さるすべりの寺と河童

■シリーズシナリオ


担当:いずみ風花

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:9人

サポート参加人数:1人

冒険期間:09月23日〜09月28日

リプレイ公開日:2008年10月02日

●オープニング


 金色の毛並みの猿が、とある山寺の小坊主を攫った。
 表立った事の発端は、確かにそれだった。
 小坊主は、冒険者の手により、何事も無く寺に戻された。悪意も、戦意も無かった猿だった。しかし、いぶかしみつつも、小坊主が戻った事を喜んだのは、寺の者と、冒険者のみ。
 山寺を囲んだ八つの村は、良い顔はしなかった。
 子供を攫った猿が居る。
 今は何もしないかもしれないけれど、いずれ、仇なす相手になるかもしれない。赤子を攫われたらなんとする。
 一部の村人達が、声高に叫ぶ。
 身を守る術の無い村人にすれば、それは当然の声だったかもしれない。
 猿討伐の依頼が冒険者酒場に出るという。それを、良しとしなかった山寺の和尚と小坊主達は、猿が悪で無いことを証明してもらうために依頼を出した。
 討伐依頼より早く猿と邂逅する事が出来た冒険者達は、そこで猿以外の人‥‥河童種と出合った。
 その河童は白っぽい水干を着込み、物慣れた風で冒険者達に挨拶をする。
 深く刻まれた皺、白い短い髭。白く長い眉。かなりの老齢である事が見て取れた。そしてどうやら、問題の猿はこの河童が動かしているようなのだ。『見猿』と呼ばれた一体の猿は、高い崖をひょいひょいと登り、冒険者達の目の前から、天高くぽっかりと開いた空間へと消えて行った。
 そう、河童と猿の棲む場所は、外界とは隔絶されたような場所であった。
 二十畳あるか無いかの川原。その端を細い川が壁から壁へと流れて行く。流れる先は、洞窟の中へと続き、山中の滝となって現れるのだろう。その流れ込む先はわからない。小柄なこの河童ならば、その流れを利用して、外に出る事もあるかもしれない。
 河童は、冒険者達の来たいきさつを聞くと、なんともいえぬ表情をした。哀しいのか笑いたいのか、そんな顔。
 そうして、笑みの形に顔を持って行くと、依頼をと切り出した。名を『八津守』と冒険者に告げた。
 山が荒れている。
 山の調査をと。
「見猿は、山菜が根こそぎ取られた場所へと向かったんじゃ。広範囲で山菜を根こそぎ取れば、そこにはもう雑草しか生えないのお。種を下ろす前、根ごと採られれば、もうそこは荒地と呼ぶにふさわしかろう。木々も色あせ、いずれそこは崩壊する。すぐでは無いがのう」
 猿は人知れず山を見守っているのだという。
 その異変が三つ重なると、自分を呼びに来るのだと。
 見猿、言わ猿、聞か猿。
 三体の猿が、顔を合わせた時、人と話せる自分が顔を出すのだという。
「ちょっとばかし、古くからこの場所に住まわせてもらっとるが、三体揃うのはまず無い。じゃが、今回は三十年経たずに二度目の顔合わせ。外界はどうなっとる」
 うち、見猿は、冒険者が荒れた山菜の場所を見に来た事を知らせに来てたらしい。他二体の猿は、荒れた山の場所近くで、これ以上の被害が出るのかどうか、確認する為に居るのだという。人に手出しする生き物では無いのだとか。
 小坊主を連れてきたのは、聞か猿。しかし、丁度その頃、八津守は出かけており、戻るのを待っている間に、冒険者達が救出に来たようなので、帰したという。
 呪いでも何でも無く、ただ、古くからこの地を見守っていただけだと、八津守は笑った。
 八つの村は、寺を作る前、相談役として山に住んでいた男が配置したのだと言う、祝福あれと願いつつ。
 その男と八津守は友達だったのだと。
 男は人の習いで、黄泉路へと旅立ったが、八津守は逝けず、優しい記憶だけを抱いてこの土地を見続けたのだとか。
「木を切り倒す馬鹿者。小鹿を殺す馬鹿者。山の恵みを疎かにする馬鹿者を探し出して、お灸をすえてやってくれんかの」
 ぎるど。とやらには、これで足るかと、ざらざらと石を出した。玉石混合だったが、十二分な報酬になるだろう。


 山菜を採り尽くした村の女は、悪びれる事無く暮らしていた。
 それが悪い事だとは思っていなかったから。あと少し採れば、少しだけ贅沢が出来る。銀の簪は村の中では誰も持って居ない。貰ったのよとうそぶいて、来年の春には何を買おうかと算段を立てている。来年の春にはそこに山菜は無いのに。

 小鹿の毛皮を売った若い男は、街の遊郭で遊び倒して帰ってきた。山の村に住む若者にしては、放蕩のつけか、色白で貧弱だ。目だけがぎょろりと落ち着き無く動く。山で何かまた金になる事は無いかと考えている。男も小鹿を殺した事に罪悪感は無い。
 ただ、この男には嫌な影があった。腰に刺した短刀の柄を何度もさわる。何か‥‥異様な様だった。

 木々を切り倒す男達は、かなり大きな金額を手にしていた。
 毎年決まった本数を売りに出す。その木を選定するのも、売りさばくのも、男達の仕事だ。誰も見咎める者は居ない。五人の男達は、バレるまで、太い木を切り出すつもりでいた。バレたら、今までの差額の横流し金を手に街へと逃走するつもりでいる。村の暮らしは嫌いでは無いが、派手では無い。もっと楽をしたいのだ。悪い事だと十分承知。

●今回の参加者

 ea4026 白井 鈴(32歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea8714 トマス・ウェスト(43歳・♂・僧侶・人間・イギリス王国)
 eb2292 ジェシュファ・フォース・ロッズ(17歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb3582 鷹司 龍嗣(39歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3797 セピア・オーレリィ(29歳・♀・神聖騎士・エルフ・フランク王国)
 eb3867 アシュレイ・カーティス(37歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb5475 宿奈 芳純(36歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)
 eb5885 ルンルン・フレール(24歳・♀・忍者・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 ec3613 大泰司 慈海(50歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)

●サポート参加者

エンデール・ハディハディ(eb0207

●リプレイ本文

●さるすべりの寺
 秋風が吹いて、山の木々を揺らす。
 空が高く、鰯雲がかかって。
 とても、穏やかな空気が山と寺に流れていた。
 今はもう、花は咲いていない、さるすべりの二本の木の下で、冒険者達を待ち侘びていたかのように、金色の毛並みの猿が三体、左右の茂みから現れた。
 見猿、聞か猿、言わ猿と呼ばれる三体
 白井鈴(ea4026)がにこりと笑う。
「ちょっと待って。お寺でお話聞いてくるからね」
「しかし、どの猿についていけば良いのだろう」
 猿の姿は、寸分も変わらない。首を傾げる鷹司龍嗣(eb3582)に、そういえばと、仲間達は猿達を見比べれば。
 猿達の間から、ひょこりと顔を出したのは、水干を着込んだ河童の八津守。
「寺へ顔を出すのも良かろうと思ってな」
「三十年という月日も、人間ならば代替わりするに十分な時間だね〜。倍の寿命を持つといわれる河童ならではの言葉だろうね〜。それとも精霊かね〜?」
 ジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)に山菜が根こそぎとられていたという場所を教えていたトマス・ウェスト(ea8714)の問いに笑う八津守を見て、ルンルン・フレール(eb5885)は、こくりと頷く。
「八津守さんって噂に聞く仙人様みたいですよね‥‥なんか雰囲気が凄い、って思っちゃいました」
「おまえさん方も中々どうして」
「お会いしに伺おうと思っておりました」
 ここで会えて、ようございました。と、宿奈芳純(eb5475)が、大柄な体躯を屈めて、丁寧にお辞儀をすれば、うんうんと、頷かれ。
 金色の猿三匹を従えて、水干を着込んだ河童種と連れ立ち、寺の階段を上がっていく頃には、和尚や小坊主達が、わらわらと、門からこぼれ出るように現れて、この不思議な一行を寺へと招き入れた。
 黙っていれば渋い壮年の大泰司慈海(ec3613)は、くしゃりと笑う。んーと、考えて、和尚に問うのは、過去の出来事。前回の八津守の話から、三十年前の出来事を尋ねれば、八津守としばし顔を見合わせて、目を丸くしていた和尚が、何度も何度も頷く様に、おや。と、思う。
 どうやら、やはり、以前攫われたというか、ご招待受けたのはユウアン和尚のようである。やれやれといった風の八津守に、非常にバツの悪そうな和尚。
「解決☆ かな! それはそうと、こんな短期間で山が荒される事は無かったって」
 再発防止策を考えないとと、笑う慈海に、様子を伺っている小坊主達が、こくこくと頷き合うのが目に入る。次世代に何か行動を起こすのは、小坊主達に違いないのだろう。
「人はすぐ、都合の悪い事は忘れて、楽な方へ流されちゃうけど、戒めを後世にも伝えていかないと‥‥ね?」
 少し真面目な顔した慈海の言葉を真剣に聞いていた、小坊主達へ、慈海は茶目っ気のある笑顔を向ける。
「そーいうわけで、村の案内をお願いしたいなっ☆」
 小坊主達は、近隣の村出身。
 よくよく聞けば、身寄りの無いリョウサンのような小坊主達と、各村からひとり以上は必ず寺へと行儀見習いとして送られているのだという。それなりの年になって、坊主になるも、村に帰るも本人次第であるという習慣が出来ているという。
「それは、八津守殿の友が作られた習慣なのだろうか」
 アシュレイ・カーティス(eb3867)は、遠い昔にこの地に居たという、八津守の友へと思いを馳せる。伝承なり、何なり、残っていればと、和尚に聞けば、寺の開祖の事でしょうかと、答えが帰る。
 ああ、やはりと、アシュレイは微笑んだ。
 この地に八つの村を作り、その幸福を願ったという人の生き様が、脳裏に浮かぶ。子孫はと聞けば、生涯独身であり、その縁者も居ない人であったと聞かされる。八津守が苦笑して頷くのが目に入る。縁ある者は、八津守、そして、ひょっとしたら、寺の門になっている、あのさるすべりの木だけなのかもしれないと、過去の時間へと入り込む。
「今のこの山を見て、どう思っているのか‥‥」
 アシュレイが、誰に言うでもなく呟けば。
「とりあえず真相は分かったんだし、後は解決するだけ。もう一踏ん張り」
 がんばりましょうと、セピア・オーレリィ(eb3797)が、銀の髪をかきあげる。村の分業などは分かるかと和尚に問えば、大丈夫と頷かれ、小坊主達が、まあるい頭を寄せ合って、あの家とあの家。多分あの人と、冒険者に村の内訳を告げるのだった。

●浅はかな女
 金色の猿の後をついて、ジェシュファと鈴と、小坊主が村へと向かう。途中、見た荒らされた場所は、ぱっと見では、何がどう荒らされたのかはわからない。けれども、よく見ると、あちこちの土がひっくりかえされたような跡がある。眉を顰める小坊主の表情から、この状態が酷く不味いものだと知れる。
「山菜を根こそぎ採るなんてルール違反もいいとこだよね。ちゃんと教えてあげないと」
 乱獲されたその場所を調べるジェシュファは、その知識から、少なくとも来年はこの地には何も生えない事を確認して溜息を吐く。トマスの眉を顰めた顔が思い出される。
(「さすがに我が輩もあそこまで根こそぎということはないが〜」)
 株事採るのは、栽培目的である彼は、確かに、見たことの無い植物なら多く採るかもしれないと言っていたが、こんなに荒らすような採り方をするとは思えない。この場所は、あきらかに、乱獲であり、山を傷つける、知識のあまり無い者の仕業に他ならない。
「ちゃんと反省してくれるといいね」
 同じぐらいの目線の鈴が小坊主に笑いかける。
 問題の村は、東の村だった。
 金色の猿は村に入る辺りで、ふい。と、別行動をとる。村へ入る気は無いようだ。
 まずは村長へと、小坊主に案内してもらい、すんなりと辿り着く。
「最近羽振りの良い人とか、居ますか?」
「この辺の山菜は、何が採れるのかな。山菜は、誰が持っているの?」
 ジェシュファと鈴が、口々に尋ねる。困惑気味の村長に、ジェシュファが、山菜が根こそぎとられていた場所の事を説明し始めると、顔色が変わった。小坊主も、二人の言葉を裏付ければ、あの女。と、村長は立ち上がった。
 村はずれに、最近流れてきた女が居ると。
 戦争で今迄住んでいた村を焼け出されたという女だという。
 着の身着のまま来たはずなのだが、銀の髪飾りを自慢していた。若い女だから、誰かから貰ったという事を誰も疑わずに居たが、まさか‥‥と。
 鈴とジェシュファと小坊主を連れて、女の家を訪ねると、丁度畑仕事から帰ってくる所だった。
 村長の、強張った顔を見て、女は何か察したようだ。鍬を放り投げて、踵を返して走り出す。きらりと、銀の簪が光った。
「追いかけっこなら、負けないよ?」
 鈴が、忍犬龍丸と、獅子丸と共に、女を追いかければ、すぐに女は諦めて、へたり込む。大きな犬が迫るのが怖いという事もあった。
「捕まえた」
 鈴が、半べそをかく女の肩を叩くと、追いついて来たジェシュファが困惑顔をする。
 山菜採りのルールを簡単に教えて、山の恵みは有限であると注意をして、村長を見る。鈴も、へたり込んだ女にそれ以上は何も言うつもりは無い。
(「僕等がどうこうできるわけじゃないもんね」)
 拷問なら、色々方法を知っているけどと、軽く物騒な事を考えつつ、何事かと集まってきた村人達と、小坊主に、後は任せ。

●放蕩の青年
 仔鹿を狩った者の居る村は、北の村だった。
 金色の猿と小坊主に先導され、アシュレイ、ルンルン、トマスが進む。金色の毛並みの猿は、ふいと、姿を森の中に消す。村に入るつもりは無いようだ。小坊主も、危ないかもしれないからと、寺に帰す。
 そして、和尚から聞いていた、信用に足るという男の家を訪ねる事にする。何事かとざわめく村人には、猿退治に来たんですと、笑顔を向ければ、特に何といった問題も無く、目的の男の家まで辿り着く。
 家を訪ねられた、柔和な顔した壮年の男は、冒険者の姿に、目を見張る。
「わけあって、人を探している。最近、羽振りの良い人は居ないかね? 多分、よく村の外へ出る人だと思う」
 小鹿を狩るには、森へと出なくてはならない。そして、狩った小鹿を換金するには、街に出なくてはならないだろう。その考えは、ぴたりと当たる。
 目星はついた。
 何所か気だるそうな姿で縁側に座っている青年は、すぐに見つかった。
「人は一度楽することを憶えるとなかなかやめられないから、きっとまた動き出すと思うの‥‥そこをバッチリ押さえちゃいましょう」
 ルンルンが、ぐっと、拳を握って頷く。トマスが無言で指輪を嵌めた手を出した。
 石の中の蝶。蝶の姿が内部に刻まれた、大粒の宝石がはまった指輪だ。その指輪をはめている者を中心とする範囲にデビルが近づくと、蝶がゆっくりと羽ばたく。デビルが近づけば近づくほど、蝶の羽ばたきは激しくなるという魔法の指輪だ。
 そして、今、指輪の蝶はせわしなく羽ばたいていた。
 ──デビルか。
 ふらりと動き出した青年は、腰に差した短刀の柄を何度もさわる。ひょろりとした姿。足取りも何所か浮ついて。
 その青年は、真っ直ぐに冒険者達が潜む方へとやってくるでは無いか。
 トマスの石の中の蝶の羽ばたきは変わらない。
 変わらない?
 だとすればデビルは何所に。
 青年の足元に纏わりついていた雑種の犬のような生物が、何処かへ行こうとする。
 石の中の蝶の羽ばたきが緩やかになりはじめる。
 確実に、あれがデビルだと示す事は出来ない。けれども、トマスは、その知識から、姿を変えていない、アレに心当たりがあった。デビル──邪魅だ。何時でも燃せるようにと準備していた、六芒星が刻まれた小さな木製の護符を燃やす。ソロモンの護符だ。この護符に火をつけて燃やすことで、護符を中心とする直径10mの結界を張ることができる。デビルの行動は鈍るはずだ。
「あれが、多分、諸悪の根源、デビルだね〜っ」
 目だけが、ぎらぎらとした青年は、何度も触っては離す短刀を、すらりと抜いた。
「邪魔するつもりかね〜。ずいぶんいい暮らしをしているようではないかね〜?」
 迫ってくる青年に、トマスは挑発するように言葉を投げかけると、その魔法で、複数を拘束しにかかる。青年は当然捕まえなければならないが、邪魅を逃がす事もしない。
「けひゃひゃひゃ、コ・ア・ギュレイトォ〜!」
「色々と放蕩しているようだが‥‥その金はどこで手に入れた?」
 返す言葉も無いようで、ただ、しゃにむに向かってくる青年に、アシュレイは眉を顰める。
「ルンルン忍法影縛り! それでもって! 人に悪いこと吹き込むなんて許せない‥‥くらえ、シュリケーン!」
 スクロールが開かれる。拘束の魔法に続き、特殊な氷でできたひとつの円盤が邪魅に飛ぶ。
「そこまでだ」
 青年の手から、短刀が打ち落とされ、瞬く間に捕縛された。
 処断は、村に任せたが良いね〜と、トマスを始め、三人は関わるつもりも無く。
 けれども、この三つの出来事は、欲望のまま行動した一部の行いであると、決めて良いものかと、アシュレイは眉を寄せた。

●悪い奴等
 南と、東南に位置する村が、今年、木を切り出しても良い村であると、聞いた。ふたつの村。それは、互いが互いの行動を見張るという意味も持たせてあるはずなのだが、今回は結託してしまったようだと、和尚が溜息を吐いたのを思い出す。
「大木を切る大馬鹿者、きっちり捕まえようね」
 慈海が大きな木の切り後を見て、憤慨して立ち上がる。
「ほぼ、教えてもらえました」
 芳純が、淡く銀色を纏う。テレパシーの魔法を使い、近場の木々から、情報を聞き出すのだ。その対象の木は、確かに、木を切った男達は居ると芳純に告げ、その後、男達の映像をと記憶を求めるリシーブメモリーを発動させれば、木々を切り倒す男達の姿形を読み取る事が出来た。
 そのまま、幻影を作る魔法ファンタズムを発動させ、男達を五人作り上げる。
 しかし、これで全ての人数が出揃ったかどうかは、判断がつかない。立て続けの魔法に、芳純は、小さく息を吐き出す。
 小坊主が、これは何がし、これは何がしと、判る範囲で人物の名前と村を特定した。南の村の男達だった。ひとりだけ、東南の村の男がまじる。これが、どうやら、村でも顔役ほどの立場の人物のようで、小坊主の顔が引き締まる。
「後は、張り込みして、現場を押さえるのが確実かしら」
 セピアが、薄れていく幻影の男達を睨む。
「和尚から聞いた、信頼出来る人物に話を通せば、より早く解決だろうな」
 グリーンワードのスクロールを開いた龍嗣だったが、木々には人の年齢や、時刻、観念はわからないようだったが、それならそれで構わない。
「こちらの村では何か被害はありませんか?」
 村長を見つけると、芳純は、そう質問をする。そして、淡く銀色を纏わせる。
(「最近妙に羽振りのよくなった村人達はいらっしゃいませんか? 他言無用ですが、実は山の守り神様から大木を必要以上に切り倒す不心得者達がいるので懲らしめてほしいと依頼されましたので、心当たりがあれば何卒よろしくお願いいたします」)
 ざわりと、物珍しげに付いて来ていた村人がその光りに目を見張る。芳純は、村長にこっそりとテレパシーを飛ばしたのだ。だが、これはあまり上手くなかった。突然聞こえてくる声と、目の前で尋ねる声と同じならば。村長は、声に出して聞かれているのと変わらない質問に、惑いながらそのまま答えてしまう。
「他言無用といっても、皆聞いてるじゃないか。木を切り出しているのは、そこの四人だ。東南の隣村の顔役が目付けとして付いて行くがね」
 大木を切ったとは、本当かと、村長の言葉に、四人は、じりじりと後ろへ下がる。
「本当よ。私達、切り出された場所を見てきたの。とても大きな木が切られた後があったわ」
 セピアが、村長に事の顛末をかいつまんで話す。何故、猿が小坊主を攫ったのか。
 もともと彼等は、木を切り出して売るのは、村の収益の一端となっている。誰はばかる事無く、昼間に仕事をして、売りさばきに行く道すがらをカムフラージュすれば済んでいたのだから、こっそり会合する必要は無いし、こそこそ木を切り出しに行く必要も無いのだ。
 大勢の村人の視線と、立ち並ぶ冒険者達の姿に、逃げ切れないと思ったのか、悪人たちはへなへなと座り込んだ。
 すぐに、確認の為の人が山にやられ、東南の隣村の村長へと知らせが行き、問題の顔役も捕まった。
「提案なのですが」
 龍嗣は、約定と罰則を定め、見回りの強化を上げる。善意の上に成り立つ約定は、哀しい事だがそろそろ見直さなくてはならないのではないかと思ったのだ。
「不当な利益。その財産で、少しでも山が元に戻るようにされるのも良いかもしれないわ」
 セピアは、何度も頭を下げる村長に、何を決めるのも、村の人次第だけれどと。告げると、五人の男達が隠した金額に、何度目かの溜息を吐いた。
 八つの村に裁きは任せるよと、慈海がにこりと笑った。