加賀の犬鬼・一
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■シリーズシナリオ
担当:いずみ風花
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:7 G 21 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月29日〜02月06日
リプレイ公開日:2008年02月06日
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●オープニング
「犬鬼の動向がおかしいと?」
加賀国藩主、前田綱紀が、いかつい顔をさらにいかつく顰めた。年は今年で二十二になる。筆頭家老、長連龍が、皺の寄った顔を撫ぜると、穏やかに言を続ける。
「はい。慌しいというか、落ち着きが無いというか」
「京へ、主だった犬鬼が出て行って討たれたと聞くが」
「真偽のほどを確かめるため、潮を京へと向かわせました」
「そうか‥吉報ならば良いが」
「最近はめったに仕掛けて来なくなりましたから、こちらも、気が緩んでいました」
「討伐しても、討伐しても、増え続けるからな。兵の疲弊も馬鹿にならなかった。それは、しょうがない」
ふうと、綱紀が息を吐く。
何時の間にやら大きくなっていた犬鬼の一族との戦いは、ここ半年小康状態にあった。何しろ、騎馬に乗る犬鬼の一群は、その毒の弓矢と、奇襲に悩まされる。農民や町民を守りつつ戦うこちらがどうしても不利になる。いっそのことと、拠点を探そうとするのだが、点々と移動する彼らを根絶やしには出来ずに居た。
小競り合いはたまにあるが、どうしても後手に回る。長く患った患部のように、何時の間にか加賀国は付き合い方を覚えてしまっていた。その患部が、酷く暴れださなければ、それで良いのだと。
「馬に乗る犬鬼‥ありましたね。つい先日の戦いで、延暦寺から出された依頼で討伐されたようです」
「そうですか‥ありがとうございます」
何所にでもあるような顔、何所にでもあるような身なりの旅の男が、京の冒険者ギルドへと顔を出した。
「その、戦の話をしてくれる人に、ご足労願いたいのですが」
「?」
「加賀には、犬鬼の一族がおりまして、それを纏めていた何体かが、京に上り、討たれたようで」
鉄の御所の話は伝え聞くが、その詳しい話は伝わってこない。
「加賀に力を貸してくださる方を探しております」
犬鬼の一族を根絶やしにする為に、加賀国は、ようやく腰を上げたのだった。まずは、京の戦の話を聞かせて欲しいと。
「簡単な、探索もお願いしたいのです」
「冬山をですか?」
「はい。私共でも、多少の斥候は放っております。どうやら、犬鬼の二部族が山篭りをせずに、里の近くにまだ駐留しているとの事なのです。騎馬の犬鬼の数、普通の犬鬼の数がさっぱりわかりません。ですから、二部族の動向と、大よその数を調べて欲しいのです」
大日山と赤兎山の間の裾野近くで、その中の、二部族が、睨み合っていた。
人里から見える場所では無いが、少し分け入ればわかるような場所である。
深い雪。立ち並ぶ木々。
土地勘の無い者は、瞬く間にその足を奪われ、冬山に飲み込まれるだろう。
───何を‥争っているのか。それがわかれば‥‥。
●リプレイ本文
●犬鬼の山
真っ白な雪景色が広がる。
陽の光りを浴びて、雪は光りを反射して眩いばかりだ。じき、また雪雲が来るのだろうが、今は冷たい色の青空が広がっていた。
ベアータ・レジーネス(eb1422)は、立花潮に加賀の国の地図を求めた。地図?と、怪訝そうな潮に、何か都合が悪いのだろうかと、ベアータは駄目かなと、聞く。申し訳ありません、詳細な地図はお渡し出来ませんがと、潮は頭を下げる。
「何所までの精度のものがご入用でしょう?」
「ええとね、大体の地形でかまわないんだ」
犬鬼が跋扈しはじめた頃から、山の地図は作られていない。それも、いずれ冒険者に頼む事になるのかもしれない。
潮から、大雑把に説明される加賀の山間部の地形をスクロールに写すと、記載された地図の上で、ベアータは『犬鬼』と指定して、ダウジングペンデュラムを試す。小さな銀製の円錐がついた振り子が、あてどなく揺れる。指定した言葉に値する数は、非常に多いのか、銀製の円錐が一点を指し示す事は無かった。おおよその範囲がわかればと思ったのだが、その範囲は白山まで延びる。山間全てに犬鬼が潜むのか、そうでないのか。聞いた以上の効果は得られなかった。
つややかな白い毛皮で作られたウルの長靴が、雪に沈む。
「冬のロシアと比べれば、この程度の雪など‥」
高く結わえた真紅の髪が雪景色に鮮やかな色を落とす。真幌葉京士郎(ea3190)は、僅かに目を眇める。
「風向きにも気をつけないとね」
きゅ。と、鼻を擦るマキリ(eb5009)は、仲間達に声をかける。山に入れば視界も悪い。ぱさりと木から落ちる雪の音などに紛れて、通常の山より数倍注意が必要なのを良く知っていた。雪深い山を分け入るのだ。足には借りうけたかんじきを履く。猟師に間違えてくれると良いのだけれどと、狐のエエンレラが犬に偽装出来ないかなと考える。犬の足跡と狐の足跡は山に通じる者なら、簡単に見分けられてしまうだろうし、その打ち合わせはされていなかった。風の精霊イワンケに呼吸を感知する魔法を使ってもらうが、沢山居るとしか伝わらない。何所に居るのかと聞けば、あっちにもこっちにもと答えられ、山全体としか漠然とわからない。
「それにしても、騎乗する犬鬼達とは、妙な話ですね」
吐く息が白い。神木祥風(eb1630)は騎乗する犬鬼など、聞いた事が無いと、溜息を吐き、深く考察する。
しかし、相手が何であろうと、平穏に暮らす無辜の民草を虐げるものならば、及ばずとも手助けはしたい。事前に聞き込みをしたが、犬鬼の跋扈する山の地形は正確にはわからない。おおよその地形を頭に入れる。馬の行動を考えて、犬鬼の行動範囲を考える。足先から冷たさが登り、祥風の足を凍えさせていたが、かまってもいられない。
集団で動くのならば、水場は不可欠だと、京士郎も思う。騎乗しているのならなお更で、犬鬼自身の痕跡は隠せても、騎馬隊の痕跡までは隠せない。
「まずは、水場か」
「そうですね。私もそう思います‥が」
「すこし、やばいかもしれないかな」
赤兎山へと風下から近付く事も徹底されて居ない。水場を探しに、大よその場所へと歩く仲間達。その姿は、犬鬼に気取られていた。京士郎のグリフォン、キエフスキー4号(仮)が大きな声を上げたと同時に、マキリもその嗅覚で犬鬼の接近を感じ取っていた。
びょう。
空を裂いて犬鬼の矢が飛ぶ。
万が一に備えていたのは祥風ただ一人。とっさに張られた聖なる結界が、仲間達を包む。
「引きましょう」
「仕方ないか」
矢がはじかれたのを見て、驚いたのか、深追いをするつもりは無かったのかわからないが、ある程度の矢は飛んできたが、深追いはされなかった。
呼吸を感知する魔法を使うには、まだ距離がある。その範囲に収まるように近付かなくてはならないからだ。マキリに風下を聞いて、慎重に接近するベアータは赤兎山は範囲から外さなくてはならない。ざっと、巻物を広げると、翼狼に、赤外線視覚を得る魔法を付与する。
「向うからこちらは見つかっていないですよね」
狩猟の神が宿るウルの長靴を履いた鳳翼狼(eb3609)は、じわじわと山との間合いを詰めていく。陽を浴びて、金色の髪が揺れる。山間の木々の合間を赤点が移動するのは見えるが、全ての数を確認出来たかは、微妙である。移動しているからだ。
「ん。大丈夫じゃないかな‥騎馬と歩兵の数だけは把握しときたいよね」
「まぁ。やることは狩りと大して変わらんな。人里近いというのはお手軽だが」
ウィルマ・ハートマン(ea8545)は、見知らぬ山でも、おおよその見当はついた。卓抜した能力だったが、それのみに頼らない。まずは遠目から、姿を隠せる場所や移動に適した場所や、風向きまでも確認する。
馬に乗る犬か。何とも不可思議な姿だと、僅かに口角を引き上げて笑みを作る。不可思議な姿ではあるが、実際にそれが居るのならばと、目を凝らす。目視の効くぎりぎりの場所で身を潜める。
「‥そうだな‥ちと、間を詰めてみるか。待っていろ」
何やらざわつく雰囲気を感じて、ウィルマはひとりで距離を詰めるつもりだったが、翼狼もベアータも不思議そうな顔をした。
「俺も行く」
「私も行くよ」
三人で山に踏み入ると、ベアータが呼吸の魔法を使う。上手く範囲に入ってくれると良いのだけれどと。せわしなく動く呼吸を捕まえる。
ひとつ。ふたつ‥。完全では無いかもしれない。けれども、一斉に動いているのだから、ほぼ間違いはないだろうと、ベアータは翼狼とウィルマに声をかける。
「歩兵が十。騎兵が四‥。固まって赤兎山へと向かってるよ」
「何を話してるかわかればいいんだが」
犬鬼の死角から動く三人だが、移動を始めた犬鬼に追いつくのは難しい。重装備をしている者はなお更だ。
何故、急に動き始めたのだろうか。
その理由はすぐに知れた。
怒号が飛び交う。
犬鬼同士の戦が始まったのだ。
翼狼は、高い位置から、下で繰り広げられている犬鬼達の戦いの様をじっと見て、ベアータとウィルマに振り返る。
「‥一端引く?」
「そうですね、その方が良いでしょう」
戦の勝敗は、微妙だったが、数が僅かに勝っていた大日山側が勝利を収めるようだ。ならば、ここに留まるのも限界があるだろう。指揮官は定まっては居ないようだが、戦闘馬に乗る犬鬼が指示を出し、歩兵の犬鬼が数体騎馬に従って動く。これが、ひとつの指揮官に纏まったら、嫌な相手になるのは間違いが無さそうだと、ウィルマは心中で呟くのだった。
●加賀の前田綱紀
京士郎のグリフィンが街を行くのはまずい。潮は、郊外で預かりますと、頭を下げる。ですが、これから街に入る事が予想されるのに連れてこられるのでしたら、その場でお引取り願うかもしれませんと。
前田綱紀は、いかつい顔をした青年だった。にこにこと、鬼瓦が笑ったかのような顔を向ける。横に控えている初老の男が深く頭を下げた。長連龍。筆頭家老だ。
遠路はるばる感謝すると、労われ、京の戦いの話をと水を向けられる。
「京の一件を調べた範囲では、二部族の対立が、京でトップを失った事による跡目争いとも取れるが‥まぁ、犬鬼の族長よりも更に上に君臨する物がいて、大きな戦を人に対して挑む為の合同演習を行っている、という可能性でもゼロではなかろう。なんにせよ、そこは己の目で確かめねばな」
確たる証拠は無いが、犬鬼が徒党を組むなど今まで聞いた事が無いと、京士郎が所感を交えて語る。跡目争いは、ありえるなと、綱吉が頷く。
「最近京近くの村でも、今回同様、酒呑童子に従わない鬼の一派と従う一派が対峙する事件が起きていますので、加賀の犬鬼の世界にも似たような事が起きているかもしれません」
ベアータが、記載した地図に、調査した内容を記載したものを、綱紀は眺める。戦によって、片方はもう片方に吸収されたかのようだった。減った数と併せ、また調査が必要になるだろう。感謝すると、挿し返す。また、来てもらえるなら、それはそちらが持っていたほうが良いだろうと。
「馬を駆る犬鬼ですが、森等障害物の多い場所に誘い込めば機動力は抑え込めるようです」
「うむ。だが、それはこちらの機動力も落ちるという事なのだ」
さじ加減が難しいと、唸る綱紀。
ウィルマが不思議な話だと、言葉を続ける。
「聞いた限りでは。曲がりなりにも徒党を組み一角の軍陣を為すというのが尋常ではない。オーガなどは群れる程度が関の山だ。この国の鬼は、横の繋がり、或いは文化を持っているのか」
「それは、こちらが知りたい事でもある。京の鬼達は、しかとした連携を取ると聞く」
「京の戦いで確認されたのは六匹。全身が黒い鱗で覆われていて、毒の鏃の矢を戦闘馬から放ってくる。挟み撃ちなど連携も取れてる。盾とかで矢を防いで、機動力を奪って、矢の使えない至近距離に入り込むのが、犬鬼との戦い方になるのかな」
「六匹‥。大体、犬鬼どもの部隊もそのくらいであったはず」
翼狼の率直な話しぶりに、綱紀は僅かに身を乗り出した。そう、弓には戸板を使うが有効よ。と、嬉しそうに頷く。馬をなんとかせねば、まわり込まれる。それだけなのだが、それが難儀でなと。
「良く、訓練されている様ですね。叡山の酒呑童子の意を受けて戦ったとか」
祥風が、言葉を選び、ゆっくりと所見を述べる。
比叡山で討たれた仲間の仇討ちを望む一派と望まない一派と二手に分かれたのかもしれないと。
「しかしそれ程の馬術、誰に師事する事も無く一夕一朝に身に付ける事は難しいでしょう。あくまで推論ですが‥‥彼等に馬術と弓術を指導した何者かが居るのでは無いでしょうか。或いは、その何者かの意に従う事を良しとせぬ一派と、そうでない側の対立とか‥‥考え過ぎですか」
「通常の犬鬼と、騎乗する犬鬼は種類が違うようなのだ。誰かの師事は、無い‥と、思いたい」
懸念は多い。それをひとつづつ解明したいと、頷いて、綱紀が嘆息する。
同じく、報告書を読み込んで来たマキリが、うーんと唸る。
「あの時高僧を探してたのは腕を治したい酒呑童子だったから、加賀の国の犬鬼一族も酒呑童子の勢力下なのかも。もし犬鬼の二部族が争ってるなら、その関係?酒呑童子にこれからも従うか、それとも加賀の犬鬼一族として独立して動いていくか、とか。まあ犬鬼に聞いてみるでもしない限り細かくは分からないけど‥‥」
「‥‥おう。そうか。その手があったか」
「え?」
「通常の犬鬼は言葉など話さぬ。しかし、黒光りする鱗を持った、騎乗する犬鬼の一部は、言葉を操る」
綱紀は、それは良いと、満面の笑顔になった。連龍は、何所と無くしょうがないなと言う顔を主に向けてから、冒険者達に頭を下げた。
近々、騎乗する犬鬼を捕らえてもらう依頼をお願いに上がるかと思いますと。
「そんな簡単で良いのっっ!!」
マキリの声が、前田家の一角に響いた。
次の足がかりが生まれた瞬間だった。
丹生<騎馬犬鬼四騎・犬鬼十体 VS 敦賀<騎馬犬鬼三騎・犬鬼十体
丹生勝利。敦賀併呑。被害差し引き<騎馬犬鬼六騎・犬鬼七体
他<未確認