【播磨・姫路】 暴動勃発
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■シリーズシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:14 G 1 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月19日〜10月30日
リプレイ公開日:2008年10月27日
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●オープニング
秋深し。稲穂が頭を垂れる頃。
藩としては大事な税の取立てを行う。
各地の村で収穫された米の徴収。
それがどうしてこうなったのか。
原因は本当に些細な事だった筈だ。対応が少し悪かったとか、ちょっとした動きが気に入らなかったとか。
藩主の病、寺社との確執、妖怪の跳梁。一向に晴れぬ不穏な空気に、人々の気が荒んでいたのも否めない。
ともあれ、藩内の村々で役人たちと村人との戦闘が勃発した。折りしも妖怪の跋扈で村人たちも武装している。
最初は口論程度だったのが、徐々に騒ぎは拡大。刃物で斬りあい、死傷者が出る騒ぎに至るまでさほど時間はかからなかった。
「何という事か」
床に伏したまま。姫路藩主・池田輝政は嘆く。申し訳ないと、報告に赴いた臣下は下げていた頭をさらに下げた。
「現状は」
「乱闘で傷を負った藩士も多く、彼らには養生兼ねて自宅謹慎を申し付けております。しかし、何名かは市民を手にかけた事を気に病み、腹を切った者も出ているとか。村人との諍いで命を落とした者や、彼らに幽閉されていると思しき者もおります」
侍の洗練された武芸と、俄に得物を持った村人とは力量が違う。まともにやりあえば、村人など敵ではない。
が、戦いが目的ではなく、むしろ回避すべきもの。武器を持って激昂した多数相手に手加減するのも並ではない技量がいる。本意不本意関わらず抜刀すれば、相手もそれに抵抗しようとさらに躍起になる。双方無事で済まなくなるのは必然だった。
「村人たちの方は最早我らを当てにせず、自分たちで村を守り維持していくと更に武装を強化。寺社も打ち壊して溜め込まれていた資財を持ち出しております」
きっかけは何であれ、藩士に手を出したのだ。例え一時の熱情であっても、罪は免れない。まして、藩にも寺にも不信の念が強い。生き抜く為にもとことん抗戦する構えのようだ。
「裁きは温情を持って行う故、今は静まれと申し付けても一向に落ち着く気配見せず。どころか、説得に赴いた藩士たちとも交戦を繰り返し、騒ぎは拡大するばかりです」
臣下もまた顔を伏せる。だが、迷いの表情のまま、ふとその顔を上げた。
「しかしです。我らの不備で彼らが不満を持っていたのは間違いないとは言え、此度の動きは少々急すぎるかと。しかも、一つ二つの村でなく、藩内全域の村が一斉に、されどそれぞれで持って蜂起するなど普通とは思えません」
「冒険者たちの報告にあった、書写山に封じられていた羅刹天とやらの話か‥‥」
これには輝政も頷く。
羅刹天は仏法及び仏教徒の守護者とされ、破壊と滅亡を司り、地獄の極卒とも言われる神。実際にその神がいるのかはさておいても、そのような存在が暴れているとすれば現状には少しは説明がつく。
だが、実際に羅刹天が復活したらしいとの情報は得ても、それ以上の情報は無い。推測はつくが確証がある訳でもない。
先月、妖怪たちによる長壁姫襲撃があったと聞く。以降、偽の長壁姫が各地は姿を現さなくなったが、代わりに妖怪たちの動きは活発化。人を襲う事はまだ少ないものの各地で姿を見せている。その中には、デビルと呼ばれるモノらの姿も多数目撃されているとか。
長壁姫は救出したそうだが動ける状態ではなく。また大多数の妖怪たちはもはや彼女の支配を受け付けていない。
圓教寺との確執も今だ終わらず。助力仰ごうにも足並みは揃いそうに無い。
統治は勿論、妖怪に関しても。全てが輝政にかかって来ていた。
「ひとまず冒険者たちに連絡を。妖怪たちの動きを見、暴動を鎮圧する。そのどちらかでも構わないので手を貸して欲しい」
輝政の声に、臣下はすぐに答え動き出す。
静まった部屋で、再び横たわる輝政。その顔は疲労の色が濃い。
「北の様子もおかしい。そこを持って内部で騒ぎなど‥‥果たして乗り切れるか?」
出雲より出現した黄泉人が勢力を広めている。その本隊は丹波で争っていたらしいが、そちらの動きが変わった事で他の地域にも影響している気配が出ていた。
播磨より西、及び北の国は黄泉人によって制圧されたと考えていい。国として機能しておらず、生き残った人が望みを食いつないで何とか抵抗を続けている。冬という季節を迎えれば、更に多くの人々が死に絶えるだろう。
播磨はその国力を持って、何とか侵入は阻止できている。が、膝元が揺らげばそれも危うくなる。
●圓教寺
倒れた住職・延照の加減は悪化を辿る。元々高齢な上に夏の暑さが堪えた模様。さらに此度勃発した暴動による寺社破壊の報告が心労を重くしていた。
「暴徒どもが! 御仏に手をかけるとは」
「しかし、此度の急な動きは少々解せぬ。先月の妖怪の騒ぎもある。もしや裏で輩が動いているのでは?」
「確かに。目撃例も多い。たぶらかされたとすれば、民に罪は無い。早急に妖怪どもを狩り、事を鎮めるのが我らの務めである」
住職の不在で指揮を取る者に欠け。次の住職も決まらず、気落ちしている寺にも現状は重くのしかかって来ている。
聞いた情報から得た結論は誰も同じ。ただちに各地の妖怪狩りを行おうと動き出したが。
「ですが。果たして、それでいいのでしょうか」
異論を唱えた若い僧侶に、皆が注目する。
「どういう事だ。円戒」
「妖怪にたぶらかされたのかもしれませんが、そうでないかも知れません。例えたぶらかされたにしろ、それを受け入れたのは民衆たち。それは紛れも無く民衆の咎です」
きっぱりと言い放つ円戒に、聞いていた僧侶たちがざわめく。
「民衆を抑え正しく導く事こそが、今の我らの役割かと思います。いかに妖怪が動こうとも民衆が耳を貸さねば意味は無いのです。ですが、我ら若輩の身の言葉では彼らも聞き入れないでしょう。ここは先輩方が率先して落ち着かせるよう動いていただきたい」
諭すような言い分に、年配の僧侶たちも耳を傾けて頷いている。
「年長者をこき使おうとは不遜な奴だ」
「だが、今の民衆は言葉だけで聞き遂げるとは思えない。ひよっ子には重荷だろう」
年配僧侶たちがくつくつと笑う。
「そんなまだるっこしい事は確かに先輩向けだな。要は妖怪どもを滅すればいいのだろう。俺はそちらを探す」
「待て、鬼若。下手に突付けば暴走しかねん。妖怪どもの動きがはっきりするまでは手出しするな」
「知った事か!」
どすどすと足音荒く出て行こうとする鬼若を、勝手な事をするなと僧侶たちが止めてまた一騒動が起きている。
●どこぞの闇の中
「景気のいい話じゃないか! しみったれた安寧など糞食らえだ!!」
豪快な笑い声が響く。野太い男の声だ。
「みみっちく動いていた甲斐があったってもんよ。お前たちもよくやってくれている。アリガトよ!」
「いいえ。こちらこそお目にかかれて恐悦にございます」
淀みの無い明快な声に、恭しく他の声が応える。いや、応えたのは単数でも、それに従う気配は他にも無数にあった。
「ですが、妙な話も聞いております」
「あぁん?」
「北で黄泉人が動いているとか」
男の気配が変わる。緩んで気の抜いた雰囲気から、怒りにも似た緊迫へと。
「いかがしますか?」
問う声に、ちっと小さな舌打ちが重なった。
●リプレイ本文
播磨国・姫路藩。騒動は絶える事無く、冒険者たちが呼び出されるのもこれで幾度目か。
藩の各地で、武器を構えた村人たちを宥めるべく、彼らは散る。
人の荒れた心に呼応するかのように、各地で妖怪たちの動きが活発化していた。
月詠葵(ea0020)は以前知り合った鬼若という僧侶が妖怪退治に赴くと聞いて、圓教寺を尋ねたのだが。
(「どうも、ここで足止めみたいですねぇ」)
心の中でそっと溜息。
「妖怪どもが騒いでるのは明白! それをぶっ飛ばして何が悪い!!」
「単に藪を突付くだけだ。出ている妖怪全てを負かすつもりか」
「それのどこが悪い!!」
年配の僧侶たちは、各地の暴動を静めに向かい、新米たちはといえばその留守を守る事となった。
その中で、鬼若だけが妖怪退治に繰り出そうとしている。先輩に逆らうのもどうかと思うし、具体的に上手い行動がとれる訳でも無さそうなので、葵としても応援し難く。どうしたものかと事態を見守るぐらいしか出来ない。
「落ち着け、鬼若。無策に行動しても意味が無い。先の妖怪の群れは分かってるだろう。アレを一人でどうにかする気か!?」
「おうよ! 化け物どもがこの地にいると分かった以上、一つ残らず滅さねば人の平安など来ぬだろうよ!」
(「あれが円戒さんですか」)
今、部屋にいるのは若手の僧侶ばかり。鬼若一人とその他多数で言い合っていた中に、同じ年頃の僧侶が割って入る。
前見た時は圓教寺の火災直後。火傷の跡が見られたが、今はそれもすっかり癒えている。
鬼若を止める彼に周囲は当然のように従っている。彼らの中でもまとめ役のような位置にいるのだろう。
率先して何かをするというのは別に不思議ではない。鬼若もまた然りだ。ただこれまで伝え聞いてきた行動を、他者を扇動すると見れば‥‥少々怪しく見えてくる。
こうして見ている分には極普通の若手僧侶にしか思えないのだが。
「おまえが滅すまでにどのくらい時間がかかる!」
「だったら、お前らも動くべきだろう! 戯言ばかりの腰抜けが!!」
顔を真っ赤にした鬼若が拳固めて暴れ出す。後はまたてんやわんやの大騒ぎ。
「申し訳ありませんが、今日はこの辺で」
恥は見せたくないか。追い出されるように葵は連れ出される。
ごねて居座る程でも無し。苦労の言葉をかけて、葵はひとまずその場を退散する。
●
藩内の、先の穴よりさらに雑多で粗末なその場所に、長壁姫は横たわっていた。
「来てもらったとて、我によもや何が出来よう。今となっては、他を制する力も無い」
「だからこそ護衛に来たのですが‥‥。そんな気弱な事を仰らずに、元気になって下さい」
穴倉で窮屈そうにしている長壁姫に、山本建一(ea3891)は品のいい笑みと共に語りかける。
もっとも、口で弱音を吐き、実際回復ままならず碌に動けずにいる姫だが、その実目はいつでも挑むように眼光鋭い。
鼠も追い詰められれば猫を噛む。まして、時に天下に災い為す妖狐がその正体。
その怒りの眼差しをどこに向けるか。彼女もまた時に災厄をもたらす存在なのだと、建一は肝を冷やす。
一応、前の騒動で襲撃者たちからは長壁姫は死んだと思われている筈である。
念の為に健一が安全確保に回ったが、その代わり――という訳でもなく、ゼルス・ウィンディ(ea1661)が今だ彼女に従う化け狐たちを数匹連れ出している。
主を無くした僕として手土産持って寝返るフリをしつつ、敵の首謀格を探そうというのだ。
(「‥‥ひとまず、城周辺にデビルの気配は無し。もっともブレスセンサーで正確とも言いがたいですが」)
妖怪の事は妖怪が詳しいのか。化け狐たちが寝返り対象を探していると、向こうから割と簡単に接触して来た。
城からは遠く離れた山の中に案内されると、どこからともなく囲んでくる。
その群れの中、ゼルスは緊張しながらも考える。
黄泉人の接近は今や誰にも明白。デビル達にしろ、手に入れた土地の横取りされるのは嫌な筈で、ならば早急にその地盤を磐石にして黄泉人攻勢に出る可能性がある。
藩の侍に化けて、村人を虐殺や悪評を増やして反乱を煽る事を危惧して、城周辺のデビルを探したが、ひとまずそれっぽい感覚は得られなかった。
「ぬしか? 会いたいと言うのは‥‥」
敵陣の中心まで行けば、逃げにくくなる。頃合を見て逃げようという時に、唐突に声がした。
何度か聞いた長壁姫の声。ただし、こんなに元気で張った声は聞いた事が無く、こんな場所にいる筈もない。
「はい。こちらが手土産になります」
「ふん」
どうするんだよーとでも言いたげな化け狐の動揺した声。まもなく、顔を隠されていた布が乱暴に剥がされる。
「こちら神職者で、その魂は価値が高いと聞きましたが」
「神職者なら何だっていい訳ではない。徳の高さ、若さ、純粋さ‥‥いろいろある。まぁ折角だから、その首は貰っておこう」
鼻を鳴らすと、見事な太刀を持ってこさせる。
こうなると長居は無用。縄を解き(一応縛られてたが、すぐに解ける)、即座に逃げようとしたが。
「待たれよ」
制止の声は別の方角から。見れば、小柄な僧侶。その後ろに控えるは深く笠を被った僧兵たち。
(「あれは‥‥性空さん?」)
目を丸くするゼルスの耳に、偽姫が忌々しげに舌打ちした音が聞こえた。
「またてめぇか。しつけぇなぁ」
「うむ。何度でもおぬしの気が変わるまで諦める気はない」
「何度来ても譲れるか!」
偽姫が、ゼルスに振るおうとした太刀を抜き、性空へと振り下ろす。
その間に従者の一人が割って入る。手にした刀で、偽姫と組み合うも力任せにその体ごと押し負かされた。
払われた衝撃で被っていた笠が飛ぶ。その下から現れたのは、
(「白狼天狗!!」)
狼の頭をした大柄な天狗。犬歯を剥いて、偽姫に吼える。
「早く。奴が気を取られている隙に。大丈夫、性空様と乙丸なら逃げるぐらいはできます」
もう一方の従者が、ゼルスたちに密かに声をかける。
周囲の注意は性空たちに向いている。彼らの安否は気になるが、確かに逃げるのは今しかない。
余計な手出しも無用といわれ、ひとまずゼルスたちはこの場を離脱した。
●
騒ぐ村人たちを静めに、冒険者たちは各地の村を回る。
神木祥風(eb1630)は一番最初に暴動が起きたと思われる村に赴く。思われるというのは、他にも何ヶ所か似たような時間に騒動を起こしてる場所があるからだ。
「一体、切欠は何だったのです? 役人が無理難題を言ったとか、嘘を言われたとか」
村の入り口。周りを囲む村人たちに、問いかける祥風。言われた村人たちの方はといえば、それまで祥風に警戒の念を露わにしていたのが、言われて目を丸くして顔を見合わせている。
「何故ってそりゃあ。年貢米を零しやがったからだろ」
「零したと言っても二、三粒だろ。そうじゃなくて手が触れたんじゃなかったか?」
賑やかにするが、きっかけが何かは出てこない。とにかくカッとなって暴れた事でその原因自体は忘れたようだ。
「だが、最早そんなのどうでもええ。お城にたてついたんだ。俺らはもうやるしかねぇ!」
誰かが告げると、そうだそうだと納得する声。
祥風は静かに息を吐く。
「播磨の北で黄泉人が動いているそうです。今は、城の手を煩わせるべきでは有りません」
「黄泉人?」
「ああ、聞いた事あるさ。昔都に出た死人憑きだそうだ」
若干違うが、田舎の情報などこんなモノだろう。
「そんなのがおるのか」
「こうしちゃおれん。村の防備を固めねば。ああ、もう帰れ帰れ。後は俺たちでどうにかするさ」
訂正しようにも、騒ぎ出した村人は止まらず。祥風も竹槍で払われてしまう。
「今回の事態を引き起こしたのは、己の利に走る極一部の者達です。私共が必ずやその者達を見つけ出し報いを受けさせます。ですから今は自重し下さい」
村の外から呼びかけてみるが、答えは無い。上手く伝わった事を祈るのみだ。
説得を目的とするのは何も自分たちだけではない。
シェリル・オレアリス(eb4803)と、物部義護(ea1966)は圓教寺の僧たちと行動を共にする。
「延照様‥‥。ずいぶんとお加減が悪そうですね」
出際に、住職・延照を見舞ったシェリルだが、その腕を持ってしても出来る事は最早少ない。声をかけてもうっすらと反応する程度。
その状態で、内通者を示唆するのは果たしてよかったのかどうか。
「とにかく、今はやれる事をやるだけだな」
僧たちの後に続きながら、義護もシェリルに頷く。
各地の村は大なり小なり塀に囲まれ、凝った所は門すら作り上げている。
元々は獣避けの簡易な塀だったのだろうが、今ではすっかり防御壁だ。
義護の提案で、まずは治療名目で回ってみる。断られた村もあるが、警戒されながらも入れてくれた村もある。
ざっと目を走らせる限り、村の規模は大きくない。目立ったのは刀を持った男たちだが、その陰で女性も武器を手にしていた。
「人質をとっている村もあるそうだが‥‥こちらは大丈夫か? 悪い事は言わない。交渉材料を死なせたとあっては、村の印象も悪くなるだけだ」
「ああ、大丈夫だ。もう全部犬に食わせた」
あまりにあっさりと言ってくるので、何を言われたか分からなかったが。
気付いて腰を浮かせると、治療に通された部屋の周囲を武装した村人たちが囲んでいた。
「治してくれたのはありがたいが‥‥。こっちはもうとっくに血に染まっている。後は無いだ」
「精進すればいかな者も御仏はお救いしよう! だから自棄になるのはよすのだ!」
僧の一人が声を上げるが、それを皮切りに一斉にかかってきた。
つたない武器を僧たちが食い止める中、シェリルがムーンアローの経巻を広げる。飛んだ銀の矢は一直線に屋根の上にいた男を撃った。
「今は一端離脱しましょう!」
足を滑らせて落ちたその男へ村人たちの注意が向いた隙に、シェリルはコアギュレイトで邪魔者を縛りながら、皆を促す。
僧たちの協力もあって、村からどうにか脱出。
「何とも‥‥予想以上に荒んでるようだな」
義護が額の汗を拭う。
「それよりムーンアローの反応が気になる所ね。羅刹天に通じる者を探して撃ったんだけど‥‥」
シェリルが眉間に皺を寄せる。
その後もめげずに何箇所かを回る。無事で済んだ村、やはり追い込まれる村様々だった。
ムーンアローを使う事も何度かあった。跳ね返ってくる場所も多かったが、何箇所かでは飛んだ矢が何かを撃っていた。
「協力はしてくれたので、一応耳にして置こう。異国の御仁が魔法で撃った中に、デティクトアンデットの反応があった。死霊か何かは分からないが、現状思う以上に悪い。そう心して、お前たちもこの先関わるなら気をつけて欲しい」
別れ際に僧たちは思い切ったように告げる。
義護とシェリルは顔を見合わせるしかなかった。
マキリ(eb5009)は姫路藩の侍たちと。回る前に敵が紛れてないか、打ち合わせも兼ねながらこっそり確認。案外全員敵という可能性もあるが、そうすれば今度は考えるまでもなく身が危ういだけだ。
こちらも義護たちと同じく村々を回る。ただ反応は、端から戦闘態勢か、良くて武器を構えての遠まわしな話し合い。一触即発だった。
とりあえず交渉に応じそうな村では、藩士たちが武装を解除し落ち着いて話し合う事を村人たちに説いているが、上手くいく気配は無い。
「‥‥さっきから黙って話し聞いてれば! 村の人も愚痴愚痴と御託を並べてるんじゃない! 侍さんたちも侍さんたちだ! 下出に出るような、その実威圧的で押し付けがましいその物言い! それで説得とは呆れるじゃないか!!」
冒険者として事態を見に来たと、横で静観決め込んでいたマキリが突然暴れ出す。
短弓・早矢を振り回し、周囲の人を追い回し始める。
得意は射撃だが、そこは名うての冒険者。暴れる分にはさほどの技術はいらないし、それでも心得の無い者から早々取り押さえられるほど柔でもない。
「何をいきなり! 村の迷惑だ! おとなしくしろ!!」
「うわっ、って!! 何するんだよ!!」
村人にとっては厄介な相手だろうが、侍たちには関係ない。あっという間に組み伏せてしまう。
実の所。別に本気でマキリも暴れたかった訳ではない。要は何が起きても侍たちは村の味方で頑張ってるという事が知らしめればと思って起こした一芝居。
なのだが。
「用は済んだな。とっとと出てけ! おめぇらにやる米はねぇ!!」
芝居とばれた訳でもないだろうが、木で鼻をくくる態度で村人たちはお引取りを願う。
人様の庭先、よそ者同士暴れようが和解しようが邪魔でしかない。そんな態度だった。
追い出され、二度と村には入れぬ構えの村人たちを遠くから眺めながら、マキリは肩を落とす。
「世の不安は分かるけど。そうやって内に閉じこもって拒絶してやり過ごせる訳で無し。お侍やお寺に頼りにくくなるだけなんだけどね」
そんな事はとっくに彼らは分かってる、という事も分かっている。
ある種の覚悟を決めた者ほど厄介なモノはない。
●
逃げ延びたゼルスはもう一人の従者、若丸――やっぱり白狼天狗だった――と共に、性空たちの無事を待つ。
程無くして空から現れたのは乙丸とそして白い鳥の翼を持った天の使い。
「エンジェル‥‥でしたか」
「性空とは人の世の仮名。あれこそ真のお姿、普賢菩薩さまだ」
ぽかんと口を空けたゼルスの前で、ロー・エンジェルが性空の姿に変わる。
「あの、お疲れの所申し訳ありませんが。先ほど偽姫が何かを譲るような事を仰ってましたが、あれは?」
そろそろ帰途の時刻が迫っている。恐らくは大変だっただろうが、労いそこそこ。気がかりな事をゼルスは問いかける。途端に白狼天狗たちがげんなりとその耳も寝かせた。
「頼む。それに関しては言ってやってくれ。普賢菩薩さまは争いを起こさぬよう、彼らを説得するおつもりなのだ」
「譲る譲らないは、信念とかそういうものだ。確かに尊い事だが、それも相手によると我らは思うのだ」
「決め付けはいかん。何事もなせばなるのだ。話を続ければ、いずれかの者とて分かってくれよう」
心底困り果てている天狗たちに、悠長な性空。
ゼルスはただただ呆れるしかなかった。