白山戦鬼〜前編

■シリーズシナリオ


担当:いずみ風花

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:8 G 76 C

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月17日〜09月22日

リプレイ公開日:2009年09月27日

●オープニング

「何っ?! 白山に、死人だと?!」
 前田綱紀は、幾多の戦いに頭を悩ませていた。
 加賀北部に前田を落とそうと陣を構える富樫。京方面からは、避難民の救助と、零れ出てくるかのような鬼や妖怪の退治で手一杯だった。
 京より今上帝安祥神皇より、檄が飛べば、遠方だからといって戦力を割かないわけにもいかない。
 長連龍、横山長隆に体裁を整えさせ、自らが出陣する予定だ。奥村永福に留守を守らせ、奥村易英を筆頭に、京方面の守りに置き、富樫方面には、村井長頼他数名の武将を置き、江戸からは前田慶次郎が戻る。ようようと手筈は整った。そんな矢先、白山の麓に、妖怪が沸いた。
 その妖怪等は、白山の森の中、かつて、馬に乗る犬鬼が棲む集落のあった場所で、増え続け、次第に山裾の村まで出てくるようになったというのだ。
「白山に上ろうとするモノは、巨大な羽のある獅子に妨害されているようです」
「羽のある獅子‥‥去年の七つ島の小さな神の使いの巨大版か」
「はい、非常に似通った色合いの獅子です。まあ、七つ島の騒動の時に見かけた時は、小さな猫の姿でしたが」
 その獅子は、熊鷹の羽根を持った黒鳶色した、巨大な獅子であるという。七つ島から、白山へと飛んでいった時は、雉猫に雀羽の生えた可愛らしい姿であり、それしか目にしていなかったのだが、白山の神の使いであったその雉猫は黒鳶ノ獅子と言う名であった。ならば、変化したのかもしれないと。
「白山を守るが手一杯のようでした」
「祟ったか。犬鬼等めっ!」
「ここは、冒険者に助力を願わねば、立ち行きません」
 何処も混沌としている。前田綱紀は、四角い鬼瓦のような顔をくしゃりと顰めた。

 白山の森の中。そこにはかつて、騎馬の犬鬼と呼ばれる、馬に乗る犬鬼の集落があった。どうして馬に乗るようになったのか、それは定かではないが、その場所に、ひとつの歪みがあってもおかしくは無い。
 地中から湧き出る、怪骨。死霊侍。そして、何処からか集まってくる、死人憑き。
「さて‥‥後は、そうさの、林も手に入った事だ、富樫の命もいただき、かの方の復活の手助けとしようか」
 空中から、白山をじっと見ているのは、ハボリュム。
 加賀の地で、反乱の火の手を上げたのは、白山に眠る同胞を起こす為。かの方が起きれば、また楽しい事になる。にんまりと笑みを浮かべると、掻き消えた。また別の場所へと向かったのだ。
 怪骨や死霊侍の湧き出た場所は、まだ何か生み出そうとしている。
 かすかに地表に風が吹いている。
 それは、小さな円を描くように、ほんの僅か、地表から風を巻いていた。

●今回の参加者

 ea6215 レティシア・シャンテヒルト(24歳・♀・陰陽師・人間・神聖ローマ帝国)
 eb1630 神木 祥風(32歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 eb3609 鳳 翼狼(22歳・♂・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb5009 マキリ(23歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 eb8302 ジャン・シュヴァリエ(19歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb9449 アニェス・ジュイエ(30歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 ec0261 虚 空牙(30歳・♂・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ec2813 サリ(28歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)
 ec4348 木野崎 滋(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●加賀と悪魔。そして神
「潮〜!! ひっさっしっぶっりー!!!」
 何時もありがとうございますと丁寧に頭を下げる、ギルドで前田綱紀の名代、立花潮へと、鳳翼狼(eb3609)がぶんぶんと挨拶をする。だが、どうやら満面の笑顔での再開とはいかないようだ。何時もに増して控えめな姿に、翼狼は首を傾げる。
 加賀は荒れるといったのは、江戸で出会った白拍子の姿の女性だった。その文字通り、荒れている。
「綱紀さんも大変だよね。俺も頑張るから、潮も綱紀さんをしっかり支えてあげてねっ!」
 力拳を握り締めて、それがお願い。と迫れば、微力ながらと、言葉少なく返事が返った。

 少なからず、加賀に関わった冒険者達は、ずっとひっかかるものを抱えていた。
 それが、加賀とはまったく別の場所から、加賀という名を引き出した者から、おおよその絵図が見えてこようとしていた。
「今のジャパンの情勢から考えても、黄泉への扉があっても不思議じゃないですよね。加賀の反乱と同時期に無数、幾多の種類のアンデッドです」
 黒いリボンを揺らして、レティシア・シャンテヒルト(ea6215)は、難しげな顔を傾げる。先の依頼で関与していた悪魔から、本拠地を聞き出せば、加賀と答えられたのだ。天鳥船にまつわる巻物が出現する依頼を邪魔しに来た悪魔。その詳細を、集まった仲間達へと話す。
「浮かび上がる悪魔は一体だね」
 ハボリュム。
 断片でも名を知ったからこそ、導き出せたのだ。
 その悪魔本体の、外見的特長は、人間、黒猫、蛇の3つの頭をもち、火の付いた松明を掲げているという。所構わず火をつけ、当たりを混乱に陥れる。火は、文字通り炎でもあるが、人の騒乱を燃え上がらせるという、『気まぐれな扇動者』の一面もあるという。
 腕を腰にあてて、レティシアの説明を聞いていたアニェス・ジュイエ(eb9449)は、得心が行った風だ。
「成程? 加賀にはデビルが複数、その内、ハボリュムってのが富樫の裏で動いてるっぽいね」
 江戸から加賀へと向かう道すがらの地域。そこから加賀へと反乱の火の手は上がった。反乱の首謀者は、富樫という一門だが、その合間に見え隠れするのは、一向宗の老僧だと言う、怪僧真仏。そして、反乱に名を連ねる林某を捕縛しに向かった先で、捕縛叶わず今わの際で呟いた言葉が『ハボ‥‥リュ‥‥』。何かがすとんと落ちた気がして、アニェスは深く頷く。
 そういえばと、アニェスと依頼を重ねていた翼狼が、ぽんと手を打った。
「なんか聞き覚えあると思ったら、七つ島で戦った悪魔も『ハボ‥‥ム‥様』とか言ってたかも!」
「さようですね。七つ島ではデビルが黒鳶ノ獅子を狙っておりましたが、今回もそのデビルが、裏で糸を引いている可能性は高いですね」
 穏やかな面持ちで、神木祥風(eb1630)が、白山に飛んでいった小さな姿を思い出して、言葉を繋ぐ。
 その卓抜した知識は、レティシアの導き出した答えを補完する。
「不死者はやっぱり遠慮がないね」
 同じく、七つ島での戦いを経験していたマキリ(eb5009)は、依頼書にある、白山に向かおうとする一団もあるという文字に、やれやれと言った風に溜息を吐く。神が居るとは知ってはいたが、軽々に会おうという気持ちにはならなかったからだ。それを、いとも容易く行う輩にあまり良い気持ちはしない。
 加賀北部の戦いの最中、襲撃されたり、焼け出されたりした村の防衛をこなして来たのは、サリ(ec2813)。
「ふるさとって、特別ですよね」
 酷く慌しい情勢だと、サリは思う。避難生活は何処か不都合が生じるものだ。気持ちも疲弊してくる。誰もが安心して、自分達の村で暮らせるようにと、力になろうと思うのだ。
 不死者達は、犬鬼達の集落跡から沸いて出ている。だが、先ずは眼の前の危機を退治しなくてはならない。占拠され、不死者の拠点が増えるのは好ましく無いだろうと思う。
 サリの言葉に、木野崎滋(ec4348)は、ひとつ頷く。
「帰る地が無くなるのは‥‥寂しいものだ」
 では、早々に向かおうかと荷を担ぐ。江戸からの話、京での話。仲間内の加賀に関する悪魔がらみの話は、全て出揃った。
「‥‥何やら妙な輩も見え隠れする様だしな‥‥」
 沸いた不死者退治だけでは済みそうに無と、小さく呟くが、その不死者の群れと合間見えるのを楽しみにしているのは、虚空牙(ec0261)だ。「とりあえずは、怪骨に死霊侍の群れだろう? 修行の相手としては悪くないな」
 空牙が苦々しく思い出すのは先日の戦い。まるで歯が立たず、臍を噛む思いだった。わが身を徹底的に鍛えなおさなくてはと考えていた所に、この怪異を聞き込んだのだ。冒険者として腕を磨く事は、人々の暮らしを守る事でもある。
「一匹たりとも逃さないようにしなくてはな」
 冒険者にとって、さして手強い敵では無くても、人々にとっては、脅威に他ならない。淡々と吐き出される言葉ではあったが、その底にはとても熱い塊が抱え込まれているようだ。
「そうですね、まずは死人の対処でしょうか」
 祥風が頷き、道中、七つ島での怪異と、黒鳶ノ獅子と呼ばれる神の使いの話をしましょうと微笑んだ。

●不死者との戦い
 依頼書には、巨大な獅子とあるが、ジャン・シュヴァリエ(eb8302)は、七つ島で表れた時点の話を聞いて、小さな雉猫に燕の羽が生えているという姿に、ぐっとくる。
 マキリと二人乗りした、グリフォンのサガンで、空を駆けさせる。
(「マキリ、良いなあ‥‥」)
 とても気になるのだ。ジャンは、パリのシムルを思い出す。普通の猫のようなものを食べていたが、果たして黒鳶ノ獅子は、何を食べるのだろうかと。
 空牙は天馬天雷を駆けさせる。幾分か冷たく、高くなった空を目を眇めて眺める。
(「アンデッド等を倒せば終わりというものではあるまい」)
 仲間達がすり合わせた情報から考えても、その向こうにはまだ何かある。決着は何処でつくのかと空牙は思う。
 レティシア、アニェス、サリ、滋は、足並みを揃えて山裾の村へとひた走る。通常馬深山で、後を追うのは祥風。
 アニェスが、時折、空飛ぶ絨毯で空に上がり、サンワードで索敵し、見つけた死人へと、方向を迷わずにとる。目的とする村から、そう遠くは無いようだ。

 山裾を下る死人達が、ゆらゆらと動いて村へとやってきていた、冒険者達という、人の気配で、速度を増しているかのようだ。その手を伸ばすかのように、進んでくる。
 幾分か、邂逅までの時間をとれた冒険者達により、その数体は、簡単に退治され。
 そして問題は。
 記された山間の窪地へと、歩を進める。
 そこは、何を拠り所に増えたのか、多くの不死者が居た。
「っ!」
 遠くに、黒鳶ノ獅子の姿が見える。
 白山へと上ろうとする不死者をその爪で、牙で振り払っているようだ。
 ジャンは視線が固定されそうになるが、今は不死者を退治するのが先だ。道の合間に姿を現した死人へと、一直線に稲妻が飛んで行く。その衝撃でふわりとジャンの髪が後ろへと揺れ、ローブが靡いた。通り道の死人が倒れる。
「行こうっ!」
 開いた空間へと、冒険者達は雪崩れ込む。その、道よりも僅かに窪地の中に入った、岩場辺りに陣取る合間に、不死者達は、いっせいにこちらへと、顔を向け、急ぐでもなく、淡々とした足取りで迫ってきていた。
 月桂冠の祈りをレティシアは捧げる。レミエラが光る。祈りは不死者の行動を阻害する結界を築く。
「間を空けて下さい」
 ジャンが、少彦名神の杖を掲げる。レミエラが光り、閃光が広がる。稲光が扇状に広がって、死人達を撃てば、その足が、がくりと砕ける。
「次こそ、永久の安らぎを‥‥」
 浄化の魔法を、丁寧に発動し続けるのは祥風。落ちた骸は、清らかに天へと還り。
「この剣が効くか?」
 錆び、欠けた日本刀が、術者を背にした空牙へと向かうが、その古びた刀は空を裂くだけ。踏み込んだ空牙の氷の剣が、夏の名残の暑さを払うかのような冷気を纏い、死人へと叩き込まれる。その力を乗せてある重い一撃は死人を地に落とす。
(「感情が無い相手‥‥」)
 背にした岩場へと上り、高度をとったサリは、魔弓ウィリアムを撃ち続ける。
 空を裂く矢音、打ち込まれる剣。僅かでも思考のある敵ならば、怯み、躊躇し、隙も生まれるのだが、不死者にそれは無い。ただ淡々と、生ある者へと向かい攻め寄せるのだ。隙を作るのは攻撃しか無いのだろうと唇を噛み締める。
「どんどん行こう」
 詠唱を唱え終わったアニェスが、サンレーザーを発動する。焦げた時に生じる衝撃が、一瞬の隙を生んだ。
 ラムナックル鉄壁を拳に嵌めた翼狼が、迫ってきた怪骨へと足を踏み出すと、飛び上がるように強力な拳を叩き込んだ。その大きな動きの後は、体勢を立て直すのに僅かに時間がかかる。横合いから来た死霊侍の刀が、翼狼の肩をざくりと切り裂いた。
「っ!」
「怪我したら下がって下さいね」
 祥風が声をかける。
「皆が後ろで支えてくれている、無茶はすれど無謀は必要無い。一度下がるが良かろう」
「ん、ごめん。ありがと、よろしくねっ!」
 滋が、翼狼と死霊侍の間に割って入ると、笑みを浮かべる。翼狼は、大きく頷くと怪我を癒しに戻る。
「無駄撃ちは出来ないから、狙って‥‥」
 マキリの短弓早矢から放たれた矢が、死人へと向かう。鈍い音を立てて、打ち込まれたその矢は、とても重く、一矢で足を鈍らせる。
「不死者達の姿が、見通せるのが良いと言えば、良いか。先ずは削れる相手から削っていかねばな‥‥」
 桜色に輝く刀身を閃かせ、滋が襲い来る死霊侍と切り結ぶ。一撃で、死霊侍の日本刀は鈍い音を立てて割れ砕けた。破片が鋭い刃となって飛び散るのをかわし、無造作に再び踏み込み、刃を叩き込む。
「いけっ!」
 ジャンが示す方向へ風が生まれた。渦を巻くその風はトルネード。数体の怪骨と死霊侍が巻き込まれて、高々と空に上がる。がしゃがしゃと、硬質な音を立てて、落下するが、すぐにむくりと起き上がる。
 その間に、絶え間ない戦いの一息が入り、囲まれそうだった空牙と滋が、体勢を立て直す。
「何処かに悪魔居るわよ!」
 アニェスが叫ぶ。
 石の中の蝶が僅かに羽ばたいたのだ。この地に来た時に、ほんの僅か羽ばたいたが、すぐに、消えてしまっていたので、警戒だけは怠らなかったのだ。すると、また、同じように、ほんの僅か羽ばたいたのだ。レティシアがその声を聞き逃さない。
「最も近い悪魔!」
 高速で放たれたのは月の矢。
 その月の矢が落ちた先は、探査しなくても目に入った。眼の前だったから。
 翼狼、祥風、マキリが攻撃を止める様口々に叫んだ。落ちた先は、白山だった。

●白山の封
 多少なりとも傷を負っていた滋と空牙、翼狼は、祥風とレティシアによって、綺麗に治される。
 次々と襲い掛かる不死者を退治すれば、広い窪地が見えていた。その向こうには、白山。
「嫌な話だけど、惨殺された村があったよ‥‥」
 しょぼんとした風で、マキリが東から戻ってきた。窪地から、四方に開いた道の、東側へと向かったマキリは、あまり遠く無い地点で、酷い有様の村を見つけたのだ。死人はそこから生まれたようだ。
「西方面は、特に異常は無いようだ。白山の方も大丈夫そうか?」
 周囲を探索して歩いてきた滋も戻って来る。
「もうアンデッドは居なさそう?」
 アニェスが発動したサンワードは、木々や隠れた場所は探せないが、少なくとも日のあたる場所には不死者はうろついて居ないようだ。
「高みの見物をしている者がいるかと思ったが、随分と高みに居るようだな」
 白山を仰ぎ、空牙がひとつ溜息を吐く。
 ゆっくりとした声が地と空へと溶けるかのように響く。レティシアの鎮魂歌だ。
(「穢れをはらい、死者達の長い夜が明けますように」)
「‥‥元は人であったモノ‥‥一体、何処に眠っていたのかしら‥‥。どうして、目を覚ましてしまったのかしら‥‥」
「住居跡とはいえ、森の中に岩場に囲まれた窪地、さほど広くもないところで動く遺体が集まるのも変です。昔むかしここで何かあったとか、掘り返したら何かうまってるとか」
 死人はマキリの見つけてきた村からとしても、その村は何時、どうしてそんな事になったのか。そして、この地は一体何なのか。アニェスが深く溜息を吐けば、サリが、窪地を見渡す。
『問いに、答えよう』
 白山から、ゆっくりとやってくるのは背に熊鷹の羽根を持った黒鳶色した獅子だった。祥風、マキリ、翼狼に白山の攻撃を止める様にとテレパスを飛ばしたのだ。
 ジャンは、少し涙目だ。とても嬉しいようだ。
「お一方で白山の防衛、お疲れ様でした。お怪我などありませんか? 死人も数が多ければ油断ならぬ相手ですから」
 祥風が、先ずは戦いの労いを口にすれば、黒鳶ノ獅子は、大丈夫だと謝意を告げるかのように祥風に頭を下げた。
 以前七つ島で、加賀前田綱紀より、神に参拝時の盛装だと手渡された衣装を着込んできていたマキリが、じっと黒鳶ノ獅子を見る。会えるなら、会って見たいと思っていたから。
「お久し振りです」
 まずは挨拶をすると、仲間達を紹介し始める。
 近くで見れば、ますます綺麗だと、アニェスはその姿を見て思う。
 立派になっちゃったねえと、翼狼はしげしげと眺める。出合った時は、手に乗るほどの小さな雉猫に燕の羽の姿だった。少し残念という顔である。
 小さな姿では獣並みの知能しか働か無い為、言葉が通じないのだ。白山大神の手で変化した今の姿の黒鳶ノ獅子だからこそ、テレパスで、人に近い言葉を操る。
「俺は欲張りだから、加賀も神さまも、どっちも守りたいよ! 加賀のみんなも、獅子さんたちも、みんな俺の大切な友達だもの。なんでこんなに不死者がいっぱい出てきているの? ハボリュムって。何を狙っているの?」
 翼狼かつての戦いを思い出し、声を上げる。
『白山大神は悪魔を封じている。ここで戦いが起これば、その悪魔が復活する。この国の今の混乱に乗じて、それを狙うのだろう』
 かつて、白山大神が、この地で、瀕死の状態に追い込んだ悪魔が居るのだと言う。
 白山大神はその悪魔を抱えて眠り続けていたが、封印が緩みかけてるのだと。
「私達で、何か助けになる事は、ありませんか?」
 祥風の言葉に、黒鳶ノ獅子は、いずれと頷いた。そして、力が要る時は呼ぶが良いと祥風、マキリ、翼狼に顔を向けた。加賀内であれば、一度だけ、駆けて来ようと。
 加賀での戦いの助力を約束すると、白山へと戻って行った。
「会いたかったなあ」
 マキリは溜息を吐く。白山大神は、また眠っているらしい。起きている時間が短いとの事ではしょうがない。
「お知り合いになれたのかしら」
「なれたよねっ?」
 アニェスとジャンが、密かに頷きあう。
 冒険者達が立ち去った後の窪地で、かすかに地表に風が吹いた。それは、小さな円を描くように、ほんの僅か、地表から風を巻いていた。