●リプレイ本文
●最後の晩餐
──ミハイル研究所
「・・・・なあ、確か結構前に、倉庫は整理した筈だよな・・・・」
目の前に広がっている大量の『未整理物品』を前に、シン・ウィンドフェザー(ea1819)は静かにそう呟く。
まもなく帰還するミハイル・ジョーンズの元に集まった一行は、まずミハイルの荷物を纏める作業を開始しようとした。
その行程の中で、アリアン・アセト(ea4919)とイコン・シュターライゼン(ea7891)はミハイルの荷物を以下の分類に仕分ける事を提案。
・ジ・アースから持ち込んだもの
・アトランティス固有のもの
・アトランティスで生産されたが、ジ・アースにも存在するもの
・地球固有のもの
・地球から持ち込んだものだが、ジ・アースにも存在するもの
・地球固有の品を模して、アトランティスで作成したもの
「この分類方法で荷物も仕分けしておきますと、万が一帰還時に引っ掛かってもその分野を置いていけばいいことになりますわ」
「確かに。で、この大量のガラクタを、その分類にするためには、あと何日必要なんだ?」
オルステッド・ブライオン(ea2449)が一行にそう問い掛ける。
「最低でも、予約を入れてある2日後の夕方までには・・・・」
と、加藤瑠璃(eb4288)も頭を抱えつつそう呟く。
「何処に予約?」
「えーっと、ファミリーレストラン『スィーツ・iランドinウィル店』ですね」
アシュレー・ウォルサム(ea0244)が問い掛けると、瑠璃はそう一言告げた。
「まあ、これだけの荷物を分類するのですから、先ずは大まかに仕分けしたほうがいいですね・・・・」
シルバー・ストーム(ea3651)もそう告げると、自分で判る範囲での仕分けを開始。
リードセンテンスを駆使しつつ、そこに置いてある文献の仕分けを開始。
時折精霊碑に関するものを見付けては、一瞬手が止まるものの、シルバーは黙々と作業を続けていた。
「で、ミハイルじーさんの荷物は? この世界のものは持っていけないのだろう?」
オラース・カノーヴァ(ea3486)がそう横で荷作りをしているミハイルに問い掛ける。
「うむ。ジ・アースから持ってきたものは大体こんなものなんじゃが・・・・」
とミハイルが荷物を指差すと、横で見ていたシンが荷物の上に置いてある紋章剣『激震』『一角獣』をじっと眺める。
「なあじーさん。この紋章剣なんだが、今こうしてここに存在しているという事は、何かしら理由があるのではないか?」
「紋章剣の輝きはオーラの輝き、命のパワー。カオスの者たちにも十分有効な武器じゃろう・・・・なら、この二つはジョディにあずけておく。もしこの二振りの武器が必要になったら、ここに居る連中に貸してあげてくれないか?」
そのミハイルの言葉を受けて、ジョディは静かに頭を縦に振る。
「オーケーボス」
「それにしても、ようやくミハイル教授も帰還ですか・・・・ようやく精霊武具を全部集めて教授を送り出す。いろいろあったなあ・・・・うん、本当に」
今までの苦労を思い出して遠い目を通り越して透き通るような目で明後日の方向を見ているアシュレー。
──ガググガグガグガグガグガグガグ
と、突然アシュレーの全身がガクガクと震えはじめる。
(ゴメンナサイゴメンナサイ・・・・)
あ、何かのトラウマスイッチが入った模様です。
「しかし、この剣はアトランティスの遺跡で発見された『ジ・アース製』のものだろう? これはどっちに分類されるんだ?」
オルステッドが頭を捻る。
「そういう時は、危険だから『アトランティス製』にでも分類しておけ」
「ふぅん。そういうものかねぇ。確かにジ・アースの伝説のお宝には、アトランティス由来の物も多いしな。その逆もまた然りってか・・・・」
そうオラースに返事を返すオルステッドだが、そのまま無意識のうちに腰に差さっている剣を触る。
(私もこの愛剣を持って帰れるなら帰りたいものだ)
それはおそらく無理。
「それはそうと、この前の荷物の中で、どれがひっかかったのでしょうか?」
とアリアンがミハイルに問い掛ける。
「おそらくは、この『ロゼの紋章』の刻まれた短剣ぢゃよ。刀身がロゼ色に輝くように加工されておる」
「それはこのアトランティスの物ですから、たしかにそうですね・・・・」
「うむ。それ以外の荷物が引っ掛かるというのはないぢゃろうて・・・・」
と告げるが、シルバーが側で、ミハイルにスクロールを指差しつつ問い掛ける。
「そのスクロールは?」
「ゴーレムの生産について。それらに必要な魔力と必要な魔法、そしてその他様々なメモぢゃ。これを元に、ワシ、ジ・アースでも巨大ゴーレムを作ろうと思っている」
──ビリビリビリビリビリビリッ
咄嗟にそのスクロールを破くシルバー。
「な、何をする?」
「アトランティスで得た知識はどうしようもない。が、それらを形に残した場合は、持ち込めないだろう?」
確かに。
「それで、ミハイル教授は、ノルマンに戻られましたら何をなさるのですか?」
とアリアンが問い掛けると、ミハイルは静かに肯きつつ一言。
「天界に向かう術を探そうとおもうのぢゃ・・・・」
──ゴルゥアァァァ!!
「それは、このアトランティスで調べたほうが宜しいのでは?」
と呆れた顔で告げるアリアンに、ミハイルは頭を振って一言。
「その秘密は『神聖王国ムゥ』にあると見た。ムウに関する碑文などはノルマンの研究室に保管してある。それを解析するのぢゃ」
あ、なーるほど。
──その頃
「こちらの荷物は全て、ミハイル教授の荷物の中で『持ち帰り不可能』なものです。ジョディさんの元で保管して頂けますか?」
とイコンが助手のジョディ・ジョーカーに荷物を託す。
「それは構いません。この建物や倉庫は全て、ミハイル教授の私財ですから。私はここを管理しつつ、考古学の勉強を続けるだけです」
おおー。
「では御願いします・・・・」
ということで、一行は作業最終日まで、ただひたすらに荷物の仕分けを続けていた。
●パーティー野郎ぜ
──男ばかりではない会場
ザワワザワワザワワ
大勢の人たちが集まっているパーティー会場の『スィーツ・iランドinウィル店』。そこでは既にパーティーが始まり、ミハイル教授との最後の別れを惜しむ人たちで溢れかえっていた。
他国やジ・アースでは珍しいジャガイモ料理、エチゴヤ親父のパン、桜まんじゅう、桜の花の塩漬などが持ち込まれている。
飲み物はオラースの差し入れたスイートベルモット[ザ・ブリック]、発泡酒、ワイン、ロイヤル・ヌーヴォー、日本酒・どぶろくなどが大量に並べられ、正装したオラースが給仕をかってでていた。
アシュレーは鉄人の大包丁、鉄人のエプロン、キッチン万能ハサミ、ゴールデンカッティングボード、鉄人のおたまなどの道具を駆使して写本『食卓の賢人たち』に表示されているフルコースを完全再現。
「そういえば地球人が地球に帰還する手段も教授と同じやり方なのかしら」
と瑠璃がミハイルに問い掛けるが、ミハイルはしばし思考した後一言。
「それはちがうぢゃろう? 瑠璃とかは天界からどうやってここにきたのぢゃ?」
「それは・・・・運命に導かれて?」
と告げる瑠璃。
「ならば、能動的に帰る方法は『運命のままに』ぢゃよ。ワシのように自分で準備してきたわけではないからのう・・・・」
と言うことで、瑠璃は納得。
「そういえば教授、帰還した後はパリを拠点にするの?」
とイコンが問い掛ける。
「うむ。当面はな・・・・」
「何かやり残しは?」
今度はアリアンが問い掛ける。
「特務艦グリフィンによる月道突破作戦が・・・・」
あーもそんな話もありましたけれど、それは元々無理ですから!!
「そうだミハイル教授。俺も聞きたい事があったんだ・・・・」
オルステッドがそう問い掛けると、ミハイルは陽気に肯いた。
「おお、何か懐かしいかんぢじゃな。掛かってこい!!」
「天界人や鎧騎士はジ・アースへ行けるのか?」
「アルテイラの反応を考えるに、無理ぢゃろ」
「同じく、アトランティス特有の技術はどうなる?」
「そのまま使えると思うが、魔法などは効果が異なる場合もあるぢゃろで」
「受け流しという戦闘技術はできるのか?」
「知らん(きっぱり)」
「以前、『この特務艦グリフィンで月道を突破、天界の調査活動に入る』と艦長は言っていたが、そんなことしていいんだろうか・・・・?」
「無理のようぢゃな」
「ジ・アースとアトランティスは往復が可能なんだろうか?」
「さて、どうぢゃろう・・・・」
とまあ、懐かしの質問連撃でした。
まあ、そんなこんなで盛り上がってた会場でしたとさ。
●帰還
──グレートウォール前
いよいよ帰還。
静かに夜空を見上げる一行の前に、アルテイラがスッと姿を現わした。
「そろそろ帰還なのですね? ミハイル・ジョーンズ」
と優しく問い掛けるアルテイラ。
「うむむ。その通りぢゃ・・・・そこで質問なのぢゃが、ワシはジ・アースに戻る事は出来るのぢゃな」
「ええ。それでは魔法陣の中に・・・・」
とアルテイラに促され、ミハイルは魔法陣の中央に向かう。
「・・・・じーさん、俺があんたに付き合えるのはここまでだが、あんたはあんたの道を・・・・それこそ最期は前のめりで倒れるくらい突っ走ってくれ。これからもロマンを追い求め続けろよ、ミハイル・ジョーンズ教授」
とシンが告げる。
そのまま差し出された手に握手すると、ミハイルはそのまま魔法陣の真ん中に立った。
(パリでクリス・ラインハルトってヤツに会ったら、俺は元気だと伝えてくれねぇか?)
そう告げようとして、言葉が喉に詰まるオラース。
「では、荷物を・・・・」
とアルテイラが告げるが、ミハイルは荷物を何も持っていない。
「中身をチェックした結果、特におかしいものは入っていません。けれど、ミハイル教授は荷物を必要としないそうです」
アシュレーがアルテイラに告げる。
「そうですか・・・・では」
魔法陣の周囲に安置されている精霊武具が光り輝く。
やがてその輝きは一つとなり教授を包みこむ。
「では、ちょっと行ってくる・・・・」
そう告げると、ミハイルの姿はスッと消えた・・・・。
「ふぅ・・・・あーあ、じーさん帰っちゃったか・・・・」
アシュレーはがっかりとした表情でそう呟く。
──ヒラリ
ふと、空から一枚の布が降り落ちてくる。
それを両手で受け止めると、シンの表情は硬直した。
「じ、じーさんのフンドシ・・・・最後までオチを付けるのはミハイル教授ならではだな・・・・」
そのシンの言葉に一同爆笑。
かくして、ミハイル教授はアトランティスから消えていった・・・・。
──Fin