【伊賀<煙りの末>】 出口なし! 北

■シリーズシナリオ


担当:紺一詠

対応レベル:4〜8lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 64 C

参加人数:9人

サポート参加人数:7人

冒険期間:03月24日〜03月30日

リプレイ公開日:2006年04月02日

●オープニング

 いなばうあー、百人のってもだいじょうぶ。

●決戦間近! かな?
左「ここはやっぱり、『おれはっ。おまえたちのっ。じつのちちおやなんだっ』とか『このいちげきにすべてをかける!』とかが、そろそろ必要になってくる時機でしょうか。どーです、千賀地さま?」
 千賀地、いそがしいみたいで今日は不在す。代書がありましたので、それをどうぞ。
「がんばってください、血を吐くまで」
 あっさり風味。つか、逃げた? 世界の果てまで、逃げちゃった?

●じゃあん♪ 丘まで、お釜で、おかまのその後。
「よし、終了! よくがんばったな」
 といっても、狩野琥珀、特別稽古にはわざと負けてやったんだけど。
「良く頑張ったわね左君、エライエライ」
 エリーヌ・フレイア、硝子質の翅羽をかろやかにひるがえらせながら左の肩筋へちかよる。逃亡しないよう気を付けてはいたが、左、眠るようにぐったりしている、それどころではないようだ。
「‥‥そうか。体力が、ないのね」
 心配事がひとつ減ったのはいいけれど、それはそれで問題かしら、とは思う。今日もふくめてこれまで計三回の修練は、なかなか厳しいお品書きできた。そういえばそれもかつかつだったような、手荒くやりすぎたのかと思ったが、どうやらもともと持久力に不安があるというところ。なるほど、
 が、それは次回にするとして、とりあえずはこれをかたづけなければ地元の方たちにも迷惑がかかってしまうし、でもだーいじょーぶ、エリーヌには秘蔵の呪文が!
「左くん、そんなところにたおれてないで。さっさと起きなさい、そしたらよくがんばったご褒美に、第二希望第三希望に背中ながしてもらえるわよー?」
 ぴゅうん!
 木枯らし、たなびく北から南に、それは真一直線、エリーヌをうしろによろめかせるぐらいの風向き。エリーヌは回転をなかばで止めて、長く落ちる疾走の影を、物憂くながめやる。
 ――効いたわね。こういうのをジャパン語でなんていったかしら?
「そうそう、精力剤?」
 つまり、彼等は喰われるのか。あたまから、がっぷり四つに組んで。喰われちゃった、どこが?

「ところで、左はまだのこってますですよ☆」<どこかが

●そろそろまとめを視野に入れましょうってことで、注意しとかねばならない死亡フラグを、左が解説してみる(それはどんな異議があるんだ)。
『ここは俺にまかせて先に行け!』
「ここは俺にまかせて先に逝け、だと正反対の意味になるので注意です。イケだとお子さま厳禁になるので、やっぱりこれも注意が必要です。つまり、そ(以下、あなたの想像をおためしします)」

『生きて帰れたら結婚してくれ」
「左はいつでも待ってますですよー。新婚旅行はどこにします?☆」

『殺人犯と一緒にいられるか!俺は自分の部屋で寝る!』
「左といっしょに寝てくれるのは誰でしょうか?」

『あんただけはぜったいに死なせない』
「(どきどきわくわくうきうきてかてか)」 <云われてみたい

『我の真の力をみるがよい!』
「寝技ですか、寝技ですよね、とうぜん桃色の行燈が枕元に用意されてるんですよね?」

「琥珀のおじさん、“掘る”って――‥‥?」
「どうしてこんなところにっ!?(注:整理の都合) んっとな、つまり木材をがしがし彫って彫像つくっちゃいたいほど、かわいがりたいってことだ」
「じゃ、琥珀のおじさんは“ほりまくり”なんですねー?(←語弊)」
 漢字、途中で変わってる。漢字の国、華国出身、こてっちゃんだまされるな、いやそのほうが平和なのかもしれない。

●どうでもいいことだが、ジャパンでは主力なようで、実はあまり普及していないんじゃないかと予想される、死亡フラグ。
「ええい、曲者ぞ。ものども、であえであえぃ!」

▽上野・左
おまえいったい、どこでなにを修得してきたんだ。
とりあえず、使用忍法は火遁の術・湖心の術は確定。ただし、初級6程度だったのが初級8にまであがっています。
お色気‥‥あがったのかしら? 実地でおたしかめくださいまし。が、これまでのすぱるたの結果、膂力はじんわりあがっているみたいです。
「くすん。筋肉も贅肉もついちゃうのはやです、おんなのこだもん♪」←まちがいさがし
装備&所持アイテム>
花飾の帯留め、恋愛成就のお守り、かんざし「乱れ椿」[暗器]、藁人形
ありがとうございます(ぺこり)。

●今回の参加者

 ea0062 シャラ・ルーシャラ(13歳・♀・バード・エルフ・ロシア王国)
 ea6534 高遠 聖(26歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea7950 エリーヌ・フレイア(29歳・♀・ウィザード・シフール・フランク王国)
 ea8968 堀田 小鉄(26歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea9460 狩野 柘榴(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea9805 狩野 琥珀(43歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb1565 伊庭 馨(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb1861 久世 沙紅良(29歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2277 レイムス・ドレイク(30歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

白河 千里(ea0012)/ 天螺月 律吏(ea0085)/ 高槻 笙(ea2751)/ イレイズ・アーレイノース(ea5934)/ カヤ・ツヴァイナァーツ(eb0601)/ 片桐 弥助(eb1516)/ ミラ・ダイモス(eb2064

●リプレイ本文

●New Faceは贄増やす(by久世沙紅良(eb1861)・いつも、ありがとー♪)
沙紅良「男性ばかりなのが、かえすがえすも残念だがね。ひとまず歓迎するよ」
レイムス・ドレイク(eb2277)「御期待に添えず、申し訳ございません。しかし私は生まれつき男性ですから、こればかりは努力のしようもなく(きちん・きちんと・お行儀よく)」
狩野柘榴(ea9460)「おじさん(※こっちはほんものの叔父の狩野琥珀(ea9805)のこと)、変なおじさん(※十九歳の柘榴は、二十七歳の沙紅良をおじさん呼ばわりする権利があるかもしれない)が性転換をせまるんだけど?」
沙紅良「‥‥いろいろとたのもしい偉丈夫ばかりだね、ほんとうに」
 沙紅良、チチっと舌なめずり、もとい、舌打ちひとつ。
 もともとの女性陣に不満があるわけでは、けっして、ない。しかし、シャラ・ルーシャラ(ea0062)はかわいいけれどもあと一歩もしないうちに犯罪だし、エリーヌ・フレイア(ea7950)はシフール故にいくぶん寸足らずだから、いやむろん、やろうと思えば沙紅良に不可能はないけれど(何の)、だがそれには当人の協力が不可欠だし(だから、何の)。
沙紅良「しかし、今日はお手伝いに妙齢の女性がいるではないか。ぜひともお近づきになりたいものだね」
 高槻笙 ←妙齢その1
 白河千里 ←妙齢その2
沙紅良「‥‥そっちはふたりとも、男性だろう(さも面倒くさそうに)。個人的に、妙齢というのは女性のみに許される称号だと思うがね」
 もう旦那ったら贅沢なんだからぁ、しょうがない。いいもん用意してまっせ。
 カヤ・ツヴァイナァーツ ←最終兵器妙齢
ツヴァイ「そうそう。僕ってば、ほんとは四十九歳だけど、見た目もなかみも二十四歳だから、妙齢‥‥ふっ」

 どっかーん☆

高遠聖(ea6534)「よかったぁ‥‥。僕、今回はまきこまれなくって、ほんとうによかったです(しみじみ)」

 とまぁ、このたびは前置きすら(でらっくす)なわけですが。

●滝はまいなすいおん(って、おいしい?)が多くて、健康によいそうですね。
 たけだけしく落下をつむぐ水は、無常な岩棚にくだけても活動を終わらせずはせず、贋の真珠であることに誇りをいだきながら奈落の一部へくずおれる。
 あるいは、
 白糸のような水飛沫が、星が笑顔をふりまく歩みで、かろやかにちらちらすべってゆく――まるで引き合わぬ二極のどちらもが、滝、というところの本質。
 その、朝。寒暖がおもてとうらなく入り交じる、やさしい夜明け――青ざめた光にはだえをさらして、伊庭馨(eb1565)は深々と息を吸う。
 無限をもあざむく冴え冴えとした空漠を、なにかにたとえるなら薄刃の露散る切っ先――しかし痛々しいだの刺々しいだのいうわけでもなくって、ぴんとはりつめた具合はつまびくこともなしに響く琴の絃、どこからともなく、こぅ、こぅ、と神籟でも引きそうな――馨はふぅっとおもざしをゆるめる――天神地祇の吟詠はさすがにムリだろうけど、己を有機の元素になおせば、小鳥の愛唱ぐらいは聞こえてこようか。
 それは日々、そしてこれからまた一段ときわまる苦衷や哀惜や忍耐に煮え立つこころを、冷たい手で、なだめてくれるはず。小鳥のさえずりに耳をすまそうと、馨は‥‥、
 小鳥‥‥、
「よく、ここまで育ったなぁ。左!」
 ‥‥小鳥?
 うっうっうっと、号泣じみた――号泣そのものだ――あんな、豪快かつはためいわくに泣き濡れる小鳥は、たぶん、ジ・アースにはおりません。
「左は俺の息子も同然! ちっちゃいころから見守った詮があった! これからもがっつり大きくなるんだぞ!」
 しかも、みょーに、でかくね? なりが、声とか体とか。
 琥珀、朝もはよから、それともなにやら身に沁む朝だからこそか? 「なんだかなぁ。朝飯つくってたら味がばっちり決まってなぁ、あぁ今日も一日はじめっから景気がいいなぁ、と思ったらなぁ。胸がどかどか熱くなって、ちょっと泣きたくなったんだよなぁ」瀑布のとどろきを今にも超えんばかりにどよみをあげて、琥珀、それがちょうどよい目覚ましになったらしい。次から次へ、仮眠の幌から抜け出した面々、朝日のなかでねぼけまなこをさらす、哀しくない塩水のなかでぼやけてにじむ、自然。
「ふにゃあ。おはよーございますです」
「おはよーでーす、きもちのいーあさですー」
 肺葉にいまだとっぷりと眠気をたたんだシャラ、薄く色付くまなじりをこすりあげながらなのに比して、堀田小鉄(ea8968)はパチリときもちよく小熊のような無邪気さをいかんなく発揮する、エリーヌは年頃の女性ですから、皆のまえに姿をあらわすころにはすっかり支度がととのっている。
「おはよう、よく眠れた?」
「眠れるわけがないじゃないか。夕べはいったいどうやって律吏くんの褥に忍び込もうか、悩んで、悩んで、気が付いたら朝陽をおがんでいたよ。しかし、おかげでいい方法を思い付いたよ、今夜が楽しみだ」
 ――‥‥匿名決定の最後のひとりは、さておいて。
(天螺月律吏はおてつだいなので、一日で帰っているということを、沙紅良は認識していない)
(あ、名前ばらしちゃった♪)
 さて、一晩ぐっすりと眠って英気も養ったことだ、天下だって三日でとれそうに気骨のみなぎる、汐先にて。
 各各方、どうされます?
「僕、春の七草をごはんにとってきますー」
 はいはい、と、威勢よく小鉄が手を挙げて、そりゃあ左の介抱もこの依頼の根幹ではあるが、それ以上に食は生きるものたちの源流だもの、ましてうららかな春ざれ、芽にも芯にも匂い立つ活力がいっぱいに詰まっていよう、今日だけではなく明日のそれからために。
「精力をつけるお食事をとれば、特訓もきっとはかどるのですー。琥珀おじさん、お料理つくってくれますかー?」
「おし、まかせとけ! なんなら、そっちのも煮込んじゃるけど」
「にょろすけくんはダメですー、僕のおともだちですー」
「はいよ、すまん。期待してっからな、こてっちゃん」
「えへへー。それじゃあ、いってきますー。ぶい」
「‥‥ねぇ。春の七草って、お正月のほうの春のことじゃなかった、たしか?」
 と、柘榴の常識は、たいして気に留めはされなかった。とうの柘榴も、まぁいっか、と、さして意に介していはいない。秋の七草とちがい、春の七草はだいたいが食用の草っぱなのだし、この時柄でも刈り取りはさほど難しくないはずだ。おとなしめの整腸剤みたいなものだから、美味ではないけれど、しかし琥珀ならなんとかしてくれるだろう、と口にはしない誠心もあった。
 が、柘榴は、というよりはのこされた冒険者らは、知らなかったのだ。小鉄の教養、おばあさんから素朴に諭されたのでもなく、ましてやしかつめらしく書誌をひもといたわけでもなく、片桐弥助から面白ずくに吹きこまれたものだということを、ではその弥助はどこにいるのだろう?
「けいれい!ですー」
 小鉄、茜さす東の空に利き手をはすにかざして――すると、茜の雲に映えるなかば振り返りの体の、はかない笑みの弥助のまやかし――や、それは待て。びみょーに殺してるから、やめときなさい。
「おはようございます。皆さん、早起きですね」
 というか、むりやり起こされたっぽい。シャラはうすい気圧にいまだとろけて、柘榴はときどき生欠伸を噛み殺すくらい、沙紅良は紅い瞳が充血してるが――まぁ、これはこれでしょうがない――、馨、小鳥はあきらめました、万草(愛称:タカ)くん(くん?)がいるもんね、
「では、腹ごしらえのまえに一汗流すとしますか。左さん、せっかくですから気合いを入れてがんばっていきましょうね」
「えー? 昨日もそうだったじゃないですか」
 左の異論、むりもない。昨晩はこの滝つ瀬に着いてすぐ、律吏に率いられて走り込みをやらされたのだ。よっぽど体力がありあまってるんだな律吏‥‥もしかして、じつは千里がなにもしてないから体力が‥‥げふがふ、いや、下世話な推量はここまでにして。
 エリーヌは朝日の加減で虹色の飛膜をたゆたゆとそよがせて、左の目の高さに一時停止。これもずいぶん慣れた仕草、三分の一の指を駆使して、左の眉間をちょこん。
「我が侭いわないの、左くん。みんな、あなたのことを思って云ってるんだから」
「そうそ。俺も付き合うからさ。いっしょに特技をのばしっこしていこう!」
 柘榴が発破を、瞳をきらきらと穢れなく、蓮華にたまる朝露のふうにきらめかせながら、
「私もおてつだいいたします。」
 と、レイムスもすこやかに誓う一方、
「ふみ‥‥ごめんなさい。シャラはねむねむですから、おひるからがんばります」
「姫君をひとりきりにさせておくわけにはいかないね、私は付き従うとしよう。さぁシャラ君、おいで私の膝枕に!」
「にゃむー。こるりがふかふかです、まくらなのです」
「‥‥のん、いっしょにのんびりするとしようか」
「僕もはりきって、応援します。このまえ新しい踊りをならったんです。羽扇をもって小高いところで、こう、ぶんぶんふりまわして」
 それなんて、ま○らじゃ?
(とゆうか、どこからならってきたんだ)(たぶんジ・アースでも、時代遅れすぎます)(‥‥自分でもそんなかんじがしてきた聖、おもむろに頬を赤らめる、そういう持ち味じゃあないものね)
 ――‥‥こういうのも、いる。
「邪魔されるよりいいですが‥‥」
 羊歯のような千尋の瞳を深くさせながら、分かっているのですかねー、と、馨つぶやく、当然いっとう分かってなさそうなのは当該の左本人なのだけれども。つかれる、つかれる、と駄々こねて、昨夕は笙を犠牲に、いや待て・生け贄に、ええと・おひねりにして(「ふふふ、これくらいは許されますよ。これくらいは」そのとき馨ははるかなる暗黒の淵をみつめてました)、なんとか気を保たせたけれど、
「かまいません、どうにかなるものですよ。ね、レイムスさん?」
「はい?」

 小鉄は、悩んでいた。
 そりゃもう、天が迫り堕ちてきそうなくらい、考えに考え、さらに腐心していた。
「どうして七つ以上あるんでしょーかー?」
 あちらにもおいしそうな(ふうに、小鉄にはみえる)野草、こちらにもおいしそうな(‥‥以下略)野草、気の赴くままに摘み取っていたならばあっというまに、籠いっぱい。どうみつもったって、十種はとうに超えただろう。「冬の固い地面をかち割って出てきた春の草だから食うとはんなり強くなる」弥助のいうとおりにしたはずだのに、どうしたって七にはまとまらぬ。
「どんちゃん。僕、もしかしてまちがったのを採っちゃったんでしょーかー?」
 食草ならば、本家本元、草食動物に尋ねてみよう。驢馬のどんちゃん、なぜなに相談室ーっ。うぅん、まちがってないよ。そう言いたげに、小鉄の知らぬ若草をしゃりしゃりと喰み、長いおとがいが今日は(も!)とびきりのどかなものだから――ねぇこれもおいしいよって――小鉄はふつふつと自信をたぎらせる。
「ですよね! 大は小を兼ねる(おっきいもんがなにがなんでもえらい、だから俺は小鉄よりえらいんだぞ?:弥助編)っていいますよねー? おっきいことはいいことですよねー?」
 僕もはやくおっきくなりたいですー! だから、がんばって七草あつめますよー!
 ――‥‥一人前をめざすことと、野草のでたらめな収集には、天をもつく嶮と冥土をもうがつ裂け目がありそうだが、そんなん、どんちゃん知ったこっちゃないし?
 かくて、だんだんと、春の七草は――とうとう三十で、それってほんと七草?

●午前の訓練はまんべんなく、ひどく珍しいことに、わりとふつうに終わりました。左は。
「魔法をつかう際は、必然的に発動光をともないます。神聖魔法にしろ精霊魔法にしろ、そしてオーラ魔法も。忍術だって煙幕がでるでしょう? 光の色合いから各自の性質も見分けられますが、これはまぁあとにまわしまして。忍者の本分は、敵に勝つことではなく、目的の達成こそ重要だと私は考えます」
 レイムスの指南は、当人の橋梁のような直ぐな気質をうつして、しごくまっとうだ。口頭での魔法簡易講座からはじまり、へぇ、へぇ、と満開まねきそうなほどうなずきをくりかえすのはむしろ柘榴で、レイムスの一言を真摯に聞きとめる。じゃあ左ときたら、いかにも、かったるそう。うつらうつら、と、小首がかたむき、
「あぁ、おばあちゃんが小川のむこうで呼んでいる」
「左くん。おばあちゃんよりいい男が、こちらにはいっぱいいるわよ」
 エリーヌ手近な巻物から、てきとうにひきあてたウォーターボムをびしゃり、左の頭上から落とす。
「――‥‥そして、忍びの技は、敵の隙を伺い奇襲で仕留めることこそ、極意。以上をもって、左さんが覚えるべき技は、ずばり乙女心はちかづいたらやけどするぜ♪を利用した高速詠唱と、奇襲を完璧にする春花の術です!」
「あ。俺、高速詠唱はできないけど、春花はいける。左はできないんだよな? やたっ、ちょっと勝ったかも?」
 忍法はさほど達者ではない柘榴(戦闘技術をもってなら、かなりいいところいけるんだけどねー)、左をしのぐ部分をようやく見つけられて、ちょっと小躍り。が、よく考えよう。レイムスの言い分だと、柘榴のそれ、けれども乙女心はときにせつなくて♪ってことだぞ?
「柘榴さん、実はおともだちだったんですね! 子どものころからのつきあいでしたけど、初めて知りました!」
「ありゃ? え、だ、ダメ。俺はダメ。俺はぜーったいダメ。将来かわいいお嫁さんもらったときのためにとっとく(?)んだから、ダメったらダメ!」
 さて、難しいことはたいがいレイムスにまかせて参観にまわった馨、そのころ、聖の熱心な説教――熱心な僧門である聖のそれだから小言ということではなく、説話、善導のたぐいである――はずだが。
「さっきはちょっと失敗しましたが、さぁ伊庭さん、ごいっしょに。このお花をもって『そーれーでーはー♪(しゃんしゃんしゃん)おーわーかーれー♪(しゃんしゃんしゃんしゃん)』」
「‥‥聖さん。いつからそんなふうに」
 ばぐではありません、伊賀の仕様です(きっぱり)。
「伊庭さん、声が小さい! これが終わったら次は『ぱらっぱらっ』もありますからね!」
「‥‥あのぅ、少しおうかがいしたいことが。左さんではなく、私を訓練させてどうするおつもりですか?」
 い(かがわし)いところに、売る。
 そんな、まさか。
 聖は漆黒の宗徒らしく、いつも全力投球で、自己と他人を同期にみがいているだけなのです。それが明証に、べつに浴衣のことなんてどうとも思ってないしね? やたらにはりきりすぎているのも、大音響で左たちの集中をみだすことで、わざわざ障害をつくってやろうって、ただそれだけのことだしね?
 レイムス、どこから調達してきたか、重し、石を藁でくくった即席の甲冑のようなもの、を無理遣りに左につけさせて。柘榴、律儀におなじのをはめた。
「うーん、ちょっと重いかな?」
 と、片足ケンケンで遊んでみるあたり、じつに男の子。
「ん♪ 慣れてくると、なんだかおもしろいかも。そんじゃ左、むこうの沢まで競走だーー!」
「や、やっぱ柘榴さんって、琥珀さんの甥っ子さんですよね。そゆとこ、そっくりです」
 ‥‥、
 ‥‥‥‥、
 ‥‥‥‥‥‥‥、
「じゃーん、おひるです。シャラふっかつです、げんきです、めらめらですー!」
 萌えるぞ、燃える。シャラがにゃむにゃむの呪文から抜け出したのは、太陽が極点に来るころで、昨日けっこう強行だったかららしい。
「ただいまですー、ごはんとってきましたー。おぉー、ぬけがけでずるいです、まぜてくださいー」
 小鉄も――いや、小鉄にはもはやみえぬ――雪だるまというのがあるのだから、それはたぶん、こういうふうになる、草だるま――ゆっさゆっさとゆすぶりながらの、無事帰還。
「はわー、かわいいです。シャラもやってみたいのですー」
 や、やめておきなさい。おさない見掛けにどうして、けっこう体力のついている小鉄だからできることで、シャラにはまだちょっとむずかしいかもよ。小鉄、それを知ると、えへん、とちょっと誇らしくなり、
「僕、なんだか大きくなったみたいですー。大きくなったからおなかまにいれてください、聖くん。馨さん」
 と、ゆっさゆっさからぴょこたんぴょこたんに行動をうつして、小鉄があくがれる方向――‥‥、
「はい、次は! 伝説の、もんきーだんすを! えっほ、ほいさ!」
「‥‥聖さん。とりあえずは一度おちついて、お互いに年代を確認するべきだとおもいませんか?」
 それから、理性も。
 狂乱をまぬがれた琥珀(実は、ちょっと参加してみたかった)にエリーヌ(加わる気はさらさらない)、ふたりはいくらかへだてたところで、以降の予定を詰める。
「悪ぃな、役にたててねぇみたいで」
「あら、いいのよ。琥珀さんには琥珀さんの役割があるもの。朝食の片付けもまかせてしまって、悪いくらい。で、午後はヒマ?」
「こてっちゃんがいっぱい材料をとってきてくれたからな、支度は少し遅めでもどうにかなると思うぞ。今度こそぁ、左のほうに付き合ってやっからな」
「うぅん。それは、かまわないから。馨さんを誘って、あっちの滝壺のほうで、水浴びでもしてくれないかしら?」
「ほい?」

「レイムスさんにみっちりしごかれて、よかったわね」
 まぁ大方の予想どおり――左は午前の鍛練だけで、すでにへばっている。そんな左をなだめ、すかし、せきたてて、瀑布のいただきにまで、おっつかっつ、連れてやってきた。十分へとへとなところに難易度そこそこの登攀を合わせて、左、青息吐息白くもなろうのところを沙紅良はそこは玄人ですから――え、本職、陰陽師? 好事家のが九一ででかいって聴いたけど?――嫣然と、真夏の深紅のなまめかしさを吐息に、目線に、ひらけるところすべてに艶をふくませて、ささやく。
「立ちたまえ、左君。苦悶にあえぐキミもすてきだけれど、もっとステキな舞台を手回ししておいたよ?」
 いささか棒読みちっくなのをけどられたか、回復いまいちな左。ここはやっぱり奥の手をさしだすしかないわね、と、エリーヌは小器用に薄翅をはばたかせて、
「さぁ、崖下をのぞいてごらんなさい。おとっときのいいものがあるわよ」
「どきどき☆ まんうぉっちんぐですー!」
 こういうときは打楽器の連打があったほうがいいけれど足りないものだから、シャラ、じゃあん、と、竪琴をかきならす。
 おとっときの意味は、すぐしれる。
 (エリーヌに促されるまま、わけもわからず)行水をさせられている琥珀、馨、行水ということはつまり服は脱ぐ、男らしくすぱっとぉ、ぶっちゃけりゃ裸だ。
「どう、いっしょになってみたいと思わない? 今からふつうに降りていっても、きっとまにあわないわ。‥‥跳ぶ、しかないわね」
「あ、あの」
「これはですね、すっごいとっくんなのです」
 援護射撃、シャラ。
「もくひょーをしっかりさだめて、ねらいをまちがえずに、そっちにとびつくんです。おまけに「にんげんかんさつ」もできて、んと、んと、えと、あ・そうだ。これは、りょーとーづかいなのです!」
「‥‥シャラちゃん。一石二鳥とか一挙両得とかよ、それは。似ているようで、ぜんぜん違うわよ」
「へぇ、すごいねぇ」
 その場には、柘榴もいる。はしこい柘榴だ、波乱の岩場はわりと会心、左のようにおそるおそるではなく、
「ほんとうだ。おじさんもいる、やーほー」
 滝下に手を振りかけた柘榴を「しっ」とエリーヌが引き戻す――のは膂力的にちとできかねるので、手、というよりは腕をあまねく駆使して、柘榴の口元をぐぐっと抑える。
「あっちに気付かれたら、ダメじゃない」
「むぐぐ。どうして?」
「これは勝負だからよ」
「勝負? あ、そっか。分かった。忍びらしく、ひっそりこそり、つまりは泥棒! 恋泥棒っぽく、忍んじゃおうってこと?」
「‥‥まぁ、そんなところかしら?」
 沙紅良だって、玄人の名にかけて、負けてやしない。
「風をはらみ、水とともになる左くん。透ける衣がえも言われず艶やかに、まるで妖精のように駈ける(つーか、落ちる)きっと美しかろうね。ぜひとも絵にしたいものだ」
「‥‥えーっと」
「そこまで云われて、なにもしないなんて、女がすたるわよ。左くん!」
 エリーヌは容赦がなかったし、待ちもしなかった。崖へ半身をのりだしたまま、凍結する左にすかさず影で縛ると、物理的に縄術でもくくる、いやぁん緊縛ぷれい☆と左が身悶えるまもなく、経巻ひらいて疾風を呼び出したかとおもえば、
「いってらっしゃい、いなばうあー!」
 鬼だ。小鬼より、さらに小さい鬼が、ここにいる。
 ってゆうか、因幡馬どころかもはや伊勢蝦?
 ――細い、細い、消えゆく、悲鳴。沙紅良もまた目を細める、この世からまたひとつ悪を滅ぼしたな、と、そういう笑みである。
「‥‥ところで、エリーヌ君。ひとつ伺いたいのだが」
「なぁに?」
「ここまで来るの、なかなか難事だったと思わないかい?」
「そうね、けっこうな断崖だったわよね。私はシフールだから、飛べるし、そんなに苦労しなかったけれど」
「山っていうのは、登りよりも下りのほうがきついと話を聴くが‥‥。左君は突き落としたからいいようなものの、私たちはどうやって帰るんだい?」
「もちろん、歩いてよ。そのために、沙紅良さんにはこっちに来てもらったのよ。シャラちゃんが崖下にもってかれたらあぶないから、ちゃんとたすけてあげてね?」
「ふぇえん。シャラはおちたくないですー(えぐえぐ)」
「‥‥ふっ。小悪魔だね、キミたちは。そんなところもふくめて、愛しているよ」
 が、彼女らの見返りは口車ではなく、挙動があってこそ、沙紅良の愛はまさに崖っぷち、涼風がなぐさめるように沙紅良の衣裳をひらひらとはためかせる。どことなく、黒と白のだんだら幕にも似て。

●やっぱ鍋!(これは、琥珀さんの提供。どうもー♪)
 なんだか俺、一日中料理してるばっかみてぇ、と、琥珀つぶやきながら、夕食をじゅんぐりにふるまう。
「どうだ、ちゃんとアクでてっか?」
「おいしいですー、むぐむぐごっくん」
 シャラは、つるりと、菜っ葉を口にすべりこませる。
 そこらじゅう、どんちゃんの教えられるとおりにむしりとってきたのは、意外や意外、それなりに処理すればきちんと頂戴できるものだったらしい。どぶろくをつかって青臭みを消し、丹念にぐつぐつ煮込んだおかげで、琥珀特製「ちょっぴり塩味が隠し味♪」鍋は、ぐったりとくたびれた面々の胃を今日も今日とておもしろがらせる。
 が、左に用意されたのはちと違う。
「僕、左くんにはなんにもできなかったですからー」
 せめてものおなぐさみ、と、夕餉をあつらえたのは琥珀ではなく小鉄で、そうなれば献立からしてまるで変わってくる。
「あんまりあたためると、せっかくの精が消えちゃいそうでしたから、素材の良さ‥‥ってなんでしょー?‥‥を」
 すりおろす――というよりは粉微塵に切り刻んだのを、強引に水で溶き、かきまぜてできあがるそれは――、
 まるで沼。あおみどり。ぷん、とたちのぼる匂いには、なぜかそこはかとなく、硫黄臭まで。
「新鮮なうちに、どうぞ召し上がってくださいー。左くん」
「ほぅ、こてっちゃん。なかなかよくできてっじゃねぇか」
 嘘をつけ、琥珀。それとも本気か? 小鉄のそれを難なく口にし「ちょっと苦いかな? こてっちゃん、蜂蜜いれるともっとまろやかになるぞ」としごくまっとうではあるがどこか道外れの教授、
「せっかくこてっちゃんがつくった、すりおろし汁物だ。たーんと、一滴残らず、たいらげるんだぞ?」
 そしたら今夜こそ、俺と特訓だ、と、琥珀は左のかたわらにじんどる。おもむろにとりいだしたるは、神皇家御用達の薄絹の単衣をつかおうってんだから贅沢だ、これを使って夜ならでは、体をさほど使わなくてもすむをば、縫い物・刺繍ときましたら、琥珀のまさに最終奥義。小鉄の汁物まえにしてかたまったままの左、待ち、琥珀はさらぎぬをひっぱったりなめしたりして、余暇をつぶしていたときだ。
 てくてくてく。
 ――‥‥誰かが、左と琥珀に、寄った。
 馨、きりりと頬もかたく決意を秘めた顔、ふところになおした利き手をもじもじと身じろぎさせていたかと思えば、ぱっと見せつけるのは、イガイガがさも多そうな、これってぴしぱし?
「今、縫っていらっしゃるのは、まさしく花嫁衣装! この星の砂は――星の砂が用意できなかったので車菱です、かたちだけみれば似たようなものでしょう――久世さんに託すつもりだったんですが(私でなけりゃ)琥珀さんでも(私以外の誰でも)かまいません! 琥珀さん。左さんを後添えにして、どうぞ、いついつまでもお幸せに(脱兎)!」
「ちょっと待ったー! 俺は天国の蓮華さんに操を捧げた身! 左はあくまで俺の息子みたいなもんで、嫁にとるつもりはまったくねぇ!」
「‥‥こんな日々があと数日つづくのですね」
 レイムスが嘆息し。見遣るあちら側、聖、調子にのったらしい。月明かりの下、新進の舞踊をきわめんと、舞い、踊り、狂うねぇ、そろそろ帰っておいで?