加賀の犬鬼・二
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■シリーズシナリオ
担当:いずみ風花
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:8 G 65 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月09日〜03月17日
リプレイ公開日:2008年03月17日
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●オープニング
犬鬼六部族の均衡が崩れたのを、他の犬鬼達は、まだ知らなかった。ただ、冬に何を略奪しに里近くまで行ったのか、それを不思議に思うのみである。また、次に会った時に聞けば良い。それよりも、内部での頭を決めるのが先決であった。
問題は、誰が部族の頭になるのかなのだ。
六部族は、部族頭の力と、互いへの牽制で、今まで内紛らしき内紛は無かった。切り取り、搾取すべきは人の集落にあり、内部で争わなくても、十分潤ったからだ。けれども、そのおかげで、彼等は大きくなりすぎたのだ。
あらゆる欲が自分の手に転がり落ちる。
人を襲った時の取り分も増える。
どうせ、人は山まで追ってくる事などないと、鷹を括っていた事もある。
じき、雪解けだ。
雪解けになれば、真っ先に近くの集落を襲おう。
冬の間、村に近寄らなかった犬鬼の一集団が、里を目指していた。
その動きは、前田の放つ手の者により、知らされて。
「先に戦いのあった、大日山より僅かに加賀に近い、川沿いの村へと向かっているようです」
その集団は、戦いが終わったばかりの集団の近くへと向かっているのだという。けれども、目的は犬鬼同士の戦いでは無く、集落の保存食に違いないと言う。
あまりに山に近い場所なので、その村は、前もって被害を最小限にする為の小屋があるという。その小屋の周りは、見晴らしが良く、平地で、動きやすい。騎馬の犬鬼達が近付けばすぐにわかる場所に建ち、村人も犬鬼が来たとすぐにわかる場所だという。
犬鬼の来襲時には、息を潜めて、家の中の梁に登り、万が一踏み込まれても、大丈夫なような避難場を備える家ばかりだとか。
「そこで、やってくる犬鬼‥騎乗する犬鬼を捕獲して欲しいのです。捕獲し、聞けるだけの話を聞きだして下さい」
立花潮が、前田綱紀の願いを持ってやってきていた。
川向こうに、ある小さな食料小屋。川のこちら側には、十数の民家がある。
「もちろん、取りこぼせば、その集落が次の標的にされる事は間違いありません」
一体のみ捕獲、後は殲滅をと。潮は、どうぞよろしくお願いしますと、頭を下げた。
●リプレイ本文
●雪原
見渡す限りの雪原。
早めに到着したベアータ・レジーネス(eb1422)は、スコップ片手に仲間の到着を待っている。雪上を浮かんできたのは良いが、他の仲間の足跡はどうしようもない。到着した雪原に、足跡を残さないで動くのは無理に近い。けれども、ここに、食料を運び込んで、村に被害を出さないようにしている事を考えれば、多少足跡がつこうが、構わないだろう。
岩の壁を作って、防壁を作ろうと巻物を開くが、その巻物では四半時も持たない。
「うん、そこらかな」
やはり早めに到着した鳳翼狼(eb3609)は、立花潮に、あれもこれもと、手伝わせていた。やる事は多いのだから、手は多い方が良い。
「その使い方、奥村易英様を思い出しますよ」
「奥村易英?」
植物毒を何所からか用意した潮が、溜息を吐く姿に、翼狼は屈託のない笑顔をまた向ける。聞きなれない名前だ。
「はい、ご家老衆のお一人で、微笑みながら、沢山の仕事を、これでもかと下さいます」
「そんなにお願いしたかな」
「そんな所も‥」
どうやら褒められているようだ。まあいいかと、翼狼は、黙々と隠れる為の穴を掘る。穴といっても、降り積もった雪を掘れば、地面に辿り着く前に人が隠れるほどの空間が空く。掘った雪をどうするか。目立たないように、振り分ける。
「準備、痛み入ります。手伝いましょう」
神木祥風(eb1630)が、仲間達に穏やかに微笑む。祥風も、潮に酒などの囮の品を何とかならないかとギルドで掛け合っていた。すんなりと村はずれに準備が出来たのは、事前に願い出た事も大きい。必要経費は、余程のものでなければ、便宜を図るようにと言われていますからと、身銭を切ろうとする祥風は、押し留められて、それでは、遠慮なくと、また微笑んだ。
見通しの良いその場所から、村がよく見える。この作戦の成否によって、村に危険が及ぶのだろう。失敗出来ませんねと、祥風がそっと呟いた。その呟きは、仲間達全ての思いでもあった。
「遅れたか?」
「いいえ。私達が早く来たんですよ」
鮮やかな赤い髪が、墨色の雪原に揺れる。真幌葉京士郎(ea3190)が手を振れば、足元を指して、ベアータが笑う。同じように、ウィルマ・ハートマン(ea8545)も到着すると、隠れるための穴を見て、手を貸す。
「ふむ。着々とか。良い場所だ」
「あと半分ほどかな」
「そうだな。全身がそのまま入るような深いものでなくても、膝立ちか、伏せた身体が隠れる程度でいいからな」
その身につけた知識は卓抜していたが、翼狼も十分過ぎるほどの知識を有している。カムフラージュやらを手伝えば、マキリ(eb5009)が、ベアータから風はと聞かれ、ううんと、唸る。風読みは僅かにわかるが、突然変わる風向きまでは読み取れない。大体、山から吹き降ろして来るけれど、万が一を考えてねと、念を押す。
村と川の方向へと、騎馬の犬鬼対策として、縄を張る京士郎を、潮が助け。
「混乱して逃げ出そうという場合にな」
見通しの良い場所だ。罠を警戒しない相手には、単純な罠でも十分に効果があるだろうと、京士郎は四方を見渡し、そろそろ隠れようかと、各々が、穴に身を伏せる。ウィルマのボーダーコリー、ゴジョウとサクラが、纏わりつくが、主人が隠れたのを見て、寄り添うように座り込むのを、撫ぜ。
「狩りで重要なのは待つことと、機会を見逃さないことだ」
「もうじきだね」
ベアータが、呼吸感知の魔法を行使しようとするが、範囲は山まで届かず、見通しがつく範囲内だった。それならば、熱源探査の目をと思うのだが、各人が穴に潜んでしまった後だった。冒険者達が潜伏してから、どれくらい経っただろうか。森がざわつく。
何かの気配。
陽の光りを浴びながら、山から降りて来る、その気配は、間違い無く犬鬼の一団のものであった。
●犬鬼邂逅
やって来た犬鬼の集団は、騎馬犬鬼五騎、犬鬼十体。
十分引き付け、酒などで酔わせ、油断した所を攻撃する。息を潜めて、冒険者達は、その気配を感じながら、じっと穴に潜む。
捕まえて聞き出せば良い。
前田綱紀の言葉をマキリは反芻する。彼等は、本当に、この単純な事に気がつかなかったのかと。あるいは、それも冒険者を試そうという一環なのかもしれない。その真意は何所にあるのか、答えは返らないだろうと一人、思いを巡らす。
(「フン。まったく警戒もしていない。胸糞の悪い害獣どもだが‥まあ今日は、こちらが収穫をする番だな」)
矢を番える穴を巧みに作っていたウィルマは、犬鬼が十分近寄るのを待つ。
(「足を止めなくては」)
ベアータが、高速詠唱で、雷電の罠を向かってくる犬鬼の足元へと作るが、魔法を使うという事は、彼自身が淡く光りを放つという事だ。見えにくい穴に隠れていても、繰り返せば、目立ってしまう。京士郎が、自身にかけた、淡い桜色に光る魔法も、白い雪原に僅かに漏れる。
足踏みする馬上から、数体の犬鬼が、ベジータの隠れている方向を指示する声が飛ぶ。こうなっては、穴から出て、戦わなくてはならないだろう。びょう。びょうと、矢が空を描いて犬鬼の数だけ、冒険者達に襲い掛かる。
けれども、それでわかった事がある。声だ。
声を発した犬鬼を、冒険者達はしっかりと見極めた。
「存分に」
淡く笑みを浮かべた祥風の手から、聖なる結界が浮かび上がれば、犬鬼の矢は届かない。
「犬鬼風情が‥一匹たりとも逃しはせん、自らの愚かさを、地獄でたっぷり悔いるがいい!」
飛び交う矢の間から、京士郎の桜色に輝く刀身を持つ片刃反身の刀剣、桜華から、真空の刃が飛べば、威勢良く笛を鳴らしたウィルマも立ち上がり、番えた矢を放つ。その笛の音に、警戒をあらわにする犬鬼達。
「逃がさない!」
マキリの手からも、何本も矢が飛んで行く。
「ベアータ! 任せたからっ!」
歩兵の犬鬼を追う翼狼が、氷の棺で騎乗し、言葉を操る犬鬼を必ず捕らえてくれるのだと、ベアータを信じて、周囲の風景が映りこむくらい、鏡のように磨き上げられている、宝石製の盾、浄玻璃鏡の盾で矢を防ぎつつ、走って行く。手には日本刀、法城寺正弘。踏みしめる雪が、音を立てる。
騎乗する犬鬼は、ベアータの動きを止める魔法の巻物により、その動きが鈍い。かろうじて動ける者には、ウィルマの矢が襲う。すかさず、もうひとつの巻物を開いて、狙いを定めれば、氷の棺に囚われた騎乗する犬鬼が出来上がる。それを見て、逃げ出そうとする歩兵達に、京士郎の、追い討ちの刃が飛び、ウィルマや、マキリの矢が放たれ、ベアータの手から暴風が巻き起こり、馬や、歩兵の足を惑わせ。手傷を負って、逃げ足の鈍る犬鬼には、迫る翼狼の白刃が、陽を受けきらめきながら、ざっくりと入り。
聖なる結界の内から出て戦わなくてはならない者に、傷は多かったが、祥風の回復魔法が、その傷を癒した。
●犬鬼の一族
氷の棺に入った、言葉を発した犬鬼は、潮が村から調達してきた湯をかけられて、氷を溶かされた。
騎乗する犬鬼。この単語から、常に無い事態だと、ずっと思っていた祥風は、黒光りする鱗、ふてぶてしい顔の犬鬼に、問いかける。
「馬の扱い方は、誰に習ったのですか?」
「部族内だ」
あっという間に部隊を殲滅させられた犬鬼は、今までと違う、戦人だと理解したのか、しぶしぶながら片言を話し出す。にらみを利かす、ウィルマの雰囲気に僅かに肩をすくめたような素振りもある。
「馬は、どこで手に入れたの?」
翼狼も、不思議でならない。犬鬼が騎乗するなど、今まで聞いた事が無かったからだ。
「部族が育てる」
「なんで人語を話せるの?」
「変か?」
言語を操る種があると見ていいのかもしれないと、翼狼は思う。言語を操り、騎乗する犬鬼の種。何所にでも出現しているという話しは聞かないから、この加賀の国のみなのかもしれないと、言葉を話す事を不思議に思わない犬鬼に、首を傾げた。
「酒呑童子と、どういう関係?」
「たまに、使いが来る」
その内容までは、知らないようで、確たる言葉を引き出すには、その位置にいないのかもしれない。
「京都の酒呑童子に協力してた犬鬼も関係ある?」
「族長達が出向いた‥死んだようだが」
「何で、犬鬼同士、争ってたのかな?」
「争う?」
大人しく、返答していた犬鬼は、犬鬼同士争うというマキリの質問に、牙を向く。すかさず、ウィルマの蹴りが入れば、牙は治めたが、唸り声は止まらない。
「過日、大日山と赤兎山の狭間で、戦いがあったろう?」
「‥知らぬ」
犬鬼は、心底驚いているようだと、京士郎は不思議に思う。そして、何度も出てくる言葉に、気を止める。『部族』とは、どんな部族なのだろう。
「京で、族長が死んだとすれば、その跡目を巡っての争いではないのか?」
翼狼とベアータが、見たままを話し合い、ウィルマが肯定するように頷けば、顔色を無くした風情の犬鬼は、下を向いた。本当に、知らないようだ。
「‥戦い、仲間が減るのは、困る‥」
どうやら、先に出会った二つの部族は、他にもある部族を出し抜いてか、禁を破ってか、同族同士、こっそり併呑をしたようである。
「綱紀さん、聞きたい事あるんじゃないかな? 危ないかな?」
ひっそりと、周囲を警戒している潮に、翼狼が声をかければ、きっと会いたいと言い出すに決まっていますから、引っ立てる予定でしたと、潮が告げる。
同行される方は、お見えですかと、問えば、これを渡してと、ベアータが写本『オーガの生態』を潮に手渡した。綱吉は、珍しい本に喜び、価値はもっとあるだろうがと、僅かに報酬に上乗せをしたのを、ベアータは後で知る事になる。
そして、会いたいと笑う翼狼は、場内の牢に入った犬鬼の前に、瓦のような顔した綱紀と、共に立っていた。
「その、部族はどれだけある?」
六と答えが。
大野>騎馬犬鬼五騎・犬鬼十体
騎馬犬鬼一体捕獲。他、殲滅。
残、四部族。