●リプレイ本文
●鋼の心臓
──ウィル・ミハイル研究所
ミハイル・ジョーンズ教授が迷宮から戻らなくなって、すでにかなりの時間が経過している。
助手のジョディ・ジョーカーもかなり心配しているのではと考えた一行は、まずミハイル研究所を訪れていたのだが。
「‥‥随分と元気そうですねぇ‥‥」
研究室でにこやかに石版の解析をシていたジョディに、無天焔威(ea0073)が驚いた表情でそう告げる。
「ええ。お蔭様で。でも、やっぱり教授がいないと‥‥解読できないものもいくつか存在しますから‥‥」
と告げるジョディ。
「‥‥というか俺はよく知らないけど、あの教授って普通にこういう事するわけ?」
そう問い掛けるアシュレー・ウォルサム(ea0244)に、近くで資料を見ていたシン・ウィンドフェザー(ea1819)とアリアン・アセト(ea4919)が静かに肯く。
「まあ、まだ今回は目的地が判って居るからいいほうだな」
「それに、自分で荷物とかも用意していらっしゃるようで‥‥それだけでもまず安心ですわ」
と呟く二人。
「まあ、私も噂程度は伺っていますし、その範疇ならば、今回のようなケースはまだ『比較的生ぬるい』ほうですね‥‥」
シルバー・ストーム(ea3651)までそう告げると、オルステッド・ブライオン(ea2449)も静かに肯く。
「確かに、ミハイル教授の武勇伝は有名ですし。ということですので、細心の注意は必要ですが、そこはそれということで‥‥」
オルステッドの言葉を最後に聞いて、アシュレーはふと嫌な予感を感じ取った。
「まあ、そういう事ですから‥‥」
と一言ジョディが告げると、いよいよ一行は地図を頼りに目的地へと向かっていった。
●地下迷宮〜タブーの世界
──ウィル北方・地下迷宮
ここは以前、ミハイル教授が『知識の額冠』を落としてしまった場所。
内部にはコボルトが徘徊しているが、そこそこにベテランの冒険者ならば、それほど困難ではない。
そして一行は内部に突入。
そのまま灯を手に、ゆっくりと内部に進むこととなった。
ということで、ダンジョン名物隊列タイムの御時間です。
〜〜〜図解〜〜〜
・上が先頭になります
・遺跡内部での灯はアシュレーの自家発電ライトとその他適時メンバーが担当
・マッパーはアリアンが担当
トラップ関係はアシュレーが担当
・戦闘時はアリアンを中心に戦闘形態を展開
・また、必要に応じて各員が松明の準備
・じじい合流後は、両サイドからじじいを捕獲
アシュレー
無天 オルステッド
アリアン
シルバー
シン
〜ここまで
ということで、そのまま先に進んだ一行。
途中までは自然洞が続く、緩やかな下りの傾斜。
だが、それもやがて無くなると、しっかりとした石造りの壁によって作られた回廊が姿を表わす。
全ての石の大きさは均一であり、隙間なくびっしりとはめ込まれている。
通路全体は薄暗く、明かり一つ存在しない。また、内部はジメジメとして湿気が高く、足元も泥のようなもので汚れている。
それがどうやら『蝙蝠の糞』であることは、やがて確認できたものの、この人工構造物の中に蝙蝠というのも、実に奇妙な組み合わせであろう。
「‥‥で、ミハイル教授は一体どこにいったことやら‥‥」
隊列を乱すことなく、慎重に進んでいく一行。
と、1時間ほど進んだであろうか。
突然前方の床が崩れ、崖のようになっている場所にたどり着く。
「どれどれ‥‥」
と、アシュレーがスクロールを取り出し、発動する。
「この近辺で呼吸している者は、どうやら我々ぐらいか‥‥と、このトラップは‥‥」
静かに足元ギリギリを調べるアシュレー。
「どうだ? じじいが落ちている感じはあるか?」
無天の問いに、アシュレーが頭を左右に振る。
「駆け抜けて、その後で床が落ちていったというところだ。崖の長さは5m。どうやって渡るか‥‥」
そう呟くアシュレー。
「‥‥これでいけないこともないが‥‥」
壁をコンコンと叩きつつ、シンが自分の足元を指差す。
「どうだろうな。試してみるか?」
その無天の言葉に、シルバーは静かに肯くと、シンの体にロープを固定する。
そしてシンが壁に指をかけ、慎重に横歩きを開始。
辛うじて残っている壁際のブロック、その幅はだいたい5cm。
そこに脚をかけて、ゆっくりと進んでいくシン。
そして向うまでたどり着くと、シンはロープを体に固定し、さらに足元のブロックの隙間にジャスティフォルを突き刺すと、そこを足掛かりに体を固定。
反対では無天が同じ様にロープを固定し、さら別のロープを使って同じ仕掛けを二つ準備。
そこを足掛かりとして、静かに渡っていく一行。
そして最後には無天が荷物を先に前にわたし、全力で走り出して幅跳びの要領で飛び越えた。
「さて、先にすすむとするか‥‥」
そう告げるオルステッドの言葉で、一行はさらに奥へと向かった。
●綺麗な空間
──迷宮奥・広間
そこは回廊から抜けた広い空間。
何かの集会場のような構造、その中央には古い台座が置かれている。
その上には、過去に何かが置かれていたのであろうが、今はなにもおいておらず、ひっそりとしている。
その部屋のあちこちにはいくつもの白骨が転がっており、しかもかなり古いものであるらしく、部分的にミイラ状になっているものさえあった。
「‥‥セーラよ。この者たちの魂を救いたまえ‥‥」
胸の前で十字を切り、神に祈るアリアン。
「さて、あのじいさんはどうしたものかなぁ‥‥」
と呟くオルステッド。
ちょうど部屋の正面左、秘密の抜け道のような穴から、ミハイルらしい人物のお尻が見えていた。
「待て、みんな!落ち着いて深呼吸‥‥じじいに何かあったり、何かやらかしてても驚かない事。殴るのは回復させてからにする事、いいな!」
そう告げる無天の言葉に、全員が1度深呼吸。
「あ‥‥えーっと‥‥じーさんいきてるか?」
後ろからシンが近付くと、そう声をかける。
『おおーーー。その声はシンではないかーーーーーー』
と、壁の向うの空間に響くミハイルの声。
「さて、とりあえず怪我の回復を‥‥」
と、アリアンがミハイルのお尻に手を当てて、リカバーを唱える。
体力が回復するわけではなく、万が一怪我をしていたときの為のリカバー。
──フゥゥゥゥゥゥゥン
温かい光がミハイルに届く。
「でねどうしてそこでそうなっているのか、ちょっと説明してもらいたいのですが‥‥」
と、まだ助け出すことはなく問い掛けるアシュレー。
「この穴の奥に、なにかレバーのようなものが見えてのう、で、それを操作しようとおもったのぢゃが、届かなくてのう‥‥」
「あー、判った判った。とりあえず、そのままレバーをいじるなよ。いま引っ張り出すから」
と無天が告げると、そのまま全員でミハイルを引きずり出す事に成功。
「ふはぁぁぁぁ。生き返ったわい。さて、それでは早速‥‥」
と、再び穴に向かうミハイルだが。
──パチィン
と指を鳴らすシン。
「ということだ」
「すみません。あまり手荒な事はしたくないのですが」
と、無天とオルステッドの二人がミハイルを両側から高速、そのまま後ろに引きずっていく。
「まずは腹ごしらえをどうぞ。あんな体勢で、お腹が減っているのではないですか?」
と、アリアンが食糧を差し出す。
「うむ。では少し腹ごしらえを‥‥」
と告げて、、ミハイルが食事タイム。
その間に、シルバーとアリアンが内部を軽く見渡す。
「ミハイル教授? ここはひょっとして」
そう告げるアリアンに、ミハイルは静かに肯く。
「うむ。我々の世界の神殿仕様。台座の形状と中の作りを見て判るとおりぢゃよ」
と告げるミハイル。
シルバーは壁の彼方此方に刻まれた精霊碑を確認、そこが『精霊信仰』の神殿である事を確認した。
「大地の‥‥神殿‥‥地の竜を奉っている‥‥ふむふむ」
と、静かに解読を開始するシルバー。
「どうやら、ここは何か疫病が発生した為に放棄された神殿のようですね」
と問い掛けるシルバー。
「うむ。その疫病も、長い時間の間に消滅し、今はコボルトと蝙蝠の住まうただの洞窟となってしまっている。さて、最後の仕上げといこう。誰か、そこの壁のトラップを解除してくれぬか?」
と、ミハイルがはまっていた反対側の壁を指差す。
「ええ。ここの壁ですか‥‥と、これは‥‥むむむ?」
アシュレーがトラップを確認。
「さて、それでは‥‥解除します‥‥」
──ガチャッ
何かのギミックが働き、壁がスライドする。
そしてその奥に、小さな部屋か姿を現わした。
財宝というほどのものではない。
ただのガラクタ置き場。
その奥に、一振りの剣が安置されている。
「よしよし、懐かしいのう‥‥」
と、剣を手に取りにいこうすとするミハイルを、再び全員で取り押さえる。
「あー、教授はここで待機していて下さい。あれは私達が」
「あ‥‥ああ‥‥それなら‥‥」
と、オルステッドが内部に入り、剣を手に取る。
手に馴染む、実にしっくりとする剣。
それを持って、オルステッドが外に出ると、それをミハイルに差し出した。
「これでいいのですね?」
「うむ。懐かしいのう、大地の剣‥‥」
と、ミハイルはその剣を腰に修める。
「さ、この世界にも飽きたからノルマンに帰る方法みつけるぞ、じじい」
と無天が告げると、さらにシンが問い掛ける。
「で、じーさん、ちょっと色々と教えて欲しいのだが‥‥今後の方針だが‥‥」
「うむ。では、まあ簡単に説明しよう。ワシがここにやってきた方法と全く同じ方法で、この世界と我々の世界を結ぶ月道を開く。そのためには、まず、『6つの精霊武具』を入手し、それぞれに『精霊の加護』を直接付与してもらい、武具を覚醒させる」
ふむふむと、その言葉を羊皮紙にメモするシルバー。
「そののち、月道を開く月精霊の元に赴き、月道が開く場所を示してもらう。あとは、そこに集まり、精霊武具を安置して月が昇るのを待つ」
そう告げると、ミハイルは今1度深呼吸。
「精霊武具と、加護を受けたものを教えて欲しいのですが」
と告げるシルバー。
「うむうむ。まず、6つの精霊武具について。順に『一対のペンダント』『道標の剣』『守りの楯』『月光鎧』『陽炎の衣』『知識の兜』『清水の靴』となる‥‥お、7つじゃな。最初のペンダントは鍵となるから別のものとする」
と告げて、一休み。
「今現在持っているものは、この風の武具『知識の兜』と、今回収した大地の武具『道標の剣』の二つ。残りも、それぞれ精霊に関係している場所に眠っているとおもう‥‥」
と告げる。
「では、次は何処に向かわれるのですか?」
「そこなんぢゃよアリアン。まずは『一対のペンダント』を探そうと思う。あれがあれば、残りの武具の場所を示してくれると思うのぢゃよ‥‥まあ、あとは酒場ででも‥‥」
ということで、一行は無事にミハイルを救出し、王都へと戻っていった。
●そして
──ウィル王都・『真っ赤な誓い亭』
愉しそうに食事をしている一行。
無事に戻ってきた為、今回の食事はミハイルの奢り。
「知識の兜から得られる情報では、一対のペンダントは『精霊の力のもっとも強い場所』にあると思う。そこでワシは考えた。あの『嵐の壁』を越えて、シーハリオンに昇ろうとおもうのぢゃが‥‥」
──ブハァッ!!
その言葉に、全員が咳き込む。
「無理だぁ!! あの壁は生身では越えられない。フロートシップとか、ゴーレム、ドラグーンでもない限りは絶対に無理!!」
と叫ぶ無天。
「それが、実は簡単に行けそうな場所があるのぢゃよわ。この世界の何処かに『海のシーハリオン』というのがあるらしい。潜って、そこに行こうとおもうので‥‥まあ、準備と場所が判ったら、その時は頼むぞ」
ということで、いきなりハードルを高くしたミハイル。
そしてその夜は、静かにふけていったのであったとさ。
──Fin