【伊賀<煙りの末>】 出口なし! 結

■シリーズシナリオ


担当:紺一詠

対応レベル:5〜9lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 30 C

参加人数:10人

サポート参加人数:3人

冒険期間:04月26日〜05月03日

リプレイ公開日:2006年05月04日

●オープニング

●最終回!
 千秋楽、大団円、土壇場、どんづまり。
 四番めのはなんかイヤだし、なかったことにすることとして。
 おしまいってこと。終わらなきゃ始まれないってこと、使い古された言い訳だね、けれども真実は曲げようがないから手垢のせいで赤錆びてゆく。
 さぁて幕引きの色彩は如何に? 深紅だの萌葱だの着物をとりかえる自由さで、お好み次第、夢色芝居はいつも花吹雪。

●どこにでもある夕食の風景・憂色変
「男手一つで地道に育てた息子は最近めっきり冷たいです、天国の蓮華さんー!
「‥‥琥珀様。酔っちゃいましたか?」
「気にしない、気にしない。いつもあんなもんだから」
「俺は愛という名の紅蓮地獄に、今日も防寒服なしで生きてまーす!(注:紅蓮地獄は八寒地獄の別名のことなので、とっても寒いの)」
「気にしないでおこうね、うん」
 狩野琥珀のこさえた鍋はちょっと塩っ辛い青春の味、ってそりゃ甘酸っぱいか。火の気をたっぷりじっくりくわえて、味付けにつかったどぶろくの酒精はとんだはずだのに、琥珀は一口ごとにすすりなき、
 狩野柘榴はずずっとわざわざ音を高くして椀につけた口からすする、お行儀悪い? そんなことないよ、野外は大雑把と無調法こそむしろ礼儀と教えられたから、熱いのは苦手なシャラ・ルーシャラもふぅふぅしながらがんばるの、むぐむぐごっくん‥‥あちっ。みゅう。
 柘榴は最後の一口まできちんと腹におさめてから、ごちそうさまでした、を合掌の気持ちで溌剌と。
「左は、今日はどうだった?」
「柘榴さんはどうです?」
「俺? 俺は楽しかったよ、ごはんもおいしいし」
 みんなといれるし。楽しくないわけがない。
 ――‥‥宵闇、篝火の薪がぱちぱちと内側からくだける音、ささやかな灰へとろける過程、それはどことなく波の囁きに似ている。遠い遠い、でも還りたいと思ってしまうところ、あたたかな海。春の寝待ちは、糸を裁つように短くなった夜がらに急き立てられながら、けれども皆なんとなく眠れないでいる。しかし、言葉は迷い子になって、堀田小鉄が、そうですー、とようやく質問を胸底から引っこ抜いてきたのは、皆が皆、茶碗をからにした汐合い。
「ところでー。左さんの、今一番見てもらいたい人って誰なんでしょかー?」
 その人を思い浮かべながら、明日からの稽古をがんばるといいのですー。左は、こき、こき、と、頭を振りながら答えていわく、
「お姉ちゃんかな?」
 血縁、とは、また意外なところからのぼってきたものだ。エリーヌ・フレイアが興味深げに、掛け合いをひきつぐ。
「そういえば、以前にも家族のことを訊こうとおもって、そのままになってたことがあるわね。お姉さん、いたんだ」
「うん。でも、お姉ちゃん、家を出てったからなぁ。ずっと逢ってないんです、左が忍法うまくなったところを見れたら、びっくりしますよー」
「ふーん」
 出てった・出てっていない・でいえば狩野家のほうがよりぐっと複雑なわけだから、なんとなく親近感。柘榴は、ぱん、と手と手をはたいて、夜気はぴりとみじろぎする、気合いだっ。
「じゃさ、もっとお姉さんびっくりさせてやろうぜ! 俺もいっしょにがんばるからさ、楽しんでこうな!」
「うん」
「あ、眠るまえに私も質問させてちょうだい。湖心の術。どうやっていつのまになんのために覚えたのかしら?」
「琥珀様に教えてもらったんですよ。あの夜のことは一生忘れません(ぽ)」
「‥‥そうなの、そういうことなの。おめでとう、琥珀さん」
「祝福いらないから。罵倒とか呪詛のほうが、まだマシだから」

●千賀地さん、ただいま
「皆様、たいへんおつかれさまです」
 『でした』ではなく『です』ときたものだ。
 現在型。
 まーだまだ終わっちゃいない、でも、終わらせなきゃいけない。
「皆様のおかげで、啓蒙も順調なようで。‥‥性癖は‥‥いや、もういいです。人間ってそうそう変わるものじゃあありませんですし」
「左はいつも左ですからー☆」
「できましたらねじまげたくなるときもありますが、こう」
 こう、こう、こう。
 千賀地保長は雑巾しぼる手付きをしてみせる、かたちとしての雑巾はなしだから、空気はよじれず、音もなく、むなしく時のふりつむのみ。
「伊賀へお出かけになるのですか? それでは紹介状を用意しておきましょう。桜はとうに散ってしまいましたが、ちかごろは風もあたたかく、遊行にはよい季節となりました。皆さんの御盛運をお祈りしております」

●ひさしぶりに気合いを入れていこう、気合いを入れるべきでないところで。
 精霊魔法でどこまでできる(戦闘以外のことを)とか、受けと攻め(楯受けは一度きりなの〜♪)とか、外道なものばかりお送りしてきた、やるなと云われつづけてもやりつづけてきた、すみっこの企画。おしまいはこれだ、
『朝まで生討論。常々オーラ魔法(オーラ)は比喩をつかうまでもなく、存在だけでやらしいと思うのですが、どうでしょう?』
 よし。では、まかせたからな。フリだけかよっ。

▽上野・左
体力こころもちついたかな? 少しは耐えることをおぼえてきたかも、でもまだ餌はいりそう。
おねえさんがいたらしい。
おねえさんがいたからこうなったというより、こいつがこんなだからお姉さんが――だと思う。たぶん。





いや、だってさ。桃色だし。
「ぼでぃ」だし「ぱわー」だし「ほーるど」だし「まっくす」だし。どっからどうみても絶倫としか読めないじゃないか、ねぇ?(←読めません)(絶倫というのは「すぐれている」という意味で、べつに○○が××というような意味は、これだけではないのです)。

●今回の参加者

 ea0062 シャラ・ルーシャラ(13歳・♀・バード・エルフ・ロシア王国)
 ea6534 高遠 聖(26歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea7950 エリーヌ・フレイア(29歳・♀・ウィザード・シフール・フランク王国)
 ea8968 堀田 小鉄(26歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea9460 狩野 柘榴(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea9805 狩野 琥珀(43歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb1516 片桐 弥助(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb1565 伊庭 馨(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb1861 久世 沙紅良(29歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2277 レイムス・ドレイク(30歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

白河 千里(ea0012)/ 高槻 笙(ea2751)/ 狩野 天青(ea9704

●リプレイ本文

●助っ人は見た! 初日の狂宴に交錯する男女の陰謀とボケツッコミ。そして今明かされる驚愕の真実!?「実は(実話)‥‥」この場合、登場人物欄の三番めくらいが犯人役なお約束だ。
 三という数値の妙、それを序列に、このときは、
「私?」
 すでに副題の域を超えているところで如何わしいことを指摘される、たしかに、エリーヌ・フレイア(ea7950)ですね。けれど、そんなの身に覚えのないエリーヌ、うぅん、と、困惑あらわに青い髪をぶらして思考するが、当たり前だけど、いっこう突き当たるところは浮かんでこない。まさか失効の記憶のことじゃないわよね。
「私、なにかしたかしら?」
「そうだね、エリーヌくんが犯人だ」
 すると、久世沙紅良(eb1861)、いつも御題の提供ありがとー♪、うんうん、とひとり首をふって合点しているが、それがまたエリーヌにとっちゃ訝りをひときわ濃くするばかり。沙紅良、ふと気色をきびしくするとエリーヌへまっすぐ向き直る、いかにも深刻を打ち明けんとする子羊のまみえ。「キミはとんでもないモノを盗んでいきました‥‥」と、どこかで聞いたような出だしには、
「私の心です」
「さぁて、と、遠出になるから、きちんと荷物の整理しなきゃいけないわね」
 今はこれが精一杯、むしろ、いっぱいいっぱい。エリーヌ、ほとほとと薄羽をはためかせて愛馬のルフィアに近付くと、整理整頓早寝早起きのできる良い大人が良い子どもをはぐくむので、沙紅良は良くないおとなの放置をくらう、いつもどおりの平和さです。
 ――それは、さておき。
「いざ最終特訓です!」
 、なのですよ。ところで、さいしゅーとっくんとちゃーしゅーぱっくんは似てますよ。後者はなんだそれ。レイムス・ドレイク(eb2277)にとっちゃまだたった二度めの、けれど、やっぱりこれで有終なのはどうしようもなく、だからこそ自覚とその進展たる鋭気は好ましい。レイムス、黒と白からつくって青を添える端整なおもざし、ぎゅっうっとして、めらめらして、
「私もこうしてオーラを身に付ける事が出来ました。さあ左さん、お互い精進して成長しましょう」
「それは頼もしいですね」
 伊庭馨(eb1565)は応えて、さらなる問い、本人としては会話を募らせるための礼儀の片鱗であったのだけれども、結果的には――‥‥、
「それで、どのようなオーラ武芸をおさめになったのでしょう」
「まだ使えません!」
 ――――。
 しかし、レイムス、どっかの製薬がごとく後背をあめあられとちらばる白鳩の群れなど知ったこっちゃない、と、いうふうに、
「具体的な処方はまだ修めてません。けれど、可能性を獲得したという意味合いは、これからの生涯において大きいです」
 はぁ‥‥。そんなものなのかもしれない。
 ごうごう燃えさかるのはいいが、あんた自分がハーフエルフってこと忘れてやしないか、おーいぶっちゃけ怒り以外でも狂化ってあるんだぞー、瞳がうっすら熱色に帯びているのはこのまま置いてきぼりにしたらまずい前兆かもしれぬ、馨、ではどうしたかというと――しっかり置いてきぼりにした。
「ハーフエルフの方の苦悩は、私などにははかりしれません。おひとりのほうがよろしいでしょう」
 そういう言い方も、ある。
 そして、彼自身もまた人知れずということはないけれど、苦悩をかかえる。知ってしまったことを知らなかったことにできるほど、人間、都合はよくなく、消却の不出来な開放形質。因みに「あれ」を知るのはほんの一握り、左本人と、彼をあずかる千賀地ぐらいが通じることで――だから「馨」が「千賀地」にたずねたという事実が、たまたま、赤玉‥‥どまんなか、みたいなものだった。
 伊賀は、小さい。
 その気になればなにごとも今日だけですませられるほど、明日を知らないくらい、に。小さい。
 伊賀盆地は東は布引山地、西は大和高原、南は高見山地に囲まれ――妖怪が川流しする椀ほどの偏狭に、そこでうごめく人々もまた繭のように微細で、ならばきっと心も心のなせる御技も小さすぎるでしょうに、彼らの不幸は少なくない致死量を生み出して。
 しかし、おなじことを案じる高槻笙から、馨へ、行きがけに示唆とその付随、
『お気を付けください。姿の見えない悪意のような‥‥隠形の鬼のような‥‥しかし、あえて具象するならば、』
 しちゃうの、具象? 果敢にも。ごて、と、手渡しされる。煉瓦のような厚み。
 ――まるごとおーが。
「ひねりましょうよ、もう少し。まんま鬼じゃないですか」
 かといって、まるごとすくろーるだのまるごとしゃらちゃん(シャラ・ルーシャラ(ea0062)「‥‥はう?(いろんなもの想像中)」なお、人名の抽出は気まぐれです)だの押しつけられても、もっともっと困るでしょ? つか、べつに馨も、律義にもちあるかんでもいいんじゃないかと。
「いえね、この水面下での攻防もおしまいかと思うと、いくらか感傷的な気分になりまして」
 ぺたんな胸が(男性並み)(男性だし)きゅんきゅん☆きちゃうっと。
 かといって、まるごとおーがをまるで恋人のようにぎゅっと取りすがらんほうがいいんじゃないか、と、誤解されるぞ? そんなにしてると、そら、荷をまとめているエリーヌ「そうなの、馨さんまで‥‥。みんな幸せそうでうらやましいわ」真似はしたくないけれど、と、小さく付け足してやっぱり放置。青眼とは歓迎の意をくむ熟語であったはずが、文字通りのエリーヌの青眼はどこぞのさいしゅーとっくん・ちゃ(略)よりも寒く、さて馨のどこをどういうふうに彼女が把握したかは、あとからご本人にご確認のほどを。
 しかし、各自のいったりいわなかったりするとおり。
 今日の日は、火の落ちるように、さようなら。明日は今日の続きで「依頼」もまだ少しはのこっているけれど、行程は総じて七日間、虹を区別するにはちょうどいい数、それはさながら絵筆で一の字を書くように、薄まりながらも続きそうで、いつかは必ずとぎれる・墨の尽きる。
 ま、そういう郷愁に似た感傷とも無縁がいないこともなく、六尺ちかい伊賀忍ひとり。
「おまえが左か‥‥」
 堀田小鉄(ea8968)に取り次ぎをたのんで、片桐弥助(eb1516)は左に立ち会った。
「左くーん、弥助ししょーですー。物知りだからししょーなんですー。忍者ですけど黒くないんですー、だから忍者じゃないですよねー?」
 小鉄の紹介もそこそこに、じろじろ、と、ぶしつけに役者を決めるように品定め――似てるような、似てないような。甲斐より左のほうがたしかに普通のおんなのこにみえるのが、かえってちと腹立たしい、男だよ(肉体的)。
「左。甲斐ってな姉ちゃんがいるってホントか?」
「いますよ」
 けろりと答える。弥助が不機嫌にだまったのをどうとったのか、左、いそいそとお節介にも接ぎ穂を。
「姉さんは私とちがって、優秀な人でしたよ。だから、いろいろ見えすぎちゃって、いっつも不満いっぱいの人だったから、家を出てっちゃいましたけど」
「おぉー。ゆうしゅーですかー。弥助ししょーみたいなお人でしょーか?」
 小鉄の親切が、とめどないとどめ、弥助の額にばってんな青筋たたせて、ぴきっ、と、砕ける幻聴。ともしい抑圧がとうとう、必然、裂けた。がしっ。
「やんやん。愛って痛い、交歓って苦しい」
「やかぁしっ。とりあえずお前ぇは俺の八つ当たりを受けねばらなねぇ義務がある!」
「なんでー?」
「姉の罪は弟の罪! え? 妹? 寝言は寝て言いやがれいっそこのまま世界の果てまで寝てしまえそのときはいっしょの布団と枕と行灯は消してってそういうのを寝言というんじゃー!」
「おぉー。布団と枕と行灯の漫才とりおをネゴトっていうんですねー(誤解発生)(でも、びみょうに正解な気もする)」
 弥助、やにわにへっどろっくへっどろっく、すたんあたっくの改訂版? 自在鉤のかたちに曲げた利き腕で左の襟首を腕ごとかためてると、さすがに被害の度合いに気づいた小鉄がふたりを分けるように取り付く。
「弥助ししょー、左君をいじめちゃダメですよー」
「違うちがう、こてっちゃん。これは、親愛の情の証」
「しんあいのじょー?」
「そ。大好きってこった」
「へー、そうなんですかー」
 弥助ししょーは左君が大好きなんですか。狩野琥珀(ea9805)さんとは恋敵(と書いて、らいばると読む)ですねー。こてっちゃんそういうのを一目惚れっていうのよ(余計な知恵をつけてみる)と、二重によけいな誤解をみずから生産したことをも知らず、弥助、左を降り止まぬ雨のようにぐいぐいと締め付けていると、加勢の手がまたひとつ。
「ったく、いらんことばっかし覚えやがって」
 誤解の生け贄、その二であり、筆頭株主の人。
 琥珀、白河千里に背を押されて「心おきなくむかえてやれ、二度目のばーじんろーどだ」「‥‥?」(さすがに、琥珀、ばーじんろーどは知らない)弥助をたすけるような、あまった左のほっぺで、ぴちぱちむにむに、これは痛い。
「なんだぁ? 熱い夜とかなんとか」
「分かってますよ、二人だけの秘密ですね」
「それがいかんちゅーに、この子はもうっ。えいえいえい、むにむにでたりないなら、ぐにぐにとふみふみの刑もおまけに付けちゃる」
 狩野柘榴(ea9460)はじっと見ていた。彼らから距離をとり、朝っぱらからせっかくこしらえた伊賀への遣い物がくずれないよう死守しながら、
「仲いいよね‥‥」
 そうしてると、ほんとみんな和気藹々。彼の従兄弟の、琥珀の愛息の、天青がいないのが物足りなかったけど、画竜点睛を欠いて、たとえば満天の夜空から星石のひとつやふたつ消えたとて寂しがる人はほとんどいないだろうが、けれどきっといるの、亡くした星を悼む人も、どうしてここに甲斐ねーちゃんはいないのかと、柘榴――。
 ――やめ、やめ。
 ただでさえ、いつにも増してしめっぽいノリが多いんだ。笑いを。天のはじめに投げかける光のような、いっさいがっさい遠慮のない笑いを、
「甘いにおいがしますね」
 高遠聖(ea6534)、はい今日は比較的まともです、先日が異様すぎただけですから、が、すっと柘榴の横にたたずみ、柘榴のたずさえる風呂敷包みを興味深げにながめやった。
「いったい何をおもちになったんですか?」
「えへへ。秘密。着いてからのお楽しみっ」
「それじゃあ、楽しみにしています」
 僕、あまり遠出をしたことがないから、なんだか行楽みたいで楽しみです。
 亀、まごうことなきふつうの亀、ごとごとと甲羅をゆらすのが意外に活発な亀吉さん、しかしじつはまだ若造、と付け加えるところの妙な塊、それらを器用に抱え分ける聖、ほっそりとした少女的な肢体とは不釣り合いの、どこかのむっつりしたお姫様もおもわずほころびそうな出で立ちは、柘榴のもともと上向きの口元を更に更ににんまりさせる。
 聖もつられて、ほこほこと見合って笑い合う。――んーと、意味する笑いとはちょっと違うけれど、まぁ、これはこれでなかなか。
 そのころなかなか出番の回ってこないシャラ・ルーシャラは、
「まるごとしゃら‥‥(どきどき)」
 常人にはよく分からないなにかを、まだ、わくわくしながらなやんでた。エルフの三十二歳はお年頃ですから。

●いなばうあーな伊賀わんわん(ぶいぶい逝くぜ!)(べつにイってもいいぞ←待て寺倫)
「うーん。我ながら、あふれる才能にくらくらしそうだよ」
 沙紅良は、そうたやすく負けたりしません。今日も今日とて、世界のはじっこで世界の真理をつぶやく。
 毎度毎度、長すぎる前置きで、伊賀まではいったい何里? そこへ蝋燭の灯りで行ける? 夕御飯までには、行けるといいな。

 口笛高く、靴音鳴らし、青空の真下の半球をほがらかに行進する人々は、先頭が琥珀、摘み取った花穂を棒のようにふらふらまわしながら、自作のお歌を指揮するのだ、さんはいっ。

♪♪♪
『い』はいい国作ろう〜の『い』♪
『が』はがまがえるの『が』♪
『に』は人参残しちゃ駄目よの『に』♪
『ん』は‥‥『ん』〜は‥‥『ん』ね‥‥、

「『ん‥‥いやっ‥‥そんな焦らないで、もっとやさしくして』で、どうでしょう?」
「左君、あなたならそう云ってくれると思っていたわ」
 エリーヌ、スクロールはいつでも取り出せるようにしておいたかいがあったわね、と、叱るよりは嬉しそうに目を細めて、じゃあ、これにしましょう、と――スクロールと見せかけて、高速詠唱込みライトニングサンダーボルト、高等技術である。
「いーい? 相手が経書を手にしたからって、必ずそれをつかってくるとはかぎらないんだからね?」
「にゅう‥‥」
「経書でも発光現象があるのだから、見分けぐらいはつくようになったでしょう。じゃ、おさらい。今のはなんだったかしら?」
「えーと、トルネード!」
「‥‥感電しながらトルネードと言い切れる、その感性はなかなか得難いものとは思うのだけれどもね。トルネードは、こっち」
「それで『ん』はなんですかー?」
 錐揉みの旋風、隣にしながら、はるかぜがとってもきもちいーのです(←ちゃいます)と、シャラ、琥珀に真顔でたずねる。だが、琥珀もいまだほどよい解答を見つけておらぬらしい。シャラはいっしょになって考えてあげることにした、とても良い歌だと思ったから、謡い手としてはちゃんとおしまいまで知りたい。けれど、『ん』は難しい、ましてまだまだジャパン語のつたないシャラにとっては尚更で、ふしゅー、ぷしゅぷしゅもくもくっと煙をてっぺんから吐いてしまい、そうしてると――壊れてみると――なんだか左の提案が最良なふうな錯覚(錯覚だってばあくまでも)をおぼえてきたから。
 歌ってみる。
「んっ‥‥い(難しい)」
「はいはいはいはい。シャラちゃん、あれは忘れようぜ。るるるるる〜♪」
「るるるるる〜? るるるるる〜♪」
「‥‥なるほど、こんなふうにして楽しく過ごされていたのですね」
「って千賀地様、いつのまにっ」
「いえ、実は最初から」
 降ってわいたように、千賀地、この人もいちおう忍者だったらしいのでそんなこともできるのだろう。彼曰く、あちらのお嬢様、エリーヌだ、に左をどこへ連れて行けばよいか、と訊かれて、ふと同行を思い立ったのだという。そして、
「どうせなら、私もちゃんとこの目で見ておきたいからですね」
「なんだかえらく、いろいろと、性格が軽くなったですね‥‥」
 軟派がすすんだな、ほんと。これももしかして俺のせいか、と思うと、弥助、千賀地のなげうった財産を聞かされたときより、きりきりと心がしばられる。よかったのかなぁ。弥助、らしくなくしけった顔をつくると、千賀地はいつぞとおなじ台詞をくりかえす。
「気になさらないでください、ほんとうに。かえって肩の荷が下りましたから」
「あぁ‥‥俺、伊賀ではおとなしくしてますんで」
「はい、はい。あ、それから私が付いてきたのは、出しなにこれを渡すのを忘れていたというのもありまして」
 と、千賀地がさしだしたのは「忍装束「黒」」。呼称どおりの墨色の忍び装束は、「どうやらとっても気に懸かっていたようですからね。二着ばかりうちから見つかったので、ぜひ着てもらおうかと思いまして」そのうちの一着、小鉄に、と。
 これぞ忍び! 透波! 的な枠組み。小鉄は、異国の闘牛士のように、それをぶんぶんふりまわす。
「黒ですー。ほんものの黒ですー!」
 これを着れば僕も水の中でぶくくくっとか、壁の上をしゅぱぱぱぱっとかできるんですねー? いや、それは、不可能。代わりにできるのは、弥助の、羨望とやっかみのまじった視線を引き寄せること。
「‥‥こてっちゃん、それ俺にくれない?」
「えー? 僕もまっくろ忍者さんの格好をしたいですー」
「いいか、こてっちゃん。俺はこてっちゃんのためを思って云ってるんだ。忍者じゃないやつが忍者のおめかししたらだな、一張羅がものすっごい怒って、夜中にがおーって悪い子をさらって」
「こらこらこら。弥助さん、嘘ばっか教えちゃダメだよ」
 もう一着は狩野家、柘榴のもとに、琥珀さんはおとーさんだし我慢してね。「しゃあねぇなぁ、くぅっ。おっちゃんはがまんしよう。天国の蓮華さーん、俺とおなじ寸法の服が着られるほど、柘榴と天青はりっぱに育ってますよー!」‥‥ずいぶん長ったらしい悲しみである。
「似合う?」
 歩きながらでは身ごしらえはしにくかったので、柘榴、今身につけてる服のうえからあてがう。ちょうどエリーヌの歩行訓練から解放されたばかりの左が、そっちのほうで、へたっていた。
「どう?」
「似合う、似合う。そうしてると、琥珀様にちょっと似てますよ」
「‥‥おっかしいなぁ、褒められてる気がしない」
「なにー? さいっこうの賞賛じゃねえか。こんないい大人になるって、将来が保証されてるってことなんだから」
「だってさぁ。あ、左。だからって俺に乗り換えちゃダメだよ、俺はふつうのお嫁さんをもらうんだから。あ、左がふつうじゃないって云わないけど‥‥ちょっとは思うけど」
「ふぇ?」
 シャラ、ぼーぜん。
 え? なになに? ひだりさんはこはくさんとあっちっちで(誰だ、シャラにこんなことば教えたヤツ)、でもこはくさんはざくろさんとそっくりだから、ひだりさんはこはくさんとで、いいなーみんなかぞくです、でもごかぞくであちちちのちはいけないんですよ? あら、たいへんたいへんへんたいだー(だから誰ですか、シャラにおもしろいことばかり吹き込んだのは)(なんとなく沙(以下略)っぽい←えん罪)。
「ふぇえええ?」
 関係をあらわす矢印↑が、たくさん、冬にわたる雁のようにたくさんたくさん、シャラの脳蓋をあっちへ行ってこっちへ行って、シャラがもっと呆然とすることには、
「ついに来たようだね‥‥その日が。私も腹をくくらなければならないときが来たようだ」
 と、沙紅良がつと目をやる地平、はるかに、蜃気楼のようにゆらいで町並み――かつては宿場町だった界隈は大和と伊勢をつなぐのにたいへん貢献したが、北都の発展した今はしずめる勇士のよう、安らかに横たわる。

 とーちゃくっ。
 したのは伊賀国名張郡――赤目四十八瀧が傍ら、滝口郷。

●やっと、伊賀です。伊賀と毬って書くとただのだじゃれのようだけど、語源はおなじなんだって。
 七千字以上引っ張った伏線がやっとここに見参、いえ忘れていたわけでは、けっしておろそかにしていたわけでは、でもほら、山場はおいしい頃合いまでとっとかないと。いいわけ。いいわけ。
「さて‥‥左君。お披露目のまえに、云っておきたいことがある」
 その、お披露目の場所は、滝口郷とあいなりました。
 領主をうしなって悲嘆と失望にくれる郷の人々の暗雲に、一筋の光明をあたえることでしょう。いや、左は姓のとおり上野の出自だから名張の人々にみせたってどうしようもない気がするんだけど、ど、
「なぁ。それってもしかして、いやがらせじゃね?」
「先日おじゃましたさいは、四十八瀧のうつくしい景観を落ち着いて眺める事が出来ませんでしたので、やぁ晴れやかな眺めです、心があらわれるようですね」
 弥助の云うこと、馬耳東風。馨はうっとりと、心持ち冷や汗のねばりを引きつつも、まぁやってみなきゃ分からんし。
 さて、他の面々。
「忍者の里ですー! 黒い人はどこでしょうー?」
「わんこさん? こんにちはです、シャラはシャラっていいます。いがのわんこさんはにんぽーどろんしゅたんふわわんがつかえるってほんとーですか?」
「ここが伊賀ですか‥‥。亀吉さん、やっと着きましたよ。水風呂でももらってきましょうか?」
 ものすごく、どこまでも、音楽的にいつもどおりだった。「しゅたたたと走る人がいませんー!」となげく小鉄は自分こそ、しゅたたたた、と手綱から放たれた犬の仔がごとくあちこちを自由にかけずり、シャラはテレパシーをつかいながら口にも出すというややこしい手法で地元の犬族との交流を試み(しかも、人間にも理解できない内容を。本気で語りかけている)、聖はなかでいっとうまともだったけれど、まじめだったけれど、「亀吉さん、長旅だいじょうぶですか?」おじいちゃんをいたわる孫のように愛亀を世話する「でもの僕ほうがおじいちゃんかもしれません、先日の運動でまだ腰や肩が痛いですから」はぁ。
「‥‥なぁ、俺は初めてだからよく分からんけど。もしかして、いつもこんな自由すぎるかんじだった?」
「レイムスさん、おねがいします!」
「はい、分かりました! まかせてください!」
 弥助の設問をふたたび馬耳東風、馨、レイムスも準備完了。
 玄翁。
 世間の力を揶揄するためでなく、金属の質感からくみあがる本物、西洋的にはハンマーと称されるそれをぶるん、と、かるくふりかぶる。
「いいですか、左さん。私は現在ひじょうに危ういです。なぜなら私は‥‥狂化しているからです」
 そんな自ら冷静に宣言するハーフエルフ狂化があるかーー!(どんがらがっしゃん)
「ものすごく狂化してます、とっても狂化してます、強化が狂化で教化書なぐらい物騒な状態です。おなかがたいへんぺこぺこです」
 ※レイムス・ドレイクは狂化中、食い意地が張っている。二十へぇ。
「そういうわけで! 私にあたまからぱくりと食べられて、麺麭(パン)工場で頭をつくりなおされたくなかったら! 左さん、私を眠らせてごらんなさい!」
 ぎゃああああ、と悲鳴、それに最適のあわれになった柘榴が付き添いながら忠告を「左、今だ、火遁の術だ! 瞬時にお湯も沸かせちゃう火炎で、自分を、こんがりキツネ色!‥‥あれ?」あれ?
「なぁ? あんたら、よくここまで来れたなぁ?」
 しみじみと弥助の口振りを、エリーヌ、ふと唇をとんがらせて、
「あら、私たちちゃんとがんばったのよ? ねぇ、琥珀さん」
「そりゃあもう。みんなの胃袋の管理人、琥珀さん、食事も完璧にみまもりましたぁっ!」
「そうよ、だから、左君の毛艶もぴかぴかでしょ? それとも、琥珀さんとの夜の特訓のおかげかしら」
「‥‥エリーヌちゃん、だから、ね?」

「ところで、もったいぶったまま放置された、私の告白はどうなったのだろうか?」
 ――あ。

 なわけで、しきりなおし。
「さて‥‥左君。お披露目のまえに、というかうやむやのうちにお披露目も終わってしまったようだけれども、ふふふずいぶんにくらしい放置ぷれいだね、しかしそろそろマンネリかな。‥‥いや、もうそれはどうでもいい。云っておきたいことがある」
 長かった。ここに至るまで、ほんとうに長かった。
「私は左君の生き別れの兄なのだ!」
「ふぇぇええぇ!」
 がーん、と、驚駭にとどろくのは左よりもむしろシャラ。ごかぞくがまたふえちゃいましたー!
「守備範囲が広い所も『ひだり』『さくら』で名前が三文字なのも、自分に都合よく解釈する所もそっくり! 左近の桜というしね!」
「すごいすごい、ほんとうです。さくらさんはおにーさんだったのですね」
 シャラ、えらい勢いで頭を回転させて、とうたどりつく、このややこしい一族を解決する最終方法を!
「じゃあ、さくらさんもひだりさんとごかぞくだから、あちちちちのちーなのですね!?」
「‥‥待ってくれ、シャラ君。私はそうならないためにでっちあ、げほがほ」
「わんこさん、でも、あいがあればごかぞくでもゆるされるのでしょうか?」
 うん。へ、へ、へ、と舌を出した八の字忍犬がうなづいて、正体は弥助の疾風号。たまにゃあご主人だけでなく、女の子といっぱい遊びたいんだい(わんこ、心の声)。
「わんこさんもいいっていってます。だから、シャラ、おめでとーのイリュージョンつくります。さとのみんなに、さくらさんとひだりさんのしあわせなけっこんせーかつをみせてきます、わんこないとシャラのはつしゅつどーです!」
「シャラ君ちょっと待ちたまえ。盗んだ(いや、弥助から借りました)犬に乗って駆け出すキミもかわいいけれど、いろいろな意味で待って欲しい。しかたない、犬には犬で! 左(呼び捨て)、ほら、白波の指輪だ。持ってこーい!」
「‥‥沙紅良さん。そんな偏執的な遊技をためさなければならないほど、左くんのことを。そうだったのね、琥珀さんと思う存分対決してちょうだい」
「はっ。もしかしなくても、墓穴かつ泥沼?」

 真夏のような熱狂の昼ののちには、除夜の鐘がごとく冷める静粛の夜がふさわしい。
 上野郡、の某所。――狩野家の菩提を弔い所。そこには眠れる忍びが二人と一輪、琥珀は飲み残しのどぶろくの容器をかかえながら、すーか、すーか、といびきも高く、それに付き合わされた柘榴は、こちら、きちんと防寒着まとってお行儀よく、明日もきっと元気でいられるでしょう、一輪は狩野天青の、彼のような優しい優しいそぶりの花が露をうかべて、それは琥珀の「‥‥ほら、蓮華さん‥‥やさしい息子にそだったろ‥‥むにゃ」睡眠の空音のはざまの、粒の涙。
 しかし、夜風をもたらすものは甘くない。
「いると思ったぜ」
 にちゃ、と、夜に亀裂を入れるもの――弥助がゆがんだ笑みをかたどる。
 馨も、こちらは笑いなど忘れたように、堅く。
 彼等のあいだには、弥助と馨のあいだにでなく、弥助と馨のふたりと別から来たるもうひとりとのあいだってことだけれども、女性のまろやかさと切り離された細い体。
「よぅ、ひさしぶり」
「弟が世話になっているようだから、見に来ただけですよ」
「あいにく弟ぁ置いてきちまったけどな」
「‥‥あなたが、甲斐さんですか」
 エリーヌに‥‥たしかに鞭撻のよく合いそうなちょっときつめのところとか、似てるかもって、げふげふげふ。夜の寒にあてられました。咳。
「‥‥死者に鞭打つのは好みませんから、今日はこれだけにしませんか?」
「おぉ。が、今度逢うときは容赦しねぇからな」
「おたがいに」
 と、
「そのまえに!」
 待った、と、馨。
「どうして弥助さんに御名前をお告げになったのですか?」
「‥‥べつに、ただの気まぐれですよ。放っておくと、妙なあだ名つけられそうですからね。そこの弟のお仲間ですと、特に」
 あ、それはあるかもしんない。意外な説得力に、馨、知らず知らず、あぁ、とこぼすと、弥助がげいんと拳固を馨のどたまに落とす。
「そんなに俺の感性が信じられんのか!?」
「いえ、そんなわけではかなりの意味でありますけれども。あ、ほら、甲斐さんの去ったあたりから人影が」
「やかまし! そんなはったりに俺がいまさら‥‥」
 ほんとうだった。
 草むらをがさがさと掻き分けむしり取りくぐり抜け出てきたのは、
「へー、馨さんも弥助さんも隅におけませんね、夜の密会だなんて。僕は隅におかせてもらいます、はしっこっておちつきますよね」
 聖。‥‥え、聖はなんでここに?
「おい、待て。ここ、上野。名張からけっこう距離あるぞ。なんで後を付けられたんだ」
「それは亀吉さんと僕だけの秘密です」
 ねー、亀吉さん?
 亀吉はむごむごとおはぎ――これが柘榴の手土産の中身である――墓前からひょいとお裾分け――を喰み、喰み、え、亀ってあんころ食べられるの? られる、らしい。

 こうして全五回、出口のみつからない征途も、いちおうの幕引きとなりました。
「あぁ、そういう意味だったんですね」
 と、聖、
「それで、左さんにとっての出口でしょうか、それとも僕たちにとっての」
 それは、お気に召すまま。
 どうせいつも八方ふさがりみたいなもの。空は無限の閉鎖系列、けれど、それさえ汲み出すことのできぬ人々。我ら。奇しくも聖は云った、修行を始めると一生修行だとも言いますね、と。
「また逢いましょうね、左君」
 エリーヌが供したのは、聖なるウィンプル、と呼ばれる幸運を呼ぶ西洋頭巾。エリーヌは天からくだる人々の羽根使いで、ふわりと、それを左にかぶせてやる。小鉄
「おぉー。お嫁さんみたいですー」
「そうね、ほんものの男性は無理でも、神様ぐらいならお嫁様にもらってくれるかもよ。あなたに神の御加護のありますように」
 続いて、シャラと柘榴、なんだか珍しい組み合わせ。
「はいっ。ひだりさん、ひょーしょーじょーです」
「俺とシャラちゃんの合作!」
 そう、なんと柘榴、昨日のおやすみはなんと狸寝入りだったのだ!
 ‥‥しらじらしい、とか、云わんように。
 柘榴、抜き足差し足忍び足はそれなりに得意、微酔いして寝こくった琥珀のものなぞ、簡単に拓にすりとれたくらい、まして馨や沙紅良ぐらいはちょろいもん。
「おじさんと馨さんと沙紅良さんの証文入りだよ。く・ち・び・る♪」
「え、えと、えと、ぶんしょーはシャラがいっしょーけんめーかきました。おめでとーです、って書いてあります」
 それは唇はともかく(ええ、唇はほんとうにそのまんまでした、さすがは柘榴。はくしゅっ)、シャラは頭(の中身)こげこげにしながらがんばったのだ。死にかけのみみずが水を求めてのたくってるようにしか見えなくっても、葉っぱで飾り付けたりなどしつつ、いっしょーけんめーしたのだ。
「きゃあ、ありがとうございます」
 左は、じっと見つめた後、
「なめていいですか?」
「どうぞ、どうぞ」
「変わらないですねぇ」
 聖、お茶をずずっとすする、いつのまにそんなもの用意したのっ?! まるでいつもどおりなかんじに、このまま終わらぬような、ぶっちゃけ打ち切りっぽくも、

 お、わ、り。

「そういえば、けっきょく左君はいったい誰をえらんだのでしょーかー? 弥助ししょー、沙紅良さん、琥珀さん、みんなから追っかけられて、やはり恋は追われたもの勝ちってことでしょーかー?」
 えへん、僕も成長して恋の微妙を語れるようになったのです、と、胸を張る小鉄のそのうしろで、どっから誤解を解くべきか滝涙、色男三人集。最後で少々入れ替わりをみせたようです。