【海賊戦争】

■シリーズシナリオ


担当:本田光一

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:01月03日〜01月08日

リプレイ公開日:2007年01月10日

●オープニング

●海賊戦争
「今回の仕事は、海賊と組んで海賊退治や!」
「‥‥」
 楽しそうな、同時に中々やり応えある依頼があると聞いて、奥の部屋に通された面々は己の耳を疑った。
「犯罪行為に荷担するかと、思うかも知れんけれどな、組む相手は私掠船の船長さん達や。裏の世界ではその名は知れとるけれど、目を瞑るだけの部分もあるという話やな。ただし、上の方は勿論この話は他言無用と言うてる事は忘れへんようにな? 後、この依頼が終わったらお互い敵対しても後腐れ無いようにっちゅう話や」
 念を押す様に言うと、今回依頼される海賊退治についての顛末を男は話し出した。
 曰く‥‥。
 リザベ分国領の、一地方伯が前身であるシュピーゲル一家。
 その現頭領は、父の代に竜戦士と共に名誉ある闘いに挑んだことで伯爵領を貰い受けたのにも関わらず、その領地を守る手腕に欠けて領地没収の憂き目にあっていた。
 今回、その娘であるカルミナ・フィラーハがメイディアの冒険者ギルドを頼りにして、つて便りで持ち込まれたものだった。
「彼女が、そのカルミナ嬢や。若いけど、こう見えて海賊船の副長さんやさかいな」
 紹介されたのは長い髪を惜しげもなく背に流しただけの女性だった。
 きちんと化粧を施せば、宮廷の美姫も唸らせるやもと言った雰囲気である。素顔のままでも、鼻梁もすっきりとして、貴石の如き輝きの瞳が印象的な人物だ。
「初めまして。父に代わり、皆さんにお願いしたく、メイディアまで参じました」
 大勢を前にして緊張しているのか、言葉にも堅さがあるカルミナに代わり、男が今回の依頼の作戦概要を纏めて話す。
 その内容は‥‥。

●ルラの海の海賊退治
 リザベ分国は南西のラケダイモンの街から三角地帯であるリザベの首都、リザベに向けての航路がここ数ヶ月の間に何者かの手によって荒らされている。
 リザベの国お抱えの海賊はシュピーゲル一家だが、この一家が襲う相手は元から悪徳商であったり、他国に関連して関税の納めが悪い船など、襲う相手は先ず決まっていた。
 だが、そんな私掠船だけでなく、何処ともなく現れて、根こそぎ船を奪われるという暴虐この上ない行為が行われているらしい。
 そして、その船には異国の人間らしい姿があったという話だ。
 つい一ヶ月前に、襲われた船から海に飛び降りて、からくも生き延びた船員が居たからこそ判った話だったが、あまりの恐怖の為に生き残った船員も憔悴しきっていて、助け出された三日後に他界したのだという。
 他国の人間が海賊行為を行っているのであれば由々しき事態であると、シュピーゲル一家に話が振られた。だが、頭領は初めの海戦で敢えなく負傷し、今は隠れ家での養生に掛かりきりである。
 零落した家の再建という、頭領にとってはまたとない機会である筈が、まともに身体を動かせないとあって、娘のカルミナに白羽の矢が立てられた。
 だが、彼女も独自に情報を探っていたところ、縄張りであるルラの海のリザベ分国海域を荒らす船は南西に港を持っているらしいと言う情報が入ったのだが、そこまでで新たな情報は消えてしまった。
「恐らく、私が調査を依頼した方がその国の者に捕まったと考えるのが妥当な筋でしょう‥‥ヒスタ大陸の‥‥」
「‥‥ま、待ってくれ」
 カルミナが紡いだ土地の名に、冒険者達からも、どよめきが上がる。
 メイの国と同盟を結んでいるジェトの国が海賊行為を行うとは信じ難い。
 現ジェト国王は厳格な王として名高く、彼の王が私掠船とは言え、同盟国のメイに仕掛けることを許可する等と、考えられないからだ。
 だとすれば、広大なヒスタ大陸を二分する巨大国の名が、自然と浮かび上がってくる。
「バの国の、私掠船‥‥なのですか?」
 否定して欲しいと願いつつ、カルミナに視線が集まっていく。
「恐らくは‥‥」
「‥‥」
 小さく閉じられたカルミナの唇が紡いだのは、冒険者達には予想の範疇であるが、その予想の中でも最悪の部類の答えだった。
「ま、そう言う裏の事情もあってや。今回に限り、何故かゴーレムグライダーとゴーレムチャリオットを支給してもらえるように話がついとるんや。をっと、詮索は無し、な?」
「‥‥」
 理由は今までの話で察している筈だと、言外に匂わせて話を続ける。
「シュピーゲル一家の船を囮に、謎の海賊船をおびき出して叩く。その際に、海上か上空から相手を叩くのが皆に依頼する仕事や。でも、人数は多くても貸し出せるグライダーだったら最大5台。乗り手と、攻撃手の2人1組での場合や。勿論、5人がゴーレムに関連する技能とグライダーを操る技能に長けている必要があるわな。それが難しい場合にはチャリオットを貸し出す予定やって。操縦者5人ならグライダー5、操縦者4人ならグライダー3にチャリオット1、操縦者3人ならグライダー2にチャリオット1。操縦者2人ならグライダー1にチャリオット1か、チャリオット2と言う選択肢もあるやろうな。二人しか居ない時だけよく考える必要があると思うで」
 面倒やからと言いながら、地図を広げて指し示す一点は、ティトルの街の何部にある島。
「一応、ティトルの街までは商船が出とるさかい、それで行って貰ってと‥‥後は、ティトルで借り物のゴーレム機器を受領して、沖合に停泊しているシュピーゲル一家の船に乗り込んで欲しいっちゅう訳や」
 実際の行動は、合流後にバの国の物と思われる海賊船に船を襲わせて、そこを叩くという囮作戦を採ることになる。
 その際に、グライダーとチャリオットで海上と空中からの二方向からの戦闘を行うのが冒険者達に託された依頼の一つだ。
 ここで、敵海賊船を叩くだけならば簡単な依頼だが、今回の依頼はその海賊船を生かさず殺さず、勘ぐられないようにして脱出させなければならないのだ。
 何故なら、一隻の海賊船を破壊しただけでは現状の海賊行為が収まると依頼主は考えていないからだ。
 海賊行為を働く船は少なくても数隻存在しており、それらの拠点を潰さないことには現状を打破出来ないと言う考えの基、出来れば戦闘に耐えうる人材を登用して欲しいと願われている。
 それは、ゴーレムを操縦出来て依頼とは言え海賊と轡を並べることを良しとする者となると、冒険者ギルドに出入りしている様な存在から探す方が手早いからだろう。
「沈めてもうたら、敵の本拠を一網打尽に出来へんよってな。匙加減、よろしぅ頼むで!」
 見送られて、ギルドを冒険者達と共に出たカルミナがうんと背伸びを一つした。
「窮屈でいけないね。どうにもお国との関係を続けなきゃいけないってのも‥‥」
 おやっと、冒険者達は斜っぱな物言いに変わった女性に向き直る。
「うちの仕事は、伊達や酔狂で出来る様な柔なもんじゃないよ」
 挑む様な視線だが、決して嫌味ではなく、相手の動きを楽しみに見ていると言った風情のカルミナ。
「手を貸してくれるのは有り難いけど、もし騎士団に入りたいって奴が居たら、辞めておきな。痛くない腹を探られたくないだろう? 危機だって言っても、海賊と組んでの仕事は後ろ指刺されるもんさ。よく考えてから、にするんだね」
 うら若き女海賊は、冒険者達を見渡して静かに背を向けて歩き出した。
 艶やかに長い髪が、彼女が立ち去った後にも太陽の匂いを残していた。

●今回の参加者

 ea0827 シャルグ・ザーン(52歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 ea3892 和紗 彼方(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea4868 マグナ・アドミラル(69歳・♂・ファイター・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea7482 ファング・ダイモス(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb0746 アルフォンス・ニカイドウ(29歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb7854 アルミラ・ラフォーレイ(33歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb9419 木下 陽一(30歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb9916 八社 龍深(38歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●サポート参加者

バルディッシュ・ドゴール(ea5243

●リプレイ本文

「物語は‥‥」
 八社龍深(eb9916)が呆として、甲板から眼下の海に浮かぶゴーレムチャリオットの試験を眺めている。
「大丈夫なのか、あの‥‥」
「多分、大丈夫ですよ」
 シャルグ・ザーン(ea0827)が龍深を指さして言うのに、余所を向いていた木下陽一(eb9419)が慌ててとりつくる様にして言う。
 龍深は依頼を受けるに際して、ギルドの人間に仕事の前の要望と言うことで、報酬の話をしていた。それはシャルグも判っていたのだが、天界人の金銭感覚はジャイアントの彼は気にも留めずに港に向かったのだ。
「金額の交渉ではなくてですね、物語分が足りないとかどうとか‥‥」
「‥‥は?」
 天界人達と共にグライダーの確認後、チャリオットが操縦者不在の状態でどれだけ水に浮くかを確かめていたアルミラ・ラフォーレイ(eb7854)が目を丸くする。
「実は、ですね‥‥」
 陽一が言うには、ギルドでのやりとりは‥‥。


◆◇〜冒険者ギルドで〜◇◆

「私、俗に言う天界人なんですが。ええ、見れば分かると思います」
「いや、判らんて」
「‥‥」
 ヒラヒラ手を振るギルドの男に、一瞬間の抜けた表情になったのを引き締める龍深。何とか気を取り戻したのか、続けて身を乗り出した。
「で、ですね。こっちに来てから約一月、物語分が足りんのです!」
「はぁ。何G分位でっしゃろ?」
 手慣れた様子で、男はメモを取り始める始末だ。
「いや、その‥‥可哀相な人を見るような目はやめて頂きたく‥‥。あなた方にとってのお酒と似たようなものですよ」
「わい、酒飲まんし」
 さらっと返される龍深。
「‥‥」
 強者である。
 どちらも、と言えそうだが。
「あ〜いやいや、リアルな話ではなく。そうですね。あなたにも心躍らせた物語があるでしょう。それを聞きたいのですよ」
「はぁ」
 困ったなぁと、頬を掻いている男の眼前に、龍深の顔がアップで迫る。
「ここは一つ助けると思ってお願いします!」
 鼻息も荒く、吐息が互いの頬に掛かる距離に迫られた男が龍深の肩を押し戻して、ゴホンと咳払い。
「あーまぁあれですな。お客さん、何か勘違いがありまっせ」
「勘違い?」
 男が何を言い出すのかと、怪訝な目になる龍深。
「せや。お客さん、物語は待っていたら湧いてくると思うてらっしゃいますがね?」
 ニッと、覗き込むような目で笑う男が続ける。
「『物語』は、自分で作るのと違いまっか?」
「自分で? 物語を‥‥」
「せや。物語は数多あれど、己が物語ることこそが、真実の物語であり唯一無二の物語でっしゃろ」
 ぽむと、龍深の肩を叩いて男は港に急ぐように言う。
「ささ。あんた自身の物語を紡いできや」
「‥‥自分が‥‥」

◆◇〜再び、シュピーゲルの船の上〜◇◆

「では、急にチャリオットが沈むことはなさそうなので、元々お願いしていたグライダー2機とご厚意のチャリオット1機、と言うことで」
 アルミナが最終確認と言うことで、恐らく同輩であろうと思われるゴーレムグライダーとチャリオットを運んできた者に伝える。
「判りました。万が一の脱出にはチャリオットの方が有利でしょう。私がこう言うっては何ですが、御武運を‥‥」
 貸し出しはされるものの、貸し手が誰とは聞かされていない。
「‥‥やはり、海賊とはいえ義侠の士とお見受け申した」
 アルフォンス・ニカイドウ(eb0746)がアルミラ達のやりとりを見聞きして、立ち去る男の取った礼がメイの国の儀礼に則ったものだと判った。それは即ち、秘密裏にも国家が関与していると言うことが明らかになったのと同義で、船に乗ってからの会話を聞く限りにも海賊船の船員達の目も決して邪な者ではないと語っていたのを見抜いたのだろう。
「このアルフォンス、非道の輩を退治するのに助力致そう」
「有り難いね。もうすぐ奴らの船が出そうな頃合いだよ。陸の者の闘い、お手並み拝見といくよ」
 海賊船の副船長、カルミナ・フィラーハが冒険者達に向かって歩いてくる。
 アルフォンスの呟きを聞いていた様子で、これから命を掛けた闘いに赴くというのに、どこか楽しそうな雰囲気さえ浮かべた横顔に、長い髪が風に揺れて見え隠れしている。
「気を遣わなくても良かったのにさ」
 気軽にアルフォンスに言う。彼が耳を隠していることを言っているのだろう。この海賊船に乗ってからは、彼らをして世間様から見れば後ろめたい家業であると言うこともあるが、本質はどうかを問うことが多い様子だった。冒険者達についても、カルミナ本人が出向いて雇ったと言うことで、一応納得しているという部分もありそうだ。
「何かあれば、船の方を手伝いましょう」
 ファング・ダイモス(ea7482)が進んで操船の手伝いを買って出るのだが、カルミナは首を横に振る。
「気持ちは有り難く受け取っておくよ。けどね、本職の方で仕事して貰う時間のようだからね」
 顎で沖を示すカルミナの視線が示す先には、遙か水平線の彼方に点のようにある影。
 海賊達に指示を出すカルミナを見ながら、惚ける者が一人いる。
「‥‥綺麗な子だなぁ」
 ギルドで見せた淑女然とした様子も良かったけれど、と呟く陽一。俄然、気合いが入るところだが、気になっていた疑問を口にする。
「ところで、バの国ってそんなに怖い国なんだ?」
「肥沃で広大な土地を持ち、国力という意味では非常に恐ろしい国よ。戦力という意味でも、恐獣を馬と同様に操って戦う恐獣騎士団が居ると聞いているわ」
 近年、開発の進むゴーレムに勝るとも劣らないとも言われる恐獣の存在が、ヒスタ大陸にある二大大国の存在を世界中に知らしめている。勿論アルミナの言う事実も、細かい部分を覗いては冒険者達も噂程度には聞いている話だった。
「こちらの準備は終わっている。それぞれ持ち場に行ってくれ」
 マグナ・アドミラル(ea4868)が甲板を示すと、乗組員達の邪魔にならない位置に冒険者達が身を隠す場所が設置されている。
「それでは、出来るだけ引きつけてくれると有り難い」
 航路と、自分達の打ち合わせで行った迎撃地点が若干離れている点についてアルフォンスは満足がいかない様子だったが、海賊達はそれ程気にしていない様子で、弓が届く距離になれば攻撃を始められるように待機している者が居る。
「相手が魔法だと、コトだけどね‥‥」
 そのままカルミナが上を見上げると、海賊と共に遠見の為に双眼鏡を持って上がっている陽一が不審船の様子を海賊に語って聞かせている最中だった。
「‥‥間違いねぇ。そんな旗は、リザベ沖に、リザベ分国に在る筈がねぇさ」
 帆柱に掲げられた旗を話すと、海賊は下の仲間に向けて合図を寄越し、甲板の上が一斉に動き始めた。
「せっかくのゴーレム機器も、乗れる者が足りぬのでは是非もなし。 貴殿らに無理を言いたくは無いが、グライダーに乗れる操縦者が二人だけでは、海賊船に接舷してもらわねば戦うこともできぬ。 どうかよろしくお願いいたす」
 巌の如き巨漢、シャルグが頭を下げるのを見て、女海賊が小さく笑う。
「返せば、白兵戦なら自信があるって言う話だろ? 無理しない程度にやっておくれ。もし相手が精霊魔法や飛び道具で来られたら、正直言ってこっちだけじゃ手が足りないだろうからね」
 シャルグの言葉に返したカルミナの指揮の下、海賊船の船員達はそれぞれの持ち場に着き、徐々に近付いてくる沖合の船に備えていた。
「重要なのは生かさず殺さず、相手に希望を持たせ続けると言う事ですか‥‥とりあえず、船はどの程度まで壊しても平気なんでしょうかね? こー。横っ腹に大穴を開けてとか、グライダーで特攻とか‥‥」
「ん。まぁ頑張ってくれよ天界人の坊や」
 駄洒落のつもりで言ってみて、それが洒落になっていない様だと気が付いた時には若干海賊達の男衆に笑顔で放置され気味だった。
「もうそろそろ、日が暮れるよ?」
「だからこそ出て来たんだよ。普段の航路で船を動かすのは日中が一番。遅い便でも港に入るにはこの時間には船を動かしていないといけないからね‥‥」
 ことが始まるまでは、船酔いに備えていた和紗彼方(ea3892)に、年下の筈のカルミナが説明しながら船の間合いを見ている。
 つい先程まで海上の点だった船が、今では明らかに船だと判るようになっていた。
「ではこれで」
 ギガントアックスを袋から出して甲板隅に置き、その横に身を横たえるシャルグの腕にはハンドアックスが。
「海賊だー!」
「下手な芝居だよ」
 吐き捨てるように。しかし、何処か楽しげに言い放ったカルミナが相手船との距離を確かめながら立ち上がる。
「前進全速! 右舷、気をつけるんだよ!」
「!」
 相手船の左側に飛び込むのだと、カルミナの言葉で知った冒険者達は船が大きく揺れた瞬間に半身を隠しながらその手に武器を構えて立ち上がる。
「ほら行けっ!」
 初めの打撃を与えたのは、上空にいつの間にか発生した暗雲から落ちた雷だった。
 その一撃が、相手の船の動きを一瞬だけ止めた。
「こっちは任せろ!」
「今よ!」
 ファング、アルミナが各々の武器を構えて甲板で迎撃態勢を取る。その横を、シャルグ、マグナが盾で矢を警戒しながら走り抜ける。
「ボクも負けてれないよね。‥‥そこかな!」
 頭上の陽一の攻撃を見て、弓で攻撃した彼方の矢は、雷に怯んだ船員の肩口に突き刺さる。
「うむ!」
 でかしたという言葉は飲み込んで、敵船内に飛び込んだマグナの右脇腹を狙う反り返った細身剣。
「甘いわ!」
 刃の影を見た刹那に、斬馬刀の刀身を泳がせて、反撃の体勢に移った瞬間ホークウィングの上を敵の刃がかすって流れた。
「!」
 堅いと、驚きの表情を敵が見せたのは、僅かに瞬きする程の時間のみ。
 呼気さえも残して、男はマグナの振り抜いた斬馬刀の勢いを身体全体に叩き込まれて吹き飛んだ。
「流石、であるな」
 アルフォンスは敵の攻撃を受け流し、輝く剣で斬りつけていく。
 マグナの一撃で、曲がる筈のない方向に関節や身体が折れ曲がった仲間を見て、怯むかと思われた敵の動きは、僅かな乱れの後には思っていた以上に統率の取れた反撃を見せ始める。
「これは‥‥」
 左手の篭手で受けた敵の剣を見て、更に足裁きを見ると我流ではなく、何らかの訓練を受けた者の動きに見られた。
「‥‥」
 声に出さず、ヒスタ大陸からの侵略者という言葉を胸に走り込むアルフォンスの剣が海賊を薙ぐ。
 その横で、手近にあった樽に一撃を喰らわせて、破壊の跡が見えるように、恐怖に駆られるようにと実質的な被害より破壊の跡を優先してハンドアックスを振るうシャルグが居る。
「旦那!」
「そろそろ頃合いであろうか?」
 してやったりと、破顔する海賊にそろそろ撤収をと告げるアルフォンス。
「ならば、少しだけ我が輩に時間を!」
 シャルグが身を翻し、彼が抜けた穴を敵はシュピーゲル一家の船目掛けて突進する。
「キミ達、それはずるいと思わないかい?」
 言っても詮ないことと知りながら、龍深は攻撃を避けることに専念し、そんな彼に挑むことなく敵は船を乗り越えて来ようとする。
「それはずるいってば!」
 戸口を壁にしながら矢を射掛ける彼方によって、くの字に折れる敵海賊。
「まだ来ますか!」
 長身のファングが、重心が高いにもかかわらず、船上での身体の動かし方の勘を取り戻した後はグレイブを竜巻の如く旋回させる一撃で海賊の小さな盾を木っ端みじんにしていく。
 同時に、防御した上からグレイブが敵に叩き込まれて、甲板を跳ねるように吹き飛ばされていく海賊が、味方であるはずの海賊と団子になって倒れていく。
「待たせたな!」
「!」
 曇り空の下、シャルグが豪快に掲げるギガントアックスが両陣営の者達の目に飛び込んでくる。
「! 押さえつけろ!」
「させない!」
 巨大な武器を構えるシャルグを危険と判断してか、敵が殺到する中に陽一の呼び出した暗雲から雷が突き刺さる。
「行きます!」
「ええい、邪魔であろうが!」
 ファングのグレイブとマグナの斬馬刀が唸りを上げる。
「沈め、海賊共!」
 空白となった一瞬の隙を付いて、シャルグの上腕が爆発的な膂力で空気さえ引き裂くギガントアックスの一撃を海賊船に叩き込む。
「させません!」
 奥に居合わせた敵目掛けアルフォンスの放った気の弾がファングを狙っていた弓兵を怯ませる。
「引き上げるのである!」
 用は済んだとばかりに、海賊船から引き上げるシャルグには目もくれず、敵は吃水まで及ばんとする亀裂に飛びつく様にしていた。
 船内に走り込み、亀裂の具合を確かめようとする者も居る中で……。
「今だ!」
 最後まで残っていたマグナが指示を出し、シュピーゲル一家の一人が海面に波飛沫を立てる物を指差して大声を上げる。
「嬢ちゃんと坊やが落ちたぞ!」
「えーボク!?」
「僕ですか?」
「俺?」
 素っ頓狂な声を上げる彼方と龍深の口をカルミナが塞ぎ、見張り台の海賊が肩を振るわせて笑いながら陽一をしゃがませる。
「いいかい、合わせておきな」
 まだ不平を漏らす彼方と龍深をグライダーに向かわせて、アルミラに合図を寄越すカルミナ。
 人形を投げ入れて、乗組員が海へ落ちたのを救助するというのが彼らの立てた時間工作だ。
 勿論納得済みのアルミナは、一人グライダーの元で息を飲んで飛び立つ機会を待った。
「今だ、頼んだよ!」
「ほれ、行くなら行ってこい」
 カルミナ達が陽一、龍深の背を叩いて急がせる。
 グライダーを駆るアルミナ、龍深が、後ろに彼方と陽一を乗せて舞い上がる。
「さて、何処に行くと思う?」
 アルフォンス、ファングを呼んで海図を広げたカルミナが自船の向かう先を示して問いかける。
「‥‥略奪する為の船があの大きさなら、食料と水はどれだけ積んでいるのであろうか?」
 アルフォンスの問いに海賊の副長が三日と短く答える。
「‥‥なら、この円の中さ」
 言って海図の上に線を引くカルミナ。
 その描かれた線の中にある島は、名もない沖合の島だけ。そして、グライダーの四人が無事に帰ったところ、船で残った者達の想像は間違いなかったことが判った。
「ですが、一隻だけではありませんでした‥‥」
 自分達と遭遇した船以外に、一隻の船が島に錨を降ろしていたと、アルミナは告げる。
「そうかい‥‥なら、仕掛けるにしても時期を見ないとね‥‥それはあたいらが見ることにするよ。また、ギルドに頼みに行くことになると思うけど、その時は頼んだよ」
 冒険者達に再会を願い、シュピーゲル一家の船は一路ティトルの港を目指すのだった。

【To be continued】