【沈黙の島】 神様と島人
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■シリーズシナリオ
担当:いずみ風花
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:9 G 49 C
参加人数:6人
サポート参加人数:3人
冒険期間:08月25日〜09月02日
リプレイ公開日:2007年09月02日
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●オープニング
とある島に伝わる口伝がある。
〜〜〜
ある日やって来た金色の髪の神様が居た。島の神様が、仲間になるよう進めたが、金色の神様は頷かなかった。
それを嘆いた島の神様は、祠に閉じこもって出てこなくなってしまった。
金色の髪の神様は、村人に責められ、その身を儚くしてしまう。しかし、村の娘が神様の子供を身篭っていた。
島の神様は、生まれた金色の神様の子供を喜び、島から出さないようにときつく言う。
大きくなった金色の神様の子供は魚が激減した年、島から出ようとする。
島の神様は、それなら魚を呼ぶと、その島に魚を集めた。
金色の神様の子供は、喜んだ。しかし、島に戻る途中に嵐に見舞われて儚くなってしまった。
島の神様は酷く悲しんで、祠から出ることをしばらくしなかった。
金色の神様の子供の子供は居たが、もう髪は金色では無かったからだ。
島の神様が出てこなくなって何年も経ったある日、島に金色の髪の子供が生まれた。
島の神様は酷く喜んだ。だが、また、その子が自分の手から離れてしまうのでは無いかと恐れ、悲しんだ。
悲しみは、村人に伝染し、理由も無く人は無気力になってしまう。
このままではいけないと、村人は、成人するまで金色の髪の子を大事に育て、村人と契らせ、子が成るのを確認すると
金色の髪の子を島の神様に捧げる事にした。
島は安寧を取り戻す。それ故、島人の心は安らいだ。
島の神様に大事にされ、一生を終えるのだと。
〜〜〜
「何処から本当で、何処まで間違っているのかはわからないわ」
美園は眉間に皺を寄せて、成人の儀に伝えられるという口伝を語った。時間が足りなくて、最初に会った時に多くを伝えられられなくてと、唇を噛む。
美園の島は、人を寄せ付けない島。
神と名乗る者が、島の人々の心の奥に巣食い、外との接触を事の他嫌う、沈黙の島。
「お願い。十七を助けて」
もう少ししたら、誰かと契らされ、子が成した途端に島に送られる。送られた金色と碧の目を持ち、長い耳の特徴がある子が戻って来たためしは無いという。少なくとも、島には戻らなかった。
少女美園の依頼は同じ。
島の神の討伐。
前回と違い、今回は美園が居る。島に近付く安全な海路も知っている。
「お願い。力を貸して」
かつて、豊かな海の背景に、人を喰らう蜃を潜ませていた漁村があった。その漁村に蜃を持ち込んだのはこの沈黙の島に滞在した事のある妖術師であった。沈黙の島の豊漁は、蜃による人身御供の結果では無いかという推測も立って居る。
その蜃を神と呼ばれる者が作ったかどうかは定かでは無いが。
その、伝えられる口伝の真実も定かでは無いが。
人身御供を無くしたいと言う御園の依頼は、ギルドに通された。
「お嬢がいません!」
島では、美園が居ない事で静かなざわめきが広がっていた。
「さわぐな‥」
「でも、島長」
「‥さわぐな‥じき、戻る」
「島長」
こんな時に島長になるなど、運が悪い。嫌、運が良かったのかと、人を寄せ付けない沈黙の島の島長は目を閉じた。
冒険者と名乗る不思議な気配を纏う人々が島に現れてから、そんな気がしていたのだ。
歪みは正され、審判を待つのだろう。
「じき‥な」
静かな海を見ながら、島長は低く呟いた。
その時、自分は全ての責を負うのかもしれないと、低く笑った。
●リプレイ本文
●海馬の領域
夜が明ける、陽の昇る直前が一番暗くなるのだという。
だから夜明けを見るものはその陽の光が尊く思うのだとか。
背筋を正し、厳しい視線を海に向けているのは西中島導仁(ea2741)だ。人をたばかるもの、たぶらかすものは捨て置けない。イフェリア・アイランズから、大鴉は、海岸線には姿を現さないという情報を得ていた。神と名乗る大鴉に変化する者は、島から出る事は無いと知れた。広範囲に及ぶものでは無いと、一安心はしたが、だからといって、良いものでも無いと、導仁はぐっと唇を引き結ぶ。
冒険者達は、良いから乗っていけと、苦笑する小間物屋から舟を借り、夜の海へと漕ぎ出していた。
磯城弥魁厳(eb5249)により、丁寧に偽装された小間物屋の舟は、夜にまぎれて海原を行く。望月が浮かぶ夜空は何処と無く不安定だった。満ち欠けする月の形は、人の心持ちによって、様々な問いを投げかける。
今度こそ。
舟に座り込んでいる山下剣清(ea6764)は空を仰ぐ。前回のような苦い思いはしたくない。何がしかの決着をつけねばやりきれない。硬い表情の美園を横目で見ると、また、空を仰ぐ。
なんとかして、張りつめるような美園の気持ち‥願いに、今夜は答える事が出来るだろうと、沖田光(ea0029)は舟に揺られながら思う。火乃瀬紅葉と、にかりと笑うジェームス・モンドとが光に知らせた江戸近郊の漁獲量。漁師達はおおざっぱにしか物事をとらえてはいなかった。だが、今年はまあまあ豊漁だが、去年は潮が荒れ、酷い不漁だったと。その前の年もそこそこだったと告げられる。あの島の漁がどのようなものなのか、光はまだ知らなかったが、その情報を聞けば、島人は顔を見合わせるに違いないものであった。
海路を美園に魁厳があらためて聞き直し、レンティス・シルハーノ(eb0370)と宿奈芳純(eb5475)が舟を操り、何事も無く‥島が‥閉ざされた島を背に小島が視界に現れる。
暗い夜に、尚黒々と浮かび上がる島には、灯が灯っている。美園が居なくなってから、ずっと灯っているのだ。明るい灯は島近くを照らすが、かえって遠目を効き辛くするだろう。
船尾をついて来ているレンティスのヒポカンプスが、僅かに揺れ、船尾から姿を消した。
「来たぞ」
前を見据えていた導仁が声を上げる。明らかに敵意を持った同じ馬が泳いで来たのだ。
「任せるでござるよ」
魁厳が海中に静かに沈む。芳純が、淡く光を放ち、海馬に問う。ここを通してくれるだけで構わないのだと。だが、どうやら会話出来るほどの知恵は無く。来るな。出て行けという拒絶の意思を確認出来るほどである。
「駄目です‥言葉を解しません‥」
ざばりと波を蹴立てて、舟に体当たりをかまそうとする海馬の前に、魁厳が割って入る。
「魁厳さん!」
光の手から、魁厳を援護すべく、炎の玉が飛んで行く。
海馬は、辛くもその魔法から逃れたが、酷く驚いたようで、ざぶりと海に沈む。なるべく海馬を傷つけたくない魁厳は、逃げてくれた事に少し安堵する。
「大丈夫でござる、早く舟を」
その時、法螺貝の音が鳴り響いた。
索敵にひっかかったのだ。
魔法発動時には淡く光を発する。その淡い光は、暗い海でよく目立った。幸、小島へはあと少しである。
わらわらと集まる漁船が、冒険者達の舟を囲むように展開される。
「抜けれるかっ?!」
レンティスが、舵を取る。取り囲まれる前に、波間をぬって、舟は小島へと、漁船よりも僅かに早く寄って行く。
だが、しかし。
ばさり。
冒険者達は、小島へと辿り着きそうだった。しかし、小島から大鴉が夜空に舞って行く。
何処へ飛んでいくのか。戻ってくるのか。少なくとも、対岸の方向では無い。
真っ黒な大鴉が、月の光を僅かに受けて、ばさり、ばさりと飛んで行く。
「届くでござるかっ?」
鳴弦の弓を取り出し、かき鳴らすのは魁厳である。
「逃がさない‥もうこれ以上、お前の好きにはさせない!」
詠唱を終えた光は、炎の鳥となる。暗い夜空に紅蓮の鳥が、暗い夜の鳥に追いついて体当たりをかけた。その攻撃は、ちらちらと火の粉が降るような錯覚さえ覚える。がくりと高度が落ちたが、逃げるのを止めない大鴉に、光は再び突進し、今度こそ打ち落とした。
それを下から見ていたのは、冒険者達だけでは無く。
よろめいて落ちる大鴉は、大きな水飛沫を上げる。落ちた地点へと、島人の舟と、冒険者達の舟が寄せて行く。炎の鳥と化した光が冒険者達の舟に降りると、ぷかりと、長い髭の老人が浮かんできた。優しげな顔をしてはいるが、光の戦歴は長い。その一撃で、神と呼ばれる老人は最初は何か言いたそうに口を開いたが、すぐに命を落とす。そうして、光の指に嵌められた蝶が閉じ込められている石の指輪に変化があった。神と呼ばれる者の正体は、悪魔と呼ばれる種にほぼ間違いは無かった。
しかし、口を割ろうにも、もはやその命は無く、口伝の真実などは海の泡となって消えていったのだった。
●それは果てしなく長い物語
「神殺しの言う奴等の事など、真に受ける事なぞありません!」
「人殺しの一族が、どの口でそんな事を言うのっ?!今まで何人犠牲にしてきたのっ?言ってごらんなさいよ!」
殺意も露に、しかし、光の火の鳥を目の当たりにした島人達は、遠巻きに出て行けと武器を構える。冒険者達の中に混ざる美園が叫ぶ声に、ひとつ、ふたつ上げられる声は小さくなるが、中々収まらない。
半泣きになった中年の女ががっくりと膝をつく。
「神が居なくちゃ、この島はもう滅びるしかないじゃないですか‥漁はてんで安定しないし‥」
「生け贄と豊漁が関係ない事を立証出来る材料になるかはわかりませんが‥」
光が、事前に調べてもらった近隣の漁の推移を聞くと、島人達は、互いに、互いの顔をちらりと見た。妖術師の話は聞いている。だが、子の島には神が居る。妖術師は捕らえられたのだから、再び豊漁の島になるのでは無いかと、淡い期待を抱いていたのが仄見えて。
豊漁と神と名乗る者が関係ないという証拠が上がったのを見て、魁厳はほうと溜息を吐く。これで、説得はさらに容易になるだろうと。芳純が、光の聞いた話を後押しする。
「以前にもお話致しましたが、豊漁と神と名乗る者は関係ないのです。豊漁は、蜃という巨大貝の起こす仕業で‥」
疑いを払拭しきれない表情の島人に、なぁ。と、肩をすくめて、レンティスが気安く話しかける。同じく漁を生業とする為か、島人達の言う事はよくわかる。そのままではいけないという事も。
「海に生きる者は総じて縁起を担ぐ。だから色んな風習があるのは分かるし、生贄の儀式が未だ行われてる土地がある事も承知」
その言葉に、美園は目を剥いて抗議しようとしたが、手で制される。
「余所者の俺が強く言う事は出来ないが‥本当に神だと思うか?」
あれは、悪魔だった。
そう、冒険者達は皆納得しているが、長い慣習を否定する事は、おいそれとは出来ない。
目の前に真実がさらけ出されていても、人は自分の思った真実でなければ否定する。自分に都合が悪い真実などいらないのだ。その真実は、信じない者にとっては真実ではないからだ。信じる者のいう事ならば聞くが、信じない者の言う事は、たとえそちらが正しいとしても、否定したいのだ。
あれは、神だった。
そう、信じたいのだ。自分達に不都合な真実など要らないと。
美園を裏切り者と呼ばわる声に、導仁が前に出た。長身の導仁が島人達を、その強い眼差しでぐるりと見回した。正義はひとそれぞれ、立場によっても変わるものだし、島人の心持はわからないでもないが、美園の言い分の方が導仁にはしっくりとくる。誰かの犠牲の上での豊漁など、あってはならない。すぐに納得しろというのは無理かもしれない。けれども、やってもらわなくてはならないと思うのだ。
「どれだけ閉塞した世界であろうとも、すべての者がそれを良しとはしていない‥‥現状を打破し己の責任で己の人生を生きていく事を望む心‥‥人それを『自由』という」
「もういいだろう」
島人を背にして、島長が顔を上げた。
───もういいだろう。
その言葉は、冒険者達にか、島人にか。
島長は、冒険者たちをぐるりと見回した。
「彼等の言葉に嘘は無い」
その言葉に、冒険者達は安堵した。
反面、島長の背を見て、島人達は、息を呑む者、泣き崩れる者。溜息を吐き出す者‥。島人全体に話をするのでは無く、話をすべきは島長であった。島人を掌握するのは、島長に他ならないからだ。
「では?」
芳純が尋ねると、島長は首を縦に振った。口伝を否定し、生贄に頼る生き方を止める事を。
●そしてこれから‥
「良かったですね、美園さん」
「ありがとうございました!」
綺麗な笑みを浮かべて、憑き物が落ちたかのように柔らかい笑顔になった美園に光が微笑む。全てが明らかになってはいなかったが、歯車は良い方向へと動き出したのは間違いは無い。
説得が苦手で、戦闘に加わる気でいた剣清は、申し訳無さそうにその巨躯を揺すって、美園に別れを告げる。
長く洞窟の中で暮らしていたというエルフの少年は、陽射しが眩しいらしく、何度も目を瞬かせ、美園の横で冒険者達を見送っていた。
「あのね、もし良かったら、また来て欲しいの」
悪魔の居た場所を壊すのを手伝って欲しいとの事。自分達でやれば良いのだけれど、お守り代わりに見ていて欲しいと。
ひょっとして何かあったら、怖いし、海馬も居るからと、笑う美園は晴れ晴れとして。
まだ陽は高いが、秋の香りが含まれる海風を感じながら、冒険者達はのんびりと帰還するのだった。