【ミハイル日誌】陽炎と幻影の狭間

■シリーズシナリオ


担当:一乃瀬守

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:8 G 46 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:07月07日〜07月19日

リプレイ公開日:2008年07月15日

●オープニング

「‥‥そうじゃのう‥‥」
 静かな研究室。
 その中で、ミハイル・ジョーンズ教授は腕を組んで悩んでいた。
 目の前のテーブルには、現在までに集めた5つの精霊武具が置かれている。
 すでに精霊の加護によって姿を変えたそれらは、静かに鳴動を続けている。

『ウインドヘルム』
『大地の魔剣』
『ムーンライトアーマー』
『ウォーターウォーキングブーツ』
『灼熱の楯』
『対のペンダント』

 現在までに集められたのはこの5つ+1。
 そして残りの『陽炎の衣』を探し出さねばならなかった。
「で、次はどこなんですか?」
 助手のジョディ・ジョーカがミハイル教授にそう問い掛けている。
「陽炎の衣。これがまた厄介でのう‥‥。そもそもこの衣は、光差す搭に安置されていてのう。より高く、そう‥‥天を眺めるかのような場所に‥‥」
「ああ、つまりもう1度、シーハリオンに昇るのですね。今度こそ、麓ではなく山頂目指して‥‥」
「うむ。そこで、もう一度だけ、ランのフロートシップに頼もうかと思ってのう‥‥ちょっといってくる」
 と告げて、ミハイル・ジョーンズ教授は一路冒険者ギルドへと向かっていった。

・・・・・・・・
‥‥‥
‥‥


──ガチャッ
 トボトボと帰宅してくるミハイル。
「どうでした?」
「なにか、色々とランの本国であるらしくてのう。高速艇は貸してくれなんだ」
 そりゃそうだ!!
「では諦めるのですね?」
 と問い掛けるジョディ・ジョーカーだが、既にミハイルはいそいそと出発の準備をしているところであった。
「なにを言うか。高速艇ロータスは駄目でも、『特務艦グリフィン』には話を通してある!! ということで出発の準備ぢゃ」
「ちょ、出発って‥‥どこにあるのか判って居るのですか?」
「この兜が示している。『陽炎の衣』はシーハリオンに住まう『コロナドラゴン』の元に‥‥」
 ということで、どうやらミハイル、最後の挑戦の幕は閉じた‥‥って閉じてない、開くのであった。


●特務艦『グリフィン』搭載戦力
・ゴーレムグライダーは以下の機体を準備
強襲型:『富嶽』『深山』『泰山』『連山』
攻撃機:『閃電』『天雷』『震電』『秋水』

・炎の精霊砲×1(船首搭載)
・イーグルドラグーン
 (装備としてロングソード、ハルバード、ラージシールド、デスサイズ(死神の鎌)を搭載)

・バガン×1

●今回の参加者

 ea0073 無天 焔威(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0244 アシュレー・ウォルサム(33歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea1819 シン・ウィンドフェザー(40歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea2449 オルステッド・ブライオン(23歳・♂・ファイター・エルフ・フランク王国)
 ea3651 シルバー・ストーム(23歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea4919 アリアン・アセト(64歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea7891 イコン・シュターライゼン(26歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 eb4288 加藤 瑠璃(33歳・♀・鎧騎士・人間・天界(地球))

●サポート参加者

オウ・ホー(eb2626)/ 物輪 試(eb4163

●リプレイ本文

●最後の刻を生きる為
──ウィル・セレ分国上空
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
 静かにセレの上空を移動する特務艦グリフィン。
 目的地は『シーハリオンの丘』。
「‥‥じーさん、ちょっと質問なんだが‥‥」
 グリフィンの甲板前方に座っていた無天焔威(ea0073)が、ミハイル教授にそう呟く。
 そのミハイル教授はというと、これから始まるであろう『大事件』に心ワクワクしている。
「ん? なんぢゃ?」
「シーハリオンの丘に向かう方法、つまり『嵐の壁の突破方法』についてなんだが‥‥」
 と無天が告げると、周囲で作業をしていた一行も集まってくる。
「そう、それだ。じーさん、何か方法はあるのか?」
 シン・ウィンドフェザー(ea1819)もミハイルに問い掛ける。
「そうそう。迂闊なコースを飛んで、内部にいるナーガの氏族と戦闘にでもなったらどうするんですか?」
 オルステッド・ブライオン(ea2449)もそう告げる。
「このフロートシップは、麓までじゃなかったのですか‥‥」
 と頭を捻るシルバー・ストーム(ea3651)。
「このフロートシップでまさか特攻とか‥‥まさか‥‥ね‥‥あははは‥‥」
 ああ。
 イコン・シュターライゼン(ea7891)がもう壊れはじめている。
「ん? 特攻ぢゃが?」

『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉい!!』

 さらりと行ってのけるミハイルに、無天以外の一行による総突っ込み。
「そんな無謀な!!」
「過去に、フロートシップで壁を突破したという報告はないのですよ?」
「それに、何かあったらどうするのですか? 死にに逝くようなものですわ」
 アリアン・アセト(ea4919)もそう進言するが。
「なあじーさん。この兜の中の情報、真実だろうな?」
 と無天が告げると、ミハイルは自信満々に肯く。
「うむ。精霊を信ぢるのぢゃ」
「ならOK。みんな聞いてくれ。壁を突破する方法はある‥‥」
 と告げる無天を、一行は静かに見る。
 その全身に装備された精霊武具。
 その中から楯を正面に、そして剣を引き抜いて構える。
「嵐の壁はすなわち『精霊力の嵐』。ならば、これで突破できる‥‥」
 その呟きと同時に、全身の精霊武具が輝く。

 『灼熱の楯』からは『破壊の波動』が正面に向かって放出される。
 『大地の魔剣』はその全身を水晶の剣と変化させ、硬度と威力を増していく。
 『ムーンライトアーマー』からも精霊力が放出され、この船全体を優しく包みこむ。
 そして『ウォーターウォーキングブーツ』からは癒しの力が放出される。
 それらを制御するのは頭部の『ウィンドヘルム』。そして対のペンダントがそれらの力を増幅させた!!

「こ、これは‥‥」
「この力+フロートシップの加速度を持って、嵐の壁を破壊、そのまま一気に加速を続け最頂上まで一気に飛んでいくということぢゃ!!」
 そう告げると、ミハイルは無天の肩をポムと叩く。 
「肉体に掛かる負荷はすざましいものぢゃろう。がんばってくれ」
「いや、ちょっとまて、俺がやるのか?」
 説明はしたものの、まさかそういう流れになるとは思っていなかった無天。
「いや、この中で『嵐の壁』を破壊する剣戟を叩き込めるものが居るのならば、誰でもかまわぬぞ‥‥」
 と告げるミハイル。
 そして一行は、そのままお互いの実力がどれほどのものかを調べることにしていた。


──その頃
「コロナドラゴン‥‥まあ、陽属性のドラゴンの最高峰なんだろうね‥‥毎回無理難題が多かったけど極めつけかなあ、もう」
 ブリッジで遠い目をしながらそう呟いているのはアシュレー・ウォルサム(ea0244)。
 まあ、無理もないだろう。
 ミハイル教授に長く付き合っていると、ある程度の耐性はついてくるのだが、アシュレー自身はまだそれほど耐性がついていない。
「まあ、今回の一件については、我々としても頭が痛い。が、ミハイル教授が月道を開いてくれれば、我々も次の任務がやってくるから‥‥」
 と告げるアーレン・フィルマー艦長。
「次の任務ですか?」
「うむ。この特務艦グリフィンで月道を突破、天界の調査活動に入る。その為には月道を開く事が必要、そこでゴーレム工房や各部所との調整が始まったという訳だ‥‥」
 そう告げると、アーレン艦長も正面をじっと見る。
「まだ見ぬ天界。我々にとって有益なものであるといいのだが‥‥」
 
──さらにその頃
「‥‥飛び道具はないのよね‥‥」
 イーグルドラグーンでいつでも出撃が可能なように調整をしているのは加藤瑠璃(eb4288)。
 ちなみに今回の依頼では、イーグルドラグーンに搭乗し、バックアップとなっている。
「そりゃあもう。いいっすか? そもそもドラグーンやゴーレムで飛び道具戦闘を起こすのがおかしいっすよ。大体ゴーレムとかの手は、人間のような細かい作業にまで対応していませんから。近い行動はできますが、弓を巧みに操り、なおかつ乗り手の腕を反映させるというのは不可能に近い。その為の技術を生み出す為に、我々ゴーレムニストは日々血を吐くような激しい研究の日々に悩まされつづけ‥‥って聞いていますかぁ?」
 制御胞の中に消えていった瑠璃にたいして、ゴーレムニストのシヴァ・シゲーオがそう叫ぶ。
「ごめんなさい。長そうなので聞いていませんでした」
 と正直に謝ると、イーグルドラグーンの調整を開始した瑠璃であったとさ。



●エレメンタルブレイカー
──ポイント21、17、19
 目的の場所まで、およそ距離にして15km。
 ここから一気に加速を開始、嵐の壁を精霊武具によって中和弱体化し、そして破壊する。
 作戦は1度きり、失敗はすなわち死。
 そしてこれ以外の方法が全くないという現状、これに賭けるしかなかった。
「ふぅ‥‥」
 静かに甲板最先端でそう溜め息を付いているのは、シンである。
 それ以外の全員は艦内に退避、作戦開始をじっとまっていた。
『こちらブリッジ。只今より加速を開始する。うまくやってくれよ‥‥』
 という伝声管の声が聞こえると、シンは静かに楯と剣を構える。
「やり方はヘルムが教えてくれるか。成る程」
 と呟いている最中にグリフィンはさらに加速を続ける。
 やがて嵐の壁が視認出来るようになると、シンは全身の装備から精霊力を解放。
──ゴウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
 そのまま精霊力の塊がシンを包み、やがてグリフィン全体を包みこむ。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」
 絶叫を上げつつ、水晶化した剣を構えると、そのまま突撃のタイミングでそれを振り落とす!!

──ビジヒジギジギジミシミシィィィィィィィィィィィィィィィッ

 嵐の壁が虹色に輝く。
 やがて壁である精霊力の塊が流動し、そこに向かってシンが突きたてた剣により、綺麗に壁に亀裂が走る。
 そしてそこから壁が分断されはじめると、グリフィンは壁の内部に突入。
 精霊力の嵐が吹きすさぶ壁の中に突入した!!

──ミシミシミシミシミシミシミシミシ

 フロートシップがきしみ出し悲鳴をあげる。
 甲板や船体にも亀裂が生じ、あちこちが吹っ飛びはじめる。
「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ。う、腕が痺れてくる。これが嵐の壁か‥‥」
 精霊武具による守りが無ければ、シンは即死していたであろう。
 そのまま意識を保ちつつ、一気に最後の一振りを行うシン。
「これで終わりだァァァァァァァァァァァァ」

──ズバァァァァァァァァァァァァァァァァァッ

 やがて嵐の壁を越えたグリフィンは、静かにその巨大な『シーハリオンの麓』に不時着する。
──ガクッ
 そのままシンも意識を失うと、内部から無天達が飛び出す。
「セーラよ。彼のものに安らぎを‥‥」
──ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
 アリアンの手が輝き、傷ついたシンの肉体を癒していく。
 やがて船員達も姿を現わすと、船体のチェックを開始した。

──そして半日後
 全ての調査が完了。
「通常航行には支障はない。どうする?」
 とアーレン艦長がミハイルにといかける。
「シンの回復を待ってから進むとしよう」
 ということで、其の日はこの場所で一泊し、翌朝から上昇を開始することとなった。


●上昇、そして‥‥
──シーハリオンの麓
 そこは外の世界とは別風景であった。
 辺り一面にはロゼの花が咲き乱れ、心地好い風がざわめいている。
 時折花の影や木々の影から、シフールやエレメンタルフェアリィが姿を見せて、くすくすと笑っていた。
「こんな世界があったなんて‥‥」
 アリアンはそう呟くと、今一度周囲を見渡す。
 その光景に心を奪われそうになるが、今は精霊武具を回収するのが目的。
 そのまま静かに精霊達に別れを告げると、アリアンはグリフィンに搭乗した。

──ゴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
 グリフィンの『重力制御盤』が静かに鳴動する。
 やがてグリフィンは静かに上昇を開始、ゆっくりとした速度で垂直に飛んでいく。
「あとは、伝説のコロナドラゴンに出会うだけ‥‥ずいぶんと長かったような‥‥」
 しみじみとそう呟く無天。
 やがて周囲に霧が立ちこめてくる。

──グウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ

 天をつんざくような叫び声。
 それが上方から聞こえてきたかと思うと、霧を突き抜け、コロナドラゴンがゆっくりと飛んでくる。
 周囲に立ちこめていた霧は巨大な翼で吹き飛ばされ、上空には空が見えている。
「あわわわわわわ、で、でたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 動揺して叫ぶアシュレー。
「おお‥‥これがコロナドラゴン‥‥」
 感極まった表情で、ミハイル教授はコロナドラゴンをじっと見つめる。
 全長24m、全身が薄紫の炎に包まれたように輝く鱗に覆われ、その背中に燃えるようなたてがみが生えている。
 そのコロナドラゴンは、きつい視線で一行を見据えると、静かに口を開いた。

『ちいさきものたちよ。ここは汝らの入ってよい場所ではない。早急に立ち去るがよい!!』

 そう告げるコロナドラゴンに対して、ミハイルは静かに口を開く。
「私たちは冒険者。私たちは月道を開くという精霊の武具を求めてやってきた。良ければ譲っていただきたい」
 オルステッドがそう告げつつ頭を下げる。

『ほう‥‥精霊の武具を求めるか。それで一行は、何をおこなう?』

「ジ・アースとの月道を開き、私達はあるべき場所へかえります‥‥」
 とシルバーが告げる。
「ですから、是非この地に眠る精霊武具を渡して頂けないでしようか?」
 イコンもそう告げて頭を下げる。

『全ての精霊の武具がそろえど、月道を開くアルティラは今は囚われの身。かのものを解放しなくては、月道は開かれぬ‥‥』

「囚われている? どういうことだ? まさか‥‥あの壁か?」
 無天がそう問い掛けると、コロナドラゴンは静かに肯く。

『あれは、『境界の王』によって監視されている‥‥壁を破壊し、境界の王を‥‥』

「なるほど。ジ・アースの時とは様子が違う事は判った。では、あとは我々人間の仕事、コロナドラゴンどのは、元に戻ってください」
 アシュレーもそう告げるが、コロナドラゴンは頭を左右に振る。

『我は、監視者にあらず‥‥我は守護者にあらず‥‥我は‥‥』

 その瞬間、コロナドラゴンの姿が瞬き輝く。
──パァァァァァァァァァァァァァァァァァッ
 目も開けられない中、コロナドラゴンは消滅し、空から『陽炎の衣』がゆっくりと降りてくる。

『我は鍵。門を開く鍵なり‥‥』

 そう一同の脳裏に言葉が響く。
 そして陽炎の衣はミハイルの手の中にとうとうたどり着いた。
「これで‥‥全てが揃った‥‥帰るぞ、ジ・アースへ‥‥」
 その言葉に肯くと、一行は再び降下を開始。
 そして来たときと同じ方法で嵐の壁を突破すると、そのままウィルへと帰還していった‥‥。

「あとは壁を破壊し、境界の王をたたきのめすだけぢゃ‥‥」
 じいさん、それが一番問題なんだってば。

──Fin