【播磨・姫路】 敵の敵
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■シリーズシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:18 G 46 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月28日〜12月10日
リプレイ公開日:2008年12月06日
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●オープニング
比叡山延暦寺と都の交戦に、派兵した姫路藩主と圓教寺。
ささやかな因縁を決定付けるかのように、城からの光が圓教寺を焼き、多数の僧侶を失った。
身に覚えの無い藩主・池田輝政は冒険者に調査を依頼。
肝心の藩主は夫婦共々に呪詛に倒れ、寝付く日々。それは圓教寺住職・延照も同じだった。
市井に現れた姫路の大妖・長壁姫は市民を扇動。しかし、その後見付かった衰弱した姿で長壁姫は、市井を現れた彼女とは別の存在と分かる。
跳梁する魑魅魍魎。協調を見せぬ圓教寺。不和による政治不信から暴走を始めた市民。
幾年ぶりに姿を見せた聖・性空は封じられていた羅刹天の存在を示唆する。
その間にも事態は変化し、出雲より出でて数多の国を死に飲み込んできた黄泉人は播磨にも本腰を入れてきたようで、まとまった兵力を送り込んできた。
「幸い、此度は冒険者たちの助けもあって退けられましたが‥‥」
部下からの報告を寝所に伏したまま、輝政は聞いた。
そして、闇の中でも。似たような報告を受ける者がいる。
「昨今の動向からしても、黄泉人どもがそう簡単に退くとは思えませぬ」
いかがしますか?
問い質すと、しばらくの沈黙。
「そうだなぁ‥‥」
やがて開かれた声は低い嘲笑を含んでいた。
●
播磨の国は幾つかの藩に分かれている。その中心となるのが姫路藩である。
とはいえ、その他の藩も過去に姫路に仕え功を認められ土地を与えられたり、あるいは国司やその他の権力者の縁者が分けてもらった経緯がある。前者は元々姫路との繋がりが深く、後者はまともな戦力を持たぬ故に、有事の際に姫路中心に結束するのは至極当然の流れであり、そう呼びかける事も簡単であった。
が、問題はその姫路の屋台骨が揺らいでいる。
藩主は臥せているし、寺社とは反目している。民は反乱し年貢の取立ても無い。長引くなら兵糧にも支障が出る。跋扈する妖怪の動きも警戒せねばならない。
「‥‥どうするべきか」
「助けてやろうか?」
悩む藩主にかけられたのは女の声。はっとして目を向けると、何時の間に入りこんだか、目を瞠る美女がそこにいた。
その顔は、藩主も覚えがあった。
「長壁姫‥‥ではないな。偽の姫! 事の元凶か!!」
輝政が吼えるや、衾が音を立てて開かれる。
現れたのは控えていた藩士たち。遠方から放つオーラショットは、しかし、打たれても相手は平然としている。
その隙にも、輝政が傍らの刀を抜き放ち、偽姫に斬りかかる。
偽姫はあっさりと躱し、輝政を蹴りつけた。弾みで落ちた刀を器用に足で拾い上げ、輝政の喉元に突きつける。
「動くんじゃねぇ!! こいつの命を取るぞ!」
姫が放った声は男声だった。楚々とした表情も消し飛び、歪んだ愉悦を浮かべている。
「死に損ないでやるじゃねぇか。結構結構。だが、落ち着けよ。今日は話に来たんだぜ?」
「話だと」
藩士たちは動けない。刀を突きつけられたまま、それでも矜持は捨てぬと輝政は偽姫を睨む。
「ああ。北から黄泉人が来てるだろ? あいつらにのさばられるのは俺もあんましおもしろくねぇんだよ。だから、てめぇらは城の兵を出す。俺はそこいらの雑兵と妖怪どもを動かす。それで黄泉人を一緒に撃つってのはどうだ?」
「雑兵?」
「城の周りでしょぼくれてた奴らさ。見かねて喝入れてやったけどな」
眉を顰める輝政に、偽姫は鼻で笑う。
「――民を扇動し混乱させた上に、戦にまで担ぎ出す気か!! それは許さんぞ!!」
「てめぇの命ぐらいてめぇで守れねぇでどうする! 犬みてぇに飼い慣らしてんじゃねぇよ! 反吐が出らぁ!」
激怒する輝政。偽姫はからからと笑う。
「それに許す許さねぇじゃねぇよ。手を組む気がねぇならこっちはこっちでやるだけだ」
鼻で笑う偽姫に、輝政は歯噛みする。
「要望を飲まなければ、そっちもわしと黄泉人両方を相手にせねばならんのではないか?」
「だな。まぁ、そうなると状況からして俺らとお前らが争ってくたばる頃に、死人憑きらが漁夫の利かっさらっていくだろうぜ」
それが何でもないとばかりに、偽姫は笑う。
確かに。黄泉人に押し寄せられながら、内部を偽姫に食い荒らされるのは苦しい。どちらかの対処を優先すれば、もう一方が勝利する。二勢力を一度に相手するには不利だ。
「それに勘違いして欲しくねぇのは。黄泉人を倒したら次はお前らだ。まぁ順序付けようってだけだな」
「つまり‥‥共通の敵を撃つまでの一時的な休戦、と言うわけか」
輝政が問うと、艶然と偽姫は頷く。
「‥‥‥‥仮にだ。仮に、要望を飲むとして、その際はこちらの条件も飲んでもらいたい」
「ほぉ?」
おもしろそうに、偽姫の眉が片方跳ね上がる。
「民を戦に駆り出すのはやめてくれ。そして、我が身にかかる呪詛は貴様の仕業だろう? 私はいい。だが、奥と‥‥圓教寺の延照殿は解放して欲しい」
苦々しく、輝政は声を搾り出す。対する偽姫はあっさりとしていた。
「悪いな。てめぇらにできるのはこっちを受け入れるか否か。そもそも聞けねぇ話ってのがあるのは、てめぇも同じだろう? 大体、一緒に遊びましょって誘うだけでも俺的大譲歩なんだぜ? なんだったら、てめぇの体乗っ取ってこいつら指図すりゃいいだけなんだし」
そこまで言って、はっと偽姫が顔を上げる。
「そうか。その手もあったか」
「ふざけるな! 下衆が!!」
話してる間にも、足音立てずに間合いを詰めていた藩士たちが一斉に動いた。
輝政に突きつけられていた刀が迅速に動くと、偽姫に向かっていた刀を受け止める。
そして、
「――消えた!?」
受け止められた衝撃を残したまま、偽姫の姿が忽然と掻き消える。
慌てた藩士が周囲を見渡すと同時、その首が裂けた。
「な!!」
驚愕も短く。吹き出た血飛沫が部屋を染める間にも次々と藩士たちが斬り裂かれていく。
「はっはっは! そういう簡単な手段は最後にとっといてやるさ!!」
姿を見せぬまま、偽姫の笑いが部屋に響く。
「共にやってく覚悟が決まったら‥‥そうだな、天守閣から黄色い褌でもばーっと掲げてくれや。それを合図と見てやるよ」
目を凝らせば、宙に不自然に浮かぶ血の跡。そこ目掛けて、刀を振るうも届く前にそれすらも消失した。
緊張して身構え、四方に視線を巡らす。だが、やがて何の気配もないと悟り、緊張を解いた。
「殿、お怪我は」
「無い。‥‥だが、この者たちは丁重に弔ってくれ」
慌しい城内。倒れて動かなくなった藩士が運ばれ、輝政も部屋を移される。
「‥‥不躾ながら。あの偽姫の申し出、殿はいかがいたすおつもりで?」
憔悴した顔にさらに疲労重く。部下からの問いかけに、輝政は目を閉じる。
そして、白鷺城に冒険者が呼び出される。
曰く、この事態に対し、どう動くべきか。意見を求めたいと。
●リプレイ本文
偽姫からの突然の申し入れ。
新たに現れた脅威・黄泉人に対し、互いに争わうのを止め、手を取って奴らを撃とうと――。
これに対し、どう答えるべきか。姫路藩主・池田輝政は冒険者たちを呼び、意見を求めた。
「‥‥この申し出、受けるべきだと思います」
冒険者たちの意見は一致していた。
それが事態の好転や将来の希望、喜ぶべき事態などではなく、むしろ苦渋の決断で出来れば避けたいという所までも。
「やはり‥‥そう思われるか」
各自の表情を見取り、腹を悟った輝政も唇を噛み締める。
病床についたまま起き上がれぬ輝政の周囲からも、言葉は無く深刻な気配が漂っている。
「うん、まぁ。乗り気じゃないよ。でも、現状乗らざるをえないかなぁ‥‥」
声の覇気は失ってないものの、マキリ(eb5009)の言葉にも迷いが出る。
「三つ巴の乱戦は誰の益にも無いからな。それに、手を組む意義がない訳でもない。偽姫と接する機会が増える分、近くで監視でき‥‥隙あれば」
――命を取れる。
物部義護(ea1966)の言わんとする事を察し、はっと傍で聞いていた家臣たちが顔を上げる。それに頷いた後に、義護はおどけて肩を竦める。
「この間までいがみ合っていた者同士。共同戦線張りましょーそうしましょー、といきなり仲良く轡並べられるとも思えんしなぁ。結局は三つ巴の乱戦になるのを防ぐ為の一時休戦に落ち着くだろう。そうすれば、以降機会も見出せるだろうさ。‥‥もっとも、向こうもそれを警戒するだろうし、同じ事を考えている可能性もあるだろうがな」
「表向きは黄泉人の勢力拡大が面白くないと言う事ですが、それとは別にこの状況を利用しようという考えもあるのでしょうね‥‥」
神木祥風(eb1630)も顔を顰めて、思案する。
いきなり共闘を申し出てきた偽姫の腹も読めない。向こうとて当然何か別に考えているのだろう。
(「全面的な信用はできませんよねぇ‥‥」)
そっと山本建一(ea3891)も目立たぬように嘆息する。
「まぁ、当面‥‥手を組んでいる間ぐらいは輝政様のお命を狙う事は無いんじゃないでしょうか。偽姫は城の戦力を使いたいようですが、もし輝政様が今お亡くなりになれば、城の援軍が得られないのは分かりきってますし」
月詠葵(ea0020)に、当然だ、と家臣達がやはり大きく頷いている。
「確かに闇討ちはそう易々と問屋も卸してくれないでしょう。けど、お話を覗う限り、どうも奴には軽佻浮薄の気がある感じがします。こういう輩は調子に乗るとポロッと重要な事を漏らしたりします。それだけでも、近くに置く意味はあるかと」
半ば呆れるように葵が告げる。
「実際問題、ここで否と言える余裕が無いのが藩の実情でしょう。断れば、偽姫は民を使って城に攻めかからないとも限りません。今は耐えて、その上で逆転の機会を待つのがよろしいでしょう」
民が攻めてきても早々落ちる城ではない。が、民無き主に何の意味が生まれようか。
ゼルス・ウィンディ(ea1661)に、姫路藩の者たちは一様に顔を強張らせながらも決意を固める。
「‥‥ただ。闇雲に手を結ぶだけも何ですよね。妖怪と手を組んだとあれば、外聞も気になります。ここは敢えて担当区域を決めた不戦協定である方がいいでしょう」
「しかし、それでは民が危険にさらされぬだろうか」
ゼルスの申し出に、輝政が顔を曇らせる。
「そうさせない為の監視とかは別途必要かもだけど。でも、今はあくまで外面の話。妖怪と一藩が通じてるなんて事実は痛手だし、向こうもそれを利用するかもしれない」
マキリの危惧も外れてはいない。
妖怪を戦力として使う。その発想自体は割とよく考えられる。冒険者とて連れ歩く者は少なくない。
だが、実際に連れ歩けばどうなるのかも、それ故に分かっている。
妖怪といる事が即醜聞となる訳でもないが、情勢に左右される。そして姫路藩の事情を思えば‥‥やはり良くは思われないだろう。
「国内の他藩についてや寺に対しての言い訳は必要になろう。出雲勢とぶつかる前に、人間勢が分解されかねないというのはある。向こうもこちらも余力が無いのなら、敢えて一時休戦し、共通の敵を叩いた後に返す刀で疲弊した残余を処すると伝えておいた方がよろしかろう」
義護の提案に分かったと頷きつつも、他藩にはさほどの説明はいらぬと告げる。
「そもがこの藩より分かれた小藩。我らの取り決めに否を告げる者は多くない。‥‥しかし、問題は確かに寺だな」
圓教寺との関係は修繕される兆し無し。おかげで他の寺院からもやや冷ややかに見られている。
対立宗派や、黄泉人の侵攻による危惧などから協力してくれる寺社もあるが、彼らにとて妖怪に関しては賛否出よう。
「ひとまず圓教寺には話を通しておいた方が宜しいかと。確執もあるでしょうが、いざとなれば彼らの手を借りれるかは大きな違いになるのでは?」
「じゃあ、お寺の様子を見ておきたいので、ついで、というのも悪いけど伝えてくるよ」
祥風が告げると、葵が動き出す。
他の冒険者たちも各々の活動を開始しだした。
●
ゼルスと義護は性空上人に会うべく、以前ゼルスが偽姫と対面した山まで赴こうとした。
が、実際はそこに行くまでも無く、向こうから接触を取ってきた。
笠を深く被った白狼天狗に導かれるまま進んでいけば、やがてちょこんと座した老僧と出会う。
「城で変異があったようだな。‥‥何があった?」
詰問する白狼天狗。元より隠すつもり無く、委細を性空に話す。
「この協力に対して、寺は異を唱える可能性が高いと考えます。そこで、性空さまに僧たちの説得を協力して欲しいのです。彼らとて、僧として修業を積んだ身。神の使いを見分ける術も持ちえましょう。普賢菩薩さまのお言葉なら、耳を傾けてくれるはずだと思うのです」
ゼルスが頭を下げるが、性空の反応は鈍い。
「彼らが考え決を出したなら、わしの出る幕では無かろう。彼らとて菩提心を持つなら、自ずと知れよう」
言って、性空は目を落す。
「従わせるは容易い。じゃが、我らの言葉に頼るばかりでは意味が無い。自ら悟らねば、それもまた堕落に通じよう」
告げながらも、性空の表情は苦悩している。だが、迷う素振りは見せていても、承諾はしてくれそうに無い。そうある事に申し訳無さそうにしているだけだ。
それを見て取り、ゼルスは一つ息を落す。
「では‥‥質問があるのですが。名に『天』と付くからには羅刹天は北天を守護する毘沙門天の眷属ではないのですか?」
羅刹天は夜叉天と共に毘沙門天に仕えるとされている。
「帰依する前に戻ったのか、はたまた名が同じ別物なのか。それともこれから帰依させる御積りなのか」
だが、これに対して性空は気難しく首を傾げる。
「わしは普賢菩薩と呼ばれるが、同じくこの名を冠する者は他にもおる。奴らとて、それは同じだろう。また、長き年月の内に人の作った伝承も紛れ込み、実際の所どうなのかは奴に聞く以外あるまいて。だが、奴がどうあれ帰依させるという心根は勿論変わらぬぞ」
決意も固い表情で、性空は告げるが、途端に傍らの従者二人ががくっと膝をついた。
「‥‥何度も申し上げますが。それは不可能と考えます。虎に菜食を覚えさせるようなものでしょう」
「これに関しては乙丸の言う通り。それならば、寺院の僧侶たちに言葉を向けるべきでありましょう」
上人は、お言葉をかける相手を間違われておられる。
そう嘆く二人に、性空は構わず笑みを向けるばかり。
●
その圓教寺に赴いた葵と建一だったが、やはり反応は辛いものだった。
圓教寺炎上に関する誤解もやはり妖怪と手を組む為の策略だったかと騒ぎだす。そんな僧侶たちを、二人で何とか宥める。
「此度の事態は城とて不本意なもの。冷静に判断するよう、よろしくお願いします」
建一が頭を下げるも、僧侶たちの息は荒い。建前上は大人しくしているが、内心の不満が目に見えるようだ。
それをどう対処するかは、結局寺に任せるしかないのだろうか。
何か手が必要なら申し出た葵たちも断り、上僧たちが話し合いで奥に篭る。
帰る途中に、葵は境内を周り、巨大な岩二つ持ち上げお手玉をしている鬼若を見つける。
「前に頼んだお寺の内部の異変とか、円戒さんの様子など‥‥変わった事は無いでしょうか?」
周囲に誰もいないのを確かめると、葵が恐る恐ると尋ねる。
「いいや、相変わらず先輩方は頭が固く、円戒は嫌味で融通が利かなくて手下連れて威張ってばかりだ。まったく、嘆かわしい」
腹立ち紛れに鬼若が傍の灯篭を殴りつける。あっけなく壊れたそれを、葵は頭を抱える。
「鬼若さんって圓教寺内で空回りしてるっぽいですけど、愚痴とかがあれば聞きますよ」
「空回りとは何だ。周りの奴らが唐変木で着いて来れないだけだ」
「いえ‥‥それを普通に空回りというのですが‥‥」
遠慮がちに告げてみるが、鬼若が聞いた様子は無い。こっそりと葵は頭を抱える。
「それじゃあ、今日はこのくらいで。あんま危険なことはしちゃ駄目だよ?」
「おうよ。あんたも気をつけろよ」
葵が声をかけると、鬼若はまた修行に戻っていた。
それを見て帰ろうとした葵だったが、
(「あれは?」)
さっと姿を隠す僧侶を見かける。何となく円戒の傍で見たような面だったような。
この距離なら話も聞かれてはいない。素知らぬふりで葵は寺を後にした。
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マキリは各地の村の様子を見て回る。
以前よりも堅固になった村の外壁。またそうしている村も各地に増えていた。
「藩の奴らなぞ、搾取するばかりで何も知れくれない。北から死人憑きが来てるというが、いざとなったらわしらをおいてどこぞに逃げるつもりだろうさ」
「ああまったく。おいらも侍たちから逃げている最中なんだ。もう頭硬くて嫌んなっちゃうよ」
村の一つにお邪魔し、話し込むマキリ。そうして、幾つもの村で様子を覗っていた。
土産に食料を分けたりもするが、今は秋の年貢を払ってないだけあって蓄えを持つ村も多い。
むしろ、情報を求めて割と村に招いてくれた観がある。もっとも、油断すると身包み剥がされ命すら奪われる可能性もあったが。
話しながら、村の内部を見る。
偽姫の姿は当然無い。怪しい者がいないか、目を凝らすがマキリの知識ではあいにく見分けがつかない。
「最近、妖怪の動きも激しいけどさぁ。そいつらが藩の動きを利用してるらしかったりするしー」
「ほぉ。妖怪にも嘗められるようじゃあ、藩はもうおしまいだな」
聞いてた相手がせせら笑う。
妖怪と手を組んだと悟られぬよう、妖怪の策略としておく。そうすれば、悪役は妖怪たち、ということにできるかと考えたのだが。
(「長壁姫本人が復帰された時に納得してくれりゃいいけど」)
内心、そんな事を考えながら、村の者と談笑を続ける。
●
そして、城の天守閣に黄色の褌が掲げられた。
その滑稽な風景の意図が分かる者は限られている。
「承諾してくれてありがたい。では共に忌まわしき死人たちをぶちのめして殺ろうじゃないか」
輝政の計らいで、冒険者たちも警備として居座る中、唐突に輝政の前に偽姫が現れた。
長壁姫と寸分違わぬ姿、声。だが、態度も気配もまるで違った。
「奴らは物量作戦が好きなんだろう。死人憑きの雑魚は民の奴らでも対処できるんだ。問題はその中に紛れた奴らだがそれはおいおい考えるとして、てめぇらは力を温存させとけ」
短く言葉を言い置くとさっさと帰る気配を見せる。
何か仕掛けるかと身構えていた祥風にすれば、逆に拍子抜けする程あっさりしていた。
「‥‥貴方にとっても、使える戦力は多い方が都合良いでしょう? まあ、そういう訳で、お寺に紛れ込ませている人には、こちらの邪魔をしないようにと伝をお願いしますよ」
去り行く偽姫にゼルスは声をかける。
一瞬、目を丸くした偽姫だったが、やがてにやりと笑うと
「ああ、分かった」
と告げる。
その姿も消えてしばらくはまだ警戒していたが。おもむろに祥風が肩の力を抜いた。
「大丈夫です。気配はありません。偽姫はデティクトアンデットにひっかかりますからね」
告げる口調はやや固い。
飲んだ言葉に一同気を引き締める。
そして、姫路より去る際に。城に訃報が飛び込んできた。
曰く。
圓教寺住職・延照死去と――。