【沈黙の島】 かもめ飛ぶ秋の日
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■シリーズシナリオ
担当:いずみ風花
対応レベル:11〜lv
難易度:やや易
成功報酬:4 G 94 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月05日〜10月13日
リプレイ公開日:2007年10月13日
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●オープニング
秋風が海を渡る。
そんな頃、冒険者ギルドへ、悪魔を神と崇めていた島長が顔を出した。
苦渋に満ちた顔をしていた島長だったが、どこかすっきりとして。長い間溜まっていた滓のようなものがとれたのかもしれない。そんな心のうちはわからなかったが、村長は依頼をと、穏やかに声を出す。
何故、小島に悪魔が住み着いて、村人と共存していたかは、もはや闇の中である。
「島人の心のけじめをつけるのに随分とかかった‥。これからもしばらくは、揉めるだろう‥だが、我等は前を向く事を決めたのだしな」
小島の、祠の解体のみ届けを、願い出る。流石に、まだ神を吹っ切るには早すぎるからと。災いを打ち切るような力‥冒険者に、居て欲しいのだと。
そして、海馬の退治もお願いしたいと。
海馬が居なければ、あの小島辺りは大きな岩牡蠣がとれるから、是非食べていって欲しいと言う。
「口伝はもうひとつあります。族長にのみ伝えられる、短いものですが‥」
興味のある方がみえるなら、お話しましょうと笑う。
美園と、十七は、祠が壊れたら一度島を出るという。そうして、見聞を広め、十七の思うような生き方を選ばせたいと、下を向いて微笑んだ。美園は、十七かどうかはわからないが、いずれ婿をとり、女ながらに島長を継ぐという。
「ようやく、時の流れに乗れたような気がするんですわ‥」
何時からか、止まっていた時がゆっくりと流れ出し、やがて本土と変わらなくなるのだろう。対岸の小間物屋は、あんな事があっても、変わらぬ顔してやってくるのだとも言った。
「本当に、ありがとうございました」
沈黙を守った島。沈黙の島の島長は、頭を下げたのだった。
小島の祠の奥には、海へと続く洞窟があった。急な岩場の洞窟を下ると、海が見える。その海は、引き潮の時に僅かに外海に顔を出し、満潮の時には小さな池のような海面のみを見せる。そこに流れ着くのは、物か、それとも‥人か。
もともと、神を詐称した悪魔の住んでいた祠は、そんな漂流物を祭るための祠だったという。それを覚えている者は、もはや島長だけであった。
●リプレイ本文
空が高かった。
吹き込む海風は、僅かに冷たく、夏の名残りは昼の日差しぐらいであろうか。
宿奈芳純(eb5475)と、レンティス・シルハーノ(eb0370)は、海辺の小間物屋に来ていた。船を借り受ける感謝を述べると、そんな事はかまわない。こっちこそ仕事がしやすくなったと、人のよさ気な店主は芳純の手に船賃を握り返す。
「最初から最後まで、お世話になりました」
出会えなければ、島に渡るという一事に酷く手間がかかったはずである。レンティスは気持ちだからと、主人にパイプと葉巻を手渡す。家にあったもので、欧州では簡単に手に入る、些細なものだけれどと。小間物屋は、この国では珍しいものだよと、嬉しそうにレンティスから受け取った。あんたが船頭になってくれなくて本当に残念だと笑う言葉に、レンティスはその巨躯を僅かに小さく屈める。島人の日常への架け橋の一端となったのは、この主人であろうと思うのだ。何があっても、変わらずに笑っていられるという事は、稀有な事だ。あの、因習にとらわれる島人の気持ちはわからないでもない。だからこそ、同じ海に生きる者として、レンティスは頭を下げ、小間物屋の主人は、やはり、海に近い場所で商売を営んでいるだけあって、レンティスのその気持ちを受け取りたかったようである。
空飛ぶ箒で舟が早くなるならば、海馬などにこれから会った時、活用出来るのでは無いかと検証しようとしていたカイ・ローン(ea3054)だったが、これだけの人数が乗って平気な舟である。牽引するには大き過ぎるかと気が付く。多数が高速移動出来て、戦闘が出来ればよいのだが、この舟は借り物でもある。無茶は出来ない。
海馬の注意を惹こうと、カイは、空中から海を眺める。
「そろそろ、出てくる頃でござろう」
前回海馬と出合った海域にさしかかると、磯城弥魁厳(eb5249)が、忍犬のナラヅケ、ヤツハシと共に、海に飛び込んだ。
すると、間をおかず、海中を蹴って海馬が現れる。
海中で大きな音と共に爆発が起こる。海面が盛り上がり、僅かに舟が傾いだ。魁厳の微塵隠の術だ。
「脅かせば、おとなしくなるんじゃないか?」
大きく揺れる船の上で、西中島導仁(ea2741)が声を上げる。おとなしくなったら、連れて帰ってもいいのにと、レンティスの連れてきたヒポカンプスを見て思う。すると、空中から同じような事を考えていたカイの声が降ってくる。
「ペットにできないかなぁ?」
海馬は方法次第で、連れて帰る事も出来たかもしれない。だが、前回の戦いと、今回の、海中での爆発めいた術で、海馬は身の危険を感じたのだろう。魁厳の一撃を僅かにくらいはしたが、海中を本気になって逃走されれば、忍犬が追う事は難しい。魁厳はもう一度、微塵隠の術を使うが、逃走中の海馬がどのあたりにいるかの目星は流石につけられず。
「まあ‥いいんじゃないか?あれだけ怖い目に会えば、懲りただろ?」
同じように、飛び込んでいたレンティスが、小島とは、まったく別方向へと逃げ去る海馬を確認すると水面に顔を出した。
冒険者達は知る事は無かったが、この海域は潮目が良く、海馬は棲みかとしていたのだが、こうも頻繁に手強い相手が現れるのならば、海域を移動した方がマシだと考え、逃走するまま、小島周辺から引き払っていったのだった。
それを、漁船で出迎えに来た島民達が見ていた。
「元気だったか」
出迎えてくれた美園と、お辞儀をする十七に、山下剣清(ea6764)が笑顔で答える。最初に出会ったのはまだ夏の始まる前だったと、ひとり頷いて小島を見る。木々の間から、風雨にさらされた祠の屋根が僅かに見えた。最後まで、見届けられたらと呟いた。
「まずは調査が必要か」
「そうだね。何があるかわからないもの」
上杉藤政(eb3701)と 沖田光(ea0029)は島人から、祠の解体作業の予定を聞く。折り目正しい藤政と、少女のような笑顔の光を間近で見る島人達は、前回訪れた時とは違い、何か、灰汁の様だった毒気が、抜けた顔で、不安そうにこちらを見ている。
「安心してください、僕達が立ち会って、しっかりとこの目で見届けさせて貰います。皆さんが自分達の手で未来を切り開けるように」
「俺も解体は手伝おう」
レンティスもその後に続く。率先して手伝う者と、静かに見守ろうという者。どちらも、島の人々にとっては、ありがたい事である。
導仁は手伝うのもやぶさかでは無いがと、祠を眺めた。
「できるなら村の者達でやった方がいいんじゃないだろうかと思うんだがな」
「そうだな、でも、悪魔の影響を完全に拭い去るというはとてもいいことなので、その手伝いは喜んでさせてもらう」
ずっと一緒じゃなかったけど、と、カイはまた空飛ぶ箒にまたがると、ふわりと空中に浮かぶ。
「見届けに邪魔者が入らないように周囲の警戒を担当させてもらうよ。今日まで特に何かあったわけじゃないけど、どうして悪魔が住み着いていたかも分からないのだからね」
「私もご一緒しましょう?」
芳純も、空を飛ぶ臼でカイの後を追う。小島を上空から監視すれば、万が一、何かが抜け出たりすれば、すぐわかるだろう。
あんぐりと口を開けて、空を見る島人達に、藤政が穏やかに笑う。
「だからといって、私達が神や悪魔であるわけでは無い」
不思議な力は、何も神や悪魔の特権というわけでは無い。今にも拝みそうな顔をしている人達に、首を横に振る。信じやすい人々なのだろうと思う。悪魔を神と崇めるという不自然な状況から抜け出る事が出来たのは、何よりだとも。
祠の解体は、順調に終わった。小さな家のような祠は、すぐに解体され、木片に戻って行く。嗚咽も聞こえたが、その感傷が早く癒える事を光は願う。
ひとつひとつ壊すのを手伝いつつ、レンティスは思う。生贄になった人が帰ってくるわけでは無いけれど。こうして変わっていく事が供養のひとつとなれば良いと。まだ、完全には納得していないだろう。けれども、今日が区切りとなるはずで。それを見れる事が出来て良かったとも思うのだった。
藤政が、あたりをつけた場所の柱の裏から、風が吹き込んできた。
「これは‥」
解体された祠の裏には、小さな洞窟があったのだ。その洞窟は、急勾配で、下へと降りていて。
「恵比寿神といって、海から流れついたモノを、神として祭る風習がある地方もあると聞きます、あのデビルもそういった古い信仰と結びついて、神として居着いたのかもしれませんね」
光の言葉は、すぐにそれがこの島の真実であると知れていく。
光と導仁は、洞窟の奥へと進む。海水の張ったその洞窟には、様々なモノが漂着していた。使えるような品はほとんど無かったが、惹かれるように手にするものもあった。
「口伝‥といっても、ほんの数小節」
そう言って語られたのは、遠い昔の話。
聞いた冒険者達は美園と十七を見た。美園と十七は、顔を見合わせ。島長は下を向いた。
これも、伝わっている。必要ないから持っていって欲しいと、奥から島長は漂流物を冒険者の前に出した。
魁厳とレンティスは、岩牡蠣を取りに、海に潜る。潮の引いた時間に慌てて取るしかなかった岩牡蠣が取り放題で、島民の顔には笑顔が浮かぶ。美味しいものは、それだけで幸せを運んでくるものだ。光が自分の手の平ほどの大きな牡蠣に目を丸くする。
「またいつか、牡蠣を食べにこさせて貰ってもいいですか?‥凄く美味しくて」
導仁が口いっぱいに頬張ると、海の香りと、とろけるような食感に声を上げる。
「美味い」
「ん‥美味しいな」
カイもその大きさと甘さに手を止める。魁厳は持参の食材で美味しそうな煮物を作り、牡蠣の口休めにと振舞った。どぶろくを盛大に飲みまわそうと出すのは芳純である。とろりとした海の香りと酒はこの上なく美味しくて。とれたてを、ナイフでこう。と、レンティスは大きな牡蠣を剥いて食べやすく殻の上でいくつかに切る。いろいろ言われてしまうだろうが、きっと大丈夫だと、微笑みあう島人を見ながら、一口では食べ切れない牡蠣と格闘しつつ、藤政は思った。
「今は喜びましょう。このありふれた島の光景を」
芳純は、不安にさいなまれつつも生きて行く術を見出そうとする島人達を見て、よかったとどぶろくをあおり。
「これは癖になりそうな‥」
つるんと入る小さな牡蠣と違い、しっかりとした重量のある牡蠣をつまみあげると剣清は幾つ目だったかと考えて、まあいいかと数を忘れる。
じゅうじゅうと音を立ててやってくる焼き牡蠣や、牡蠣の浜汁を、いつの間にか側に寄ってくるようになった島人達と、たっぷりと食べたのだった。
翌日も快晴だった。
「ありがとうございました」
深く頭を下げる二人に、魁厳と芳純は餞別を手渡す。沢山の贈り物に、目を白黒させて、十七がお礼を言う。流石に、路銀は沢山あるからと、美園が似合うかと問うのに、芳純は嬉し気に微笑んで頷いた。
「途中までだが、護衛付きだ」
島を出ると言う、美園と十七に、導仁は手を差し出す。これで、この一件は解決だなと。
抜けるような高い秋の青空が眩しかった。
『難破船
生き残りは金の髪、碧の目の青年
青年は、命を回収する神と出会う
もう、充分に命を貰ったから、生きるが良いと、青年は島に送られる
言葉が通じないが、青年は、やがて一人の娘と子をもうけ
それでも青年の望郷の思いは消えず
やがてひとり海に出る
そして帰らぬ人となった
悲しみに娘は命を絶った
生まれ変わって青年と会いたいと祈りを残し』
先祖帰りのように、何故か突然エルフの子が生まれる。因子はあった。その口伝が真実かどうかは、今となっては誰も知らない。
ただ‥冒険者達のおかげで、未来を歩く島が一つ生まれ‥。