加賀からの風・一

■シリーズシナリオ


担当:いずみ風花

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 55 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:02月01日〜02月06日

リプレイ公開日:2009年02月10日

●オープニング

 吹雪きが身に染みる。
 季節を甘く見たつもりは無いが、まさかこんな豪雪に当たるとは思わなかった。
(「試練ととるか‥‥それとも」)
 白拍子の風体に、蓑を着込んだ美しい女が、江戸を目指す。
 加賀から。
 騎乗する犬鬼は、襲うスキの無い北部はあまり手を出してこなかった。昨年冒険者に京都側から退治してもらったからには、余計に気を使う必要は無くなった。
 だが、物取り強盗やかどわかしは、世の常として、何時も警戒するべきもので。
 それらを避ける為にも、旅立ちは、ある程度悪天候を選んだのだが。
 鶴童丸は深い溜息を吐く。
 凍りそうな冷たさだ。
 じき、次の宿場の明かりが見える。
 そこに辿り着けば、あとは一山越すだけで江戸が見えるだろう。
 果たして敵か味方か。
 話にしか聞いたことの無い人物を思い、鶴童丸は気持ちを引き締める。
(「加賀を継ぐ者として、五年前に手を上げても良かったはずだ。なのに、あっさり綱紀殿に席を譲ると加賀から離れた」)
 その頃は、ほんの子供であり、また、一門もさして大きくは無かった。顔を拝んだ事は無い。
(「味方なら良いが、敵に回るなら」)
 鶴童丸は物騒な笑みを浮かべた。

 浪人者に、宿場町が荒らされているという話が、冒険者ギルドへと舞い込んだ。
「その輩、確実に殺して頂きたい」
 鶴童丸と名乗った白拍子は、深い溜息と共に頭を下げた。
「確実にって‥‥一応、奉行所とかもあるんですがね? 仇討ちですか?」
「‥‥似たようなものです」
「まあ、うちは奉行所じゃないですから」
「助かります。宿場町で、女を思うままにし、宿賃を払わず‥‥そんな輩、許してはおけません」
 恥になる。
 そう、鶴童丸は吐き捨てる。
 物騒な口調である。
「また、行く先で同じ事をしでかしたらと思うと、頭が焼ききれるかのようです」
 多目の報酬をと差出し、迅速に事を運んで頂きたいと、赤い唇を噛締めた。

 数刻前、鶴童丸は、武家風の男二人と罵り合っていた。
「数集めれば良いと言うものでも無いでしょう」
「いいえ、今が好機。少しでも多くの剣が、槍が、弓が必要です」
「不要!」
「政親‥‥いえ、鶴童丸様」
「私が江戸へ来たからには、あのような輩を組み入れるわけには行かぬ」
「‥‥解りました。従います」
 鶴童丸に別の名で口を挟もうとした男は、ひと睨みされて、下を向いた。

●今回の参加者

 eb3367 酒井 貴次(22歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3736 城山 瑚月(35歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb4462 フォルナリーナ・シャナイア(25歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ec4127 パウェトク(62歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 ec4318 ミシェル・コクトー(23歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ec4354 忠澤 伊織(46歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

クリスティアン・クリスティン(eb5297

●リプレイ本文

●北風が街道を吹き抜け
 歩く道は、雪や霜から僅かに湿めり、冷たさもじわりと足元から這い上がる。
 冷たくなった頬を、さらに打つ風は、顔を強張らせ、未だ春は来ないと告げるかのようだ。
 その依頼は、人を切る依頼だった。
 北風をものともせずに前を向く白拍子、鶴童丸は、浪人者が不届きな輩だという事で、何の温情もかけずに殺害を依頼した。何か仔細あるものと、冒険者達は一様に頷き、その依頼を受けたのだが、飲み下せないものが喉に凝る。
 その依頼を最初に目にして、眉を寄せたのは忠澤伊織(ec4354)。
(「殺しの依頼か‥‥人相手は久し振りだ」)
 良く引き受けるのは妖怪魔物、そんな人外を相手取る。国と国とが戦い、その思想、領土などの問題で、戦争はままある。だが、こうして自身が依頼人の為に人を手にかけるのは。
(「あまり、良い気はしないが‥‥」)
 視界の端にふわりと柔らかな白拍子の袖が翻るのを見て、何となく眉間に皺が寄る。
 自分達が手を下さなければ、いずれ誰かがその依頼を受ける。ならば、その業、引き受けようと伊織は思う。
 その立ち振る舞いを見て、フォルナリーナ・シャナイア(eb4462)は違和感を覚える。
 白拍子といえば、下層の出身が多い。その舞の美しさで抜きん出る者も多いが、立ち振る舞いから滲み出るのは、それともまた違ったものだ。
(「諸手を上げて賛同する事は出来ないけれど‥‥複雑な事情がおありなのでしょうね」)
 奉行所では無く、ギルドに依頼を持ってきたという事は、それだけ本気であるのだろう。冒険者として受けた依頼は完遂するつもりであるが、その理由を知りたいとフォルナリーナは思う。話すかどうかは、それこそ依頼主である彼女の胸ひとつなのだが。
(‥‥御自身が酷い目にあった訳では無い様ですし‥‥仔細がある様ですね、彼女には」)
 その、決然とした立ち振る舞いに、城山瑚月(eb3736)は、内心で小さく溜息を吐く。
 鮮やかな金の髪が笠の隙間から零れる。ミシェル・コクトー(ec4318)は、差しさわりの無い程度に自身の目立つ色彩を隠していた。
(「許せません」)
 婦女子への狼藉。
 こういう輩を放っておく事は出来ない。
 この国に来て日が浅い事を侘び、片膝をつき、手の甲に口づけをする挨拶を冒険者ギルドで鶴童丸にしてみれば、特に動揺する事も無く、その挨拶は受け取られる。その出自は高貴なものでは無いかとの問いには、苦笑が返された。
(「でも、負けっぱなしはイヤですわ」)
 仕掛けた意地悪だったが、あっさりかわされるとむくむくとわきあがるのは負けず嫌いの心である。
 物事に動じないのか、鈍感なのか、その両方か。苦笑には、出自は高く無いともとれて、思案に暮れる。
 果たす役割はきちんとこなそう。そう、酒井貴次(eb3367)は胸に刻み、仲間達の後を歩く。
「その宿は、どの辺りにありますか」
「真ん中の一番立派な宿だ。私も江戸に来る前に泊まった、感じの良い宿であった」
「‥‥そう、ですか。そこで擦れ違われたのでしょうか? 件の浪人達は、どのような風体か、覚えていらっしゃいますか?」
「下種どもよ」
 依頼書に記した通りと、冷たい面で吐き捨てる鶴童丸に、瑚月は心の中で首を傾げる。
 懐具合は良いようだ。
 この依頼も、多めにと金額を提示し、江戸へと向かう途中の宿も、良い宿に泊まる。そして、熾烈なまでの言い様。白拍子がその本来の姿では無いのではないかと、瑚月も思う。
 依頼達成に当たり、少し聞いておきたいのじゃがと、パウェトク(ec4127)が鶴童丸に声をかける。
「何故殺さねばならぬのかの」
「それはギルドで依頼をする際に言った。それで足らぬか」
「わしは人殺しは初めて、こういうのは悪党相手でもあまり好まぬのだがの」
「ならば、今からでも遅くは無い。御老は帰られるが良い。好まぬ方に無理強いはせぬ」
 白か黒か。まるで竹を割ったかのようなすっぱりとした物言いに、パウェトクは、やれ、怒らせてしまったようじゃと、眉根の寄った鶴童丸の顔をそっと覗きながら歩く。
 街道を行き交う人と、ぽつり、ぽつりと擦れ違えば、宿場町が見えてくる。

●凍てつく冬の夜の宿場町
 宿場町に入る前に、冒険者達は二手に別れた。
 パウェトクと瑚月は手前の村へと引き返し、蓑傘籠を村人から借り受ける。籠を背負い、野菜売りへとその身をやつす。
「依頼理由は別にありそうなんじゃが、聞き出すには骨かもしれんの」
「そのようだな。性格は生真面目そうだが、本心を明かしてもらうには、それなりの信頼を得なくては難しそうだ」
 よく賑わっている宿場町へと、紛れ込みつつ、道中の鶴童丸の態度を伺っていた二人は、ぽつりと感想を漏らし合う。
 
 一方、町の北側へと向かっていたのは、伊織、ミシェル、フォルナリーナ、貴次。そして、鶴童丸である。
目立たないように、ぶらりと歩きつつ、伊織は口元を引き結んでいる鶴童丸へと話を振る。
「何処から来たの?」
「加賀だ」
「ふーん。加賀か‥‥しばらく江戸に居るのかな。何する予定?」
「白拍子が各地を点々とするに理由は無い。強いて言えば、雪が溶け旅がしやすくなったから、足を伸ばした」
「ま、そうだな。もし良かったら、オススメの場所、案内するよ」
「お勧めか。場所によっては、頼む事もあるやもしれぬ」
「喜んで。そういえば、今回は確実に仕留めるって事だけど‥‥。お仕置き程度じゃなく、そこまでしようと思うのは?」
「‥‥人の死を望むのは相当なお覚悟なのかと思います。色々な事情もあるかと思いますが‥‥理由を聞いても差し支えはないかしら?」
 フォルナリーナも鶴童丸へと依頼の話を向ける。立ち止まった鶴童丸に合わせて、仲間達も立ち止まる。
「‥‥詮索が過ぎる。理由が知れねば手伝って貰えぬなら、ここで帰って貰っても構わぬ」
「ゴメン、野暮なこと聞いちまったな」
 伊織は依頼理由に踏み込んだ途端に機嫌が悪くなった鶴童丸に謝りつつ、たわいの無い話には、生真面目に答えてくれると、街道での仲間達とのやりとりをも思い出す。判ればそれで良いと、それ以上こちらへと怒りを向けない潔さにも、ふうんと思う。
「出歩かない理由、誤魔化した方が良いかしら?」
「何故誤魔化す? 罪無き人々が被害を被っている。浪人達は外に仲間など居らぬ。迷惑と考える者しかおるまいよ」
 出歩かない理由を話すかどうか、をフォルナリーナが鶴童丸に尋ねれば怪訝な顔をされる。
「大事にしたくないのでは?」
「大立ち回りを宿場町の真ん中で行うのだ。大事にならないはずがなかろう? 多少は仕方ない事だ」
 暗殺を頼んだわけではないからと、言われれば、それもそうかと、フォルナリーナは宿の者に今夜だけ、出歩かないよう、注意を呼び掛けて欲しいと声をかけ、貴次が真ん中の宿屋で討伐がありますと、繋ぐ。
 だが、どうも、乱暴者の浪人達の話は、宿場町に広まっているようであり、夜に出歩く者は居ないようだ。
 浪人者の所業を聞けば、言葉にならない嫌な感情が胸に詰まり、伊織は切るも止む無しの輩も居る事を知るのだった。

 問題の宿の裏口で、パウェトクと瑚月は旅館の女将と下働きの男ひとりに話をつけていた。
 じき、夜が来る。
 深々と底冷えが上がって来る頃、冒険者達は裏口へと一端集結を果たす。

●氷の刃、情け無用
「心配しているわけじゃありませんことよ」
「‥‥ありがとう。血染めになったらすまないな」
 透けて見える薄青色の布のコートをミシェルが鶴童丸にかければ、穏やかに笑われる。ですから、心配しているわけじゃありませんの。と、ミシェルは踵を返し、降りてきた女中と入れ替わるかのように人遁の術で女中に変化している瑚月の変装を手伝おうとする。
「万が一にも、疑われてはいけませんものね」
(「五人か‥‥」)
 配膳を済ませる瑚月は、浪人のだらしない姿を記憶する。遊女をはべらし、女中にちょっかいをかけ。
「何だ、お前、知らぬ顔だな」
「はい。今日出先から戻ってきました‥‥」
「丁度いい。酌をしろ」
「あ、でも」
「構わないだろう。かわいがってやる」
 下卑た笑いが響く。遊女同様の扱いを女中にも求めているのは明白。新顔ならばなおの事。瑚月は男の横へとはべらされる。
 夕食が進み、遊女の一人が、厠へと降りて行くのを瑚月は目を細めて見る。
 残るは自分ともう一人の女中と遊女。しばらく離れられそうにない。振り切って下に行くのも不自然だ。ならば。
「遊びは終わりです」
 ぽつりと呟き立ち上がる。
 
 鶴童丸とパウェトクは、表の見張りへと向かっていた。
 二階の喧騒が聞こえる。
 明るく光りが零れるのは、この二階だけ。まるで謀ったかのように、何処の宿屋も暗く、静かだった。夜に来る旅人が居ないのが幸いだった。昼ならば、往来が在る。行き交うのは、宿に泊まる旅人だけでは無いからだ。
「加賀からおみえと聞いたがの、加賀なら知り合いに加賀出身のおちゃめさんがおる。加賀は今、どんな風なのかの‥‥」
「加賀は、これから荒れる。だから、江戸へと来た」
「ほお?」
「知り合いが居るなら、伝えておくが良い。落ち着くまで戻らぬほうが良いと」
 それは、どんな‥‥と、聞く前にけたたましい音が響いた。
 二階の窓が良く見える大通りへと、パウェトクと鶴童丸は駆け出す。
 窓から男が転げ落ちる。
「無茶はいかん」
 そこへと向かい、腰の守り刀を抜いて駆け出す鶴童丸の動きは早く、良く訓練されている。まるで侍のようだと、パウェトクは思う。
 うめく浪人へと手裏剣を投げつけ、短刀を構えて鶴童丸を制するように前に出るが、閃く刀は、落ちて、手裏剣でダメージを受けた男の喉を容赦なく掻っ捌いた。
 
 裏口を見張るフォルナリーナは、駆け下りてくる女中をしっかりと抱き止める。
「もう大丈夫。怖い思いをしましたね」
 穏やかに声をかければ、泣きじゃくられて。大丈夫大丈夫と、声をかけ続け。
 瑚月が遊女を背に階段を下りてくる。擦れ違うように、伊織は階段を駆け上がる。
「悪く思わんでくれよ‥‥。仕事なんだ。まぁ、ちょっとおイタが過ぎたようだね。閻魔さまに泣いて詫びることだな」
「逃がしませんわ」
「止まってもらいましょう」
 ぐでんぐでんに飲んでいたのが幸いした。辛くも女性達は事無きを得、貴次がスクロールを開き、刀を持って接近する浪人のひとりの動きを鈍らせ、駆け込んだ伊織が無造作に踏み込み、氷晶の小盾を構えつつ、日本刀法城寺正弘の切っ先を、踊りかかる浪人へと突き刺す。
 行灯が揺れる。
 浪人が蹴倒し、その灯が消える。
 一瞬の闇。
 視力を回復するのは、上がっていった冒険者達の方が僅かに早い。
 障子を破って突きかかる浪人の一撃をミシェルは氷晶の小盾で受け流し、柄に美しい翼の装飾が施されている剣を、やはり突くようにと振るう。家屋によって立ち回りを制限されないようにと、冒険者達の動きは澱み無く。
 窓から飛び降りた浪人も居たが。
「大丈夫かい? パウェトクさん」
「大丈夫じゃ。そっちも終ったようじゃの」
 全てが治まった後、伊織が窓から顔を出せば、手裏剣を構えていたパウェトクが軽く手を振った。
 フォルナリーナが、どんな悪人でも無くなれば一緒ですと、弔いを申し出て。
 宿場町では、稀にこんな事が起こる。
 これ以上酷くなったら、こちらから助けを求めに行くところでしたと、宿場町の女将や主人達は口々に冒険者達へと謝辞を告げ。
 討伐が成って良かったと、幾分か表情を和らげた鶴童丸に、ありがとうと、コートを返されたミシェルは、無事でよかったですわ。と、何処と無くツンとしながら頷いた。
 
 ──加賀は、これから荒れる。その言葉の意味は。