【播磨・姫路】 圓教寺炎上

■シリーズシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:14 G 1 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月15日〜06月26日

リプレイ公開日:2008年06月24日

●オープニング

 播州姫路。
 都の西に位置する播州・姫路藩。街道・山陽道と播磨灘を用いた海路を有したそこは、西方への交通要所でもある。
 交通機関を上手く組み込んだ都市作りに、白漆喰の優美な白鷺城。
 都より離れた地ゆえに田舎扱いされるが、都の西方の守りも兼ねる重要な場所でもある。

 五年前、当時の藩主に次々と不幸が起こり、一族が絶える事件が起きた。
 しかし、それは藩主の座を求めた当時の家老の企み。
 元家老の目を掠めて生き延びていた藩主の直系・池多白妙が冒険者たちと共に藩主の座を取り返し、家老を捕らえたのが三年前。
 その後、白妙姫が正式に姫路藩藩主となったが、跡継ぎ問題から婿を取り、名を改めて藩主を交代。
 今はその夫、池田輝政が藩主となっている。


「圓教寺で‥‥大火だと!!」
 その輝政の耳に、異変が届いたのは夜も更けた頃だった。
 知らせを届けた侍は、息を整える間も無く、頭を垂れて報告する。
「はい! 未明に不審火があり、これが瞬く間に広がり‥‥、幸い今は鎮火しておりますが、圓教寺内では多数の死傷者が出ている模様で‥‥、それで‥‥その‥‥」
「何だ! 早く申せ」
 歯切れの悪い部下に、輝政が急かす。
「はっ。実は‥‥、大火の起こる前に、城の天守閣より白銀の五つ尾をたなびかせた光が空をよぎるのを見たと言う者が複数おります」
「!」
 言いにくい事をどう伝えるべきか。思案しながら部下は告げる。
 だが、どんなに言葉を選ぼうとも、輝政を驚かせるには十分。
「その光が圓教寺に落ち、その後に火が出たという話です。実際、何が起きたかは圓教寺と今だ連絡がつきませぬ故、仔細は分かりませぬ。しかし、見ていた者の間から、あれは長壁姫の仕業であり城が寺の焼き払いを命じたのだとの声が上がっております」
 輝政は頭を振る。
 そんな与太話が広がらぬように動いているらしいが、寺が燃えたとあれば人々の関心も高い。まして、延暦寺に絡む京への出兵で寺と城との不仲も囁かれている最中。どうあっても話は漏れるだろう。
 長壁姫は、白鷺城の天守閣に住む妖怪。藩主の前にしか現れず、悪政を布けばたちまち祟る‥‥と言われている。
 事実は一般には分からない。藩主の前にしか現れぬのであれば確認しようがないし、そもそも天守閣に入れもしない。
 実しやかに人の口に上がりはするが、それを信じる者も少ないのではなかろうか。
 が、この場合妖怪云々はどうでもいい。
 問題なのは、何らかの手段を用いて城が寺を攻撃した、という見られる事だ。
 勿論、輝政はそんな命は出していないし、城内も寝耳に水の騒ぎに驚いている。
「確かに、我らは尾張平織臣下の身として、平織さまの要請を受けて兵を出し、圓教寺は総本山を助けようとして動いていた。京で我らは争ったが、それは双方の立場上仕方が無い。
 虎長様とて延暦寺を討つと申したが、天台宗や仏教全てを潰すとまでは言っていない。それにどうやら藤豊殿が間に入り、和平を為された様子。ならばこそここでかの地のいざこざを持ち込まむ訳にはいかない」
 輝政には圓教寺を撃つ気はさらさら無い。近年の動乱と藩主交代劇で浮ついた情勢をやっと鎮めた所なのだ。無用な騒ぎは御免被りたいのは誰も同じ。
「京に派遣した兵を直ちに呼び戻せ。それと、京都の冒険者ギルドで冒険者を連れて参れ。圓教寺に事情を尋ねに行ってもらいたい」
「‥‥冒険者に行かせるのですか?」
 告げる輝政に、部下は目を丸くする。
「京の件に加えて今回の事態。勿論、圓教寺にはきちんと釈明するが、その前に事情を把握しておかねばならぬ。それには警戒されやすい我らより都の第三者が動く方がよいだろう」
 嘆息する輝政に、気遣う表情だけを見せ、部下はただちに京へと馬を走らせる。

 客観的にはどうにも分が悪い。真偽はともかく、城からの異変が寺を焼いたようにしか見えない。
 苦悩の表情を浮かべたまま輝政は、天守閣に登る。狭く小さな室内、藩を遠く見渡せるそこには彼一人しかいない。
「殿」
「奥か。入ってまいれ」
 声をかけたのは先代藩主でもある白妙。許され姿を見せるも、その表情は浮かない。
「圓教寺の件は聞いたか」
「はい。‥‥それで姫は?」
「見ての通り。居られぬのか、隠れておるのか」
 深く息を吐く輝政。
 いると言う事実を彼らは知っている。特に白妙は先の家老討伐で世話になった。
 対外的に秘匿しているのは、妖怪が巣食うのは外聞が悪いのと、長壁自身が他者との接触を好まぬ為。
 それがこうも派手に動いたのはどうにも解せぬ。なので事情を尋ねにきたものの、当の妖怪は姿を見せない。
「こうなれば、やむを得まい。冒険者にも長壁姫の事は話そうと思う。その上で、何があったのか探ってもらわねばこちらの振る舞いに関わる」
 輝政の言葉に、白妙も頷く。
「長壁姫は姫路一円の妖怪を取り仕切る。面倒にならねばよいが‥‥」
 憂う輝政。笑い飛ばすには懸念事項が多かった。


 圓教寺にて大火。死傷者多数。
 その報告を受けたのは、何も姫路城の者だけではない。京都に援軍として駆けつけていた僧兵たちもまた、圓教寺からの使者で事態を知った。
「それも、城から攻撃を受けただと!! 魔王に従い、道理を失ったか!!」
 一端戦は収束したとはいえ、仏敵・虎長は健在。対し、天台座主を失った延暦寺は今だ混乱している。
 上京に当たり、ついてきた信徒たちの世話や街の復興に手を貸すのも当然で、京でやるべき事は山積している。
 しかし、自身の寺が攻撃されたとなれば黙っていられない。
 詳細を問いただすも、使者もそこまでは詳しくないという。
「何分、夜の出来事。火の始末や怪我人の救出に忙しく、私が寺を出る時もまだ混乱しておりました。小耳に挟んだ話によれば、火災と同時に激しい戦闘があり、鬼か獣が暴れるのを見たという者もおりますが、それも妄言か否か定かでありません。私はとにかく皆様に一刻も早く戻られるようにと伝えに参った次第」
 不安げな顔は、使者もまた寺を案じている。
「とにかく、一度姫路に戻るぞ。まこと城が我が寺までも駆逐しようというならば許しては置けぬ!!」
 苛立ちと怒りも露に圓教寺の僧兵たちが動き出す。
 復興支援の人手は残し、圓教寺の僧兵たちもまた姫路への帰路についていた。

●今回の参加者

 ea0020 月詠 葵(21歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3891 山本 建一(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3988 木賊 真崎(37歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5480 水葉 さくら(25歳・♀・神聖騎士・人間・ジャパン)
 eb5009 マキリ(23歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)

●リプレイ本文

 京より西に向かう街道。その入り口にあるのが播磨の国。
 陸路・海路共に併せ持つ姫路藩は、その利点を生かした都市作りがされており、象徴たる白鷺城が高山から城下を見守る。
 それでも、都から遠い田舎風情の処は否めなく。どことなく牧歌的な雰囲気も漂わせる。
「圓教寺の僧侶たちにも連絡は行ったみたいですね。道中、変に鉢合わせしなくて良かったですけど」
 月詠葵(ea0020)はほっと胸を撫で下ろす。
 京都では延暦寺と都との騒乱が勃発したばかり。
 姫路藩は都側・平織に兵を出し、藩内にある天台宗の寺院・圓教寺では延暦寺側に僧兵を派遣していた。
 一応乱は収まったが、確執はまだまだ残っている。
 その影響が、遠く離れたここ姫路藩内でも起こるようなら、こちらの行動にも支障が出る恐れは十分にあった。
「京都も全然落ち着いたなんて言えない状況なのに、こっちもこっちでお寺絡みの騒乱‥‥どうなってんだろうね」
 始める前から疲れたように、肩を落とすマキリ(eb5009)。
「で、でも‥‥。京都の乱、とは少し事情が、ち、違います。お城は、寺と争うつもりは、な、無いんですから」
 水葉さくら(ea5480)は、言葉を痞えさせながら、首を傾げる。
 圓教寺の火災の前に見られた謎の光。城から伸びたと言うその輝きが詰る所の原因だろうが、城側にはその心当たりは無い。
 いや、無い事も無い。だが、それは本来城とは無関係の事柄だ。
「長壁姫か‥‥。白鷺城の天守閣に住む存在。姫君とも老婆とも伝えられるが、そんな伝説に触れられる機会が訪れようとは。もっとも、喜んでいる場合でも無いが」
 興味深い事柄に、心が疼く木賊真崎(ea3988)だが、それをただ探求していく訳にもいかない現状。
 それに今の状況、もし聞いた事柄が推測通りなら、やはりその長壁姫とやらが元凶となる。が、それは何となく不愉快であった。
「まぁ、ひとまずは圓教寺の周りからですね。状況的には藩主が不利ですし、変に刺激しない為にも依頼主である事は秘匿しておくべきですか」
「それと、一応京での振舞いかなぁ‥‥。天台宗と争ってたとなるとさすがにいい顔されないからね」
 山本建一(ea3891)の言葉から、マキリはさらに頭を抱える。
「なるべく正直に行きたい所ですが、ま、それは状況次第ですしね。僕らが火種を作る訳にはいきません」
 やや納得いかぬ気配を見せるが、葵も同意は示す。
「なら俺は遠慮しておいた方がいいな。平織家の方針に興味は無いが、志士の身。変な誤解をされても困る」
「そこまで気にしなくてもいいのでは‥‥。もちろん魔法を使えばばれるでしょうし、そうなるとその懸念もあながちではありますが」
 同じ志士の身。首を傾げる建一に、真崎は静かに微笑する。
「かもしれない。だが、光とやらが気になるし、魔法で少々調べたい事がある。別方向からそちらを追ってみるとしよう」
 言うが早いか。真崎は韋駄天の草履を履くと城に向かう。
 残る四名は、見送るのもそこそこ。問題の圓教寺へと向かった。


 書写山。
 何時来ても僧侶が書を書き写しているとの逸話が、この山の名になったという。
 それほど圓教寺の僧侶たちは修行熱心という話でもあるのだろうが、しかし、今はそれ所でない。
「おのれ、姫路藩主め! 魔王に従い、延暦寺に飽き足らず我が寺まで燃やそうとは!! いますぐ仏罰を知らしめてくる!!」
「やめろ、鬼若! 今はそれ所では無いだろう!!」
 僧侶とはいえまだ人の身。見た目も若いのでまだ修行僧だろうか。寺の様子に暴れる大柄な僧兵を、周囲の者が必死でとどめていた。
「申し訳ない。まだまだ修行が足らぬようです」
「いえ、こちらこそ。大変な時にお邪魔しました」
 案内に出た僧侶がすまなそうにするのを、葵は丁寧に頭を下げる。
 山一つが寺となる圓教寺。応対に出てくれたここからでは被害の程は見えないが、風に乗って煙臭さがふと鼻につく。
 京に出た一団も丁度帰ってきた所のようで、彼らもまた現状把握に忙しい。中には、先の僧兵のように怒り狂う者もおり、境内は雑然とした騒がしさがあった。
「あの、まだ落ち着いてない時に恐縮なんですが‥‥、出火時に、せ、戦闘が行われた、との噂を耳にしましたので‥‥その事実確認を、行いたいのです、けど」
「何故そのような事を?」
 さくらの申し出に、いささか目を丸くする僧侶。
「京都の騒乱はこちらにも伝わってますよね? それと同じ事が起こるのかと姫路の方が不安に思っていらっしゃるんです」
 マキリが用意しておいた言葉をすらすらと告げれば、相手は疑うでもなく、ただ困った顔をした。
「そういう者もおりますが‥‥。しかし、今は深手を負った者も多く、その手当てで話どころでは無いのです」
「いいえ、それは事実です。私ははっきり見ました。火の海の中、暴れまわる五つの尾を持った獣が仲間たちを虐げるのを」
「円戒」
 横合いから口を挟んできた利発そうな僧侶。やはり年若で修行僧と思われる。
 その後ろには似たような感じの僧侶が数名並ぶ。
 いずれも火傷の跡が見られる事から彼らもまた被害者なのだろう。
 目の前の僧侶は窘めたが、その僧侶にさらに円戒は声を荒げる。
「隠した所でいずれ判明します! この火事で、多くの仲間が命を失いました! 延照さまも心を痛めて伏せられてしまっております! それというのもあの獣が諸悪の原因で放たれた場所は分かっているのです! 忌々しいが鬼若の言葉も今はもっともでは‥‥」
「円戒!! 客人たちの前で非礼が過ぎるぞ!!」
 恫喝され、円戒たちが身を縮ませる。
 礼を取って身を退いたが、誰もが不服げな態度はありありとしていた。
「本当に申し訳ない。騒々しいばかりでお恥ずかしゅうございます」
「気にしないで。それより、ずいぶん被害が大きかったようだけど、一体、火事はどこで?」
 ますます気になったマキリ。僧侶は悲しげに顔を伏せる。
「本堂とその傍にある二つの堂が焼け落ちたのです。その内の一つの堂は、修行僧の寝泊りに使っており、夜遅かった事もあって、かなりの者が逃げ遅れてしまいました」
「火の気の無い場所だったのですか?」
 僧侶の気落ち振りは、鈍感な者でも分かる程。
 悪いと思いつつも、葵は言葉を続ける。
 僧侶は抗う気力も無いようで、すんなりと答えていった。
「このような場所ですし、火の取り扱いは十二分に行ってきました。ですが御覧の通り、まだまだ未熟な者も多く‥‥。隠れて何かしていたのだろうというのが当初の見解でした」
「当初の」
 聞きとがめた建一が繰り返すのを、僧侶は静かに頷く。
「生き残った修行僧の中に、先の円戒のように獣を見た、鬼を見たと言う者がいるのです。それが火を放ったと。ただ、現場の混乱から何かを見間違えた可能性もまたございますが」
「そ、その‥‥。鬼とか妖怪とかが暴れるというのは、よくある事、なのですか?」
 おずおずとさくらが尋ねると、滅相も無いと僧侶が目を剥く。
「仏の加護を受けしこの地に妖怪などありえません! 数年前、悪行を為した家老が藩主に治まっていた時、治安の乱れからか妖怪が跋扈していましたが、その時でも山に入り込まれるなどございませんでした!」
(「当時、悪家老に長壁姫も捕まってて、そのせいで妖怪側も規律が乱れてたらしいです。だから、妖怪が跋扈していたのは本当です」)
 力説する僧侶に、葵が藩主から聞いていた情報をこっそりと付け足す。
 その後、長壁姫の復活で妖怪側も大人しくなったが、人と仲がいいかは少々疑問。どちらかといえば、関わらぬように身を潜めているらしい。
「そ、そうなんですか。でもそれが現れたって事は、何か、狙いが?」
「分かりません。そもそも見間違いでしょう」
「何かが無くなっているとか」
「特には。もちろん、堂にあった物は失われてしまいましたが」
 僧侶は静かに首を横に振る。
「現場を見せてもらってもいいかな? それと、出来れば他の僧たちからも話を聞きたいんだけど」
 マキリの言葉に少し迷った後、僧侶は首を横に振る。
「お望みでしたら、焼け跡には御案内いたしましょう。あまりお見せするものでもありませんし、焼き落ちてますがまだ危険ですので御注意を。ただ僧侶たちの話は出来れば御遠慮願いますか? 今回の事で気落ちされたのか、住職の延照さまもお倒れになってしまい、こちらとしてもまだいろいろ混乱しております。負傷した僧侶たちも癒さねばなりませんし、やる事が山積している状態なのです」
 はぁ、と憂いの顔で僧侶は息を吐く。
 その上で妖怪だ、襲撃だと騒ぎもあるのだ。疲労の色が濃いのも分かる気がした。


 城の木々から始めて城外へ。
 真崎が向かう方角は、やはり書写山圓教寺。
「夜遅くに空を過ぎった鳥ではない存在」
「虫」
「向かった方角は?」
「月がある方」
 聞き込み対象はグリーンワードを使って植物から。
 ただ、植物の知性は高くない。うっかりすると、一月以上前でも最近の事のように話してきたりするので、その見極めもまた大切。
 とはいえ、複数から聞き込んでいけば、大体の話は見えてくる。
「‥‥やはり、城から光が飛んだのは事実みたいだな」
 優美な白鷺城の天守閣。何があったかしらないが、そこから圓教寺に光が向かった話は間違いないようだ。
「お前、長壁姫を調べているのか?」
 その時、不意に声をかけられる。振り返れば、何やら美女がこちらを窺がっていた。
「何者だ?」
「とすれば、やはり姫はまた不在‥‥。噂は本当って事か」
 とっさに構える真崎だが、相手は意にも介さず考え込んでいる。
「まぁいい。こういうのを人間たちは、鬼の居ぬ間って言うんだろ。今の内に羽を伸ばさせてもらうよ」
 言うが早いか。女の姿が消え、着ていた着物だけがはらりと地面に落ちた。
 いや、そうではない。
 着物の下から黒い大きな蝶がひらりと空に舞う。飛ぶ内に何処かからまた蝶が現れ、群れとなってどこかに行ってしまった。
 着物を拾ったが、何も無い。
 あっけに取られていると、今度は別方向でがさりと草を踏む音。
 見れば、狐が鋭い視線でこちらを見ている。
「何なんだ、一体」
 真崎が肩を竦めると、狐は身を退きどこかへ行ってしまった。


 白鷺城内。密かに報告に戻った冒険者たちと、輝政が謁見する。
「そうか、やはり長壁姫が動いた可能性が高いか」
「植物の話から光が飛んだのは確かだろう。だが、植物たちでは光の正体まではよく分からないようだ」
 肩を落とす輝政に、むしろすまなさそうに真崎が報告する。
「けれど、圓教寺内部で何があったかはよく分からないですね。出火元の堂は完全に焼け落ちてしまってますし、今は僧侶たちからも話を聞きづらい状況です」
 建一が目を伏せる。
 火事現場を見せてもらったが、炭化した骨組みが崩れているのみで、元の堂の形すら分からない。出火の大きさから、周りに燃え広がる前に壊したのだろう。
 中にいた者もほとんどが炭化してしまったらしく、火事の凄まじさだけは伝わってきた。
「内部で暴れていたと話も聞きますが、その確認を取るにはもう少し落ちついてからが」
「いや、それで姫が暴れたという事になっては、城が圓教寺に送り込んだとされてしまうやもしれぬ。勿論、真相は突き止めたいが、その前に圓教寺に見舞いを渡し、こちらに含む所が無いと知らしめてからだ」
 ありがとう、と礼を述べた輝政だったが、すぐにその顔が曇る。
「しかし、長壁姫の行動が解せない。いまだお戻りにならず、どこで何をしているのか」
「光の正体が長壁姫として‥‥自ら人の世に関わらざるを得ない理由があるとの事だろうか」
 首を傾げる真崎に、輝政の方はますます頭を抱えている。
「分からぬ。あの姫は派手な騒動は好まぬ。此度のように人の目を引く真似はやはり解せぬ。
 それに妖怪の動向も気になる。木賊殿が会うた美女は恐らく毒蝶の変化、蝶化身。さほど強くも無いが、群れて行動して毒を撒く、いささかやっかいな妖怪。姫の使い走りにされていたそうだが、自由に遊ばれては面倒な相手だ」
 ふぅ、と輝政が嘆息する。
「恐らく姫不在の影響は他にも出ているのだろう。為政者として、物の怪どもの動きも見張らねばならぬ」
 圓教寺の動きも合わさったやるべき事が多くなる。他にも出兵の後始末もあるだろうし、体を壊さぬかが心配だ。
「あの、仮に長壁姫が本当に圓教寺で暴れたのだとして‥‥。また戦になるのかな。実際、城に対して猛烈に抗議していた僧はいたし」
 恐る恐る尋ねるマキリを、輝政が鋭く睨む
「そのような事はさせん。武人なれば乱を起こす事もまたあるだろうが、理由無き戦など言語道断。そうならぬ為にも、また御主達に動いてもらわねばならぬかもしれぬ」
 その時はまたよろしく頼む。
 そう言って、藩主は冒険者たちに頭を下げた。