルトウィンの言葉が終わるか否か。
 ルメリアが声を発し、一同は足音を押さえながら転進した。
「距離は?」
「速い‥‥滝に飛び込まないと間に合わないです」
「見えた!」
 奥の方から、松明の篝火らしき物が速度を上げて近付いてくる。
「一寸でも、やっておくよ!」
 時間稼ぎの意味で、エルトウィンが投擲した石が相手に当たったのか、叫び声の様なものが響いた。
 だが、奥から来る気配の速度は変わらず、肉眼でも何かの影が動いていることが判るまでに距離を詰めてきていた。
「‥‥見えた!」
 ブラックホーリーを準備していたイレイズが気迫と共に腕を付きだし、先頭のゴブリンが叫び声を上げる。
「ゴブリン以外の何か‥‥奥にいる様子です」
 ルメリアが眉を寄せて言うのに、シャノンが目を細めて奥を見るのだが、彼女の視野には何者も捕らえることが出来なかった。
「こっちだ!」
「!?」
 突然、横から聞こえた声にエルトウィンは石を投擲した直後の体勢で死を覚悟しながら気配を探った。
「待て。自分達だ」
 リオリートがランディの掲げた明かりの中に飛び込むのに、ようやく気付いたイレイズ達は何故彼らが此処に居るのかを聞くまでもなく、導かれるままジャスティン達が誘導する穴に飛び込んでいった。
「急いで。アリウスが入り口を守ってくれているから!」
 エルが振り返り、眉をひそめるのを見たルメリアも一瞬だけ振り返る。
「‥‥人間大の大きさですね‥‥」
「ええ。『それ』が、ゴブリン達の後ろから私達に近付いて来ている‥‥」
 ゴブリンの後ろにいる存在を感知して、成すべき事は果たしたと頷きあったエルとルメリアが仲間達の後を追う。
「‥‥!」
「‥‥大丈夫?!」
 急に、先を急ぐランディに続いてエルトウィンが走り出す。
「血の匂いだよ!」
「!」
 エルトウィンの言葉に、疲れ始めていた一行の速度が上がる。
「助かります!」
「後ろへ。時間を!」
 怪我の具合を見て取ったサリトリアが血に濡れたアリウスを下がらせて、静かにリカバーを施す間に、入り口付近まで走り込んだジャスティンは穴の外で倒れている三体のゴブリンと、壊れた木箱を見て舌打ちした。
「罠だったのか?」
「いや、そうじゃないらしい‥‥」
 サリトリアによる神の力で怪我が塞がっていったアリウスが指差すと、森から洞穴に向けて彼らが通ってきた道に、大きな荷物を降ろして猛り狂うゴブリン達の姿が見えた。
「見つかってしまったので攻撃したのだが、どうやら荷を運ぶのが目的で、ここに来たらしいだが、後続が居るとは‥‥」
「後ろから来ています。数‥‥二十? いえ、その後ろからも!」
 ルメリアが言うのと同時にエルも頷いて彼女の発言を肯定する。
「進むしかない、か‥‥」
 前方のゴブリンは四体。
 後方から迫るゴブリンに捕まると、現状では厳しい闘いになると踏んで、ルメリアが牽制の意味でライトニングサンダーボルトを放つ。
「ここでは‥‥」
 先程遭遇した際にも、凹凸の多い場所での攻撃では戦果を期待出来ずに放たなかったのだが、今ここを逃せばと言う時に出し惜しみは出来なかった。
「急げ!」
 竜羽の剣を抜き、ゴブリンに突進するリオリートに呼応してランディも走る。
「全員、出たのか?」
 ジャスティンがひとまず洞窟から全員が脱出したのを確かめ、振り返れば今し方出たばかりの穴からゴブリン達の姿が現れ、その手にある岩を見て息を飲む。
「させん!」
「急いで下さい!」
 イレイズとルメリアからブラックホーリーとライトニングサンダーボルトが走り、ゴブリンの群れに叩き込まれるのと、その後ろから岩が投擲されるのが見えた。
「ぐ‥‥」
 回復した傷口が岩塊によって再び流血し、アリウスが転倒する。
「えいっ!」
 エルトウィンが投げた石がゴブリンの顔を襲い、咆吼するゴブリンを肩口から一刀のもとに叩き伏せるリオリート。
「あんた、回復は任せたぞ」
「判った。だが、ここは退くべきだ」
 ランディが舌打ちしながら走るのを、サリトリアは一歩退いたリオリート、エルトウィンらの怪我を順番に治しながら頷いて返した。
「‥‥判って、いる! だが、こいつだけは!」
 ゴブリンの中でも一番小柄な者を背中に縛り付けて、額から血を流すジャスティンにアリウスが返却された『空飛ぶ絨毯』を渡して急がせる。
「退くぞ!」
「行きがけの駄賃だ!」
 己が流す血よりも、ゴブリンの返り血を浴びながら剣を振るうシャノン、イレイズを待って、彼らは丘陵地帯を脱出する。
「‥‥あの荷物の中身は何だった?」
「食料と、水が大半だった‥‥そう思う」
 林を駆け、先に村まで遣いを出した一行は丘陵地帯の封鎖を依頼し、運び込んだゴブリンの遺骸を冒険者ギルドに持ち込むことにした。
「恐らく、結果を待たずに壊滅戦の募集があるだろうな‥‥」
 痛みを堪えながら帰途に付く冒険者達だったが、通常のゴブリンに対して強大な膂力を振るう四肢を持つ死骸を目の当たりにして、この一連の騒動に幕を引く闘いは間近だと感じるのだった。

【To be continued】