ゴブリン襲撃・3

■シリーズシナリオ


担当:本田光一

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:01月12日〜01月17日

リプレイ公開日:2007年01月22日

●オープニング

 メイの国の最端、西に位置するウエスの村から更に西。
 禁忌の地として知られる『カオスの穴』に近い丘陵地帯に、凶暴化したゴブリンの群れが拠点を持っていた。
 この事に気がついたのは、ウエスの村を襲ったゴブリン退治を請け負った冒険者達による報告がギルドを通して国の上層部に渡ったが為だった。
 禁断の地に近い場所での、ゴブリンの急激な成長は騎士団のみならず、国民全てにとっての災厄である。
 そこで、一端舞い戻ったばかりの冒険者達にも伝令が飛び、急ぎ再び洞窟に向かい、ゴブリンを操る存在を倒す闘いに参加して欲しいという依頼が正式に国から出されると言うことになった。

「正直、生きて帰ってきて欲しいさかいな、もし参加するなら、知ったもんと組んで行く位、注意して欲しいんや」
 冒険者ギルドでは、二つの組に分けて今回の闘いに望んで欲しいという願いが出ている。
 それは、先の調査で渓谷と亀裂の双方からゴブリンの隠れる場所にまで向かう事が出来ると判った為だ。
「万が一、逃したら洒落にならへんし、何でもゴブリン達は食料を運び込んでいたっちゅう話や。それも、何者か、ゴブリンとは違う体格の存在が関与しているっちゅう話やしな。それを追いつめるためにも、二方向から挑んで欲しいんや」
 既に、西方の警備隊の一部隊が派遣されているのだが、百戦錬磨の者、現地に明るい者が多く居た方が良いという事で、冒険者ギルドにも急ぎの知らせが入ってきていた。
 現地までの移動は国が見てくれるという話だが、移動後、冒険者達を送る者達は戦闘要員ではない為に、彼らを運んだ後には撤退するという。
「今までの調査の結果だと、急に強くなっていたゴブリン達の身体から、何か薬の様な物が見つかったっちゅう話や。今のところそれが限界や。帰ってきたら、そして今回の作戦の結果でもっと詳しい事が解るかも知れへん。気張ってや!」
 冒険者達を見送ると、ギルドの中は喧噪に包まれていく。
 新しく、話を聞きに来た者達に席を譲りながら。
 ギルドは、動き続ける。

●今回の参加者

 ea0479 サリトリア・エリシオン(37歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea1702 ランディ・マクファーレン(28歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea5934 イレイズ・アーレイノース(70歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea9085 エルトウィン・クリストフ(22歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ea9517 リオリート・オルロフ(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ロシア王国)
 eb7857 アリウス・ステライウス(52歳・♂・ゴーレムニスト・エルフ・メイの国)
 eb8162 シャノン・マルパス(23歳・♀・鎧騎士・エルフ・メイの国)
 eb8297 ジャスティン・ディアブローニ(38歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb8475 フィオレンティナ・ロンロン(29歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb8542 エル・カルデア(28歳・♂・ウィザード・エルフ・メイの国)

●サポート参加者

アルメリア・バルディア(ea1757

●リプレイ本文

●水の流れる場所で
「来た‥‥」
 ジャスティン・ディアブローニ(eb8297)が抑えた声で進むのに、サリトリア・エリシオン(ea0479)、ランディ・マクファーレン(ea1702)がその脇を固める様にして石の起伏を駆け抜ける。
「ここまで見張りはない。こ奴ら、余程の膂力を持つというのか、それとも‥‥」
 サリトリアはライトサンソードで切り落としたゴブリンの腕を踏まない様に足下に気を配りつつ、シャノン・マルパス(eb8162)らに後退を示す。
「こういう時は、非力な自分が恨めしい‥‥」
 シャノンは後退するランディとサリトリアが術を施す時間を作る為、合流地点と決めた敵を誘い込む場所までの時間を稼ぐ為に黒曜石の短剣を振るい、敵の中でも小柄な相手を選んで間合いを計る。
「‥‥足りないか?」
 右に踏み込んだ足に体重を乗せ、斬り込んだ短刀の軌跡が敵に届かぬ内に、左足で身体全体を突き放す勢いで飛び込んでいく。
 半歩、間合いのずれた斬撃にゴブリンの半身が泳ぐのにも関わらず、頑丈なその筋肉が、手にした盾がシャノンの短剣をものともせずに流される。
「微かに、擦っただけ?」
 ジャスティンも孤立しない、間合いを詰めすぎない位置でバックラーの腕に痺れが残る程のゴブリンの一撃を流しながら唸る。
 彼の目からしても、シャノンが対したゴブリンは彼女の一撃に対応出来ていなかった筈なのだが、斬り込んだエルフの斬撃はかわすことさえされず、筋肉の鎧は彼女の刃をものともしない。
「退くぞ‥‥」
 あと少しだと、声に出さずにランディがライトシールドでゴブリンの攻撃を流しながら下がる。
「‥‥」
 ジャスティン、シャノン達を間合いに置いて、サリトリアは自身の身を守りながらリカバーの援護を主に受け持っている。
 ただ、手を抜けばやられる覚悟の必要な相手であり、攻撃も全力で当たらなければならぬと、振るうライトサンソードの切っ先を鈍らせることはない。
「そろそろ、頃合いか?」
 敵の攻撃をかわしながら、ランディは合流地点の仲間達に近い位置でいるジャスティンに目をやり、ジャスティンもまた同じ思いで彼を見たことに気がついた。
「では‥‥今こそ!」
 殿に残ると宣言したジャスティンだったが、バックラーごと吹き飛ばされそうな一撃を受け、大きく後退していた。

●挟撃
「‥‥来たみたいだよ」
 エルトウィン・クリストフ(ea9085)が抑えた声で仲間達に告げる。
「判った」
 リオリート・オルロフ(ea9517)が一言だけで返し、刀を抜き放つ。
「先ずは、目の前のゴブリンを倒す。そして、黒幕を捕まえることに集中しよう」
 手の中の刃に意識を集中させながら、念じるようにして紡ぐ言葉を意識的に自身の耳に、意識下に刷り込んでいく。
 いざ戦闘になれば、どんなに戦闘前に考えを巡らせていても、臨機応変な状況への対応を迫られる。そこで物を言うのは自身に染み込ませた経験、繰り返し、繰り返し行われた鍛錬という基本的な力だ。
 だからこそ今、リオリートは己が果たすべき『仕事』を己に刻みつけるように集中しているのだ。
「‥‥自分の知っているゴブリンに照らし合わせても、薬を飲ませるのも大仕事だと思う‥‥ただ、けしかけて冒険者に刈り取られるだけでは割りに合わない筈だ‥‥」
 物事には、全てについて目的と結果がある。危険を冒すには、その危機に見合うだけの報酬――金銭とは限らないが――が有るはずだ。
 リオリートだけでなく、他の皆にしてみても、今回のゴブリン騒動では凶暴化、凶悪化したゴブリンを操る背後の存在の目的が読めていない。
 だからこそ、今回の掃討作戦で手掛かりの一端でも手に入れなければと、皆躍起になっていた。
「哀れなゴブリン達に安らぎを‥‥」
 イレイズ・アーレイノース(ea5934)が心中で哀悼の意を表し、エル・カルデア(eb8542)がゴブリンの足が生む振動から最後のゴブリンの背が見えたと判断した瞬間に、岩陰から躍り出る。
「カオス汚染ではなく、薬によるものか‥‥? いや‥‥」
 アリウス・ステライウス(eb7857)がバーニングソードを施しながら、自身もゴブリン達を倒す為の位置に立つ。
「エルトウィン、よろしくね!」
「判ったわ」
 フィオレンティナ・ロンロン(eb8475)が借り物のルーンソードを手に、イレイズを追う形で洞窟を走る。
「‥‥そこで止まっていなさい!」
 エルの『アグラベイション』がゴブリンを振り向いた場所で縛り付ける。
「今です!」
「任された!」
 エルの言葉に返して走り抜けるフィオレンティナ。彼女は、洞窟に縛り付けられた様子のゴブリンの脇をかいくぐり、まだ陽動部隊に注意を向けているゴブリンを背後から狙う。
「! 流石、借り物♪」
「‥‥」
 フィオレンティナの言葉が聞こえ、ランディはどう考えて良いのか反応に窮している。
 どう聞いても、借りることが出来た幸運と、その威力に嬉々としている気がするのだが、それで切り裂かれるゴブリンの血肉が飛び交う中での言葉とは‥‥少なくとも、うら若き女性の言葉とは想いたくなかった。
「この明るさなら、何とか‥‥」
 ランタンを少し高い岩端に置き、術を紡ぐアリウスは、背後から挟み撃ちにされないか、警戒する任務もあったが、徐々に倒されているゴブリン達の姿を見ていて、自身の任務を忘れて討伐に加わりたい気持ちも膨らむのが判る。
 だが、その気持ちを引き締めて周囲を警戒する。
 隙を見せず、確実に、効果的に魔術を行使することで仲間達の安全とゴブリンの壊滅を目的としなければいけないからだ。
「! アリウス!」
 そんな彼の耳に、エルの叫び声が響く。
 同時に‥‥。
「ファイヤーボム!」
 エルが気付き、声を掛ける魔も有るかと言ったタイミングで、アリウスは背後の闇の中に動いた影目掛けて術を解き放つ。
「敵襲!?」
 リオリートが振るった刃の前に、崩れ落ちるゴブリン達。ジャスティン、シャノンも時間は掛かったが何とか数体目にとどめを刺した時。
 彼らの眼に、エルとアリウスが洞窟奥を驚愕の表情で見ているのが映った。
「散開を!」
 サリトリアが戦慄と共に叫ぶのを、聞こえた者達が繰り広げていた戦闘を中断して横っ飛びに洞窟に身を投げ出した。
 その頭上を――
「!」
 轟音と共に彼らの今まで居た場所を、実体のない高重力――圧壊の魔法がゴブリン諸共に岩塊を剔って突き進む。
「こんな閉鎖空間で‥‥自殺行為です」
 膝立ちに立ち上がりながら、喉を鳴らすエル。
 己が戒め、使用することを躊躇したグラヴィティーキャノンを放った存在にエルは恐怖した。
「使い捨てだというのか? ならば何故!?」
 リオリートが咆吼と共に、グラヴィティーキャノンでなぎ倒されたゴブリンにとどめを刺していく。
「‥‥カオスニアン、と言う者達か?」
「ああ。奴が、奴らこそが世界の仇敵。混沌の下僕。我等が民を脅かす闇からの使者、カオスニアン!」
 サリトリアが眼を細めて尋ねるのに、立ち上がったジャスティンが唸る。
「‥‥」
 リオリートはカオスニアンの肌に施された入れ墨が洞窟内の陰陽に照らされ、浮かび上がるのに怖気(おぞけ)を感じた。
 褐色の肌、黒き入れ墨が施された体躯は内側から盛り上がるような邪気に満ち満ちて、彼らに向けて放たれたグラビティーキャノンの殺気こそ、貴奴が放った物だと断言出来る程の狂気がそこにあった。
「逃がさぬ!」
「行くぞ!」
 オーラエリベイションで敵に備え、走り込むランディとイレイズの剣と槍がゴブリンの壁を切り刻み、突進した勢いで敵を吹き飛ばして、カオスニアンへの道を切り開く。
「メタポリズムを!」
 先のグラヴィティーキャノンの威力を知り、カオスニアンへの接触を試みるイレイズだが、敵は簡単に彼の後手には回らない。
「こっちだよ!」
 エルトウィンが投げた石がゴブリンの眼を直撃し、一瞬怯んだところに斬りかかるシャノン、ジャスティンの斬撃で、巨体が岩の地面に崩れ落ちる。
「こっちだよ、こっち!」
 更なる敵の攻撃を華麗にかわし、エルトウィンの動きに追いついて来られないゴブリン達にエル、アリウスの攻撃魔法が吼える。
「残りは!」
 数匹のゴブリンを従えたカオスニアンが、唇の端を上げて笑う。
「決着を付けさせて貰う!」
 ランディ、リオリートの攻撃がカオスニアンが避けられて、イレイズが走り‥‥。
「メイは、私達が守るんだよ!」
 アリウスに魔法を付与して貰い、闘う冒険者達。
 その中でエルトウィンの攻撃に合わせて洞窟を駆けるフィオレンティナの刃が遂にカオスニアンを捕らえる位置にまで至る。
「動かざること大地の如く。縛られよ!」
「哀れなる者達よ、此処で眠るが良い!」
 動きの鈍ったカオスニアン。
 その肩に当てられた、イレイズの起こす神の奇跡でカオスニアンの怪我が瞬く間に塞がれていく。
「!? ‥‥!」
 一瞬の隙。
 その間合いに一気に叩き込まれる攻撃が、カオスニアンの四肢を叩き折り、切断し、吹き飛ばし、蹂躙する。
「‥‥終わったの?」
 何時でも追えるように身構えるフィオレンティナの横で、エルトウィンが明かりをかざして敵の様子を窺った。
「‥‥」
 鉄の錆びた匂いが洞窟内部には充満し、濡れた手は同じ錆の香りがする液体で赤黒く染め上げられている。
「終わった。これでな‥‥」
 言葉とは裏腹に、剣を一閃させてランディはカオスニアンの首を切り落とす。
「これで生き返ることはないでしょう。恐らく」
 証拠となるのかは知れないが、今回の事件の首謀者と覚しき存在を倒したことでジャスティンは満足せずに、洞窟の中を再び捜索を始める。
「さて、これは一体どういうことだったのか‥‥」
 アリウスは眉を寄せながら、ゴブリンの死骸とカオスニアンを相互に見て、皆に視線を戻した。
「奥に、何かあるのかな?」
 エルトウィンが明かりを手に先に進む。
 なだらかな勾配を上り、やがて洞窟の最後となるだろう行き止まりの空間に到達して冒険者達は大量の武器と、謎の袋を眼にした。
「‥‥何本かは、貰っても良いのだろうな?」
「うん、良いと思うよ」
「報酬の一部と捉えて良いだろうな」
 フィオレンティナ、シャノンが騎士としての解釈で言うとおり、その洞窟に残されていた薬袋と武器の一部を除き、冒険者達に配分して構わないという報告があった。
「あのカオスニアンの腰にあった薬と同じ匂いが、ゴブリン達からしたんだがな‥‥」
「細かい成分などは、国の機関で調査すればいい。私達の仕事は終わった‥‥いや、これで始まったのか‥‥」
 ジャスティンが口ごもる。
 カオスニアンが『この地で何をしようとしていたのか』までは知り得ずとも、ウエスの村については今後の安全が見込まれた。
 メイの一角、その地の平和を冒険者たちは取り戻したのだった。

【END】