【月夜に踊れ】≪月道探索≫ 月と兎と‥‥

■シリーズシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 3 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月02日〜03月07日

リプレイ公開日:2005年03月09日

●オープニング

 京都。神聖暦500年頃に遷都が為されて以来、長く栄華を誇ってきた歴史古き都。
 東の源徳、中央の平織、西の藤豊、その他力ある諸藩が覇権を争うとも、神皇の坐すこの都こそが国家の中枢である。少なくとも今は。
 その京都と江戸を結ぶ月道がある。そう取りざたされるようになったのは、さていつ頃からか。
 月道は彼方と此方の距離と時間を繋ぐ。その価値は計り知れず、もし未知の月道を見つける事が出来たなら、一国の領主となる程の報酬を得られても不思議ではないとすらされている。
 京都と道が通じる事により他勢力や神皇家を刺激すると最初は渋っていた源徳家康だったが、今では意見を変え、その道を開くよう動き出している。
 だが、かつて通じていた道を開ける事は簡単な事ではなかった。というのも、長き年月を経る内にその場所が完全に喪失していたのだ。
 そも、月道が失われた原因は、ちょうど江戸の辺りで大規模な戦が勃発していた事にある。その戦火が月道を通じて京にまで及ばぬよう、時の陰陽師が道を閉ざしたと考えるのは至極簡単なこと。さらには容易に発見されぬよう、入念に隠蔽されたらしい。
 故にまずその場所を探すべく、月道探索隊を組む依頼が持ち込まれた。

「ワシの調べでこの付近に月道があると分かった。範囲を絞り込み、術を為すべき場所を探す故、人手を用意しろ」
 冒険者ギルドにてそう告げたのは月道探索の為に京の都から来たという陰陽師。名は蘆屋道満と言った。
 やたら横柄なおっさんで、明らかに冒険者を見下している。さも仕事をくれてやっている、と言わんばかりの態度は不愉快至極。しかし、ギルドも客商売。ギルドの係員は顔に出さず、いつもの如く応対していた。
 が、道満が示した箇所を確認した時、さすがに係員も目を見開く。
「この場所は‥‥」
「何だ? 何かあるのか?」
「いえ、その。あるといえばあるのですけど‥‥」
 どうにも歯切れが悪くなる係員。
 道満が示した場所はとある山を中心にした一帯。やや範囲が広いように思うが、まるっきり手がかりが無いよりはマシだろう。
 山はそう大きく無い山で、一日もあれば登って降りられる。周囲にはまばらに人家も点在する、至ってどこにでもある山だ。
 ただ、ここでは他では見られない光景が一つある。というのも、その山には兎が住みついているのだ。
 兎といっても普通の兎でなく、人に化けられる化け兎。物の怪だが人を襲う事も無く、周囲の住人とも上手くやっているらしい。実際、化け兎が困ってるからと近隣の住人からギルドに依頼が持ち込まれた事も過去にある。また、化け兎自身もギルドにやってきてはあれこれ騒いだりしており、そんなこんなで知らぬ仲でもなかった。普段は一匹しか姿を見せないが、満月ともなればどこからか仲間がこぞって現われ、その山で月見の祝いを開いたりしている。
 それを告げると、道満は鼻で笑う。
「月道探索は国家の大事。見つかればその利権は計り知れぬ。下らぬ物の怪ごとき何を構う必要がある。邪魔ならば蹴散らせばよいではないか。どの道、月道が開けば排除せねばならんしな」
 その為の冒険者だろうと言わんばかりに睨みつけられ、係員は鼻に皺を寄せた。

「そういう訳で、この付近にあるという月道を探すべく現地で調査をお願いしたい」
 冒険者を前に係員がそう説明を入れる。ただし、本当にあるかどうかは分からない。そもは真偽を確かめる事を含めての事前探索でもあるが、道満はやけに自信を持って断言していた。
 それを思い出して、係員は嘆息した後に、係員は冒険者らを手招く。
「これは越権行為なのかも知らんけど。ちょっとあの依頼主について調べてみた」
 顔を近付けた彼らに、さらに声を潜めて係員は説明する。
「京の都に陰陽寮という部署があるのは知っているだろうか? 神皇家のお膝元、志士とはまた別に精霊魔術を扱う陰陽師たちが所属する場所で、月道の管理はここが行っている。道満も当然そこに所属していて、向こうではいろいろと名を馳せている結構なお人のようだ」
 いろいろと、の部分に微妙な思惑を含んだ声音で係員は告げる。つまりはそういう奴なのだろう。
「最初、月道探索に乗り気でなかった源徳公を熱心に説得したのはあの道満らしい。まぁ、公がお考えを改めたのはあいつの言葉だけが原因で無いだろうけどな」
 仮にも一国を治める者だ。特に日本はいろいろと力関係が難しく、それを見越しての判断だろう。それでも、道満にとっては「自分が源徳を動かしたのだ」と、権を誇る要因になってはいるが。
「江戸〜京都の月道は時の陰陽師により封鎖され、存在を秘匿された。ゆえに文献とかもほとんど残ってなくて、それを捜索する過程でもかなり強引な手を使ってきたらしい、あの御仁は」
 言って係員は顔を顰める。先祖の隠した者を護ろうとする子孫はおろうし、そも月道開通自体に反対する者もいよう。そういった邪魔者を怪我を負わせたり最悪殺したりして排除して今にこぎつけたのだという。その真偽は分からぬが、単なる噂でないように噂される時点で道満の評判が分かろう。
 しかも、そうまでして道満が月道探索に力を入れているのは、陰陽寮内にいる何やら凄腕の陰陽師を見返したい一心なんだとか。
 それが本当なら呆れるばかりの私怨ぶりだが、それで実際にここまでこぎつけたのだから侮れない。
「現地調査には道満も同行する。調査自体はそう難しくは無いだろうが‥‥、まぁ、気をつけてくれ」
 もしかすると、いらぬ火種を運ぶ事になるかもしれない。暗に係員はそう告げて、頭を下げた。

●今回の参加者

 ea4870 時羅 亮(29歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea6844 二条院 無路渦(41歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea8861 リーファ・アリスン(27歳・♀・ジプシー・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ea9850 緋神 一閥(41歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb0573 アウレリア・リュジィス(18歳・♀・バード・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb0958 アゴニー・ソレンス(32歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)

●リプレイ本文

「暴言好きな人兎と暴言嫌いな陰陽師ね。厄介だなー」
「何か言ったか」
「いえいえ、何も〜」
 小声のつもりがしっかり睨まれ、アウレリア・リュジィス(eb0573)は慌てて首を横に振る。幸い、相手も本当に良く聞こえなかったのか、それ以上は何も言わない。ただ不快そうに一瞥され、アウレリアは改めて彼から距離を置く。
 その昔使われていた月道を探り当てる。依頼主の独自の調査により、今回捜索する範囲は一応限定されている。その上でそこにあるかないか、あるとしたらそれはどこにあったのか。その調査が今回の目的だった。手間のかかる面倒な依頼だが、それ以上に面倒なのは依頼してきた人物だろう。
 今回の依頼主であり、同行者である都より来た陰陽師・蘆屋道満。聞き入れた評判からしてお世辞にも好人物とは言い難い。なるべく距離を置いてはいるが、それでも道中では全くの接触無しでいるのも難しい。だから、否応無しにその噂の真意を嫌という程味わうハメになる。
「自分以外は敵か利用する者、というような傍若無人さが窺える人物」
 とは緋神一閥(ea9850)の言だが、概ね当たってる。
 そんなあまり一緒したくは無い人物に加えて、今から行く土地も普通の土地ではない。妖魔の類が巣食っている特殊な地である。
 ‥‥と書くと仰々しいが、ようは化け兎が一匹、ここらを縄張りにしているだけ。その能力は人に化ける事、それぐらい。害を為す事は‥‥無いとも言いきれないのがまた厄介。
 土地の者とは仲良く暮らしているものの、その行動は我侭放題。道満とはまた違った感じで傍若無人と言えよう。
 そんな両者が出会えばどうなるか。ましてや、力の差は歴然としているし、立場もはっきりとしている。争いとなるのは必須だろう。
「道満さまともあろう御人が、下々の者と直接言葉を交わすべきではありません。交渉や聞き込みは我等にお任せ下さい」
 別に化け兎でなくとも、道満の人柄では一般人にも好かれると思えず。無用な争い事は避けるべしと、アゴニー・ソレンス(eb0958)は直接接触し無い様に、伝令役を買って出る。
「僕たちは化け兎を探して情報を仕入れてみますが、道満‥‥さまから化け兎に聞きたい事はありますか」
 なるべく角が立たないよう、普段とは違う口調で言葉も選びながら時羅亮(ea4870)が尋ねる。が、やはり睨みを入れられる。
「月道について知っているようなら、白状させればいい。つまらぬ物の怪の一匹や二匹、構う事など無い」
 物の怪と話すと言うのが気に入らなかった様子。
「いえいえ、道満殿。押すばかりでは見えてこぬこともございます。月道探索は、長く現地に住まう者の協力は必須。大望は、慎重で確実な下積みの元に成されるものと心得ます。どうか、貴きその御心でご理解下さいませ」
 一閥が恭しく一礼を入れる。へりくだった態度に納得したのか、どこか小馬鹿にした目で見つめながらも何も言わずに、道満は先に進む。
(「やっぱり、苦手ですねぇ。こういうお人は」)
 アウレリアと同じく道満と距離を取りながら、二条院無路渦(ea6844)は眠そうな眼差しを道満に向ける。堅苦しい肩書やら尊大な態度やらが、寺にいた住職を思い出すようで。権を得てしまった人間のたどり着く先はこういうものなのだろうか。
 何だか胃が悪くなるような道中を経て、冒険者たちは問題の地へとたどり着いた。

 月道の情報を得るべく、四方へと散る冒険者たち。
「山にまつわる伝説とか風習とか、何かご存じないでしょうか?」
「さあ。あいにく私はさっぱり。あの山ならうさに聞くのが早いかもねぇ」
 通りすがりの老婆に、リーファ・アリスン(ea8861)が尋ねるが、あいにく首を横に振られるのみ。
「それじゃあさ、その化け兎が今どこに居るか知らない?」
「ああ、それなら‥‥」
 微笑して老婆は、アウレリアの頭上を指す。情報を得るのは何も人間からでなくてもいい。その他諸々の考えから、この地に住むという化け兎を探す者は多かった。
 が、何故頭上なのか。アウレリアがそれを確認するより早く、
「とぅ」
「ぎゃあ!!」
 軽い声の後。木の上から降って来た何かに、アウレリア、いきなり蹴り付けられる。かかった荷重に耐え切れずに膝をつき、したたかに顔面まで打った。
 そして、その降って来たモノはといえば。
「婆、婆。見て見て。おっきいネズミー♪」
「‥‥違う。単なる服だよぉ」
 性別はよく分からない、とかく子供である。そして、実に楽しげで無邪気にアウレリアのまるごとネズミーを引っ張ってくれ、その様を唖然と老婆共々他の冒険者も見つめていた。
「もしかして、化け兎さんですか?」
「? うさだよー」
 リーファが尋ねると、子供はきょとんと首を傾げながらも、手を上げる。試しにおにぎりと人参を揃えて差し出すと、喜んで人参を取った。――そして、空いた手にちゃっかりおにぎりを確保する。
「ウサ耳じゃないね。耳、本物?」
「本物なの。うさ、化けるのじょーず」
 無遠慮に触る無路渦を嫌そうに振り払う。ちょっと頬を膨らませて怒って見せる姿は、まるきり人間の子供と差異が無い。
「あー、化け兎の体重はこのくらい。疲れた体にちょうどいいねぇ‥‥って、重いし、いきなり失礼だよ!!」
 アウレリアが怒るも、化け兎はただ首を傾げる。
「ネズミ、うるさい」
「こういう傾向の兎‥‥と」
 てちてちと叩いてくる化け兎に、アウレリア、冷静に――やや目が据わっている気もする――分析する。
 何とか宥めすかせてアウレリアから引き離す。最初は不満そうにしていた化け兎も、持って来た人参やらを差し出し、歌や蹴鞠――思い切り蹴り返してくれるのでそれはそれで大変だった――などをして交流を深めると。後はご機嫌で冒険者らと並ぶ。
「少々聞きたい事があるんだけど。うさたちは、あの山でお月見するんだよね? どうして、あの場所で無いと駄目なのかな」
「あんねぇ。お月がまん丸の時にお庭でお祭りすると、お月さまが降りてくるの」
 亮の問いかけに、にぱっと笑顔で告げる化け兎。誇らしげに胸を張って自慢するが、聞いた冒険者らの方はただ目を丸くするばかり。
「月が落ちてくる‥‥訳じゃないですよね。どういう意味でしょう? 何が起こるのです? 他に何かご存知ですか?」
「さあ? でも、お祭り楽しーよ」
 首を傾げるリーファに、さらに首を傾げる化け兎。どうやらただそういう話になっているらしい。
「そのお祭りしている場所を見てみたいんですけど、いいですか? その、無い事を確かめるだけでいいですから」
「? 良く分かんないけど、いいよー」
 彼女の申し出は、断られるかと思いきや。意外な程、あっさりと化け兎は頷く。やっぱり人参がよく聞いたと見えた。

 途中、アゴニーとも合流し、一行は月見会場へと昇る。
 山は本当に小さなものだった。今度来る日の為、道順を覚えようとした亮だが、その必要も無かったかもしれない。例え道に迷っても、多少遠回りする程度で目的地には着けよう。
 お祭りする場所、というのは山の天辺。茂っていた木々がいきなり途絶え、ぽかりと草原が出現した。遮蔽物の無い空間は、確かに空が良く見える。夜になれば、月が綺麗に見えよう。
 そして、そこにはすでに人影があった。一閥である。彼は主に近隣の老人から話を聞いて回っていた。そんな彼がここにいると言う事は‥‥。
「やっぱり、ここに何かあるのでしょうか?」
 リーファが困ったように化け兎を見る。化け兎はそんなリーファをひたすらきょとんと見上げていた。
「直接、月道に関係するかまでは分からないのですが‥‥。その昔、ここにかぐや姫が降り立ったという話を耳にしました」
 一閥もまた困惑気に告げると、同じく老人から話を聞いて回っていたアゴニーも大きく頷き、付け加える。
「ただ相当昔の話のようで。老人たちも知らない人が多かったし、知っていても昔々に聞いたとかそんなでした。どちらかと言えば、彼らがここに集まる理由として付属されたような感じも受けました。‥‥あくまで主観ですが」
 彼ら、とアゴニーは化け兎を見遣る。見つめられた化け兎はやっぱり首を傾げている。
「‥‥今、山をちょっと見て回ったけど。草原の四隅に、祠と言うか石塔みたいなものがあるねというか、あったみたい。崩れてたから実際どんなものか良く分からないけど」
 やっぱりひたすら困ったように、アウレリアが告げる。
「で、その四つの中心点が‥‥やっぱりここ」
 言って、地面を指す。
 情報を得たのは十分な成果と言える。やるべき事はきちんと為した。というのに、誇らしげに達成感に浸る冒険者はいない。
 むしろ、当惑している者の方が多かった。白とも言えないが黒とも言えない。限りない灰色だが、怪しい事は怪しい。
「月精霊・かぐやの伝承がある地か」
 そこへ降って湧いた声。姿を認め、一同ぎょっとする。
「かぐやは月道の監視役と聞く。月道を理由に争いが起こった時、地上に姿を現すとも。ならば、京都への隠された月道に絡んできたと考えてもよいだろうな」
 そんな冒険者らに構わず。ずけずけと道満は踏み込んでくる。
「その他の状況を鑑みても。やはり月道はこの地にあるに違い無い。ワシの目に狂いは無いわ。ふ、満月の日が楽しみだな」
 くつくつと笑う道満。それをぽかんと見ていた化け兎だったが。
「‥‥何か。この爺、嫌い」
「何だと」
 いきなりそう言い切る。途端、道満が睨みを入れるが、それに臆する事無く、むしろ不快そうに化け兎は肩を怒らせる。ちっちゃいながらも、やる気満々だ。
「道満さま。子供の申す事です、お取り合いになさりますな」
「ふん。それが例の化け兎とやらだろう。丁度いい、ここで始末してくれるわ」
「いえいえ、このような小物にお手を煩わせるなどもっての他で‥‥」
 見下す道満と不機嫌な化け兎の間に割って入ると、一閥は懸命に場を取り繕う。取り繕いながら、陰でこっそり離れるよう促す。
 無論。それを待つまでも無く、他の冒険者らが一丸となって化け兎をその場から連れ去っていた。 
「にしても。困ったよね。邪魔したくなかったんだけど‥‥」
 十分距離を置き。道満を引き離してほっとした所で、アウレリアが告げる。
 その意味する所は分かった。
 月道を開くとなると、満月の日である。そして、その日は化け兎たちの月見の宴が開かれる。せめて、近くなければと願っていたのに、どんぴしゃりである。‥‥ただ、予想通りでもあったが。
「ねぇ。満月の日に、あそこを調査させてもらえないかな」
 なるべく穏便に亮が化け兎に頼み込む。
「ちょーさ? 調べるの? 何で? うさ、お友達呼ぶのー。皆でお祭りするのー」
「いや、陰陽道に関する事だから、詳しくは良く分からないんだよね」
 逆に尋ね返されて亮は弱る。化け兎も首を傾げる。ただ、どの道道満が関わらなくてはならないのは確か。化け兎多数のお祭り騒ぎの中に、横暴陰陽師。‥‥何がどうなるか、火を見るよりも明らかで。
「‥‥どうしたら調査させてくれる?」
 亮の問いかけに化け兎はひたすら首を傾げるばかり。どうしたものかと悩んでいると、無路渦が顔を出す。
「あのね。今月の満月だけでも別の場所でお祝いしない?」
 無路渦の提案に、化け兎は顔を顰める。
「イヤン。あそこじゃないと、お月さま、呼べない」
「でも、麓に梅の綺麗な所があったよ。花見で月見も楽しいんじゃない?」
「うーーーーん」
 続けて提案すると、あっさりと悩み出す。心がかなり揺れているようだった。案外上手く退けられるか、と期待したのだが、出た答えはと言えば、
「お友達にも聞かないと分かんなーーい」
 だった。そのお友達も、当日にならないと接触は無理そうで。これ以上の交渉は、今回は無理そうだ。
「‥‥ついでに、ずっと譲り渡して欲しいってのは駄目?」
 恐る恐る亮が尋ねてみると、それは流石にもっての外だと、凄い勢いで首を横に振られた。

 かくて、一旦江戸への帰路に着く。
 月道が本当にあるのかまでは分からなかった。が、入れるべき情報はきちんと仕入れたし、道満は満足げで最早その気でいる。
 それでも、冒険者らの顔は浮かない。
「化け兎や住人が望んでないなら、発見しても開かないでおきたいですねぇ」
 小声で呟くアゴニー。もし月道が開いたら、少なくとも化け兎は困った事になるだろう。とはいえ、月道探索は国が関わっている。迂闊に隠せば罪とされる恐れもあるし、何より、道満が黙ってはいまい。
 この先、果たしてどうなるのか。
 それはひとまず満月の夜を待たねばなるまい。