【海賊戦争】〜潜入〜
|
■シリーズシナリオ
担当:本田光一
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:5 G 97 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月19日〜01月26日
リプレイ公開日:2007年01月31日
|
●オープニング
メイの国は西方、リザベ伯爵領地の沖合に、突如出没する謎の海賊船の姿有り。
その報を聞き、討伐のための依頼に参加した冒険者達は、協力者達と共に海賊船を襲撃、作戦通りに海賊を泳がせることに成功した。
謎の海賊船は、他国の介入ではないかという疑問もあり、事前に入念な調査無しに一網打尽に叩き潰す事は難しいと、海賊船を一時的に逃がし、寄港地を探る策を取った。
その寄港地は無事に協力者の手により、調査が行われた。
と、その時までは思っていたのだが‥‥。
●〜潜入〜
「あんさんらに会いたいっちゅう人が来てましてな」
ギルドの男が、人払いをした部屋に冒険者達を通した。
他の者達からは離れた場所に有る部屋の中には、一人の女性が彼らの到着を待っていた。
「お久しぶりですわ」
「カルミナさん‥‥」
少し、やつれた表情のカルミナ・フィラーハ。
纏めて豪奢に結い上げた長い髪を、帽子の中に納めた少女を知る者は、カルミナの様子が少し前と異なっていることに気付いた。
「さて。今回の依頼なんやけど、このお嬢さんの船が実は海賊の船でな。メイの海をどうもここ最近荒らす海賊船が、どうにも他国の船が偽装している節があるっちゅうので、本家本元、メイの海賊であっても話が通せるシュピーゲル一家の協力を取り付けたという訳や。でも、彼女の存在はやっぱり海賊っちゅ訳で‥‥後日、戦場で会っても互いに恨みっこ無しっちゅう事で宜しうにな? で、や。この依頼を受けて貰える場合には、ここで見聞きした事は他言無用で頼むで。あ、依頼を受けない場合には部屋を出てもらっても構わんさかいな」
充分な時間を待ち、男は話を続ける。
「なんでも、この前の依頼で撃墜した船が逃げ込んだのはメイの国の南に有る島。地図で言うと、ここになる訳や」
ティトルの港から南に向かい、数時間という距離の島だ。
確かにその島は、メイの国の交易船が狙い易い位置にある。
「お話しでは、この島に二隻の船が来て居るっちゅう話でしたな?」
男に頷いて、カルミナが島を指して続ける。
「こちらの島に、皆さんが追い込んでいただけました船と、もう一隻の同型の船がありました。乗組員が調査に向かっていたのですが、島に近付くに際して、新たな船が島に着くのを見つけて、一時的に島への上陸を断念しました」
「で、今回ギルドに追加で調査を依頼されて来たっちゅう訳でな。島に近付いた船は帰ったらしいけど、詳しい調査をするには戦力というか、そっちの方面にも詳しい人間が欲しいっちゅうて言われてるんや。島の詳しい様子は行きがてらで聞いてくれたらな」
詳しくはと言いながらも、島の位置と今回の依頼での参加者にゴーレム機器を貸し出してくれる後援者が居ると付ける。
南方の植生を持つ島は、およそ冒険者達の考えうる南の国の島と同じであるという。
人の手は入っておらず、海にも岩塊がせり出す岩場と白い砂浜が周囲を囲っていて、茂る植物が奥まで覆い、辛うじて切り開かれた場所だけが人の居住空間と成り得るという状況だ。
更に、港となっているのは三日月型の入り江で、島には小舟で上陸している。上陸地点から直ぐに、内陸部に向かって船から下りた者達が入っていく道があるらしく、遠距離からは辛うじてそれらが確認出来たらしい。
「何にせよ、ヒスタのバの国が絡んで来るとなると、下手したら国家間の問題にもなりかねんさかいな。冒険者ギルドで何とかこれに当たれれば、未然に不幸な被害を防げるっちゅう訳や。よろしく頼むで!」
冒険者達を送り出すのにも、男は気合いを入れていつにない勢いである。それだけ、この海賊戦争が彼にとって意味のあるものなのだろう。
確かに、バの国からの海賊行為がこのまま続くのであれば‥‥。
事は、重大な事態へと変わるかも知れず、全ては冒険者達に託された。
●リプレイ本文
●島へ
「ふふふふ。お・の・れー冒険者ギルドの奴め〜」
八社龍深(eb9916)は今日も元気だった。
どれ位かというと、目的の島に乗り込む直前に、興奮して血涙を流せる程度にだ。
依頼を受けて船に乗り込むまで、またもや冒険者ギルドの男に有る意味で手玉に取られたことに、今更気がついたのだ。
曰く‥‥。
「私は物語分が不足しているのであって、冒険分が不足してるわけではないのだ! と、言うことを踏まえ、私は物語分を要求する!」
「毎度! お客さんにはかなわんなぁ。ほな一肌脱ぎましょ。ちゅ〜て、変な期待したらあかんで? うちは真っ当がモットーのメイの冒険者ギルドやさかいな。もしかしたら、今度までに入荷するかも知れへんさかい、あんじょう気張って冒険物語して来てや〜〜!」
「へ?」
鳩が豆鉄砲を喰らったという、龍深の故郷での言葉がある。
正しく、船に乗り込むまでの彼がそうだった。
「ん〜。元気だね〜」
と、元気そうでないのは和紗彼方(ea3892)。
行きは良い良い、帰りは食糧無しが彼女の現状だった。
シュピーゲル一家から、往復で余裕を見て往復七日は食糧が要ると聞かされていた筈なのに、五日分しか保存食を持って来なくて、到着する前から腹ペコさんなのだ。
「仕方が無いねぇ。お前達、船庫から必要分だけ分けてやりな。お代は陸の奴と同じでいいよ」
カルミナ・フィラーハは肩をすくめて見せて、彼方以外の者でも食糧が無い者は言ってくれと続ける。
船庫から不足する食糧を分け与えられ、定価の代金を払って糧を得た者も僅かばかり居たのだが、目的とする島を目前に、夜を待っての上陸準備に追われるのだった。
●島上陸
夜陰に隠れ、潜入した島内でシャルグ・ザーン(ea0827)は四回目の地図の記載に掛かっていた。
「我が輩の、貴族としての嗜みだけでは如何ともし難いものがあるか‥‥」
「いや、貴殿に任せきっている我等に言えた義理でなし。それに、作戦に必要な情報を正確に持ち帰るための算段としてこれ以上の策はないと思う故にな」
と、揺るがぬ自信を持ってアルフォンス・ニカイドウ(eb0746)は報告を終えて降ろしていたマフラーを巻き直し、顔半分を覆う様にして再び立ち上がる。
「では、次の会合の時に‥‥」
眼で別れを告げようとしたアルフォンスの前に、仲間達が丁度帰ってきた所が映った。
立ち去ろうとしたのを少し待ち、話を聞くアルフォンス。
「うむ。ルメリア殿達は何処を調査したのだったかな?」
「私が海賊を見つけたのは、この丘を降りた場所‥‥そう、半島の右手を‥‥」
シャルグの地図に指を添え、ルメリア・アドミナル(ea8594)は物陰からブレスセンサーで島内の人の動きを調査した結果を続ける。
「一日にそれだけの人数が行き来したとなれば、巡回路と見て間違いないであろうな」
「ええ。一緒に見てきましたが、海賊達は気配を断つこともせずに動き回っていましたから、奴らはこの島での優位を持っていると考えているのでしょう。少なくとも、私達の上陸を知ったという気配はなかったですね」
アルフォンスに頷いて、ファング・ダイモス(ea7482)がルメリアの報告に付け足して、罠は若干の獣除け程度が施されていた件と、海賊と思える風体の人物達の中には今のところ人間とエルフが見られたと告げる。
「大まかな人数と言えば、延べ人数で五十は下らないと思います。ただ、それもあくまで私達が当たった場所だけですので」
「今度は、もう少し別の場所を見てみる」
海賊達がアジトとしている場所まで、少し回り込めば行けるかも知れないとファングとルメリアは地図と自分達が見てきた光景を合わせて決断したらしい。
「我が輩も、聞いただけで絵図を足しているのだが‥‥確かに、回り込めるのか?」
「双眼鏡で見た位置は、確かにここだったから」
木下陽一(eb9419)は、アルミラ・ラフォーレイ(eb7854)に乗せて貰って飛んだ高々度からの風景を思い出して一瞬気が遠くなる。
「あーもう一度って言うのは正直勘弁して欲しいけどね」
アルミラを信用しない訳ではないのだが、ゴーレムグライダーには陽一達が考えるような安全装置という部品は何も無い。
それが天界人の感覚では理解出来ない部分かも知れないし、かえって新鮮みがあるのかも知れない。
だが、落ちれば死亡確実な高度から身を乗り出して双眼鏡で下を見るという行為は、一生にそう何度も経験したくないのには違いない。
「大丈夫。敵にこの高度では見つからないわよ」
と、アルミラは自信を持って答えてくれた。だからこそ、自信満々に言われる高度から命綱も無しに真下を見るのには勇気が120%では足りない位だった。
「ジャングルの真下までははっきり判らないけれど、朝の時間に昇る煙の数は十四だったから、相当数は居ると見て良いと思う」
「建物の数や規模は?」
地図の端に煙の数十四と、記してシャルグが眉を寄せて尋ねる。
「馬…ってか恐獣小屋はあるかどうかは判らないけれど、動いてるのは百人くらいだったと思う。装備や服装は‥‥ファングさん位かな?」
思い出しながら、皆を見て答えた陽一に‥‥
「‥‥肌の黒い奴は?」
スレイ・ジェイド(eb4489)が値踏みするような目つきで尋ねたのに、彼の求める答の意味を考えて陽一は記憶を改めて探る。
「‥‥居なかった、と思います」
「‥‥カオスニアンは居ないのね? それは良かったわぁん」
ねっとりとした口調でスレイが舌なめずり。
調査に来ているだけなのだが、もし戦闘が有れば彼は自身を守るだけでなく、敵に今彼が尋ねた存在が有れば確実に仕留めるまでの闘いを仕掛けるのではないかと思わせる危うさが漂っていた。
「嫌ねぇ。偵察の目的は覚えてるわよ。この島に何があるのか。もう一隻の海賊船の出所。そうでしょ?」
スレイがまるで自分に向けられた視線の意味を知っていると言わんばかりに、軽い口調で返す。
「もう一隻の海賊船って言ってたわね。そっちの方は補給が目的なのか、同様に海賊行為が目的なのか。調べなきゃね」
「拙者も行こう。海賊の使う武器や装備品など、興味があるのでな」
立ち上がったスレイに頷いて、アルフォンスが共に歩き出す。
「海賊に魔法を使うのが居るかどうかって訳ね? いいじゃない。そう言うことを調べるのも面白そうだしね。行きましょう」
スレイは実に楽しそうにアルフォンスに告げて歩き出す。
「‥‥」
彼の上機嫌が少し理解出来ない者達は首を傾げるのだが、ファングやシャルグは戦場を長く経験しているだけに、彼の言動の裏にある、闘いに向けられた知謀を垣間見て黙したまま送り出した。
「あなたが彼から先に聞いている話は?」
二人が去ったのを見送って、ルメリアはシャルグに向き直る。
「うむ。どうやら海賊共は戦闘訓練を行っているらしい。しかも、その訓練は正規の騎士が身につけるものと、戦場での剣との混ざり合ったものとな。バの国と確認出来る証拠も掴めはしなかったが、使役されているような存在もないとのことだ。あくまで今のところは、救出対象となる存在は無いことだな、有り難い話だが」
「ただいまー」
彼方が小さく、しかし明るい声で手を振ってくる。
「帰ったの。大丈夫?」
アルミラと共に高々度からの偵察を行ったもう一人に、陽一は色々な意味で尋ねていたのだが、彼方本人は気がついていない様子で。
「うん。ボクは大丈夫だけど?」
彼方がそれまでの明るい表情を一転して眉根を寄せる。
「あ、でも‥‥、何だか船がまた来たみたい」
「‥‥」
「急ぎましょう。他の人も次に合流した時には再調査は切り上げて、帰還した方が良いでしょうね」
「‥‥時間はない、と言う事であろうか」
あくまで危険は避けるべきとのルメリアの言に、シャルグも確かにと唸るしかない。
「同型の船として、それぞれに五十人の乗組員として‥‥一戦交えるという訳にはいかないでしょうね‥‥」
ファングも揃い始めた情報を元にして、何らかの回復手段、もしくは士気を下げる事のない圧倒的な何かが相手にあると見ていた。
初めの襲撃で、相当数の死傷者が出ていたと思われる相手に、全く焦りの見えない事が不気味だったのだ。
「船に戻るにしても、今出ているみんなの帰りを待ってか‥‥」
一家と共に出たカルミラ、連絡係に残っている龍深とアルミラには次の便で話をしてと、算段をして解散した冒険者達は再び一日後に集まり、シュピーゲル号に向かう。
「話せる話なら聞かせて貰えましょうか?」
帰路に、疲れた表情のカルミラに声を掛けた龍深と、海賊の若い頭領の会話を陽一達はチャリオットの上で聞くとも無しに聞いていた。
「海賊船がらみで右往左往だけならお疲れ様で済むんですけどね」
「‥‥」
同じ様な想いをしている者が居るのだと、陽一もカルミラの顔を見て返事を待つ。
「‥‥いや。何でもないさ。このヤマを終わらせる事が大切だからね」
「へい」
カルミナに同意して頷く海賊達。
海の薫りが、チャリオットの移動で背後に吹き飛んでいく。
遠くなっていく島影に、確かに冒険者達は海賊船と思われる船を三隻と、新たに出現した同型船の存在を確かめる事が出来た。
「‥‥やっぱり、あれはバの国が?」
「‥‥見慣れぬ流派だった故に、拙者では如何とも言い難いな」
ルメリアに短く返して、アルフォンスは遠くなる島を見つめる。
「どう思われますか?」
「我が輩には、どう考えてもバの国が海賊を偽装してメイの国に攻め入る用意をしているとしか思えぬのであるがな‥‥矢張り、決め手に欠けるといった所であろうよ」
「確かに」
ファングの問いに返したシャルグ。その答こそ、ファングも半ば浮かび掛けていた思いだけに、頷く以外にはなかった。
「あんな何も無い島に二百近い戦闘要員と、船‥‥しかも海賊程度じゃない、れっきとした騎士階級の剣の筋よね‥‥面白いじゃない‥‥恐獣でも居れば、一発だったのにねぇ」
「ふーん?」
スレイの呟きに首を傾げている彼方だが、もし戦闘になればあの島から生きては帰られなかっただろう事を考えると、今回の調査は運が味方したのだろうと解釈する以外になかった。
「お疲れさまー。ほんと、便利だよねー魔法使わずに空飛べたりするんだから」
アルミラに駆け寄って労う彼方だが、直ぐに別の会話に話題が変わるのも彼女らしい。
「そうね。でも、誰もがと言う訳にはいけませんからね」
明るく彼方に言われて苦笑するしかないアルミラ。
自身の任務、出来ることでの貢献は確かに今ここにあるのだと実感していた。
「島に来た船の大きさは、ほぼ接舷している船と同じだったわ。艀を出して荷を載せ替えていたから、四隻目の船が搬送船だと考えて良さそうね」
と、発見した船の状況を報告に出て、途中でチャリオット組の帰還に出くわしたアルミラは告げる。
仲間を乗せて飛ぶことと、伝令役の二つを買って出る形になり、アルミラはグライダーの背に跨らない日は無いと言った多忙ぶりだった。
丁度、帰還は頃合いだったのだろう。
事実、その数日後に彼らが上陸した場所は海賊達の露見する事となったのだが、それは冒険者の知る由もない話‥‥。
【To be continued】